Re stay (M:キャスター 傾:多分あふたー?)


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1: 辿風 (2004/04/12 00:51:45)[adept_reality_marble_666 at hotmail.com]

あの聖杯戦争から1ヶ月が過ぎようとしていた。
セイバーと出会い、遠阪と協力した、今までの常識とは逸脱した2週間だったことを覚えている。
いつまで覚えていられるかなんて思わない。
人間忘れるときは簡単に忘れ、覚えているときには覚えているものだ。
そして、自分は絶対に忘れない。
きっと忘れたくなっても忘れないだろう。
そもそも、忘れたいなんて思わない。絶対に。
金色の髪の少女との唯一の記憶であり、過ごした時間なのだあの2週間は。
もちろん、あの時のことで忘れたいこともたくさんある。
そして俺のブレインは都合のいいことにそういう部分は一ヶ月のうちにきれいに忘れ去ってくれた。
しかし、見たくなかったが忘れたくもないことが覚えている。
血に塗れた姿―――
それでもなお、膝をつけずにいた騎士の姿。
焼けた腕で倒れ伏した姿―――
満身創痍な体で逃げろといった小さな少女の姿。
そういう部分は今でもはっきり覚えている。
一体いつまで鮮明に覚えていられるのだろうか?
少なくとも今日明日に忘れるということはないが、
では1年後、10年後はどうだろう?
1年後、今のように彼女との何気ない食事の風景を思い出せるだろうか。
10年後、今のように深く、彼女との思い出に馳せることができるのだろうか。
彼女と一緒に聖杯を求め、戦ったということは覚えていても、彼女がそばにいるだけでとぎまぎした気持ちは覚えているだろうか。
それが怖い。今の思いが薄れるのが怖い。
あの時、彼女が言った台詞を忘れるのが怖い。あの時、彼女が笑ったことを忘れるのが怖い。あの時、彼女が驚いていたことを忘れるのが怖い。あの時、彼女が怒ったことを忘れるのが怖い。あの時、彼女が悲しい顔をしたことを忘れるのが怖い。あの時、彼女が焦ったことを忘れるのが怖い。あの時、彼女がテレてたことを忘れるのが怖い。あの時、彼女が

ゴンッ

「っーーーー!!?」
痛っっっつーーーー!!!!
頭!!頭のどっか急所に直撃!!!なんか硬いもんが!!!!
「こらぁー士郎!おかわりって何回言えばいいのよ!早くご飯よそれー!」
「がぁー!!藤ねぇ今すんげぇトコ殴っただろっ!すっげぇ痛ぇんだぞココ!うわっ涙出てきた!」
「うるさーい!!はやくよそらない士郎が悪いんでしょーが!自業自得!ある意味正当防衛といってもいいわ!」
「何が正当防衛だよ!ただ腹が減ってキレてるだけじゃんかよ!!うわっ鼻水も出てきた!」
「なによそれー!とにかく士郎が悪い士郎が悪い士郎が悪い!!!あーうどんが延びてきたー!これもそれも士郎のせいだからねー!わかってんの!?」
「これ以上騒ぐなうるさいっ!つーか炭水化物を炭水化物で食うな邪道!!!うわっ血!血血血!!!コレってヤベェって!」
「知るかー!!ってあー!ソース!コロッケのソースがキャベツにつくっ!!はやくハヤクはやくご飯!ご飯ご飯ご飯!!!!」
「そんなのどーでもいいだろ!!これ以上騒いでないでコロッケ食えばいいだろーが!!!」
「全っ然よくないわよ!!それにコロッケはご飯と一緒にしか食べないの!!だからはやくギブミィィーーーー!!」
「それこそ知るかーーーー!ならば・・・・・・」
ぎゃーぎゃーぎゃーぎゃーと騒ぐ藤ねぇ(と俺)。
飢えた野獣とキレると手がつけられなくなる俺が衝突したらもうほとんど言い分は平行線上だ。
どうあっても妥協はしない。それこその油と水みたいに。
こうなったらお互いが疲れ果てるまで言い合うのが2人の常だが、それは昔のこと。
油と水が分かれてるのが原因なら、誰かが振って混ぜればいいのだ。
「あの、先輩も先生もそろそろ・・・」
振る人はもう毎度おなじみである。
1年も前から繰り返す運命を背負ってしまったのは間桐 桜その人だった。
だが、
「なんですってぇーーーーーー!!!」
「なんだとーーーーーーー!!!」
「はうっ・・・・」
混ぜるために振ろうにも、沸騰しているモノは熱くて振るどころか持てないのだ。
多分、今が最高温度。
それを無理に振ろうとすれば逆に最高温度を突破し、そして桜の手も焼けどするだろう。
つまり、まきこまれる。
「・・・・はぁ」
しかしコレも1年前から続いているので慣れた桜であった。
(今は私じゃ手がつけられない、絶対に・・・)
熱した鉄板も時間がたてば冷めて触れられる。それを待つしか桜には方法はなかった。


