驚いたといえば驚いた。召還されてから今日まで、一度として自分の既望を、私に伝えたことのなかった彼女が、私にそれを伝えてきたのだ。
私にとって、少女は限りなく優秀な助手だ。戦闘時はもとより、それ以外の時間でも、彼女は私に献身的に仕えてくれている。
―――一度、少女に聞いてみたことがあった。一体、何を聖杯に願うのかと。
答えは、わからないとの事。存在自体が希薄な彼女には、明確な願望は無いらしい。―――一度、本当の名前が知りたいと漏らしていた事はあったか。
さて、そんな彼女が今朝、私に始めて既望を口にした。その頼み事自体はたいしたことではない。簡単にかなえられるものだ。
だが、その内容など重要なことではない。彼女がそれを伝えてきたということ、それこそが最も重要なことだと私は思う。
だから、私はそれを聞いてやろうと思った。
―――その先が、敵地であっても―――
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第十一 警告。戦い続けるならば―――
まぁ、なんだ。近頃驚いてばっかりだ。だいたい聖杯戦争で起こったことは記憶していると思ったのだが、近頃自信がなくなってきた。
だから、これがイレギュラーなんだか、俺が忘れてるんだか知らないが、多分は前者であろう。俺は彼女たちについては何も覚えが無い。
「自己紹介がまだだったな。私の名前はバゼット・フラガ・マクレミッツという」
「あ、俺の名前は――――」
「必要ない。この間、そこのライダーに名乗ったのをしっかり聞いている。―――先に言って置けばそのライダーのマスターや、アインツベルンの娘についても、もう聞いたからわざわざ紹介しなくていいぞ」
「そうなのか。そりゃ楽でいいけど。で―――」
「さて、ここに来た目的だがな。昨日の弁当の礼と警告。後はジェネラルのほうが何か用があるらしい」
……………とりあえずわかった。このバゼットという女性は凄まじくマイペースだ。とにかく自分の言いたいことを言って行く。話は早いが会話している気分じゃないぞ、これ。
「弁当の礼って………ああ、やっぱり麻婆はきつかったのか」
「……? 麻婆はうまかったぞ。礼というのはあくまでその行為と、ジェネラルのものだ」
「…………おいしかったです。あと、エミヤが何故あれを私に託したのかわかりました。…………意味が無かったのは残念ですが」
言いながら、ジェネラルが俺に昨日の弁当箱を差し出す。………わざわざ洗ってくれたのか。
…………しかし、泰山のあの麻婆豆腐がうまかった?
言っちゃ悪いとはまったく思わないが、あそこの料理は…………いやいやいや。人の………もとい、料理の悪口はよくない。
ともかく、あれを食ってうまいとぬかすとは…………一体どんな食生活を送っているんだ。
「あ〜……お口にあった用で何より…………ん、桜?」
何故に物凄い雰囲気背負ってこちらを睨んでいますか?
「先輩。その人達と仲よさそうですね」
あ、なんか今凄い寒気がした。見た目じゃわからないと思うけどシャツの下は鳥肌立ってますよ?
「いや、別に仲がいいってわけでも」
「そうでしょうか。私もサクラの言うとおりだと思いましたが」
「ライダーに同じだ。私が目を離した隙に、敵に弁当を渡していたとは………あきれたものだ」
その目を離したってのは、先に帰って家事に従事していたことを指すのか。弓兵のサーヴァント。
「いや、だって泰山だぞ? あそこの麻婆食える人間なんて、どこぞのエセ神父くらいのモノだって」
しかも、俺は見た。ジェネラルの持つ袋の中の麻婆豆腐。そのふたに「特辛」のシールが、でかでかと貼ってあったのを。
「だからと言って、敵の食事事情を気にしたところでしようがあるまい」
必要も無いのに家事に従事しているサーヴァントもいるけどな。
「お二人とも美人ですし、何かしらの下心があったと取られても文句は言えませんね」
いえいえ、貴女も立派な美人ですよ。でも直視だけはしないでくれな。
「…………先輩」
いや、怖いから。その斜めな視線は。
「後でお話があります。…………逃げないでくださいね?」
「……………はい」
逃げたくなるようなことをされるんだろうか………
イリヤ、お兄ちゃんピンチ。至急救援を請う。
「わたしもどんな話か興味あるかなー」
ぎらりと輝く瞳。忘れがちですが、貴女も魔眼持ちでしたね、イリヤさん。
………………神様。っていうかもう直接的にバーサーカーあたり。助けて。
「警告というのはだな、まぁ、ここにいるマスター全員に、と言うことになるのか」
………で、俺のピンチなんぞお構い無しに話を進めるバゼット女史。
……………助かるって言えば助かるけど。
「死にたくなければ聖杯戦争から降りろ。これ以上関わるようならば、私はお前たちを容赦なく殺す」
……………………………一気に、今の温度が下がった気がした。
「………3人のマスターを前にしてずいぶんな自信ね?」
「当然だ。アインツベルンの娘。衛宮士郎はまだ、戦えるだろうが、君と間桐の娘はそれほど戦闘に向いているわけではあるまい」
「我々のことを忘れているようだが」
「マスターを失えば、それで決着が付く。私が3人を殺すまでくらいは、このジェネラル一人で、君たちを抑えるくらいは出来る」
…………それは事実なのだろう。俺には、二人を守りながらこの女性と戦える自信は無い。そして、以前見たジェネラルの能力だ。確かに一体一体の英霊は大した能力を持っていなかったが、数で押されてはアーチャー達でもそうやすやすと突破は出来まい。
「聞くけど、なんでそうしないんだ? キャスター達も見逃したよな」
「なに、ただの癖のようなものだ。元々私は封印指定の魔術師を生きたまま捕縛するのが仕事でな」
……………とりあえず、この人の前で投影とか固有結界とかするときは、気をつけたほうがいいのな。
「あ。……………そういえば、アサシンは?」
「ああ、奴はさすがに倒した。強敵であったし、令呪の縛りかなにか、断固として道を開けなかったからな」
「―――なっ!?」
アサシンが倒れた……………? 確かにあれは強敵だけど、完全無欠ってわけじゃない。倒されたというのならそれはそれでありだろう。…………が、問題はそんなところじゃない。
「イリヤ、大丈夫なのか!?」
サーヴァントが倒れると、その魔力やら魂やらは聖杯に取り込まれる。その魔力がサーヴァント6〜7体分まで溜まると聖杯が出現するわけだが………
アインツベルンの手によって、イリヤの身体は聖杯となるべく大量の魔術刻印と回路操作が行われている。 そして、サーヴァントをイリヤの体が取り込んでいくたびに、イリヤの身体は聖杯として特化していくのだ。最終的には人間としての機能を失うほどに。
「え………………そんなはずないよ。だって『来てない』もの」
「は……………?」
「アサシンが倒れたって言うのなら、私に来るはずでしょ? サクラにはその機能は無いんだし。でも、私はサーヴァントを取り込んでない。だから、アサシンが死んでるわけ無いのよ」
どういうことだろうか。バゼット女史はアサシンを倒したと言った。だというのに、イリヤはそれを取り込んでいない……………? 実は生き残っているとかそういうことか?
