衛宮士郎の質問にオレは答えていない。オレに何の目的があるのか―――正直なところ、そんな物は無いに等しい。俺の目的は妙な展開によって消えてしまったし、凛のことにしろセイバーのことにしろ、それを解決するのは衛宮士郎の仕事であって、オレには関係ない。
関係ないのだが―――今回は余りにも特殊なケースなのだ。何せ衛宮士郎が半端にとはいえ、平行世界の記憶を手に入れた。それに何の意味があるのかはわからないが、無視できるものでもない。だからオレは不本意にも衛宮士郎をマスターとして現界し続けることを選んだ。この物語の終わりを見届けるために―――
そう、決してオレは、衛宮士郎の小間使いなどではない。断じてない。……のだが。
「はい、衛宮」
『士郎隊員に任務です。おねーちゃんはおなかがすいたので、至急お弁当を要求します。士郎の作った甘甘の玉子焼きとかどうなのよう』
「いや、私は………」
『以上、交信を終了する。士郎隊員は至急任務を遂行し、弓道場まで届けること。がちゃん』
ぷつ。つーつーつー。問答無用。電話が切れた。
「………………………」
こういう事態に抵抗できないのは、やはりオレが衛宮士郎から分化したものだからなのだろうか……………?
Fate/All Reload+
Set1 時空を超えた邂逅
「こんなものか」
冷蔵庫の中身を拝借して作った弁当は我ながらなかなかの出来栄えだった……………
「いやまて」
今オレは何をした?何故何の疑問も抱かずに普通に弁当を作っているのだ。まったくをもって理解不能。きっと衛宮士郎のせいだろう。
「しかし服だが…………切嗣のものがあったか………遺品の類ではあるが、まぁかまわんだろう」
まさかこの格好で出歩くわけにも行くまい。衛宮士郎の服のサイズは今の私には小さすぎる。ならば切嗣のものに頼るしかないだろう。
勝手知ったるひとの家………というのは適切ではないか。ともかく、しまいこんであった切嗣の服を引っ張り出す。………が。
「………着流ししかないとはどういうことだ?」
着流ししかない。まぁ、これならサイズが多少違っても問題はなかろうが、何故着流ししか残っていないのだ。これは後で衛宮士郎に追求せねばなるまい。
とりあえず着込んでみて、姿見で確認する。うむ、問題なし。これならば、いつもの格好ほどには怪しまれないだろう。………何か重大な点を見落としているような気がするが。
ついでに念のため、何故か置いてあった伊達眼鏡を装着する。………一目ではわからないと思うが、衛宮士郎を知る人間は多い。これくらいの用心はするべきだろう。
「……………ん?」
何で今頃思いつくのか。下手をすれば今までにもそういう気づかれ方をしてもおかしくなかったはずだ。まぁ、問題ない。
弁当を持ち、玄関を出る。…………そこでふと、思った。
「そもそも、電話に出なければこうはならなかったのでは………」
何故居留守を使わなかったのか。我ながら理解に苦しむ………
ともあれ、学園に着く。特に用があるわけでも無し、さっさと弁当を届けて退散することとしよう。なにせ、この学園には結界が張られている。それも極めて厄介なものが。
それはつまり、この学園にはマスターが居るということで―――凛と衛宮士郎以外に、だ。下手に接触するのは現状では好ましくない。
ルールブレイカーで結界を解除するのは下策だ。あまり積極的に戦うことはしない、サーヴァントは消滅させないというのであれば、ここで下手に結界を張った物を刺激するのはよくない。
「衛宮士郎は何も言わなかったしな」
奴ならば、無差別に効果を発揮するこの結界を、迷わず消去するだろうが、とりあえずこの場に奴は居ない。ならば、オレはオレの判断で行動させてもらうとしよう。
―――その行動が弁当の配達というのは凄まじく情けない気がするのだが。
そんなことを考えながら、弓道場に付く。丁度女子部員が出てきたようだ。あの者に渡して退散することにする。
女子部員の袴に刺繍された文字が眼に入る。……美綴。―――はて?
