「鈴の音、凛々と」短編完結 (士郎×凛 ほの甘風味 お好みで想像を混ぜながらお召し上がりください)


メッセージ一覧

1: Cry wolf (2004/04/06 20:34:10)[jin at miz.st]

ねこ(猫)
家に飼う小動物。形はトラに似て、敏捷(ビンシヨウ)。暖かい所を好み、ネズミをよくとる。また、愛玩(ガン)用。〔ネコ科〕

Shin Meikai Kokugo Dictionary, 5th edition (C) Sanseido Co., Ltd. 1972,1974,1981,1989,1997


猫。
今回の話は、我が家に住む猫の話である。
我が家とはここ、魔都ロンドンにある遠坂の工房兼住居のことである。
その辺の細かいことは本編で語ることにしよう。


「鈴の音、凛々と」 1/3





現在、我が家(というより本来は遠坂の家なのだが)は、諸事情によりセイバーが一緒に住んでいないため、俺と遠坂の二人暮しである。
はじめはそんな環境にお互いどきどきしていたが、もうすっかり慣れてしまった。
それに、遠坂は魔術の研究だかなんだか知らないが、大英図書館につめこんで真夜中に帰ってきたり、うちにいても工房に缶詰になっていたりで、あまり二人きりの時間というのはなかったりする。

───寝室も別々だし……

はっ、いつの間にか関係のない話になってしまった。
さて、そんなこんなで、新しい生活にも馴染んだある日、それは起こった。




事の発端は、いつもどおり、もはや恒例となったルビィアことルビィアゼリッタ=エーデルフィルト嬢との喧嘩───本人たち曰く、礼式にのっとった魔術による「決闘」らしいが、人一人をかるくけしずみにできる魔術を乱発するのは礼節にのっとっていないと思われる───に勝利したことから始まった。
その日、遠坂はいつもより早く、定刻どおりに家に帰ってきた。

「あ、遠坂、おかえり」
「ただいま士郎」

ふんふ〜ん♪
と、でたらめな鼻歌を吹きながら、いかにも上機嫌な様子で帰ってきた遠坂に挨拶をする。

「士郎〜、今日の夕食は工房に運んでくれる? 私はこれから工房につめるから」
「へ? ルビィアとの喧嘩は今日じゃなかったのか? ……あ、それともまさか負けたんじゃ……」
「そんなわけないでしょう! よりによって私があんなやつに負けるはずが、あるわけないでしょう!? それに喧嘩じゃなくて決闘だって、何回言えばわかるの!?」

遠坂は、ルビィアがらみになると気性が激しくなる。
近親憎悪というやつだろう。
……前に口に出して言ってしまい、一週間夢に見続けるほどひどいことをされたので、口に出しはしないが、改めてそう思ってしまった。

「……衛宮君、あなた今、何を考えてるのかな?」

にっこり、と擬態語がつきそうなぐらい完璧な笑顔をしてくれるがしかし、その笑顔がバーサーカーに劣らぬぐらいの殺気を放っている気がするのははたして俺の被害妄想なのだろうか?
くじけそうになる心を必死に保ちつつ、

「それより遠坂、ルビィアとの喧……決闘がおわったのに、何で工房につめるんだ?」
「これよこれ。 ルビィアとの決闘に勝ったから貰ったの」

魔術の基本は等価交換である。
よって、決闘に勝利した以上、「命を救う」という題目でいわゆる「戦利品」をとるわけであり、ルビィアに勝利した遠坂はいつもどおり「宝石」を戦利品として持ち帰った。
……まぁ、そんなものなどなくても命をとるようなことはしないだろうが、その辺は変にプライドの高い彼女らのことである、しっかりとしているのであろう。
その宝石は、なんという名前かはわからなかったが、猫の目のように妖しく輝いているのが妙に気になった。

ともかく、遠坂はその宝石を弄り回すのに工房につめるようである。
普段は夕食をゆっくりとったあと、工房に入ってゆっくり宝石を干渉するのだが、どうせルビィアになにか吹き込まれたのであろう、しかたない、今はせっかく上機嫌なんだし従うとしよう。

「わかった。 じゃあ、夕食は何かリクエストあるか?」
「ん〜、そうねぇ……士郎の作るものは何でもおいしいから悩んじゃうわ」

……嬉しい事を言ってくれる。
言ってくれているのだが、それはつまりいつもの料理よりまずくてはだめだし、むしろ「おいしい」と言わせるぐらいの料理でなければ料理人としてのプライドが許さない。
……はっ、俺はいつから料理人になったんだ!?
そりゃあ、たしかに最近ルビィアの家であたらしくはいってきたメイドである知り合いと、料理の研究をしているとはいえ……
そんなことを考えていると、遠坂は俺が料理の献立に悩んでると思ったのか、

「そうねぇ、今夜は魚が食べたいわね」

といってくれた。
おかげで頭がぱっと冷蔵庫の中身から作れる魚料理をはじき出すために自動検索してくれる。
いやはや、慣れとは恐ろしいものだと改めて思った。

「わかった。 じゃあ、後で持ってくよ」
「ん、わかったわ。 それじゃ、期待して待ってるわね」

そういって、遠坂は工房のほうへ廊下を歩いていった。
「期待して」のところが妙に強調されていたのは、おそらく気のせいではないだろう。

「………………しかたないなぁ、あんな顔で言われたんじゃ、どうしても手抜きなんかできないじゃないか」

苦笑しながらエプロンをつけ、戦場に赴いた。






「ご馳走様でした」
「お粗末さまでした」

工房の中においてあるテーブルから立ち上がり、食べ終わった皿を重ねる。

「う〜ん、士郎また腕を上げたわね?」
「ああ、最近はルビィアの家で修行してるからな」

皿とコップを盆にのせながら言うと、遠坂のほうから刺さるような視線が……

「……遠坂?」
「……ふんっ! なんでもないわよ! ただ、どっかの誰かさんが鼻の下のばしてるなぁ〜って思っただけよ!」
「なっ、なんだよ鼻の下のばしてるって!」
「のびてました〜。 士郎ってば、けだものの上にむっつりすけべだったのね〜、きゃーおまわりさ〜ん、襲われる〜」