しかし、これも一ヶ月前までのこと。
熱した鉄板だろうがなんだろうが、水でもかけりゃ冷める。
強制的に。

「あーーーーーーーもーーー!!!!!うるさぁぁぁい!!!!」
ごわんわんゎんゎん!と耳に響く咆哮があがった。
隣にいた桜はその咆哮を事前に察知したのか目までぎゅっと瞑り、耳を力いっぱい塞いでいたが、
言葉で戦争をしていた2人には、第3の軍に気づかずに、モロその核というべき音量を耳にうけた。
「きゃわっ!!?」
っと尻餅をつき、耳を押さえもだえる藤ねぇ
士郎も士郎で
「耳がぁー!耳がぁー!!あぁ!!!!」
っと畳をごろごろ転がっている。
二人とも耳にキィィィィィィンっという音が張りついて離れないようだ。
そこに、大音量で戦意喪失を促した人物、イリヤスフィール・フォン・アインツベルンの仁王立ちしたお姿があった。
イリヤはすぅ・・・っと衛宮邸の居間の空気をゆっくりと、たっぷりと吸い上げると、マシンガンのように吐き出した。言葉で。
「いーかげんにしてほしいわよね!せっかく士郎が作ってくれたおいしい食事なのにそんなふうに大声で迷惑なノイズを聞いてるとおいしさ半減なのよね!そんなにご飯が恋しかったなら自分でよそったほうが早いでしょ!それをピーピーピーピーとやかましいったらありゃしない!ピーピーなんてかわいいもんじゃないわ!もう断末魔よ!テレビの音量MAXよりひどいわよっ!大河はすぐに暴力に出ると思ってたけどその声の大きさも暴力的ね!だてに茶碗使って士郎の頭でいい音出してるわけじゃないわね!かわいそうに、血出てるじゃない!」

と、どこにそんな肺活量があるのか一息でまくし立てる。
この勢いはマシンガンではなくガトリングガンに近いかもしれない。

「士郎もなんで血流しながら大河と言いあってるの!?まったく信じられない!だいたい空腹時の獣が苛立ってのはわかりきったことじゃない!それを士郎まで一緒になって、言いあってもなんの得もないってわからなかったの!?がんばっておいしい食事作ってくれるのはいいけどいざ食べてるときにそんなまずくなるような事したらせっかく作った意味ないじゃないのよ!あーもー!今日は私の好きなカニクリームコロッケだったのに、どうしてくれるのよー!」

くきぃーーー!と怒鳴るようにイリヤが叫ぶ。かなりご立腹のようだ。
どのくらいご立腹かというと、
「いーかげんにしてほしいわよね!」から「どうしてくれるのよー!」を全く息継ぎをしないで手をぶんぶん、足をばたばたしながら大声で叫ぶぐらい怒ってるらしい。
ホントにどのくらいの肺活量があるのかが謎である。
もしかするとアインツベルンのお姫様は空気を必要としてないのだろうか?
と、さすがに反省の色を見せている士郎は思っていた。
人間混乱してても自分以上に混乱している人を見ると冷静になれるというのはあながち本当らしい。
2人はしゅん、とイリヤの前に正座をしてばつが悪い顔をしていた。
が、どうやらまだ連装ガトリング砲の十字砲火は止まないみたいだった。

「まだセイバーとか凛がいた時のほうが大河もおとなしかったじゃないのよー!桜もそうよ!アナタはもっとガツーンとこの怪獣たちを止めなきゃだめなの!!バーサーカーだってここまで狂ったように叫ばなかったわよ!こんなうるさいんだったらまだリズたちとの寡黙の食事のほうが・・・やっぱヤだ!つまんない!あーもー士郎も大河も桜も凛もリズもバーサーカーもみんなナンセンスなのよ!!!」

訂正。ガトリングというより散弾銃だった。
もうイリヤ自身も何がなんだかわからないけど怒っていたのだろう。
とにかく誰かを怒鳴り散らして、今は沈黙した。
衛宮家にやっと沈黙が訪れたのだ。
熱した鉄板だろうがなんだろうが、水でもかけりゃ冷める。
強制的に。
ただ、かけたのが水ではなく液体窒素だっただけなのだ。
鉄板の熱により急激な温度上昇をした液体窒素は爆発するに決まってる。
といっても、今回はどちらかというと士郎と大河がイリヤを誘爆したような形だったが。
そこで今までいち早く耳を塞いでいた桜が眼を開け、耳から手を離した。
喧騒がとりあへず収まったようだので、現状確認をする桜。
すると、テーブルを挟んだ向こう側にまだ仁王立ちをしているイリヤと、その足元で正座して謝罪をしている2人の姿があった。
「ご、ごめんイリヤ・・・ちょっと頭に血が上りすぎたみたいだ。」
「わっ私もゴメンねイリヤちゃん・・・ちょっとお腹が空いて気がタっちゃってたのよー。あ、あはは。」
「で、でもほら、ちょうどいいぐらいに頭に上ってた血がダラダラと流れてるから。もう平気だから。」
「そうそう、私も怒鳴ったからお腹より喉が乾いてるのー。ほらこれでイライラする原因はないわよー。あ、お腹鳴ってる・・・」
(あの、先輩・・・それ全然平気じゃないです。物理的というか、血の量的に)
(藤村先生も。それって問題のすり替えじゃないですか?喉潤せばまた咆えるってことですか?)
士郎は頭から今も元気に赤い液体を吐き出している。
藤ねぇはお腹から、詰まった排水溝が奏でる不協和音と同じ音を演奏している。
ようするに、問題は根本的に解決していないようだ。
そして。ようやくなのだ。事後処理を担当する桜の仕事は。

