心臓に迫る。あの槍はまた、俺の心臓を貫くだろう。避けることもできずに、せっかく拾った命を、また落とす。
ふざけてる。何がふざけてるってこんなところで殺されそうになってることが、俺を殺そうとすれば気が済むんだ!!
――?何かがおかしい。知らない、こんな奴のことは知らない。なのに・・・何故?
思考が切り替わる。流れてくるそれは――
ランサーサー■ァントクーフー■ンサーヴァント■ャスターるー■・ブレイかー葛木マス■ー■ギルガ■ッシュ倒すのは■■バー■ーカーア■ンツ■ルンマキ■■とう魔■師余計妹自分は兄で彼女は姉で■■■スフ■ール森の奥に■聖■聖杯大■杯ア■リまゆ聖杯■争止めないと■が時■塔■■と一緒にアー■ャー間■いアさ■ン柳■寺■二ペ■ダント借■を返さなくちゃならないのは■■でラ■ダー■眼本当のマ■ターは■で心■に■■■■■■イバー■トリア■■■■鞘■願い■■違い■■■■止めろ■■■■身体は■で■■■サー■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■!!!!!!
「あああああああああああああああああああ!!!!!!」
意識が、弾けた。
Fate/AllReloed
第一 矛盾概念、記憶混在
俺に貫くはずだった槍は―
「正気か、7人目のサーヴァントだと!?」
ランサーの槍はセイバーが防いでくれた。なら、自分がやることはセイバーがランサーに向かう前に、ランサーを追い払うことだ。だから――
「問おう、貴方が私の――」
「投影(トレース)、開始(オン)」
セイバーはとりあえず無視する。彼女をここでランサーと戦わせるわけにはいかない。
知らない知識が流れ込んでくる、いやこれは昔自分で考えた投影魔術の工程――
創造の理念を鑑定し
基本となる骨子を想定し
構成された材質を複製し
製作に及ぶ技術を模倣し
成長に至る経験に共感し
蓄積された年月を再現し
あらゆる工程を凌駕しつくし
ここに、幻想を結び剣と成す――!!
あるはずの無かった27の魔術回路が活性化。投影は一瞬で成功。夫婦剣干将莫耶。土倉を飛び出して、待ち構えていたかのように襲い来る槍を受け弾く!!
「――!?テメェ……その剣」
ランサーが物凄い形相で睨んでくる、そういえば先ほど、こいつはアイツとやり合ってたんだっけ。
「退いてくれランサー。俺はとりあえずアンタとやりあう気は無い」
「マスター!?」
セイバーも蔵から出てきたようだ。だがまぁ、この状況でいきなりランサーに突っ込んだりはさすがにしないだろう。
サーヴァントを消滅させるべきではない。本能とも違う何かが、はっきりと自分にそう告げている。
「……サーヴァントを召還して強気になった……ってワケじゃなさそうだな、何たくらんでやがる?」
ランサーは相変わらずこっちに槍を向けたままだ。だけど、いつもは帰るつもりだったとか言うくせに何でとっとと帰らないんだコイツは。
「――っ」
ぶんぶんと頭を振る。わけのわからない記憶はぐらぐらと頭を沸騰させる。そもそも、なんで今こんな投影ができたのかもよくわからない。そもそもサーヴァントだとかなんだとか、何でそんな名前を俺は知っているんだ?
「何もたくらんでなんかないぞ、ただ単にここでやり合っても意味が無いってだけだ」
セイバーに戦ってもらうのは却下だ。ゲイボルクで傷つくのがわかっていてそんなマネはさせられない。
「ハン、敵のマスターの言葉を信じろってのか?あんまり馬鹿にしてんじゃねぇぞ?」
「そうはいうけどさ、もうすぐアーチャーとか来るぞ。アレのマスターとは知り合い……いや違うのかな? とにかく厄介なことになる前に退いたほうがいいと思うぞ」
っていうかこのあとヘタするとアイツと戦わなければなんないし。とっとと帰ってくれランサー。
「……アーチャーが来るってのは本当らしいな。アイツとは決着付けときたかったが……まぁいい、一つ貸しにしとくぞ小僧」
言って、ランサーはどこかへ去っていった。
――どうでもいいけど何で借りになるんだ?
「……マスター、説明して欲しい。何で貴方はこの機にランサーを撃たずに逃がしたのだ?」
あちゃ、そういえばセイバーと話しつけなきゃ。早くしないといろいろとバッサリやられかねない。
「ええと、セイバー。俺の名前は士郎。衛宮士郎だ。詳しい説明は後でまとめってっていうかとりあえず自分でも整理したいから置いとくけど一応セイバーのマスターらしいんでよろしく。名前は好きに呼んでくれて構わないから」
なんだか自分でもよくわからない自己紹介をする。なんて無様な。これならいつものほうがセイバーと打ち解けられるんじゃないだろうか……ってだからうるさい、この子と俺は初対面だ。
「――ではシロウと。それで、どうしてランサーを逃がしたのですか?」
聞いてくるセイバーの顔には不審の色がいっぱい。っていうか頼むから風王結界構えたまんま聞いてくるの止めてくれ、遺伝記憶だかなんだか知らないが、とにかくすさまじく怖い。
「え〜とだな・・・とりあえずもうすぐ来る、アーチャーのマスターと話したいことがあるんだ、だから邪魔は無いほうがいい……」
……ってセイバーさん?なんでひとっ飛びに塀を飛び越してますか?
「って……まてぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!」
急いで自分も門から家を出てセイバーに向かって……ああああああああもう殴りかかってる!?
この際だから仕方ない、アイツのために令呪を使うのは癪だけど一回くらい使ってしまえ!!
「止めろ、セイバァァァァァァァァァァ!!」
確かな手応え。セイバーはアーチャーに振り下ろそうとしていた剣を止めた。
セイバーの不可視の剣の前からアイツが跳び退る。――やっぱりこいつか……
「っシロウ何故ですか!?今なら確実に――」
「だから仕留めたりしないんだって。頼むからちょっと落ち着いてくれ」
セイバーを宥めて・・・いや宥められてないか、絶対アレは後で文句言ってくる。……とにかく、アーチャーと遠坂に声をかける。
「遠坂にアーチャー、ちょっと話があるからとりあえず家に上がってくれ」
「……衛宮君?いきなり何を言っているのかわからないけれど、何の話なのかちょっと説明してくれる?」
あ……なんか凄い迫力の笑顔で遠坂が俺を見てる……なんか知ってるのと雰囲気が違うような気がするんだけど何でこんなに違和感がないんだろう。
「あ〜えっと……とりあえずアーチャー、お前、俺を殺すのか?」
っていきなり何を言っているんだ俺は。遠坂も毒を抜かれたようにほけっとしてるし。
大体なんでアーチャーが俺を殺すんだって、アイツはもう答えを……ってそれは別のアイツのはずでって、だからさっきから何なんだ?
