さて、衛宮士郎とは一体どういう人物か。
正直なところ、もう終わりだと思った。金色の王は私を討ち、我が主たる少女もまた殺される。
それは、認められないことだった。少女は今の私にとって、唯一の存在意義であり、何にも勝る宝だからだ。
だが護れない。全力を超え死力を尽くし、いまだ届ず。狂った我が身では少女を救う懇願すら出来ず、ただ降り来る剣を眺めるだけだった。
だが、救われた。この身を貫く剣は全て防がれ、更なる脅威すら撃退せしめた一人の少年。その姿はあまりにも痛々しく、しかし強く立つ者。その意思ある瞳。
名乗った少年の名前に覚えがある。―――衛宮。どういった事情か知らないが、その姓を口にするとき、少女はひどく痛々しい表情を見せた。それが何かはわからない。狂った身では尋ねることも出来ない。
兎にも角にもこの少年。私が―――英霊たるこの身が敵わなかった者に自分を認めさせた。人たる身で英雄に勝りうる者。果たしてそれは何者か。
少年は倒れる。少女が駆け寄る。少女の口から漏れるのは罵倒。―――敵をわざわざ救うとは何事か、と。何故命までかけてそのようなことをするのかと。
―――ああ、我が主よ。何故素直に礼を言えないのか。それではあまりにその少年が報われぬ。
さて、衛宮士郎よ。この身は何も伝えられぬが、主に代わり感謝しよう―――
Fate/All Reload
第六 動き出す
唐突だが状況を整理したい。
目が覚めてもやっぱり廃墟のままだった。ふと見回すと付近にバーサーカー。どうやら消滅は免れたらしい。今は静かに佇むその巨体に危なげなところはない。
で……なぜか転がる俺に寄り添うようにして、イリヤが寝ている。痛いだろ、この床。
体の怪我はほぼ治っている。………ほぼというのは、見た感じ傷自体は消えているが、中身はまだそうではないということ。
―――思い当たる節はある。セイバーの鞘だ。彼女との契約が切れた今でも俺を護ってくれているのか。
ア ヴ ァ ロ ン
<全て遠き理想郷>。彼女の聖剣の鞘にして、十年前に俺を救った物。
考えてみれば当然か。切嗣が俺を助けたときにはすでにセイバーは居なかった筈だ。ならば何故、俺は助かったのか。―――それは多分、切嗣がこの鞘の力を知っていて、それに魔力を流したからだろう。
ならば解る。俺は重傷を受けたが、無意識にこの鞘に魔力を流したのだ。だから傷が癒えた。今までと違い、俺は鞘の使い方を知っている。だからこその回復か。
―――まったくをもって情けない。セイバーに見捨てられながら、彼女の力に頼ってしまったのか―――
そこに後悔は無い。鞘が無ければ助からなかった。そして俺はまだ死ぬわけには行かないのだ。だからただ、セイバーに感謝し、同時に頭を下げるだけ。
セイバーに対してどんどん借りが大きくなってきている気がするが、とりあえず目の前の珍事から片付けていこう。
「で、なんでイリヤまで寝ているんだ?」
いや、寝ちゃいけないというわけではなく、どうしてよりにもよってこんな固い床で、しかも俺の袖つかんだまんま寝ているんだと。
―――さてどうしよう。まさかこのままというわけにも行くまい。なにせイリヤが風邪を引く。気持ちよく寝ている子を起こすのは忍びないが、仕方が無い。
「イリヤ、イリヤ………」
声をかけながらゆさゆさと肩を揺らしてみる。―――と。
「ん………お兄ちゃん?」
「おはようイリヤ。気持ちよく寝ていたところで悪いけど、起きないと風邪ひくぞ」
イリヤが起きてから最初に行ったのは、二人の墓作り。リーズリットとセラというらしい彼女たちを埋葬すること。
黙々と穴を掘りながら、思う。何故、間に合わなかったのか。どうして自分には助けられない人がいるのか。
簡単なことだ。切嗣も言っていた。正義の味方に出来ることは限られている。―――でも、それを認めたくは無い。認められるわけが無い。
でもこれは事実。この二人を俺は、助けることが出来なかった。
「………イリヤ」
「何、シロウ」
「ごめん」
謝る。この二人が死んでしまったこと。それを助けられなかった俺の無様。謝る相手は彼女以外にいない。
「何で謝るの?」
「…………ん。気にしないでくれ。謝りたくなっただけだ」
理由を言うことは出来る。でもそれはしない。言えば優しい少女はきっと、これは俺のせいではないと言うだろう。だから言わない。
―――この罪を俺に刻み込むために。
二人の簡単な埋葬を済ませた後で、彼女は聞いてきた。何故、ここに現われたのか。何故、自分を助けたのか。何故、名前を知っているのか。
誤魔化す理由もないし、そうそういい嘘も思いつかないので、事実を述べる。自分の記憶のこと。目的。
「じゃあシロウは、私のことも知ってるんだ」
その言葉には、一体どれだけの意味が含まれているのだろう。
イリヤスフィール。しっかりと確認することは無かったが、多分切嗣の娘。アインツベルンによって聖杯の運命を背負わされた、半ホムンクルスの少女。
「ね、お兄ちゃんは、聖杯いらないの?」
何でそんなことを聞くのだろう。俺にはあんなものいらない。必要が無い。そう答えると、
「じゃあ、いいのかな。お兄ちゃんが聖杯要らないんだったら、壊しちゃっても反対しないよ」
―――聖杯は私のだけど、別に使いたいことがあるわけじゃないし、シロウは私を助けてくれたしね―――
そんなことを言った。必要ならいくらでも手助けしてくれる、と。
「ああ、それは凄く助かるけど………」
「でもシロウ、大聖杯の場所がわかってるなら何で直接行かないの? それが一番早いはずじゃない?」
まぁ、確かにそれなら早いかもしれない。でもそれは危険だ。大元の大聖杯がなくなったときに、もしもそれに繋がった聖杯としての機能を持つ、イリヤや桜にアンリマユが乗り移るようなことがあったら―――
だから今は出来ない。イリヤと桜をなんとしても聖杯の呪縛から解放し、その上で大聖杯を破壊するのだ。
―――問題はその方法だが、イリヤについては一応心当たりがある。条件こそそろっていないが、イリヤの承諾を得られるのならどうにかなるだろう。もともとアレは彼女が俺にしてくれたことだ。………うまくいけば、ホムンクルス故の短命にも片が付く。
厄介なのが桜か。なにせ聖杯契約の媒体が蟲である。不完全な契約ゆえにルールブレイカーでそれを打ち破ることは可能であろうが、桜の肉体に巣食った蟲を消し去ることは出来ず、魔術的な機能を失った蟲は完全に異物だ。そうなったら桜がどうなってしまうのかなど、考えたくも無い。
一応そのことについてイリヤに相談してみる。
「私をどうするのか知らないけど、それで大丈夫なら私は構わないわ。でも、マキリの蟲はお手上げ。何の後遺症も無くって言うのなら、自分から出て行ってもらうしかないでしょうね」
「う〜ん。間桐の爺さんを追い出す方法………」
餌で釣るとか。………餌。聖杯を手に入れ、アンリマユと同化すること以上にうまい餌。そのようなものが果たしてあるのだろうか………
なんというか、どうしようもない。以前は大半の蟲を言峰が抜いたり、桜が自力でどうにかしたようだけど、今回はそのどちらも望めない。ならば、どうするか………アーチャーにもそっちの方向で考えてもらうか。
「まぁ、その辺はしょうがない。どうにかするさ。………とりあえず帰ろう。ここは寒いし、イリヤも疲れたろ」
「………え?」
「いくぞ、俺の家。ここに比べたら狭いけど、とりあえず雨露はしのげるから」
と、滅茶苦茶になった城を見渡す。これだけ広いと無事な部屋などそれこそ大量にあるだろうが、―――ここには彼女の世話をしてくれる人間はもういない。それは俺の責任なのだから、そしてそれ以上に、イリヤは俺の妹なのだから面倒は俺が見る。
「あ………でも………」
「やっぱりいきなりすぎたかな。俺の家はいや?」
「あ、ううん。そういうことじゃないよ」
「じゃあ決まりだ。とりあえず必要なものだけもって行こう。………あ、バーサーカーは零体にしておいてくれると助かる」
その後もイリヤは、何事かもごもごと呟いていたが、特に抵抗はしなかった。
イリヤの荷物を整理し、帰路に付く。―――とてもじゃないがイリヤの私物全てを持ち出すことは出来なかった。後でアーチャーあたりに取りに行かせよう。
ともかく、あたりはだんだん暗くなってきている。イリヤの歩幅に合わせながら、周囲の警戒を忘れない。―――いつ、他のマスターとサーヴァントが襲ってきてもいいように。
と、家へと続く道の途中。いつもの交差点の辺りにいるあの二人は………桜と慎二?