2: 辿風 (2004/04/12 06:25:45)[adept_reality_marble_666 at hotmail.com]

「はい、先輩も先生もそろそろ仲直りしてください。先輩は止血しますから救急箱を、先生は私がご飯をよそっておいたのでどうぞ召してくださいね。」

ぱんっ、と手を一回鳴らしながら桜が言った。
とにかく今は士郎の手当てと藤ねぇの食事を済ますことにしたようだ。
そして、いまだに堂々と仁王立ちで君臨しているイリヤのほうへ桜は意識を向けた。

「ほら、イリヤちゃんも席に戻ってください。2人とも十分反省してくれたみたいだから、ね?」
と、自分より長い綺麗な白髪を撫でる。

しかしイリヤは
「―――――」
まるで今の言葉が聞こえていなかったかのように沈黙を保った。
きっとまだ怒っているのだろう。
そう思い、桜は自分より背が低いイリヤの顔を少しかがみこみ、覗きこむように見ながら優しく言った。

「イリヤちゃん。そう怒ってたらおいしいゴハンがもっとまずくなっちゃいますよ?ね、だから機嫌を直して・・・って・・・きゃぁーーーーーーー!!?」
突然の絶叫。
「!?なっ、どうしたんだ桜っ!?」
「んんぐっ!けほけほっ・・・って一体どうしたの桜ちゃん!?」

廊下から救急箱を抱えて士郎が走って桜の元にかけつける。
大河はコロッケを一口ほお張り、ご飯を入るだけかきこんでいたらしく、今の悲鳴で喉に詰まらせていた。
桜はめずらしく大声をあげ、よほど動転したのか、中かがみの姿勢から後ろに倒れ、涙目で尻餅をついていた。

「せっ先輩!イリヤちゃんが、イリヤちゃんがぁ!・・・・・息をしてないんです!!!」
「なっ何ぃぃーーー!?!?」
士郎はすぐさま ばっ、と救急箱を放り投げ、イリヤの前に立ち肩を大きく揺さぶる。
「おい!イリヤ!イリヤ!!」
ブンブンブンと肩を揺さぶる士郎―――
ガクガクガクと首を振り乱すイリヤ―――
思いっきり首部の前後運動をしている少女は白目を剥いていた。
「きゃー!先輩何やってんですかーー!?絶対そういう動きはさせちゃ駄目ですって!!」
信じられない、と桜が士郎の手からイリヤをもぎ取り、とりあえず横たえる。

「すっすまん!えっと・・・えっと・・・こんな時どーすりゃいいんだぁー!!!?」
うおーーーー!と叫びながら思いっきりうろたえる士郎。
聖杯戦争中はとりあへずガムシャラに動いていれば何とかなったが、今はガムシャラに動いてもどうしようもあるまい。

「先輩とにかく落ちついてください!とにかくうるさいです!」
「おっおう。と、とにかくすまん・・・」
とにかく有事なので普段はおとなしい桜も懸命に士郎を落ちつかせる。
火事場の女は強いのだ。

「イリヤちゃん!イリヤちゃん!起きて!イリヤちゃん!」
「イリヤっ!お前起きろ!つーか起きないと本気でやばいって!!!」
ペチペチと頬を叩き懸命に呼びかける。
いつから息が止まっていたのだろう?
いや、多分ガトリングのごとく怒鳴っていた時からきっと息を吸ってなかったんだろう。
だから怒鳴り終わった時から意識が飛んで、あのまま立ったまま気絶してしまったのだろう。
そりゃそうだ、一息であんだけ喋ってたんだ。
きっと最後のほうなんか酸欠すぎてとにかくシャウトしていただけだろう。

今のイリヤの状態を判断するとしたら多分、
「息を吸う力もないぐらいの酸欠」だろう。

「たっ、頼むからイリヤ起きてくれー!このまんまぽっくり逝ったら絶対新聞沙汰だぞ!?つーかなんつー死因にすりゃいいんだよ!」
「勝手にぽっくり逝ったような判断しないでください!まだ生きています!」
もう士郎の頭の中は混乱極まっているようだ。
すでに最悪の事態を想定して自己嫌悪に囚われている。

「だ、だけど息してないんじゃあマズすぎるだろ!アインツベルン家になんて言えばいいんだ・・・」
「先輩!頼みますから無意味にキッチンに行って料理作らないで下さい!!」
「ははは、ごめんよじいさん。俺ちびッ子一人助けられないわ。つーか、その死因すら作ったようなもんだし。あ、卵割っちった。くっ、また生き物の命を無闇に奪っちまったよチクショー!」
「食用卵は無精卵でしょーがーーーーー!ってまだ死んでませんってばもーーーーーーー!!」

自己嫌悪を通り越して自己崩壊をはじめた士郎に、もうやけっぱちになったのか桜ですら咆えた瞬間だった。
目にはうっすらと涙を浮かべながら桜はどうすればイリヤを助けられるかを必死に考えていた。
しかし、2人はすっかりとある一人を忘れていた。
この場にいればきっと士郎以上に壊れていそうな人を。
いつの間にかいなくなっていたのだ。
・・・・・・逃げたのか?

