これは何かの悪い夢か?
俺はただ商店街に今夜の晩飯の材料を買いに来ただけだ。
なのに何でこんな奴に会うんだ?
なんで―――
「買い物か?衛宮士郎」
―――言峰なんかに。
言峰綺礼、マーボーを語る
なんで新都の教会にいるはずのこいつが商店街なんかにいるんだ?
「ああ、そうだ。晩飯の材料を買いに来て今から帰る所だ」
とりあえずさっさと話を切り上げて帰ろう。
こいつは何か気に食わない
「待て。せっかく会ったのだ、少し私と話さないか?」
「どういう風の吹き回しか知らんが、お前の話しなど聞く耳もたん。家でセイバーが待ってるんだ。俺は帰る」
「そう言うな衛宮士郎。私の話は聞いて損はないぞ」
「おいっ!俺は急いでいるんだ。服を引っ張るな!離せ」
結局無理矢理近くの喫茶店に連れてこられた。
「で、話しってのは何だ?つまらんかったら帰るぞ」
「ふむ……聞くが君は中華料理は好きか?」
「中華料理?いや嫌いだ。あんなものは人の食うもんじゃない」
「それは間違いだ。中華料理ほど素晴らしい料理はない!特にマーボーは最高だ!」
「何処がだ!?あんな辛いだけの料理なんぞ食いモンじゃない!」
「何を言う衛宮士郎!あれこそ至高の料理だ!本当に美味しいマーボーを食べたことが無いからそんな事が言えるのだ!本当に美味しいマーボーとは、花椒(ホワジャン)を使い 口中が痺れるような辛さと、豆板醤(トウバン ジャン)・甜麺醤(テンメンジャン) の辛さ、甘みなど様々な味覚が融合し、バランス 良く味付けがなされたモノの事を言 う!
さらに豆腐と粗挽き肉の存在も重要だ!麻婆“豆腐”というからには豆腐の出来ばえに より味が左右されると言っても過言ではない!
豆腐が崩れていようものならそれだけ味は半減する!豆腐が崩れずに入っているか?そ れがマーボーにおける重大な要素の一つなのだ!
粗挽き肉は焦げ付くギリギリのところまで炒めるのが一番旨い!香りもかなり重要だ! 料理とは見た目・香り・味の三つが成されて始めて完成する!香りの無いマーボーなん ぞ魚の小骨以上に存在価値はない!」
こいつがこんなに興奮するところは始めてみた……あんまり会った事は無いが普段のこ いつからは考えられない。
それほどマーボーとはこいつにとって大事なのだろう。
まあ俺にはどうでもいい事だ。
「話はそれで終わりか?なら俺は帰るぞ」
「まあ待て。さっき私が述べたのは美味しいマーボーの条件だ。しかし私はそれだけでは 満足出来ない」
「はぁ?その美味しいマーボーの条件で作ったものでも満足しないのか?あんたは」
「そうだ。以前はそれで満足していたのだが、ある時にある店で食べたマーボーに病みつ きになってな。もうそこのマーボーしか満足出来
ないようになってしまった」
「その店の名は?」
そんなの分かりきっている。
深山町の商店街には中華の店は一軒しかないからな。
しかしここは聞いておくべきなのだろう。
「紅州宴歳館――
――泰山」
やっぱりな。
「そう、泰山のマーボーは最高だ。私はかつてあれ以上のマーボーを食した事はない。あ の旨さ、あの辛さ、見た目、香り、どれをとっても一級品だ。私はあのマーボーを食べ ている時に自分の生の喜びを感じる。可笑しいだろう?他人の不幸を喜び、人の子では ないと言われたこの私が、マーボーを食しているときだけは人になれるのだ。それほど あのマーボーは素晴らしい」
ああ……こいつは駄目だ……。
ココまで来ればもうマーボーマニアだ。
なるべく刺激しないように早々に立ち去ろう。
「マーボーの素晴らしさは良く分かった。俺はこれから家に帰って晩飯の準備をせにゃあ ならんので帰る。あんたもさっさと泰山に行って
好きなだけマーボー食って来い」
「何を言っている衛宮士郎?お前も私と共にマーボーを食しに行こうではないか」
何かやばい方向に進んでる?
「いや、さっきも言ったが家ではセイバーが腹をすかして待っているんだ。これ以上寄り 道してたら怒られちまう」
「セイバーにもマーボーを土産に持って帰れば良いだろう。さあ行くぞ」
「人の話を聞け!おいっ服を掴むな!俺は帰らなきゃならんのだ!離せえぇぇぇ………… ――」
その後、言峰に無理矢理泰山のマーボーを三杯ほど食わされ、帰ったら腹をすかせたセ イバーに怒られ、土産に持って帰ったマーボーの味にさらに怒りが爆発して道場でボロ ボロにされた……。
…………俺、何か悪いことしましたか?
終わり
後書き
勢いで書きました。
何度書いてもギャグは慣れません。
頑張りたいと思います。
麻貴でした