「ふむ、何故このタイミングでお前がそれに気づくのかわからんが、これだけは言っておこう。俺はすでに答えを得た。まさかまたここに召還されるとは思わなかったがな」
そっか、安心した。とりあえずまた後ろから斬られたりは……
「だが、今の俺が凛のサーヴァントであることに変りは無い、凛がやれというのなら容赦はしないぞ。安心するには早いだろう」
「なんでさ、遠坂がわざわざそんなこと言うわけ無いだろ?とりあえず安心じゃないか」
「む……遺憾ではあるがその通りだ。凛には冷酷さが足りんからな。どうせ此度もややこしいことになるのだろう」
「……ちょっと、何そこで勝手なこといてるのよ」
あ……忘れてた。
「衛宮君?できれば私にわかるように説明して欲しいんだけど?」
やばい……遠坂が無視されて怒ってるって言うかそれ以上にさっきから背中に感じる視線がすさまじく痛いんだけど……セイバー、頼むからにらむな。
「わかりやすく言うとだ、アーチャーの真名がエミヤっていうんだ」
「そういうことだ、凛。実はすでに自分が何者か、ということについては思い出していてな」
「………」
「………」
「………」
「………」
「って何よそれはぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
あ〜やっぱり怒ったか。
「落ち着け、凛」
「落ち着けるわけないでしょ!?私完全に負け確定じゃない!!」
……む、そういうふうに言われるとちょっと傷つくぞ遠坂。まぁ、俺の知る限り遠坂が聖杯を手に入れたなんて事実は無いんだけれども……
「え〜と、だ、とりあえず家に上がってくれると助かる。実は立ってるのも辛いんだ……」
どさっと、何かが倒れるような音を聞きながら、俺の意識はそこで途絶えた。
――衛宮士郎。俺の名前。正義の味方になるって誓った人間。そう誓ったのは何時だろうか、10年前にそのきっかけはあって、それ以来何ができるのかもわからずに走り続けてきた。
そう、10年だ。そのはずだ。なのに、何で俺はこの先に起ころうとしていること、もう起こってしまったことが解るのか。
――今やらなければならないことは解る。大聖杯の破壊。桜を開放し、イリヤを何とか助ける。遠坂と桜もちゃんと姉妹に戻って、セイバーにはちゃんと自分のことを考えてもらわなければ。
でも、それは――絶対に何かを壊してしまう。それは衛宮士郎の最善であるはずなのに、ひどく矛盾している気がする。きっとそれをやってしまえば衛宮士郎の在り方を犯す行いだと俺の中の何かが俺に告げている
――それが何かはわからない。でも、だからと言って何もしないでいいのか。
自分のやれることはわかっている。強化、解析、投影、そして……固有結界。――訂正、27の魔術回路は使用可能だが、固有結界を展開する魔力が不足。現在の衛宮士郎の肉体で行えるのは投影が連続で5〜7回が限度。精神に肉体が追いついてこない。セイバーとの契約で聖剣の鞘は活性化してるようだが、これは早急に持ち主に返すべきだろう。
ともかく、やれることはやろう。衛宮士郎は正義の味方でなければならない――
「――っ」
目を覚ましたら、自分の部屋だった。外が明るい。
「そっか、いきなり投影したのは、やっぱりきつかった……」
普通に動く分には大して支障はないのだが、なんだか全身が痺れている。まぁ、ほっとけばすぐに直るだろう。どうせいきなり魔術回路を全部開いた反動だ。もともとできることをやっただけなんだからそれで致命的なことになるはずがない。それはともかく――
「って目の前に遠坂がいたりは……しないか」
まぁ、今回はかなり特殊だし、おとなしく家にでも帰ったかな。
「って話すことがあるんだから帰られる訳にもいかなかったよなぁ……」
その辺は自分が倒れたせいなのでもうどうしようもない。自分の無様さにウンザリするだけだ。誰が部屋まで運んでくれたのか知らないが、セイバーあたりではないかと勝手に感謝する。――ちゃんと俺の部屋に運び込んでいる時点で、一番可能性のある奴については考えないことにしよう。
感謝はやっぱり形からということで、道場にいるであろうセイバーに会う前に、軽い食事でも作ったおこう。
ふらふらと歩いて台所に顔を出すと、『ソレ』はいた。
「ふむ、目が覚めたか衛宮士郎。特に断る必要は無い気がするが、借りてるぞ」
お玉を片手にそんなことを言ってくるのは、ちゃっかり俺のエプロンを着込んだ、アーチャーだった。
続く?
あとがき
と、言うわけで始まりましたフェイト全ヒロイン補完計画、並行世界記憶共通編「フェイト/オールリロード」をお送りしませぅ。
はい、もう何も言わなくても大体解ります。無茶ですな。士郎はいきなり投影使うわアーチャーはエプロンだわと、これからどうすんだって感じです。
とりあえず補足しますと、士郎は別に他のルート(デッドエンド含む)の記憶をすべて覚えてたりするわけではなく、重要なところだけ覚えているようです。それも穴だらけだったりするんですが、実は。あんまり深く書くといろいろと不味いんではしょりますが、今回の士郎はだいぶやばい、ということを覚えておいてもらえれば幸いです。
んで、アーチャー。UBW編の答えは持っているんだけど、あのアーチャーそのものではないという微妙なお人。何時まで生き残るかは謎です。
ま〜とりあえず予定としては蟲殺したり、偉そうな人にケンカ売ったり、あんまり敵にしたくない人敵に回したり、ヘタレが意外に大暴れしたり……わかりそうなのばっかですが。
とりあえずご都合主義とか嫌いな人は見ないほうがいいです。キレますから、ぜったい。
そもそも続くのかどうかさえ謎ですが、このヘタレな文章をまぁよんでやろうという人がいてくださったらがんばらせて頂きますよ。はい。
追伸、設定で気になるアノ二人が登場するやも。
すいません、いきなり文が脱落して今した。
正しくは
心臓に迫る。あの槍はまた、俺の心臓を貫くだろう。避けることもできずに、せっかく拾った命を、また落とす。
ふざけてる。何がふざけてるってこんなところで死ななければならないのが、一日に何度も殺されるというのがふざけてる。冗談じゃない、一体何度、何回繰り返し俺を殺そうとすれば気が済むんだ!!
です。いずれまともに修正させていただきますんで。
疑問が多い。オレはつい先ほどまで、衛宮士郎を殺すつもりだったはずだ。それがオレの罪の清算であり……いや、償いなど望んではいなかった。やることといえば衛宮士郎へのやつ当たり。それだけだ。
それが――何故。現在のオレは衛宮士郎を殺すことに何の必要性も感じてはいない。むしろ場合によっては手助けしてやってもいいと思えるから不思議だ。
――理由は想像が付く。あの時、奴に殺すのかと聞かれたとき、オレは答えを思い出した。いや、正確ではないか、オレはオレが衛宮士郎と戦って答えを得た自分がいることを知った。そういうことだろう。
――おかしな話である。確かに英霊は時間の概念にとらわれず、召還された先の出来事を知る。どれが先か、などは関係がない。英雄の座に祭り上げられた時点で、すべては起こってしまったことであり、そのすべてを『本体』はしっているはずなのだ。
それを何故、今思い出すのか。いや、そもそも何故、今まで思い出さなかったのか――?
――ふん、どうでもいい。理屈はともかく原因は衛宮士郎にあるだろう。ならば、その本質を見極め、その上で決めればいいだけだ。
――殺すのか、手助けしてやるのかを……
Fate/All Reloed
第2 とりあえず整理しよう
「アーチャー、お前……なにやってるんだ?」
もうなんていうか、そう聞くしかない。基本的に敵であるはずのコイツが、何でよりにもよって家で俺のエプロン着て台所に立っているんだ!?
「何やってるも何も、朝食を作っているだけだが」
いや、だからなんで家で作ってるんだ?遠坂は?もしかして毒か?今回は毒殺を狙ったのか?って言うか今回ってなんだ?ええい、なんかフレンドリーに話しかけてくるんじゃない、お前は俺の敵……じゃなくて、とにかくお前のことなんか知らないからな!!