ジト眼で睨まれてひるんだところに、さらに追い討ち。
あいかわらず遠坂には勝てない……けど、なんかこのまま言われ放題って言うのも癪に障る……何か言い返せないか……

「む、けだものって、あれは遠坂がわるいんだろ!」
「あら、心外ね。 私が何をしたって言うのかしら? 私のことを力ずくで汚しておいてそんなこというなんて、衛宮君、ひどいわ」

よよよ、と泣き崩れるあかいまおう。
絶対、手で押さえた口元と目は笑っているに違いない。

「それはその……その、と、遠坂がきれいでかわいかったからその、つい夢中で……って、あのときのことは謝っただろ!?」

真っ赤になって言い返す。
反撃のつもりが、あえなく自爆。
さぁ、なんとでもいいやがれ、と覚悟して遠坂のほうを睨むと……
───遠坂も真っ赤になって目をそらしていた。
どうやら、自爆の余波を受けたらしい。

「……遠坂はゴーストタイプじゃなかったのか……」

む?
何か変な声が聞こえた気がするんだが……
気のせいだろう、仮にも魔術師の工房だ、誰かいればすぐわかるだろう。
だからいま部屋の中には二人きり……ふたりきり……フタリキリ……
本日の自爆第二号。
はたからみたら、さぞかし面白いだろうな〜、なんておもいつつ、向き合って二人して赤面。


なんとか落ち着いて、無難な話題に変更してみる。

「遠坂、宝石のほうはどうなんだ?」

そういって、ペンやコレクションの宝石や注射器がのった作業台を指差す。
宝石の横には、その宝石の特徴を調べたのか、専門的な単語がごちゃごちゃと並んでいた。

「ああ、それね。 ええ、魔術が通りやすくて、とっても素直な宝石よ」

うっとりしながらそういって、遠坂は手に持った宝石を撫でた。
……ちょっとうらやましいと思ったのは内緒だ。





洗い物を片付け、食後の紅茶を入れて遠坂の所へ行く。
久しぶりにゆっくりできるのだ、少しぐらい邪魔してもかまわないだろう。
……いや、決して宝石に嫉妬してるなんてことは、まったくないぞ、うん。

「と〜お〜さ〜か〜」

コンコンコンコン、と音の数だけノックする。
と、今手が離せないから勝手に入ってきて、と言う声が扉越しに聞こえてきた。
軽く深呼吸してから、ドアノブに手をかける。
まわす。
押す。
部屋に入ると、遠坂が注射器で自分の血を抜いているところだった。

「ちょっとまってね、いま今日の分の魔力を宝石に移しちゃうから」
「ああ、まってるから怪我しないようにな」

テーブルに砂糖の壺やカップを載せた盆を置いて、遠坂の作業を見る。
どうやら、今日持ってきた宝石にためしに魔力を込めてみるらしい。

血がぽうっ、とかすかに光った後、宝石に吸い込まれるように消えていき………………

突如として、宝石から光がほとばしった。
びっくりして宝石を落とし、後ろ向きに飛んで離れようとする遠坂だがしかし、光はまっすぐ地面から遠坂につきすすみ、彼女を包み込む。
あわてて駆け寄ったが、光が爆発して、そのまま意識が遠くなってしまった。

落ちる間際に思ったのは、やっぱり……紅茶こぼれてないかなぁ、絨毯にしみると大変なんだよなぁ、といったことだった。


*あとがき*

はじめに謝罪を。
すみません。
え〜、長編のほうが滞っているのに、外伝的位置付けの短編をやるなんて何様のつもりか!?
といわれそうですが、(っていうかそもそも長編のほうの存在を知っている人がいてくれるのかが疑問ですが(涙w)
ごめんなさい、この短編は今日明日で終わります。
どうしても書きたいんですw

2: Cry wolf (2004/04/06 20:35:18)[jin at miz.st]

「鈴の音、凛々と」 2/3


目を開けると、見知らぬ天井があった。
真っ白で、妙に目の辺りが重い。
焦点が合わない。

「………………見知らぬ天井だ……」

寝たまま、頭を軽く振って、もう一度目を開く。
……今度は、何度か見たことのある、遠坂の工房の天井が見えた。
……なんてことはない、どうやら顔の上にタオルが落ちてただけの話である。
しかし、なんで俺はこんなところで寝てるんだろう?

1.食事に睡眠薬が混ざっていた
2.食後の運動を遠坂と一緒にした

……む、2はなかなか魅力的だが……
って、ナニ考えてんだ俺は〜〜〜!!!!
色即是空、ぼんのーたいさん、喝!

さて、冷静になって考えてみよう。
俺は寝る前に何をしていた?
───ご飯を食べて───洗い物をして───紅茶を淹れて───遠坂の部屋に来て──────
あっ!!!

そうだ、思い出した、宝石が───遠坂がっ!!!
がばっ、と起き上がって、あわてて立ち上がる。
遠坂はどこにいるんだ!?
無事ならいいけど、あの光は間違いなく魔術、それも多分宝石にかかったトラップ、おそらくは呪いの類だ。

「遠坂っ!」

床に倒れている遠坂に駆け寄り、揺する。
ううん、と呻いて目を開ける遠坂。

「遠坂! 大丈夫か!?」
「ん〜、あれ、士郎? なんで……工房?」

寝起きでぼんやりしているのか、ボーっとした顔でボーっとした事を言う。
───そんなとこが可愛いんだよなぁ、と見惚れてしまったのは内緒だ。Eyes only級に内緒だ。

「なんで私……工房で寝てるの? またやっちゃったかな?」

あちゃー、といいながら体を起こす遠坂。
じゃなくて!

「違う! 遠坂があの宝石に魔力通して、それであれが……」
「………………あっ!!」

ようやく頭が起動したようだ。
一瞬で魔術師の顔に変わり、自分の体に魔術を流している。
……俺は床に落ちた宝石を拾い上げた。
宝石はただ透き通った黒い石に変わっていたが、質感は変わっておらず、どうやら中身(魔術)が損なわれただけのようだ。
宝石を机において、どうやらチェックし終わったらしい遠坂のほうを見る。

「遠坂、大丈夫なのか?」
「………………」
「おい、遠坂?」
「………………」

難しい顔で考え込んでしまった遠坂の目の前で手を振る。
……む、無視された。
ちょっとむかついたので、遠坂の後ろでふらふらとゆれている尻尾を引っ張ってみる。

「ひゃぅ!? な、な、なにすんのよあんたはいきなり!」

どうやら戻ってきたらしい。
反応が面白いので、もうちょっといじってみる事にした。

「ひゃっ、ちょっ、やめっ、ふぁっ!」

毛並みに沿って、根元から先っぽへなでてみる。
遠坂は面白いぐらいに反応して、そのたびに尻尾がピンとのびる。

………………あれ? なんかおかしくないか?
……………………なにか、忘れている。
…………………………そう、大事な、何かを。

そう考えながらも、俺は遠坂のお尻から生えた尻尾を撫で続けていた。

──────尻尾?