「…………話が見えんのだがな。とりあえず答えてくれないか。まだ続けるのか、この戦いを」
正直なところそれどころではない。だけど、結局のところイリヤのことはこの人には関係が無いのだ。だから、必要なことを聞く。
「……………その前に聞きたい。バゼットさんは聖杯がいらないのか? 一応聖杯はサーヴァントを消滅させていかないと、使い物にならない…………んだけど」
…………その場合、「使い物」にされてしまうのはイリヤ。だ………
「いらん。もともと私がこれに参加しているのは仕事だったわけだし、そのときに召還したランサーは言峰に奪われた。そして、ジェネラルの召還を補助した人物の依頼はこの戦いに私が何らかの形で接触することのみだ」
…………………なんかいま、さらっと色々重要なことを言っていたような。
え〜と………仕事。言峰、ランサー。………つまりこの人が本当のランサーの召還主で、魔術協会から派遣された魔術師だったわけか。………遠坂あたりが死んだとかいってなかったっけか。………なるほど、だから隻腕なのか。
「ってジェネラルを召還したのって……………」
「それについては黙秘する。私もあの老人が何のつもりか、よくわからんのでな。さて、答えを聞かせてもらおうか…………ああ、そうだ。これはキャスターも飲んだ条件なのだがな」
「……………?」
「手を引くのならこの戦いが終わった後に、腕のいい人形師を紹介してもいい。サーヴァント達がこの時代に残ることを望むのなら、な」
「んな―――!?」
この人いきなり何言ってんだ―――? って言うかキャスターそんなこと言ってなかったぞ。
「まぁ、ついでという奴だ。英霊としての能力はほとんど失うかもわからんが―――ジェネラルは優秀だからな、秘書にでもなってもらいたい。その関連で近々依頼する予定があるからな―――ああ、金の心配は要らない。そいつは封印指定の魔術師でな、見逃すかわりに、私の要請を拒否できないのだ」
「ってジェネラルはそのこと―――」
「私はすでに了承しています」
即答するジェネラル。…………彼女にはあるのだろうか。この時代に居続ける理由が。
「…………別に貴様が人形となってこの世に残ろうと構わんのだがな―――」
それまで沈黙していたアーチャー。
「英霊に仮初の肉体を与えて現界させ続けるなどということは不可能なはずだ。まず魂の情報量に人形の許容量がついていかない。そして―――」
「もしも素体が十分だったとしても、サーヴァントという規格外の使い魔を人形に移し変えるだけの技術と魔力が無い。…………といったところか。それも問題ない」
「何―――?」
「素体に関しては普通のものでも問題ない。―――技術と魔力についてだが、こちらは力技だな。その関係でサーヴァントとしての戦闘力の大半を無くすことになるわけだが」
つまり、魔力量に物を言わせて無理やり人形に入り、そのときの消費魔力のせいで弱体化し、素体のキャパシティにも問題が無くなる………と。なんつう無茶な。
「ふん、よしんばそれで可能だとしても、人形の製作にはかなりの時間がかかろう。まして話を聞く限りオーダーメイドの特注品。それの完成まで、聖杯もなしにどうやって維持しろというのだ」
「だからこれは仮定の話なのさ。私は別に、君達に現界していてもらいたいわけでもない。残りたいというのなら自力で何とかしてくれ」
―――それにこれは、あくまで君たちが戦わなかったときの話さ、と。そう言った。
「さぁ、話すことは話した。それなりの条件も提示した。………答えをきかせてもらおうか」
沈黙。イリヤも、桜もライダーも、俺を見ているだけで何も口にはしない。――――――俺に任せるってことか。
「イリヤと桜は戦わない。―――でも、俺はここでやめるわけには行かない」
「そうか」
それ以上は何も言わない。彼女にとって俺の事情など、それこそ関係が無い。
「わかった、ならば私は、君とは敵対するが、誓ってその二人には手を出すまい」
「ああ、そうしてくれると助かる」
「では、今日のところはこのまま帰る―――といいたいところなのだがな、ジェネラルが君に用事があるそうだ」
そう言ってジェネラルを促す。
「エミヤ―――」
まっすぐに俺を見つめ、少女が口を開く。その雰囲気に―――俺は何を感じたのだろうか。
「すぐに戦うのをやめてください。………いえ、貴方は一生戦わないで欲しい」
「――――いきなり何を」
「私の能力についてお教えします。私の力は、英霊の座にアクセスしてその情報を得たり、英霊の影………劣化した召還をすること。つまり私の知らない英雄はいないのです。現在、過去未来………どこを通じても。それがどういう意味かわかりますか?」
それは、俺では無くアーチャーに対して言った言葉だった。つまり彼女は―――
「私について知っているということか。私が衛宮士郎の未来の一つだという事………そして我が末路も」
その言葉に、桜やライダーが息を呑むのを気配で感じる。…………そういえば、彼女たちには話していなかったっけ。
「そういうことです。―――ですから、エミヤシロウ。私は貴方に戦って欲しくない。今のまま貴方が戦い続ければきっと――――絶望を見ることになる。裏切られてしまう」
「俺は―――」
「貴方の思いも、戦いも善良なものです。ですが、私は出来ることなら、貴方の末路がそうなって欲しくは無いですから―――」
戦いをやめろと、少女は言う。英雄と呼ばれた衛宮士郎の末路。助けて行った人達にころされ、アーチャーの言葉を借りるならば理想にすら裏切られる。―――だけど。
「ごめん。それは出来ない」
そんなことは知っている。英雄として死んだ衛宮士郎の末路ならば、俺は完全な記憶として持っている。英霊の座に昇った後のことは知らないが、裏切られて死んだという事実は確かに俺の中に残っている。
だけど、俺はこの戦いをやめない。もしかしたら、俺はまた、英霊となる末路をたどるのかもしれない。でもそうならないかもしれない。―――そんなことは関係が無い。
継いだ理想がある。信じたものがある。美しいと思った事がある。守りたい人がいる。そのために衛宮士郎は戦うのだ。だから、その先になにがあったところで後悔しない。いや、後悔しないために精一杯やれることをやるんだ。
「そう、ですか。―――ならば」
キッと、強く見つめてくる瞳。誰かに似た強い意志の元に彼女は―――
「私は、貴方を―――――絶望より先に殺します」
そう、言った―――――
「ではな、邪魔をした」
「いや別に。正直桜たちを見逃してくれるのは助かる」
とりあえず今日だけは休戦。戦うのならば明日の夜以降―――ということになり、二人は帰る。
「―――バゼットさん」
「敵に敬称はいらんだろう、バゼットでいい。……………何だ」
「終わったら、イリヤのことを頼むかもしれない」
例の人形の件で、もしかしたら彼女に頼むのが一番手っ取り早いかもしれない。そうおもって、言っておいた。
「そうか。何のことかはわからんが、極力引き受けよう」
「ん。ありがとう―――」
「では、な」
「ああ、さようならだ。―――ジェネラル」
「なんでしょう」
「ごめん」
俺は、ジェネラルの願いには答えられない。だから、謝る。
「お気になさらないように。どうせ次は敵同士です」
そう答えた後、二人は帰っていく。
「敵同士、か。しょうがないのかな」
出来れば彼女たちとは戦いたくない。でも、おれは拒否するしか出来ないのだ。
やることがあるから。それを譲ることが出来ないから―――
続
あとがき
小次郎のアレに対抗して、真アサシンがカーネ○おじさん(道頓堀産)を投げるというのはどうだろう(意味不明)?
どうもこんにちは、破滅666です。
アサシンが死んでました……………いや、今出すとアレが時期的に…………とかそういうわけではないですよ?ええ、決して。
男を目立たせないようにしていたら台頭してくるバゼット&ジェネラル。………遠坂セイバーはどこへ消えた。いるのにまともな出番無しのサクラとライダーとイリヤは!? っていうかバサカ放置!? むしろ言峰組はどうする!? 等等。
こんな感じで続いてます。………ゲーム本編やりたいよぅ。大学始まるはなんやらで更新速度共に遅れ気味になります。
独白、あとがき短縮計画。今回はこのあたりでさようならです。
食、というのは結局のところ生きるための資本である。………マスターの魔力を糧とするサーヴァントの私が言うのもどうかと思うが。
ともかく、実際に必要なのはそれによってもたらされる栄養であって、味などというものは二の次になるはずなのだ。
だが人はコレに固執する。食べるものは好みの味を欲し、料理人はそれを模索する。
…………ちなみに、私の嗜好に合う物とは血とかそういったものだ。普通の食事も口にすることは出来るが、好みという点で血と精は欠かせない。…………一度、シロウの味見をしていいかとサクラに聞いてみたら、全力で却下された。
ともあれ、味がよくて栄養がそろったものというのが一番いいのではあるが………それで勝負するというのはいかがなものか。
…………だいたいが勝負する人間がアレだ。未来に英雄となる可能性を持った少年と、その結果たる英霊。…………まさか料理を極めた先に英霊となったわけでもあるまいに。
………アーチャーとか言うサーヴァントの料理は確かにおいしい。その過去たるシロウの料理もおいしいのだろうが、あえて言わせてもらおう。
――――――絶対貴方たちは間違っている、と。
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第十二 俺とアイツ
―――で、だ。正直なところ、ジェネラルの話とかでそんな気分ではないのだが、今夜も藤ねぇが来る。………いや、むしろ今日は間違いなく来る。
なので、藤ねぇに気づかれたりしないように、日常を演じなければならず、結果的に俺は朝の宣言通り全力で料理をしているわけだ。
ちなみに、本来の俺の得意分野は和食であるのだが、ここは一つ、洋食で攻めてみることにした。―――まぁ、これには少し理由があるのだが。
メニューはビーフシチューとトマトサラダ、そしてシーフードパスタ。………半端に節操が無い気がしないでもない。
―――さすがに作る量が量なので、桜に手伝ってもらうことにする。
「先輩、お肉はどう切りますか?」
「ああ、それは大きめで適当に。切ったら、袋に入れて塩コショウで揉み込んでおいて。あ、分量はもう量ってあるそっちのやつな」
アーチャーを打倒するために妥協はしない。ドレッシングはもちろん手製、デミグラスソースも自作する。
…………約一名、シチューを出してもご飯を食べる輩がいるので、そちらはコンソメ入れて炊いておく。
アーチャー。アイツに負けるわけには行かない。俺は奴の背中を越えて………いや、むしろアーチャーこそついてきやがれって感じだ。故に全力。奴が俺の未来だろうと関係ない。衛宮士郎の全力を持って、奴を打倒するのだ―――!!
