夜の一族


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1: ぐまー (2004/04/04 19:46:54)[moonprincess_type_moon at hotmail.com]




遠くで一際大きな爆発音が聞こえた。

「ふん、派手にやったものだ。」

見なくても気配で判る。
皮肉な話だが私たち姉妹はお互いの気配は嫌でも判ってしまう。

「一応仕事だからな、様子でも見に行ってやるか。」

別にアイツの生死など知ったことではない。
問題は仕留めたのか仕留めそこなったのかだけだ。
爆心地に近づくに連れて残念ながらアイツの気配が強くなってくる。
唐突にクレーターが姿を見せた。
爆心地はここのようだ。

「生きていたか。」

「ご挨拶ね、何しに来たわけ?」

「私が興味あるのはお前の相手の生死だけだ。」

「そう、なら期待に添えたというべきね。 仕留め損ねて逃げられたわ。」

「ふん、魔法を使ってまで殺し尽くせんとはお前の魔法も大したことないな。」

「言ってくれるわね。 だったら貴方がやってみれば?」

「ほう、私に喧嘩を売っているのか。」

「今なら安くしとくわよ。」

「面白い。」

今まさに殺し合いが始まろうとしたとき

「止さぬか。」

一声でそれを制された。
声の主は見なくても解る。
キシュア・ゼルレッチ・シュバインオーグ。
魔道元帥、万華鏡(カレイドスコープ)の二つ名を持つ魔法使い。

「ミス・ブルー。 魔法で滅ぼせなかったと?」

「ええ、残念ながらアレ自体が既に神域の鬼だったわ。」

「ほう、この国にも神域の生物がいたか。」

「魔道翁、今はそれよりも逃げた行き先が重要事項です。」

今回の協力関係の最後の一人、アトラスの錬金術師。
二つ名は確か、・・・・・・・・・霊子ハッカーとかいった気がする。

「なにか手がかりは残していかなかったのか?」

「さあ、特に。」

「使えん奴だ。」

「そこまでにしておけ。 早々に事を済ませたいのなら揉め事避けよ。」

「ミス・ブルー、それで彼らはここで何を?」

「調べる前に壊しちゃったし。」

「つくづく使えん奴だ。」

「蒼崎、そこまでにしておけ。」

「ふん、まあいい。 瓦礫の中からでも調べられんこともない。」

「時間がない、始めよう。」

全く、こいつはろくな事はしない。
おかげでこの手間だ。
しかし先ほどは罵倒したがアイツの攻撃魔法を受けても滅ぼせないとは一体どれほどのものなのか。
少し調べてみる必要がありそうだ。





暗い森を一人で歩いている。
屋敷には誰もいなくて外に飛び出した。
森はカーテンのようでまるで今にもサーカスが始まりそう。
森を抜けると広場に出た。
そこにはふぞろいのかっこの何かがあった。



―――ああ、これは。



見知った人だったもの。
友達だったもの。
それらは一つとして同じ格好をしていない。
バラバラになったなにか。
足元には大きな水溜り。
その中に黒い巨木が立っている。。
月明かりが照らし出しそれが人だと解ったのはソレに三メートルほどの距離に近づいてからだった。
そのとき誰かが名前を呼んだだ気がした。
その巨木との間にだれかが割り込んでバラバラにされた。
それっきりその人は動かなくなった。
巨木はこっちに近づいてくる。

「貴様も七夜か。」

「うん、そうだよ。 父さんと母さんを知らない?」

「直合える。」

そういい残してその黒い巨木は立ち去った。
辺りにはもう動くものはない。
ただ静かに雲が流れるだけ。
一人きりが嫌で更に億へと進む。
辺りの木々は薙ぎ倒されていてまるで台風が着たみたい。
どんどん奥へと進むと木々の中に朱い鬼が立っていた。
何故だか知らないけどこの朱い鬼はいけないことをして誰かに許しを求めているように見えた。





「っう、・・・・・・・・・」

眼が覚めると見慣れない天井が視界に入った。
体を起こして自然と眼鏡をかける。

「今のは、・・・・・・・・・夢か。」

正確には夢ではなく昔の記憶を見ているだけにすぎない。
遠い昔の自分が無くしてしまった記憶。
もう今ではその記憶がどんなものであったのかもあまり憶えてはいない。
自分の両親の事も殆ど覚えていない。
母親はいつも微笑んでいた気がする。
悲しいとき、辛いとき、寂しいとき、いつも側にいてくれた。
父親はどうだろう?
断片的な記憶に父親の姿は見えない。
そうだ。
いつも父親はいなかった。
若くして鬼神とまで呼ばれた父。
その偉大な父親をいつか越えようと必死になって背中を追いかけていた。
数少ない記憶の中でも更に少ない父親の記憶。
残っているのは訓練の記憶だけ。
その記憶さえも確かではない。
七夜の里のこと。
友達のこと。
色々な記憶が断片的ながらも思い出せる。
だが、何かを忘れている。
何か忘れてはいけない大切な何かを。
それが何かは判らない。
否、忘れていた方がいいと身体が警告している。
本能的にその記憶を思い出さないようにしている。
それは知ってはいけない事。
それは、・・・・・・一体なんだっただろう?