あ……いかん、頭沸騰してきた。
「ああ、凛なら客間のほうで寝ている。セイバーは道場のほうだ」
俺のことなどどうでもいいのか、アーチャーは勝手に話を進める。
――まぁ、俺もこんな奴のことはどうでもいいんだけど。
「――さて、とりあえず二人が来る前に確認だけはしておこうか」
そう言ってアーチャーは、俺に殺意こそ感じないが、明確な敵意をもって、こう聞いてきた。
「貴様――何者だ?」
「正義の味方だ!!」
「……」
「……」
……よし、とりあえず一個反撃したぞ。どうにもさっきからこいつ、俺をからかって遊んでるとしか思えない。大体なんでエプロンなんだ。
――いかん、こんなことしてる場合ではない気がする。とりあえずアーチャーに先を促すことにした。
「……で?」
送られてくる絶対零度の視線。って言うかなんで自分相手にこんな漫才せなならんのだ。
「――まぁいい。馬鹿に付き合っても得はないしな」
む、なんかオマエに言われると凄く腹が立つんだが。
「投影をつかったな?――それも、精度で言うならオレと同レベル、今は突然無理をした反動か知らんが、身体に不自由があるようだが、すべての魔術回路が開いているとはどういうことだ?」
――投影。確かに使った。そもそも、衛宮士郎が最初に使えたのは投影なのだが、効率が悪いからと、切嗣に教わったのは強化で、今までそれしか練習していなかったはずなのに、昨夜の投影はおかしかった。
干将莫耶。一対の夫婦剣。
あれは宝具だ。ランクとしては低いが、それでも、俺ごときがそう簡単に作り出せる代物ではない……はずなのに。
――身体は剣で出来ている
その言葉とともに何かが俺に告げている。剣を投影すること、その先にこそ衛宮士郎の本質があるのだと。
「ちょっとまて、なんで俺が投影したこと知ってるんだ?」
「簡単なことだ。昨日庭にお前が投影した干将莫耶が残っていた。凛に見つかる前に破棄させてもらったがな。――それよりも質問に答えてもらおう、何故、『今のお前』が投影などできる?そして、なぜお前が未来のお前の姿であるオレを知っている?」
――やはり、そうなのか。いい加減認めなくてはならない。昨日から断片的に流れ込んでくる記憶、それは衛宮士郎の過去であり、そして未来なのだ。
「ああ、簡単に言うと、俺は幾つもの聖杯戦争、そしてその後を体験している記憶を持っているらしい。……かなり怪しい部分はあるんだけどな」
そう、全部覚えているわけじゃない。どういう法則で覚えているのか知らないが、聖杯戦争の全貌と関わった人間の事情、後は自分が使える魔術のことくらいか。衛宮士郎の経験を全部積み上げている状態。
重要だと思うことに関しては大体思い出せるが、日常が思い出せない。例えば――セイバーを還した後、高校を出て旅、に出るまでの一年間、一体俺は何をしていた?
「――ふむ。にわかには信じられんが……あの投影を見せられてはな。――それで、お前はその記憶とやらをもって、一体何をするつもりだ?」
何をする。そんなことは決まっている。衛宮士郎は正義の味方なのだから。
「ああ、そのことに関しては遠坂達とまとめて話す。とりあえずアーチャー、遠坂と話がしたいから昼過ぎあたりにそっちに行くと伝えといてくれ」
「かまわんが、凛ならば客間で寝ているぞ。凛のことだ。わざわざ昼まで待つ必要もなく説明を迫ってくると思うが」
ああ、そうか。そりゃ楽でいいや……………………って?
「なぁにいいいいいいぃぃぃぃぃぃぃぃ!? ととと遠坂が家に泊まっている!?何故に!?だって遠坂だぞあいつが家に泊まってるなんてそんな馬鹿なことがあるわけないだろ!?」
「何を言っている。別にこんなことなどそれこそ初めてではなかろうに」
「ははは初めてじゃないなんてそんな馬鹿なことがあるか!?」
いきなりなんて事を言い出すんだコイツハ。
「……なるほど。こういう記憶に関しては引き継いでいないわけか。都合がいいのか悪いのか……とりあえず落ち着け。衛宮士郎。凛が客間に泊まったのは事実だ。私が案内しておいた。まぁ、断る必要は無かろう?違うモノになったとはいえ、ここは紛れもなくオレの家だったところだ」
……待て。つまり何か?遠坂は今までの聖杯戦争でもうちに泊まったとかそういうことか。なんていうか、凄いな、それは。あの遠坂が家に泊まるなんて……ってよく考えたらそんなことで驚いてる場合じゃないか。記憶があるっていってもここまで解ることと解らない事に差があるのなら、やはり俺は俺だ。今までに戦ってきた俺とはやっりなにか違うんだろう。
根本的にどうにもなってないというツッコミは却下する。気にしないようにしないと心臓が破裂しそうだ。
「ん……落ち着いたか」
「ああ、とりあえずは。その辺のことについてはもう考えないことにする。やることはたくさんあるしな」
「そうか。では衛宮士郎。一つ忠告しておこう。遠坂凛にいまだに何かの幻想を抱いているのなら今すぐにすべて破棄しろ。アレは断じてそういうものではない。何時までも理想を抱いていると溺死するぞ」
真顔で何言っているんだコイツは。
「ん。よくわからないけど一応覚えておく」
「そうか。ではオレは凛を起こしてこよう」
そう言って、アーチャーは居間を出る……と、
「衛宮士郎、お前がここで何を望むのか知らんが、お前はすでにオレはもちろん、今までの衛宮士郎の理想からも、かけ離れた存在だ。覚悟しておけ、お前は必ずその記憶を持ったことを後悔する」
そんなことをこちらを見ずに言ってきた。
「ああ、それも覚えておく。……ところでアーチャー」
「なんだ?」
「エプロン姿のままで語るってのも我ながらどうかと思うぞ」
とりあえず、居間で朝食をとりながら、ちらと他の人間を盗み見る。
――セイバー。アーチャーの作った和風の朝食を食いながらコクコクとうなづいている。そこはかとなく幸せそうだ。
――アーチャー。なんでか、セイバーが御飯を食べているのを見て勝ち誇った笑みを見せている……なんか腹が立つ。
――そして……遠坂。さっき起きてきたときはどうしようかと思った。すさまじく据わった目つきで「おはよう……英雄の衛宮君?」とか言われて本気で逃げようかと思った。
遠坂は寝起きがやばいらしく、今はさっきのような怖い目つきこそしてないものの、しっかりと此方を睨みながら朝食をとっている。……朝は食わない主義だとか言ってたが。
全員無言。雰囲気の差こそあれ、誰も一言も口にしない。……やっぱり昨日の唐突さはまずかったかなぁ・・・・
――で。無言のうちに朝食を終え、食後のお茶などすすりながら5分。ついに遠坂が口を開いた。
「――で、衛宮君?話って何なのかしら。人のサーヴァントに朝ごはんの仕度までさせるぐらいだから、それなりに重要な用件なのよね?とっとと話してくれるとうれしいんだけど」
お願いです遠坂さん、そんなコワイ笑顔で見つめないでください。
そしてセイバーさん?何故に貴女は遠坂の隣で一緒になって僕を睨んでますか?
「私もリンに賛成です。シロウ、あなたはマスターとしておかしい。仕留められたランサーを逃がし、そこのアーチャーを助けるために令呪まで使った。他のマスターが有利になるようなことばかりするマスターなど聞いたことがない」
……別にアーチャーを助けたかったわけではないのだが。とりあえず余計な反論はこの二人にはしないほうがいい……なんでかわからないけど、そう思った。
「わかった。順序だてて話そうか。取り合えずだ、昨日も言ったけどアーチャーは俺の未来の姿――一つの可能性なんだ」
あからさまに遠坂の眉がつりあがる。笑顔のまま。
……うう、こわいよう。
「……まあいいわ。それはアーチャーに確認とったし」
なんかヘンなユメも見たし……とこちらに聞こえないようにつぶやく。聞こえたけど。
「それで?なんで衛宮君が自分の未来の姿なんて知ってるのよ」
「ああ、それなんだけど実は――」
俺の事情は説明した。遠坂もセイバーも納得がいかない顔だったが。アーチャーが俺の言葉を保障すると一応納得した。
……信用ないなぁ、俺。仮にも英雄と一介の魔術師見習いの差だろうか。
「ふぅん、……って言うことは衛宮君、今回の聖杯戦争に召還されたサーヴァントやマスターのこととか解るんだ」
「ああ、だいたいは」
「……で?何で私に協力を持ちかけたのよ。セイバーならあの時確実にアーチャーと私を仕留められていたはずだし、そうしなくても私たちは敵同士よ?」
そう来るよなぁ……やっぱり。でもこれは解っていることだ。遠坂は相談すれば協力してくれるだろうし、俺がやろうとしていることに遠坂はまったく無関係ってワケじゃない。むしろ当事者だ。
「ああ、凛。そのことについては私が少し説明してやろう」
ってまて、何でそんなニヤニヤしながら俺を見てやがる。遠坂の説得を手伝ってくれるのはありがたいが、お前絶対それだけじゃないだろ。
「衛宮士郎はな、聖杯戦争時は時期や期間の違いこそあれ凛と行動を共にしている。具体的な記憶はないかも知れんが、それだけは覚えているのだろう」
「ふぅん、そういうこと。でも今回も私が協力するとは限らないわよね?」
「まったく持ってその通りだな。――他のマスターであったなら」
「? どういうことよ」
「つまりだな、凛は衛宮士郎と恋仲であったこともあるということだ。それもかなり深い関係でな、何度か聖杯戦争中に凛と魔力のラインがつながっていたこともあるぞ」
「あ――う――?」
「は――?」
「はむはむ……ん。おいしいです」
一瞬、何がなにやらわからなかった。――が、魔術師同士の魔力の交換ともなればその方法など限られているわけで、アーチャーの口ぶりからすると俺と遠坂がその――そういうことだ。
「ああ、一応言っておくが、俺は違うぞ。俺が愛した人間はべつにいる」
……それは責任逃れとか言いませんか?