「もし、すまないのだが、少しいいだろうか」
「……は?えっと、なんですか?」
む、あからさまに不審な目つき。まぁ、無理も無いとは思うのだが。
「実は、この弁当を届けるように頼まれてな。藤村という教諭はいるだろうか?」
「え?……っと、衛宮の使いかなんか?あいつは?」
「まぁ、そのようなものだ。衛―――士郎は、少しばかり用事があってこちらには来れないそうだ」
「はぁ………衛宮はなに考えてんのかね」
衛宮が来ないと先生がまた暴れるじゃないか―――との呟きは聞き逃す。あまり関わりたくない。
「うむ、まったくだ。アレももう少し頭がよければ、私も苦労が減るのだが」
「は?」
「いや、なんでもない」
「ところでアンタ衛宮の何?あいつが知らない人間に頼み事するとも思えないんだけど」
「……………………兄だ」
結局それかと言う事無かれ。咄嗟の事で思いつかなかったのだ。
「……………………は?」
「兄だ。ずいぶん前に生き別れてな。近頃やっと、士郎の所在が判明したので、こうして遊びに来たというわけだ」
「ま、まぁ、そういえば微妙に似ていなくも無い………のかな?」
どうにもあまり信用されていないようだが、まぁこの際どうでもいい。
「そういうわけなのでこれを預かってもらえると助かる」
「はぁ、そういうことなら―――」
と、そこでこの女子部員―――美綴はなにかどこかの若い魔術師を連想させる笑みを浮かべ、
「ぜひ藤村先生に直接渡してやってくださいな。弟の不始末は兄が償うべきだよな?」
なんてことを言った。…………不始末とは何のことだろうか。
「貴方が士郎―――衛宮君のお兄さん?」
何かやたら強引に引っ張りこまれ、虎と対峙する羽目になった。空腹なのか、やたらと目が据わっている。
「ああ、その通りだ。藤村教諭には弟がいつもお世話になっている」
「それはどうも。ところで―――切嗣さんには子供とか居なかったと思うんですけど―――?」
その認識事態間違っているのだが、とりあえずそれはここで訂正すべきことではない。
「ああ、それは違う。私は衛宮の人間ではなく―――士郎とは実際の血縁だ」
「ということは十年前の事で―――?」
「そういうことになる。―――具体的な話は、語るほどのものでもないので勘弁してもらえると助かる」
「はぁ。それはいいけれど、お兄さんのお名前は?」
………………………………はて、名前。まさかアーチャーと名乗るわけにも行くまい。真名では混乱を呼ぶ。ならば適当に名乗らねばならんのだが…………衛宮士郎の兄と一発でわかりそうな名前は無いものか。苗字は養子に入ったとかで誤魔化せるが、名前―――。
「サブロー、渡貫三郎という。以後よろしく頼む」
「………………………」
「………………………」
沈黙。誰も喋らない。……………何故だ。
「サブローさん?」
「うむ」
「…………シロウのシって4だったの!? っていうか4人兄弟!?」
「その通り。本来の名前は四郎だ。戸籍を移すときに変えたらしいな。どうやったのか知らんが」
「はぁ…………失礼ですが職業は」
「掃除屋だ」
―――嘘は言っていない。守護者など所詮そのようなものだ。
「そのようなことより弁当を食べてしまったらどうだろうか」
あまり詮索されてボロが出るのもなんなので、そう急かす。
「あ、そうね〜。桜……間桐さ〜ん、一緒にお昼食べよ〜」
―――呼ばれてこちらに来た少女と、その名前に少々記憶がよみがえる。もうとうの昔に忘れ去ってしまった日常の欠片と―――あの怒り。
「先生、先輩が着たんですか―――っと、こちらの方は?」
「サブローさん。なんか士郎のお兄ちゃんなんだって」
「……………は?」
何でここの人間はそろいもそろって似たような反応をするのだろうか。
「サブローさん、こちら士郎の後輩で間桐桜ちゃん。よく士郎のお家で御飯とか作ってくれるのよ〜うふふ」
「――――先生っ、いきなりそんな」
「ああ、士郎から話は聞いている。―――渡貫三郎だ。よろしく頼む」
「あ、はい!! 桜です。こちらこそよろしくお願いします………」
名乗ると間桐桜はなにやら複雑な表情で答えてきた。―――気づかれたか?
衛宮士郎の言っていたことを思い出す。間桐桜は聖杯としての特性をもっている。ならば、俺のことに気づいても不思議ではないだろう。
「うふふ〜そうよ〜桜ちゃん。せっかくお兄さんとか出てきたんだから、有効活用しないとね。士郎みたいのを落とそうと思ったら、外堀から埋めていくのが上策よ〜」
「――――――っ!!!!!!?? せせせ先生!? ななななななななな何をいきなりっ!?」
「大丈夫、分かってるわ。私は桜ちゃんの味方だか――――むぐうっ!!?」
「なななななんでもないです!! なんでもないですからね三郎さん!!」
慌てて藤村大河の口をふさぐ間桐桜。―――気づかれたと思ったのは気のせいか?
