聖杯戦争 もう一杯 まる7
今回のマスター、アルクェイド・ブリュンスタッドに命じられるままふらふらと町を巡る。
勿論、霊体で。
「ったく、あの嬢ちゃんにはサーヴァントなんて必要ない気がするけどな」
一緒にいた志貴という尻に敷かれっぱなしの坊主も侮れない。
なんてったってあんな強力な吸血鬼を落としたのだ。
「その女運を分けて欲しいもんだね。
ま、俺は俺で聖杯戦争を楽しませてもらうかな」
町に出ると直ぐにサーヴァントと魔術師のセットを見つけた。
いい女だ、多分。
ってそんな事を考えてる場合じゃなくてー。
「あの女のクラスなんなんだ?
セイバーでもないしキャスターでもなさそうだしアーチャーでもなさそう。
アサシンな訳もないしライダーにも見えねぇな。バーサーカーなんて論外だろ、バーサーカーはムキムキしてると相場が決まってる」
担いでるやけにでかい箱には武器が入ってるのか?
って宝具があるのになんでこっちの世界で武器なんて調達する必要があるんだ?
「あーくそ、訳ワカンネェ」
繁華街をサーヴァントと連れながらうろうろ歩いてみる。
正直あの二人と一緒に居ると幸せオーラに当てられて困る
バーサーカーの不幸オーラで相殺できないかしら?
「マスター、サーヴァントが居る」
「もう引っかかった訳?よっぽど馬鹿か、よっぽど自信があるかのどっちかね」
「どうする?戦うのなら人が居ない所にいかないと不味いと思う」
「解ってるわ、適当な場所に誘き出して迎え撃つわ。
頼りにしてるわよ、バーサーカー」
「だからバーサーカーって呼ばないで欲しいんですけど・・」
むーっと頬っぺたを膨らましながら言う私のサーヴァント。
あの頬っぺたは危険だわ、猫の肉球に近い魅力がある
「プニプニしたいわね・・」
「・・・・・・大丈夫?」
「大丈夫よ、最初に言っておくけどまずいと感じたら即逃げるわよ」
「逃げるのなら得意技だし。うん、大丈夫だと思う」
結構場馴れしてるのかしらバーサーカー。
とても戦ってる姿が想像出来ないけど・・。
中央公園、10年前の火事でなにもなくなった場所。
「ここなら邪魔は入らないでしょ」
「うーん、ちょっとやな感じのする場所だけど・・。まぁコレくらい慣れてるし平気かな」
「なんだ?俺はまんまと誘き出されたって訳か?」
青い騎士がいつの間にか私達の歩いてきた方に立っている。
「それにしても随分悪趣味な場所を選んだもんだ、確かに邪魔は入んないだろうが」
「クーフーリン・・!?」
「え?誰、ソレ」
間抜けな質問をしたんだろう、私のマスターは馬鹿を見るような目で私を見ている。
「なんだ?俺の知ってるのか、じゃ手加減はいらねぇかな」
目の前の男の目が獣も様な凶悪な眼に変わる、手にはいつの間にか槍が握られていた。
私も持ってきたゴツイ物体を取り出し、構える。
「見掛けと裏腹に、とんでもない得物使うんだな嬢ちゃん」
「あんまり女の子にそういう事言わないでくれる?
私だって好きでこんなゴッツイ物体使ってる訳じゃないんだから」
「ははは、そりゃ悪かった。
ま、楽しめそうで安心したぜ―――」
言い終わるより早く、
瞬きすれば見逃してしまうような一撃が私を襲う
ギィン――
それをゴツイ剣でなぎ払う。
「―――なんて力してんだよ、嬢ちゃん」
嬉しそうに顔を歪めながら青い騎士――
槍を弾き飛ばすつもりの一撃だったんだけど・・
これは吸血鬼でもキツイかも
1合2合と武器を合わせる
この人戦い方が上手い――
私じゃちょっと手に負えないかも
「ホラ!気合入れろよ、嬢ちゃん!」
ガギィン
「〜〜〜〜〜〜っ!」
剣の腹で槍を防ぐ、
確かにこの剣、盾にもなるから便利といえば便利だけど――。
「ち、剣ってより壁だなそりゃ。
ま、どうにでもなる壁だけど―――な!」
ガスッ!