「……衛宮君?」
その声を聴いた一瞬、本気で心臓が止まりそうになった。慌てる暇なんかありゃしない。明確な死の恐怖、その具現が、目の前でにこやかに笑っていた。
「そのことについては、後でゆぅっくりはなしましょうねぇ……」
「は……はい」
勘弁してください。俺はまだ死にたくありません。
「さて、衛宮士郎。からかうのはこの辺でやめて置いてやるから、とっとと話せ。お前は何をする?」
アーチャーの声(そもそもの元凶)を聞いて、遠坂も真面目な顔でこっちを睨む。横でお饅頭を食べていたセイバーも。
――話そう。衛宮士郎の使命。この戦いの顛末を知るならば、迅速にすべてを終わらせなければならない。
「ああ、俺は――大聖杯、この聖杯戦争の根本を早急に、徹底的に破壊する」
続
あとがきのようなもの
やるかやらんかわからんとか、舌の根も乾かないうちに2本目書きました。
文字が多い……って言うかギャグを……ギャグをやらせてくださいぃぃぃ。
事情説明にウンザリして饅頭食ってるセイバーに癒されています。文中で完全に蛇足だとは思いましたが。
衛宮君最強化計画。現在の士郎は魂は数々の戦いの経験によってかなりの能力を得ているのですが、何せ肉体は元のまま。いわば、経験値はたまってるけどレベル上限超えまくってて意味がない状態です。……そのうちどうにかする予定はありますが。
とりあえず第一話にかなりミスが多く、何時加筆修正してやろうかと思いながら重要なことに気がついたり・・・・
イリヤが出てねぇ!!(爆)
あ〜どうしよう、彼女が一番大変ですよ・・・・・
今、彼はなんと言ったのか。
――聖杯を求めてサーヴァントを召還するマスターが、聖杯を破壊する――?
それでは話が違う。私は聖杯を求めてこの地に再び召還されたというのに、またしても聖杯を破壊する人間の――この少年は衛宮と名乗った。つまりは前マスターの縁者か何かなのだろう――サーヴァントとなってしまったのか。
そういったからには、この少年は令呪を使ってでも私に聖杯を破壊させるのだろう。
――それだけは容認できない。私は聖杯を手に入れ、あの日をもう一度やり直さなければならないのだ。
私などが王になってしまったあの日を――
Fate/All Reloed
第三 間違ったジブン
「マスター、貴方は自分が一体何を言っているか解っているのですか?」
セイバーは静かに聞いて来る。――確かに静かだが、それは落ち着いているのとは違う、どちらかといえば嵐の前の静けさといったところか。
――無理もないか。今のセイバーには、聖杯を欲する理由があり、そのためにここにいるのだ。その希望をいきなり壊すといっているのだ。セイバーが俺に殺意を持っても不思議じゃない。
「ああ、わかってる。冬木の聖杯はあってはならない物だ。だから全力で破壊する」
「貴方は――!!」
「待って、セイバー」
こちらに詰め寄ろうとするセイバーを抑えて、遠坂がこちらを睨む。――別に助けてくれるわけじゃなさそうだな。
「衛宮君。聖杯があってはならない物ってどういうことよ。――まさかすべての願い叶える物は人間を堕落させるからとか言わないわよね?」
「ん?――ああ、そういう考えもあるかもしれないけど、問題なのはそんなことじゃないんだ」
「――どういうことでしょうか」
――セイバーのこんなも暗く、殺気に満ちた声が俺に向けられることが今までにあっただろうか。
正直に言えば、彼女の希望をこんなところで砕くのはとてもつらい。それはしていいことではないと思う。だが、それでも――
「聖杯には呪いしか込められていない。アインツベルンが行った反則技。その代償が聖杯の中身、<この世全ての悪>(アンリマユ)だ」
――俺は語った。実際はサーヴァントは聖杯の生贄であること。アヴェンジャーと呼ばれた8番目のサーヴァント。その召還によって狂わされた聖杯。56億の呪い。その歪んだ存在。
語る間は皆無言。見る見るうちにセイバーの顔は血の気がうせ、落胆の色に染まっていく。
「確かに聖杯は大抵の願いをかなえるらしい。それだけの魔力はあるからな。でも、その全てが殺戮によって引き起こされる。――その証拠が10年前だ」
そう、10年前。言峰綺礼という男が、半端な聖杯に願った悪夢。ただの足止めであったはずのそれは、大惨事を引き起こした。
「――少し補足するとな、例えばセイバー、もし君が王の選定をやり直すことを聖杯に願ったなら、それはもしかすると騎士が最後の一人になるまで殺し合いを続けるという結果を導くことになるかも知れん。――いや、そもそも君が望んだのはそういうことか」
「――!?」
ってこいついきなりなんてことを――!?
