聖杯戦争 もう一杯 まる9
「アルグェイド・・ぞろぞろ帰ろう・・・ゲホ!ゲホ!」
「えー、もうちょっとだけ歌ってこーよー」
昨日から徹夜で歌い通し、志貴は喉はボロボロになっていた
「というか・・・いい加減眠いぞ・・」
「んー、確かに志貴はそろそろ眠らないと駄目かもー。
分かった、これを最後の一曲にするね」
「・・・・・・燈子・・あれはなんだ・・?」
「恐ろしいな、真祖は音波兵器さえも備えているのか」
「どうでもいいが戦うのなら不意を打たない限り勝ち目は無いぞ」
「・・・・あんな化物に不意を打っただけで勝てるか?」
正直な感想だ、ゾクゾク来る。
アレには人間なんかがどう頑張っても勝てるわけが無い。
「まぁ、音波兵器はヨシとしよう。
アーチャー、真祖の姫君がこんな場所にいる理由はなんだと思う?」
「聖杯だろうな。そうだな、もしかしたらただ単にデートをしているだけかもしれないが」
「燈子、早く決断しろ。歌に夢中みたいだがその内気付くぞ」
「・・・・そうだな。
来るなら聖杯目当てだろうな、好機といえば好機か」
「幸いサーヴァントは留守にしているようだ」
「よし、どの道戦うなら3対1でやれる方がいい」
「駄目だ、俺はあの眼鏡の男をやる」
あの女もヤバイが眼鏡の男も負けず劣らずだ、
あいつは狂っている。間違いなく私と同種の人間。
「確かにあの男も放って置いていいような奴じゃない。
というか、アレもしかして私の魔眼殺しじゃないか?なんであいつが着けてるんだ」
布を解いて日本刀を取り出す
「どうでもいい。白髪、女の方は任せた」
「やれやれ、君はとんでもない無茶を言っているぞ」
いつの間にか男の手には2対の剣が握られていた。
いい剣だな、後で見せてもらおう。
「ま、頑張ってくれ。私も使い魔を出そう」
燈子が鞄を開けると、影絵の猫が姿を現す。
「行け。アーチャー、式」
† † † †
いよいよアルクェイドの歌がサビの部分に入る時、
ドアが吹き飛ばされた
「え―――?」
「は―――?」
視界の端にアルクェイドが間の抜けた表情で驚いているのが写る。
俺の目の前まで迫っているドアを突き抜け、日本刀が飛び出す。
「く――!?」
たまたま手に持ってた分厚いカラオケの本で日本刀の突進を防ぐ。
一瞬で眼鏡を外し、ポケットの短刀を構える
あんな物で私の剣を受けるか普通!?
心の中で愚痴をこぼしながら目の前の男に切り掛かる。
「ちょ――誰――!?」
男は何やら混乱しているらしいが、そんな事をかまっている暇は無い。
コイツは異常だ、異常なほど体に走っている死の線。身に纏う雰囲気も。
そんな体で、私の剣を受ける事も。
和服の女は何も語らず切り掛かってくる。何も語らないが目だけで、俺を殺すと伝えてきた。
「冗談じゃない!」
この狭い場所で正確に振るわれる日本刀を短刀で受ける。
この女が狙うのは人体の急所ではない、俺の体に走っている線―――。
「見えてるのか――!?」
この場所は狭い。
短刀を持ち、七つ夜の体術を使う俺に有利に働く。
蜘蛛の様に壁を使い、天井を利用する。
† † † †
ドアを盾に女が部屋に飛び込んでくる
最初の一撃を志貴が分厚い本で受けた後、剣戟が響く
「志貴!」
どこの誰だか分からない和服の女は志貴と互角に打ち合っていた。
冗談でしょう?志貴が手こずる様な人間そうそう居るはずない!
一瞬、あっけに取られた隙――。
黒い影絵が私に襲い掛かる。
「邪魔!」
影絵の使い魔が一蹴された。
真祖の姫君―――。
サーヴァントだからといってこんなのと戦うのは御免こうむりたいが―
「ふっ!」
これが敵のマスターなら戦わざるを得ないな。
2対の剣を振るう。
紅い紅い眼が俺を捕らえる。
「どきなさい!」
バキャン!
一瞬で2対の剣は砕け散る。
全く、真祖というのはどんな生物だ。
次の瞬間私の手には同じ剣が握られる。
ソレを振るい、再び砕かれる。
私が消耗するだけの剣戟―――それが真祖と私の戦い。
まともに戦って勝ち目などあるわけも無い。
「全く、君は一体どういう奴なんだ?