「あーもうわかりました!先輩は壊れちゃったし、仕方ありません!この不肖 間桐 桜!人工呼吸いかせてもらいますっ!」
きりっ!っと何かを決意した、そう例えば「大切なファーストキスを女の子に奉げるしかないなんて」的な覚悟を秘めた表情で桜は言った。
もうこうなりゃヤケだ。
とにかく火事場の女の決意はすごいのだ。


桜は一気に寝かせていたイリヤの後頭部に腕を挿し入れ抱き起こし、目をギュっと瞑り、勢いだけで人工呼吸に挑む!
―――ほんとは先輩がしてあげたほうがイリヤちゃんも喜ぶのだけど・・・
今、LIVEで士郎は生卵の中身に向かって自分の非力さを懺悔をしている。多分まだとうぶん現実には戻れないだろう。
―――ほんとは私もファーストキスは先輩に奉げたかったけど・・・・
ファーストとは、あくまで気持ちの上でのファーストだ。無理やりのモンなんてファーストキスには入らないというルールを自分に設けた。
そして、
「桜、いっきまーーーーす!!!!」
意を決して顔を近づける!
と、





「ちょっと待ったぁ桜ちゃん!!!!!!」
「え?先生?」
「チェストーーーー!!!!!」

バシン! と、何か棒のようなもの、例えば竹刀のようなものが呼吸停止状態のイリヤのお腹を激しく強打した。

「ギャッ、オヘェっ!!!!」 と低く、そして少女らしくもない悲鳴を上げるイリヤ
「・・・・・・・・・一本!!!!」  と何か、とてもいいことをした後の爽やかな笑みを称える藤ねぇ
「何やってんですかぁぁーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!!」
として、今までの人生の中で一番の発声を成し遂げた桜の叫びにより、一ヶ月の平穏は去っていった。








あとがき・・・
ごめんなさいごめんなさい。
勢いだけで書いてごめんなさい。
ごめんなさい。ごめんなさい。
稚拙すぎてごめんなさい。
自分はただキャスターさんを書きたいだけなんです。
けどなぜかキャスターさんが出てこないんですごめんなさい。
一応設定はセイバー編+凛編÷2なんです、ええはい。

3: 辿風 (2004/04/18 10:13:14)[adept_reality_marble_666 at hotmail.com]

曰く、今宵は満月の前夜だった。
夜がもっとも深まる時間でも、満ちかけた月光が、中央公園の影をやわらかに浮かび上がらせる。
誰もいない。

元より広いのだが、人の往来が少ない場所。
深夜に人が存在することすら、稀である。
公園は静寂に包まれている。
時たま風が奏でる木々の音以外は、無音。
淡い月光の中、その公園は眠っているかのように安らかだった。


風が吹く。

静かに、木々を撫でるようなやさしい風だった。
風は公園の端から端までを愛でるように走ってゆく。

そして、公園の中央、何もない広い芝生を風が通り過ぎようとしたとき、ふと違和感があった。
一面見渡せるその場所で、何もないはずだった。

しかし何故か、何もない空間で風が2つにわかれた。
まるで、見えないなにかに行く手を阻まれたように。
風がわかれ通り去る時、光が走った。
淡く公園全体を包み込んでいた月光が広場に凝縮したような、爆発的な光だった。

誰もいない公園。
その中央に突如存在した光は徐々に薄れていき、人型を作り上げていた。
しかし、突如現れ出でたものにも、みな等しく月光は影を作り与えていた。
影が動く。

「あ・・・れ・・・?ここは、ってアイツのせいか・・・」

呆然自失をしていた影は黒い己の腕の動きを、存在を確かめるように動き、呟いた。
空を見上げる。
そこには月と、雲と、星とが存在する、1つの別世界のような光景が広がっている。

「ははっ、綺麗だなぁ。」

よほど夜空に心を奪われ、見上げること以外を忘れたかのように佇む。
そのまま朝露に濡れながらこの星たちの役目を終える瞬間を、そして新たに人々の希望を象徴する光を見届けるまで影は存在しようとした。

だが、それを影は果たせなかった。
影の主が誰となく囁くように言う。

「聖杯。もしそれが本物なら、どんな願いも叶うなら・・・最後に少しがんばってみようかな?」

影と同じくにして佇んでいた者は、夜空を仰いでいた瞳を黙し身を翻したからだ。
再び瞳を開いたときに見たものは夜空の下に存在する現実の世界。
現実を捉えた瞳は確実に先ほどまでは存在しなかった何かを背負い、

「そのためにはまずマスターを。」

そして、影の主は歩き出した。

「それからサーヴァントと話してみよう」

闇夜に紛れる影をつれて。
月光の祝福を浴びながら、その姿は中央公園から去った。







「えーん、だって爺ちゃんが『壊れたテレビだろうが死にかけた人間だろうが叩きゃ治る』って言ってたもーん!」
「そんなヤクザちっくな理論をカタギに適合させないでください・・・・・」

こめかみに指をあて、おもいっきり疲れた顔の桜。
それはそうだろう、1年以上の付き合いになるがこれほど大声を何回も出した桜を見たのは初めてだし。
それに、大声を昔聞いたといっても大抵自発的にではなく、やれゴキブリやの、やれ鍋が吹いただの、悲鳴だけだ。
普段おとなしいだけあって、今回の騒ぎがどれほど大変なことだったかは、桜の様子を見ているとわかった。

「まあ、とりあえずイリヤは息を吹き返したんだしめでたしでいいじゃんかよ桜。藤ねぇも。それは根性と気合と仁義で生きてる人の場合だから。」

それを一般のお子様相手に実行するな、といいかけて少し躊躇う。
うーむ・・・はたしてイリヤは善良な一般市民なのだろうか、と。
どっかのお姫様だし魔術師だし、まぁスーパーチビッ子ってとこか?