「アーチャー。今の言葉は聞き捨てなりません。訂正を要求します――!!」
今にもアーチャーに斬りかかりかねない勢いでセイバー。
「ってセイバー待てって!!……アーチャーお前いきなり何を!?」
「別に。間違った望みなど早急に棄てさせるべきだ。特に――今回の場合貴様には無理なようだからな」
「ってちょっと話が見えない――」
――なんだと?そう問いかけようとした言葉は遠坂に遮られ、その言葉すらアーチャーに重ねられた。
「いいか、セイバー。君の望みとはそういうものだ。君は剣を抜き、王として、あらゆる犠牲を払って国のために戦い続けた。それを無かった事にするというのがどういうことか君は分かっていない」
「――!!」
「君が行おうとしていることは、君が国の為に斬り捨てた者達に対する冒涜だ。犠牲にされた者、遺された者の悲しみすら踏みにじるその行いについては、もはや容認できるものではないぞ」
アーチャーの言葉に容赦はない。でも、それを止めることなどできない。それは、いつかセイバーに伝えなければならなかったことであり、衛宮士郎の信念だからだ。
―――なのに、何故俺は自分が断罪されているような気分に陥っているのか―――
「まぁ、そのようなことは後付けの理由だ。だがなセイバー。他人を踏みつけてまで勝ち抜いたのなら、やはり最後は幸福でなければならない――そうでなければ誰も報われんだろう」
「って何でそういう言い方になるんだよアーチャー。大事なのはセイバーはずっとがんばってたんだからその分ちゃんと報われなきゃなんないってだけだろ」
そうだ。セイバーはアルトリアという『自分』を棄ててまで国のために戦ったんだ。それなのに死んでも報われず、誰にも理解されないまま終わるなんて悲しすぎる。
だから、セイバーは幸せにならなくちゃいけないんだ―――
「……シロウ、貴方も同じ意見なのですか」
「ああ、そうだ。セイバーの願いが自分の為の物だったって言うのなら納得もするさ。でも、セイバーはそうじゃないんだろう?」
そう、セイバー……アーサー王と呼ばれたアルトリアという少女は、その生涯を王として、国を導き、戦い続けるだけのものだった。
ただ一度も敗れることはなく、そして一度も理解されない。王としての威厳のために全てを棄てた少女は一度も笑わず、戦となれば先陣を切り、町を守るために村を焼いた。
そんなアーサー王の生涯は、肉親の裏切りによって幕を閉じる――はずだった。
「やり直すなんて、しちゃいけないことなんだ。――乗り越えてきた人たちのためにも」
アーサー王は死の直前に、世界と契約した。
守護者となって世界の抑止力となる代わりに――聖杯を手に入れること。
かける願いは唯一つ。――自分が王になどならなければ国は滅びはしなかったのではないか――
その可能性のためだけに……一人の少女は死んでも、戦い続けることを選んだ。
「………」
全員無言。俺も遠坂も、アーチャーも。俯いて震えるセイバーを黙って見つめる。
――そしてようやく、セイバーが口を開く。
「シロウ――貴方が、よりにもよって貴方がそれを言うのですか!?」
セイバーの言葉は、
「貴方たちの言うことはわかりますっ……でもそれは貴方が口にしていいことではない、なぜなら、今貴方が行おうとしていることも、私の願いも――何が違うと言うのですか!?」
―――あまりにも、的確に俺の闇をついてきた―――
……思いもしなかった……いや、考えないようにしていたのだ。俺はこれから起こることを知っている。犠牲になってしまう人たちを知っている。それを乗り越えて、今までの俺は走り続けてきたはずなのだ。
だというのに俺は、この異常に乗じて、全ての犠牲を回避しようとしている。
――ならば、俺とセイバーに何の違いがあるのか。
すでにやり直す機会を得てしまった俺と、それを得ようとするセイバー。そこに差はなく、俺がセイバーに言えることなど、何一つなかったんだ――
「………悪いけど、衛宮君。私もセイバーと同意見。あなたにそれを言う資格はないわね」
「遠坂………」
「アーチャー、あなたにもね。アンタ衛宮君を殺すことで過去の改竄とかやろうとしてたわけでしょ?」
「凛、それは………」
「終りね、アーチャー、衛宮君。悪いけどあなた達とは組めない。自分の事を棚に上げて人に説教するような人間と一緒に戦えるわけないもの」
言って、遠坂は右腕を出す。……確かそこに遠坂の令呪があったはずだ。
「衛宮君、セイバーは貴方と共には戦わない。私はアーチャーと一緒になんていられない。――この意味、解るわよね」
「凛――それは!!」
「わかった。セイバーを頼む」
そう答えるしかない。俺には聖杯を手に入れる気も、セイバーに願いをかなえさせる気もなく、セイバーは自分の願いを棄てはしないだろう。
なら、俺は契約を破棄し、セイバーは遠坂のサーヴァントになる。アーチャーをどうするのか知らないが、口ぶりからするとアーチャーも契約を破棄されるのだろう。
「じゃあね、衛宮君。あなたがどうするのか知らないけれど、場合によっては、戦うことになるかもね」
「さようならシロウ。この結果は、私としても残念でならない」
「ああ、それはおれもだ、セイバー、遠坂」
セイバーをつれて遠坂は帰っていく。とりあえず、今日一日は見逃してくれるらしい。
――聖杯については、手に入れてから考えるそうだ。俺のようなイレギュラーがあったのだから、聖杯のほうも何かあるかもしれない、とは遠坂の弁だ。アーチャーは一笑に伏したが、遠坂は聞かなかった。
「――これからどうするかな」
やる気が出ない。知らなければ、戦っていただろう。だが、俺は知ってしまっている。この先を。そして、自分の間違いを。
どうすればいいのかわからない。やらなければならないという気持ちと、セイバーの言葉が胸に響く。
俺は――どうすればいいのか―――
暗澹とした気持ちで今に戻ると、何故かそこにはまだ、アーチャーがいた。
「アーチャー、おまえなんで………」
「ふん、悩むのは別にかまわんがな………こういうのはオレとしても不本意ではあるのだが………」
珍しく、逡巡してからアーチャーはこちらを向き、そして―――
「衛宮士郎、非常に遺憾ではあるのだが―――オレと契約しろ」
―――そんな、とんでもないことを口走りやがった。
続
あとがき
はい、やっちゃいました。トレードです。ギャグでもなんでもなく、マジでトレードなのです。
暴走果てしなく続き、ぶっちゃけこれからどうしようって所です。――え?読んでないから別にどうでもいい?
いやまぁ……こんなへたれ文章誰か読んでるのかって感じですが。ミス多いし。
まぁ、あれです。暴走したら止められるまで泊まりませんよ、私。
とりあえず、3話にしていろいろやっちゃったんで後が大変だなぁ・・・・と。
多分、もう聖杯破壊はかなり時間がかかります。いろいろ設定考えてたらそうなりました。ごめんなさい。
さて、次回はやっとこさイリヤ登場。マーボーは用がないからまだ出ませ
契約自体は問題なく完了した。
―――一時は本気で後ろの心配とかしたけど。
よく考えてみれば、今回は令呪も維持できてるし、俺にもアーチャーにもそれなりに知識がある。初歩的な契約ならそれほど難しいところではなかった。……代わりに令呪の発動は出来なくなったみたいだけど。
………で、まぁアーチャーが襲うとか何とか脅すもんだから、とりあえず契約しちゃったんだけど………どうするんだ、これから?
