このSSは、忌呪様のHM『黒色彗星帝国』で行われた地蔵企画用に書いた物です。
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等、異英霊召喚譚の(実は)最初のSSでした。
いうなればゼロ号。うむ、強そうだ(ォ
そこはわだかまる闇の棲家だった。
蠢く蟲と蟲と蟲と蟲。
200年に渡る恩讐と執着と妄念が滓の如く蓄積した暗い暗い地下室。
この部屋こそ魔術師・マキリ一族の修練場にして埋葬場。
二つの影が、その中に立っている。
蟲にまみれたカタコンペの主たる老翁と、その孫娘。
間桐臓顕と間桐桜である。
「閉じよ。閉じよ。閉じよ。閉じよ。閉じよ。
繰り返すつどに五度。
ただ、満たされる刻を破却する」
桜の眼前には一つの魔方陣。
サーヴァントと呼ばれる強大無比な霊を召喚すべく組み上げられた陣図には、膨大な魔力が宿っている。
「―――――――――告げる。
汝の身は我が下に、我が命運は汝の剣に。
聖杯の寄る辺に従い、この意、この理に従うならば答えよ」
その魔力を循環させ、桜は叫ぶ。
聖杯の力をもって『この世の外』から巨大な力を掴み、引き寄せる。
手に掴んだ気配を逃がす事は出来ない。
一瞬でも気を抜けば、その力は逃げ出し・・・・・・反動で桜の身体は内から爆ぜても不思議ではないのだ。
「誓いを此処に。
我は常世全ての善と成る者、
我は常世全ての悪を敷く者。
汝三大の言霊を纏う七天、
抑止の輪より来たれ、天秤の守り手よ――――!」
最後の一節と共に、巨大な力は実体となって顕現する。
それはまるで、釣竿でクジラを釣り上げたかのような・・・・・・
「―――えっ!?」
―――その瞬間、200年の歴史を積み重ねた間桐の工房である洋館は、跡形も無く崩壊した。
ふぇいと/ぎがんてぃっくないと〜異英霊召喚譚〜
「なっ、何がおこったんですかー!?」
混乱する桜。
そりゃそうだ。気が付けば自分が天を突く巨人の掌にのっていたら誰だって驚く。
「魔術師。汝がわらわのマスターか?」
「ふえっ?」
突然その巨人に聞かれた。
良く見ればその巨大なヒトガタは女のようだ。
ただ、ひたすら巨大で、しかも七つの首をもった竜に乗っていたりするのだが。
「そっそっ、そうです。私がマスターです。あっあっ、貴女は、何処の英霊さんなんですか?」
機嫌を損ねたら一口で食べられそうだとか思いながらも聞く桜。
通常、英霊の召喚にはそのサーヴァントに縁のある触媒が必要なのだが、桜にはこんな女巨人と縁の有る物などとんと心当たりが無い。
その問いに、良く見れば顔立ちは美人な女巨人は、えっへんと胸を張って答えた。
「ふふふ、聞くがよい魔術師。わらわこそ、アッカドの大女神、数多の怪物を生み出したる大母たるティア・マトーであるぞ!!」
「そ、そんな・・・・・・」
わななき、震える。
その震えを押さえつけて、桜は口を開いた。
「ティア『マトー』だから間桐に召喚されたとか・・・そんな馬鹿な事を言うんじゃないでしょうね!?」
「ぶっちゃけ、そう。ちなみにクラスは見ての通りライダーじゃ」
身も蓋もなかった。
「ええい、そんな事はどうでもよいわ!!」
「あ、お爺様」
今の今まで存在を忘れていたが、ティア・マトーの頭の上にのっかっていた臓顕がすっくと立ち上がって叫ぶ。
「この巨大な力があればワシは神にも悪魔にもなれる! 聖杯戦争なんぞハナハナーじゃ!! 行けっ、ロボ・・・ぢゃ無くてライダー!!!」
臓顕おじいちゃんは、200年も生きているだけあってマジンガーもジャイアントも28号も本放送で見ていたのだ。
その手には、いつのまにやら二本レバーのリモコン・・・もとい、偽臣の書。
「ふふん、わらわの力をしっかと目に焼き付けるがよいぞ!」
桜をひょいと掌から下ろすと、ノリノリで新都へと向かうティア・マトー。
やっぱりビルのある所の方が、大怪獣的に暴れ良いのだろうか。
「ああ・・・こんな事になるなんて・・・・・・あ、兄さん」
瓦礫と化した間桐邸を見れば、頭を強く打ったのか兄の慎二がタンコブを作ってのびている。
「チッ、生きてやがるか・・・・・・兄さんの事はまぁいいです。それよりお家が壊れてしまって・・・・・・これからどうすれば・・・」
暫し黙考。
やがて手をポンと叩くと。
「そうだ。これを理由に先輩のお家に下宿させてもらいましょう! うん、素敵な考えです。若い二人が一つ屋根の下と言うのも素敵ですね。やがて耐え切れなくなった先輩は、私の事を抱きしめて・・・きゃー♪」
一転してウキウキと妄想爆発させる。
兄や祖父の事はこれっぽっちも考えていないっぽい桜であった。
◆◆◆
「わーははははははははははは!! 素晴らしい、素晴らしいぞライダー!! このパワーさえあれば、遠坂もアインツベルンもおそるるにたらずぢゃ!!」
ビルの街でガオーっと暴れまわるティア・マトーの頭上でご満悦のバグ爺さん。
が、そこに幼くも良く通る声が!
