ふぇいと/すていわんこ


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1: ハウス (2004/04/10 18:31:32)[hausu7774 at yahoo.co.jp]



放たれた一撃はまさに迅雷。
その槍は、確実に衛宮士郎の心臓を貫くと思えた。
だが―――その槍を、神速の月光が弾く。

「なっ・・・・・・七番目のサーヴァントだと!?」

驚愕する槍兵。
降り立ったのは白銀の救い手。
驚愕して言葉も無く見つめる衛宮士郎に、その救い手はこう聞いた。

「―――わう(問おう)」

何故か意味が分かる。

「わうわうわうぅ〜〜ん(汝が我がマスターか?)」

救い手は、銀の毛並みの犬であった。


【ふぇいと/すていわんこ〜異英霊召喚譚〜】


「なんで犬が!?」
「ヴゥゥ・・・ガウッ!!(去れランサー、さもなくば・・・倒す!!)」

驚きから覚めやらぬランサーに飛び掛る犬。
その動きは、卓越して速く、鋭い。

「ちっ・・・・・・犬は苦手だ」

言って撤退するランサー。
幼少期に猛犬を殺して「クランの番犬」との名を与えられた彼だが、だからこそ犬と戦いたくはなかったのだ。

「ええっと・・・・・・助かったよ。でも、君はいったい?」
「わん・・・・・・わう?(僕はセイバー。貴方の剣となって戦う者・・・・・・外からサーヴァントの気配?)」
「あ、おい!?」

身軽に塀を越えて飛び出すセイバー。

「えっ? 犬!?」
「なんでイキナリ犬が!?」

そこへやってきていた遠坂凛とアーチャーは、突然現われた犬に襲い掛かられて、咄嗟の対応が遅れてしまう。
その隙は、セイバーにとって決定的なもの。
初撃で頚動脈を切り裂かれるアーチャー。

「戻って、アーチャー!!」

凛は咄嗟にアーチャーを消して殺される事を防ぐ。
だが、そのせいで守りを失った彼女は、セイバーに倒されて圧し掛かられた。
喉笛にせまる鋭い牙。

「マテっ、セイバー!!」
「わう?(マスター、何を?)」
「いいからお座りっ!!」
「わうっ(くっ、身体が勝手に反応するっ)」

死を覚悟したその時。
慌てて制止する士郎によって、凛は間一髪救われた。

 ◆◆◆

「こんばんは、私はイリヤスフィール・フォン・アインツベルン。そしてこの子が、私のサーヴァント・バーサーカーよ」
「バーサーカー!」

教会からの帰路。
夜の街で遭遇したのは、あまりにも巨大な破壊の権化。
人形のような小柄な少女が連れた、熊のような鉛色の巨人。
アーチャーが居ない状態で、最悪のサーヴァントの襲撃だった。
しかもこちらの戦力は犬一匹。

「それで・・・・・・さっきからサーヴァントの気配はするんだけど・・・・・・いったい何処に隠れているのかしら?」
「えーっと・・・・・・」
「わん」
「まぁ良いわ。貴方達がサーヴァントを出さないなら、そのまま殺してあげる。やっちゃえ、バーサーカー」

にっこり笑って、妖精のような白い少女が命令を下す。
なんとか逃げ延びるしか・・・しかし巨体からは想像できない俊足に、逃げることも絶望しかかる士郎。

「うわぁ!?もーダメだぁ!!」
「わうわう(落ち着いて、マスター)」

だが、セイバーには恐れなど無い。

「わうう・・・わうぅぅぅ〜ん!(僕は熊犬・・・相手が巨大な敵なら、僕の領分!)」

跳躍したバーサーカーが轟音と共に落ちてくる。
振り回される岩剣の攻撃はその全てが致死。
電柱を粉砕し、道路を掘り返し、塀を薙ぎ、全てを破壊しつくす暴風雨。
それを―――
セイバーはことごとくかわし切り、逆にバーサーカーの膝に牙を立てる!!

「ええい、ウロチョロとぉ!! はやくその犬を殺しちゃいなさいよ、バーサーカー!!」
「・・・・・・そうか、標的が小さすぎるのよ。その上犬の運動能力は人間を遥かに超えている・・・だから、犬でも熊を・・・そしてバーサーカーを倒すことが可能なんだわ!!」

凛の言葉通り、セイバーの牙は着実にバーサーカーを追い詰めてゆく。
膝を、足首を、ふくらはぎを噛み千切る牙。
鋼のようなバーサーカーの皮膚を造作無く貫いて、その機動力を確実に奪い去る。

「■■■■■■■ツッッ!!」
「ガウゥゥゥ!!」

怒りにまかせて振り下ろされた岩剣が地面を抉り、多量の土砂を巻き上げた。
その刹那。
飛び上がったセイバーの牙が、バーサーカーの首を切り裂く。

「バーサーカー!!!」
「やったか!?」

どうと倒れる巨体。
だが、セイバーは倒れた敵を前に距離を取って、わずかな油断も見せずに対峙している。

「セイ・・・・・・」

士郎が問うよりも早く。
―――何事も無かったかのように立ち上がるバーサーカー。

「なっ!?」
「ふーん・・・・・・まさかバーサーカーを一度とは言え殺すなんてね。そのワンちゃんにも興味が出てきたわ・・・・・・今夜は、見逃してあげる。行こっ、バーサーカー」