「…………ん?」
何か激しく間違っている気がするのは何故だろうか……………
「お、おいしい……………これ、本当に士郎が作ったの?」
「もちろんだ藤ねぇ。桜に少し手伝ってもらったけどな」
食卓。ただよう芳香。藤ねぇがその言葉を発して以後、全員無言。
これは凄まじく珍しい光景だ。以前よりそうであったが、ここ最近の食卓人口増加により、衛宮家の食卓は凄まじく騒がしい。
―――そもそも藤ねぇが無言になっているのだ。これほど異常な光景はあるまい。
「どうだアーチャー。これでも俺はまだ未熟か」
自信満々に言ってやる。
「………認めるしかないだろうな、衛宮士郎。…………今はお前のほうが強い」
………どこぞで聞いたセリフを吐きつつしぶしぶアーチャーが負けを認める。強いって何だ。
ふっ、勝った。
おもえば、この勝利は俺にとって当然のものだ。所詮アーチャーは俺一人分の生涯しか経験していない。対して俺は、幾多の生涯の記憶を元にここにいる。
一生涯の練磨に対して俺は、無数に練磨を重ねたのだ。ゆえに、料理において俺がアーチャーに負ける理屈などこの世のどこにも無い―――!!
……………ん? なんか今重要なことを見逃さなかったか?
「でも士郎どうしたのよこれ。先週に比べて格段においしいじゃない」
「私もそう思います。…………だいたい先輩の得意料理って和食じゃないですか。何でいきなり洋食がこんなに…………」
「ん…………まぁ、イギリスの屋敷でごにょごにょ…………」
その辺には触れないでくれ。頼むから。……………なんか名前が思い出せないけど金髪のあくまの顔が脳裏をよぎる。あと、なんかつらい思ひで。
「先輩のほうが洋食もおいしいんじゃ私の立場が………」
「い、いや、俺もここまで凝ったのはなかなか作れないから、な? 頼むから泣かないでくれって」
…………………う〜ん、ちと本気を出しすぎたか。
と、さっきから何も喋っていない二人に声をかける。
「イリヤとライダーはどうだ? 出来れば全員の意見を聞かせて欲しいんだけど」
「うん、すっごくおいしいよ、お兄ちゃん」
にっこりとイリヤ。
「あ、はい。おいしいです。ただ…………」
…………なんか聞こえないけど、血とか何とか言わないでくれ、怖いから。
まぁ、ライダーの発言は聞き逃すとして、全員満足げだ。俺の完全勝利だな。
………………ふと、セイバーや遠坂のことを思い出す。あいつらがここにいたら、どんな反応してくれたんだろうな、と。
藤ねぇが帰るのに合わせて、俺は桜と共に間桐邸に向かうことにした。
―――目的は、桜の荷物の一部を家に移すのと、間桐臓硯の所在の確認。桜には本当に申し訳ないのだが、あの屋敷の地下を見せてもらうことにする。
なにしろ、あの爺は現在どうなっているのかまったくわからない。本体は「影」に飲まれたのかもしれないけど、それにしたって状況が異常なのだ。できれば確実に臓硯の生死は確認したい。
向かうメンバーは俺と桜とライダー。アーチャーはイリヤと共に留守番だ。これは、バーサーカーが現在戦闘不能であると言うことに由来する。
「でも、あそこに何かあるとは思えないんですけど…………」
やはり乗り気ではないのか、桜。
「まぁ、そうなんだけど。むしろ何も無いことを確認したいって言うかさ、桜の体のことも心配だし」
元気にしてはいるが、桜の身体は現在、蟲が消えて穴だらけのはずだ。本当に生活に支障が無いのかは、桜にしかわからない。
「まぁ、でも安心した。………心配だけど安心ってのも変な話だけどさ」
「なにがですか?」
「ん、桜が元気そうで。桜は笑ってる方がいいと思うし、泣いてるところなんか見たくないもんな」
「先輩………」
一昨日の夜を思い出す。俺に今までの桜を知られていることを知り、泣きそうになっていた桜の顔。俺はああいうのは見たくないと思った。せっかく、苦しいことから開放されたのに、それが俺のせいでまた泣いてしまうなんてのは、俺が俺を許せそうに無い。
アーチャーが残っていてくれてよかったと思う。俺にはあのときの桜を慰めることなんて出来なかっただろう。………そういう点で、アイツには感謝している。
「ま、アーチャーにも家事以外で役に立つ事があったってことで」
「それはあんまりだと思いますけど」
クスリと笑う桜。「そういえば………」などと続けて、
「先輩とあの人、同じ人だったんですね」
「ん、ああ。なんか変だろ? アイツ捻くれまくってるし、どう考えたって俺とは似ても似つかないもんな」
そう、どういうわけか、あいつの根性はカラドボルグ並に捻れている。………俺はあいつのようにはならないと何度思ったことか。
「そんなこと無いですよ。似てますよ、先輩とあの人は」
「そうかぁ? 俺あんなにひねくれてはいないと思うんだけど」
「そういうことでは無いんですけど…………ね、ライダー」
「はい。貴方達は確かに似ています。…………わけのわからないところなどはそっくりです」
わざわざ実体化して語るはライダーさん。その物言いこそ俺にはわけがわからないです。
………ふと、足を止める。みれば、ライダーも自分の武器を両手に携えている。
突然道に降りてきた静寂。明らかに普段とは違う違和感―――――これは、結界。
そして―――
「残念ね、衛宮君。こうはならないようにって思っていたのは本当よ」
「姉さ―――遠坂先輩」
現われたのは遠坂と………セイバー。
「あなたもね、桜。間桐から解放されたって言うのなら、さっさと令呪を破棄すればよかったのに」
「遠坂、桜は―――」
「関係ないわけないでしょ? その子はまだマスターなんだから」
立ち位置が変わる。ライダーが桜をかばうように前へ。それに合わせるように俺も前に出る。
「どうしても、やるのか」
それは質問ではない。ただの確認。まず間違いなく、遠坂はここで俺達を倒すつもりだろう。
「あたりまえよ―――言わなかったかしら。私は勝つためにやっているのよ」
聞いたかもしれない。聞かなかったかもしれない。どちらにしろ、今聞いたのなら同じだ。俺と遠坂はここで戦う。―――聖杯戦争を戦うマスターとして。
「シロウ………………」
前に出てくるセイバー。あの日、こうなる覚悟は済ませたはずだ。だから、何も言わない。俺は彼女にかけるべき言葉など、ない。
俺達が本当に戦うことなど無いと、何処かで思っていたのではないだろうか。その結果が、これだ。
遠坂はただ、勝つために。セイバーは聖杯を手に入れるために。そして、俺は―――?