「ふーん、言ってくれるわね、マキリの虫けらのくせに」
「ぬぬ、何やつ!?」
「私はイリヤスフィール・フォン・アインツベルン。私のサーヴァントは最強なんだから・・・・・・行くわよ、バーサーカー!!」
「■■■■■■■■■■―――ッ!!!」
声と共に、港が鳴動した。
海を割って現われる威容はまさに狂える王者。
いかなる触媒を用いて呼び出したのか、その真名は問われることも無くはっきりと知れた。
―――直立した巨大な爬虫類。
―――強靭な筋肉に鎧われた、太く逞しい両足と尻尾。
―――ノコギリのような歯列。貫くような眼光。
―――放射能を帯びて発光する背びれ。
「ゴ・・・ゴ○ラ!?」
「そうよ、私のバーサーカーは地上最強の怪物・ゴジ○。それも正真正銘日本版。間違ってもハリウット版のヘタレやメジャーリーグの日本人選手なんかじゃないわよ」
「うぬぬぬアインツベルンの小娘めぇ・・・・・・ええい、あんな特撮に負けるな! ジャパニメーションこそ最強ぢゃ! ゆけい、ライダー!!」
「当然じゃ! 下がれぃ、下郎めが!!」
「シギャー!!」×7
「やっちゃえ、バーサーカー!!」
「■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■―――ッ!!!」
激突する巨体と巨体。
七首の竜が炎の息を吐き出せば、バーサーカーは放射能光線を吐き出して対抗する。
新都のビルは崩れ大地は燃え、その惨状はもう10年前のアレとかを遥かに越えていた。
唸る拳と唸る尻尾。
激突の度に街は破壊され、その被害は丘の上にある教会にも及ばんとしている。
「む、いかん。ランサー、なんとかしろ」
「できるかー!!」
教会の神父・言峰綺礼の言葉に、蒼い槍兵がわめく。
そりゃそーだ。
あんなモノ、二匹も相手に戦えるはずもない。
「では仕方が無い。ギルガメッシュ、出番だ」
「ふっ。王とて、出来ることと出来ない事がある」
偉そうに言い放つ金ぴか。
内容はヘタレているが。
「どいつもこいつも役立たずな。ならばアレしかあるまい・・・・・・」
ズブリと、自らの心臓に手を突き入れる言峰。
「ふ。闇の心臓を介してアンリ・マユとの接続完了」
開いた法衣の下から現れるのは、逞しい胸板と肋骨を透かして黒色の光を発する心臓。
それは10年前の戦いで衛宮切嗣に撃ち抜かれた心臓の替わりとして、今まで言峰を生かし続けてきた『聖杯の中身』の欠片。
究極的に破滅して終わりきっている黒い泥によって構成される心臓をむき出しにしたまま、言峰はその手に自らを象徴する―――言峰綺礼の宝具とも言えるモノを、高々と掲げた。
白い陶器の内には赤い暗黒を湛え、最悪の灼熱たるその液体に浮かぶ白いはずの豆腐は豆板醤と唐辛子に染まりきっている。
―――その名を麻婆豆腐と云う。
紅洲宴歳館・泰山が生み出したる究極の一。
言峰はそれを、躊躇無く自らの心臓へと直接流し込んだ。
「麻婆パワー・ダイレクトインストール!! 『この世の全ての辛味』の力を飲み干して、さあ、生まれるが良い! ハッピーバースディ、アンリたん!!」
―――こうして。
生まれ出でる生命全てを祝福すると嘯く神父によって、深山町の地下に眠る最悪が覚醒した。
鳴動する御山。
鬱蒼とした木々の間に地割れが起こる。
「●×▲■◆@*―――!!!!!!」
柳洞寺を巻き込んで山を砕き、激辛に苦悶するように地下洞穴から出現したのは巨大な影。
