「大体なんで聖杯なんて欲しがるんだよ。燈子は」
「何、私は必要じゃないんだがね。高く売れそうだしな。
金欠で黒桐がいい加減、餓死しそうだったからってのもある」
両儀式と蒼崎燈子は満員電車に揺られながら話を続ける。
「あの馬鹿、金がないなら私の家に食いに来れば良いだろうが・・」
「男の面子って奴じゃないか?」
くくく、と人の悪い笑みをこぼす燈子。
「で、あの赤い奴はどうしてるんだよ?」
「ああ、霊体になってそこにいるぞ」
なんでもない事のように蒼崎燈子は答える。
「そうか」
「そうだ」
「で、あの悪趣味な金ぴかはなんなんだ?」
「私が知るか」
またもなんでもない事のように蒼崎燈子は答える。
視線の先には満員電車の中、かさ張る鎧を堂々と着こなすナイスガイ
「アーチャーはサーヴァントだ、と言っているな」
「戦うのか?」
「まさか、こんな所でどうやって戦えというんだ」
「放って置くのか?」
「まぁ、別に私達を狙っているという訳ではないんだろう
実際、向こうも私のアーチャーに気付いているだろうが、仕掛けてこない」
ギルガメッシュはライオンの子供を目指し空港へと向かっていた
聖杯戦争 もう一杯 まる6
「ぎぶみ〜ゆあぶらっど、ぎぶみ〜ゆあまいんど、ぎぶみ〜ゆあでざいあ」
アルクェイドがクレイジードリームを熱唱している
それにしてもここの商店街は遊ぶ所が少ない。
「ま、色々あっても結局行く所は限定される訳だけどな。」
ボーリング場はアルクェイドがボーリングの玉で時速180kmのフォークを投げてから行ってない
ゲームセンターはアルクェイドがパンチングマシーンを窓を破って向かいの店まで吹っ飛ばしてから行ってない
「アルクェイド携帯なってるぞ?」
歌の方が大切なのか「出ておいて」と、ジェスチャーで伝えてくるアルクェイド。
「もしもし、アルクェイドの携帯の近くに居ただけの人です」
万が一、知り合いが出ても大丈夫なように保険を掛ける。
「遠野君?なんでアルクェイドの携帯に出るんですか?」
「シエル先輩?」
「まぁいいです、聖杯戦争が始まりました。とりあえずそれだけアルクェイドに伝えてください」
「分かりました」
「何で遠野君が出たのかは後程ゆっくり問い詰めますからね」
電話口の向こうにニッコリと笑っている姿が眼に浮かぶ・・。
「後アルクェイドに「音痴」と、一言伝えてください」
「・・・はい」
「それでは〜」
あれでも大分上手くなったと思うんだけどなぁ。
ガチャン
と、遠坂が電話を置く
「ふぅ」
「電話、なんだって?」
「7人揃ったから始めてくださいだって。そんなの言われるまでも無く分かってるわよ」
「ギルガメッシュさん、まさかアフリカまでライオンを探しに行ったのかな?」
セイバーのサーヴァント、ギルガメッシュは不在のままである
「ギルガメッシュなんて、どこへなりとも消えればいいのです」
セイバーはご機嫌斜めの模様
「まぁ、実際セイバーがいるし問題ないって言えば問題ないんだけどな」
「そうね、けど念のためバーサーカーの武器を投影お願いできる?」
「前のバーサーカーの武器で良いよな?」
「そうですね、さっちんなら問題なく振るえると思います」
「よし」
激鉄を撃つイメージ。
俺の唯一の魔術・投影魔術であの剣を投影する
「トレース・オン」
出来上がったのは紛れも無く最強のバーサーカーが振るった剣
「・・・・・」
「驚いた、私の居ない間にまた魔術が上達したようですねシロウ」
ちょっとでもセイバー驚かしたと思うと嬉しい。
前は怒られてばっかりだったからな、今回はしっかりした所を見せないと。
「ま、師匠がいいんだから当然でしょ?ポンポン使うのはいただけないけどね」
「・・・・・で、このごっつい物体。私の武器なの?」
凄い半眼で納得いかなそうにしているさっちん。