何かただならぬ気配。慎二が桜に手を振り上げるの見た瞬間、慌てて走り出す。
「おい!! 慎二――――」
二人がこちらに気づく。そして――――――
「お前何――――――!?」
桜と慎二の二人は―――――
「う、うわあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」
突如現われた―――――
「きゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」
黒い影に飲み込まれた――――――――
続
あとがき
まずお詫び。リロード+のほうでサブちゃんがルールブレイカーでブラッドフォートを解除できるようなことを言っていましたが、完全に誤りです。ルールブレイカーで宝具クラスは解除が出来ないとサイドマテリアルに記載されておりました。ごめんなさい。
次に………どうなのよ、この展開。桜と慎二、出て来たと思ったら影に飲まれる。まぁ、これについては次回、ということで。
………今回めっちゃ辛かった。あまりのことに脳が沸騰して展開ずれる。影の登場はまだ先だったはずなのさー!! 出す予定はあったさー!! ………何が辛かったって次への展開をどうつなげるかってのがもう………この展開のせいで約一名、確実にセリフが消えました。今日の二人のことじゃありません。だって叫んだし(ぇ)。
セイバーの鞘については勘弁してください。あれはあんなもんだと勝手に脳内で確定しました。ただ、士郎はあんまり使いたくないご様子。何せあれはセイバーのものですからねぇ。現状では士郎には使う資格が無いと思っています。
気絶と再生を繰り返しまくる主人公、士郎。そろそろいい加減無茶すぎるのではないかと思っていたり。
あ、あと2重固有結界がどうのという話ですが、私見では無理です。固有結界はどうも、心象世界を外界に展開するという魔術らしいので、実際に異なる魂と意思を持つ二人の術者が固有結界を起動した場合は共存はできないと思っています。外界のこととはいえ、心が混ざるなんて危険なことはありえないというかなんと言うか………
因みに月姫のほうの27祖とやらがそういうマネをしたって言うのがあれば教えてくれるとありがたいです………月姫やったこと無いので。………マーボカレーとか妙なネタ出しはしましたけど。
近況報告。なんか企画考えて倒れたり。その名もFateトレーディングカードゲーム(風味)。
例)
エプロン士郎
真名:衛宮士郎 男性
力C 魔力C スピードC 抗魔力D
マスター 料理人 アヴァロン
秩序 善
HP 5 MP 7
特殊能力 『こっく長ではない』
このキャラクターが場に出ている間、自軍のキャラクターは状態『空腹』にならない。
また、対象が真名:アルトリアの場合、力の値が無条件に+1される。
この効果はこのカードが離脱するまで持続する。
例2)
地下室のキャスター 真名:メディア 女性
力D 魔力A スピードC 抗魔力B
サーヴァント キャスター 偏愛
中立 悪
HP13 MP40
付加スキル 『ゴスロリ趣味』
対象キャラクターが『少女』である場合のみ使用可能。
対象を三ターンの間一切の行動を不能にし、『ドレス』パラメータを付与する。
ただし、一度に一人の対象にのみ効果があり、対象が『非処女』のパラメータをも
っていた場合、効果は1ターンのみとなる。
例3)
アンリミテッドブレイドワークス スキルカード
消費MP15
真名『衛宮士郎』『エミヤ』のみ使用可能。
山札より一枚、属性『剣』のカードを引き、消費MP無しで使用する。
このとき、対象のアイテムカードは強制的にランクが1段階、攻撃力が1減少する。
………はい。ただの妄想です。絵も書けないのでこんなこと本当にやろうとは思ってませんよはっはっは………
というわけで今回はおしまい。次回から少し更新に時間がかかるかもしれませんが大学生やっているのでお察しください。
追伸 いらねぇはずのあとがきがなげぇ・・・・・・・・・
魔術師の基本として等価交換というものが在る。
簡単に言うと、何か手に入れるなら、それ相応の代償を支払わなければならないと言うわけだが、私としてはこの代償は支払いたくなどなかった。
その老人曰く、命を救った代わりに命をかけろと、そういうわけだ。
―――特に何をしてくれというわけではない。とにかく場を引っ掻き回してやればいい。何か起こるようなら―――その判断はおぬしに任せよう。―――
この老人は何を考えているのか。私を送り込むそこは、死地である。そこへ、わざわざ死にかけの人間を力技で蘇生させ、さらに相応の用意までしてくれるのはなぜかと、そう尋ねた。
―――なに、どうもつまらん輩が動くようなのでな。全てそいつの思惑通りというのも面白くあるまい―――
私がこの依頼を気に入らない理由。―――別に命など惜しくはないさ。私の仕事というのは何時だって命がけだ。ならば、なにが気に入らないかというと、この老人、要は娯楽のために私を救ってそこへ送り出すというのだ。しかも拒否権はないと来ている。
―――まったく、何故私の周りに現われる男というのは、こうも特殊な者ばかりなのか。いいだろう。丁度文句を言いたい奴もそこには居るし、行ってやろうじゃないか。
―――さぁ、この老人がなにを考えているのかは知らないが、戦場へ赴こう。其処こそが私の生きる場所だ―――
Fate/All Reload
第七 更なる歪み
慎二と桜が飲まれた。……あの影………泥は記憶にある。アンリマユの呪いが漏れ出したもの。その端末。
………のはずなのだが、どういうことか、いまだ目の前で澱んでいる黒い泥からは、記憶にあるような強烈な呪いの気配は感じられない。むしろ静かだ。―――変わりに感じるのは、どうしようもない嫌悪感。衛宮士郎を構成する何かが、アレを凄まじく敵視する。
俺の記憶なんて関係ない。あれこそが俺の敵だと、存在そーのものが、そう告げている。
「なんで………」
どうして、どうしていきなりこんなことになるのか。俺の目の前で―――二人が消えた。
「シロウ………なにあれ………何なの!? あんなのしらない、知らない!!」
いつの間に追いついてきたのか、イリヤが俺の服の裾をつかんで震えている。
アレに飲まれてはどうしようもない。俺には救えない。また救えない。
こうならないために頑張ろうと決めたのに、あっさりとこいつはそれを裏切っていくのか。
「………ふざけるな」
「シロウ?」
この存在は認められない。幾度幾十幾百幾億、何度繰り返そうが変わらない。こいつは敵だ。敵は滅ぼす。―――そのための投影を―――
と、唐突に空気を震わせぬ声が届いた。
――――――ああ、この娘は要らないから還してあげるよ。だから、今回は見逃してもらうよ――――――
途端起こるのはどういった奇跡か。突然、泥の中から放り出されたのは、桜。
――――――じゃあね、エミヤシロウ。君に会えたのは予想外だったけど、うれしかったよ――――――
異常な嫌悪感をもたらす泥が、アスファルトに吸い込まれるようにして消えていく。……なんなんだ、アレは。―――どうして俺の名前を知っている。
「って………それより桜!!」
慌てて駆け寄る―――しかし。
「―――っ!!」
振るわれた短剣に、慌てて跳び退る。―――攻撃を仕掛けてきたのは、何時の間に来たのか、長身の女性。サーヴァント、ライダー。
「何を!!」
「マスターを護るのは当然の勤めです。………みたところ、貴方もそちらの娘もマスターのようですが」
「………ああ、確かにマスターだ。でも、他のマスターを殺す気はないし、それはサーヴァントも一緒だ。―――だから」
「だから、なんだというのですか? 現時点で貴方を信用する理由は私にはない」
言って、桜を担ぎ上げるライダー。………と。
「ねぇ、シロウ」
「ん、なんだ?」
「あの女が、桜って言うの?」
静かに聞いて来るイリヤ。………ライダーから目は離せない。敵意こそ感じないが、ライダーは明らかにこちらを警戒している。
「ああ、そうだけど。今それどころじゃ―――――」
「嘘。―――だって、シロウの言うとおりなら、聖杯の気配がするはずだもの。―――いいえ、あの女からは、マキリの魔術師の気配すらない」
「…………え?」
なんだって? 確かに桜は正統の間桐の術者ではない。でも、桜にもしその気配がなくても、その心臓には間桐臓硯が居るはずだ。……そして、聖杯の媒体となっている無数の蟲も。
間桐の魔術師の気配は隠せるかもしれないが、同じ聖杯であるイリヤに成敗の事を隠すのは不可能だ。―――それが、ない?
「ちょっとイリヤ、ワケがわからな―――」
………と。
「なにやらお取り込みのようですが、私はこのまま退かせて頂きます」
「あ、ちょ、ライダー!! まだ話………」
「私には話すことなどありません。―――それよりも今はサクラのことが心配です。ですから――――――」
そういって、ライダーが後ろに走り出そうとした瞬間―――
―――ああ、そんな心配は要らない。ここで君たちには死んでもらうからね―――
そんな言葉が聞こえた刹那。背筋に寒いものを感じた俺は、イリヤを抱えて右へ大きく転がるように跳んだ。
爆音。連続でアスファルトに叩き込まれるそれが、あたりに粉塵を撒き散らしていく。―――なんだ!?
粉塵によってふさがれていた視界が晴れていく。―――よかった。ライダーとサクラも無事だ。
ならば、と。晴れていく視界の中、一人の人影を見つけて睨みつける
「ほう、かわしたのか。それなりに当てるつもりで放ったのだがな。全てかわされるとは思わなかった」
現われたのは、男物のスーツに身を包んだ隻腕の女性。―――先ほど放ったものと同じ物か、指の間にいくつか鉄のつぶてを挟んでいる。そして、肩に下げた布で包んだ長い棒―――槍の類だろうか。
「あんた、いきなり何を!?」
「……?ああ、安心しろ、このあたりに防音の結界は張ってある。この程度の音で一般人が駆けつける事はないさ」
「そうじゃない!! 何であんた、今いきなり攻撃なんか―――!?」
「ふむ。言っている事がよくわからないな。―――マスターは殺しあうものだろう?」
―――な、なんだって?
マスター、とこの人は言った。間違いなく聖杯戦争のマスターのことだろう。………しかしおかしい。俺はこの聖杯戦争に参加したマスターは全て把握している。―――俺が知らないマスター。そんなことが在りうるのか。
「―――一体………」
「ああ、私はいわゆる『反則』だよ。―――私のサーヴァントと共に、ね」
彼女の隣の空間が揺らいだかと思うと、一人の少女が現われた。―――サーヴァント。
その姿に、どういうわけか、セイバーを思い出した。見目形が似ているわけではない。……いや、どちらも綺麗なんだけど、この少女の髪は亜麻色だ。似ているとすれば、それは鎧に身を包んでいることか、それとも―――
………とりあえず今は関係ない。それよりもまずい。アレは、まずい。一体どこの英霊で何のサーヴァントなのか知らないが、この無表情な少女から、得体の知れないプレッシャーを感じる。
ざっと上辺の能力を見る限りたいしたことはない。それでも感じる。アレは強敵だ――と。
「………イリヤ、バーサーカーは?」
「無理。ゴッドハンドはもう残ってないから回復しなきゃ。………それに、傷もぜんぜん治らないの」
………バーサーカーを助けたのは本当にギリギリだったらしい。………しかし、傷が直らないとは………まぁ、ハルペーあたりだろう。ともかく、バーサーカーには頼れない。アーチャーを呼ぶようなマネは俺には出来ない。ならば―――
「ライダー」
「………なんでしょうか」
「今のマスターは桜でいいんだよな」
「………はい」
「マスターを護るのはサーヴァントの勤めだよな?」
「………はい」
「よし、じゃあ頼みがある」
「桜を連れて逃げろ。出来ればイリヤも一緒に俺の家まで送ってくれると助かる」
「この場合はしょうがない。わかりました。サクラを頼みます」
俺とライダーの言葉は同時だった。
「………正気ですか貴方は」
あ、なんかあきれられた感じ。やれやれといった雰囲気でライダー。
「何だその目は………って目は隠れてるのか。とにかく、俺は正気だ。さっさと逃げろ」
「生身の人間がサーヴァントに敵うわけがないでしょう。ここは私が残ります」
「ほっといてくれ。こっちは昨日の夜からずっとサーヴァントしか相手にしてないんだ。ライダーこそ、桜をほっといて戦えるわけないだろ」
ライダーに魔眼を使ってもらえば全員離脱できるかもしれないが、それはパスだ。目の前の女性の抗魔力はしらないが、最悪石化して死んでしまう。さすがにそれは避けたい。
「とにかく行けって。どうせライダーと俺も敵なんだろ?だったらここで潰し合うって言うんだからライダーとしてはむしろ得じゃないか」
「貴方は私を馬鹿にしているのですか!! そのような勝ち方を私が―――」
「ああもう!! おれじゃあ桜とイリヤ連れて逃げるのなんか無理だから行けって言ってるんだ!!」
ああもうなんでこう聞き分けの悪い奴らばかりいるんだ!?
