-contradiction- 『M:セイバーetc 傾:シリアス、皮肉(ぇ』


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1: なお (2004/04/02 18:03:37)[naoki19851107 at yahoo.co.jp]



 ――夢を見た。

 遠き理想郷にて、この身が大切な刻を過ごす夢を。

 そして、彼と共に闘った記憶を。

 幸せだった。

 それだけでもう十分だと思えた。

 ならば、この身はもう成す事は無い。

 彼と出会い、答えを見つけ、最後に満足の行く結果を得た。

 ――否、自身は満足などしてはいない。

『もう一度、会いたい。会って、想いをもう一度ちゃんと告げたい――』

 そう、自身の心が軋みを上げる。

 だが、それは出来ない。

 すでにこの身は柔らかくも、絶対の鎖に囚われてしまっているのだから。

 聖杯を得る為に英霊となったこの身は、すでにその責務を解かれ、自身の鞘の中で眠っている。

 ――故に、この場から動く事など出来ない。

 それがとても、悲しくて、満足だった――




 -contradiction-

 第壱夜 もう一度あの夜に





『――!!』

『死んで――た――!!』
 
 声が聞こえる。

 自身の一番大切な人の声が。

 
 ――そして浮遊感。


 ならば、行かねばなるまい。

 元より、時から切り離されたこの身、それは『全て遠き理想郷』の中でも変わらぬ。

 ――故に。この身は何処にも行けないその代わりに、あの場所へ行く事が出来る。

 光の奔流を越え、あの時、あの場所へ。



 /


 
 目の前には、あの蒼い騎士が迫っていた。

 全身を切り傷だらけにしながらも、何とか致命傷は受けずに土蔵まで逃げ込めたのは奇跡に近い。いや、奇跡だな。

 ――心臓が早鐘を打つ、視界が赤く染まる。極度の殺気のあまり、足は小刻みに震えている。

 だが、こんな所で殺されてたまるか、と思う。

「――冗談じゃない」

 学校の校庭で奴らの闘いを盗み見てから数時間、死んだと思ったら生きていて、そして服を真っ赤に染めながらも家に帰ってきた。

 ならば、二度も殺されてやるわけにはいかない。

「ったく、手間掛けさせるんじゃねーよ……」

 飄々と、それでいて間が凍る殺気を放ちながら、蒼い騎士が土蔵の扉をこじ開けて入ってくる。

「手間だと思うなら、帰りやがれ、この槍馬鹿」

 無駄だとは思うが、悪態を付いておく。安い挑発で我を失ってくれれば、コッチのものだ。

 だが、俺の予想に反して――

「(ピキッ)……テメェ、俺が槍マニアだと?」

 顔に青筋を立てて、我を失う目の前の騎士。

「よかったな、それで全身蒼だぞ。……あ、槍は赤いか。やっぱセンスないな、お前」

 ――しかも、マニアとは言っていないと、お前の耳は自分の都合よく変換する機能が付いているのかと、騒然と言い切ってやった。

「だいたい、なんなんだよその槍。血管みたいのが浮き出てて、気持ち悪いったらありゃしねぇ」

 ――プチッ。

 何かが切れた音がして、目の前の騎士が必殺の体制を取る。

「――テメェ、死んで後悔しろ!!」

 よし、ここまで挑発できれば――

 右手に持っていた細い糸を引く。

 そして、蒼い騎士の足元に縄が張る。

「何?」

「おらぁぁぁぁっ!!」

 一瞬体制を崩したのを見て、強化した鉄パイプを叩きこむ――――が、

 俺はサーヴァントの事を知らなかった。

 故に、人の身では打倒しえないと言う事も、知らなかった。

 ――だから、死の匂いだけで、在り得ない角度から打ち出された槍をパイプで弾いたんだ。

「ガッ!?」

「――馬鹿が、人間の分際で、俺を殺せると思うなよ?」

「う、るせぇ……その人間風情に使われて、人殺そうとしてる槍馬鹿が……」

 弾かれた衝撃で、土蔵の壁に叩きつけられた身を何とか起こす。

「……言ったな、貴様――!!」
 
 凍る、時が、間が、空気が、そして空が。

 奴に収束する魔素。そして限界まで見開かれた奴の双鉾。奴の全身から放たれる殺気。

 それら全てが交わり合って、土蔵の中のすべてが凍る。

「本来なら、テメェなんぞに使うモノじゃねぇが……。俺をここまで怒らせた礼だ――」

 そして奴の槍に全てが収束する。

「刺し穿つ――」

 その瞬間、死を悟った瞬間、思わず口から出た。

「単細胞槍馬鹿なんぞに、殺されてたまるか――!!」

 そして無我夢中に立ち上がる。

 奴の顔がさらに青筋を増やした気がするが、それは些事。

 今この身は、目の前の死を回避するためだけにある――!!

「――死棘の槍!!」

 咄嗟に、全身のバネを使って横に飛ぶ。

 その距離4M程、これなら、ギリギリでその一撃を回避しうる筈――

「馬鹿が、テメェは――――死ね」

 だが、またもや予想に反して、死は俺に肉薄する。

「――な!?」

 そして悟る、この槍はそういうモノだと。

 因果の逆転――先に槍が心臓を貫くと言う結果を固定する恐るべき魔槍。

 そしてその槍は、死と共に俺の心臓を貫いた――

 ――パキ。

 音がする。

 横に飛んだ俺の体が地面に滑りこむ。

「何――だと?」

 薄っすらと眼を開けると、そこには蒼い騎士の唖然とした姿。

 ――そして、二人の少女。

 蒼い騎士に背を向け、その二人は俺の方へ振り返る。

『問おう――』

『問いましょう――』

 同時に口にするその台詞。

『――貴方が私のマスターか』

『――貴方が私のマスターですか』

 金と銀、太陽と月。

 そんな矛盾であって、ある意味正しい光景が目の前に広がっている。

 金の少女は、気高く、凛々しく。

 銀の少女は、大らかで、まっすぐに。

 俺の事を見つめてくる。

 ならば――

「――ああ、俺がマスターだ。よろしくな、二人とも」

 そう答えるのが、必然であり、必定。

「了解した、この身滅ぶまで、この剣に誓ってあなたを護る剣となろう」

「分かりました、この身が消え去るまで、この盾に誓って貴方をすべてから護りましょう」

 と、そこまで言って、お互いが顔を見合わせる。

『――ん?』

「な、なんなんだ、貴方は――」

「そ、そちらこそ、私はこの方のサーヴァントです!!」

「私だって――」

 で、いきなり喧嘩を始めてしまう。

 まいったな、どうもこういうのは苦手なんだが……。

 そう言って、溜息を付くと、二人の向こう側に居た筈の騎士の姿はすでに無かった――



 /



「――チィ、なんだってんだ、アイツラ」

 夜空を見上げながら、自分のマスターの元へと帰還するために飛ぶ。

 屋根伝いにどんどんと進む。

 その中で、先程の光景を思い出していた。

 因果の逆転の槍を受け止めたあの盾、それに同時に現れた剣の少女。

 あの男のサーヴァントは間違いなく、盾の少女の方だろう。

 剣の方には、それらしき気配がまったく無かった。

 ――ならば、サーヴァントでもないあの剣の少女が、何故自分に死の予感を与えたのか。

 それに、どちらも間違いなく、あの男に召喚されて現界しているのである。

 ルーン魔術に詳しくても、少しも分からない状況。

 元々考えるのが苦手なその頭では、すぐに沸騰するのがオチだろう。

 ――そう思い、分析は自身の臆病なマスターであるエセ神父に任せる事にした。



 









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