Fate / Next Legend  4章.剣の帰還  (M:セイバー 傾:ほのぼの?)


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1: ふぇい  (2004/04/06 23:28:30)[fay at mxi.netwave.or.jp]

Fate / Next Legend


4章.剣の帰還

ア ヴ ァ ロ ン
「全て遠き理想郷」

 士郎のイメージは完璧だった。
 自分の半身だった存在を間違えるはずがない。
 だが何故か脳裏に現れたのはそれとは全く違うモノ、いや物では無く人。
 いや人と呼べるかどうかも怪しい。なぜならそこに現れた人影は目の前で猛威を振るおうとしていた魔術を瞬く間にかき消してしまった。
 まるで何事もなかったかのように。
 その姿は甲冑に身を包んだ美しい蒼銀の騎士。たとえ剣を持っていなくともその存在そのものが騎士であることを表していた。

「な!何者だ」
「魔術師か・・・士郎を傷つけようとしたな」

 目の前の事態を理解できない魔術師、そしてあり得るはずのない光景に立ちつくす士郎、そんな二人を尻目に現れた白銀の騎士は周囲を見渡すと魔術師に襲いかかった。

「!!!ダメだ、セイバー殺しちゃいけない!」
「手加減ぐらい出来ます」

 やっと状況が飲み込めた士郎はとっさに制止するが、その時には既に魔術師の腹にセイバーの拳がめり込んでいた。
 セイバーは言葉通り手加減していたのだろうが、それでも下手すれば内臓を痛めるぐらいしているかも知れない。
 しかし、もしも本気で殴っていれば腹に大穴が開くどころか体が上下に真っ二つに千切れていただろう。
 セイバーにはそれだけの力がある。いや、あったはずだ。
 シロウはその姿が幻ではないかとセイバーに近づくとその頬に触れた。

「・・・・・・ホントに・・・セイバーなのか?」
「失礼ですね、私が他の誰に見えますかシロウ?それとも私のことなど忘れてしまったのですか?」

 いきなり頬に触れられたセイバーはさすがに驚いたのかその頬を真っ赤にして抗議しようとした、しかし自分を見るシロウの表情をみるとそれ以上何も言えなかった。
 無理もない。別れの時、士郎には苦渋の選択をさせてしまった。
 もちろんセイバー自身も悩んだ末の答えだがそれでも士郎の気持ちを考えればずいぶんと身勝手な分かれ方だった。オマケに別れ際に最後と思って告白までしたのだ、こうして向き合うとあの時のことを余計に思い出してしまう。
 そして、もしかすると「嫌われたかもしれない」と今になって急に不安がこみ上げてきた。
 自分勝手な頼みを押しつけて去っておきながら、都合がよくなると戻ってきたのだ。
 愛想を尽かされていてもおかしくない。
 だが、全ては杞憂に終わった。

「忘れるわけ無いだろ!・・・でも・・・お前はあの日・・・・・・それに聖剣戦争は終わってサーヴァントはもう召還できないんだぞ・・・・だからお前とはもう二度と会えないと思って・・・」
「ええ、おそらく今の私は・・・・・それより、シロウ」
「ん、なんだ?」
「ただ今戻りました」
「あ、ああ!お帰り、セイバー」
 
 『やはりシロウは変わっていない、私のことを忘れないでいてくれた』
 後はもう一度受け入れてもらえるかどうか心配だったが、士郎はかつてと同じように暖かく迎え入れてくれた。
 そして士郎が差し出した手を取るセイバー、二人はお互いに無意識に近づいていく。

「何で・・・セイバーが?」
「・・・・・・シロウを取るな〜〜〜」
「と、遠坂!」
「凛?それにイリヤスフィール・・・・はっ!」
 
 凛とイリヤの声で始めて自分たちの状況に気が付くと互いに後ろに飛び退いてしまった。

「シロウはイリヤのだから取っちゃダメ〜〜〜」
「別に良いけど・・・随分と派手にやられたわね。それにしても・・・・・お邪魔だったかしら?」

 シロウとセイバーを引きはがそうと二人のもとへ行こうとするイリヤを後ろから凛が羽交い締めにしていた。
 その凛にしてみても、意地の悪そうな笑みを浮かべている。あきらかに二人を冷やかそうとしているのがミエミエの様子だった。
 
「リ、リン、久しぶりですね。それにイリヤスフィールも・・・」
「あら、ずっと気が付いてくれないから私達の事忘れたのかと思ったわ。」
「そ、それは・・・」
「まあ、いいわ。今はこっちの後始末の方が忙しいから・・・・・・士郎も手伝って」
「あ、ああ・・・遠坂、その・・・」
「詳しい事や挨拶は後、桜が戻ってくるまでに後始末付けないといけないのよ急いで!イリヤは桜の所に戻って足止めして。その間に私たちでこっちは片づけるから・・・・・・セイバーも手伝って!」
「わ、わかりました!」
「はぁ〜〜い、それじゃ、また後でね」

 結局イリヤの足止めが功を奏し、桜が戻ってくるまでに何とか庭に残った魔術の痕跡や室内の足跡は全て消し去り、気絶した魔術師達も後から駆けつけた神父に預け、何もなかったかのように隠し通した。

「セイバーさん?戻ってたんですか!」
「え、ええ、急にこっちに戻れるようになって・・・」
「そうよ、全く急だからって連絡の一つぐらい欲しかったわよね。桜、そんなわけで急遽ご馳走の準備お願いしたいんだけど」
「え、ええ、そうですね、セイバーさんが戻ってきたお祝いをしないと。姉さんも手伝ってくれる?」
「もちろん、士郎も手伝うわよね?」
「あ、ああ、セイバーも長旅で疲れただろう、荷物の片づけが済んだら部屋でゆっくりしててくれ。晩飯はご馳走になるから期待してろ」
「えっ!、え、ええ、わかりました、楽しみにしています。それでは部屋にいますので出来たら呼んでください」
 