この戦いの意味とは何か。―――いまさらになって気付く。俺には、彼女等と戦う理由なんて、ないのだと。
それでも、決定的な一言が、遠坂の口より零れる。
「始めましょうか、衛宮君。―――闘いを」
続
あとがき
ブラックバレルとは何か、検索してみた。……………月姫? ごめんなさい、わからないんでロンギヌスはこのまま行きます(爆死)。
どうも、近頃月姫をやっていないことが致命的になってきたのではないかと思っている破滅666です。こんにちは。………リメイクで製品化しないかなぁ…………
まぁ、いつぞやのマーボカレーとかはご愛嬌、ということで。
さて今回、料理の話だけで済ませるつもりが………凛剣登場。どうなるんだ、マジで。
っていうかブラックバレルとかバレルレプリカってなによ。かっこいいじゃないか。名前が。
最後に一つ。ジェネラル。将軍殿はギリギリ可ですが、将軍「様」は断じてやめて下さい。………何故かはあえて言わないけれど。
では、本編ではまともに語らないことに決定したジェネラルの設定を出しつつさようならです。
クラス ジェネラル
将軍のサーヴァント。大量の魔力によって強引に召還され、後の維持を聖杯に押し付けた異端のサーヴァント。
指揮能力に特化しており、本人の基礎能力はかなり低い。
真名 ヴァルキリィ(偽)
各能力は全般的にC。ただし、魔力のみがB+
特殊能力
指揮C 兵を統率する能力。ただし、本人があまり向いていないので効果は薄い。
騎乗C− 一般的な生物は乗りこなせるが、幻想が絡むものには騎乗できない。
宝具
ヴ ァ ル ハ ラ
<熾天ヨリ導ク>
特殊宝具。指輪がそれっぽいが別にそういうわけではない。ヴァルキリィとして婉曲した形で与えられた特殊能力そのものである.
能力は、英霊の座に登録された英雄たちの「影」の召還。本物には違いないが、それぞれの宝具は力を発揮できないし、影そのものの能力は極めて落ちる。ただし、技術など基本能力に依存しないものについてはほぼ完全に再現する。
最大召還人数は20名。
実際のところ、ヴァルキリーという存在がいたのかどうかは不明である。あくまで彼女は、アサシン小次郎と同じく、それに該当、もしくは近いモノから選出された「架空の英霊」にすぎない。そのため、サーヴァント最大の武器となるはずの宝具は存在せず、バゼットが適当に名づけた能力、ヴァルハラと、彼女が与えたロンギヌスのみが彼女の武器である。
本来の彼女はイギリスあたりの修道女のようなもの。 魔術と関わりも無く、若くして死んだのでその能力が生前、発動することは無かったが、彼女には「英霊の召還」に特化した魔術回路があった。今回召還されたのはこのためである。
本来彼女は槍など使えないはずではあるが、戦乙女の伝承などの補助的な幻想によって、たいていの武器は使いこなせる。
彼女の設定初期のデフォルトアイテムが箒とちりとりだったのは秘密である。
―――遂に、この時が来た。
あの日、シロウと決別してから、遠からずこうなるだろうとは思っていた。
私の目的。聖杯の力で、王の選定をやり直すこと。それが間違っているという彼は、私にとって敵でしかありえなかった。
だから、こうなれば戦うしかないということは、判りきっていたのだ。そこに躊躇はない。敵であるならば、騎士として斬るのみだ。
ただ―――ふと思った。彼の言うように、私が間違っているというのなら、それはどこからなのだろう。
聖杯を求めたときか、王として下してきた多くの決断か。―――それとも、王となってしまったことそのものか。―――判っている。私は王の器ではなかった。だから国は滅びたのだ。
だから、それをやり直す。私が王になどならなければ、国は今も栄えていたかもしれない。私が犠牲と切り捨てて行った者達も、犠牲にならずに済んだのかもしれない。―――いや、いずれにしろ私よりはマシな結果が出ていたはずだ。
―――それを求めて何が悪いのか。
貴方に証明することが出来るだろうか。自らも私と同じ業を為そうとする貴方に、私が間違いだと断ずることが出来るだろうか。
どちらが正しいのか、どちらが間違っているのか。―――あるいは、どちらも間違っているのか。
―――答えを。
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第十三 激戦の夜 前編
遠坂とセイバー。この二人の組み合わせは恐らく最強だろう。
こちらの戦力を把握する。魔力は十分。17秒程度であれば固有結界の発動も可能。急激な魔力の増加の理由は知らない。でも、使えるのなら使えるまでだ。
「…………ライダー」
「また逃げろ、というのは聞きませんからね」
だろうなぁ、とか思いながら、告げる。
「ああ、わかってる。だから、遠坂―――魔術師のほう、頼む」
「前にも聞きましたが、正気なのですか貴方は」
「あたりまえだろ。正気だから、俺がセイバーとやりあうんだ」
セイバーとの決着は俺がつけねばならない。―――答えは見つかっていない。それでも、俺は、セイバーを止める。あいつだけがずっと報われないままなんて、そんなことは許せない。
「ああ、もう一つ―――」
「殺すな、無闇に傷つけるな、ですか。―――本当に貴方は注文が多い」
「ん、頼む」
「はぁ………この二日で貴方の人となりはある程度把握したつもりです。引き受けましょう。ただし………」
ん、なんだっていうんだ?
「あとで貴方の血液を要求します。それくらいの報酬は、あってしかるべきだと思いますが」
「ライダー!?」
「………わかった。覚えておく」
まぁ………彼女なりのユーモアなんだろう。…………そうだよな? なんだか後ろの桜のただならぬ気配も気にはなるが、とりあえず彼女には下がっていてもらうしかないだろう。
―――魔術師として判断するなら、遠坂は最大の足かせになるであろう桜を、まず狙うだろう。………でも、それは絶対にない。
遠坂は魔術師らしい魔術師ではあるが、同時に魔術師としては余計なものも確かに持っている。―――それに救われたのだ。間違いは無い。
だから、遠坂が桜を狙うことはありえない。
「―――相談は終わったのかしら」
遠坂の声。それに俺たちは向き合い、
「ああ、始めよう―――遠坂、セイバー」
―――戦いが、始まった。
「正気ですか、貴方は」
風王結界を構えるセイバー。対して俺の手にあるのは干将莫耶。
「あたりまえだ。ライダーに任せるわけには行かない」
それは、いつか見た光景。黒の剣を構えたセイバーと、死を間近に控えた俺との決戦。――――あの時の勝者はどちらだったろう。
いずれにしろ意味は無い。求める結末はあれではない。状況も違いすぎる。
「あえて聞きましょう。貴方は、まだ私が間違っていると言いますか」
「当たり前だ。セイバー自身が報われる結果を求めない限り、何度だって言ってやるさ」
やり直すなんて間違ってる。そんなことをしたって誰も報われない。………報われるべき事実すら消えてしまうのだから。
「もう一度言いましょう。貴方がそれを―――」
「言う。俺も間違ってるのかもしれない。でも、俺は止まれない。止まるわけには行かない」
「そうですか。―――では、私も同じです」
もはや避けられない。―――ただ、そうすることの意味すら判らずとも、此処で倒れるわけには行かない。
「行くぞ―――セイバーァァァァァァァァァ!!!」
先手。セイバーの間合いに自分から飛び込む。振り下ろされる剣にあわせ―――
トレース シール
「投影―――付加!!」
「―――!!」
通常の腕力でセイバーの風王結界を受けることは出来ない。なにせ、セイバーはあれの力でバーサーカーと打ち合ったのだ、なら―――
「その剣は―――」
同じ物を用意する。核はあくまで干将莫耶。そこに風王結界を付加し、視えざる双剣と為す。
「ふ―――っ」
続く斬撃。手を止めることはしない。そも、セイバーのほうが力も早さも上なのだ。俺に出来ることといえばセイバーが力を発揮できる状況を作らせないように先手先手を読んで取ること。―――が。