まじまじと、手の中でびくびく震えている尻尾を見つめる。
尻尾。
動物の しりから後方に細長く伸び出たもの……って、そんな事はどうでもよくて。

「な、な、な、と、遠坂! お前何で尻尾なんか!!」

艶の入った顔で、妙に息を上げている遠坂に聞く。
遠坂はぐったりしていながらも、深呼吸をして息を整えている。

「………………どうやら、これが呪いの効果みたい」
「─────────は?」
「だ・か・ら! 宝石にかかった呪いのせいで、尻尾が生えちゃったみたいなの!」

シャー!
と俺を威嚇する遠坂。
……なんだか猫みたいだ。
というか、猫だ。
尻尾が。

「………………なんで?」
「そんなの知るわけ無いでしょうっ!! ルビィアゼリッタのやつが何か性質の悪いトラップを宝石に仕掛けたに決まってるわ!」

そういって、どすんどすんと足音を立てながら、扉のほうに歩いていく遠坂。

「遠坂、どこいくんだ?」
「きまってるでしょう!? ルビィアゼリッタの家に文句言いにいくのよ!」
「ルビィアの家に行くって、おまえその格好でか?」
「あ……」

現在、遠坂の尻尾は彼女の私服のミニスカートの下から出てきている。
ついでに言うと、しっぽが立っているせいでスカートが持ち上げられている。

「でっ!」
「衛宮君? あなたいまど・こ・を、見ていらっしゃったのかしら?」

遠坂、消しゴムを飛ばしながら言うな。
ともかく、遠坂の今の格好は傍目から見て、おかしい。

「大体、もう夜の8時だ。 こんな時間に行く事も無いだろう」

ご飯を食べたのが6時半、食後に部屋に入ったのが7時ちょっと前だから、約1時間ほど気を失っていたようだ。
それもそうね、とうなずいてしかしルビィアへの怒りをあらわにする遠坂を前に、ため息をつく。

「とりあえず、ルビィアの家に電話してみよう」

そういって作業台の上にある受話器をとり、ルビィアの家の電話番号を押す。
はい、エーデルフィルトでございます、と聞きなれた声が聞こえる。

「あ、ルビィアいる? ちょっと変わってくれないかな?」
「はい、ご主……ルビィア様ですね、少々お待ちください」

……ちょっとまて、今何か変なことを口にしなかったか?

「はい、ルビィアゼリッタですが」
「おいルビィア! お前宝石に何をしたんだ!」
「あらシロウ、そんな声を荒げなくてもきちんと聞こえますわ」

ルビィアは相変わらず余裕綽々といった声で切り替えしてくる。

「いいから、そんなことより遠坂に何したんだよ!」
「あら、やっぱりそのことでしたのね。 今日お渡しした宝石に、魔術が通ると発動する呪いをかけておいたんですの」
「なっ!」

そんな、物騒なことを、なんでもない事のように……

「そうそう、誤解を招かないようにいっておきますが、私の呪いはあまり物騒なものではございませんわ。
私のかけた呪いは"その人の本質を表す動物と同化させる"といったもので、その動物のシンボルといえるパーツがつきますの。
ミストオサカはどうなりまして?」

……まぁ、確かに遠坂は猫だが。

「……ん、ああ、猫の尻尾が生えた」
「………………」

と、ルビィアが黙り込んでしまった。

「ルビィア? どうかしたか?」
「……いえ、なんでもありませんの」

とても不機嫌そうな声が返ってきた。
なにか不愉快にさせるような事を言っただろうか?

と、受話器の向こう側から、くすくすという忍び笑いが聞こえてきた。

「先輩、ルビィア様はご自分でその呪いをお試しになったとき、やっぱり猫になったんですよ♪」
「ちょっ、サクラ! 余計な事は言わなくてよろしいのですよ!」
「やっぱりルビィア様と姉さんは似たもの同士……きゃっ!」

桜の声が遠くに行ってしまった。
……遠くのほうで、「サクラ、マスターのプライバシーも守れない悪いメイドには、お仕置きです」とか「ごしゅじんさまぁ、やめてください……」なんていう鼻にかかった声が聞こえたとか聞こえないとか……
そうじゃなくて、俺が聞きたいのは!

「とにかくルビィア! どうすりゃ治るんだよ!」
「あら、シロウ、まだいらっしゃいましたの。 呪いは一時的なものですので、半日もたてば解けますわ。 それよりシロウ、可愛い仔猫ちゃんはきちんと愛でてあげなくてはいけませんわよ? そうですわね、首筋や背筋、尻尾などが弱点でしょうか?」

……は?
何を言っているんだ、彼女は。

「シロウ、聞いてらっしゃいますの!?」
「あ、ああ。 聞いてるぞ」
「せっかくの貴重なシチュエーションですもの、これはチャンスですのよ? 最近ミストオサカとの時間が減っているでしょう? これはシロウへのせめてもの罪滅ぼしですわ。 有効活用してくださいね?」

言外に、「私からのプレゼントなのですから、きちんと受け取ってくださいますわよね?」といったプレッシャーが伝わってくる。
つまり彼女は……

「シロウ、聞いてますの? めったに無いチャンスなのですから、きちんと女の子として可愛がってあげなければだめですわよ? あ、それともシロウは無理やりするのがお好きですの?」
「な、ば、ば、ば、ばか! そんなわけないだろ!?」
「ええ、シロウにそんな度胸があるようには思えませんもの。 それでは、私は私の可愛いペットをすこし躾けなければいけませんので。 よい夜を」

がちゃん。
つーつーつーつー。
………………どうでもいいんだけどさ、ルビィア。
電話しながら桜……というかメイドに躾をするのはどうかとおもうぞ。
桜も変わったなぁ……