干将獏耶を一合づつ使い捨てる羽目になるとは流石に思わなかった」
私の行く手を阻む赤い騎士は言う。
それを聞きながら黒い影絵を再び殺す。
「・・・・」
この使い魔は殺しても殺してもすぐに直る。
この手の使い魔は術者を殺すに限るが――。
「駄目だ、ここを離れればあの少年が危ないぞ」
そう、私が離れればコイツは志貴を殺すだろう。
私が志貴と戦っている女を殺そうとしてもコイツが志貴を殺すだろう。
―――手詰まり。
結局この騎士を殺すしかない訳だ。
「ふん、結局あなたを殺せば済む話だわ」
本気になられればお終いだ。
勝ち目なんて毛の程もない。直にこの真祖は本気になる。
その前に。
「鶴翼、欠落ヲ不ラズ」
2対の剣を投撃する
「ふん、つまらない攻撃ね」
一瞬で私の目の前まで間合いを詰めて、爪を振るう
瞬間、新しい2対の剣を投影する。
爪を新しい獏耶で防ぐ、壊れてしまうがそれはいい
「心技、泰山ニ至リ」
窓を破り、外へと消えた獏耶が干将に引き寄せられ襲い掛かる。
「こんなの!」
真祖が軽く腕を振るうを獏耶が粉々に砕ける。
「君はどうにもならないだろうが――――」
手には投影した新しい獏耶、
「心技 黄河ヲ渡ル」
干将を引き寄せる
「―――彼には厳しいんじゃないのかな?」
紅い紅い殺意しかない眼が恐怖に引き攣る。
「志貴――!」
† † † †
剣を合わせる度に理解していく。
場所が有利だからといって楽観できるような相手じゃない。
この女は場所の不利を覆すだけの技量を持っている。
「クソ!こっちは体が弱いってのに―――!」
まるでお構い無しの剣閃
一撃一撃、気を抜けば即座に殺される必殺の剣。
並みの剣士が踏み込もうものなら一瞬で両断されるであろう刀の結界。
それを潜り抜けて一撃入れなくてはならない。
「どうして次から次へと厄介事が――」
迅く、正確な刀を一瞬で見切り七つ夜を振るう
それを正確に柄で防がれる。
――決め手が打てない。
お互い直死の魔眼という切り札を持つが、技量が互角。
――線をなぞる事も、点を突くことも出来ない。
拮抗が続く、私の剣を蜘蛛の様にすり抜け
私に短刀を突きつけようとするが、それを許すほど私は弱くない。
それ故防ぐ。
――全くの平行線ってのも、楽しくない
強敵ではある、戦うのが楽しいとも思う。
だが後にはあの化け物が控えてる、あの白髪なんて簡単に殺されるだろう。
そうすれば殺されるのは私。
そうなる前にこの男を殺し、あの女も、殺す。
「志貴――!」
女の声が響く、そうかコイツは私と同じ名前を持っているのか。
それならば同じ眼を持っているのも分かる話だ。
戦いの最中に俺の名前を聞いた。
アルクェイドの声。
視界の端、剣が見えた気がする
† † † †
壁を突き破り、さっき赤い騎士が投げた剣が姿を見せる。
志貴は目の前の相手に集中しすぎて反応できない。
だったら――――
空想を、具現化する
ギャギャギャギャ!
――――――――――バキン
引き寄せられた剣が無数の鎖で引き千切られる。
「詰みだ、真祖」
後ろから声が聞こえた。赤い騎士の、声。
無防備な背中、手にした獏耶を落とし、首を刈る。
次に目にしているのは首の無い真祖のはずだった。
だが、獏耶は、
青い騎士の赤い槍によって防がれていた
「帰ってきたと思ったら、
どういうことになってるんだよ、こりゃ」
この場に相応しくない軽い声が響く
「ランサー!」
「不味い!逃げるぞ式!」
黒髪の少年と戦っていた、和服の少女に叫ぶ。
少女は既に負けると悟ったのか一瞬で部屋の外へ飛び出す。
「逃がす訳無いでしょう!」
怒りに震える真祖は、少女の足を掴み力任せに私に投げつける。
「これだけやっといて逃げられるとでも思ってるのかしら?」
自分が凄く冷たい声になっているのが解る
赤い騎士は少女を抱えたまま動かない。
「そう、最後は思っていたより潔いのね」
「冗談じゃない。こんな所で、
サーヴァントでもない相手に殺されるなんて、御免だ」
体は 剣で 出来ている
“I am the bone of my sword”
呪文が響く。
ただの一度も敗走はなく、ただの一度も理解されない。
“Unknown to Death.Nor known to Life”
赤い騎士だけの呪文。
その体は きっと剣で。
“■■■―――unlimited blade works.”
世界が、塗り替えられた。
「固有結界!?」
「あいつ、キャスターだったのか!?」
「固有結界ってなんだっけ?」
驚いた、本当に驚いた。
何が驚いたかって言うと、
固有結界をただの目くらましに使ってあっという間に逃げた赤い騎士に驚いた。
「・・・・」
「逃げられたな、こりゃ」
「だろうなぁ」
「とりあえず、一曲歌っていきましょうか」
「酒頼んでいいか?」
「あー俺は紅茶か緑茶、暖かいので」
「アーチャー、お前面白い魔術使うな。それに固有結界を使えるとは思わなかったぞ」
「どうでもいいから降ろせ、自分で走れる」
「マスター、無茶な命令は控えてくれ。あれは流石に倒しきれない、というか死ぬ」
「しかも投影魔術をメインに戦うとはな、面白い奴だ」
「白髪、さっきの剣。ちょっと見せてくれないか?」
「とりあえず泊れる場所に着いたらな」