DARK HERO 第四十二話「葛藤」(M:凛 傾:ライトシリアス )


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1: kazu (2004/04/15 17:03:49)[kazuyan at alto.ocn.ne.jp]

DARK HERO 第四十二話「葛藤」






緩やかな熱に運ばれて目が覚めた。

目の前には遠坂の顔があった。


「起きたの?」


「・・・・ああ」


どうやら自室の布団で寝かされていたらしい。

魔力不足による脱力感が激しいが、それ以外は特に体に支障は無い。


「まさか固有結界を出すなんてね。驚いたわよ」


不思議と穏やかに遠坂が俺に言う。

なんだか遠坂がおかしい。

普段の遠坂なら、固有結界なんて出したら徹底追及されると思うんだが―――――


「私ね、アンタの固有結界から目を逸らしちゃったの」


ポツリと、何処か悲しそうに遠坂が呟く。


「アンタの心から目を逸らしたのよ。見てられないって」


言いながら目に涙浮かんでゆく。

何を悲しんでいるのか解らないが、こんな遠坂は見ていたくない。


「酷い女よね。今までずっと甘えてきた癖に―――――」


そう言って俯くと、遠坂の目から涙が一適零れ落ちた。

だが、多分遠坂が落ち込んでいる原因は、そんな事だけじゃないだろう。

昨日の影・・・・・・それとサクラとか言う呟きが引っかかる。


「気にするな。俺だって自分の心と向き合えていなかった。矛盾から逃げて、否定して、その結果がこのザマだ。酷いエゴイストが出来ちまったよ」


俺の言葉に、「そんなことない」と弱々しく答える遠坂。

だが、それは事実。

俺は一度も周りの心を見ようとはしなかった。

自分が楽しく生きるために、後悔しないために。

ただそれだけの為に誰かを救い、誰かを愛した。

それが普通の感情なのかもしれない。

だけど、俺のは度が過ぎている。

だから、セイバーの都合を無視した。

だから、サーヴァント相手に勝手に家族だなんてはしゃいだ。


「セイバーに謝らなきゃな・・・・」


そろそろ意識を保つのも限界だ。

ふと横を見ると静かに涙を流す遠坂が目に入った。

その小さな体が今にも壊れてしまいそうで、不安になってそっと抱き締めた。


「はは・・・・答えを出しても中々変われないもんだな・・・・」


結局俺は間違いに気付いただけで変われて居ないのだろう。

それでも、今できることをやろう。

そう考えてから、全く抵抗しない弱々しい遠坂の頭を軽くぽんぽんと叩くと、そのまま静かに意識を手放した。













キャスター視点



「戦っている場合ではない、か―――――」


アーチャーの残した手紙を机に置きながら溜息を吐く。

確かにその通りなのだろう。

使い魔の報告から見てもあの影はサーヴァントの天敵だ。

そんな相手に私とアサシンだけで立ち向かうのは無謀だ。

その前にルールーブレイカーで―――――

何度もそう考えた。

他のサーヴァントを無理やり仲間にしてしまえ、と。

だが、他の戦力が固まっている今、それは難しい。

それに――――――


「宗一郎様を危険な目に遭わす訳にはいかない」


故に、手を組むべきなのだろう。

そもそも私は何故聖杯を欲していたのだろうか?

わからない。

昔は確固たる目的があった筈だ。

それも多分、今が幸せ過ぎるから――――――

そこで思い至る。


「――――――私も馬鹿ね」


もう願いが叶っているから、聖杯の必要性を感じないのだ。

なら、迷う必要など無い。

精々彼等には頑張ってもらおう。

私達を守って貰う為に、ね。

答えの出た清々しさに少し心が軽くなる。


「ニャ」


そこに突然猫がトコトコと私の元まで歩いてきて、膝の上に置いた私の手の上に肉球をプニッと押し当てた。


「あら?アサシンの所に居なくて良いの?」


「ニャン」


その問いを理解してないのか、じっと私の目を見つめる子猫。

数瞬の沈黙の後、猫は嬉しそうに一声鳴くと、ぺろりと私の手を一舐めしてトコトコと部屋から出て行った。


「フフッ・・・・祝福してくれているのかしらね?」


答えを得た私を祝ってくれたのだろうか?

事の真意はどうでも良い。

だけど、私は今確かに生まれて初めてかもしれない温かさを感じていた。


「今度、猫缶でも買ってあげないとね」


勝手に緩む顔を必死で引き締めながら、ポツリとそう呟いた。

















慎二視点



今夜も桜がフラフラと夜の街から帰ってきた。

その姿は正に幽鬼。

何故だ?爺が何かしたのか?

だが―――――


「フン、僕には関係無いさ」


まるで空っぽの強がりを呟く。

白状すれば正直心配でたまらない。

自分でもムシのいい話だと思っている。

桜を散々苦しめてきたのは僕で、今尚家の呪縛から救ってやれないのも僕。

どうすれば救える?

いや、そもそも――――――


「僕にはその資格すらないよな」


衛宮に思い出させてもらった。

無力の辛さと、歪みの起源を。

正直に告白すると、僕はあの爺が怖い。

逆らえば凄惨な責め苦の中で死に絶える。

それだけは明確に想像できる。

いや、逆らう力すらないのだからその仮定は無意味だな。

それでもどうにかしなければならない時期なのかもしれない。

取り返しのつかない事態になる前に、桜を救い出せる最後のチャンスかもしれない。

手遅れでない事を祈るしかない。

最近の桜は何処かおかしいのだ。

体調もそうだが、時折凄惨な笑顔を浮かべる。


「衛宮、遠坂―――――――お前達なら桜を救うだけの力があるのか?」


静かな部屋に、意味の無い問いだけが何時までも蟠った。



















つづく




あとがき

何故だろう・・・・俺の中でキャスターとリツコさんのイメージが重なる・・・・・。


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