あの後、藤ねぇがぶったたいたショックにより、イリヤはなんとか生きかえった。
どうやら、うめきと共に酸素を肺に取り込み、活動を再開させたみたいだった。

「はぁ、ともかく今日はこれくらいにしましょう。先輩、今日はなんだか疲れてしまったので私はこの辺でお暇させていただきます。」
「ん、そっかもう夜だしな。ごめんな桜、ちょっとどたばたしすぎた。」

少しばつが悪いので、桜の顔を直視できずに目線を下げて言うと桜はふぅ、と息を抜き穏やかな表情をして言ってくれた。

「いいえ。こうやって先輩のお宅にお邪魔して、一緒に笑ったり慌てたりするのも楽しいんですよ。」
「ははっ。そういってもらえると助かる。」

今の言葉に救われたのか、俺は桜に顔をあげて微笑んだ。
こういう気持ちの心遣いを桜は一種の才能だろう。
すると、俺の笑顔につられてか桜も、くすっとイタズラっぽく微笑み、

「でも今日みたいな重大事故はカンベンですよ?さすがに笑えません。」
「おいおい、それはイリヤに言ってくれって。息を忘れるほど怒鳴るなんて考えつかないさ。」
「ふふっ、そうですね。今日は藤村先生がイリヤちゃんの看病をすると言っていましたので、また明日の朝にお邪魔しますね。」
「あ、うん、待ってる。けど朝飯は俺がやるからな」
「はい、お願いします。では、そろそろ。お休みなさい先輩。」
「じゃな桜、おやすみ。また明日。」

そう言って、話しながら玄関まで一緒に行き、見送る。
外まで見送りには行かない。
外まで一緒にでると、何でもさよならをするタイミングが掴めなくなってしまうらしい。
これはもう士郎と桜の暗黙のルール。
心配なら藤ねぇを一緒に帰らせるのだが、聖杯戦争が終わった今、そうそう危険はないと士郎は思っていた。

そして、ぺこりと軽くお辞儀をして桜は玄関のドアを開けて自分の家へ向かって帰っていった。
多分、明日学校の前にここに寄ってくれるだろう。

「さて、と。イリヤを寝室に運んで食器片付けて、俺も寝るかなぁ。」

そして看病といいながらしっかりと寝ていた藤ねぇと、けろりと元気になってるイリヤと一緒になって朝食を食べて、学校へ行くだろう。
それが日常。
衛宮士郎にとっても、間桐桜にとっても藤村大河にとっても、イリヤスフィール・フォン・アインツベルンにとっても―――――









まじめげに後書き・・・・?
えっと、一応設定は聖杯戦争後です。
聖杯戦争はセイバー+凛編のおいしいところだけを繋げたものだったと仮定してます(汗
おおまかにいうとー・・・
慎二死んでない
聖女陵辱はあったけど、葛木は死んでない
んと、もちイリヤも死んでない
言峰はー・・・どっちにしても死んでますね
でも聖杯の奇跡で生き返ったらおもしろそうです。
あと、若干バゼットさんとかルヴィアさんとか出したいです
ただ、性格等はこっちのカスタム仕様なので、
バゼット改とかルヴィアmk2といった感じでしょうか・・・・?
あと、このSSの趣旨は士郎のサーヴァントにキャスターを迎えるという感じが命題ですのでっ!

4: 辿 (2004/04/19 00:04:07)[adept_reality_marble_666 at hotmail.com]

――――朝

衛宮士郎の朝は5:30から始まる。

目覚ましなんて無くても起きられる一種の特技。
眠いもんは眠いのだが、ようは気の持ちようである。

「んんーーーーー!っと、もう朝か。」

ぐいーっと布団から上半身を起こし、両手を上に伸びをする。
この伸びというものがまた意識の覚醒を促してくれるのだ。

「さってと、顔洗って朝飯作るかな。昨日は不覚にも桜に先こされたし、それが2連ちゃんとなったら家主の品格に関わる。」

布団から全身を抜き、ちゃんと畳んで仕舞ってから学校のため制服に着替える。
その後に洗面所で顔を洗い、歯を磨き、昨日洗濯機にかけた衣類を取り出しとりあえず洗濯カゴに突っ込んだ頃にはすっかり目は覚めていた。
士郎のこだわりというか、価値観として、寝ぼけ眼で調理場に立つことをよしとしないのだ。