その後も5分ほど口論した結果、何とか説得に成功した。
「じゃあ、とりあえず俺の家へ。場所はイリヤが知ってる」
「了解しました。―――ところで、貴方の名は。まだ聞いていないのですが」
「衛宮士郎。………あとでな」
「はい。ではシロウ。御武運を」
答えたライダーがイリヤと桜を担いで走っていく。………さすがライダー。凄いスピードだ。………さて
「ふむ。まとまったようで悪いのだが、逃がすと思っているのかな?」
「少なくともあの三人は逃げ切るさ」
「ああ、ここで君が私達二人を同時に相手に出来るのなら、な。―――槍を」
「はい。マスター」
サーヴァントの少女が女性の肩に掛けてある棒を受け取り、布をはぐ。――――それは見た目の作りこそ普通の長槍。しかしその穂先は血の色に染まっている。この槍は………
「………聖なる槍………ロンギヌス!?」
「これを知っているのか。……ああ、念のため言っておくが、この娘はかの処刑兵でも円卓の騎士の一角でもないぞ」
……つまりあれは、サーヴァントの宝具ではなく、『実物』ということか。………これではあの少女が何者なのかつかめない。
「さて、そろそろ私はあのサーヴァント達を追わせてもらう。―――いくら私でもあのスピードに追いつくのは少々骨でな」
「させるか!!」
生身の人間がサーヴァントであるライダーの速度に追いつけるとは思えない。それでも、とにかくここでこの人を逃がすわけには行かない!!
「じゃあな坊や」
ピッと挨拶するように手を上げて呪を唱える。
「――――空を為る 洸雨を此処」
呪文が聞こえた刹那。女性の姿が消え、現われたのは背後十数メートル。………空間転移!? 彼女は元いた場所から数十メートルの距離を瞬間移動したのだ。
「ああ、そんな大層なものではないが。なかなかの芸だろう? それよりも、衛宮君と言っていたかな。こちらに気をとられているとあっさり死ぬぞ」
――――!? 接近してきた少女の槍をギリギリでかわす。次の動作で地面を蹴り、少女との距離を開け―――
「投影、開始―――!!」
投影。作り出すのはまたしても干将莫耶。体勢を立て直し、少女を睨む。………しまった。女性のほうには逃げられてしまった。
………あの魔術。空間転移ではないようだが、あの速度だ。二つの荷物を抱えたランサーに追いつくことは難しくないかもしれない。どうする――――
「マスターを追うことを考えるよりも、ご自分の心配をなさったらいかがでしょうか」
声と共に空を貫いてくる槍。その速度、ランサーには及ばずも、俺を殺すには余りある一撃を弾き、さらに後退。
「『ランサー』なのか? 同じ聖杯戦争で同じクラスが召還されるなんて―――」
「―――いいえ。私のクラスはランサーではありません。この身を示すクラスは『将軍』。兵を指揮すべきサーヴァントです」
―――? 俺の知らないクラス。7つのクラスに該当しないサーヴァント。この少女―――ジェネラルは『反則』。つまり、アヴェンジャーのように正規の英霊ではない――!?
「そういうわけなので、私自身はそれほど戦闘には向いていません。―――ですから」
突如、彼女の指にはめられた指輪が輝いたかと思うと、突然に3つの人影が現われる。―――その姿に驚愕した。
「―――ランサー、それに他の二人は―――」
デュランダルとオートクレールをそれぞれ構える騎士。円卓の騎士ローランとオリヴィエか!?
「………ランサー? ああ、彼は今この戦争に召還されているのでしたね」
「馬鹿な………サーヴァントがサーヴァントを召還した………?」
それも3人。とてもじゃないが信じられない。
「ああ、違います。これは本体の影。能力そのものはオリジナルの十分の一にも及びませんよ。―――ですが」
ランサー……クーフーリンが迫る。その槍を弾く、右より襲い掛かるローラン。後ろに飛ぶ。オリヴィエが今いた俺の位置に着地する。
確かに、この英霊達それぞれの力は、たいしたことがない。一対一ならばそうそう負けることはないだろう………だが、それが3人。連携を仕掛けてくるのだ。はっきり言ってこちらの武器が双剣でもなければ捌き切れない。
「休む暇は与えません。行きなさい」
号令と共に、今度は正面より同時にオリヴィエとローラン。それぞれを干将と莫耶で防ぎ、強引に二人の間を突破。二人の後方より迫るクーフーリンに斬りかかる。が、回避される。構わずクーフーリンの脇を抜け、再び3人に対峙する。
まずい。こいつら強いわ。………とてもではないが、干将莫耶だけで倒すことは不可能。ならばどうするか。魔力はなぜか異常に充実している。はっきり言って全快だ。昼に行った剣製の後遺症すらない。……どうしてかについては考えないで置くことにする。それよりも今だ。どうやってこいつらを倒す―――?
さらに迫る3人の攻撃を何とか受け、捌き、時に反撃しながら考える。
ケルトの英雄と円卓の騎士。こいつらを倒す方法はないか。ふとよぎったのはセイバーの聖剣、エクスカリバー。………確かにアレならば一撃で片を付けられるが、こんな住宅街で使うわけにもいかない。…………まてよ?
トレース オン
「投影、開始」
作り出すのは多数の黒鍵。確信はないが、この程度の武器でも英霊の影とやらには通じるだろう。というか、今からすることにこれ以上の剣を使おうとすれば俺が持たない。
「該当情報検索」
「派生概念、抽出完了」
投影の構成を維持したまま、イメージするのは『セイバーの剣』。そこより繋がる一つの力を引き出す。
シール クリア
「投影付与。工程終了」
黒鍵の全てにその情報を叩き込む。………さぁ、準備は出来た。
3人の英霊から大きく跳び退り、投影を完成させる―――!!
セット ヴァニッシュエア ブレイドワークス
「投影開放。―――<汝等、視コト敵ワズ>」
静寂。『見た目には』何も起こらない。
「………何をしようとしたのか知りませんが、失敗のようですね。………それでは終わりです」
そして襲い掛かる3人の英霊。しかし、それは俺に到達することなく、バラバラに刻まれて転がり消えた。
「な―――!?」
ジェネラルが、その無表情だった顔を強張らせるのを見て、勝利を確信する。
インブビシブルエア
―――種を明かせば簡単なことだ。セイバーの宝具、風王結界―――結界魔術である、あれそのものを投影することは出来ないが、エクスカリバーの派生としてその力を検索し、黒鍵に付加して俺の目の前の空間にばら撒いておいたのだ。―――正直、普段の倍以上の魔力を消費したが。
そこに3体の英霊が突っ込んだ。―――風王結界は魔術的な隠蔽効果もある。そう簡単に見破られるものでもない。
「………驚きました。まさか、魔術師が単独で我が兵を撃退するとは。………ですが」
指輪が光る。またしても現われる人影の数は7。その中にはさっきの3人も含まれる。
「貴方がいくら兵を倒そうと、私はそれを用意できます。貴方は私にたどり着くことは出来ない」
………なるほど、限度がどのくらいかは知らないけど、魔力が続く限り呼び出せるわけか。
しかし、別に風王結界を纏った黒鍵を投影したのは、あの3人を倒すためだけではない―――!!
「そうか。でも、そろそろ俺も逃げさせてもらうから」
「賢明な判断です。………ですが、逃がすと思うのですか?」
シールアウト
「いいや、にげるんだよ―――開放」
最後の呪を呟いた刹那。今だ空間で待機状態にあった幾つもの黒鍵の風王結界が解放され、凄まじい風が爆発し、反響し、視界を埋め尽くす。
魔力を伴って荒れ狂う風を隠れ蓑に、俺は、その場から逃走した。
続
あとがき
急展開エボリューション………誰か助けて。
さてこんにちは。破滅666と名づけられました。破滅です(意味不明)。どうにも最近展開を早くしすぎて大丈夫なのかと悩む日々。このままでは聖杯戦争が5日で終わってしまう………
新キャラ登場。一人は言うまでもなくバゼット嬢です。そしてそのサーヴァント、色々とやっちまった感じがふつふつとするジェネラルちゃん。……タイガー並に名まえが……
彼女の真名とかについてはまたいずれ。なんか喋ってた泥は大体予想と同じだと思います。………バゼット嬢を助けたのはゼルレッチのじ〜さんなんだろか………
そして、士郎新技。別種付加投影。つまりは他の剣の能力を別の剣に追加する……というわけですが、その効果は2ランクほど落ちます。しかも黒鍵クラスの人工が可能な程度の剣にしか付加できません………と、こんなものでしょうか。
それにしても間桐家………いいのか、こんなんで。桜さん、何の盛り上がりもなく救われる。…………まぁ、まだ桜には問題ありますけど。
それではおまけ。破滅版バゼット嬢のプロフィールをもって、今回は終わりとさせていただきます。
バゼット・フラガ・マクレミッツ
27歳 スリーサイズ、体重は不明。ただし、可もなく不可もなく。
細かい素性はサイドマテリアルとか参照のこと。
ジェネラルのマスター。召還方法については秘密。
彼女の魔術は「偽装転移」というもので、物質の質量を擬似的にゼロにし、加速を掛けることで亜高速の移動などを可能にする。ぶっちゃけオー○ェンの擬似空間転移のパクリ。
知らない人のために補足すると、質量はゼロになるけど物質として存在するので、壁なんかに当たると運動エネルギーが爆砕してとんでもないことになる。
これを利用して彼女は鉄のつぶてを飛ばして攻撃するのを得意とする。最初に士郎たちを襲ったのもそれ。
因みにロンギヌスだが、ランサーの真名を隠す偽装として魔術教会が用意した本物。実は穂先が他の聖剣の柄に仕舞われている筈だとかそんなことを気にしてはいけない。
追伸。 野郎共最近目立ちすぎなことがわかった。バゼットコンビには頑張ってもらいたいものです(ヒロインは!?)