「―――っ!!」
突然襲い掛かる強烈な斬撃。それを起点に、攻めてはセイバーへと移った。
「―――くっ」
嵐のような連撃が襲い掛かる。その威力、いずれも必殺。
一撃で干将にひびが入り、二撃で莫耶が欠ける。三撃目には莫耶が弾き飛ばされ、四撃目で干将が砕かれる―――そして五撃。
トレース オン
「投影、開始!!」
その一撃を何とか間に合った剣で防ぎ、セイバーがこの剣を見て動きを止める。
「その剣はローランの―――」
「ああ、デュランダル。偽物だけどな」
聖剣デュランダル。その一撃はあらゆるものを切り、持ち主が滅びようと輝きを失わないという不滅の名剣。その担い手たるローランは円卓の騎士の筆頭―――つまり、セイバーの部下だった人物だ。
「貴方は一体―――いえ、関係の無いことでした。それが偽物だというのなら、叩き潰して貴方を倒しましょう」
その言葉より始まったセイバーの剣は、先ほどにも増して苛烈だった。
投影。
投影。
投影。
投影。
投影。
一撃でデュランダルが砕かれ、グラムが弾き飛ばされ、ダインスレフが消滅する。それでも、過度の連続投影によって何とか防ぐが―――まずい。
いくら総量が上がったとはいえ、このままでは魔力が尽きる。剣が投影できなくなれば、待つのは敗北だけだ。
だが―――ここで負けるわけには行かない。
「っつああああああぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」
投影、至近距離で風王結界を破裂させ、何とか距離を取る―――そして、
「―――我が骨子は捻れ狂う」
ブロークンファンタズム
<壊れた幻想>。その剣を。
カラドボルグ
「偽・螺旋剣」
セイバーの足元に叩き込む。爆発。粉塵が舞い上がり、セイバーの姿が消える。
トレース オン
「投影、開始」
こんなものはただの目くらましだ。セイバーが無意識にまとった魔力は並の攻撃など簡単に弾き飛ばす。それも遠坂の魔力に支えられているのだ。この程度でどうにかなるはずが無い。
投影するものは剣ではなく、槍。つい最近も見ることが出来た、神殺しの槍。
セイバーに神格はないが、この槍の能力なら確実にあの防御を突破できる。
続いて左手にアーチャーの弓を投影。槍を矢として構え―――
ロ ン ギ ヌ ス
「――――<裁きの聖槍>」
放つ。………が、
「この様なもので!!」
粉塵を突破してきたセイバーに、槍はあっさり砕かれる。
―――セイバーの予知の領域に近い直感と、時に因果すら捻じ曲げる幸運。これがある限り、セイバーに不意打ちは通用しない。だから、これも布石。
干将莫耶の理とおなじく、防御不能の一瞬を作り出すために、更なる投影を繰り返す。
セ ッ ト ナインライブズブレイドワークス
「全工程投影完了―――<是、射殺す百頭>」
バーサーカーの剣で描くは無数の軌跡。その全てが砕かれる瞬間に俺はさらに一歩踏み込む―――!!
トレース
「投影―――」
―――――――こういうのは趣味じゃねぇんだがな。
そんな声が聞こえた瞬間、セイバーの胸を、赤き槍が貫いていた――――
続
あとがき
………士郎つぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!(爆)
どうも、破滅666です。更新は夜ですがこんにちは。
バトル、すきなんですがねぇ、技術がついていかない。それは俺の作品どれにも言えることですが。
というか士郎君、投影しすぎ。セイバー、マイウェイすぎ。収拾はつくのだろうか………とか言ってたら、青アニキ登場。いきなり何やってくれますか貴方は。
因みに士郎君の使った詰み手は、目くらまし、遠距離攻撃の不意打ちで少しでも体制を狂わせ、ナインライブズで完全に止める。のちに一撃。…………だったんですが、成功するのかどうかは、もはや誰にもわからなくなったとさ。めでたしめでたし。
まぁそんなわけで次回、中編だか後編でお会いしましょう。
追伸。 念のために言っておきますと、俺はセイバーが嫌いなわけではないですよ。ええ、マジで。
セイバーの胸を赤き槍が貫いた瞬間、俺はそれを展開していた―――
Fate/All Reload
第十三 激闘の夜 後編
ア ヴ ァ ロ ン
<全て遠き理想郷>。セイバーの聖剣の鞘。親父によって俺の身体に展開されていたそれを引きずり出し、セイバーに捧げる。
これは、セイバーのものだ。俺には、重すぎる。これまで命を救われてきたが、それも終わり。彼女に敵視されている俺が持つにはあまりにも分不相応。そして何より、セイバーの命が危ないのだ。出し惜しみする理由など、どこにもない。
その能力はあらゆる干渉から持ち主を守り、傷を癒し不死とする。この宝具の力なら、セイバーを貫いたゲイボルクの呪いと言えど、セイバーを殺すにはいたらないはずだ。
とはいえ、セイバーは意識を失っている。ダメージが大きすぎるのだ。すぐに回復とは行かないだろう。
―――その苦しそうな顔に、罪悪感が沸く。俺とセイバーが戦わなければこんなことにはならなかった。どうして、俺たちは―――
―――見れば、予期せぬ乱入に遠坂とライダーも動きを止めている。………さすがというべきか、遠坂はライダーを相手にしても健在だった。
………と、
「ランサー…………あんた、どういうつもりだ」
投擲された槍が戻っていく方向を睨む。現われるにはランサー。ケルトの英雄、クーフーリン。
後ろからの不意打ちなど、彼の最も嫌う方法のはずだ。それを―――
「ああ、俺もお前らの邪魔をするつもりは無かったが―――令呪を使われちまってな」
「言峰か…………」
「ん、ああ、知ってるのか。なら話は早い。俺に下されている令呪はこれが最後だが―――」
つまり、これを終えればランサーは消える。次のマスターを見つけることが出来れば別ではあるが。
「内容は言わなくていいぞ。どうせ「どんな手段を使っても」俺達全員の抹殺………って所だろ」
「正解だ、小僧。細部は違うけどな」
なら、こいつはこのまま戦うのだろう。そして―――
「遠坂」
「何?」
「セイバー抱えて逃げといてくれ」
「あんた―――」
「ああ、敵にこんなこというのは変だとわかってる―――でも俺はそれを認めてない。それに―――」
アーチャーのマスターは俺だし、だったら此処でそれを言ってもいいだろう。
「この間のアレ。一回の協力。それだと思ってくれ」
しばしの黙考。やがて、遠坂は俺を睨みつけ、
「いいわ、逃げさせてもらう。―――でもね、衛宮君。私たちはいまだにあなたの敵よ」
わかってる。遠坂は勝負がはっきりとつくまではきっと今の立場を変えない。
「ん、それでいい。だからセイバーには適当に誤魔化しておいてくれ」
鞘のこと。俺が逃がしたということ。それを聞いてしまったら、セイバーもやりにくいだろう。―――こんなことで貸しにはしたくない。
「―――あ、遠坂」
思い出し、それを遠坂のほうに投げ渡す。
「―――これ!?」
「二つ持ってるのも変な感じかもしれないけど、親父さんの形見は大事にしてくれ。―――あと、ありがとう。助かった」
「―――馬鹿」
言うとは思ったが、それはひどいと思うぞ遠坂。苦笑しながら、ランサーを睨む。
「いってくれ、遠坂。今度決着をつけよう」
「―――わかった。私が助けたんだから、ちゃんと生きてなさいよ、衛宮君」
魔力で身体を強化して、セイバーを抱えて遠坂が走っていく。その足音を聞きながら、俺は投影を開始する。
「投影―――」
……………と、
「ああ、張り切っているところ悪いんだがな、忠告しておくと―――帰ったほうがいいぞ」
―――何?
「言峰が本気になったんだ。あのいけすかねぇ金色の奴が、お前の家に向かっている」
「な―――」
―――狙いは考えるまでも無い。イリヤだ。言峰が何を考えているのか………まだ一度も会っていないから解らないが、ともかく奴は本気で聖杯を取りに着ている―――?