「んっと、洗濯物は米を研いでる間に干すか。んじゃ、桜が来る前にちゃっちゃと作り始めるかな。」

そう口に出しながら士郎は脱衣所を後にし、料理場へと向かった。










「んーー・・・おはよー士郎ー。」

ご飯が炊け、今ちょうど鮭をフライパンで焼いているときに藤ねぇが起きてきた。
まだ眠気が抜けきっていない様子で目を少し細め、気だるそうだ。

「おはよ藤ねぇ。・・・そっか、昨日はイリヤの看病で泊まったんだっけ。忘れてた。」
「そーよー。そんでもって看病した結果としてまだ眠いのー。あー今日、朝会議が無かったら授業まで寝てたいのよー。」

そう言いながら糸目の状態でのっしのっしと歩いてきて、食卓の前にどっかり座りこんで頭を机に乗せて少しでも惰眠を貪る。
ホントに眠いみたいだな。
ちょうど鮭がいい感じにバター焼きになったので火を止めフライパンから皿に移す。
うん。我ながらちょうどいい加減に焼きあがった。
自分で満足しながら藤ねぇに敬意を表して言う。

「そりゃおつかれっ。で、イリヤのどうだ?眠りながら息を引き取るなんてことはないだろうな?」
「そんなおもしろドッキリハプニングなんて無かったからこんなに眠いんじゃない。そんなことになってたら今ごろキャーキャー騒いでるわよー。」

藤ねぇなら絶対ギャーギャー騒いでるな、うん。
と心の中で思ってる内にキュウリとニンジンをスティック状に切り終わり、盛り付けも完成っと。
あとは茶碗に白米よそって味噌汁をついで終わりだ。
藤ねぇの話を聞く限りじゃイリヤも大丈夫のようだし。
なので茶碗も4個出して白米をよそり、鮭の皿と共に食卓に並べた。

「ほい藤ねぇ。いいかげん頭起こしてくれ。飯が置けないじゃないか。」
「んっ、はいはい。よっと」

イリヤ、俺、桜といつもの座る場所へと朝食を並べていき、藤ねぇの頭があった場所に最後のセットを並べた。

「んんーー!はあ、今日もおいしそ♪俄然目が覚めたわ!」
「さすが食い意地だけで生きてるわけじゃないな。じゃ、イリヤはもうちょっと寝かしておくとして、先に食っちまおう。」
「それもそーね。ってあれ?桜ちゃんは呼ばないの?」
「ん?桜・・・・・・・ってあれ?もしかしてまだ来てないんじゃないか?そういやまだ今日見てないぞ。」

・・・・・・・・今気づいた。
そういや桜がまだ来てないじゃん。
いつも一緒に朝食を食べるので無意識のうちに鮭も―1人半分として―2匹焼き、
茶碗も皿もお椀も4つ出したが、1人いないじゃん。
―――慣れっておそろしい・・・
そういやセイバーがいなくなった次の日も同じようなポカをしてたような・・・
その時はなぜか遠坂の分まで、合計6人ぶんの食事を作ってた記憶がある。

「なによ士郎、まだ来てないのに準備してたのー?もう、あわてんぼうなんだからねえ。」
「うるさいわ食費消費の一級戦犯が。ってそうか、藤ねぇが寝巻きで泊まりこんでるから桜も同じだって思ってたみたいだ。」

そう、なぜか聖杯戦争の後になってから3,4回ほど藤ねぇと桜が家に泊まりに来ていたのだ。
なので2人が一緒に泊まっているという気になっていても不思議じゃないと思う。
まぁ泊まりの理由として、
藤ねぇ曰く
「士郎がイリヤちゃんに変な事をしないかの実地調査」

で、桜曰く

「イリヤちゃんが一人で寝るのが寂しそうなので、時々しか無理なんですが、こうやって一緒に寝てあげたいんです。」

だそうだ。
まぁ、確かに一つ屋根の下に男女が夜中に一緒にいるったって、そりゃないだろ藤ねぇ。
相手は女といっても年がアレだし。
自分の名誉のために言っておくと、俺はロリコンなんかじゃ決してないし。
桜はもちろんそんな心配などしておらず、本心からイリヤのことを案じてくれていたみたいだ。

イリヤは戦争が終わってからしばらく、自分の城に無断でこの衛宮邸に潜伏していた。
しかし、どうやって調べたのかは知らないが、4日ぐらいたったある日とうとう迎えが来たらしい。
その時、俺は今まで休んでいたバイト――「コペンハーゲン」で働いていて居なかったのだが、そのかわりに我が町が誇る冬木の虎がいた。
イリヤを連れ戻すためにやってきたであろう使いは帰りたくないと、だだをこねるイリヤを引っ張ってでも連れ帰ろうとしたらしい。
しかし、相手が悪かったとしかいいようがないだろう。
イリヤが玄関のところで喚いていた声につれられて、冬木の虎が牙を剥いたとのこと。(イリヤ談)
いったいその時どんな不思議空間が展開されたのか?
結果として、その事件の一週間後、アインツベルンの当主から手紙が届き、そこには

