その身は、剣で出来た聖剣の鞘 第一部その16 傾:シリアス


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1: kouji (2004/03/30 14:17:00)[atlg2625dcmvzk84 at ezweb.ne.jp]

58

目の前の闇に向かい、士郎とセイバーは駆け出した

言峰の手が上がる、頭上にある『アンリマユ』から
無数の『影』が溢れ出した

それは、間桐桜の生み出した『影』のようなヒト型とは全く違うものだった
それは塊、ただわだかまった「呪い」そのもの

無数に来るそれを、あるものは払い、あるものはかわしながら、大聖杯と言峰に向かう

「はぁ……はぁ…………」

荒い息をついて、士郎は言峰を見た
その距離はいっこうに短くならない

一つ一つはたいしたこと無い代物なのだが、如何せん数が多すぎる
おまけに、士郎自身は兎も角、セイバーはその一つとて食らえば致命傷なのだ。

ただの呪いであれば、サーヴァント最高の『対魔力』をもつセイバーには通用しない
だが、あれは、『汚染されたサーヴァント』という側面を持っている
それに触れるということは、その『汚染』に同化するということ
そこに、彼らの能力は関係ない
触れれば終わり、それだけだ

「士郎、大丈夫ですか?」

それでも、彼女にとって優先すべきは士郎の命である
既に彼の身体はあちこち『影』に『食われて』いた

吐く息が荒い、魔力も体力もここに来るまでに底を尽きかけていたのだ、
加えて、『アンリマユ』はヒトの呪い、
あらゆる欲、殺意、憎悪、嫉妬、恨み、敵意、の塊である
サーヴァントに比べれば、多少は受けても大丈夫だが、
それは、「見ようによれば」
程度の差でしかない

大元を同じくするが故に、耐えることが出来ないサーヴァントと、
耐えるだけの対魔力が無い人間

攻防はもはや限界だった、

セイバーとてそろそろかわし切れなくなっている
先ほど桜の『影』が退いたのは、桜が無意識に避けたからである

だが、言峰綺礼にはそれが無い
二人の敗北は時間の問題であった



59士郎視点

「はぁ……はぁ…………」

「士郎、大丈夫ですか?」

奴をにらみつけながら一息ついたところで、セイバーが声をかけてきた、

「まだなんとかな、クソ!
あとチョットなんだがな…………」

肩で息をしながらそれに答える

距離だけなら十メートルも無い、
だが、今はその十メートルが果てしなく遠い

それに瓦礫が際限無く降ってきている上に、
言峰の放つ『呪い』が地面にわだかまっている
かわすことの出来る足場は既に殆どなくなっていた

「しかし……あいつ、なんでぜんぜん動いてないんだ?
いくらなんでも瓦礫ぐらいかわさないと…………」

言いながら言峰のほうを見る

あれ?

「士郎、言峰の周りには『アンリマユ』の護りがあるようです」

セイバーの言うとおり、
湧き上がる泥のような『呪い』が、降り注ぐ瓦礫を防ぐ盾になってやがる

「さて、そろそろ限界のようだな衛宮士郎、
もはやセイバーの力をもってしてもここには届くまい、
―――それに、大空洞の大魔力(マナ)もそろそろ『アンリマユ(これ)』に染まってきたようだ、
どうかねセイバー?
そろそろ息をすることすら苦しいと思わないか?」

奴の言葉に、セイバーのほうを振り返ると

「…………士郎、私なら大丈夫です」

脂汗を流しながら、歯を食いしばって彼女は俺に答えた

出し惜しみなどすべきではなかった、
問答無用に最初からセイバーの宝具を叩き込んでやるべきだったのだ

いや、一か八か、今彼でも宝具を―――

「士郎!!」

「えっ!?」

セイバーの叫びに振り返った瞬間、俺は、全てが手遅れだとさとった…………



60セイバー視点

「士郎!!」

「えっ!?」

私がそれに気付いたときにはもはや手遅れだった
地に蟠っていた『アンリマユ』の断片、
あらゆる欲、殺意、憎悪、嫉妬、恨み、敵意の塊、
一瞬にして私たちはそれに飲み込まれていた

―――終わった

『汚染されたサーヴァント』である『アンリマユ(あれ)』に触れるということは、
その『汚染』に同化するということ

いかに力ある英霊とは言え、相手はその『器』、いわば、今自分が使っている体の大本である、
『サーヴァント』である以上、もはや汚染は免れない

―――リン、サクラ、申し訳ありません―――

謝罪の言葉を口にする、
完全な失策だ、
コトミネの姿を認めた時点で、『約束された勝利の剣』(エクスカリバー)を使っていればこんなことには―――

「えっ…………?」

そこまで考えて、ふと、あることに気がついた

「汚染されて―――いない?!」

周囲は見渡す限りの闇で、上下の感覚すら判然としないが、
触れればたちどころにこの身を食い尽くすはずの『呪い』に触れながら、
私の体は、いまだ一片も『呪い(それ)』と同化していなかった

―――なぜ?