はぁ。

「士郎? ルビィアは何だって?」

むす〜っとした顔でこちらを睨んでいるあかいあくまに声をかけられて、やっと彼女がいた事を思い出す。
なんか、ルビィアへの怒りとかもろもろがたまって、あくまからまおうにランクアップしてそうだけど。

「ああ、呪いは一時的なもので、半日もたてば消えるらしい」
「ふーん、そうなの。 それだけを聞くのに、ずいぶんと時間がかかったのね」

ジト目で睨んでくる。
………………遠坂、お前機嫌悪いのは単に

「嫉妬してるのか?」
「……っ!! そんなわけ無いでしょう!? ただ士郎は私のものなのに、ルビィアと親しげに話したり、ルビィアに莫迦にされたりしてるのが気に食わないだけよ!」

ふん、と顔を背ける遠坂。
───耳まで真っ赤なのは気のせい、ということにしておこう。
う〜ん、怒鳴られたんだけど、なんかいまいち迫力に欠けるのは、やはりそのせいかな。
「士郎、なにニヤニヤしてんのよ」

むー、とうなりながら半眼で睨みつけられる。
けど、ぜんぜん怖くない。
むしろ、

「いや、可愛いな、と思ってさ。 笑ってるときも可愛いけど、そういう表情が遠坂らしくて、俺は好きだ」
「なっ!!!」

ぼん、と音を立ててショートする遠坂サン。
ゆでだこが一匹できあがりましたよ。

「〜〜〜〜〜〜!!」

最近、どうすれば遠坂をやりこめられるか、コツがつかめてきた。
好きな子をからかうって、楽しい。
なんとなく遠坂が俺やセイバー、桜をからかう理由がわかった気がする。
………………わかりたくなかった気もするけど。

しかし、ルビィアにああいわれたから、というわけではないが、せっかくのチャンスをボーっとすごすわけにもいかない。
アームチェアに腰掛けて、真っ赤になって活動を停止した遠坂を抱き寄せる。

「え、し、士郎?」
「ん? どうかした?」

びっくりしている遠坂を引っ張って、ひざの上に座らせる。
そのまま遠坂の上体を引きよせ、俺の胸に寄りかからせる。
体位で言うと、対面座位っていうやつかな?
こうすると、遠坂が上目遣いになって、可愛い。
遠坂の、宝石みたいできれいな目がのぞきこめて、うれしい。

「ちょっ! 士郎、いきなりなにすんのよ!」

あわててあたふたとしている遠坂と、いつものとギャップが妙に可愛い。
遠坂の、こういう面を見られるのが俺だけだと、ちょっと優越感に浸れる。

「ん? なに、って何?」
「〜〜〜〜〜!!! だ、だから、そ、その、なんでいきなりこんなっ!!」
「なんでって、いやか?」

むぅ、遠坂が嫌がる事をするわけにはいかないか。
遠坂が感じられて気持ちいいのだが。

「え、ええええ、えっと、その、いやじゃ、無いけど……」

その、はずかしいし、と、ゆびをつきあわせてもじもじとしている遠坂からは、いつもの覇気というか、元気がなく、しおらしい。
どうやら猫の呪いは外面だけでなく内面も仔猫にしてしまったらしい。

「俺はこうしてたい。 遠坂が感じられて気持ちいいし、それに猫はひざの上に乗せるのが普通じゃないのか?」

違ったかな?
たしか藤ねぇはそういっていた気がする。

「え、いや、そ、そうだけどさ、その、士郎から、こ、こんな大胆に、その……してくるのって……」

はじめてだから、と、真っ赤になってうつむきながら言う遠坂が、たまらなく可愛い。
そりゃ、普段の俺なら絶対にこんな事はできない。
けど、ルビィアに背中を押されたのとか、仔猫みたいになった遠坂とか、いろんなものがあって、今日はなんだか平気みたいだ。
なにより、こんなに可愛い仔猫が目の前にいるのに、何もできないなんてばからしい。

「遠坂が可愛いからいけないんだ」

……前言撤回、やっぱり恥ずかしいものは恥ずかしい。
顔が火照るのがわかる。
それでも、まっすぐ遠坂を見て言う。

ぎゅっと、背中に回された腕に力がこもる。

「士郎、えっと、その、頭、撫でてくれない?」

上目遣いで遠坂に見上げられて、頼まれる。ちょっと不安げな表情。
ただでさえ可愛いのに、そんな表情で、それも至近距離で言われたら、致死量どころか軽く12回は死ねる。
バーサーカーも一撃か。
腕を上げて、そっと頭に載せると、遠坂が一瞬びくっと震えた。
それを見ながら、きれいな黒髪を優しく梳く。
む、やっぱり遠坂の髪の毛は気持ちいい。
髪の毛には思念が残留しやすいため、魔力のとおりがいいのだが、それとは別のレベルで男を惑わせる魔術がかかっているんじゃないかと、疑いたくなる。

「ふっ……ぅん、はぁ……」

気持ちよさそうに声を上げて、俺のひざの上で器用に丸くなる遠坂。
尻尾は下にたれていて、ゆっくりと振り子運動をしている。
これでネコミミだったら本当に猫だな。

……ネコミミの遠坂を想像してみる。
遠坂の頭の上に、三角の……サンカクの……さんかくの………………あ。
だめだ、どうしてもネコミミにならない。
なんていうか、その…………角、になってしまう。
だめだ、あきらめよう。