「兄さん、起きてますか。」

部屋の外から声がした。

「雪之か、ちょっと待ってくれ。」

布団から出て部屋の戸をあけた。

「おはよう、雪之。 身体の方はもういいのか?」

「おはようございます、兄さん。 昨日は心配をかけてすいませんでした。」

「いや、雪之が無事でよかったよ。 そういえば両儀さんは?」

「両儀の傷も幸い大したことはありませんでした。 今は広間にいます。 なんでも明朝が話があるそうです。」

「解った、着替えたらすぐ行くよ。 わるいけど先に行っててくれるか?」

すると雪之はじとーっとこっちを見るなり

「それは構いませんけど兄さん、広間の場所知ってるんですか?」

「え?」

そこで初めて気づいた。
昨日いた場所が広間なら問題無い。
だがあそこが広間でないならこの館を彷徨うことになる。

「あぁ、雪之。 わるいけど廊下で待っててくれるか?」

「判りました。」

雪之はクスリと笑って外に出た。
着替えはいつの間にか枕元に着物が置いてある。
手早く着替えて念の為に七ツ夜を懐にしまう。

「わるい、またせたな。」

「行きましょう、待ちくたびれてますよ。 きっと。」

「たんま、どのくらい前から待ってたんだ?」

「兄さん、今何時か判りますか?」

「え?」

誰に起されるでもなく自然に起きたということは七時くらいか?
人間とは不思議なもので毎朝七時に起きる人間は寝床が変わっても七時に起きるのだそうだ。

「七時くらいか?」

「ええ、そうです。 通常私たちのような家では起床時間は四時ごろですが。」

「・・・・・・・・・それって三時間近く俺を待ってたってこと?」

「いえ、正確には二時間程度です。 私が起きたのが五時ごろでしたので。 それで、何時までたっても兄さんが起きてこないから私が起しに着たんです。 ちなみに両儀は私に三十分ほど遅れてきましたけど。」

「急ごうか。」

「はい。」

心なしか足早に廊下を歩く。
雪之は昨日明朝と話していた部屋を通り越して更に奥へと行く。
そして廊下の先の両開きの襖の前で止まった。

「失礼します。」

そう告げて雪之が襖を開いた。
中央には月雨が盛装で座っている。
それに向かい合う形で両儀さんが座っている。
流石に始めて会ったとき着ていた着物とは別の着物を着ていた。

「遅いぞ、七夜。」

振り返らずに俺に文句を言ってきた。

「遅れてすいません。」

「両儀、今急いだところでその身体では満足に動けないでしょう。」

月雨が助け舟を出してくれた。

「いやいや、七時に起床とはとても退魔の血筋とは思えんな。」

ここからは調度死角になっているがすぐ横で八雲の声がした。

「さて、これで全員揃ったわけだ。 話を進めようぜ。」

「そうですね。 座って、八雲、七夜、志貴。」

促されて両儀さんの隣に座る。
続けて雪之、八雲も座った。

「暗夜が仲間を連れていたそうね。 私も白狐にあったけどまさか彼女の他にも協力者がいるとは思はなかったわ。」

「どういうことだ?」

「もともと暗夜は魔と手を組んだりしたことはなかったのよ。」

「そっか。 それなら暗夜に仲間がいるわけないって考えるもんな。 そういえば月雨、白狐と知り合いなのか?」

「ええ、知り合いというほどではないけど。 昔七頭目と私で彼女を狩ろうと試みたの。 結果は八対一でも倒しきれずに逃げられたわ。」

「そんなに強いのか?」

「暗夜に協力している連中は七神と言ったかしら? 彼等は普段人間の姿をしているけどそれは力を抑え込むためなのよ。」

「なるほど、俺が相手にした野郎も途中ででっかい狼になったからな。」

「白狐の正体は九尾の狐よ。 彼女は四千年を生きた化け狐。 その気になれば町の一つや二つ焼き尽くすくらい訳ないわ。」

「他のやつらの正体は?」

「お嬢様。」

すっと、月雨の後ろに忍び装束みたいなものを着た女性が現れてなにやら書類を渡していく。

「ご苦労様、下がっていいわよ。」

その女性は音もなく部屋を後にした。
さっと月雨が渡された資料に目を通したあと

「今もって来てもらった資料によると、八雲が相手にしたと言う雷狼という男は狼男、雪之が相手にした雪那は雪女、狗鳥が天狗、鬼呑子が大江山の酒呑童子、鈴丸が鈴鹿山の大嶽丸、最後に九蛇と言う奴は八俣大蛇よ。 こいつらは皆暗夜によって封印されたやつらね。」

「八俣大蛇って・・・。」

「ええ、かつてこの国が出来た頃に神々と戦ったと言われている八つ俣の大蛇よ。 」

「ちょっとまった。 それって確か須佐之男命に退治されたんじゃなかったか?」

「確かに伝承の中では須佐之男命によって十握剣で首を切り落とされたとされていますが実際には違います。 実際は須佐之男命は十握剣で首を切り落としたのではなく封印したんです、十握剣に。」