 士郎は何とかその場を取り繕ったつもりだが、明らかにうろたえていた。オマケにセイバーも「何故?」と言う態度がモロに出ていた。
 幸いにも桜はそれに気が付かなかった。おかげで士郎とセイバーは余計な疑いをもたれずにすんだ。
 しかし、どうせ後で凛にもっと厳しく追及されるのだ、厄介事が先送りされただけである。

「さて・・・士郎は材料の下ごしらえをお願い。桜は食器なんかを準備してきて、今日は思いっきりご馳走を作るわよ」



 一人居間を離れたセイバーは士郎の部屋の隣、かつて自分に与えられた一室に戻った。
 もとより身一つで現れたのだ荷物など何一つ持っていない。それでも以前に凛にもらった洋服の確認ぐらいはしておかなければならない。

「・・・・・・何もかもあの頃のままですね」

 どうやら士郎はセイバーの衣服に一切手を付けていないようだ、セイバーが記憶していたとおりに綺麗に畳まれた衣服がそこにあった。
 何もかもがあの頃のままだった。
 そんな中一つだけ見なれない物があった。

「こ、これは!」

 いや、一度だけ見た覚えがあった。
 始めて士郎に誘われたデートで一目で気に入ったライオンのぬいぐるみ。結局あの場では買わなかったが士郎はセイバーがいなくなった後でこのぬいぐるみを買ってこの部屋に置いたのだろう。
 何も残さず消え去った主の代わりにこの部屋の主として。
 よく見れば使われていなかったはずのこの部屋もキチンと掃除されている、まるでいつでもセイバーが帰ってきても良いように。

「・・・セイバーいる?」
「え!あ、はい。その声はイリヤスフィール?ど、どうぞ」
「お邪魔するわ・・・」

 ついさっきまで元気いっぱいだったイリヤだが今は少し様子が違っていた。
 何か、悩み事を抱えているような素振りだった。
 
「あの・・・・」
「私の事はイリヤで良いわ。それよりセイバー・・・ううん、単刀直入に言うわ、貴女はもうサーヴァントじゃないのよね」
「え!・・・ええ、今の私はサーヴァントではありません。今の私は・・・」
「そう、それ以上は良いわ。どうせ後で凛の前で説明してもらうから。
 それよりもサーヴァントじゃないのならセイバーって呼び名はおかしいわね?
 ・・・・・・って、アーサーじゃ余計マズイわね・・・」
「・・・・・・アルトリアと呼んでください・・・アルトリア=ペンドラゴン、それが私の名前です」
「わかったわ、それじゃあアルトリアこれからもよろしくね。」
「???え、ええ、こちらこそ・・・」

 そう言うなりイリヤは部屋を出て行った。
 突然のイリヤの行動に驚きつつセイバー、いやアルトリアは何か新鮮な驚きを感じていた。
 今まで「自分はサーヴァントだ士郎達とは違う」と言い聞かせてきたモノが無くなっただけでこうも簡単にイリヤとうち解ける事が出来るとは、そう言えば凛や桜にも当たり前のように接する事が出来た。
 
「私は・・・・・・幸せだ・・・・・・」
 
 どうやら無意識に緊張していたのだろう畳の腰を下ろすとそのまま横になってしまった。

「ベディヴィエール・・・・・・確かにそなたの言ったとおりだ・・・・・・強く願えば・・・夢を見られる・・・・・・」

 やがてウトウトし始めると、何故か自分の最期を看取った騎士の顔が思い出された。
 
・・・・・・・・・
・・・・・・
・・・

「セイバー!おい、大丈夫か?」
「・・・・・・シロウ?」

 どうやらセイバーはウトウトと居眠りをしていたようだ。そして目の前には何故か心配そうに覗き込んでくるシロウの姿があった。

「どうしました?」
「・・・・・・よかった、・・・その、・・・具合でも悪いのかと思った・・・」

 セイバーは理解した。どうやら士郎は自分がいなくなるのではないかと心配していたのだ。
 今までと同じように士郎に心配されていた事がセイバーにはとても嬉しく、うれしさのあまり士郎に抱きついた。
 
「な、セ、セイバー?!」
「・・・・大丈夫、私は何処にも行きません、常に貴方の側にいます。私は貴方を守る剣なのですから。だから・・・」

 突然セイバーに抱きつかれた士郎は顔を真っ赤にして慌てた。
 もちろんセイバー自身も顔を真っ赤に染めていた。それでも自分に何ら恥じる事はない、むしろ誇らしいと思った。
 あわてふためきながら士郎はそのまま身動きが取れずセイバーのなすがままだった。

「ふーん、お熱いのは良いけど、みんなの前でそんな風に見せつけるとどうなるかは覚悟しておいた方が良いわよ」

 その声に驚いて二人は互いの身を離し後ろを振り返った。

「全くミイラ取りがミイラになってるんじゃないわよ!・・・セイバー、食事の準備が出来たわよ」
「え!え、ええ、わ、わかりました!すぐに行きます!」

 そこにはあかいあくまと恐れられた凛の姿があった。
 もちろんその表情はまるで格好の餌食を見つけ舌なめずりでもしそうな雰囲気だった。

「そ、そうだな、い、行こうかセイバー!」

 二人ともギクシャクしながらも慌てて部屋を飛び出した。

「相変わらずなかの良い事で・・・」

 二人とも意識していなかったが、無意識に手を繋いで出て行ったのを凛は見逃さなかった。

「まったく!とんだライバルの帰還ね・・・・・・」




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