それは闇。それは暗黒。それは影。
最悪で最低の悪夢の中から出現したとしか思えぬ、霊長の悪意が集合体となった邪神。
陸に上がったクラゲにも似た、ぶっちゃけ黒いテルテル坊主みたいな影は、ライダーやバーサーカーにも劣らぬ巨大。
『この世の全ての悪』、アヴェンジャー、アンリ・マユの覚醒であった。
◆◆◆
「あぁぁぁぁ!? 私の中に流れ込んでくるうぅぅ! なんかこー、色々とっ!!」
バキバキと街を破壊しながら進むアンリ・マユの進路上にいた桜。
邪悪とか辛さとかに苦悶する少女の姿は、白髪・黒衣へと変ってゆく。
黒桜。アンリ・マユの契約者にしてその肉体の一部である存在。
足元の影に飲まれるようにして消えた桜は、いつの間にかアンリ・マユの頭上に出現していた。
「うふふふふふふふふ・・・お爺様もアインツベルンも、何を吠えているのかしら・・・・・・地上最強はこの私とアヴェンジャーに決まっているのに。11年間の鬱屈した私の想いと、56億の悪意、まとめて刻み込んであげますっ!!
桜ちゃん大・覚・醒。
彼女の憎悪に操られるアンリ・マユは、一路新都へと向かっていく。
行きがけの駄賃に慎二をプチっと踏み潰して。
◆◆◆
「あぁぁぁぁ・・・・・・私と宗一郎さまの愛の巣が・・・・・・」
こちらは崩壊した柳洞寺で立ち尽くすキャスター。
右手におたま、左手にホーロー鍋。
ひよこのアップリケのついたエプロンが某管理人さんチックで可愛らしい。
「いや、愛の巣って・・・・・・ここはウチの寺なのですが」
呆然としつつ、しっかりツッコミを入れたのは生徒会長こと柳洞一成。
「・・・む」
この惨状を目の前にしてもいつもと変わらない、朽ち果てた殺人鬼・葛木宗一郎。
「うう・・・長い苦難の果てに、やっと手に入れた私のささやかな幸福を・・・・・・許せない。いいえ、許す必要なんて無いわメディア!! 殺っちゃいましょう!! そうよ、私には復讐する権利があるわっ!! あのイアソンと同じように、一切合財プチっと焼き払ってやるー!!」
テンパった女は恐ろしい。
まして、キャスターは神話の時代からイタい女として知られる魔女・メディアである。
怒らせたら絶対ただではすまないのだ。
キャスターの手の中に突然現れるのは、竜を呼ぶという金の羊の皮・アルゴンコイン。
唱えられる高速神語。
瞬間、柳洞寺跡地に、閃光が奔った。
◆◆◆
「ええい、桜、ワシの言う事が聞けんのかぁ!!」
「クスクス・・・お爺様、鬱陶しいですよ♪ 殺してバラして並べて揃えて、晒してあげます♪」
「なによなによぉ! 何人来ようと、バーサーカーの敵じゃ無いんだからー!!」
三つ巴と化した戦場。
三体の巨大怪獣の戦いは、更に新都を崩壊させてゆく。
と、そこへ突如キャスターの哄笑が響き渡った。
「あらあら、憐れな地べた這いの皆様ごきげんよう。早速ですけど、死んでちょうだい!」
「む?」
「なっ!?」
「ええーっ!?」
見上げれば三体に勝るとも劣らない巨体。
月を消し去るように長大な翼を広げるのは、かつて黄金羊皮を守護したと伝えられる眠らぬドラゴン。
黄金三頭翼肢竜・・・・・・ありていに言えばキ○グギドラの姿であった。
「待てキャスター。確かお前に竜召喚の技能は無いはずでは?」
「そっ、そうですよー!! ステータス画面にもしっかりと書いて・・・」
「ええい、こんな馬鹿SSでいまさらそんな事を気にするんじゃありません!! 宗一郎さま、一成くん、そちらの頭の制御は預けますから、存分に戦いなさい!!」