Fate/All reloed
第4 銀と鋼と金
「で、どういうつもりだ、アーチャー」
「何か不満が?『マスター』」
うわムカツク。わざとらしく強調してマスターなんて呼ぶな。なんだか無駄に腹が立つ。
「大有りだ、そもそもお前やることないだろ。貴重な魔力までぶん取ってやがるくせに」
そう、やることがないはずだ。遠坂と契約を切られた時点で、聖杯を求めておらず、そして俺を殺す気もないというコイツに、よりにもよって俺と契約してイヤミったらしく現界している理由などない。
それとは別に不満なのが、コイツと正契約したせいで俺の魔力が吸われまくっているということだ。ただでさえこの身体にある魔力は少ないというのに、意味もなくサーヴァント………よりにもよってこいつを維持する理由なんて俺にはない。
「まさかとは思うが、俺に対する嫌がらせだけで残ってるわけじゃないだろうな……?」
「ふむ。それはそれで面白いかも知れんが―――あいにく、オレもそれほど暇ではない」
「じゃあ何で―――」
「やることがないと言ったな衛宮士郎―――お前こそ何を言っている?」
「え―――」
「貴様、まさかとは思うがセイバーに反発された程度で目的を見失ったのではあるまいな。―――だとしたら、見込み違いだ、この場で契約は破棄し、オレは貴様を殺す。信念すら貫けぬ衛宮士郎など、見ていても不快なだけだ」
「………だって俺は―――!!」
「セイバーに言われたことか? 何をいまさら。もとより我等とはそのような者だ。十を助ける方法があるというのならやる。自分の観念など、そのためならば無視してでも、な」
「聞くが衛宮士郎。貴様はこのまま知らぬ振りが出来る人間だったか。お前はこれから出る犠牲を知っており、それを自分の信念のために見捨てることがお前にできるのか?」
「―――っ」
―――できない。わかっているから、出来ない。この聖杯戦争がどんな道筋をたどるのか解らないけど、絶対にそこは犠牲だらけだ。俺が、俺なんかのために見捨てていい人達じゃない。
―――でも、それならセイバーはどうなる。
「半端に覚えているモノなど棄ててしまえ。衛宮士郎、貴様はチャンスを得た。過去も未来も関係ない。出来るのならば、やれ。もとより、我等が万能たりえないのは―――貴様が一番よくわかっているはずだ。それでも―――」
そう、俺たちは万能じゃない。普通にやっていてれば、出来ないことだらけだ。だから、この偶然に縋りたくなる。でも、それではセイバーと同じだ。出来る可能性があるから頼る。そのためなら自分は関係ない。ただ、目的のために、全てを棄てる。そんなことを望んでるわけじゃない。でも――
「それでも我等は―――それをやるという答えしか持ち得ないのだ」
「―――」
セイバーの糾弾は胸に響いた。確かに、今の俺の言えることではない。――でも、俺は止まれない。止まることなど出来ない。ここで止まれば、何も救えないから――
「―――わかった。とりあえずやれることはやる。正直、まだ納得いかないけど。それしかないんだろ?アーチャー」
ツケは回ってくるだろう。でもそれが、セイバーによるものだというのなら、喜んでそれを受けよう。―――彼女に対しては、あまりにも借りが多すぎる。
断罪は受けよう、だがそれは、やることをやってからだ。やるからには全力。俺は、必ずこの戦いを、最良の形で終わらせてやる。
「具体的にどうするのだ?それなりのプランはあるのだろうな」
やると決めたからには即行動―――というわけにもいかず、まずは作戦会議。そもそもアーチャーと俺では知識ややれることに差があるのだから当たり前だが。
「―――まず、第一条件として、サーヴァントは一人も消滅させてはならないってことだな」
「………イリヤスフィールの件か」
「ん?……ああ。あと、桜もだ。どっちがどっちでやばいって言うわけじゃないけど、聖杯としての機能が発動してしまえば、イリヤは人間としてはかなり辛いことになるし、桜は直接アンリマユとの接続がはじまってしまう」
「まて、桜とは間桐桜のことか? マキリの老人に何かされているという記憶はあるのだが……聖杯だと?」
そこから話さなければならないのか。………あんまり話したいことではないが、しょうがないと言えばしょうがない。
「ああ、桜は間桐臓硯のが10年前の聖杯戦争のときに砕けた聖杯の破片を媒介にした蟲によって、後天的に聖杯の運命を背負わされた。……なにせ、半端な聖杯だ。具体的なことはよくわからないけど、直接的にアンリマユとつながってしまうような危険なものらしい」
―――自分の、意外なほど冷静な言葉に、ゾっとした。俺は、桜をなんだと思っているんだ―――?
とにかく俺は説明を続ける。サーヴァントを飲み込む影。その数が増えるごとに人格を維持しにくくなっていく桜。間桐臓硯の本体が桜の心臓に巣くっていること。
「ふむ―――。イリヤスフィールの場合、身体に負担がかかり、間桐桜の場合は精神面に影響が出るわけか。―――しかし、マキリの蟲は厄介だな。ルールブレイカーでは蟲の切除は出来ないぞ」
―――ルールブレイカー。聖杯戦争に参加した、キャスターの持つ宝具。その効果はあらゆる魔術契約を破壊し、書き換えるというものだが―――物理的に存在する蟲を消し去ることなど出来ないだろう。
「厄介なのはそこなんだ。イリヤのほうはもしかしたら聖杯契約を無効に出来るかもしれないけど、桜の場合は蟲だろ。心霊医術でも出来なければどうしようもない。―――その辺は遠坂に期待してたんだけどな」
言峰綺礼という神父は心霊医術も使えていた。その弟子である遠坂にも、ある程度の医術知識はあったはずだ。
「………マキリの老人については考えておこう。こちらが仕掛けなければそうそう動くようなものでもないしな」
「ああ、とりあえず桜のほうは、影がサーヴァントを直接捕食しない限りは問題ない。今回臓硯が動くかどうかもまだわからないしな」
―――見逃すつもりはないけどな。声に出さずに付け加える。間桐臓硯は衛宮士郎の敵だ。それは、聖杯戦争時に動くかどうかは関係がない。俺の知る限り、間桐臓硯はいずれ動き、桜を苦しめる。
「とりあえず、イリヤを確保しなくちゃなんないと思う。バーサーカーはやっぱり最強だけど、その分他のサーヴァントを倒してしまう可能性が高いから」
それに遠坂たちとぶつかった日には目も当てられない。今のセイバーは遠坂のおかげで万全の状態だし、ならば、聖剣を使ってバーサーカーを倒すという結末もありうる。いずれにしろ、あの二組が戦えば、決着が付くまで戦い続けるだろう。それでは意味がない。
「―――そういえば、昨日イリヤに会うはずだったよな? どうしたんだ?」
昨日俺は遠坂に会った後、急な魔術回路の使用でぶっ倒れた。本来なら教会に行き、その帰りにイリヤと会うことになったはずだけど・・・
「イリヤスフィールなら着たぞ。お前が倒れた後、すぐにな。………まぁ、お前が寝てるのではつまらんとか言って帰っていったが」
…………来てたのか、イリヤ。
寝てるから帰るって、律儀というかなんと言うか………寝こみを教われないで助かったけど。
「まぁ、その辺はいいや。とにかく、イリヤと話してくる。あ、アーチャーは留守番な。3分の一くらいの確立で藤ねぇから電話があると思うけど、そうなったら適当にごまかして、弁当作って学校までもっていってやってくれ」
………沈黙。
「ってまたんか。話し合いに行くという意味でオレを置いていくのは構わんが、何故オレが藤村大河の世話までしなければならん。居留守でも問題はなかろうに」
「なにいってんだ。そんなことしたら後が怖い。これからも円滑に行動するためには藤ねぇはおとなしくしてもらった方がいいし、ほっといたら弓道部のみんなに被害が及ぶぞ」
―――聖杯戦争じゃなくて藤ねぇの。
「おれはやらん。やらんからな。大体どう説明しろというのだ。アレは確かにいろいろと問題のある人間ではあるが、決して鈍いわけでもない。半端な嘘でどうこうするよりは放置したほうが後々のためだ」
……まぁ、その通りなんだが。今やれることをやれといったのはアーチャーだし(極めて勝手な解釈)。やれることをやってもらおう。
「ん。こまったら生き別れの実の兄とか言ったらいいさ。ある意味嘘じゃないし」
「誰が。貴様のような弟など持ちたくはないわ」
………俺もひねくれまくった兄貴なんて欲しくないよ、アーチャー。
「まぁ、そういうことでよろしく。あ、朝飯の片付けとかしといてくれると助かる」
「ってお前サーヴァントをなんだと――」
「いってきま〜す」
もはや話すことなし。アーチャーを無視して、アインツベルンの森に向かう―――
郊外の森を抜け、アインツベルンの城が見えたとき、明らかに普通ではない音が響いてきた。
「これは―――剣戟?」
そう呼ぶにはあまりにも激しく、苛烈な音。多数の剣のぶつかり合い。―――これは戦争だ。
「ってまさか――!?」
奴だ、奴が動いている。――ギルガメッシュ。前回の聖杯戦争より生き残ったサーヴァント。
「早すぎる。なんでアイツが今動き出すんだ―――!?」
走る。ギルガメッシュが相手なら、イリヤが危ない。アイツがイリヤを襲えば、奴は必ず心臓を―――
トレース オン
「投影、開始」
奴を倒すには魔力が足りない。ぜんぜん足りない。しかしそれでもやらねばならない。やらなければ―――イリヤが死ぬ。
フラタクル バレットフリーズ
「重装。投影待機」
だから不意打ち。戦いの場に入った瞬間、持てる力の全てを使ってギルガメッシュを倒す―――!!