「うあっ!」
指に激痛が走る。
見れば指が2本ほど取れそうになっている
――まずい、早速死にそうだわ
思い出せ、さっきやった稽古でセイバーさんは何を言っていたかを―――
「シロウの御飯は絶品です」
「全然役に立ちません!師匠おおおおおおおお!」
裂帛の気合と混沌たる怨念(主にセイバーさんへの)を込めた一撃で槍ごと青い騎士を弾き飛ばす。
「っつぅぅ。なんてぇ馬鹿力だよ。10mは飛んだぞ、俺」
「だから馬鹿力とかそういう台詞は止めてっていってるのに・・。
大体、剣なんて使うのほとんど初めてなんだからちょっと手加減してよ!」
「馬鹿!なんでそういうこと言っちゃうのよ!ハッタリの一つでもかましなさい馬鹿バーサーカー!」
遠くの方でマスターが援護口撃をしてくれる。
魔法で援護してください!マスター!
「バーサーカー?嬢ちゃんのどこがバーサーカーなんだよ?」
「全くだよね、何考えて私をバーサーカーにしたんだか理解に苦しむもん」
「ははは、面白れぇ嬢ちゃんだ」
親しみやすい笑顔を浮かべる青い騎士
「分かってるだろうけど俺はランサーだ。
バレてるみたいだから真名言っても関係ないけどな」
「そ、そうよ!ランサーの宝具に気をつけてバーサーカー!」
「宝具・・・?」
全く分からない事を言う私のマスター、
知らない物をどうやって警戒すんだろう
「まぁ、結構楽しめた。
褒美といっちゃなんだが見せてやるよ、我が必殺のゲイボルグを――――?」
みょいーーーーーーーーーーーーーん
と槍の先が不自然に伸びて私の心臓を貫く
ドス
「あ――?」
「嘘!なんであんなに伸びるのよ!」
「いや!ちょっと待て!今のアレだ!誤作動!あんな不意打ちするつもりはなかったんだって!」
「嘘――」
胸から血がドクドクと流れている。
「卑怯者ー!ランサーの卑怯者ー!」
遠くでマスターがランサーを罵倒している。石なんて投げてないで助けて、マイマスター。
「違うっての!使うつもりなんてなくゲイボルグって言っただけなんだって!」
ミョイーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーン
ブス
ちょっと待って、マタ?
「ちょ!あんた幾らなんでも酷すぎるんじゃないの!?」
「違う違う違う!コレはこんなに伸びるはずないんだって!」
どうでもいいけど凄い血が出てるよ、どうしよう。
なんかライヴで大ピンチ
「もしかして不幸EXの効果なの!?コレ!」
「不幸EX!?なんだよそのスキル!なんの役に立つんだよソレ!」
「あーもうとにかくもうゲイボルグって言うの禁止!!」
ミョイーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーン
ブスー
「い、今のは俺じゃないぞ!嬢ちゃんがいったんだからな!」
「冗談言わないでよ!なんで私が言って発動すんのよ!あんたほんとにクーフーリン!?」
ピンチだよー
助けてマスタ―――
「どうすんのよ!いきなり死んじゃうじゃない!!」
「だから!不幸EXなんて意味不明な技能持ってるからだろ!大体最後のは俺じゃねー!!」
――――ブチン
手に持ったゴツイ剣をブンブンと振り回す
「ゴフ!」
何か手応えが有った
「こんなに――――苦しいのに―――どうして――――!!」
「待った待った待った!悪かっ―――ギャ!」
「嘘つき―――――ピンチの時は――――助けてくれるって――――!」
「ギブギブギブギブギブギブ!!曲がらない!俺の間接はそっちに曲がるように出来てない!!」
「うん、志貴君が一緒なら寂しくもないし、怖くもないんだよ」
「いたあああああああああああ!!志貴君はいいから外せええええええええええええええええええええ!!!」
「志貴君・・暖かい・・・」
「ぎゃああああああああああああああああああああ!!」
ゴリョ
気が付いたらランサーにコブラツイストを掛けていた
マスターは「あんたやっぱりバーサーカーだわ」なんて失礼な事を言ってきた。
ランサーは「悪かった、今度は正々堂々ゲイ・・・宝具を使わずに戦う」と、言った、
とりあえず今は戦う気にはなれなかったのでマスターと一緒に帰る。
あー、血ー足りなーい。衛宮さんの御飯で栄養補給したい。
この家に来るとなんだか妙に眠くなる気がする
この家が本当に落ち着くと言うのもあるが
きっとここに居る間、大量に睡眠を取ったせいだろう
と、いうわけで寝る事にした。
シロウの隣の部屋は私の部屋だ、襖越しにシロウの寝息が聞こえると安心する。
瞼を閉じて耳を済ませると―――
「ハァハァハァハァ」
・・・・・
今日はなんだかシロウの寝息が荒い気がする。
熱でもあるのだろうか?