「む。判った」
「なっ、なんですとー!?」
中央の頭に仁王立ちになったキャスターは、右頭の葛木と左頭の一成の疑問を鎧袖一触に切り捨てて攻撃を開始した。
「おーっほほほほほ!! さあ、二人ともやーっておしまい!!」
「・・・む。あらほらさっさーだ」
「・・・・・・がってん姐さん・・・・・・はぁ、これだから女生はイカンのだ」
棒読みながら律儀に答える葛木&一成。
ちなみに葛木先生はボカンの直撃世代。一成は最近不思議な海のヤツを再放送で視聴したらしい。
ピルピルとマヌケな音をたてて三つの首から吐き出される重力光線。
サーヴァントも辺りの建物も見境無く、ことごとくを粉砕してゆく。
「くっ・・・一時休戦ぢゃ桜。先にアレを叩くぞぃ。ゆけいライダー!」
「仕方ありませんね・・・行きなさい、アヴェンジャー!」
「不本意だけど協力してあげるわ。アレはバーサーカーにとっても宿敵だしね」
ティア・マトーの炎が、バーサーカーの放射能光線が、アンリ・マユの噴出する瘴気が、三つの首から吐き出される重力光線と拮抗する。
しかし相手は空中。
地上に居る三体を機動力で撹乱し、黄金三頭竜は優位に戦いを進めていた。
当然、そんな戦いになれば被害は拡大する。
弧を描いて飛翔する黄金三頭竜を追って吐き出されるバーサーカーの光線が、遂に言峰教会を直撃した。
「お前のせいで事態が悪化しておるではないかっ、言峰えぇ!」
「む。しまった」
吹き飛ばされる金ぴかとマーボー神父。
ちなみに、生き残ることに特化したサーヴァントはとっくに逃げ出している。
◆◆◆
焼き払われる街並。
暴れまわる四つの巨大怪獣。
陸にはティア・マトー。
海からはゴジ○。
天空にキングギ○ラ。
そして夜の闇からはアンリ・マユ。
そのいずれもが、新都のビルを一撃で砕く最悪のパワーをもった怪物達なのだ。
地上は蹂躙され、抵抗は空しく、あらゆる希望は打ち砕かれる。
最早人には逃げる術すら無く、ただ祈り願うしかなくなったかと思われた。
だが。
「なんとかなるって、本当でしょうね、アーチャー」
「勿論だ凛。私の固有結界『無限の剣製』の中には、ありとあらゆる『剣』が眠っている。その中から、あの暴虐と拮抗しうる・・・いや、あれらを凌駕しうる正義の剣を呼び出せばよい」
「正義の剣って・・・アンタにはどうしたって似合わない言葉よ、ソレ」
遠坂凛とあーそのサーヴァント・アーチャーは、辛うじて倒壊を免れている郊外に建ったビルの屋上から戦いを見つめ、その暴虐を止めるべく立ち上がるところだった。
自信たっぷりに言い切るアーチャーと、いつもと替わらぬ皮肉で返す凛。
この二人ならば、世界の終末すら笑って乗り越える。
そう感じさせるに足る不敵な笑み。
「ふむ・・・では無垢なる刃とでも言い直そう。それとも、魔を断つ剣とでも言おうか?」
「へっ?」
なぜか心にひっかかる言葉に一瞬固まる凛。
その間にも、アーチャーは最強の剣を呼び出す呪文を詠唱し始めていた。
「憎悪の空より来たりて!
正しき怒りを胸に!
我等は魔を断つ剣を取る!!
―――汝。
無垢なる刃、デモ○ベイン!!!」
轟音と共に虚空より出現する鋼鉄の巨人。
鉄と魔術で組み上げられた、それは邪悪を破壊する鋼の剣。
明日への祈りによって創り上げられた人造の神。
理不尽をもって理不尽を打倒する刃金の刃。
アーチャーの魔術によって投影された偽りの鬼械神・デモン○イン!!