『今貴殿の屋敷にいるソレをしばらく頼む。ソレの気が済むまで無駄な強制連行はしない。こちらも人員が惜しい。』

と達筆なドイツ語で書かれていた。
もちろんイリヤ自身に読んでもらい、なお今こうして現在進行形でイリヤは衛宮邸に居座っていているのだ。

その事についてはイリヤ自身も喜んでいたのだが、やはりまだあの年齢だと親が居ないのは心細いのだろうか。
夜、イリヤを寝かしつけた後に、あの後もしっかりと続けている魔術の鍛錬を行い部屋に戻るとそこには枕を抱いたイリヤが居たこともしばしば。
一人で寝ることに、まだ若干の寂寥感を感じるのだろ言う。
その為に桜はイリヤを一人にしないよう、泊まれるときには藤ねぇとイリヤと三人でワイワイ言いながら一緒に寝に来てくれる。
そしてその時は決まって一人寂しく布団に入って、襖の隙間から聞こえてくる楽しそうな声を聞きながら哀愁漂う部屋で寝るのだが・・・

「ふーん、もうすっかり桜ちゃんもこの家の家族だもんねー。朝に居ないのが不思議みたい。」
「ははっ、違いない。それを言ったらイリヤもそうだなー。俺無意識に箸3膳とスプーン出してたし。」

追伸。イリヤはまだ箸を使えないからスプーンフォークで食べてる。
あと関係ないが、納豆単品では嫌いらしいが、納豆に卵を落とし、醤油とワケギを入れてご飯にかけたもんは好きらしい。
ほんとうによくわからないお子様だ。

「しょうがない、桜ちゃんのぶんもこの藤村先生が責任をもって処理してあげよー!」
「・・・・・・藤ねぇ、もはや何の脈絡もなく言うが太るぞ?」
「そのぶん動くからノープロブレーム♪」

こうしてイリヤを起こし、桜がこないまま朝食を食べ終えて藤ねぇと共に学校へ向かった。
昨日来るようなこと言ってたのに。
本当にどうしたんだろう・・・・?











あとがきー・・・
あははー、本編に入れません♪
早くアチャ朗(幼)とキャスター妃を契約させたいなー♪
けどそれまでにあと、どれだけ前振り書くのだろうなー?

5: 辿風 (2004/04/19 21:47:34)[adept_reality_marble_666 at hotmail.com]

昼飯を学食に行ってすませた後、士郎は一年の教室へ向かった。
朝、家に桜が来なかったのがどうも気になったのだ。

「桜学校には来てんのか? アイツちょっとやそっと具合が悪いだけなら平気で家にも来るヤツだし、学校にさえ来てりゃとりあえずは安心なんだが。」

昨日の夜に桜は、また明日の朝にお邪魔しますみたいなことを言っていたと思ったが・・・
今日は弓道部の朝練もないはずだし、やっぱ、寝坊というのが一番筋通ってるよな。
あーけど、普段おとなしそうに見えて限界までがんばる性格だし、無理が祟ったという線も・・・
って普段おとなしいじゃんかよ。

と、あれこれ考えているうちに桜のクラス――1年B組の前までやってきた。
廊下には雑談をしている生徒やチョークスリーパーをかけられている生徒も見受けられるが、当然桜はいない。
まぁ結構人見知りするし、こう言っちゃなんだが桜は友人が少ないほうだ。
学校にいるとしたら廊下よりは教室にいるんじゃないだろうか。
そうして桜の姿を探すために教室の前のドアからB組の中を見渡す。
まずは桜の席。
―――いない。
うん、見事な空席だ。
となると、あとは教室の端から端までをざーっと見渡すが。
―――やっぱいない。
やはり今日は欠席なのかと思い、一番自分に近いヤツ―――つまり廊下側の一番前に座っている眼鏡をかけた男子生徒に話しかけてみた。

「なあ、君。」
「え?はい、えと、僕ですか?」

いきなり知らない上級生に話しかけられたのが以外だったのか、読んでいた本から顔をあげて目をぱちくりさせている。
こっちとしてはただ桜のことを聞くだけだから、話しかけたことへの謝罪やなんかもなしに単刀直入に聞いた。

「このクラスに間桐っているだろ?アイツ今日学校来てるか?」
「えっと、間桐さんですね。確か・・・というか、今日は彼女学校を休んでるみたいですよ?」
「あーやっぱりか。返答あんがとさんな。 あ、あとついでに休んだ理由とかって知ってたりする?」
「いえ、さすがにそこまでは知りません。」
「ん、そか。邪魔したな、じゃっ。」

と爽やかに言って、俺は一年の教室から歩き出していった。
うーむ・・・やっぱ学校に来てないのか。
やっぱり具合でも悪くしたのか、もしくは昨日の帰り道に何かあってのでは!?と考え込もうとして唐突に大事なことっつーか当たり前のことを思い出した。
―――そーだよ。なんで一年の教室まで来てんだ俺は。
俺のクラスにゃ一番桜に近いヤツがいるじゃないか。
それこそ実の兄が。
本当に気がつかなかった。
自分のクラスメイトには桜の兄、間桐慎二がいるのだ。
今日の授業風景を思い出してみると、たしか一緒に授業を受けていたはずだ。

「よっしゃ、教室戻って慎二に聞いてみるか。」

とわざわざ声に出していうことでもないのだが、自分の思慮の足りなさが恥ずかしかったので、声を出して気合を入れなおしたのだ。
と、そこまでして。
またもや思慮の足らない脳は唐突に大事なことっつーか当たり前のことをまた思い出した。

