快晴、暦上では既に夏になり、気温も日に日に高くなってきている
セイバーと共に歩んだ日からもう3年がたとうとしている
彼女の胸に剣を付きたて、血は繋がっていない妹を失ったあの日から俺の時間は止まったままのようだが、時間というものは流れているらしい
…こんな回想をしてしまうのは感傷なんだろうな
「士郎?どうしましたか?家はこちらですが…」
感傷に浸っている間に家への分岐点についていたらしい
「悪いなライダー、ちょっと考え事をしてた」
慌てて帰り道に戻る
ライダーは不思議そうな顔をしていたが、大して突っ込むことも無く付いてくる
彼女の両手には大量の買い物袋
そして、俺の両手にも同等の量の買い物袋が下がっている
「あ、そうだ。ライダー先に帰っていてくれるか?ちょっとよりたい所があるんだ」
少し考える素振をしていたが、頷く
「今日は大事な日です。あまり遅くならないでくださいね」
一言付けたしいつもの帰り道に足を向ける
「…さて、久しぶりに行ってみるか」
柳桐寺の階段に辿り着く
ここに来る前に花屋に寄ったため、多少時間を食ってしまった
あまりのんびりもしていられないなと思いつつも、感傷が再び浮かび上がる
かなり長い階段を下から見上げ、そのまま空を見上げる
雲ひとつ無い空が広がり、何処までも澄んだ青い色が目にとまる
青、彼女が纏う魔力の色であり、澄み渡りとても綺麗だった瞳の色
階段の半ばで横道にそれる
少し出た所に流れている沢に沿って上流まで進み、水の流れ出ている岩陰に歩を進める
傍から見れば壁に突っ込んでいるようにしか見えないが、自分には慣れ親しんだ道だった
3年前に初めて入り、それ以来幾度と無く足を運んだこの場所への入り口だから----
暗い洞窟を進み、少し開けた場所に出た
3年前、桜を止める為にライダーと共闘し、彼女を刺した場所
花屋で買ってきた1本の百合を供える
この百合のように清楚で、礼儀正しかった彼女の為に
「久しぶりだね、セイバー。今日は懐かしい人に逢えるんだ、お前にも報告してやろうと思ってここまで来たんだ」
自分の中で3番目となってしまった彼女
しかし、とても大切だった人
「今でも俺は後悔しちまうんだ。あの頃の俺にもっと力があれば、お前を救えたかもしれない…」
後悔は何も生み出さない
一人の人を救う為に世界さえ裏切ると選んだ日にそう理解していたはずなのに、心の底から溢れ出てくる思いは止まらない
「シロウ、もう泣かないで下さい。私は貴方に救ってもらえてとても嬉しかった。私の事で悔やむのならサクラを幸せにしてあげてください」
聞こえるはずの無い声が聞こえてくる
「セイバー!?」
返事は無い
幻聴かもしれない、だが…
「分かったよ、セイバー。俺はもうここへは来ない。そうだよな、後悔したってお前は帰ってくる訳じゃないんだよな、それに…俺はお前より桜を選んだんだから」
暗い洞窟から外に出た
「眩し…」
来た時から2時間ほどが経過したらしい、光が指す角度が随分変わっている
「やっばぁ…急がないと…」
来た道を走って引き返す
そうだ、感傷は要らない。
でも、家までは許してくれ、セイバー
家に着いたら俺はいつものエミヤシロウに戻る
だから、それまでは----
空は高く、何処までも澄んでいた…