はぁ………………

「しろー? どうしたの?」

俺がもらしたため息に反応して、遠坂がもぞもぞと動き、眠たげな目で見上げてくる。
………………だから、それはやめてくれ、理性が崩れ落ちてケモノが出てきてしまう。

そんな自分をごまかすために、遠坂の髪を梳いていた手を動かし、背中を撫でるように動かす。

「ひゃっ……っ! ひん!!」

と、いきなり背筋をピンと伸ばして奇声を発する遠坂(猫)。
ごん、と鈍い音がして、遠坂の頭が俺のあごとぶつかった。

「いってぇ〜……いきなりな……」

にすんだ、よ、と続けようとして、

「いきなりなにすんのよこのえっちばかへんたいとうへんぼく!!!」

耳元で怒鳴られた。

──────きーーーーーーーん───

あぁ、耳鳴りがする。

「な、変態って、ただ背中撫でただけじゃないか!」

むー、という顔で睨みつけてくる遠坂に文句を言う。

「それがいけないって言ってるのこのバカ!」
「む、バカは無いだろうバカは。 大体、背中撫でるのがなんでわるいんだよ!」

あごにクリーンヒットを喰らい、さらに追い討ちで耳鳴りまでうけて、さすがにちょっと不機嫌である。

「なんでってそんなのもわかんないわけ、この朴念仁!!! そんなのかんじ……ちゃ、う、からに……」

言葉の途中で我に返り、一気に赤くなる遠坂。
うん、ここぞといったときにへまをする呪いはこんな時でさえ発動するらしい。

「あ、そういえばルビィアがそんなこと言ってたな……」
「な、どういうことよ?」
「いや、だから首筋とかが弱点だ、とか……」

そこまでいって、ちょっといいことを思いついた。
と、遠坂は俺の笑顔に何かを感じたのか、びくっと震える。

「遠坂、ちょっとやってみたいことがあるんだけど、いいか?」
「嫌よ」

即答デスカ!?
でもな、遠坂。
そんな泣きそうな目で上目遣いににらまれても怖くないし、むしろいじめたくなるんです。
うん、普段からかわれているお返しだ。
それに、猫はきちんと毛並みをそろえるために、撫でてあげないといけないのだ。
というわけで、目標ロックオン。
撫で撫でスタート♪

「ふぁっ!?」
「なに変な声出してんだ、遠坂。 髪なでてるだけじゃないか」

遠坂の髪はやわらかくてさらさらだから、やっぱりとりこになってしまう。
髪を梳いて、同時にあいている左手で遠坂の体をさっきの位置に戻す。

「む〜〜〜〜〜」

なんか不服ね、といった表情で睨んでくる遠坂。
髪を梳いていた手でそのまま背中もなでる。

「ひぅっ!!」

遠坂の体がびくっと跳ねるが、左手で抑えて、そのまま何度も撫でる。
そのたびに遠坂の体がびくびく震えて、面白いぐらいの反応が返ってくる。

「ふっ、ぅん、ふぁ、ぁん……」

遠坂の息が少しずつ上がってくる。
顔も紅潮してきて、声を漏らさないようにがんばっているために、余計真っ赤になる。
刺激に慣れてきたのか、遠坂の反応がようやく穏やかになってきたので、首を曲げて無防備な首筋にかるくキスをする。

「ひぁぁぁぁっ!!!」

こらえきれず、嬌声を上げる遠坂。
かまわずに、痕がつかない程度にかるくバードキスをする。

「ひぁっ、ふぁん、うくっ、ふぁあ!」

一度もれてしまった声はもう抑えられないようだ。
俺の背中に回した手をぎゅっと締め付けて、顔を胸に押し付けて我慢しているが、それでも普段より高いソプラノが聞こえる。

「ふっ、くっ、はっ、ぅぅ、ひぁ……し、ろうっ、ちょっ、やめっ、ほん、とにっ……」

過呼吸になって真っ赤になった顔をあげる遠坂。
目がうつろになってきている。

「いいの?」
「えっ?」

俺の主語の無い問いに、ぽかんとする遠坂。

「だから、やめちゃっていいの?」
「〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!」

やっと意味に思い至ったか、これ以上赤くなるはず無いだろう、と思っていた顔が、さらに赤くなる。
トマトのように赤く、という表現はよく使われるけど、この場合は赤信号のほうが似合ってるな、などと冷めた自分が言う。

「ぁん、で、でもっ、なんかっ、こっ、わいよっ、しろっ……なんっ、かっ、いつっ、もと、ちがっ……」

つつっ、と人差し指を背筋に這わすと、遠坂がびくん! と震えて、尻尾がぴんと伸びる。
そんな遠坂をみて、言葉を口にする。

「しかたないだろう、普段猫かぶってるやつが、偽装といたらもっと可愛い仔猫だったんだから。 これでどうかしないほうがおかしいだろ」
「〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!!!」

あ、遠坂がショートした。
自分でも、今の言葉はちょっときざかな、なんて思ったりもしたが。

赤くなってとまりながらも、背中をなでるとびくっと体を振るわせる遠坂。
………………そろそろ、いいかな?

背中をなでていた手を遠坂の頭まで戻して、髪を梳き、背中をなでたあとそのままピンと立ち上がっている尻尾を擦った。

「っっ!!! ぁぁぁぁああああああん!!!!!!」

びくんびくん、と体を跳ねさせて、もはや悲鳴に近い声を上げる遠坂。
……どうやら、イッてしまったみたいだ。
………………でも、なんていうかその、尻尾の手触りが気持ちよかったので、もう一度根元から撫でる。

「ぁぁぁぁぁぁぁぁぁ〜〜〜〜〜!!!!」

びくっびくっ、とのけぞる遠坂。
……なんていうか、面白いかも。
楽しくなったので、なでているだけだった右手を、親指と人差し指で輪を作って尻尾の根元を優しく握り、そのまま一気に擦る。

「ふぁぁぁぁぁぁぁ〜〜〜〜〜〜〜〜ん!!!」

のけぞりすぎていすから落ちそうになった遠坂をあわてて抱き寄せ、左手で背筋を撫でながら体をささえ、右手は尻尾を擦る。

「ひぁぁぁぁぁぁ〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!!!」

面白いぐらいに反応を返してくる遠坂。
というかもはや、ただイキ続けているだけのようだ。
……でもまぁ、面白いし。
まだ続けようか。

猫の尻尾は、気持ちいいということをはじめて知った。
そんなことをのほほんとかんがえながら、腕の中でびくんびくんとはねる遠坂を見続けていた。



*あとがき*

………………これは果たして、士凛なんだろうか?
性格が違う気もするんだが………………(汗
まぁ、遠坂が仔猫っぽかったり、士郎がサド気味だったりするのは、呪いのせいだ、ということにしておいてください。
……さて、これは果たして18禁に入るんだろうか?(汗w


3: Cry wolf (2004/04/06 20:35:38)[jin at miz.st]