エミヤシロウ。サクラの友人(?)でマスター。たぶん魔術師。あの男は一体どういうつもりか。
よりにもよってサーヴァントと対峙して、自分が残ると言い、あまつさえ、敵であるはずの私に、自分の仲間まで託す迂闊な男。
まぁ、正直ありがたかったのだが。いくら私でも、意識のないサクラを守りながら、あの正体不明のサーヴァントと戦う自信はなかったし、彼がサクラを抱えてかつ、イリヤとか言う少女を連れて逃げ切れるとは思えなかった。
だからと言って、彼からそれを言い出すとは。―――もしかしたらシロウというのは物凄く強いのかもしれない。………そのようには見えなかったが。
――――ただ、得体の知れない確信がある。
彼は、たとえ実力が伴わなくても、あの場では必ずああ言って残ったであろう、と。
まぁ、とにかく、彼が一体どのような人物であろうと、とりあえず信頼にはこたえねばならない。………ということで、イリヤという少女の道案内の下、シロウの家までたどり着いたのだが、追いつかれた。あの魔術師に。
追いつかれたのだが、その魔術師は突然振ってきた剣の雨に退散した。………その攻撃の主―――アーチャーは、これまたどういうつもりか、イリヤはおろか私たちまで家に上がれという。どうも彼のマスターがシロウらしい。
自分以外のサーヴァントをあっさりマスターの家に侵入させるサーヴァント………しかも茶まで出された。ほんとにどういうつもりか。
あのマスターにしてこのサーヴァントありといったところだろうか。
さすがの私も、いい加減毒を抜かれたというかなんと言うか、彼らに無理して敵対する体勢をとっているのが馬鹿らしくなってきた。
そこで貴方のマスターが危ないとアーチャーに進言したのだけれど、アーチャーは行かないという。曰く、サクラの抱えていた食材で、夕飯を作らねばならない、と。
なんというか、あきれ果てた。家事に従事して、マスターを放っておくサーヴァントがこの世にいようとは。………いや、そもそも家事万能な英霊というのが信じられないけれど。
ともかく、借りもあるし私が加勢にいくなりしようかな、と玄関までいくと、シロウはあっさり帰ってきて、平気な顔で「ただいま」なんぞと、のたまうのだ。
ああ、シロウ。貴方は一体何者でしょうか。サーヴァントともどもワケがわかりませんよ、いやほんとうに。
Fate/All Reload
第八 夜の集い
さて、ジェネラルから逃げて何とか家にたどり着いたら、玄関先でいきなり怒られた。ライダーに。
『何が「ただいま」ですか!! 貴方本当に何がなんだかまったくわかりません。ちょっとは解り易くなったらどうなのですか!?』
………だ、そうだ。俺何かライダーにしただろうか。それこそわけがわからない。
ともあれ、ライダーを伴って居間にたどり着くと、イリヤに猛烈タックルを食らった。
…………アレは痛かった。痛かったけど、なんというかほら、捕まったまま泣かれたら文句も言えない。まぁ、心配させるようなことはけっこうしてるけど。
それで、桜だが、まだ寝ている。
「先ほどイリヤスフィールから聞いて少し調べてみたのだがな、どうも、体内に無数の裂傷が残っている。あと、それより大きい傷が………心臓の横だ」
「………それってつまり………」
「ああ、貴様が言う通りなら、マキリの老人が抜き取られている。そのほかの蟲も一緒に、な」
「それで、桜は大丈夫なのか」
聞く限りだとかなり危険な状態だと思うのだけど。何せ外傷はないけど体の中はずたずたになっているはずなのだ。死んでいてもおかしくはない。
「―――それが、妙なのだが、傷といっても別に血が出ているでもなし、そもそもそれぞれが小さいからな。心臓以外は問題がない」
「じゃあ、心臓は」
「聞け。心臓のほうも同じだ。―――よほどうまく切除したのか、体の機能に問題はない。じきに目を覚ますだろう」
そっか、それはよかった。とりあえず桜が無事ならそれで十分だ。
「しかし解せんな。………原因として考えられるのはお前たちのいう泥だろうが、一体どうやってこの様な………いや、それ以前に何の得がある?」
「……いや、わからないけど。とりあえずよかったじゃないか。間桐臓硯については本当にお手上げだったんだし」
「あの………先ほどから話が読めないのですが」
と、横からライダー。隣のイリヤと共に怪訝そうな表情を向けてくる。
「………ああ、間桐臓硯ってじじい知ってるかな」
「………はい。サクラとシンジの祖父で、なんと言うか、とても嫌な感じのする人物でしたが、それが今の話と何の関係が?」
「………うん、それなんだけど―――――」
話した。ライダーは桜のサーヴァントだ。彼女の事を隠して置こうにも、ライダーは納得しないだろう。…………アーチャーと俺の関係については伏せた。特に意味のあることではないし、余計に混乱させる恐れもあるからだ。
「………なるほど。確かに理由はよくわかりませんが、それはよかった。サクラはこれで自由なのですね」
「ああ、多分。臓硯がどうなったのかはわからないけど、桜がこれで苦しめられなくて済むようになったのは――――」
「そんな―――先輩」
…………と。振り向くと、いつのまに起きたのか、桜がそこに立っていた。
「よかった。目が―――」
「知っちゃったんですか………先輩」
「あ―――」
泣きそうな桜の顔をみて、ワケもわからず、しまったと思った。
「士郎、少し席を外せ」
「なんで―――」
「いいから外せといっている」
めったに聞いた覚えのない怒気をはらんだアーチャーの声に、仕方なく部屋を出る。
ふと振り返った先に見えた、桜の顔がひどく印象に残った――――
自分の部屋に行ってしばらくしたのち、居間に戻ると先ほどは泣きそうだった桜も、目は少し赤いものの、平静を取り戻しているようだった。
『まぁ、とりあえずは大丈夫だろう。………いずれ、おまえ自身が決着を付けろ』
とは、戻る前にアーチャーの言っていた言葉だ。
「大丈夫か………桜」
「はい………私は大丈夫です。先輩」
「そっか。よかった」
それ以上は何も言わない。少し無理をしているようだが、それでも笑ってくれる桜に何か言うことなんて俺には出来ない。
しばらくの間、居間を静寂が包む。
「そういえば―――」
その静寂を破ったのは、桜だった。精一杯という感じの笑顔で、クスリと笑いながらアーチャーに対して、言う。
「アーチャーさんが先輩のお兄さんだなんて聞いたときは、本気で信じちゃいましたよ?」
……………………………いやまて。お兄さんだと?…………まさか、こいつ…………
「その通りだ。ちなみに偽名を渡貫三郎とした。藤村大河他弓道部員にはそれで口裏を合わせておけ」
「…………………………なんて頭の悪い偽名だ」
「たしかに、ヘンな名前ですよね」
言って笑う桜に感謝する。…………この暗かった雰囲気を自分から払拭してくれた強さをとてもうれしく思う。
「ところでだな、アーチャー」
「なんだ。センスゼロで悪かったな」
気にしてるのか…………というかコイツがセンスゼロってことは俺も………?
そんなことを思いついて、少しへこみながらも、聞きたいことは聞く。
「その格好はなんなんだ?」
「それは私もさっきから気になっていました」
「私も」
ライダーとイリヤも賛同してくれる。………こいつの格好。つまり………親父の着流し。
「それについてはむしろ私が聞きたいのだが。普段の格好では怪しまれるからと、サイズの合いそうな切嗣の服を探せば、何故にこれしかないのだ」
「ああ、その文句は藤ねぇに言ってくれ」
何時だったか、親父が死んだ後で藤ねぇが強襲し、『切嗣さんグッズ』として根こそぎもっていったのだ。…………正直な話、あの時は本気でキレるかと思った。
「そもそもお前なんで、ずっと実体化したままなんだよ。バーサーカーだって幽体になってるって言うのに」
「………シロウ、それは遠回しに私に消えろと言っているのでしょうか」
「え!? ああ違うそういうわけじゃ―――」
「そうですかそうですか。どうせ私のような陰気で大きな女など、居ても場が暗くなるだけですか」
「だから俺はアーチャーに言ってるんだってば!!」
「つまり私とは話す価値もないのですね………」
言って「ずぅぅぅん」と効果音付きで暗くなるライダー。………忘れてたけどライダーって結構コンプレックス多いんだよな。
「先輩、ずいぶんライダーと仲がいいようですね?」
「え、桜!?」
振り返った先には桜。先ほどとは違う意味でなにやら雰囲気が悪い。
「いや、別に仲がいいわけじゃ…………」
「その通りですサクラ。私はこの様な男に興味などありません。それに彼は本来敵です。仲がよくなるなど、そのようなことはありえません」
…………ひどいや。
まぁ、その後も、桜が拗ねたりライダーが拗ねたりイリヤが拗ねたりして、場を混乱させたのだが、とりあえず夕食を、ということになった。
「で、誰と誰が食べるのだ?」
「というか、俺としては普通に飯の準備していたお前が信じられないんだけど」
本当に。仮にもマスターがピンチの時に弁当届けたり夕御飯作っているこいつは一体なんなんだ?
「うるさい。食うのか、食わんのか」
「あ〜えっと、俺とサクラとイリヤと………ライダーも食べるだろ?」
「食べません」
即答。そりゃもうセイバーも真っ青のバッサリだ。
「そう言うなって、みんなが食べてるのにライダーだけ食べないってのも何か嫌な感じだろ」
―――俺たち的にも。
「―――そういうことでしたら頂きます。………ですがその場合、バーサーカーはどうするのでしょう」
「………………あ」
しまった。忘れてた。しかし、バーサーカーか。とてもではないがあの巨体で今に入ってもらうわけにも行かないし…………もう少ししたら藤ねぇもくるかもしれない。さすがにバーサーカーは誤魔化しきれる自信がない。
助けを求めるようにイリヤを見ると、
「気にしなくて大丈夫だよ。バーサーカーはそういうのはいらないからシロウはきにしなくても」
「ごめん。後でおにぎりでも作るからそれでバーサーカーには我慢してもらおう」
「いや、だからいいんだってば………」
………と、そんな会話を続けていたら、『ソレ』は来た。
「士郎――――!! おなかすい……・・・だっ!!」
唐突に廊下より現われたタイガー。ついに我が家でロケットダイブ。
廊下と居間をつなぐ段差で躓き、ついこの間聞いたようなヤバイ音を立ててぶっ倒れ、そのまま動かなくなった。
夜の闇より暗い静寂が、居間を支配した。
「…………シロウ、コレは?」
あまりのことにライダー、藤ねぇをコレ呼ばわりだ。
「………気にしないでくれ、我が家に出没する怪生物だ」
「それは気になると思うんだけど。お兄ちゃん」
「いやーサブちゃんの御飯おいしーよー。コレに比べると士郎はまだまだね〜。士郎も早く上達してこの味をゲットするのよ」
「む。そんなこといってると明日から飯作ってやらないぞ。って言うか自分で覚えようって気はないのか」
「ダメですよ先輩、そんなこと言っちゃ。でも本当においしいですねー」
「何、それ程たいした物ではないさ」
ともあれ、藤ねぇは勝手に蘇生し、夕食となったわけだ。………サブちゃんについては黙殺する。…………追求したくない。
「いえ、私にはこういうものを口にする機会はほとんどありませんが、これはおいしい」
「うん。私もこういう料理は初めてだけどおいしいよ」
あ、虎がとまった。…………ということはそろそろか?
