「どこまで降りるつもりだ。」
階段を下りながら両儀さんがぼやいた。
「両儀、失礼でしょ。」
それを雪之が咎める。
「構いません。 直尽きます。」
気にした風でもなくすたすた降りる月雨。
「しかし驚いたな。 木の上に家が建ってると思ったら木の中に地下室があるとはな。」
後ろから感嘆の声を上げる八雲。
「ここは明朝の宝物庫なの。 神話に登場する宝具や妖怪や鬼の類用の概念武装まで、ここは退魔機関の武器庫でもあるのよ。」
「それで、ここから何を持ち出そうって言うんだ?」
「勿論、暗夜に対抗しうるだけの武器よ。」
いつの間にやら最深部に着いたらしく扉の前で月雨が立ち止まっている。
「ここよ。」
そう言って月雨は扉に手をかけ押し開けた。
扉の先にはかなりの広さの空間が広がっている。
「この空間は?」
「木の根の下、地中に当たるわ。」
パッと見学校の体育館ぐらいの広さがあり、棚に武器が所狭しと立てかけられている。
「ほう、こりゃすげぇな。」
なにやら物色しながら武器の合間を歩く八雲。
「自分に見合ったものを選んでね。」
そう言って月雨も棚の奥へ消えた。
棚に並べられた武器を眺めながら武器庫を歩く。
剣、槍、薙刀、短刀、刀、弓矢、投合用の短刀、篭手、鞭、斧、ありとあらゆる種類の武器が並べられている。
この中から選べといわれても自分はこの七ツ夜しか使うつもりはない。
元々これで不便を感じた事もないし。
ふと、目の前で刀を見つめる両儀さんの姿が目に入った。
「こいつは・・・」
「どうかしたんですか? 両儀さん。」
「・・・・・・村正だ。 しかも初代の作品だ。」
「珍しいんですか?」
まあ、ここに置いてある時点で珍しいんだろうけど。
「ああ。 村正事態はそれほど珍しくもないが初代の作品となると話が違う。 初代の作品は四本しか残っていない。」
「つまりこれがその四本のうちの一本だと?」
「ああ。 ・・・・・・・・・俺はこいつにする。」
そう言って両儀さんは刀を手に取った。
「決まった?」
と、後ろから月雨が声をかけてきた。
「ああ。 俺はこいつにする。」
「志貴は決まった?」
「いや、俺はいいよ。 これで十分だから。」
そう言って七ツ夜を取り出す。
「本当にいいの?」
「ああ。」
「私も結構です。」
振り向けば武器を見て回っていたのか雪之がいた。
「俺はこいつを借りるぜ。」
反対側から八雲がなにやら棒のような物を手にして現れる。
「準備はいい? あとは彼らが着くのを待つだけだけど・・・」
ドン
と、突然トラックが突っ込んできたような衝撃が響き渡った。
「今のは?」
月雨を見ると険しい顔をしている。
「残念ながら彼らの到着を待つ時間は無いわ。」
「それじゃあ今のは。」
「ええ、暗夜からの招待状ってとこかしら。 莫大な量の魔力を感じるわ。」
「仕方ない、行こう。 あいつらだってそこに向かうだろう。」
「仕方ないわね。 行きましょう。」
一気に階段を駆け上がる。
地上、といっても木の上なのだがとりあえず出て外に出た。
空は夜だと言うのに明るく七色に輝いてる。
遠くには空に流れ込む七色の光の河がある。
「アレは?」
「あそこにいるわ。」
七色の光は絶えず色を変えている。
一見美しくも見えるがソレから流れ出る魔力はカタチを持った風となりこちらに流れてくる。
その風は酷く気持ちが悪く長くコレに触れていれば気が狂いそうだ。
吐き気を堪えて光の筋を睨みつける。
「行こう。」
そうして光の筋に向けて走り出した。
木々の合間を抜けて行く。
「あの山を越えた麓です。」
一気に速度を上げようとしたとき
ドン
と、衝撃が走った。
「――――――っつ。 これは。」
膨大な魔力の本流を感じる。
それも“人”というモノの許容量を遥かに上回る量の魔力を。
「どうやら敵さんの支度の方が早かったようですね。」
「進路変更だな。 おそらくあいつ等だってアレに向かってるだろうから現地集合って形になるな。」
「行くわよ。」
どう考えた所でこちらに勝機は無い。
敵の準備が整ったということはそれはあそこに罠があると考えていいだろう。
いわば魔術師の工房になんの支度もなしに足を踏み入れるようなものだ。
加えて九蛇という不確定要素。
「この勝負、・・・・・・・・・勝てないかもしれないわ。」
思わず本音が出た。
「らしくないですね。 貴女が弱音を吐くなんて。」
「・・・・・・シエル。」
「確かに私達が彼等に挑んで生き残る確率は零に等しいかもしれません。」
「・・・・・・・・・」
「それで。 貴女は勝ち目がなかったら諦めるんですか?」
「 !?」
「そもそも貴女は何の為にここまで戦おうと思ったんですか。」
私の・・・・・・戦う理由。
それは・・・・・・そんなの決まってる。
それは、志貴のためだ。
志貴が私の力を貸してくれ、って言ったから。
――――――ああ、そうか。
「・・・・・・そうね。 私が間違ってたわ。」
そう。
志貴ならどんなに不利な死合でも、
どんなに勝ち目がなくても、
例えその先が自分の死に繋がっていようとも、
志貴は戦いから逃げない。
一度こうと決めたらそれを曲げる人じゃなかった。
なら、私だけ逃げ出すわけにはいかない。
志貴が戦うなら私も戦う。
なにより、志貴を失いたくないから。
「やっと元に戻ったようですね。」
何故だかシエルは少し呆れ顔でこちらを見ている。
「・・・・・・一応礼は言っとくわ。」
そう返すと満足そうに微笑んで、
「ええ、貴女に感謝される筋合いはありませんが受け取っておきます。」
なんて返してきやがった。
魔力の発信源に近づく。
すでに辺りに充満する大源は普段のソレとは違い質量を持った呪いのように悪質なものになっている。
そうして、木々が途切れて光の筋の根元に着いた。