「助言は此処までだ。令呪を受けている以上、俺は此処で戦わねぇとなんねぇんだ。よく考えて、覚悟してどっちが残るか決めな」
それはつまり、残るほうは死ぬと思え、ということか。
「………どうでもいいけど、何でそんなこというんだ?」
「あ?」
「自信があるんなら、ここで全員殺してもお前としては同じだろ」
「何でって―――言峰がキライだからだ」
言って、ニヤリと笑う。
「だからとりあえず、俺としては最後に強敵と戦えるんならそれでいいさ。さ、どっちが残るんだ」
ライダーが、前に出る。
「シロウ、ここは私が」
「ライダー?」
「急いで戻るなら私のほうが早いでしょう―――ですが」
ライダーが笑う。ランサーのように。
「この馬鹿者は、私が倒します。以前にも私は侮辱されました、いい加減思い知らせてやらねば気がすみません―――それに」
「私には、イリヤスフィールを守る理由はそれほどありません。ですから、貴方が向かってください」
そう言って、背中を見せるライダーが、魔眼殺しの眼帯を外すのが見えた。
「サクラ―――許可を。ここで全力で奴を討てと」
「いいわ―――やりなさい、ライダー!!」
桜の声と共に疾駆する影。剣戟の音を聞きながら、俺は家の方角へと走り出した。
――――――聞こえる。
無数の宝具がぶつかり合い、消え去っていく音が。
居る。―――奴だ。ギルガメッシュとアーチャーの一騎打ち。共に無限の武器を持つサーヴァント同士の戦い。それはいかほどのものか。
単純に考えて、あの二人が戦った場合はほぼ互角。ただ、それぞれの切り札が違う。
―――世界を切り裂いた剣、エアと、俺と同じ固有結界、<無限の剣製>。
固有結界を起動すればアーチャーの勝ちだ。宝具を出す速度は圧倒的にギルガメッシュを上回る。しかし、もしもエアを使われれば、アーチャーがそれをしのぎきる保証は無い。
―――そして何より、ギルガメッシュの狙いはイリヤの心臓だ。アーチャーを倒す理由などない。
だから、急ぐ。もしも英雄王が直接イリヤを狙えば、アーチャーが守りきるかどうかは解らない。
エアを使えば、アーチャーは負ける。俺も、勝てない。なら、行ってどうするのか。
―――脳裏をよぎるのは、あの剣だ。エアと撃ち合う事の出来たあの未完の剣。
しかし、アレは使えない。あれは間違った剣だ。俺の本分を超えた―――いや、あの存在そのものが間違っていると衛宮士郎の何かはそうずっと警鐘を鳴らしている。
―――俺の剣はもっと別の何かだと。
よそう、今考えるのは。重要なのは此処。イリヤを助ける。それだけだ。
―――激しくなり続いていた音がやむ。まさか―――!!?
速度を上げ、走る。間に合ってくれ―――
俺の家が見える。一体どんな戦いをしたのか、あたりは滅茶苦茶な状態だった。
塀も破壊され、庭が露出し、家も半壊しているその中心で、見た。
少女を守るようにして立つ巨人が、少しづつ消えてゆく様を―――
続
前回はなかがきだったよなとか思いつつあとがき
先読みされようとそのまま行く!!
そもそもこの展開でアヴァロンがばれない筈ないんだよなぁとか思った破滅666です。こんにちは。
ううむ、アヴァロン使用で続くにして置けばよかったか。………まぁいいか。
つうわけでこの夜起こったバトル。セイバーVS士郎、遠坂VSライダー、アーチャー&バサカVS金ぴか、ライダーVSランサー………と。とりあえずはこの様なところで。
プラスで補完の可能性があるのはライダーとランサーだけですかな。アチャ金はどってことないし。ライダー遠坂は…………ごめんなさい、何も思いつかない(爆)。
あと何話くらい続くのかなぁ…………此処まできたら何が起きても完結させますが。………厳密に言うと完結しないけど。
とりあえずこれからもよろしくお願いしますといいつつさようならです。
歯痒かった。再びあの英雄王を前にして、満足に戦うことすら出来ない我が身が憎かった。
身体に剣が刺さる。我が主に刺さるはずだった剣を私が受ける。それ以外に、私に出来ることなどなかった。
―――だから我が主よ、銀色の姫よ、どうか泣かないでくれ。私にはこうすることしか出来なかったのだから。
思えば、この少女と過ごした時間はとても短かった。しかし、長さなど関係がない。契約など、それこそ意味がない。そんなものがなくとも、私はこの少女を守るのだ。
だが、それも終わり。もはや我が身は滅びるのみ。ただ、傍らで泣く少女の顔を目に焼き付ける。
我が主よ、貴女が泣く必要は無い。所詮、我が身は太古に滅びている。この出会いこそ、まさに奇跡。喜びこそすれ、悲しむ理由などない。だから―――私のために泣くことはしなくていい。
そう、泣く必要は無い。貴女のことはきっと、あの少年が守ってくれる。それは私の確信だ。だから―――
―――我が主よ、最後に願うのは貴女の幸せのみ―――
Fate/All Reload
第十四 桜咲く〜守り刀〜
イリヤの傍らで、バーサーカーが消えていく。イリヤの泣く声を聞きながら、俺はアーチャーに聞かねばならない。………奴がいないのだ。
「ギルガメッシュは………?」
「イリヤスフィールに注意を向けた隙に一撃した。―――が、逃がした」
「―――お前、まさかイリヤを!!」
囮に使ったのか!?
だとすれば許せるものではない。赦せる筈がない。俺はアーチャーの胸倉を掴む。
「―――私では間に合わなかったのだ」
はっきりと滲み出る後悔の声。そしてその表情。―――それを聞いて、俺は手を離す。
「…………悪い」
こいつはこいつで精一杯やったのだ。その場に居もしなかった俺にはわからないこともある。
「いや、防ぎきれなかったという面では確かにオレが悪い。バーサーカーが居なければ、イリヤスフィールは死んでいた」
アーチャーにつられるように、見る。もう、ほとんど実体を残していないバーサーカーを。
消える。その姿に、ただ一言―――ありがとう、と伝えた。
泣き続けるイリヤを宥め、とりあえず俺たちは、奇跡的に無事だった居間へと移った。
泣きつかれたのか、イリヤは眠っている。
その身体に引っ張り出してきた布団をかけてやっていると、アーチャーが話しかけてきた。
「間桐桜とライダーはどうしたのだ?」
「ああ、ランサーと交戦中…………ってそうだった、行ってくる!!」
本当にどうかしてる。俺は急いで外に―――と。
「いえ、その必要はありません」
ライダーが帰ってきた。ボロボロの姿で。
「ライダー、大丈夫か!?」
ふらふらとするライダーは、それでも口元に笑みを浮かべ、
「はい。仮にも不死とまでいわれたこの身。この程度では滅びません―――それより、サクラは」
「え―――ライダーと一緒じゃないのか?」
「いえ、サクラには、先に逃げてもらったはずですが―――シロウ!?」
今度こそ俺は、家を飛び出していた。
<interlude>
ボロボロになっていく身体を、無理やりに動かして、私は逃げる。
―――ライダーに言われ、先輩の後を追うようにして走る私に、その男は声をかけてきた。
『ランサーに命じたのは皆殺しだ。私が君を逃がすと思うのかね?マキリの後継者』
そう言って神父は、どこからともなく取り出した剣を投げ放ってきた。一本目は何とかよけた。その次も、その次も。それでも少しづつ切り裂かれていく私の体。わけもわからず、走る。私は戦えない。だから、にげないと―――
でも―――おかしい。先ほどから投げられているあの剣………黒鍵は、教会の代行者などが使う剣だ。それを、何の戦闘経験もない私が、何でよけられるのか。
「ああ、不思議かね。それはな、嬲殺しにしているのだよ」
「なんで――――」
「ただの嫌がらせさ、あの衛宮の息子―――士郎といったか。あれに対する、な」
「な――――」
なんで? なんで先輩が………
「正義の味方などとぬかすあの親子―――大事な者が見るにも耐えないような姿で殺されていたら、嬲殺しにされていると知ったら、どうするのかね」
「特に私怨があるわけではない。この行動にも大した意味はない。だが、衛宮の息子に少しでも絶望を味あわせることが出来るなら、それもまたよい」
「そんな―――こと」
そんなわけの解らないことのためにこの人は―――
「正義の味方。そんな物はこの世には存在しない。そうだろう? 君はここで死ぬのだから」
また剣が投擲される。今度の剣は―――私の足首を貫いた。
「鬼ごっこはここまでだ。私も忙しい身でな。………なに、弔いくらいはしてやるさ」
走れない。―――もう、逃げられない。
「ああ、もう一つあったか。マキリの老人には色々と貸しがあってね。突然蟲ごと消え去ってしまったあの老人のツケを払ってもらおう。―――マキリの最後という形でな」
もう、私は死ぬしかない。そう、思ってしまったとき。声が聞こえた。
―――まだ終わっては居なかろう。軸足は無事。両手も動く。君は戦うことすらしないのか?