「それよりも先生、私もおなかがすきましたし早く食べましょう!!」
「む―――ぷは。そうね………腹が減っては戦が出来ぬ。腹ごしらえしてから外堀を埋めにかかるわけね」
「!!!!!!???????」
またしても慌てて口をふさぎにかかる間桐桜。
平和な午後は、そんなふうに過ぎていった―――
「――――?三郎さん」
「なんだろう」
さっさと帰ろうとしたのだが、藤村大河に引き止められ、いまだに弓道場に居る。
「これ、本当に士郎が作ったの―――?」
「ん? なにかおかしいか?」
「ん〜なんていうかね、おいしいのよ」
「は?」
「味付けとかは士郎っぽいんだけど、なんていうかそれだけじゃないっていうか―――桜ちゃん?」
「あ、はい。私もそう思いました。似てるけど、いつもよりこちらのほうがおいしいんです」
……………するどい。無意味に。
「むぅ、気のせいではないか?」
「そんなことないわよー。だっておいしいもの」
なんと、とてつもなく曖昧な根拠だろうか。まぁ、今までの衛宮士郎の料理より勝っているのは自負するが、どうしたものか。
「だいたい士郎が自分で作っておいて持ってこないはずが無いのよね〜。性格からしてお兄さんを使い走るとも思えないし」
誤魔化そうかとも思ったが、正直に答えたほうがいいだろう。何故かそのような気がする。何かの経験がこの女に嘘をつくことの恐ろしさを告げている。
「ああ、その通りだ。それは私が作った」
そう言った後はひどいものだった。オレがどのくらい衛宮家に滞在するのかとか、衛宮士郎に料理を伝授してくれだとか、独身なのかとか、恋人は居るのかとか、子供は何人ほしいとか。
だんだんエスカレートしていって意味不明。この女の考えることはまったくわからない。
ともあれ食事も終わり、間桐桜は射場に向かった。それを何の気なしに眺めていると、また大河が話しかけてきた。
「サブローさん、弓に興味あるの?」
「―――ん?そのようなことも無いが」
「ん〜なんかいい顔してるから。懐かしいところに帰ってきたって言うかなんていうか」
―――何でこの女はこんなに鋭いのか。あまり不用意な発言は避けたほうが懸命なのかもしれない。
「昔、少しな。もうやめてしまったが」
「へ〜。お兄さんも弓やってたんだ。―――ずっと離れてたはずなのに、不思議なもんだ」
先ほどの女子――美綴が声をかけてくる。
―――誰だったかな、この娘は。弓道部、そして衛宮士郎の知り合いともなれば、俺が覚えていてもおかしくは無いのだが、どうにも思い出せない。
「………じゃサブちゃん、ちょっと引いてみる?」
「待て。…………なんだそれは」
「ん〜? 三郎だからサブちゃん。日本人の常識よ」
「先生一体、幾つなんですか……」
「まぁそんなことはどうでもいいのよ。それでサブちゃん、引いてみない? 袴なら前の顧問の先生のが残っているし、弓なら弦を張れば備品のがあるから」
結局そっちで呼ぶのか………
―――実際のところオレの弓と、ここで言われる弓道とはまったく違うものだ。オレの弓は敵を射る事にこそ真が存在し、弓道とは「己に中てる」事を必とする。
簡単に言うと、殺しの技か、精神修練の業かという違いだ。
殺し、勝つ事に特化していったオレにとって、この射場というのは荷が勝ちすぎる。分不相応なものでしかないのだ。
それでも弓を引いてみる気になったのは、大河のせいか、それとも―――
風が吹く。放たれた矢は的に中り、外来の人間が弓を射るというので集まってきた者達からは感嘆の声。
弦の音が耳に心地よく、続いてもう一度。いつしか周囲のざわめきは耳に入らなくなり、ただ弦と矢と、風の音だけがオレの耳に響く。
―――オレがセイバーでもキャスターでもなく、アーチャーとして呼び出された理由が解ったような気がする。
ここでそんなことを想うのは相応しくないかも知れない。エミヤという英霊は剣という属性を持った魔術師だ。弓など、実際のところ経験したものの一つでしかない。―――そう、思っていた。
だが今、時を越えてこの場に立ち、弓を引くことで理解する。
自分が本当は弓が好きだったのだと―――――――――
了
あとがき
―――読者様、石の貯蔵は充分ですか?