「鈴の音、凛々と」 3/3



「ほんっとにしんじらんない! このケダモノ!」

シャー!
と、我が家の猫が毛を逆立てて俺を威嚇する。
かなり、というかもうむちゃくちゃご立腹である。
あの後、結局調子に乗ってずっと遊んでしまい、遠坂さんがイッてしまうこと1ン回。
ぐったりとしてしまった遠坂を見て、さすがにやばいかな、と思い手を動かすのをやめた。
その後約10分ほどはぴくりとも動かず、さすがに心配になってゆすってみたら、失神していた。
しかたがないので遠坂の寝室まで運んで、服をどうしようか悩んでいたら、目を覚ました遠坂がいきなりガントを飛ばしてきた。
完全に不意打ちだったので、もろに受けてしまい、崩れ落ちた。

「大体あんたは! 曲がりなりにも魔術師でしょうが! あれくらいのガント無効化するぐらいの対魔力身につけないさいっ!!!」

………………いや、無理言うな遠坂。
あれは、もはや宝具といっても差し支えない威力だぞ。
ランクはC+ぐらいだろうか?

「ほら、とりあえず呪いは解呪してあげたから。 しばらくだるさは残るけど、それは我慢しなさい」
「ん、さんきゅ」

ぶっ倒れたときに、ベッドに遠坂を押し倒してしまってベアを受けたが、なんとかなっている。
それよりも、寒気や頭痛は無いが、だるくて体に力が入らないこの状況のほうが問題だ。
現在俺は遠坂のベッドの上に座り、壁にもたれかかっている。
腕はだらしなくたれさがり、足は開いている。
……なんというか、まったく持って無防備なのである。

「さて、それじゃあ衛宮くん? 覚悟はいいかしら?」

にっこり、という音がでそうなぐらい綺麗な遠坂スマイルをして、あかいまおうは降臨した。
……さっきまでぐったりしていたというのに、結構元気そうだ。

「え・み・や・く・ん? なにをにやにやなさっているのかしら?」

顔は笑いつつ、こめかみに青筋を浮かべる。
たぶんこんな芸当ができるのは、遠坂だけだろう。
………………あ、ルヴィアもか。

と、そんなことを考えていたら遠坂がどこから取り出したのかグローブを両手につけていた。

「と、とおさか、さん? あの、それ、何でしょうか?」
「あら、衛宮くんはしらないのかしら? これはグローブといってね、相手への直接打撃の衝撃と反動をへらして、怪我をしないようにする武具なのよ」
「いえ、そういうことではなくてですね、ソレデイッタイナニヲスルオツモリデショウカ?」

デフォルメされた汗が後頭部に浮かんだ気がする。
と、遠坂嬢は実に綺麗に、さわやかにニッコリと笑って、

「あぁ、そういうことですのね。 私ペットを飼っているのですが、そのペットが最近増長してしまいまして。 今日なんかは完全に付け上がって、手をかまれたので少し調教……教育しようかと思いましたの」

─────────やばい。
あれはやばい。
いや、やばいなんてもんじゃない。
アレは、まさに「必殺」。
幾多の死線を越えてきた俺が、なお恐怖を隠し切れない、それほど圧倒的な「死の予感」。
それほどの「必殺」の「気合」が、そのグローブにはこもっていた。

「それでは衛宮くん、生きていたらまたお会いしましょう。 ………………こんなことになってしまい、残念ですわ。 私、あなたのこと憎からず思っていましたのに」

そういって、遠坂はその「ぐろーぶ」を振り上げた。

………………その後のことは、思い出したくない。
というか、思い出せない。
最初の一発で完全に思考が停止し、二発目で視界がブラックアウトした。
後はただ、体が熱くて、空に浮くような感覚が体を支配し、精神がどこまでも高く昇っていって…………って、昇天かよ!
まぁ結局、起きた時は先ほどのだるさに加えて、更に体中が重たくなっていた。
体に傷はついていなかったのが不思議だが、あるいは治癒魔術をつかったのかもしれない。

そんなこんなで、あいかわらず遠坂のベッドの上でへたれている俺。
時刻を見ると、夜の2時。
そろそろ寝なきゃいけない時間だ。
遠坂も眠そうに………………してないか。
そうだよな、猫だもんな。
夜行性か。

「なぁ、遠坂。 俺、そろそろ寝たいんだが」
「却下」

即答デスカ!? (Ver2.1)
遠坂さん、実に楽しそうな目でこっちを見てらっしゃる。
ベッドの脇のアームチェアに座って、なにやら難しそうな本を読んでいたのだが、開いていたページにしおりを挟んで閉じた。
そのまま立ち上がって、俺のほうへ来る。

「私、なんか眠くないのよね。 でも、一人で起きてても仕方ないから士郎も道連れ」
「なっ、んな勝手な………………」
「勝手な、何? 嫌がる女の子を無理やり押し倒した、それも二度同じような罪を犯した貴方がよくそんなこといえるわね?」
「なっ、押し倒したって……」

あ、しゃべっているうちに自分の言葉にいらついてきたのか、遠坂が怖い目で睨みつけてくる。
しかもどんどん目つきが鋭くなっていく。

「…………はぁ、仕方ない。 どうせもうこんな時間だし、今晩ぐらいは付き合ってやるよ」
「だってもへち………………あ、あら、そう。 えーっと、そ、その、ありが、とう」

俺が素直に言うことを聞くとは思っていなかったのか、へっ? って顔で見てくる遠坂。

「だから、付き合ってやる、って。 さっき遠坂を怒らせた罰ってことで」

……というか、何かあるたびにあのことを持ち出されそうなので、その時言い訳できるようにするためにも。
きょとん、としていた遠坂だが、俺の言葉を理解したのか、うん、と頷いて俺に抱きついてきた。
うおっ、遠坂、む、胸!(決して、無、胸、ではない)
やーらかいのあたってますよ遠坂サン!
あ〜、体が動いていたらたぶん間違いなく押し倒していたと思う。
そんなことを考えながら、己の劣情を必死に否定している、というのに。

「えへへ、今夜は寝かさないわよ、って奴?」

………………カンカンカンカンカーン。
K.O.です。

「立て、立つんだジョー!」
「良い拳を持ってるじゃねぇか…… 世界を狙えるぜ」

なんて脳内劇場で戯言をほざいている奴がいるが、この際無視。
何なんだ、今夜は。
あの宝石、というより呪いは何をしたというのだ。
なんで、アカイアクマがクロイコネコに変わったのだ。
魔法か?
そうか、そうなのか?
ルヴィアは一足先に、魔法を会得してしまったのか?