だって私は戦えない。先輩や姉さんみたいには戦えない。そんなことはしたこともない。
―――ならば、ここで死ぬのかね。それでは君の想い人にも申し訳が立つまい。
死にたくなんてない。私はまだ先輩に何も言ってない。もっとお話がしたい。生きていたい。でも、戦うのは怖い。
―――やれやれだな。よいか、聞け。あの少年は強い。そう、だれぞも言っていたようだが、ゆくゆくは英雄になるほどに。だが、だがな。それは修羅の道。あの少年が一人で戦い続ける限り、あの少年は他人を救うことはあっても、自分は救わないまま朽ちて行くぞ。―――そこに幸福があるわけがない。君はそれを容認するのか。
そんなのはダメだ。先輩には幸せになって欲しい。そして―――できれば、その側に私も居たり………
―――ならば、君はここで死ぬわけには行くまい。幸いにも、あの少年の守るものの中には君も含まれている。死ねば、修羅はそこから始まるぞ。
でも―――私には………
―――修羅と生きた私が言うのもどうかとは思うが―――殺人としての刀ではない『守り刀』という概念がある。
守り刀?
―――ああ、意味は聞くなよ。私には生涯判らなかった言葉だ。だが―――君はそれを知れ。知って、あの少年と共にあれ。
わからない。私には判らない。でも―――
今日、初めて先輩が戦っている姿を見た。自分が傷つくことも恐れずに、ただ立ち向かっていくその姿を。
今夜きたあの子や、今聞いた話もわかる。あの人は、放っておけば一人でどこまでも行ってしまう。たとえ、戻れない道でも―――
それを引きとめられるだけの力が欲しい。先輩が一人で戦わなくてもいいように。先輩が傷つかないように守れる力が。
―――ならば、私が力を貸そう。だが忘れるな。私とは違う。私のようにただ斬るだけの刀を持つな。君が持つべきは―――
わかってる。だから―――
―――所詮我が身は仮初。借り物の名。だが、少女よ。君のために今一度この名を名乗ろう。我が名は―――
その真名を―――刻む。
「佐々木―――小次郎」
私の手には―――一振りの刀が握られていた。
「とどめだ―――」
複数の黒鍵は私を貫こうと飛んでくる。―――しかし。
―――あのような玩具、燕に比べれば落とすことなど我らには児戯。
「秘剣―――」
―――ただ、知れ。君は燕を落とすのではない。君のそれはただ、守るために振るわれる。
「桜花――――春乱」
たった一振り。でも、その軌跡は三。
すべての黒鍵が落ちる。目の前の神父の驚く顔をみて、自然と笑みが浮かんだ。
キシュア・ゼルレッチ
「多重次元屈折現象―――馬鹿な」
「死にません―――私は、先輩と行くから」
私はただ、先輩を止める。いつか、一人になってしまわないように。
「それは………アサシンの技だろう。何故君が―――」
その時、先輩の声が聞こえた。
「―――桜!!」
続
あとがき
本編は士郎視点外さないんじゃなかったのか!!
というわけでどうも。いよいよやっちまった風味の破滅666です。こんばんは。
まったく目立たないアサシンと桜。この二人なんかないかなぁとか思ってたら、こうなりました。
いや、アサシンについては消えた当初から桜つながりでなんかあるってのは予定してたんですが………まさか憑依合体とは(爆)………
ま、というわけで、アサシンがイリヤのトコに行ってなかったのはなぜか桜に食われてたからです。言い方が悪いですが。
ここらの事情は本編で、ってことで。桜が何故アサシンの力を使うことが出来るのか。
間桐の魔術が、略奪。遠坂の魔術が力の流転とかそんなもんだったはずで、桜は強制的にこの二つが混じっちゃっててHFではああいう影が出たわけですが。
もしも、アンリマユの影響を受けていなかったらどうなるのか、ってことで、出してみました。…………石とかはやめて。痛いから。
あと、守り刀。断じて防御用の刀ではない。言うまでもないですが。
いわばあれは、人としての在り方。剣と鞘といったイメージに酷似するものがあると取っていただければそれ以上は申しません。
というわけで今回もやっちまったなぁとか思いながらさようならです。
追伸、言峰がなんかおかしい気がします。
わけがわからない。もう本当にそれだけだ。
夜道を走り回り、ようやく見つけたのは、今にも言峰に殺されそうな桜の姿。
黒鍵が振るわれ、俺は間に合わない―――しかし、次の瞬間桜は投擲された黒鍵、その数6を、手にした刀で叩き落した。
その刀―――その技に覚えがある。
アサシン、佐々木小次郎の物干し竿と秘剣、燕返し。魔術を用いず、ただ自己の鍛錬のみで魔法の領域にたどり着いた技。
どうして桜がそれを手にしているのか、それを再現できるのか、まったくわからない。
―――わからないが、今はいい。俺のするべきことは一つだ。
「―――桜!!」
Fate/All Reload
第十五 終わらない夜
叫び、一息に桜のところまで駆けつけ、かばう様に立つ。
―――桜の足首、その片方から流れ出る血。そして、前進の数箇所にある傷。
「てめぇ…………」
こいつ、桜を嬲ってやがったのか。こういうことだけはする奴じゃないと思っていたが、それは見込み違いだったということか。
「…………先輩………私…………」
弱々しい桜の声。それに、答える。
「ごめん、おそくなった。―――頑張ったな」
「私―――は………私も………先輩、と……………」
とさ、っと。桜の倒れる音。体力の限界か、それとも緊張が解けたためか。
…………と、
「衛宮の息子か。始めまして、とでも言っておこうか」
「別に。なんにしろ末永く付き合いたい相手じゃないよ、あんたは」
考える。―――桜の足の傷は楽観視していいものじゃない。幸い出血は少ないようだが、放っておけば壊死してしまう可能性だってある。ならば、ここは逃げの一手か。
「ああ、逃がすつもりはない。お前たちには二人とも死んでもらおう」
言って、黒鍵を取り出す言峰。―――だが、そんなものに付き合っている暇などない!!
トレース オフ
「投影――完了!!」
投影した黒鍵、その数8を、言峰に対して射出。同時に桜を抱えあげて全力で反対方向に―――
が、俺が向かう方向に、奴がいた。
「衛宮士郎、といったか。我の剣の準備はできているのか?」
―――ギルガメッシュ。太古の英雄王。
しまった、はさまれた。俺一人ならどうとでも逃げられるかもしれないが、これでは―――
「―――アーチャーにやられて逃げ帰ったって聞いたけどな」
「ふん、あの程度で我がどうにかなるわけがなかろう。神の子がたかが人形のために命を捨てるなどといった茶番を見せられて、興ざめだったのでな」
「誰が人形だ。イリヤは人間だ。誰がなんと言おうと人間だ。バーサーカーはそれを守った。それが茶番だと?」
さて、どうするか。こちとらセイバー戦に家までの全力疾走、さらに往復と、かなり体力を消耗している。加えて抱えている桜だ。とてもじゃないが言峰と英雄王を同時に相手に出来る余裕などない。
「ああ、茶番だ。吐き気がするほどの偽善。それを貴様もいうのか」
「偽善―――か。なら、そう思ってろ」
こいつとこんな問答をしたって意味がない。何せこいつは、その傲慢で自国を滅ぼした大馬鹿だ。そんな奴を説き伏せるほど、俺は人間できちゃいない。
だから考えるのは、状況を打開する方法。背後に言峰。前方に英雄王。左右に道はなし。あったところで桜を抱えたままこの二人から逃げ切れるとは思えない。
―――手詰まり、か?
