赤い悪魔 (連載が止まっているのでお詫びSSシリアスですよー)


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1: ちぇるの (2004/04/11 01:13:41)[rakia1984 at yahoo.co.jp]

 がいんがいん、と鉄を叩く音が響いている。

 がいんがいん、と。

 熱した鉄は朱く。
 猛る炎は紅く。
 見える背中は赤く。

 がいん、がいん。

がいんがいん。

がいんがいん。




――それはハガネを打つ音だ――





 世界は戦争をしていた。
 誰かが誰かと争うなんて優しいものじゃなかった。
 『ソレ』を殺すためだけに一つの街が核で消滅して、核なんて効かないって分かってからも核の炎は一つの島を包んだ。

 そして『ソレ』はうぞうぞと面倒くさそうにアメリカと言う大陸を蹂躙した。

 壊した。
 殺した。
 犯した。

 だってソレは全ての悪だったのだから。

 ぼろぼろと兵隊のように落とされていく悪の破片と人間は戦っていた。
 いつか悪の塊を倒すために戦い続けていた。

 その戦闘に立つ人間達の名を魔術師とか、超能力者とか、混ざり者とか、退魔の者と呼んだ。化け物と蔑まれかねない人間達の、その中でも抜きん出た人たちの集団の中に彼らはいた。


 一人は赤い髪の青年。
 意思の強そうな瞳の彼は、黒い皮の鎧と二本の剣をトレードマークに戦場を駆け抜けていた。

 もう一人は黒髪の魔女。
 意志の強そうな瞳の彼女は、合わせた様に黒い服を着ていて、きらりと何かを手の中で輝かせた後に敵を一掃していた。

 その強さは魔人。人外すらも超えた者達。


 そうして辿り着いた決戦の時に、彼は『ソレ』の呪いを浴びることになる。
 背中を覆った黒い火傷を覆うように包んだ赤い聖骸布。
 青年はそれでも戦った。
 戦って、戦って、戦って、決戦の終わりなんて見えないかな、って思い始めたころには青年の体はもうほとんど黒い呪いが侵食していた。
「死なないで   」
 女の言葉は遠い。
 
 男は三日三晩苦しみ叫び、三日三晩眠った後に唐突に目を覚ました。

「起きたの?」
「……ああ、  か」
 もう長い年月でとうに忘れ去った自分の名前を確認するように彼は呼んだ。
 その名前で呼ばれていたのはいつまでだっただろうか。
「どうしたの? どこか苦しい?」
「いやそうじゃないんだ。ちょっとやることを思い出しただけだから」
 青年は目を軽く閉じて上半身を起こした。

「――I am bone of my sword.
    体は剣で出来ている。 」

 ぼそりと呟いた声。

「――I picked over a thousand blades.
   幾たびの戦場を越えて不敗。

  Known to Death. Either known to Life.
   敗北の意味を知り、ただの一人に理解された。

   Withstood pain to create weapons.
   担い手はここに孤り。

wating for one's arrival.
剣の丘で貴方に出会う。

   Yet,those hands will hold One.
   故に生涯に意味は不要ず。

   So as I pray,unlimited blade works.
   この体はきっと、無限の剣で出来ていた――」


 炎が走り、後に残ったのは剣の墓場。
 無数の剣の墓標。
 今なら分かる。
 あれらは全て私達とともに戦っていってくれた剣群。
 見覚えのある剣達。
 見覚えの無い剣達。
 伝説のもの。
 無名のもの。
 全てが点在して、そして同時にそこにある剣の丘だ。

 青年はふらふらと立ち上がり、座に座る。
 剣を打つ工房に。

 彼はまず二振りの剣を掴んだ。
 王の剣と星の剣。
 左足を炉の前に突き刺し、右足をふいごに突き刺す。
 それは完遂すると言う意志。
 止められるはずも無い。

 そうして彼は剣を炉に投げ入れた。

 下から入れればそれは薪に。炎を噴出していく。
 上から入れればソレは鉄に。何よりも高純度な錬鉄が生まれていく。

 そうしてふいごをふみ、熱い炎に溶かされた鉄を左手で掴む。
 鉄のこげる匂い。

 突然青年の体から生えてくるツルギ。
 それを青年は掴み、引きずり出す。
 零れた血はその場で真っ赤な炎となる。
 彼の胸からは血の代わりに炎が零れ出る。

 ツルギを振りかぶり、そして打ち下ろす。

 がいんがいん、と音がした。

 わたしはそれから目を離さない。

 一日毎に一本の剣が折れる。
 そのたびに彼は自分の体から剣を取り出して、打ち付けた。

 がいん、がいん。

 火が足りなくなったら剣をくべる。
 鉄を追加するように剣を溶かす。
 ふいごを踏む足はとまらず、
 剣を見つめる目は閉じず。

 がいん、がいん。

 体から炎を噴出す穴が七つになり、七本目の剣が折れたとき。

 彼は動くことを止めた。


 剣は完成していた。


 灼熱の鉄を掴むその体は錬鉄で。
 体を流れるは炎で。
 きっとその心は硝子のようで。

 全てが終わって、剣を片手に彼は立ち上がる。
 真っ赤に翻る聖骸布は外套のよう。
 精神力を使い切った髪と灼熱の鉄を見続けた瞳は焼ききれ、銀の色を示す。
 熱と光に焼けた肌は浅黒く。

 そこにはいつか見た赤い騎士が立っていた。

「  。これがお前の剣だ」
 彼は真っ直ぐにそれをこちらに渡してきた。
 私は真っ直ぐにそれを受け取った。

 分かってしまった。
 これは人の所業ではない。
 本来は出来ぬ神器の作成を行ってしまうのなんて人間じゃない。
 己の領分を過ぎたことをするのは神という名前の世界に選ばれた守護者だけ。

 悔しくて涙が出た。
 大丈夫じゃなかった。
 一緒にいれば大丈夫だと思っていたのに。
 こいつは最後の最後でこんな爽やかに英雄になってしまったのだ。

 そしてそれ以上に悔しいのが。
 せっかく作ってくれたこの剣を私は使いこなせないだろうってこと。

 だって、こんな神器を使えるのも英雄だけだ。

 便利だけど私じゃ使い切れないのだ。

 冷めてきて、透明になっていくツルギ。
 鉄で打ったはずなのに硝子のように透明で、その内に炎を秘めている。

 そうして、剣が完全に透明になった頃、目の前にいた青年は立ったままこと切れていた。
 かの英霊に私も答えよう。
 かの正義の味方ですらも耐えられなかった修羅の道を私も進もう。
 誓ってやる。
 世界よ、貴様に誓ってやる。
 こんな体、惰弱な精神。使いたければ使えばいい。
 だから、私に力をよこせ。

 涙が頬を伝う。

 この剣を使いこなせる力をよこせ。



 その日から私は赤い悪魔“ケイオスレッド”になった。




続かない・・・と思う。





あとがき

 え〜。
 あれです。
 ちょっとづつ書き溜めてはおりますので。イコーさんの正体とか。そういうのはお待ちあれ。死線の一もいつかは完全に改稿して送りなおす。
 んで↑の話ですけど。
 まあ見ての通りあの人が剣ルートの後に再び起こった聖杯戦争で真っ黒になった蟲姫さんを倒すため、アチャ男【真】さんと共に戦って英霊になったお話。うっし、これは斬新だ(死)

 ネタそのものはパチって行ってかまいません。この文も。

 でも自分もそのうち書くかも知れぬ。うむ。


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