充分でも破棄してください。ああっ投げないで投げないで。
いきなり何が始まったんだと思った方もいましょうが、オールリロードの幕間補完シリーズ、リロード+の始まりです。
冒頭はともかく本編は士郎視点から外す気が無いので、この様なサブストーリーと相成りました。
完全ギャグにしようとは思っていなかったけれど、どうしたことだ、これは。なんか弓引いてるぞアーチャー。
サブちゃん………気にしちゃいけません。負けます(何に)。
サブちゃんの格好も気にしたら負けです。前半着流し眼鏡、後半袴。野郎のファッションバリエーションなんかどうでもいいんだぁ(爆)!!
第一回はアーチャーでしたが次は不明。やるかも不明。でもセイバーとかやらないとまずいかなぁとか思ってます。
―――ところで今回。タイガー達とアーチャーことサブちゃんが談笑(?)しているころ、士郎は目茶目茶がんばっているわけですが、契約ラインによって危機が伝わっているはずのアーチャーは………あっさり無視しました。この件に関してサブちゃんよりコメントが届いております。
「ここで死ぬようなら所詮はその程度で終わりと言う事だ」
意味が解りません。見届けるんじゃなかったのかサブちゃん…
闇に流れる3の軌跡。その全てを押さえ込み、一撃の下に侍が砕かれる。
元々彼の業は一対一でこそ効果を発揮するもの。彼女等のような複数の相手に向いているわけが無い。
故に勝負は一瞬。三の軌跡を三の英雄に押さえ込まれ、バゼットの放つ魔弾はアサシンを貫いた。
駆け抜ける影。侍の最後すら見届けず、2人は山門を抜ける。
―――そしてそこに、新たな敵が待っていた。
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Set2 VS
此処、柳洞寺は静寂に包まれていた。
敵の接近を感知したキャスターは、無駄な邪魔が入らぬようにと、寺の坊主ども全員を魔術で眠らせた。…………たとえ此処で爆音が聞こえようと、彼らは明日の朝まで起きることはあるまい。
だが、その課程で失敗した。彼女のマスターである葛木宗一郎に、敵の接近を知られたのだ。彼は、自分も戦うという。―――それがマスターであるものの役目ならば、と。
彼女は反対した。相手は魔術師とサーヴァントだ。それも、アサシンを一瞬で下したほどの。ただの教師である宗一郎に出来ることなど何も無いと、彼女は言った。
しかし、それは間違いだ。彼ほど対人戦―――それも素手での格闘戦に優れた者もそうはいまい。ただ彼は、自分の戦闘補助を自らのサーヴァントに命じた。
―――そして。
「迎え撃ってくるか。なかなかに潔いな、キャスター」
「別にそういうことでもありませんのよ、魔術師。勝つのは私達ですからね」
「ふ、結界の中に引きこもって街の寄生虫をやっている魔女がよくいう」
彼女―――バゼット・フラガ・マクレミッツが真っ先に此処にきた理由はそこにある。キャスターは、この町、フユキの人間から生命力を吸い上げているのだ。
その貯蔵量は、この寺の禍々しい空気を見ればわかる。とてつもない量だ。
魔術師はその存在を一般に知られてはならない。これは昔から続く魔術師の常識だ。それを無視してギリギリまで魔力を吸い上げようとするキャスター。それを協会の人間たる彼女が見逃すわけが無い。
(まぁ、仕事だしな)
実のところ、彼女の価値観では別にキャスターの行動そのものを否定することは無い。キャスターのやり方は確かに非人道的なのだろうが、とりあえず死者は出ていないし、何より効率的だ。
「魔女―――といいましたね。たかが人間の魔術師がこの私を愚弄することなど許しません」
キャスターの殺気が膨れ上がる。………この魔力量。はっきり言って彼女のホームグラウンドへわざわざ出向くのは正気の沙汰ではない。―――しかし。
「ああ、いったさ。君は、そのたかが人間の魔術師とやらに敗北するんだ」
そも、彼女の仕事とは本来、封印指定の魔術師の捕縛。タイプの違いはあれど、そのほとんどが格上の魔術師といっていい。
「「たかが」魔力量が大きいだけの魔術師に私が敗北することなど無いさ。………ジェネラル、君はマスターの方を抑えろ。強敵だぞ」
「了解しました、マスター」
「―――な!?」
馬鹿な。この女は、サーヴァント中で最も魔術に優れた私に対して一対一での魔術戦を挑もうというのか―――!?