「む〜、士郎、なに黙ってるのよぅ」

めっ、と言って「士郎は私だけ見てればいいんだから」とつぶやき、胸に頭を擦り付けてくる遠坂。

すりすり。
すりすり。
すりすり。
すりすり。
すりすり。

ついでに言うと、尻尾も俺の太ももを右に左に流れている。
なんていうか、猫にじゃれられている気分。
──────いや、そのものだが。

悔しい。
とても悔しい。
何でこんなときに俺の腕は、体は動かないのか。

「くそ……動け!」
「動け動け動け、動いてよ! 今動かなきゃなんにもならないんだ!!!」
「動け、動けよ!」
「今動かなきゃ、今やらなきゃみんな死んじゃうんだ!!」
「そんなのはもうイヤなんだよ! だから動いてよ!!」

……いや、途中から違うな。
なんていうか、14歳ぐらいのランサーみたいな服(といっても青と白と黒だが)着てる男の子が頭に浮かんで消えた。

………………なんでさ。

そんなこと考えながら現実逃避している間も、遠坂はすりすりしてくる。
あ〜、俺もうなんかだめです。
親父、ごめんなさい。
俺もう落ちそうだ。

「ねぇ、士郎」
「ん?」
「……なんでもない♪」

遠坂に呼ばれて、下を向くがなにがおもしろいのか、ニコニコ笑っているだけでなにもいわない。
俺はその、いつもとは違ったただ純粋な幼い笑顔に見惚れている。

「ねぇ、士郎」
「なんだ?」

目を開けた遠坂の視線にとらわれた。

ちゅっ。

「”#$%”$&’%%&&#$%!?」
「なんでもない……大好きだよ、しろー」

そういって、不意打ちを食らわせてきた仔猫はごろにゃん、と俺のひざの上で丸くなった。
──────なんていうか、その笑顔が、しぐさがあまりに子供っぽくて。
毒気が抜かれてしまった。
しばらく遠坂が忙しくていらいらしていたこととか、アイツに料理で負けたとか、その辺のしがらみが全部どうでもよくなって。

「………………ああ、俺もだ、遠坂」

気がつけば、そんな言葉を言っていた。
遠坂はそんなこととっくに知ってるわよ、士郎は単純だから なんてちょっとひどいことを言ってくるが、それさえどうでもよくなった。
まだ重い腕を動かして、遠坂の髪を手にとって、そのまま眠りについ……………………

「あら、衛宮くん? 今日は朝まで寝かせないわよ、といったはずですけど、聞いてらっしゃいませんでしたか?」

なんていう、あかいあくまに妨害されました。
さっきまでの子供っぽい笑顔はどこへ行ったのか、今の彼女の表情はまさにあかいあくまのもので。
思わず身構える俺、といっても体は動かないので、今はこっちを向いて四つん這いになっている遠坂の顔を、まっすぐ睨みつける。

「ねぇ、士郎。 私ちょっとのど渇いたんだけど」
「………………んで、俺に取りにいけ、と? わるいがいまは………………」
「いえ、別に台所までとりに行かなくても良いわよ」
「?? ああそうか、ベッド脇に冷蔵庫置いたんだったな、ちっちゃいやつ。 あそこまでならなんとか………………なにがいい?」
「そうねぇ、やっぱりミルクかしら。 いまは仔猫みたいだし」

まぁそうだろうな。

「あ、ミルクはホットでね」

げっ、加熱する器具はここにはないぞ。
そうか、結局台所に行けってことだよな。

なんて考えて、内心涙を流しながら立ち上がろうとする俺を押しとどめる遠坂。

「ん? なんだ? ほかに持ってきてほしいものでもあるのか?」

なんて聞いたら。

「だから言ったでしょう、台所まで行かなくても良いって。 ここにあるんですから」

そういって、力の入らない俺を横からちょん、と押す遠坂。
俺は背中を壁に預けているわけで、だからそんなことをされると、自然にベッドに横になる形に倒れるわけだ。

「遠坂?」

遠坂は、倒れている俺の上にのってくる。
お尻の後ろで尻尾が踊っている。

「えーっと、なにを?」
「衛宮くん、魔術の基本って何かしら?」
「は? ……等価交換、のことか?」
「ええそうよ。 なにかを手にするためには、代償を払わなければならない。 さて、衛宮くん、私は何をしたいのでしょうか?」

にやり、とあくまが笑う。
えーっと、何でこんな話になったんだろう?
遠坂は、のどが渇いた、といっていた。
そして、ミルクを飲みたいといった。
ちなみに、ミルクはホットだ。
そして、今現在、俺はベッドのうえで横になっていて、遠坂はそれにのしかかる形になっている。

その上で、等価交換の話………………なんのこっちゃ?
それ以前に、等価交換するようなことはしてな…………そういえばさっき遠坂であそんだよなぁ。
等価交換って言うことはつまり、同じぐらいの価値のものを交換するってことで、つまりはおんなじようなことを交換するってことだ。
交換?

………………あ、交感か。

って、

「ええええええええ!!!!」
「わかったようね。 じゃあ士郎、答えを聞きましょうか?」
「ば、ば、ば、ば、バカ言うな! いえるわけ無いだろう! っていうかおまえなにかんがえてんだばか! その、ミルクってまさか………………」
「そういうことね。 それじゃあ士郎、覚悟なさい」

にやり、と魔王にランクアップした遠坂が笑った。




「あ〜れ〜、殿、お戯れを〜〜〜〜〜」
「よいでわないかよいでわないか」





糸冬劇


*あとがき*

………………なんだ、この落ちは。
あ、石を投げないでください。
……なんていうか、かんっぺき「駄作」。
作者の頭おかしいんじゃないか、って感じです。
ちなみに後日談がつきます。
これ以上読みたくなんかねぇ、という方は、ブラウザの戻るボタンからどうぞw

4: Cry wolf (2004/04/06 20:37:30)[jin at miz.st]

「鈴の音、凛々と」 後日談


(ルヴィアゼリッタ家)