気になったので起きて確認する事にした。
瞼を開けると――
血走った目
汗だくの顔
そして――――
―――モヒカン
「ひゃああああああああああああああああああああ!!」
「うわああああああああああああああああああああ!!」
どっちともなく悲鳴を上げる。
モヒカンは一瞬で逃げていった、
とても追いかける気にはならない、とりあえずシロウ!
「セイバー!どうしたんだ今の悲鳴は!」
シロウは悲鳴を聞いて私の部屋に飛び込んできてくれた
「シ、シロウ!シロウ!大変です妖怪が!妖怪モヒカンが!」
「セイバー?落ち着け!深呼吸するんだ」
「お、落ち着ける訳ないでしょう!!モヒカンですよ!?並みのモヒカンじゃ有りません!
北斗の拳にでそうな豪快なモヒカンです!それが目を開けたら―――目を開けたら血走ったモヒカンがあったんですよ!!?」
「セイバーどうしたんだ?お前らしくないぞ、とりあえず落ち着こう。居間から水を持ってくるから」
立ち上がって水を取りに士郎は居間へと向かう
「ま、待ってくださいシロウ!」
「どうしたセイバー?」
「き、危険ですから、私が護衛に付きます!」
「居間までなら護衛なんて大丈夫だから、とりあえず落ち着くんだ」
「いいから護衛に付きます!」
「?セイバーもしかして妖怪が怖いのか?」
ちょっと怪訝な顔をするシロウ、察してください。
「ち、違います!アレはサーヴァントです(多分)!しかもかなり強力な(きっと)!私を一瞬でも怯ませたんですよ!!?」
「な、サーヴァントだったのか!分かった、護衛を頼むセイバー」
「わ、分かればいいんです、全くシロウは普段から警戒心が足りなすぎます」
「なるほど、そのサーヴァントは結構手強そうね」
リンとさっちんは外でランサー、クーフーリンと戦ってきたらしい
さっちんの制服は胸の部分が破け、真っ赤である。これで傷はもう完治したというのだから並みの吸血鬼とは思えない。
「結界に反応しない上にセイバーに気付かれずに接近するなんて事が出来るって事はアサシンかしら?」
「多分、けど前の時のアサシンは剣士だったんだけどな」
大変な事に・・。
咄嗟の嘘が凄い事態を引き起こしつつ有ります。
「同じサーヴァントが二回連続で呼び出される方が珍しいもの、それにしてもかなりの変り種ね」
ぶつぶつと何やら思考に耽るリン
「当面の敵はその血走ったモヒカンアサシンって事なのかな?」
「そうだな、ランサーも手強いけどセイバーなら倒せる相手だ。
ここはこっちの守りを無視して攻め込んでこれるアサシンに注意した方が良いと思う」
まずいです。
あんなアホな妖怪に本気で対策を立ててます、正気の沙汰ではありません。
居るかどうかも分からないモヒカンが私達の最大の障害と認識されつつあるなんて・・。
今更嘘だ、何てとても言い出せない。
「セイバーはどう思うの?実際に見たのは貴方だけなんだから、意見が欲しいわ」
「い、いえ。見たのは一瞬でしたから、目を開けたらそこにモヒカンが居たんです。
びっくりしたけどそんなには強くなかったのかな〜なんて・・」
「冗談。結界に引っかからない上に魔力探知で察知する事もできない相手よ?厄介この上ないじゃない」
嘘は言ってない、嘘は言ってないけどこれは――
非常にマズイ。
たんにモヒカンが接近してて怖かったなどと、騎士王たる私にどうして言えようか。
かといって、このままモヒカンに注意を払い、
後手に回ったまま聖杯戦争が終わってしまったなんて事になったら・・。
「やっぱり強敵ね、セイバーがそこで目を開けなかったらきっと殺されてたわ。
これは本格的に結界を強化した方がいいかもしれない」
「モヒカンに殺されるなんて絶対嫌だしね・・」
マズイ、ここは勇気を出して言うべきだ。
一時の恥など、耐えてみせる!
「すまん、セイバー。俺はそんな奴が来ているなんて全く気付かなかった・・・
クソ!なんて情けないんだ俺は・・!」
心底、悔しそうにするシロウ。
ぎりっと歯軋りの音がここまで聞こえてくるくらいだ。
・・・・・・
結局、言えませんでした。
ごめんなさい、シロウ。
こうして私達は、未だ見ぬ強敵(と、思われる)モヒカン(仮名)と戦うべく着実に準備を進める羽目になった。
―――――
戦闘か?コレ_| ̄|○