ジェネラル
不可解なことは他にもある、彼女のサーヴァント。いま、「将軍」と呼ばれた。そんな物は知らない。聖杯戦争の仕組みのほとんどを理解し、あのアサシンすら歪んだ形といえど召還して見せたキャスターだが、ジェネラルなどというクラスの存在など知るわけが無かった。
「…………正気ですか、魔術師。貴女が私を倒すとでも?」
「やってみればわかるさ。私が正気かどうか、な」
そして、戦闘は始まった。
英霊の「影」を召還する。その数5。
ジェネラルは油断しない。敵を見くびらない。マスターが強敵だというのなら、それは事実だ。万が一のために余力を残すことこそ忘れないが。
英霊たちが疾る。通常の人間相手ならば、この一手でケリがつく―――が。
事態は一瞬。複数の打撃音ののち、全ての英霊が消えうせる。
「な―――?」
なんということだ。彼女の英霊たち、その全てが、魔力により強化されているとはいえ、素手の人間によって倒されたのだ。
そして、男が迫る―――速い。
「く―――」
英霊を召還。ほとんど捨て駒のように防御させ、後退。再召喚。数は、8。
「―――行きなさい!!」
再び疾る英霊。打撃音。再召喚。無限に続くかのような攻防が始まった―――
「―――空を抜く。我が礫は何処」
隻腕の女が魔術を振るう。放たれたつぶては、ほとんど転移に近い速度でキャスターを襲う。本来、単発でこんなものを放ったところで、キャスターは完全に防ぐことが出来る…………が。
「来たれ。流れは途切れず私は重さを無くす」
飛来する複数の魔弾。その全てを、防御壁で防いでいく―――が。
「舞は狂い詩は捻れる。其の罪に戒めを」
威力が凄まじい。同時に叩き込まれる魔弾。その全てが一撃でキャスターを葬り去れる。いや、そんなことよりも―――
「刻限は来た。絶て。扉を開ける」
何だというのだ、この連射速度は。キャスターは、防御するのみで反撃に転ずることが出来ない。
偽装転移。それが彼女の魔術の正体。擬似的に零質量と化したつぶてによる高速射撃。込められた魔力と衝突の運動エネルギーにより威力は必殺。通常の防壁など、この魔術の前には紙切れに等しい。
チェインカウント
そして―――連鎖基礎詠唱。小規模魔術を連鎖的に起動することによる高速連射詠唱法。それも、彼女の場合、転移させるつぶての軌道、座標などの演算まで瞬時にやってのけている。歌うように流れるその旋律が、刻々とキャスターを追い詰めていく。
「く―――」
なんて、屈辱。神代の魔術師たるキャスターが、ただの魔術師に対して防戦一方とは。
そして―――宗一郎。あのわけのわからないサーヴァントと互角を演じているものの、完全に押さえ込まれている。あのままではいずれ、体力が尽きて倒れるだろう。
だというのに、無様にも自らの防御しか出来ないキャスターに、愛する男の手助けをする余裕など無い。
屈辱にはを噛み締めたその時―――
「―――さて、こんなところでいいか」
「え―――?」
「天を裂く。血は濡れ、降り舞う」
魔術師の放った魔弾は、彼女と宗一郎を結ぶ線の、延長線上に出現した。
―――宗一郎が、血を全身から吹いて倒れる。
「ああああああああああああ!!」
なんということだ。防御していればまだ負けることは無いと、そう思っていた。しかし、あの女には一瞬で勝負をつける余裕があったのだ。
―――遊ばれていたのだと、いまさらに気付く。
「―――さて、終わりだ。キャスター」
「その男に使った弾は特別製でな。魔術などの外的要因に対する干渉を拒絶する。ああ、その男の命が惜しければむりに呪いを解こうとするなよ」
倒れた宗一郎とそれを抱くキャスターに向かって言う。
「何のつもりですか」
バゼットは宗一郎に対して止めを刺していない。そして、それに駆け寄ったキャスターに追い討ちをかけるようなマネもしなかった。
「何、無駄なことはしない主義でね。必要も無い相手を殺す理由は無いさ」
そう言って、ニヤリと笑う女。どこまでも余裕を保ったこの相手には勝てないと、キャスターは己の敗北を悟った。
「何が目的で―――」
「ああ、君達を見逃してもいい。その条件は―――」」
その条件を、キャスターは迷わず飲むことにした―――
了
あとがき
タイガールートとかあったらきっとそれは「極道編」なんじゃないだろか。
どうも、ひさびさにプラスのほうで登場。破滅666です。
前回とは違いバトル一辺倒の今回、いかがなものでしょう。
アサシンの扱いが異常に悪いのは仕様です。彼強いし。
まぁとりあえず、「バゼットさんがキャスターあっさり倒してました」じゃあまりにも味気ないなぁ、とかおもって書いたわけですよ。
………って言うかバゼット強すぎや………むしろあんたが封印指定な。
つぅわけで今回も終了。おまけも無しにさようなら。次のプラスは何時でしょう………