――認めよう、俺は総てを憎んでいた。
(殺すッ……! 殺すッ……!)
憎悪に心を滾らせて、射殺す瞳を世界に向ける。
もっとも、俺の“世界”は極めて狭い。十年の間を過ごし続けてきたのは、この怨嗟に満ちた空間だけ。憎悪と狂気が渦巻く中で、生命を吸い取られるだけの日々を過ごしていた。
……俺は、もはや自分の名前すら覚えてはいない。誰にも呼ばれる事の無い名前は、ほんの数年で磨耗した。
そう――もう十年の間、俺は自分の名前を呼ばれる事すら無かったのだ――
どうして、こうなったのだろうか――
無限の激痛が降り続く中で、俺は過去を幻視する。
十年前まで、俺達は平凡な日々を過ごしていた。
両親と弟の四人暮らしで、平凡だが満ち足りた日々を過ごしていた。
だが、それは何の前触れも無く壊された。
そう、今でも俺は憶えている。この地獄に繋げられるまでの記憶は、今でも俺の内で鮮血を流し続けている。
何故ならば、俺には憎悪しか無かったのだから。この暗闇に満たされた空間で、俺は憎み続ける事しか許されなかったのだから。
だからこそ、憶えている。その憎悪だけを糧として、俺は自分を保っていた。
……あの総てを焼き尽くした黒い太陽を、俺は忘れ去る事が出来ていない。両親が死に逝く姿と共に、俺の記憶に魔剣の鋭さで今も突き刺さっている。
だが、何よりも忘れる事が出来ないのは――
「ほう……まだ、そのような目で睨む気概を残しているとはな……」
(言……峰、綺麗ッ…………!)
自分を含めた惨劇の生き残りを、地獄に連れ去った男の存在だった――
『父さんも、母さんも、みんな死んじまったんだ……!』
そう言った自分に、神父は言った。
『今日から、この教会に君は住むんだ』
――住む、だと?
笑わせてくれるな、糞神父。貴様は俺達を教会に住まわせる気など無かった。
『なに、心配は要らない。君の友達も一緒だからな、怖れる事は何も無い』
――友達も一緒、か。
確かにそうだろうよ、貴様の相棒にとっては大切な“餌”だからな。命を吸い取れる生贄の羊は、一匹でも多い方が得だろうさ。
『やめてっ! やめてよおっ……!』
泣き叫ぶ俺達に、貴様達は言ったんだ。
『どうだ、ギルガメッシュ。これだけの生贄が集まれば、現界に支障は無いと思うが?』
『フン、質は悪いが量は問題無いな。喜べ、雑種ども。貴様らの命は、王である我が使ってやる』
まるで家畜でも見るように、貴様達は蔑みの目を向けたんだ……!
(殺すッ…………! ブチ殺してやるッ…………!)
「……純粋な殺意に澄んだ目だ。その目で私を見てくれる者は、もはや君しか居なくなったな」
周囲の棺を見下ろしながら、神父は俺に向かって言う。
……ああ、そうだ。俺を除いた連中は、もはや呻く事しか出来なくなっていた。あのギルガメッシュとか言う男に命を奪い続けられ、絶望に心を囚われてしまった。
ずっと前は、あんなにも自然に笑い合えたのに――――
「ご……ど、みッ……! ね゛ぇッ…………!」
怨嗟の声を絞り出し、ありったけの呪詛を言葉に込める。
――だが、それは神父に突き刺さりはしない。いくら憎悪を向けた所で、それは必殺の刃にはならない。
(毒が欲しい…………!)
だからこそ、俺は思う。
(剣が欲しい、斧が欲しい、槍が欲しい、弓が欲しい、銃が欲しい、鎌が欲しい、鞭が欲しい、力が欲しいッ…………! この野郎をブチ殺せるだけの、ありとあらゆる武器が欲しいッ…………!)
だからこそ、俺は願う。
(殺させてくれ、この男をッ……! 俺にッ……! 俺に、殺させてくれッ…………! 神でも、悪魔でも、死神でもいいっ……! 命なんか、くれてやるッ……! 地獄にだって、行ってやるッ……! だからッ……! だから、俺に力をッ……! 総てを殺し尽くせる力をくれッ……!)
そして――
「なにっ……!?」
だからこそ、世界は俺に応えたのだ。
劫ッ――――!
……俺の身体を中心として、やおら暴風が吹き荒れる。
「馬鹿なっ……! 第八のサーヴァントだとッ……!?」
それは烈しい閃光を伴う、瘴気混じりの竜巻だった。嵐の乱舞に打ち付けられ、地下の空洞は混乱に陥る。
そして――
「――くすくす。い〜ですよ、マスター。貴方の憎悪、貴方の絶望、貴方の狂気、貴方の殺意。その全てを受け止めて、私は貴方の牙になります」
嵐を挟んだ向こう側から、少女の声が響き渡った。
あとがき
……やっちまった。今後の予定も立てとらんのに、ノリで書いた作品を投稿してしまった。反響が大きければ続きを書きますが、現時点では読み切りの予定。
ちなみに主人公ですが、一応解説しときます。
セイバールートに登場した“ギルガメッシュのエサ”で、本名は不明。衛宮士郎と同じく十年前の事件を生き延びたが、言峰に騙されて生命力を吸い取られ続けていた。
十年に渡って生命力を吸い取られ続ける事が、仏教的な苦行の効果を果たしたらしく、感情の爆発で“力”に覚醒。純正の魔術師ではなく、異端の能力者として目覚める事になる。
おまけにサーヴァントですが、一応解説しときます。
真名は秘密、クラスはジェノサイダー。自由奔放を絵に描いたような少女で、殺人に快楽を見出す異常者。主人公の歪んだ心が触媒となり、また主人公の境遇がアンリ・マユと共振した事によって、イレギュラーのサーヴァントとして呼び出される事になった。
――以下、能力表。
真名:??? CLASS:ジェノサイダー
性別:女性 身長・体重:143cm・31kg
属性:混沌・狂
筋力:E 魔力:C
耐久:D 幸運:A++
敏捷:A+ 宝具:C
[クラス別能力]
・異常思考:A
理性的な狂気。正常な判断力と狂人の思考を併せ持ち、それを自在に使い分ける。ランクの上昇に伴って、殺戮行為に属するスキルの性能が向上する。
・大量虐殺:C
大量虐殺を行う事で、基本的な能力の向上が可能。殺戮ランクCの場合は、合計で三回の能力強化を行える。なお、能力強化の割り振りは任意で行われる。