「って、何なのよこの子達はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
虎、爆発。………まぁ、今まで反応しなかったのが奇跡か。
「士郎ぅぅぅぅぅ!!! おねぇちゃんにちゃんと説明しなさい!! 何なのこの幼女と出張ホステスみたいなのは!!」
…………いや、藤ねぇ、確かにイリヤは見た目幼女だしライダーも見ようによってはそんな感じだけどさ。
「…………出張ホステスというのは一体何なのでしょうか」
「忘れろライダー。深く関わるな」
「アーチャー、貴方には意味がわかるのですか?」
「この場では三郎と呼んでもらえんか。まぁ、ノーコメントだ」
「あのね、私はシロウの――――――むぐぅ!!」
何か言おうとしたイリヤの口をすばやくふさぐ桜。
「この人たちは、街角で行き倒れていたので拾ってきたんです。なんでも姉妹だそうで、行くところもないというので此処に連れてきました」
…………桜さん? そんな猫みたいな…………
「あら、桜ちゃんが連れてきたの? だったら問題ないわね」
なんでだ。
「諦めろ、えみ―――士郎。この女の思考回路など我々には解る訳がない」
「ああ―――それはわかっていたつもりなんだけどな、「兄さん」」
俺には桜のことも解らなくなって来たよ。
まぁとにかく、状況は整理された。身寄りのない姉妹(設定)の二人は、部屋の多い俺の家に仮住まいということで藤ねぇを納得させた。何故か、桜が家に止まるのもあっさり承諾。虎の考えることはわからない。
その後、藤ねぇがその格好では、俺の危機だとか何とかぬかして、ライダー用の服も用意してくれた。………藤ねぇのお下がりで、ライダーが胸がきついとぼやいていたのは秘密だ。色々な意味で。
………魔眼殺しについてはライダーが自分で何とかした。小さめの眼鏡がよく似合う。ずれた時が怖いけど。
その辺の準備も終わり、藤ねぇは帰って行った。―――何せ、明日は月曜日だ。教師が何時までも生徒の家でくつろいでいるのもまずいだろう。………あんまりあの虎には当てはまらない気がするけど。
そして、これからの方針を決めるために、居間で顔を突き合せる。
「といっても、たいしたことが決められるわけじゃないけどな。―――桜は、戦わないんだろ?」
「………はい、私は別に聖杯が欲しいわけではありませんし、下手に先輩についていっても足手まといですから」
「ライダーはどうなのだ?お前は聖杯に―――」
「私にも聖杯にかける願いはありません。アーチャー。サクラが戦わないというのであれば、私はサクラを護るだけです」
………とりあえず、安心した。桜が戦わないことも、ライダーがそれに反対しないことにも。………で。
「イリヤはどうするんだ?」
「私はおにいちゃんの手助けはするよ―――って言いたいところだけど、バーサーカーが………」
「まずいのか?」
「うん。消えることはないと思うけど、多分もう戦えないよ」
「そうか、ならイリヤも留守番………と」
うん。結局俺とアーチャーだけか。まぁ、そのほうがいい。戦うことが無ければ傷つくことも無いからな。
「さて、では士郎よ、これからどうするのだ? さし当たって危険なのはキャスターと………あの正体不明のマスターだが」
キャスター。穂群原学園の教師、葛木をマスターに、柳洞時で町の人々から魔力を吸い取っている、危険な魔 女だ。
そして、先ほどのマスターとサーヴァント。真っ向から勝負を仕掛けてきている分、本来ならやりやすいのだけど、倒す気が無い俺たちにとってはむしろ最悪な相手だ。
「キャスターについては、マスターの葛木に学校で話を付けてみようと思う。………ジェネラルのほうは、待つしかないだろうな。居場所もわからないし」
もしかすると遠坂や言峰あたりに仕掛ける可能性もあるが、それについてはもはや防ぎようが無い。引き分けてくれることを祈るばかりだ。
「ふむ。とすると明日は普通に登校するわけか」
「そうなるな。………あ、ライダー。学校の結界………」
「アレならば先ほどサクラの指示でもう消しましたが」
「あ、そっか。サンキュ」
「いいえ、私はマスターの指示に従っただけです」
何でそこで変な謙遜するかな………桜さん、お願いですから睨まないでください。
「で、放課後は家に帰って情報整理。夜は適当に歩いてジェネラルとマスターをおびき出して説得。出来なければ―――無力化する」
葛木との話の流れによってはキャスターとの決戦もありうるが、そうはなりたくない。
「それはいいのだがな、士郎。学校に行くというのに貴様、凛とセイバーの事を忘れてはおらぬか」
「いや、学校に遠坂は来ないだろ。今回はお前じゃなくてセイバーがついてるんだ。セイバーは霊体化できないから、学校に来るとは思えない」
俺はセイバーを置いて言ったような気がするけど。………まぁ、それについて遠坂に起こられたような気もするから、多分大丈夫だろう。
「……………そういうのなら、かまわんがな。だが覚えておけ、衛宮士郎。あらゆることには例外というものが存在するのだ。あとで痛い目を見ても知らぬからな」
…………それはわかったけどさ、アーチャー。その格好のままかっこつけられてもやっぱり締まらないと思うぞ。
翌日。俺にはアーチャーが、桜にはライダーがついて学校へ行った。イリヤはもちろん留守番だ。少し心配だが、まさかあそこへ昼間から攻め込む馬鹿も居ないだろう。
………で、教室で一成やらと話していると、予鈴がなって席についた。
しばらくして扉が開く………いつもと違って静かだな、藤ねぇ?
「はいみんなおはよ〜今日はみんなにうれしいお知らせがあるのよ。そりゃもう泣いて喜ぶくらいに」
なんなんだそれは。というか、学校でどんなうれしいことがおきるんだ? 何か新しい行事でもできたのか?
「というわけで問答無用で転校生をしょうかいしま〜す。ささ、入ってきてー」
………………なんでだ。
呼ばれて教室に入ってきたのは、よりにもよってセイバーだった…………………
続
あとがき
開き直った!! 暴走上等!! シリアス風にネタ組んどきながら学校にセイバー様光臨!! もうやってやれだ!!(爆走)
………はいどうも。破滅666ですこんにちは。やっとこさひと段落着きましたよオールリロード。
さて、桜さん。泣きそうになってたりするのはもちろん、士郎に知られたくなかったことを知られたからですが、アーチャーとどのような会話の元に立ち直ったのかはまったく描写しておりません。だって本編は士郎から視点はずさないし。
まぁ、コレについては気が向いたらプラスのほうで補完する、ということで。
そしてサブちゃん。バゼット嬢を迎え撃ったときももちろん着流しのまま。なんか気に入ったようです。
爆発、ライダーイリヤ姉妹。いつの間にか桜共々衛宮家に居候決定。でも役に立つ気配なし。………へいわだなぁ。
さて、久々に出ましたよセイバー………どうするんだろう(ぇ)
まぁ、このまま、うやむやのうちに和解するのはまずありえないって言うか、俺が許さんので安心してください。
というわけで今回も終了第8話。桜が本当に助かってしまったあたりにご都合主義的非難ボーボーじゃないかと思いつつさようならです。
なんというか、アレだ、不意打ち。
なんだっていきなりセイバーが学校に転入してくるんだ? おかげでクラスは大騒ぎ、休み時間は他のクラスからの見物客でいっぱいだ。
しかも、名乗った名前が「アリア・セイバー」。真名縮めてクラス名付けただけ。………なんとなく渡貫三郎は少し考えた名前なんだなぁ………とか思ってしまった。渡貫がどこから出てきた名前なのかは謎だけど。
さて、セイバーだが、うちのクラスに転入してきて席は隣。だけど、この昼休みまで一度も目を合わせず、一度も会話をしていない。
それはそれで構わない。俺にはセイバーと何を話していいのかわからない。だから、会話が無いというのであればそれはそれで助かる。
ただ、ああいう別れ方をしてしまったこともあって、非常に気まずい。結局のところ俺は、セイバーに禁じようとしたことを自分でやっているのだ。止まるつもりは無い。止まるわけには行かない。それでも、やはりセイバーに対しては、後ろめたいものを感じてしまう。
―――答えが欲しいと思う。俺がこのまま戦い続け、それでもセイバーには解ってもらえる様な。………しかしそれは夢想だ。答えなんて出ない。―――それでも、それを願ってしまう。
俺が何も知らないままならこうはならなかった。俺はセイバーと共に、聖杯戦争を戦っただろう。―――しかし知ってしまった。ならば動かねばならない。それがたとえセイバーと分かたれた道であろうとも――――
衛宮士郎は、正義の味方でなければならないのだから――――
Fate/All Reload
第九 特になんでもない一日
………で、遠坂に消しゴムぶつけられて現在、このクソ寒いのに自作弁当持って屋上にいる昼休み。
「…………何か言いたそうね」
「別にそんなこと無いぞ。そう思うのはきっと遠坂に後ろめたいことがあるからであって、俺のせいじゃない」
俺の言葉にムっとする遠坂。――――――因みにセイバーは普通に学食で御飯を食べているらしい。………どうなっても知らないからな。うちの学食で食べさせるなんて。
あの定食はある意味脅威だ。何を食べようが、サラダだろうと全て肉の味がする。そんなものをセイバーに食べさせて逆上されても誰も止められないぞ。
………いや、それはともかく。自分のサーヴァントを側に置かずに俺に接触をかけてくると言うのは、いくらなんでも無用心すぎるのではなかろうか。
「そこのところはどうだろう」
「何?」
「いや、なんでもない。…………ところで遠坂、どうやってセイバーを転入させたんだよ」
いきなり召還されたサーヴァントに戸籍なんて当たり前だが無い。一体どうやったらこんなまねが出来るのか。
「そんなの簡単よ。藤村先生の実家にお願いしたの。色々な書類とかの偽造」
あ〜なるほど。たしかに藤村組ならそのくらいは朝飯前に出来る………って、
「まて。何で遠坂が藤村組にコネがあるんだ?」
「なんでって、冬木一帯の霊的な管理が遠坂で、物理的に縄張りにしてるのが藤村組でしょ? 偽造書類の一つや二つ作らせるくらいの貸しは作ってあるわよ」
……………………一体どうやって貸しを作ったのかとかは聞かないほうがいいんだろうな、うん。
「ま、まぁその辺りはいいや。それで一体なんのようなんだ? わざわざガンド込めた消しゴムなんか投げるくらいなんだから、それなりに重要な内容なんだよな」
「………文句あったんじゃない」
当たり前だ。なんで『黙って屋上まで着なさい』なんて念がこもった消しゴムで4回転半もしなけりゃならんのだ。俺は後藤君を弟子に取るつもりは無いぞ
「まぁ、いいけど。まず一つ。アーチャー、いるんでしょ」
「………なんのようだ? 元マスター」
答えてアーチャーが出てくる。………まぁ大丈夫だと思いたい。部外者の侵入とか。
「元………ね。今のマスターは衛宮君?」
「その通りだ。甚だ不快ではあるがな」
む、それはこっちのセリフだと言っておきたい。
「そう、じゃあ、本当に敵同士ね、私達」
「そうなるな」
「なんでさ」
「「……………………………」」
二人が沈黙する。………はて?