「あーでもなあ。あいつ、俺と話してくれるのかなあ・・・」

聞き出すには致命的な出来事があったのを、本当に忘れていた。
そうなのだ。
聖杯戦争でマスターだった俺と慎二。
戦いもしたが、協力なんてしていなかったのだ。
最初は慎二に協力を申しこまれたんだが、その時すでに遠坂を同盟を結成していたので断り、慎二がライダーのマスターだと知って殴りかかったこともあった。
そのことに関しては詫びるつもりももちろんない。
アイツのしようとしたこと――この学校の生徒を生贄に奉げようとしたことはぜったいに許せないことだ。

その後、ビルの上でライダーとの死闘の末に、勝ち残ったのはセイバーであり、敗北したのはライダーだった。
サーヴァントを失った慎二は、ちゃんと教会に保護されたのだが・・・

気まずい!

ほっんとに気まずいのだ!

あの時ははっきりと敵とか悪とか、とにかく倒すべきものと捉えてしまっていたのに、いざ終わってしまうと、今度はちょっとひねくれたクラスメイトで友人なのだ。
いくら俺でも気軽に話し掛けられるわけが無かった。
それにあの慎二だ。
プライドが高く、少し他人を低く見てしまうようなヤツだ。
あんだけはっきりと敗北を言い渡してしまった俺に――まぁ直接的にはセイバーが言い渡したんだが――慎二もどう接していいのかわからないのだろう。

なので、この一ヶ月はろくに慎二の顔を見た記憶が無かった。
ふと慎二の席を見ると、決まってそこには居ない徹底ぶり。
多分もう友人関係を築くことは難しいと思う。
そんな、崩れ去った関係になったヤツに俺は、

「なんて話しかければいいんだよまったく・・・。」

せっかく気合を入れたのに、まだ一歩も踏み出す前に考え直すはめになってしまった。
もうやるせない気持ちになり、はぁとため息が自然に出る。
しかししょうがない、廊下にいても何も始まらないことだし、一度自分の教室の席に座って考えよう。
慎二に話しかけて、あの出来事のことを吹き飛ばすぐらいにあきれるようなネタやら冗談を。






「おい、見てみろよ。あれって遠坂じゃん?」

どきっ!

「あん?ってほんとだ。へぇ、めずらしいなこのクラスを覗くなんて。」
「くぅ〜!やっぱかわいいよなぁ!」
「かわいいっていうか美人って感じだろありゃ。誰探してんだろ?」

どき!!どきっ!!
教室に帰って、案の定慎二がいないことを確かめた俺は、自分の席に座って、どうすれば慎二と話せるか会議をしていた俺の耳に勝手に入りこんでくるクラスメイトの会話。
議長 俺、書記 俺、のマンツーマン会議中だったのだが、知り合いの名前が出た時点で、秘書の俺により会議は中断となった。

俺の耳に入ってきた名前っていうのは、もちろん「遠坂」だ。
そして、この遠坂がこのクラスに用があって来たのなら、多分訪ね先は自分。
そう思い、書記の俺の仕事であった、意見の書き留めノートから顔を上げてバッと教室の入り口を振り返った。

――――――あ、ホントにいた。

そこには学年のアイドルのお姿があった。
慎二と同じく、一ヶ月前より関係が変わった人物。
学校の人前では挨拶程度しかしないが、その・・・肌を重ねた仲である。
もちろんしょうがなかった事ではある!
多分そうしていなかったら、今この場に俺と遠坂は居なかっただろうし。
第一、向こうから言い出してきたことだし・・・・
って、それじゃ男の尊厳がないのでは?
そんな関係の遠坂がこの教室を訪れたことはこの一ヶ月無かったのだが・・・・

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

って、まずいんじゃんか?
学校で挨拶程度の仲のヤツにいきなりアイドルが自分から訪ねてくるのは。
絶対にクラスの今この場にいるヤツらに不信感を抱かれる。
なんとうか、それは困る気がする・・・・・
多分、今後の学園生活を左右すると思うぞ、あの遠坂 凛と親しいとなれば。
アイツは今まで特定の男子との色恋沙汰も浮かばないような優等生だし。
表向きはだけど。
そんなヤツと親しく喋ってるとなると、注目を浴びるのは必然だ。

「どーやら遠坂さんはこのクラスに用があるみたいだね。」
「なんだろう・・・・先生のお使いかね?」
「ならちょうどいいんじゃねぇか!?話す切欠だぜ!?用件聞いてみようぜ!」

ああっ!もう時間が無いみたいだし!
なんとか遠坂にクラスの連中が接触する前に連れ去らなければ!
なんて思ったのもつかの間だった。
遠坂と話せるチャンスと男子3人が入り口に向かった時、その彼女は息を吸って、


「あのー、すみません。このクラスに衛宮君いますー?」

と、凛とした綺麗な声としっかりした口調で遠坂は入り口からクラス全体に訊ねた。


とりあえず、俺が行ったアクションは1つ。

「―――お前優等生なんだから、まずは自分で教室確認してから誰か個人に聞けよ!!!!」

と遠坂の発言から間髪はさまず怒鳴りながら全速力で遠坂の元へ行くことだった。






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