「往くぞ、凛!!」
「えっ、あっ、うん」
アーチャーに引きずられるようにしてコクピットへ乗り込む凛。
気がつけばその姿は真紅のボディスーツに本で出来た羽を持った姿―――マギウススタイルに変化している。
ついでに、アーチャーは三頭身の可愛らしいチビアーチャの姿だ。
「先手必勝だ、凛」
「わかってるわ!! アーチャー、バルザイの円月刀、投影!!」
「応! トレース・オン!!」
巨神の手に現われる神秘の刀。
それを握り締め、デ○ンベインは相争う巨獣達の中に飛び込んでいった。
◆◆◆
「くっ・・・次から次へと鬱陶しい―――ッ!!」
新たに参戦した巨大ロボに舌打ちするキャスター。
いかなキングギ・・・黄金三頭竜でも、四対一では分が悪い。
「こうなったら奥の手よ・・・・・・アサシン、貴方の出番です!!」
◆◆◆
「―――ふ」
ゆらりと、廃墟となった柳洞寺で立ち上がる清流の侍。
月光に照らされるかつて山門であった場所は既に石段すら崩れ去り、アサシンを現世に止めていた建造物は既に無い。
しかし、今のアサシンにとってそんな事は問題にならない。
なぜなら、その依代はキャスターによって山門から別の物へと変更されていたのだから。
夜風に弄られるままに飄々と戦場を見据える侍の背には、一抱えの石仏。
温和な表情を掘り込まれたそれは、長い年月柳洞寺の参道脇にて風雨に耐え続けた強靭なるお地蔵様であった。
縄でしっかと小次郎の背に縛り付けられたそれこそ、サーヴァント・アサシンの今生への依代なのだ。
人呼んで、佐々木小次郎重装型改・地蔵スペシャル。
キャスター以外には存在すら知られていない彼を、誰が人呼んだかはまったく不明だったり。
背負った地蔵の重さをまるで意に介さず、スラリと愛刀を引き抜くアサシン。
その刃渡り五尺という長刀を握った右手が、月を貫かんばかりに高々と突き上げられる。
「往くぞ」
溶けるようにその場から消えるアサシン。
そして、轟音が響いた。
◆◆◆
「なっ!?」
「えっ!?」
「なんじゃと!?」
「―――は?」
マスター達が驚きの声を上げる。
柳洞寺から射出され、一直線に新都へと落下したその巨体は、ゴジ○よりもなお巨大。
デモンベ○ンの鋼鉄よりもなお堅固なる身体は石。
アンリ・マユよりもなおテルテル坊主っぽいその頭は完璧に坊主。
ティア・マトーよりもなお高い神性は即ち菩薩。
「汎用地蔵型決戦兵器・ササキゲリオン、参る!!」
地蔵の如きその威容が、崩壊した新都を疾駆する。
足元になぜか付いたロケットエンジンによって生み出される推力はまさしく怒涛。
大地を焼却し雑多な障害物を吹き飛ばして迫るアルカイックスマイルが地味に不気味だ。
「地蔵―――」
更に瞬間、地蔵は三つに分身して別々の敵へと襲い掛かった。
「―――返し!!」
「多重地蔵屈折現象!?」
キシュア・ゼルレッチと呼ばれる訳も無いその攻撃に驚愕の声をあげる凛。
これぞ佐々木小次郎を演ずるべく召喚された名も無き剣豪が、その生涯をかけてなしとげた完全同時地蔵存在。
分身したように見える三仏の地蔵は残像でも幻影でもない。全てが平行世界から現われた、まごうかたなき本物なのだ。
「もらった―――なにっ!?」
が、次に驚愕するのは地蔵に乗り込んだ小次郎であった。
ただ鍛錬により魔法の領域まで至った地蔵が○モンベインを打ち砕いたと思った瞬間、鏡が砕けるようにその虚像が消えうせる。
デモン○インに搭載された魔術の一つ、『ニトクリスの鏡』の生み出す幻影だったのだ。
「ふっ、地蔵を抱いて溺死しろ」
「今度はこっちの番よ!! レムリア―――」
「させません!!」
必殺を期してデモンベイ○の掌に集まる無限熱量。
あらゆる存在を昇滅させるその必滅技を喰らえば、いかな菩薩といえどもタダでは済むまい。
だが、この戦いはバトルロイヤル。
空中から戦場を睥睨する黄金三頭竜とそのマスターが、自らの援軍が討たれるのを座視するはずも無し。
デ○ンベインを阻止せんと吐き出される重力光線が世界を歪ませる。