強化した脚力で一気に城に近づき、巨大な扉を蹴り開ける。
「―――バーサーカー!!」
―――そこで視たのは、予想通りの光景。幾多の聖剣魔剣によって身体を貫かれたバーサーカー。それを見て余裕の笑みを見せるギルガメッシュと、不安を打ち消すように叫ぶ、銀色の少女の姿だった。
続
あとがき。
えっと度々ごめんなさい。イリヤ出たわりに一言。しかも最後だけ。そして、アーチャーと士郎のそういう展開を期待してた人々へ(イタノカ!?)。ごめんなさい。
今回も突っ込みどころ満載ですが〜とりあえず当分の間、士郎も(描写はないけど)セイバーも自分のことを騙し騙しやっていくことになりました。
今回からちょっと書き方が変っています。ルビを何とか使えないかなぁ、と。あと、いきなりギルガメ登場。展開速いんだか遅いんだか………
とりあえず次回はギルVS士郎第一回戦です。
届かぬ力、乖離剣エア。対峙した衛宮士郎は、ある一つの賭けにでる―――
とまぁ、こんな感じで。いきなりエアと真っ向勝負。士郎はどうなるのか……って言うか金ぴかはここで死ぬのか?
とりあえず作者の認識としてはギルは死んでもイリヤ達に影響はありません。何しろ前回のサーヴァントですし、受肉してますから。アンリマユに取り込まれる可能性はありますが。
さ〜ぶっちゃけ全員助けるのは無理ですが、どこまで助けるのか、誰を助けるのか。というか遠坂、セイバー組との和解はありうるのか―――何気にまよってますが、とにかく次回。今後もよろしくお願いします。
追伸―――衆道ってなんですか?
突然だった。いきなり現れたかと思うと、アイツはリーズリットとセラをあっという間に殺してしまった。そして、こう言ったのだ。
―――失敗作になど用はない。人形、聖杯は我が貰い受ける。光栄に思うがいい。
アイツの―――あの訳のわからないサーヴァントの狙いは私自身だ。それも、私の心臓だけ持って行こうとしているらしい。
冗談じゃない。聖杯は私のだし、コイツは私を人形と呼んだ。そして何より赦せないのが―――アイツはリーズリットとセラを殺したのだ。
だから、今が昼間で、夜じゃないと戦っちゃいけないなんてのは無視だ。私はバーサーカーを呼んで、このふざけた男を殺すつもりだった。
―――だがどうだろう、最強のはずのバーサーカーはアイツに近づく事も出来ずに、次々と殺されていく。
1回。
2回。
3回。
4、5、6、7、8………
こんなのってないと思う。まだ私は何にもしていないのに、バーサーカーは殺されてしまう。そしてその次は私だ。
実のところ死ぬのはあんまり怖くない。今まで受けてきた痛さに比べれば、死ねるというのはきっととても楽なことなのだろう。でも――――何故かその時、私は思った。思ってしまった。
―――誰でもいいから私を助けて、と。
さすがに叫ぶのはこらえた。そうしたって意味は無いし、何より私のプライドが許さない。
―――だというのに、その人はいきなり現れて、バーサーカーに撃ち込まれそうだった剣を、すべて弾き飛ばしてくれた。………一体なんだって言うのだろうか。
私は別に―――お兄ちゃんのことなんか、これっぽっちも考えていなかったのに―――
Fate/All Reload
第五 歪んだ八節
状況は最悪だった。今まさに十四の剣が、バーサーカーを貫かんと放たれたのだ。
フリーズアウト ソードバレルフルオープン
「――っ! 凍結解除、全投影連続層写―――!!」
迷う暇など無い。最短で投影を具現させ、ギルガメッシュの放った剣の全てを撃ち落す。次々と砕け散る俺の剣。……それでもバーサーカーは守った。ならば次は――――――
「っ―――あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」
「ぬっ―――?」
手元に残して置いた干将莫耶。俺の渾身の力でもってギルガメッシュに肉薄し、この双剣を叩き込む―――が。
フェイカー
「ハッ―――貴様、贋作者か!?」
グラム
振るわれた双剣は、ギルガメッシュの剣に容易く受け止められた。
「く―――っ」
受けられようと関係ない。受けられたのならば次、とにかくギルガメッシュがこれ以上剣を呼ぶ暇を与えぬために、めいいっぱい接近して連続で太刀を振るう。
一合、
二合、
三合、四、五、六七八九―――
まだだ、まだ―――コイツはこの場で斬り倒すっ―――――!?
背筋に何かひやりとしたモノを感じ、真後ろに向かって莫耶を振るう。硬い金属音、衝撃。莫耶が消え去り、剣が落ちる。続いて正面。一瞬の間に呼び出された七の剣を干将で受け、弾き、あるいは回避する。―――干将も消えた。
「ほう―――今のを弾くか」
―――しまった。今ので間合いが開いた。いつの間にか立ち位置は入れ替わり、門の側にギルガメッシュ、背後にはイリヤとバーサーカー。
ギルガメッシュに退路をふさがれた形になった。―――もとより逃げるつもりなんて無いけれど。
「え―――お兄ちゃん?」
何か意外そうな様子で呟くイリヤの視線を感じるが、とりあえずは無視する。―――話は後だ。今はコイツを何とかしなければならない。
「雑種、褒めてやろう。まさか貴様ごとき贋作者が今のをかわせると思わなかった」
「後ろから撃っといてよく言うよ。―――英雄王にはプライドとかないのか?」
言ってやる。お前のことを知っている、と。
「貴様―――我が真名を知って邪魔をするか。それがどういうことか解っているのだろうな?」
さて、どうしよう。本当なら最初の投影でギルガメッシュを倒すはずだったんだけど、それは出来なかった。当たり前だけど、まともな接近戦もダメ。『無限の剣製』が使えれば話は違うが、はっきり言って無理。
元はといえば今日は朝から調子が悪く、魔術回路も開いたばかりで、連続投影が出来た時点ですでに奇跡だった。―――無理をすれば後一回くらいなら何とかいけそうだけど、有効な剣が思い当たらない。
バーサーカーに期待は出来ない。どう見てもあれは死に体だ。ヘタに戦って消えられたりしては元も子もない。
なら―――ハッタリか。すさまじく情けないけど。
「そんなことは知らない。でも、イリヤは渡さないし、お前になんか負けてやらない」
「え?……お兄ちゃん、私の名前………」
「ほう?」
「一つ教えておいてやろう、英雄王。―――お前にとっての天敵、それが俺だ」
………どっかの若白髪の真似をして、小馬鹿にしたように鼻でわらってやる。我ながらあんまり似ていない。本当にアイツ、俺なんだろか。
とにかく、これで引いてもらえないだろうか。はっきり言って分が悪すぎる。今ここで戦うのはあまりにも無謀なのだ。
冷や汗混じりにギルガメッシュを見据える。―――と、ギルガメッシュはすさまじくイヤな笑みを浮かべ、
「―――雑種ごときがよく吼えた。………褒美だ贋作者。我が剣を見せてやろう」
………………………えっと、状況悪化?
