Fate / Next Legend
3章.知らせは急に、間に合わない
「さて、必要なのはこんな物かしら? でも懐かしいわねコレ」
自宅に戻ると早速地下の倉庫を物色し始めた凛。
お目当ての物は簡単に見つかったのだが、問題はそれに至る過程だった。
倉庫をひっくり返してみれば昔桜と一緒に暮らしていた頃の品が出てきたり、言峰に師事していた頃の品、さらには大師父が残したと思われる書物まで、不思議な事に訪れるたびにこの倉庫では新しい発見があった。
もちろん一々つきあう必要はないのだが、つい懐かしさや好奇心に引き寄せられてしまう。
「あ、もうこんな時間・・・いい加減切り上げなきゃ」
気が付けば地下に降りて一時間近く経っていた。
さすがに時間をかけすぎたと思い、凛は地下室を出るとすぐに纏めてあったお泊まりセットを手に取ると家を出ようとした。
そこに電話が鳴り響いた。
「もしもし・・・・・・って、珍しいですねお電話なんて・・・」
「いえいえ、衛宮君の家にかけようかと思いましたが、一応こちらに先に連絡しておくのが礼儀と思いましてね」
「そんなお気遣いなさらなくても、それより何かありましたか神父様?」
遠坂邸には滅多に電話がかかってくることがない。
しかもかかってくる数少ない相手は士郎か桜、後はこれまた数少ない友人のひとりである美綴綾子ぐらいである。しかし今回かかってきたのはそのどれでもなく、聖杯戦争の直後頻繁に報告や情報交換をしていた教会の神父である。
言峰の後任としてきた老神父は凛だけでなく士郎やイリヤからも好印象を受けるような出来た人物で、とても言峰の後を引き継ぐ人間とは思えないほどの人物である。
もっともそれだけの人柄だけに聖杯戦争の後始末等を引き受けることになったのだろう。
実はこの神父は凛達の偽装報告にも快く手を貸してくれ、協会・教会の関係者で数少ない凛達の理解者でもあり協力者でもある。
「いえ、つい先ほどですが教会の方から気になる報告を受けたので知らせておこうと思いまして」
「教会からですか?」
「ええ、実は協会、それも時計塔所属の魔術師が極秘裏に日本入りしたという連絡でして、教会を通じて倫敦に確認を入れているんですがその足取りがつかめませんで」
「はぁ、それで・・・・・・まさか!」
電話越しに凛は緊張した。倫敦の時計塔所属の魔術師が極秘で来日のあれば行き先など限られてくる。
順当に考えれば国内最大の霊脈のある蒼崎の管理地、続いてここ遠坂の管理地である冬木市。
後は数年前から怪奇現象の起きている三咲ぐらいの物だろう、他にも霊脈の安定している土地や京都のように街そのものが結界になっているところもあるが今更取り立てて魔術師が見に来るような所でもあるまい
『たしか蒼崎の管理地は現在管理者不在で協会からの派遣と地元の魔術師が共同で管理している。何かあれば協会に連絡が入るはず。三咲もたしか協会が人間を派遣してたって言う噂だし・・・』
そうなると考えられるのはここ冬木だけ・・・・・・
「ええ、私の個人的な考えでは今の日本で時計塔の興味を引きそうな事象と言ったら」
「しかし、報告書は送りましたし、向こうからもこの件はお咎め無しと・・・」
五ヶ月前の聖杯戦争は未だにその爪痕を大きく残している。
柳洞寺を中心にマナが異常なほど濃密な状態だし、新都の中央公園にも未だに怨念が漂っている。
神父からの要請もあり、両方とも凛や士郎・イリヤが定期的に調査しているのだが、何せこの町では60年周期の聖杯戦争が10年という短い期間の間に二度も聖杯が破壊されたのだ前例がない事でまったく予想が付かない。
それだけに冬木の地は国内外の魔術師の注目を集めていた。
「ええ、来日している魔術師達は若手の過激派と言うことらしいです。まあ、若気の至りというヤツでしょうが」
「わかりました。今晩からまたみんなで集まりますので・・・・・・!!!」
「!!!・・・・・・今のは?」
凛にはそれが感じ取れた。そして距離を置く新都の教会でもそれは確認できたようだ。
明らかな魔術の発動、それも強化しかできない士郎にはあり得ない攻撃用の魔術。
どうやら神父の情報も一歩遅かったようだ。
「どうやら遅かったようですわ神父様、衛宮の家で魔術の発動を確認しました!」
「わかりました、私もすぐに向かいますので遠坂さんは先にお願いします」
凛は電話を切ると荷物をそのままにして魔術用の宝石だけを手に取ると全速力で衛宮邸に向かって駆けだした。
「!!・・・・・・誰?」
同じ頃、商店街で買い物をしていたイリヤにもそれは感じ取れた。
この町で魔術を使う人間は限られている。だが皆それぞれに使用は制限しているし世間の目に触れないように秘匿されている。だがこの使用者はそんな気遣いなど無いようだ。
これだけの魔術を使ったのだ少なからず周囲に影響が出ているはず。しかも場所は衛宮の家、今は士郎が一人で留守番している場所。
「どうしたのイリヤちゃん?」
「ごめん桜!ちょっと急用があるの先に戻ってるから」
「ちょ、ちょっと!」
「ゆっくりしてていいから、残りの買い物もお願い!」
そう言うなりイリヤは荷物を持ったまま桜と別れ家に急いで戻った。
『あれだけ派手な魔術発動、凛が気づかないはず無いとは思うけど・・・』
それは正解である。
「イリヤ・・・・桜は?」
「先に戻ってきたの・・・まだ買い物してるわ。それより・・・」
「時計塔の魔術師よ。ちょうど神父様から連絡を受けたところだったの」
衛宮家の門の前でイリヤは凛と合流した。
二人は足を止めずに邸内に進んでいく、そしてすぐに魔術が使われている場所、庭に向かった。
その最中に一段と強力な魔術が展開された、二人の脳裏に最悪の光景が目に浮かんだ。
これだけの威力の魔術、士郎の強化魔術では防ぐ手段がない。しかし魔術発動後の物理的余波が全く感じられない。
そうなると考えられるのは、士郎の奥の手である投影魔術。
そして、勢い込んできた二人の目の前には庭のあちこちには出来たクレーターや焦げ後、そして傷つき倒れた魔術師達が戦闘の痕跡を残してはいたが、既に終わったのか今は静かになっていた。
庭で満足に立っていたのは二人だけ。
一人は士郎、そしてもう一人も凛達のよく知っている人物だった。
だがその人物はここからいなくなった、いるはずがない人物だった。
駆けつけた凛とイリヤに気が付いていないのか士郎はその人物に手をさしのべた。
「お帰り・・・・・・」