ぴんぽーん

「はい、どちらさまでしょうか?」

インターホンから桜の声が聞こえてくる。

「私よ。 ルヴィアそこにいるんでしょ!? あけなさい!」
「姉さんですか。 ちょっとまってくださいね」

私の剣幕にも驚かず、ぱたぱたとはしってきて鍵を開ける桜。

「いらっしゃい、姉さん。 あ、先輩もいらしたんですか」
「よう、桜。 遠坂の奴がルヴィアに用があるみたいだからついでにきたんだ」
「そうですか。 どうぞ、あがってください」

そういって、メイド姿の桜は奥へ入っていった。
………………なんていうか、ルヴィアじゃないけどあれを着せているのがわかる気もするわね。
っと、惚けてないで入らなきゃ。

「士郎、いくわよ」
「ああ。 というか遠坂、戦場に向かうんでもあるまいし、そんな鬼気迫った顔しなくても」

甘いわね、士郎。
これから私たちが赴くのはまさに「戦場」よ。

「ルヴィアゼリッタ!」
「あら、どうしましたのミストオサカ。 そんな泣く子もおびえるような顔をなさって。 あぁ、それは生まれつきでしたか。 でもミストオサカ、せめて言葉遣いには気をつけたほうがよろしくてよ」

ソファーに座って、上品に紅茶を飲むルヴィアゼリッタ。
この屋敷の主。
そして、今私が用がある相手。

「んなことはどうでもいいわよ! それよりあんたいったいヒトに何すんのよ! 戦利品に罠しかけておくなんて、ギリシャ戦争でもやってるつもり!?」
「あら、心外ですわ。 貴女とシロウのためを思ってこその行動だというのに。 シロウは私の気持ちをわかってくださいますわよね!?」
「えーっと………………」

し〜ろ〜う〜、ルヴィアゼリッタに色目使われたぐらいでどうようするんじゃないわよ!
それでもあんた魔術師なの!?

むかっ、としたので、睨みながら足をかかとでぐりぐりする。

「い”っっ!!!!」

隣で士郎が奇声を発するが無視無視。

「ぜんっぜんそんなこと考えて無いでしょう貴女!? 大体、あんなことされちゃ迷惑よ! せっかく休みだったのに、平穏な時間を邪魔されて」
「あら、そうかしら?」

にやり、と背筋がぞわぞわっとくるような顔を浮かべるルヴィアゼリッタ。
隣で士郎が「きんのあくまだ」なんて呟く。
私を私たらしめているものが、頭の中でうぃんうぃん警報を鳴らす。
だが、

「そうは申されましても、楽しんだんじゃありませんの?」

遅かった。
敵の攻撃は始まっていた。

「なっっ………………」
「そんなわけないでしょう、ミスエーデルフィルト。 あのような状況で、魔術師である私がそのような行為に及ぶとでも思いましたか?」
「ええ、その思っておりますわ。 ねぇ、サクラ。 貴女もそう思わない?」

と、ソファーの脇で立っていた桜に話を振るルヴィアゼリッタ。

「え!? え、えっと、そ、そうですねぇ………………」
「遠慮しなくてもいいのよ、桜。 だって貴女ならわかるでしょう?」

どういうことだ?

「姉さん、そ、その、尻尾は………………」
「ああアレは起きたら直ってたわよ」
「あぅ………………」

聞かれたので答えたら、真っ赤になってうつむいてしまった桜。
なんだっていうんだろう?

「ねぇ、ミストオサカ。 私の呪いは、対象の人物に一番あった動物のシンボルを、対象に付属させる、という呪いなんですが、解呪の方法はひとつだけですの」
「はぁ? 解呪って、時間がたてば勝手に消えるんでしょう?」

なにいっているの? という。

「あら、私そのようなことを申し上げましたか?」
「ええ、士郎が電話で聞いた、って言ってたけど。 ねぇ、士郎?」
「………………………………」
「ちょっと、士郎!!」
「………………んあっ!? ああ、そうだな、そう言ってたよ、うん」

ほら、とルヴィアゼリッタを睨む。

「あら、私としたことが、間違えてしまいましたわ。 ごめんなさい、あの呪いは解呪方法があって、それをしないと解けないんですの。 時間がたっても、解呪しなければそのままですわ」

は?
そうなのか?
なら、なんで私はなおったのだろう。
というか、解呪の方法って何だろう?

「ルヴィア、その解呪の方法ってのは………………」
「サクラ、シロウに教えてあげてくださいな」
「え、え、ええっ!?」

驚いている桜。
そんなに変なことなんだろうか。

「えっと、その、解呪、の方法ですね。 せ、先輩、その、あの呪いを解くには、その、他人とのレ、レイラインをつないで、他人の魔力と、混ぜれば、その、無効化、されるんですけど………………」

そこまでいうと、真っ赤になってうつむく桜。
……………………ようするに、

「そういうことですわ、ミストオサカ。 つまり、貴女がシロウに精を注いでいただかない限り、呪いは解けないんですの」

にっこり、と爆弾を投下するルヴィアゼリッタ。
っていうか精って、

「あ、あ、あ、あ、あんたねぇ!!! な、なんてこと………………」
「あら? それとも、貴女はシロウ以外の方となさったのですか?」
「そんなことするわけ無いでしょう!!! 私を抱いていいのはシロウだけに決まってるでしょ!!!」

………………あ、しまった。

ぼん。
自分の頭から音が出て、そのまま思考がとまった。

エーデルフィルト家の屋敷に、勝ち誇ったようなお嬢様笑いが響いた。



(衛宮=ペンドラゴン家)

「む、エミヤ、ルヴィアゼリッタからの届けものがきました」
「ほう、中身は?」
「………………これは……宝石ですね。 どうしたのでしょうか?」
「なに、見せてみろ。 ………………ほほう……なかなか」
「どうしたのですか?」
「いや、なに。 この宝石の質を確かめていただけだ。 なかなかたいしたものだよ。 アルトリア、魔力を通せばどれほどのものかわかる」
「そうですか………………きゃぁ!?」

………………この日、衛宮=ペンドラゴン家では、仔犬の鳴き声がしたそうな。

*あとがき*

はい、これから書くシリーズ(というかマイフェイトワールドSS)のさわり、ネタバレふくんます。
ここまでよんでいただき、ありがとうございました。


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