疑問が湧くが、今はその奇跡への感謝を後回しにして、瞳を閉じる、

無限に広がる闇の中で、決して違えないと誓った契約の証、その絆を探す、

それは永遠にして一瞬、

延ばした先にあった手は、力強く、私の手を握り返してきた
                                        ドクン!
鼓動が跳ね上がる、
                                        ドクン!
聖杯戦争中、一度も開くことが無かったラインが、
                                        ドクン!
今になって、突然につながった
                                        ドクン!
否! これはそんなものではない
                                        ドクン!
一息ごとに『魔力(ちから)』を生み出すその様は
                                        ドクン!
『魔力炉心』(竜の因子)もつ我が身(アーサー王)そのもの

ならば行こう、もはや我らに恐れるものはなし

「莫迦な、サーヴァントが『呪い』から抜け出ただと?!」

『呪い』を振り払った私達を見て、コトミネが叫んだ

“I am the bone of my sword”
“Steelismybody,and fireismyblood”
“I have created over athousand blades.”
“Unaware of loss. Nor aware of gain”
“Withstood pain to create weapons.
waiting for one‘s arrival”
“I have no regrets. this is the only path” 
“Mywholelifewas―――― ”  

紡がれる詠唱に、自分の言葉を載せる
誓いは夢でできている 
降り注ぐ剣は闇を払い
救いは過去で、願うは理想 
突き立った剣は全て木々となり、
幾たびの過ちを越えて無償(ふはい)
その地は、無限の荒野ではなく草原が広がり
ただの一度も立ち止まらず、ただの一度も振り返らない 
広がった木々は森を作り
だから矛盾した全てを受け入れて 
生まれた森の中央は丘ではなく
もはや世界に答えは求めず
静謐とした泉であった
                              その泉はきっと、果て無き夢で出来ていた

               “『全て遠き理想郷(アヴァロン)(unlimited blade works)』!!”


泉の中央に立つ私たちを見て言峰がうなる

「固有結界の改変?!
―――貴様、何者?!」

それには答えず、士郎とともに、泉の中央から剣を引き抜く

二人でしっかりと柄を握り締め、構える

「言峰綺礼―――」

あふれ出る金色の光が『この世全ての悪』(アンリマユ)を焼きつくす

「これで―――
終わりだ――――――!!」

振りぬいた剣は大空洞の天井ごと、
言峰綺礼という男とともに、大聖杯を吹き飛ばした



61士郎視点

もう何も考えられなかった、

身を焼き尽くすほどの痛みと、身も凍るような冷たさと、
切り刻まれるような痛みが、全て同時にやってきた

頭の中にはさっきから人を呪う声が延々と鳴り響いている
五感の方もすっかりなくなってしまった様だ、
手足はすっかり動かなくなっている

それでも痛みだけは伝えてくる辺りがなんとも『呪い』らしい

駄目だなコリャ、後残ってる感覚って言ったら令呪ぐらいだ

「―――え?」

令呪が、残ってる?

慌てて、左手を確認する、

真っ暗で、何も見えないはずなのに、
自分の手に令呪があることが、はっきりと確認できた

ドクン!!