「アーチャー、ほんとうにコレがあんたの過去なの」
「違うと断言したい」
はぁ、と遠坂が溜息をついて表情を『お説教モード』に変更する。
「あのね、衛宮君? どういうつもりで言ってるのか知らないけど、昨日私たちの交渉は決裂したでしょ? それで私はセイバーと契約して聖杯戦争を戦うといった。あなたはアーチャーと契約した。………どう? 立派に敵同士じゃない」
「だからなんでだ。俺は別に遠坂やセイバーと戦う気なんて無いぞ」
というか、前提として可能な限り俺はマスターやサーヴァントと戦う気は無い。桜のほうはもう問題ないかもしれないけど、いまだイリヤは聖杯としての機能を発現できる。
聖杯としてサーヴァントを受け入れてしまえば終わりだ。もともとそういう風に身体を作られてしまっているイリヤは聖杯の機能を身体に優先され、いずれ人間としての機能を失う。
「あんたには無いかもしれないけど私にはあるっての。聖杯戦争のルール、知らないわけじゃないんでしょ」
……………最後の一人になるまでって言うアレだろうか。まぁ、そういう意味では遠坂にとって俺は敵か。
「でもさ、俺遠坂に聖杯の事教えたよな? それでもアレがほしいってのか?」
「あんたが言うようなモノ、欲しいわけないじゃない」
「だったらなんで――――」
「決まってるじゃない、私が勝ちたいからよ」
――――――つまりなにか、遠坂は聖杯はいらないけれど勝ちたいから戦うのか。
「あんたに協力してたら指示に従うしかないじゃない。そうなったら勝ちは貴方のものでしょ」
「いや―――そうなのか?」
「まぁ、客観的に見ればそうかしれんな」
う〜ん。まぁ、遠坂らしいといえばらしいのだろうか。聖杯戦争に参加するのは聖杯のためでなく勝利のため。………たしか、今までに遠坂と協力してたときは確かに主導は遠坂にあったよなぁ………俺に覚えはないけどアーチャーの話によると俺、遠坂の使い魔みたいなものになったこともあるみたいだし。
「―――とにかく、一つ目は私たちの立場の確認。それともう一つ。―――葛木先生が正体不明の大怪我で入院したそうよ」
――――は? 葛木ってキャスターのマスターの葛木だよな。
「聞きたいんだけど、葛木先生ってマスターだったの?」
「あ、それは―――」
「まて、凛」
と、俺が答えようとしたらアーチャーが口を挟む。
「我々は敵同士だったはずだな? ならば我々が君の質問に無条件で答える義務は無いはずなのだが、どうだろうか」
「…………ちっ」
遠坂、いま「ちっ」って言ったか?「ちっ」って。
「失敗したわ。まずはこっちから聞いとくべきだった」
「その通りだな。ところで、葛木という教師だが、間違いなくキャスターのマスターだ」
っておい。
「アーチャーお前…………」
「何でいきなり………」
「さて、凛。我々は情報を提示したわけだ。こちらも相応の報酬を頂きたいと思うのだが、どうだろう」
「なっ」
………つまりそういうことか? アーチャーは遠坂が引き下がる前にさっさと聞いてきたことに答えて、それに対する交換を無理やり突きつけたのだ。………なんつ〜無茶な。
「ってまってよ。そっちが勝手に言い出したのに」
「まぁその通りだが、先に質問したのは君だろう?まさか踏み倒すなどとは言うまいな」
わかった。こいつは悪人だ。ある意味すっごく認めたくないけど悪人なんだ。俺の理想を貫いて英霊になった人は悪人でした。………親父、正義の味方って何だろう。
「なに、それほど大きな対価は望んでいない。………そうだな、今後、一度だけ君達の協力を得られる、というのはどうだろう」
「…………高い。葛木先生がマスターかどうかなんて、ちょっと調べれば済むことじゃない」
………じゃあ何で聞いてきた遠坂。
「わかった。では、他のマスターについても一人だけ情報を与える、というのはどうか」
「………わかったわ。聞けるマスターはこっちで選べるのよね」
「ああ、問題ない」
「………じゃあ、消えたみたいだけど、学校に結界を張ったマスターは誰?」
「士郎」
って答えるの俺か。自分だって知ってるくせにこいつは………
「………慎二だ。因みにサーヴァントはライダー。でも慎二は………………」
ああ、そうだ、慎二はあの影に飲まれて帰ってこなかった。もしかしたら、今日平気な顔で学校に来ているかもしれないなんて、思ってしまった自分が馬鹿らしい。
桜が助かったことに浮かれている場合じゃなかった。慎二は…………恐らく死んだのだ。
「慎二は、たぶん例のアンリマユみたいなのに飲まれて、死んだ。今のライダーは本来の位置に戻って、今のマスターは桜だ」
「慎二が―――? そう、彼、死んだの」
「ああ、俺の目の前で影に飲まれた。多分助からない」
「そう。………それで、ライダーのマスターが桜?」
「ああ、でも桜は戦う気は無い。もう間桐の束縛もないし、遠坂もわざわざ手を出したりはしないだろ」
「………間桐の話は聞いておきたいけれど、いいわ。また条件付けられたらいやだし。それよりも衛宮君? 貴方、私と桜の………」
「ああ、知ってる。―――この戦いが終わるまではしょうがないかもしれないけど、終わったら………ちゃんと二人で話せよな」
「それは余計なお世話よ。…………わかってるわよ、それくらい」
そうか、安心した。遠坂と桜は姉妹だ。もう………間桐の名に囚われる必要が桜に無いのなら、普通の姉妹に戻れるかもしれない。いや、戻れるだろう。
「話はこのくらいかしらね。…………依然サーヴァントは脱落ゼロ。最初に落ちるのはどこかしらね」
「え………葛木入院したんだろ? だったらキャスターは」
「だったら楽なんだけどね。なんでも、葛木先生の看病をしている正体不明の婚約者がいるらしいのよ。それも人間離れした美人だそうよ」
………正体不明の婚約者ってなんだろう。
まぁ、それは間違いなくキャスターか。どういうつもりか知れないが、柳洞寺から離れているのなら都合がいい。いざ、大聖杯を破壊しに行くことになったときにキャスターは最大の障害となったはずだ。
「……………まぁ、病院なら安心だろ。夜だって人いるし、早々襲われたりはしないはずだ」
隠密行動が得意なアサシンは柳洞寺に釘付けだしな。
「安心ってあんた………まぁいいわ。話はこれで終わり。じゃあね、衛宮君。―――人気の無いところで会わないように祈ってなさい」
「ああ、じゃあな」
「ん。ちょっと待て、凛」
屋上から出て行こうとする遠坂を引き止めるアーチャー。どうしたんだ?
「なによ、いまさら私のサーヴァントに戻してくれなんていっても遅いんだからね」
「ああ、それは非常に魅力的な話だが………とりあえず凛。君に後悔させてやるという約束はまだ有効だろうか?」
「―――っ!! 出来るもんならやってみなさいよ!!」
勢いよくバァンと扉が閉まる。………あ、予鈴がなった。
「約束って何だ? アーチャー」
「気にするな」
弁当、食べ損ねたなぁ………
結局その日は、それ以上セイバー、遠坂と話すことはなかった。………で、現在夕飯の材料調達に商店街に寄ったのだが。
「あ―――」
恐怖の中華料理屋、「泰山」よりビニール袋を下げて出てきたのは、昨夜俺と戦った少女、ジェネラルだった。いまは、怪しまれないためか、女の子らしい普通の服を着ている。
思いっきり正面に鉢合わせ、反射的に戦闘態勢を取ろうとする………が。
「お待ちください。今この場で貴方とやりあう気はありません。―――マスターも居ませんし」
あ、そういえばあの隻腕の女性が居ない。………ということは一人か?