あ〜………セイバーの追っかけだったり後ろから攻撃とか、せこいことばっかりやってるから、絶対小心者だと思ってたんだけど。王様っぽいプライドは持ってたのか………
ってやばい。アイツ本気で乖離剣を出しやがった。
「銘など無いのでな、我はエアと呼んでいる。これを振るうに足るは、かの騎士王のみと思っていたのだが―――雑種。貴様が我の天敵だというのなら、見事これを越えてみよ」
乖離剣が咆哮する。円柱が回転を速め、魔力がすさまじい勢いで溜められていく。あたりの物を吹き飛ばしていく暴風。まさしく暴威。―――あの剣の力は記憶にある。セイバーの聖剣と撃ち合って………アレは聖剣を上回る。
「―――人形。悪いが聖杯については他を当たらせてもらう。恨むならそこの雑種を恨むのだな」
「――――てめぇ」
「聖杯としては粗悪品だが―――むしろアレにはふさわしいかも知れんしな」
―――他とは桜のことか。そしてコイツはここで、俺もろともイリヤを吹き飛ばす気だ。
―――させない。そんなことを赦せる筈が無い。イリヤも、桜も、他の誰も聖杯の犠牲になんかさせられない。
「雑種。後悔は済ませたか?―――ならば、ここで我が剣を視る事が出来たことを光栄に思って逝くがいい」
ならばどうする。聖剣を投影しても届かない。第一今の俺が使っていいものじゃない。ならば盾か。それもダメだ。防げる保障はないし、万が一にも防げても後が無い。魔力が尽きたところで、俺もイリヤも殺される。―――鞘ならどうか。結局セイバーに還していない聖剣の鞘。アレも俺が使うべきものではないが、イリヤだけは守れる。でも結果は盾と同じ。
―――手が、無いのか。
ふと、目の端に写ったモノに気をとられた。二人の女性の死体。―――名前はなんといったか。イリヤの世話をしていた二人。それが、殺されていた。
「―――――」
その姿を、しっかりとこの目に焼き付ける。……あれは俺の罪。俺がもっと早くにここに来れば助けられていたかもしれない二人。もはや何も映っていない瞳が―――イリヤを護れと、いつかのバーサーカーのように言っていた。
罪は償わねばならず、その贖罪になるというのなら、俺はここで全てを燃やして奴を討とう。イリヤを護ろう。そのための得物――――
聖剣すら届かず、奴の剣は構造すら把握できない。盾では誓いが護れず、鞘の理想郷は俺の手に届かないところにある。ならば―――
ブレイド ワークス
「剣製、開始」
無いのなら作り出す。自己を騙し、歪んだ八節をもって剣を成す。
即ち。
創造の理念を構築し
無理
基本となる骨子を空想し
危険
構成された材質を模造し
不可
製作に及ぶ技術を偽造し
ヤメ■オケ
成長に至る経験を捏造し
ソレ■ハ
蓄積させる年月を選定し
マ■
ありとあらゆる工程を凌駕し
■■カ■■
ここに、幻想を結び剣と成す――!!
「ふっ………つ―――――あああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」
限界を超えて酷使される魔術回路に体が悲鳴を上げる。通常の神経回路が魔術回路と共鳴し、全身に苦痛が走る。
剣を作ることは衛宮士郎の本分ではない。あくまで行うのは元からある剣の模倣。そのための魔術回路であり、『無限の剣製』。それを無視して、一から新たな剣を作ろうというのだ。無理が出ないはずが無い。
それでも、俺は剣製をやめるわけには行かない。そうすることが正しいのだと。俺のどこか深いところで、何かがそう告げている。
構える。敵に対して身体を垂直。下段。手には、薄く輝く剣の幻。
―――もはや音など聞こえない。ただ、奴が真名を呼ぶのに合わせ、実像もままならない、仮初の剣を振るう―――!!!
瞬間、閃光が世界を埋め尽くした―――――――
「―――っ、はぁ、はぁ………ぐっ」
「雑種……貴様―――」
ギルガメッシュが憎々しげに睨みつけて来る。―――無理も無い。確かに俺は乖離剣に対して正面から打ちかかり、そして―――これを防ぎ、あまつさえ、奴に一撃を加えることが出来た。
だがそれも終わり。右腕が焼ける様に熱い。乖離剣と撃ち合った余波か、防ぎきれなかった威力は俺の身を裂き、はっきり言ってほとんど致命傷。作り上げた剣も結局、実体化することなく消え去ってしまったが―――どちらにしろ、アレを使う力などもう残ってはいない。
対して奴は肩に傷を残すものの健在。あの分ならすぐにでも俺を殺せるだろう。
それでも、後方を無傷で済ませられたのは大金星だ。―――それでどうなるものではないというのが、とても辛いが。
まだ、だめだ。ここで倒れるわけには行かない。ギルガメッシュは健在だ。なんとしても、もう一度あの剣を―――と、
「贋作者―――との侮辱については謝罪しよう。ここにきてまさか、あのような剣を生み出すとは思わなかった。あれこそ真作。唯一貴様に与えられた未完の一振りか―――雑種。名を名乗れ」
あくまで尊大に、そいつは、そんなことを言った。今の半端な剣製が俺の真作―――?
それはともかく―――勝った、と思った。何度繰り返そうが絶対に俺の名前を覚えようとしなかった奴が、ついに俺の名前を聞いてきているのだ。これを勝利と呼ばずなんと呼ぼう。
「士郎。衛宮士郎だ」
だから名乗る。名乗ってやった後で、それでも次の手を考えるのは忘れない。しかし、魔術回路は分を越えた魔術のせいで、ほとんど使い物にならない。もはや魔力も底をついた。
クソ―――。どうする、どうすれば、奴を退けられる?
考えれば考えるほど絶望が身を焼かんと蝕んでいく。それに必死で抗い、否定を続け―――
「ならば衛宮士郎、この度は見逃してやろう。そこの人形も一緒にな」
―――な?
「あれほどの剣、未完で終わらせるのは惜しい。完成させた後に、我が貰い受けてやることにした。喜ぶがいい」
本気でこいつは何を言っているんだ? 王様か? 王様の言うことはやはり俺のような凡人には理解できないのか?
あんなものはただの虚像だ。身の程知らずの馬鹿が半端な技術で生み出した虚構の剣。完成させられるようなものではないし、所詮は投影の延長線上のものだ。俺が幻想を維持出来なければ消える。
奴はそんなものが欲しいという。あれだろうか。この王様は本気で自分に手の入らないものは無いぞー、とか思ってるんだろうか。ちょっとうらやましいぞ、その性格。
「ではな、衛宮士郎。久方ぶりに楽しめたぞ―――」
俺の混乱をよそに、ギルガメッシュはさっさとどこかへ消えていった。
―――助かったのか?
なんにしろ、帰ってくれるのはありがたい。こっちはもう、いっぱいいっぱいで、立っているのも辛い……って何で天井とイリヤの顔が見えるんだ―――?
イリヤが何か言っているようだ―――どうも罵倒されているらしい。
「いや、イリヤ。お兄ちゃんはもう疲れたからとりあえず寝かせてくれ―――」
俺が意識を保っていられたのは、そこまでだった。
続
あとがき
あっはっは。調子こいてやりすぎました。リズセラファンの方、ごめんなさい。ぶっちゃけあの二人は動かしにくすぎるんで、人柱になってもらいました(爆)。
いや、別にまったく出てこないで、なんかそんなのがいるなぁって感じでもよかったんですが、まぁ、出したかったというかなんと言うか・・・・・
士郎最強化計画第2段、剣製。はい、無限の剣製の独自解釈というかなんと言うか、あんまり書くとラストのほうのネタ晴らしになるんで控えますが、今回のは完全に失敗した剣製です。八節の工程もめちゃくちゃ、何とかギリギリで力を発揮しましたが、あれはああいうモノではないんで。まぁ、当分士郎君はあんなマネはしないです。はっきり言って体が持たないんで。とりあえずこの無茶については当分見逃しておいてもらえると助かります。―――珍しく、これはちゃんと収拾付けてあるんで。
さて、ギル様。王様ッぷり爆発しつつ、ついに士郎を認める。ううううう、こんなの金ピカじゃないいいいいぃぃぃぃ!!! 金ぴかは油断しまくってあっさりやられるのが似合いのキャラなんだぁぁぁぁ(爆)。
あんなこと言って別れたわりに、次は士郎の小細工であっさりやられるという展開に惹かれてたり………あとセイバーにバッサリとか。
と、まぁ冗談はともかく、士郎の記憶またしても曖昧。何時でもどこでも雑種呼ばわりされてたりとか、その他ストーカーとか、ヘンな記憶の仕方しています。もうダメぽ。
というか重大なことに気づきました。
Fate/All Reloed→× Fate/All Reload→○……………リロードの綴り間違ってた!!(爆)………指摘される前に気づいたのは僥倖僥倖。
最後に、感想掲示板及び推薦文の皆様に厚く御礼申し上げます。ぶっちゃけ○道はマジで知らなかったです(そこか!?)
追伸。イリヤルートなんて考えてもいなかった!!(爆)