「えーい、うっとーしーわよ!! 焼き払いなさい、バーサーカー!!」
「■■■■■■■■■■―――ッ!!!」
この黄金三頭竜の動きに、宿敵たるバーサーカーを操るマスターも黙っては射られない。
日本特撮界に長年君臨し続けた最強超獣の名にかけて、アインツベルンは勝利しなければならないのだ。
剛力一閃。
襲い掛かった地蔵を尻尾の一撃で正面から弾き飛ばして、口から吐き出す放射能光線があたり一面を蹂躙し、粉砕してゆく。
「ええい、負けるでないぞ、ライダー!!」
「はっ! わらわに敗北などありえるものか!!」
対抗するように燃え盛る七頭暗黒竜のブレス。
更に、次々と産み落とされて実体化するあまたの怪物達がのべつまくなしに他のサーヴァントへと襲い掛かる。
大母神ティア・マトー。そは名に負うし怪物どもの母。
巨大な毒蛇が。怪魚ラハブが。狂える獅子が。燃え上がる狂犬が。サソリの下半身をもった半虫半人が。翼ある牡牛が。醜悪な半漁人が。吠え猛る嵐の魔物に幻獣フシュムシュが。
最強の幻想種である竜までもが次々と生み出され、地蔵にゴ○ラにデモン○インに、更には空を飛翔してキングギ○ラにまで群がってゆく。
だが、その魔獣の軍団を相手にしてなお。
「ふふふふふふふ・・・・・・どんなに頑張っても、最凶は霊長の殺戮者にして、あらゆる抑止の力を免除されたこのアヴェンジャーだと、身体に刻んで教えてあげます!!」
「―――――――――!!」
影は、絶対的に凶悪だった。
暗黒を手足とし、上空の黄金三頭竜すら影の触手によって捕らえようとするアンリ・マユ。
有象無象の怪物など、抗する術も無く、断末魔の悲鳴と共に影へと飲み込まれていくその様は正しく最悪。
「ふ―――良い月夜だ。存分に死合おうぞ!!」
かかる阿鼻叫喚の戦場に、なお慈愛の微笑みを崩さぬは大慈悲救世地蔵菩薩―――乱舞する三体の地蔵を操って、傲然と嘯くは巌流・佐々木小次郎。
否・・・・・・剣豪・無名。
ジャリリンと音を立てて引き抜かれるは、地蔵の杓杖に仕込まれた刃渡り100尺の超長尺仕込み刀。
高層ビルをも一刀両断にする、スーパー物干し竿。
地蔵菩薩に振るわれる三振りの魔刀が、月光を照り返してギラリと輝いた。
世界を砕くその決戦に、未だ終わりは訪れないようである。
◆◆◆
「シロウ、おかわりを下さい」
その頃、破壊を免れた深山町の某食卓で。
「あーはいはい。いまよそうから―――」
「しろーしろー、わたしもおかわりー!!」
獅子と虎が平和に士郎のごはんを堪能していた。
こくこくと肯きながら、おかずを食べる金髪碧眼の少女。
士郎のごはんはいつもおいしい。
窓の外には、未遠河の対岸でガッツリ戦い続ける巨大な女神とゴジラと黒クラゲとキングギドラと巨大ロボと地蔵×3。
「・・・・・・・・・いくら正義の味方って言っても、アレはどうにもなんないよなぁ」
この世には、やって出来ない事だってある。
星空に浮かぶ切嗣の幻影も「まぁあんまり気を落とさずに」と慰めてくれていた。
カラの茶碗としゃもじを手に溜め息を一つ。
それからふと、目の前の英雄・・・かのアーサー王だという少女を見る。
「でもまぁ、セイバーが普通の大きさで良かった」
だって大きかったら食費が馬鹿になんないし。
その言葉を飲み込んで、ごはんをよそう士郎であった。
◆◆◆
その頃、瓦礫に埋もれる柳洞寺跡地。
「へー、御山の地下って、こんな空洞になってたんだ・・・・・・・・・おや、なんだコレ?」
様子を見に来ていた弓道部主将の美綴綾子が、奇妙なモノを拾っていた。
「聖杯でちゅ!」
「うわっ、喋った・・・・・・って、聖杯?」
どう見ても手足と目のついたキノコにしか見えない。
そのキノコが、エッヘンと胸(?)を張って答える。
「そうでちゅ。どんな願いも叶える奇跡の聖杯でちゅ!」
「んじゃ、ファンディスクで私のシナリオを」
「うむ。心得たでちゅ!!」
途端手の中でピカーっと光ってから自称聖杯は消えた。
―――その聖杯が本物かどうかは、また別のお話。