「えぇっと、なにしてるんだ?」
「マスターの御飯の調達です。―――マスターは戦闘時以外は不精なので、私が御飯を届けることに」
………そうなのか。なんというか、度胸があるなぁ。
「それで………泰山?」
「はい。といっても、このお店は今日が初めてなのですが、なんでもマスターのお知り合いの神父様から以前に此処を薦められた事があるそうで」
…………なんとなくその神父が誰かはわかった。
「あんまり言いたくないんだけど、ジェネラル。ここの料理は普通の人にはお薦めできないかなぁ、と」
「問題ありません。私のマスターは魔術師。常人ではありません」
いや、そう言う事ではなく………しょうがない。俺は鞄から昼に食べ損ねた弁当を取り出し、ジェネラルに差し出す。
「………これは?」
「弁当。………もしも君のマスターがそれを食べられないようなことがあったら困るだろ? だから予備」
「いえ、しかし………」
「あ、俺が昼に食べようと思ってやつだし、それにここで会ったのはただの偶然なんだから、毒なんか入ってないぞ」
「それはわかるのですが………」
「なら問題なし。はい、それじゃあな」
ジェネラルに弁当を押し付けてその場を去る。………しばらく歩いて振り向くと、途方にくれたように弁当を抱えて立ち尽くす少女の姿が見えた。
そして、夕飯。昨日に引き続き大混乱。サクラとイリヤが妙なことでケンカを始めるは藤ねぇはライダーに酒飲ませるわ、何時の間に俺から離れて家に帰ってたのか、アーチャーは今夜も晩飯を作っていた。
…………最近とみに思うんだが、アーチャー、お前家事好きだろ。
その後、作戦会議によって葛木はとりあえず放置ということになった。
葛木が入院したらしい土曜から、今まで起こっていた集団昏睡事件などが新聞に載っていないことを確認したのだ。
つまり、キャスターは現在活動をしていないだろうということで、とりあえず放置するという結論に至ったのだ。………まぁ、あの二人は敵に回すことが無ければ、放置していても他に問題があるわけではないし。
で、夜の巡回、おびき出しだが、昨日の事もあるし、疲れを取るということで中止となった。………実際に戦った俺はほぼ全快しているのだけどなぁ………
というわけで、俺は現在、日課である鍛錬をするために土倉に一人。
「同調、開始」
俺の魔術回路が覚醒されたのは今からまる二日前。それから何度も投影魔術を駆使したとはいえ、いまいちしっくり来ないかんじがする。
頭で出来るとわかっていることに体が追いついてこないというか………
それが、おとといより昨日、昨日より今日、だんだんと、頭と体の齟齬が消えていっている。………そして、それに比すように俺の魔力も急激に上がっているのだ。
理由はよくわからない。でも、それでもより戦えるようになるのなら気にする必要は無い。戦力が上がるのは喜ぶべきことだ。
「投影、開始」
強化に続いて投影。慣らしのつもりなので、作り出すのは黒鍵。それに昨夜の再現と、風王結界を付与する。
「―――我が骨子は視えざるを求める」
カラドボルグの要領で、黒鍵の改良発動を固定した呪文で編めるようにする。『これはもともとそういう物』だと。
「工程終了。投影破棄」
―――そして、次。
「剣製、開始」
もう一度、ギルガメッシュ戦で思い描いた剣製の八節をイメージする。が。
「―――っく、が――――」
苦痛が激しい。………だめだ、とてもではないがあの剣を作るなんて不可能。やろうとすれば以前までの俺と同じ………あの鉄棒を無理やり背骨に突っ込んで引っ掻き回したような苦痛で死に至るかもしれない。
そもそもが間違いなのか。俺に自身のオリジナルの剣を作り上げることは出来ないのだろうか。―――奴は言った。あのときの俺の剣こそが俺の持つ究極の一、唯一の真作なのだと。
しかしそんなことはあるはずが無い。俺の剣製はあくまで固有結界の産物に過ぎず、その能力は無限の剣の模倣でしか―――ない。
それぞれを強化したり、より本物に近づけ、凌駕することもあるいは可能かもしれない。だが、新たにはじめから剣を作ろうとすればこの様だ。
不安定な幻想は維持できず、場合によっては俺の命に関わる。
だから、オリジナルの剣製の練習なんて、意味が無い。意味が無いはずだ。
だけどその夜、俺は魔力を使い果たして意識が落ちるまで、ずっと剣製の鍛錬をおこなった―――
続
あとがき
どうもこんにちは。破滅666です。
学園モノ………のはずがどうしたことか…………指の動くままに書いていたらこんなんに………セイバー、セリフなしですか。
バゼットさんですが、新都のビジネスホテルに泊まっています。安いところで、ルームサービスとかが最悪なのです。よって、ジェネラルが買い物に、と。自分で行けって感じですが。
遠坂、微妙だ…………どうしようか、この人。
そして葛木キャスター組、士郎の視界外で勝手に離脱。………もうアホかと。因みに、やったのはもちろんあの二人です。はっきり言って敵じゃねぇ(爆)。
今回は短く終了。あとがきでした。………さて、次回で10話。そろそろ第一〜第五の話を修正したほうがいいのかなとか思ったりしながらさようならです。
―――私は、何故ここにいるのだろうか。
英霊の座。そこにはたくさんの、本当にたくさんの英雄達がいる。私はその全てを知覚し、限定的に呼び出すことが出来る。それが私の唯一の能力であり、それが私の宝具ということになるらしい。
だけど、英霊達を知る私は、実のところ英雄なんかじゃない。私は、私が誰だかわからない。本来私のことを指すはずの真名ですら、私のものではないのだ。
マスターにも聞いてみたけど、わからないという。もしかしたら、私を召還するのに手助けしてくれたという御爺さんなら解るのかも知れないけれど、マスターによるとそのお爺さんはそう簡単に見つけられるものではないらしい。
私は、私が誰だか知りたい。一体いつの時代に生きて、どんな風に暮らしていたのか。住んでいた家はどんなだったのか、家族は―――恋人は?
―――それとも、もともと私なんてものは存在しないのだろうか。
―――意味が無いことなのかもしれない。なぜなら私はもう死んでいるのだから。英雄でありたいなんて思ってはいない。もしも守護者にでもなってしまえば、それは絶望しか見ることが出来なくなってしまう。そんなのはいやだ。
―――たとえば、先日会ったエミヤシロウという少年の未来。エミヤと呼ばれる英霊のように。
そう、彼。よりにもよって私の召還した英霊3人と渡り合い、これを倒した後に見事逃走を果たした人。………そして昨日はどういうつもりか、自分のお弁当を私に押し付けて去っていった。
―――マスターは、彼が心配していた様子も無く、黙々と「まぁぼぉ」というものを食べ、「ふむ、やはり言峰はいい舌をしている」などと言っていた。なので、あまったお弁当は、マスターの支持もあって、私が食べることになったのだ。………サーヴァントには食事は必要ないのだけど、せっかくマスターを心配していただいたものであるし、何よりご飯を粗末にしてはいけない。
あれはおいしかった。途中でマスターから「まぁぼぉ」を少し頂いたのだけど………いえ、マスターがおいしいと言っていたものを誹謗することはできない。とりあえずエミヤの懸念は正しかった………本来は。そういう意味では彼に感謝しなければならない。
話がずれた。…………エミヤシロウ。彼はとても善良な人なのだろう。彼にとって、別にマスターの食事事情がどうなろうと関係は無いはずだ。だというのに彼はそれを心配して自分のお弁当を私に預けてくれた。打算ゼロ。本当にただの善意だったのだろう。
英霊の座から得た彼についての知りうる全て。彼は一度たりとも私欲のために戦わず、多くの人のために戦い、そして最後には他人のために自分の死後すら犠牲にした。そして………自分の守った人たちに裏切られて死んだのだ。
私が直接会った彼はそうなってしまうのだろうか。私は彼についてほとんど知らないといって言い。英雄としての情報なんてただの事実でしかない。でも思うのだ。彼はただ単に、いい人なのだろうと。
そんな彼が、いずれ英霊の座に至って守護者となる。それはなんとなく、よくないことだと思うのだ。彼は、今の彼のままであるべきだと。
―――私が何故ここにいるのか。こう考えてしまうのは自惚れになるのだろうか。
私は、彼の未来を知るものとしてここに召還された。私は、あの善良な人を救うためにここにきたのだと、ふと思いたくなっていた―――
Fate/All Reload
第十 ある魔術師
体が重い。なんというか、体の上に何か乗っけられているような感じだ。
やはり昨日、剣製なんて無茶をやろうとしたのが原因だろうか。自分の分を超えた魔術なんて使おうとしてもロクな事がない。忘れてしまおう。あんな剣のことは。
………とは言うものの、やけにこびりついたあの剣の感触は、なかなか消えない。どうにもあの剣が気になってしょうがないのだ。
まぁ、気になろうがなんだろうが、使えないものなんだからしょうがない。とっとと起きて朝ご飯を―――と、ふっとからだが一瞬軽くなる。……直後。
「お兄ちゃん――――!!!」
「ぐぼぁぁ!!」
イリヤの声と共に腹部に凄まじい衝撃。……………イリヤだ。
「げほ………い、いりや………なにを」
「朝だから起こしに着たんだけど、何でこんなところで寝てるの?」
「起こすって………もっと普通に」
「最初は普通に声かけたよ。でも、起きないからシロウの上に乗っかってみたんだけどやっぱり起きないから………」
……………フライングボディプレスをかましたと? イリヤって一応お金持ちの家のお嬢様でメイドとかついてたんだよな………アインツベルンのしつけって一体…………
アインツベルンに言ってやりたい文句が増えたような気がするぞ。
「それで、何でこんな物置でねてるの?」
「………反省とかゼロですか。 いや、魔術の鍛錬とかしててそのまま寝ただけ。………気をつけてはいるつもりなんだけどな。結構あるんだ」
「こんなところで大丈夫なの?…………まぁ、シロウは風邪ひかないから大丈夫なのかな?」
「待てイリヤ。そういうのはどこから覚えてくるんだ」
「タイガ。因みに起こし方も」
……………まぁ、わかってはいたさ。くすん。
理不尽な悲哀を噛み締めつつ居間に行くと、すでに全員そろっていた。
「って言うか今日の朝食を作ったのは…………」
「もちろん私だ」
…………アーチャー、実はお前、弓兵じゃなくて家政夫のサーヴァントなんじゃないのか?
あんまり深く考えたくない。理想の末にたどり着いた先が家事万能の道だったなんて思いたくない。
「何か言いたそうだな」
「ああ、絶対俺はお前のようにはならない」
なってたまるか。家事が大好きなサーヴァントだなんて。
「えーー、士郎はサブちゃんみたいにならないとだめだよ?おいしい御飯作れるお兄さんみたいに」
それは今までの俺の料理ではもうだめだとかぬかしてやがりますか虎。
「士郎がサブちゃんよりおいしい御飯を作れるって言うのなら別だけど」
「………わかった。今日の晩飯は俺が作るからな、作るんじゃないぞ「兄貴」」
「いいだろう、やってみろ。お前の料理の腕がどれほどのものか見極めてやる」
そうだ、俺はこんな奴に負けない!! 俺はコイツを超えて見せる!!
「……………何かが激しく間違っているような気がするんですが」
「ライダー、貴方もそう思う?」
「私も思ってるわよ、サクラ」
………………………………俺もそんな気がする。
「あ、そうだ、藤ねぇ。俺今日学校休むから」
言い忘れるところだった。………無断欠席なんかしたらあとが怖いからな。
「はへ? なんふぇ?」
「箸くわえたまま喋るなよ藤ねぇ。―――今日はちょっと他にやらなきゃならないことがあるんだ。だから欠席」
「学生にあるまじき発言だな」
アーチャーは黙っててくれ。
「…………それって今日じゃないといけないことなの?」
「ああ、今日じゃないとダメだ」
藤ねぇ相手に小細工は通用しない。とにかく俺が今日休むという断固とした意思を見せ付けるだけだ。
桜やライダーは何も言わない。俺がマスターとして活動するということを察してくれているのだろう。
「はぁ、わかったわ。士郎ったら言い出したら聞かないし、わざわざ学校休むくらい重要なことなんでしょ」
「うん。ありがとう藤ねぇ」
「その代わり今日の夕飯は飛び切りおいしく作るように!!」
「了解」
それくらいなら安いものだ。今はまだ俺の実力を知らない藤ねぇを満足させることなど今の俺には容易い!!…………あれ?