「剣に封印した?」

「ええ。 元々十握剣は神具と呼ばれる概念武装の一種でその力を利用して八俣大蛇を封印したんです。」

「神具? なんだそりゃ。」

「宝具という言葉は聴いた事があるでしょう? 宝具とは長い年月を重ねてその力を蓄積させた強力な概念武装のことです。 殆どの宝具はそれ自体が強力な力を持っていますが極稀に持ち主の強さに比例するものもあります。 宝具の持ち主は人間、人間から別の何かに進化したもの、最初から人でないものに分類されます。 人間に扱える宝具の威力は高が知れていますが人間から進化したもの、人でないものが有する宝具は人間という枠を大きく超えた宝具を持っている事が殆どです。 宝具の中にもランクがあり最低がE−、最高がEXとなっています。 平均した概念武装の威力がC−〜B+程度だとすると人間で扱えるのは精々B++程度まで。 人でないならEXまで扱えます。」

「そのプラスだのマイナスだのってのはなんだ?」

「プラスは一時的にその威力を倍に出来る能力です。 マイナスはその逆。 Eを10とするならE+は一時的に20の威力を発揮できるということです。 この計算で行くならワンランク上がるごとに10ずつ増えていくと考えるとA++は50×2×2=200となります。 マイナスはある特定の条件で一時的に能力が半減することです。」

「EXっていうのは?」

「それは最初から別格の宝具です。 そうですね、数値に直すなら1000程度でしょうか。」

「1000って、Aで50しかないんだろう? だったらEXの宝具にはどうやったって勝てっこないって訳か。」

「そうでもないだろ。 同じだけの力をぶつけてやればいい。」

今まで黙っていた両儀さんが口を挟む。

「そうですね。 いかにEXが強大な宝具といえど同等の力をぶつければ勝ち目はありますね。 話がそれましたね、話を戻します。 神具とはそのEXの更に上を行くものです。 ですが神具の威力は宝具と違って神々の知名度、またはそれ自体の知名度に左右されます。 その地方それぞれによって奉る神々は異なりますから場所によって神具の威力は変わってきます。 例えば十握剣は日本の須佐之男命が使ったものですが外国ではその存在が知られていないため精々丈夫な剣程度の力しか発揮しません。 ですが例外的に世界的に有名なものもあります。 それの力はやはりその知名度の浸透具合にも左右されますが最低でもEX以上はあります。 神具は真名を以って発動すればその力はすでに魔法の域だと聞きます。」

「真名を以って発動するってどういうことだ、月雨?」

「宝具は元々強力な概念武装ですが名を呼ばないのなら性能のいい武器程度の威力しかありません。 真名を呼ぶということはその宝具に眠る本来の力を引き出すということです。 巫術でも名を呼んでそれ本来の力を引き出す術もあります。」

「話が長い。 つまり八俣大蛇は死んでなかったって事だろ。」

「単刀直入に言えばそうなりますね。」

「それで、あいつらの居場所はわかったのか?」

「いえ、残念ながらまだ・・・。」

「それで、これからどうするんだ?」

「慌てずとも居場所なら向こうから教えてくれますよ。」

「どういうことだ?」

「暗夜が遠野秋葉をさらった理由を考えればすぐわかりますよ。 人をさらう理由は精々二つです。 人質かその人本人に用があるか。 後者の場合復讐などが主な理由ですが恐らく暗夜の目的は前者でしょう。」

「人質ってことか。 それはつまり・・・・・・。」

「ええ。 酷な言い方かもしれませんが遠野秋葉は遠野志貴をおびき出す為にさらわれたと考えていいでしょう。」

「いいよ、余計な気遣いは。 俺は秋葉を取り戻す。 やることは変わらない。 むしろあいつらの目的が俺なら秋葉に手を出さないって事だろ。 それだけ解れば十分だ。」

「むこうも用意ができ次第貴方と接触してくるはずです。 それと、両儀。」

「なんだ。」

「貴方にも同様の事が起きています。 私の部下の話だと黒桐幹也と言う人物が暗夜の手先に連れ去られたと。」

「・・・・・・ク、そうか。」

両儀さんは片手で自分の顔を覆っていて表情は読み取れない。

「むこうの支度が整う前にこちらも体制を整えないと。 まず遠野家にいる人たちを呼び戻した方がいいでしょう。」

「そうだな。 でもどうやって連絡するんだ?」

「 ? 遠野家には電話がないんですか?」

「え?」

「電話がないなら直接行くしかありませんがそうなると少々時間がかかりますね。」

「いやいや、そんなことはないけど。 ここに電話なんてあるのか?」

「ご心配なく、連絡用に設置してあります。」

「それを聞いて安心したよ。」

「ともかく、今ハッキリしていることは私たちには時間がないと言うことです。」

「ああ、やれることはやれるうちにやっとかないとな。」



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