告げて、夜道を去ってゆく少女。
その言動よりも。
助かったと言う事実よりも。
垣間見たセイバーの力に、言葉を無くす士郎だった。

 ◆◆◆

新都で最も高いビル。
その屋上。
セイバーは天馬を駆るライダーによって追い詰められている。
突進する天馬の攻撃はまるで砲弾。
その全てを人間にはありえない、生来の狩猟者たる動きで回避するセイバー。

「ここまで良くかわしましたね、セイバー!! この場所でなら他者に見られる心配も無い・・・・・・私の宝具、その身で味わいなさい!!」
「わうわうわうぅぅぅぅん!!(それはこちらも同じこと。熊犬には、草食動物には無い牙がある事を思い知れ!!)」
「喰らいなさい『騎英の―――(ベレル―――

天馬が流星と化す。
今までの攻撃が砲弾なら、これは最早ミサイル。
それは一瞬でビルもろともセイバーを吹き飛ばすほどの―――

「わんっ(『絶―――

向かってくる流星に、真っ向から立ち向かうセイバー。
犬という種の限界どころか、物理法則すら無視して飛び上がったセイバーは、牙を剥き、その身をひねる。

―――手綱(フォーン)』!!」
―――わおぉぉぉぉぉん(天狼星抜刀牙』)!!」

高速回転する流星となったセイバーが飛ぶ。
最早互いに退く事は出来ない。
下降する白い流星と上昇する蒼銀の流星。
二つの星が激突し合い―――

「ぐっ!?」

片方の羽根を切り裂かれる天馬。
その背後から、方向転換したセイバーの牙が襲い掛かり・・・・・・一撃で、ライダーを滅ぼし去る!

 ◆◆◆

最後の決戦。
敵は千の宝具を持った恐るべき英雄王。
その猛攻を前に、一歩も退かないセイバー・銀牙。

「ワオォォォォォォン!!(絶・天狼星抜刀牙!!)」
「ふん!その技は見飽きたわ!!」

流れ星となって飛翔するセイバーの斜め下から剣を放つギルガメッシュ。
そこが、天狼星抜刀牙の唯一の死角。
だが。

「わんわん!!(滅・幻夢抜刀牙!!)」
「ぬぅぅぅ!?」

瞬時に、回転を縦から横に切り替える。
粉砕されるギルガメッシュの宝具。

「くっ・・・・・・まさか犬如きに我が剣を使うことになるとは・・・・・・消えうせろ、雑種!!」
「ワオン!(乱―――)」

ギルガメッシュの手に現われた奇怪な剣。
天地を引き裂いたと言われるその剣が、最大魔力で打ち出される。

「―――天地乖離す開闢の星(エヌマ・エリシュ)!!」
「ウワン!!(―――蛇竜身抜刀牙!!)」

放たれたその攻撃を避けるように・・・否、その身の内に閉じ込めるように。
螺旋を描いて飛翔したセイバーは、エヌマ・エリシュの攻撃範囲の外側を滑空するようにギルガメッシュに迫る。

「なっ、なんだとおぉぉぉ!?」

振り切った剣は戻せない。
もとより、最大の魔力をもって放った一撃が、なぜ回避されるなどと思えよう。
だが・・・・・・それこそが、人間から成った英霊と、犬から成った英霊の反応速度の違い。
最後の一線で、ギルガメッシュはセイバーの野生に及ばないツッッ!!

「ウワウゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥン!!(激・尖通飛抜刀牙・諸刃裂手拳(剣)!!)」

無数に見えるほどの高速で繰り出される前足がギルガメッシュを捉える。
軋み、歪み、わずか1秒で砕け散る鎧。
無数の攻撃全てが鎧の接合部に正確に叩き込まれるその攻撃。
どうして耐え切れる訳があろうか。

「わうん!!(襲・突爪抜刀牙!!)」

最後に放たれる一撃必殺の前足。
貫かれ、砕け散るギルガメッシュの心臓。

「おのれえぇぇ・・・王は・・・王はぁぁぁ・・・・・・」
「わん(絶―――)」

それでもなお、足掻こうとするギルガメッシュに、セイバーはトドメの一撃を繰り出した。
かつて、ヒグマの王として恐怖をもって君臨した赤兜を倒した一撃。
相手が王であろうとも、暴虐をもって成るのなら倒す牙。
狼族が伝え、セイバーの父リキが継承したその技を、牙も持たぬ人間の王では・・・・・・受け切る事あたわず。

「ワオォォォォン!!(―――天狼星抜刀牙!!)」

 ◆◆◆

聖杯戦争が終わりを告げる。
消える者は消え、残る者は日常へと帰っていった。
やがて時は経ち、5月・・・遅めの春が訪れた衛宮邸では。

「わーい、セイバー、散歩に行こう♪」
「わう♪(イリヤ♪)」
「あ、イリヤ、出かけるんなら俺も行くよ。丁度夕飯の材料を買いに行こうと思ってたところだし」
「わうわう!(たまには生肉を食べたいよ、シロウ!)」

すっかり飼い犬が板に付いたセイバーが居ましたとさ。

おわり


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