覚えているのは、たくさんの人が死んだこと。
自分が彼等を見捨てて逃げたこと。
脳裏に浮かぶ真っ赤な街並み。
黒こげの死体。
血で染まった道路。
置き去りに去られた人の絶望的な表情。
悲痛な叫びが耳を木霊する。
覚えていようと少年は思った。
忘れられるわけがないけれど、それらを全部覚えていよう。
本当は死ななくて良い生命があったことを。
「やあ、起きたみたいだね」
「──っ!」
思考にふけっていたせいだろうか、声をかけられるまで気がつかなかった。
部屋の中に見知らぬ男が入り込んでいた。
「そう警戒しないで欲しいな。怪しい者じゃないんだ」
両手を挙げて自分の安全性を主張する男。
そもそも、怪しくない人間は自分が怪しくないなんて言う必要がないのだ。
そう言った意味では、男は十二分に怪しかった。
じっと凝視して、その表情を窺いながら尋ねる。
「……オジサン、誰?」
「僕かい? 僕は切継。御宮切継さ」
「エミヤ……?」
「切継でいいよ」
そう言って朗らかに微笑む姿さえ、疑りの目で見てしまえば、どこまでも信用ならなく見える。
それでも、君の名前を聞いていいかなと尋ねられて少年は素直に答えた。
「しろう」
「シロウ? 士郎でいいのかな」
指で空に字を書く切継に、少年──士郎は頷く。
切継はしばらく自分に刻み込むようにシロウ、シロウと呟いていたが、やがて納得したようにしきりに首を上下させた。
「うん、御宮士郎で語呂も悪くないね」
「え……」
「あ、言ってなかったっけ。今日から君、僕の子供ってことになるから」
──は?