目が覚めて、少年は自分がまだ生きていることに気付いた。それどころか、体には傷一つない。
体の具合を確かめながら、ここは何処だろう、と少年は見知らぬ部屋に視線を這わせる。
見覚えのない和風な家屋。何故だろう、知らない場所なのに気持ちが安らぐ。どうして自分がこんな場所にいるのか分からないが、とりあえずここにいれば大丈夫だと理屈のない安心感がこみ上げてくる。
自分は夢を見ているのだろうか、と思い少年は頬を抓ってみた。何も起きない。痛いだけだった。
セイギノミカタ (1)
衛宮切嗣は、一夜にして変わり果てた街並みを見て、その惨状に心を痛めた。理由はどうあれ、彼自身もこの大災害の一因であった。自分のとった行動に間違いはなかったと断言できるが、しかし、その結果がもたらしたモノに哀れみはする。
街が燃え初めてから半日余りが経って、既に火は消えている。立入禁止の柵の向こうで、クレーン車や手作業での救出が行われていた。だが、一向に成果は上がらない。消防や自衛隊、ボランティアたちの顔には、遠くからでもはっきりと疲労と焦りが見て取れた。
これから先も、おそらく見つかるのは既に抜け殻となった骸ばかりだろう、切嗣には彼等の行為が徒労に終わることを知っていた。アレはそう言う火なのだ。辛うじて逃げきれるとすれば、それは余程生命力の強い子供や一部の人間だけだ。
切嗣は、望みのある限り必至になる彼等を無駄だとは思わなかった。結果は問題ではないのだ。それが正義のあり方だと思った。
そう、彼等は正義だ。
自分のためではなく、見知らぬ誰かのために力を使う。
或いはあれこそが自分の進むべき道だったのかも知れない、と思って切嗣は自虐的に笑った。例えそうだとしても、自分には決して向いていない職業だと思ったからだ。規律と団体行動と言った辺りが特に。
組織の力は個人のソレより遙かに強い。だが、その分自由が効かない。
それを補うのが個人である。
――だったら、個人は個人にしかできないことをしよう。
未だ何の発見もない焼けた街を背に、切嗣は颯爽ときびすを返した。