「それで、いったいどうするのだ?」
藤ねぇと桜が学校にいった後。今で俺とアーチャーとイリヤが居間に残った。
「ああ、ジェネラルのマスターを探しにいく。昼間のうちに見つけて何とか説得できないかと思って」
「………例の女か。確かに夜遭遇するよりは危険は減るだろうが」
「でもあの女、説得なんて聞くの? 問答無用で攻撃しかけてきたのよ?」
「「…………………」」
「どうしたの?」
「「いや、なんでもない」」
まぁ、今回のイリヤはおとなしかったかな、うん。
「まぁ、そうかもしれないけど、とりあえず話だけでもしないと。それで、出来るなら協力、できないでも、停戦ぐらいにはなんとか漕ぎ着けたい」
「別にそういう方針ならそれはそれで構わんが………連中の戦力をもう一度把握しておいたほうがいいだろう」
戦うことになったときの為に………か。
「いいけど、マスターのほうはお手上げだぞ。なんか空間転移みたいなことやってたけど本人は違うって言うし」
「そちらは構わん。どうせ高速移動の一種だろう。ならば止めれば済むことだ。………それよりもジェネラルとか言うサーヴァントのほうだ。英霊を召還したとか言っていたな?」
「ああ、そうだ。クーフーリンにローランにオリヴィエ。その他多数。神話もなんもバラバラだった」
「………ふむ。強さのほどは?」
「技術的にはとんでもないものがあったけど、基本的な能力は一般的な人間と同じかそれより少し上。宝具に関しては、なんていうか、基本的な能力はあるし、本物なんだろうけど、多分真名の発動は出来ない」
どちらかというとあれは、俺やアーチャーの投影に近い。本物に近い偽物。いや、あれはむしろ本物の影か。
「ふむ、最大召還限度がどれほどかは知らんが、厄介なことには代わりは無い、か」
「ああ、あいつらは間違いなく本物の英霊だ。能力そのものはほとんど人間だろうけど、技術的な面ではほとんど遜色ないといっていい」
「敵には回したくない相手………か。そもそもあれは何者だ?」
そんなこと知るもんか。ジェネラルなんてクラスなんて知らないし、あの少女についても会った事など無い。
無表情に立つ、緑の騎士。その姿はただ静かで、いつか見たあの光景を思い出す。―――セイバー。王として、一人立っていた少女。
「できれば、戦わずに済ませたい。………とにかく行こう。別に何者かどうかなんて、直接聞けばいいことだしな」
新都まではバスを使った。さぁ張り切って探しに行こう…………と思ったのだが。
「…………どうしようか」
「たわけ」
霊体化しているアーチャーが即行で罵倒してくる。
よくよく考えてみれば、昼間っから俺みたいな学生が、聞き込みとかするわけにも行かない。
………一応、新都のほうにいるのではないかという見立てはあるのだ。
あのマスターはどう見ても外国人だし、アインツベルンのようにどこかに城とか別荘とか用意しているのなら話は別だが、まず間違いなく新都のホテルか何処かに泊まっていることだろう。
………………まさか、路地裏で寝てたりはすまい。
「まいったな。ホテルの記帳とか見れれば楽なんだけど………無理だよなぁ」
「当然だ。………わざわざ学校を休むくらいだからそれなりのプランがあったと思ったのだが、どうやらそういうわけではなかったようだな」
なんというか、間抜けすぎる。
「…………しょうがない、アーチャー。予定変更だ。入院しているっていう葛木のところへ行っていろいろと話を聞こう」
「建設的ではあるが……………にげたな」
うるさい。
新都の中央病院。あんまりお世話になったことはないが、十年前の火災以降、大幅に改修が行われ、設備はとても整っているらしい。大きいし。
受付で聞いて、葛木の個室を目指す。……………505号室、ここか。
ノックすると、「どうぞ」と、女性の声が聞こえた。―――キャスターか。
「失礼します―――っと。葛木、キャスター。話を聞きに着たんだけど、いいかな」
下手な嘘はつかない。意味が無いし、キャスターならとうの昔に俺の接近に気づいているだろう。
「感知はしていました。アーチャーのマスターの坊や?」
「昨日に引き続き二人目か。生徒のマスターは」
………遠坂も着たのか。まぁ、それはとりあえずいい。今は聞きたいことだけを聞く。
「聞きたいことがある。あんたらは今敵か?」
「…………ずいぶんと端的な質問ですのね。……………答えましょう。現在、私と宗一郎様は、誰とも敵対するつもりはありません」
「何故」
こんなことは初めてだ。聖杯戦争開始直後にいきなりキャスターが活動を中止。何か裏があるんじゃないかと思うのは当たり前だ。
「先日の夜、ジェネラルとか言うサーヴァントとそのマスターに襲われましてね、戦ったんだけれどもまったく歯が立たず、最後には宗一郎様を人質に取られまして」
―――それで、負けを認めてこれ以降何もしなければ放っておいてくれると、そういうことらしい。
「私のフィールドで、真っ向から勝負を挑んできての大敗。何度やったところであの二人には勝てないでしょうね」
キャスターにここまで言わせるとは。ほんとにあの二人は何者だ?
「それで、どうするんだ?これから」
「特にどうもしませんよ。…………聖杯を奪い合うというのであれば、勝手にそうすればいいでしょう」
「でもあんた―――」
聖杯にかける望みとかは―――? キャスターは聖杯戦争でかなり精力的に活動していたほうだったはずだ。
「私の望みは宗一郎様とご一緒に居ることだけ。魔力は十分に溜まっているので、聖杯がなくなったところで魔術さえ使わなければ人の一生分位は現界していられますわ」
…………以前に見た、キャスターの貯蔵魔力。確かにあれなら、キャスター一人くらいどうとでもなるだろう。
「わざわざ宗一郎様を危険にさらしてまで、聖杯を求める理由は私にはありません。ですから―――」
「………ん、ああ、わかった。俺達もあんたらに手は出さない。―――ただし」
―――もしも、また町の人たちから魔力を吸い上げるようなマネをすれば、黙っていない。………と、言い残して病室を去る。
「なんか厄介なことが増えただけって気がしないか?」
「増えてはいないだろう。ただ、ジェネラルとマスターの厄介さを再確認した、といったところか」
たしかに、ジェネラルとあのマスターは異常かも知れない。柳洞寺で魔力を蓄えていたキャスターは、俺とセイバー、遠坂とアーチャーが同盟を結んでたときでも攻め切れなかった相手だ。それを正面から倒すとは。
葛木は一度はセイバーを倒したほどの暗殺拳の使い手だし、キャスターも自分のフィールドでは魔法の真似事さえ出来るほどの魔術師だ。それを圧倒する魔術師とサーヴァント。…………って、あれ?
「…………なぁ、アサシンはどうなったんだ?」
アサシン。真名を佐々木小次郎………もどき? キャスターによって召還され、柳洞寺の門を寄り代にしている。キャスターから受けた命令は一つ。山門を通るものの排除。
ジェネラル達が正面から戦いに行ったというのであれば、アサシンと戦っているはずだ。
「そういえば聞かなかったな…………しかし、イリヤスフィールは何も言っていなかったのだ。恐らくは健在、といったところか」
「ならいいけど…………なんであいつら、キャスター倒さなかったんだろな」
「オレに聞くな。…………それよりこれからどうするのだ」
「う〜ん」
とりあえず新都を適当に回って、昨日のようにジェネラルに遭遇することを祈るばかりか。………そうだ。
「アーチャー。服買いに行くぞ」
「………は?」
「お前家で藤ねぇと会うときいっつも着流しだろうが。なんていうか見ててアレだ」
それに、これから何が起こるかわからないし、アーチャーに実体化してもらって一人で調査させるという手もある。
…………なんでオレがコイツの服の心配してやんなきゃならんのか。
「ただいま」
結局のところ、夕方まで粘った甲斐も無く、ジェネラルは発見できなかった。………アーチャーの服については奴の意見は無視して安くてシンプルなものを一通りそろえた。
………ん?見慣れない靴が二つ………
「誰だ?」
遠坂とセイバー? 何でいきなり?
ともあれ、居間に向かう。考えるのは後だ。
……………で、少し期待して行って見れば。
「おかえりー」
みかんを食べるイリヤと、
「お帰りなさい、先輩」
「お帰りシロウ」
なにやら緊迫した雰囲気で正面の二人に目を向けているサクラとライダー………そして正面。
「邪魔しているぞ、少年」
「お邪魔しています」
などと言う、魔術師とサーヴァントが居やがりました―――
続
あとがき
何の脈絡も無くジェネラルフラグオン!? っていうか餌付け!? それ以前にバゼットマーボー平気!? ………と、なんだか取りとめも無い話が9、10と続いております。破滅666ですこんにちは。
適当に出した割にジェネラル、なんとなく気に入っております。………というか彼女、戦闘時における士郎との相性はセイバー、アーチャーなどを抑えてトップ………のはずです。詳しいことは言わないけど。
近頃OPの独白が長いなーとか、ほっといても離脱する奴とかがいるなーとか、これからどうすんだーって感じです。
ちなみに葛木キャスター、別にめんどいから省いたってわけではありません。ええ、決して。………ただたんに、聖杯戦争というゲームが複数のチームで動いていることを考えると、まぁ主人公の目の届かないところでうっかり決着が付くこともあるんじゃないかと。
それにしたって早いですが。バゼットジェネラル組は最強デシカ………
アサシンについては黙秘します。秘密って奴です。
ちかごろ、なんか指の進むままにってのは一緒ですが、なんか自然に複線張りまくってる自分がイヤ。回収できるのか、これ……………
さて、今回で10話。忙しくなるのはこれからだーとか思いながらラストバトルまでの展開を考えてなかったり。 ラストバトルはすぐにでも書けますが。
とりあえず今回のおまけ、書き忘れてたロンギヌスの槍の設定を披露しつつさようならです。
ロンギヌスの槍
出所不明。ただし、バゼットがランサーを召還した折に、真名の隠蔽用として協会に用意させたものと思われる。
宝具としての能力は<わざわいの一撃>。最初は傷が直らない奴って事にしようかと思ったけどハルペーとかぶるので変更、あらゆる防御効果を突破する槍。
たとえ宝具であろうとも、そのカテゴリーが「防御」である限り突破できる。ただし、アヴァロンは例外。