と心臓が跳ね上がった、
                                        ドクン!
それと同時に、五感がその全てを取り戻し、
                                        ドクン!
アレほど身体を痛めつけていた『呪い』が瞬く間に退いていった
                                        ドクン!
身体が熱い、はっきりと感じられるアイツの息遣い、
                                        ドクン!
そこへ向けて手を伸ばす
                                        ドクン!
鼓動が跳ね上がる、
                                        ドクン!
聖杯戦争中、一度も開くことが無かったラインが、
                                        ドクン!
今になって、突然につながった
                                        ドクン!
いや、これはそんなものではない
                                        ドクン!
一息ごとに『魔力(ちから)』を生み出すその様は

セイバーの本当の姿

ならば行こう、今の俺たちならに恐れるものはない

「莫迦な、サーヴァントが『呪い』から抜け出ただと?!」

『アンリマユ』を振り払った俺たちを見て、言峰が叫んだ

体は剣で出来ている。
                                       紡ぎだす言葉は
血潮は鉄で、心は硝子。
                                     衛宮士郎を現す呪文
幾たびの戦場を越えて不敗。
                                     しかしこの身は
ただの一度の敗走は無く、ただの一度も勝利もなし。
                                     無限の剣であると同時に
担い手はここに独り,剣の丘で、鉄を鍛つ。
かの騎士王を護る鞘
ならば、我が生涯に意味は不要ず。
                                    ならば彼女の言葉があれば              かの半身だったその鞘は、やはり無限の剣で出来ていた

この身まさに
“『全て遠き理想郷(アヴァロン)(unlimited blade works)』!!”

泉の中央に立つ俺たちを見て言峰がうなる

「固有結界の改変?!
―――貴様、何者?!」

それには答えず、セイバーとともに、泉の中央から剣を引き抜く

二人でしっかりと柄を握り締め、構える

「言峰綺礼―――」

あふれ出る金色の光が『この世全ての悪』(アンリマユ)を焼きつくす

「これで―――
終わりだ――――――!!」

振りぬいた剣は大空洞の天井ごと、
言峰綺礼という男とともに、大聖杯を吹き飛ばした



62士郎視点

戦いは終わった、
大聖杯なんてふざけたものは跡形も無く吹き飛んで、
聖杯戦争なんてものは終わりを告げた、
もう誰も傷つかなくていいし、失わなくて良い

マスターはいなくなって、サーヴァントたちもこの世界から消える

別れはもう、済んでいる、
聖杯を欲した彼女は、自らの手でそれを断った、
それはつまり、世界との契約を破棄し、
一人の王として、その生涯を閉じるということ

「――――これで、終わったのですね」

「あぁ、これで終わりだ。もう、何も残ってない」

静かな、セイバーの声に、頷き返した

「そうですか。では、私たちの契約もここまでですね。
貴方の剣となり、敵を討ち、御身を護った。
…………この約束を、果たせてよかった」

「……そうだな。セイバーはよくやってくれた」

言える言葉がなくなって、言葉を切った。

これ以上何か言おうとしたら、きっと、彼女を引き止めたくなってしまう

俺はセイバーを愛してる
誰よりも幸せになって欲しいし、ずっと一緒にいたいと願っている

それはきっと、彼女も同じ、

それでも、互いの願いを

その道が、
間違ってなかったって、信じて、歩き続けることを決めたことを
覆したりは出来ない

踏み出せば、いや、手を伸ばせば届く距離にいるセイバー、
俺に出来るのは、その姿を、目に焼き付けておくことだけ

吹き飛んだ天井から、光が差し込んできた

夜が明けたのだ、
駆け抜けた、今宵、ひと時の夢
その、終りが来たのだ

「最後に、一つだけ伝えないと」

強く、意思の籠った声で、彼女は言った

「……あぁ、どんな?」

溢れそうな気持ちを抑えて、
精一杯の強がりで、いつも道理に聞き返す

降り注ぐ光の中、セイバーの姿は、もはや幻のようで、
まっすぐに見返すその瞳に、後悔は無く
ゆるぎない声で

「士郎―――――貴方を愛している」

彼女は静かに、そう、口にした

陽光の角度が変わったのか、降り注ぐ光に目がくらみ、僅かの間目を閉じた

「――――――」

再び目を見開いたとき、
そこに、彼女の、
あの青い騎士の姿は無かった

そこに、驚きは無かったと思う、

「あぁ、―――――――本当に、おまえらしい」

ただの一度も立ち止まらず、ただの一度も振り返らない
その道が間違っていなかったと、互いに、胸をはって言えるように……
俺も、これからの日々を、駆け抜けようと誓う、

「これより我が剣は貴方と供にあり、貴方の運命は私と供にある
―――ここに契約は完了した」

その誓いを覚えている

「士郎―――――貴方を愛している」

その笑顔を覚えている

だからきっと、振り向かずに歩いていける、
あの丘を越えて、ずっと遠く、いつか夢見た、遠い、遠い理想郷へ









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