せめてもう一人。もう一人仲間が居れば逃げるどころか反撃すら出来るのに―――
「ギルガメッシュ。その二人は殺す。無駄な問答をしている暇はない」
「ふん、我はその男に剣を作らせる。今殺すことはしない」
………だから、あの剣は無理だってんだよ王様。
…………いや、それなら――――
「英雄王。わかった。じゃあ、剣を作るから見逃してくれ」
「―――ほう?」
愉快げな顔で笑う。―――前々からそうじゃないかと思っていたが、こいつ馬鹿だ。
トレース
「投影―――」
「待て、それはただの贋作であろう。我が所望するのはあのときの完成品。それだけだ」
―――馬鹿は俺か。適当な剣を作って<壊れた幻想>で吹き飛ばしてやろうと思ったのだが、そういえばこいつは発動前の魔術を見抜く。どうやってるのかは知らないが。
「次に同じ真似をしてみろ―――王を愚弄した罪、ただでは済まさん」
最近思うのだが、俺は王様が嫌いだ。―――いや、セイバー自身はともかく。悪口言っただけで殺されるようではたまったものではない。
仕方がない―――両手はふさがっている。この状態で剣を振るうような真似は出来ない。なら、両手を使わずとも二人を圧倒できる状況を作り出す。
アンリミテッドブレイドワークス
つまり―――固有結界、<無限の剣製>。
投影を繰り返した今の俺に展開できる時間は、もって8秒。その間に、せめてギルガメッシュだけでも―――
「体は―――」
と、その時。なぜか頭上から、その声が聞こえた。
「やれやれ少年、苦戦しているようだな」
見上げる。何故か人の家の屋根の上に仁王立ちしていたのは、バゼットとジェネラル。
「ってなんで…………」
「なに、帰ろうと思ったらお前の家のほうと、もう一箇所で魔術戦の気配があったのでな。ずっと見物していたのだが」
いや、それよりも俺としては、何で屋根の上に立っているのか聞きたいんだが。
そういえば遠坂も、ビルの上から見下ろしたりしてたっけ。あと言峰もやたら見下ろしてくる感じ多いし。………純正品の魔術師というのは高いところが好きなんだろうか。って言うか見下ろすのが。
「バゼット・フラガ・マクレミッツか。生きていたとはな」
「おかげさまでな、言峰。私としては決着をつけようと思うのだが―――どうだ?」
「よかろう」
まるでこれから茶でも飲みに行こうといった雰囲気。しかし始まるのは間違いなく魔術師同士の殺し合い………
「ジェネラルはあの金色の奴を。手加減する必要はない」
コクンとうなづき、ジェネラルが俺の前に飛び降りる。
「エミヤ、今夜だけはあなたと戦うつもりはありません。どうか、今のうちにお逃げください」
「ジェネラル………」
「マスターは、正式な戦闘で貴方とアーチャーを倒すことを希望しているそうですので」
槍を構える。ギルガメッシュに向かって。
「小娘、貴様が我の相手をするとでも言うのか?」
「そうです、英雄王。残念ながら、貴方では私に勝てない。自国を滅ぼした大間抜けなどに私は負けません」
……………ジェネラルって案外きついのな。この場にセイバーが居なくてよかった。
ギルガメッシュが、睨む。
「その暴言。後悔することになるぞ」
「ご安心を。そのようなことにはなりませんので―――!!」
答えと共に、疾走。次々と英霊を召還しながら、ギルガメッシュに迫る。
それを合図に、俺の前と後ろ、同時に戦いが始まった。
「―――貴様!?」
「言ったはずです。貴方では勝てないと」
ジェネラルの声。その言葉の通り、ジェネラルはギルガメッシュを圧倒していた。
繰り出される無限の財に即座に反応し、その武器の担い手となる英霊を召還し、これを防ぐ。
たとえ本来のものより能力が低かろうと、その技術に、魂に、意思に偽りはない。故に、ジェネラルの兵がギルガメッシュの武器に負ける理由はない。
それを次々に繰り返しながら、ジェネラル自身がギルガメッシュに肉薄。凄まじい勢いで追い詰めていく。
―――ギルガメッシュは無限の財の持ち主に過ぎない。しかし、ジェネラルはその無限の財に対し、本物の担い手を用意できることによって、これをほぼ無効としていた。
ジェネラルは、俺やアーチャーと同じく、英雄王の天敵だったのだ。
しかし、倒すまでに一歩及ばない。見たところ、ジェネラルの用意できる英霊は一度に18〜20。ギルガメッシュは無制限だ。
接近は出来るものの、止めを刺すには至らない。
桜を、道路の脇に横たえる。
足りない分は、俺が出せばいい。つまりはそういうこと。
ふと、振り返る。―――いつの間にか言峰もバゼットも姿がない。ただ、遠くのほうで爆音が聞こえる。
まぁ、それはいい。いまは、ジェネラルの手助けをするだけだ。
――――――と。
「おのれ貴様ぁ!!」
ギルガメッシュの憎悪の声。――――その手に、乖離剣が握られた。
「まずい、ジェネラル!!」
叫んだ瞬間、エアが起動する。暴風。嵐。あたりに散らばった宝具を吹き飛ばし、乖離剣が咆哮する。
―――そして、振るわれた。
エアの威力を、20の英霊全てを盾に使って防ぐジェネラル。………が。
その威力に20の英霊すべてが一瞬で吹き飛ばされ、俺のところまでジェネラルが転がってくる。
「ジェネラル!?」
慌ててジェネラルの側に駆け寄る。―――ある程度威力は相殺できたのか、消滅にいたっていない。しかし、明らかに致命傷。
「カ―――ハ―――」
血を吐くも、俺を押しのけて立ち上がるジェネラル。
「エミヤ―――何故逃げていないのです。すぐに、お逃げなさい」
その言葉に、姿に、ようやく思い当たった。セイバーだ。彼女はとてもよくセイバーに似ている。
「エミヤ―――?」
ジェネラルを後ろにかばうように、立つ。
「なにを―――」
「ジェネラル、まだ大丈夫か?」
「私は問題ありません。ですから逃げてくださいと――――」
「なら、協力してくれ。ここで、英雄王を倒す」
「な―――馬鹿なことを言っていないで早く逃げてください!! そもそも私たちは―――」
「敵同士って言うんだろ。でも、そんなことは関係ない」
だってほら。この少女は―――とてもよく、俺の知っている少女に似ているのだから。
「私は貴方を殺すとまで言ったのです!! それなのになぜ、助けようとするのですか!?」
「だって、ジェネラルは俺のことを心配していってくれたんだろ。そして、今は助けようとしてくれてる。だったら、俺もジェネラルを助けなきゃ」
「――――!!」
ふと振り返ってみると、ジェネラルがなんか凄く驚いた顔をしている。
「貴方は―――馬鹿です」
「ん、しってる。だから、俺は戦うのをやめられないし、ジェネラルにも止められないよ」
そう。だから―――ここでも負けない。
「衛宮士郎、貴様も立ちはだかるというのなら容赦せん。ここでその小娘と共に死ぬがいい」
再び咆哮する乖離剣。だが―――
「エミヤ。わかりました。今この時のみ、私は貴方の剣として戦いましょう」
エ ヌ マ
「天地乖離す―――」
真名がつむがれる、荒れ狂う魔力の渦。俺は―――
「―――体は剣で出来ている」
シュリシュ
「―――開闢の星!!!」
魔力の渦が迫る。それに対し、
「アイアスを喚べ!! ジェネラル!!!」
続
あとがき
霊剣荒鷹について調べてみる………………よもやこんな落とし穴があろうとは。これでは桜が……………桜が!!
ただのサクラ大戦のクロスパロディになってしまう!!
重要なことを見逃しまくりな破滅666です。こんにちは。
とりあえず、桜はアサシンセットアップしてるだけなのであの刀は物干し竿です。長いだけの刀です。あしからず。
ちなみに、桜自身のキャパシティの問題で、最初の一人、アサシン以外を再現することは出来ません。たとえこの先、他のサーヴァント突っ込んでも。
んで、ジェネラル&バゼット再登場。やっと実現。士郎ジェネラルの協力プレー………は厳密には次回か。
バゼットVS言峰はバゼット出した瞬間から決定してたんですがね。遠坂とどっちぶつけるかは迷いましたが。
とりあえず夜中にみんな頑張りすぎですな。はっきり言って冬木の町がやばいです。エア二度も使いやがるし。
ちなみに士郎が無事だったのは、ただ単にギリギリ射線からずれていただけなので。
とりあえず今回もさようならです。