「大成功だぞ?ほぼ完璧に再現できていると思う」
「・・・皆、私をそういう眼で見てたんだ・・」
うふふ、と虚ろな眼になるさっちん。
「バーサーカー、それは違うわ。貴方がやられるのが嫌だからこんな剣を渡したの、貴方に似合うという意味じゃないわ」
「マスター・・けどどう見ても柄がぶっとすぎで私には握れないと思う・・」
「・・・それは・・そうね」
結局セイバーに頼んで柄を削ってもらった
エクスカリバーもまさかこんな事に使われる羽目になるとは思わなかっただろう。
「全く、湖から回収したエクスカリバーを最初に抜いたのがこんな理由とは」
心底情けなさそうなセイバー
「ま、とりあえず士郎の家に行きましょうか。士郎がずっとここに居ると桜も怒るだろうし」
「そうですね、さっちんが夜しか動けないなら、暫くは情報収集に徹しましょう」
とりあえず我が家に着いた面々
「シロウ、早速夕飯にしましょう」
「いきなりソレかセイバー」
「私としてはセイバーにはバーサーカーに稽古つけて欲しいんだけど」
「む、確かに食べる前に運動するのは良いことです。御飯が3割増しに美味しく感じる」
玄関に入り、日光が遮られると実体化するさっちん
「稽古って剣道の事?」
「セイバーの稽古は剣道というより苛めに近いけどな。似たような物だよ」
「シロウ、その言葉は聞き捨てなりません。
私はシロウのためを思ってあのような稽古を付けたのです、撤回を要求します!」
「はいはい、いいからチャッチャと稽古してきてね。私と士郎は御飯の支度してるから」
遠坂に促がされて道場へと追いやられる二人
道場から響く竹刀の音を聞きながら俺達は食事の支度を始める。
「そういえば遠坂」
「どうしたの士郎?」
「桜と藤ねぇにガント撃ってほったらかしじゃないか?」
露骨に忘れてたぁ!という顔をして時間が止まる
「・・・・・・・・」
「・・・・・・・・」
「ちょっと様子見てくるわ・・」
「おう、頑張ってな」
桜はいつの間にか居なくなっていて、
うんうんうなされる藤ねぇだけが客間に残されていた。
遠坂に汗を拭いてもらって、寝巻きに変えて寝かせておいた。
「あ、始まったんだ聖杯戦争」
「らしい、シエル先輩がお前によろしくだってさ」
シエルらしくない台詞ね、と軽く流して次の曲を選ぶアルクェイド。
「んー、とりあえずランサーにその辺回ってきてもらおうかな。
私がフラフラしてるとそれだけで警戒されるし」
「そりゃ真祖の姫がその辺食べ歩きしたりカラオケなんてやってたら大事だろうな」
忘れがちだがこいつはサーヴァントより強いんだった。
「志貴がマスターには極力手を出すなって言わなければ、
片っ端から魔術師をやっつけてお終いなんだけどねー」
「恐ろしい事言うな。それじゃまるっきり殺人鬼じゃないか」
「ぷ、殺人貴さんに言われたくないな〜」
最近コイツも切り返しの仕方を覚えたらしい。
「とにかく!無闇にマスター狙うのは禁止!」
「解ってるわよー。じゃ、ランサー適当に探して回ってね」
気配が有った場所に青い騎士が現れる
「全く、人使いが荒いマスターだな」
「可能だったらやっつけちゃって良いわよ」
「はん、だったらあっという間に聖杯戦争終わらせて来てやるよ」
「ランサー、一般人に見られても口封じなんてやんないでくれよ」
それがかなり心配だ、なんかやりそうな気がするし。
「ははは、解ってるって、俺もそっちの方がいい。ま、お前も嬢ちゃんの尻に敷かれっぱなしでいるんじゃねーぞ」
最後にいやな台詞を残して青い騎士は霊体に戻る
「大きなお世話だ」
聞いているかも解らない青い騎士に一応、一言返しておく
「ご馳走様でした、シロウ。
今日の夕飯は格別に美味しかったです」
「よくよく考えたら、セイバーが来てからゆっくり皆で食事取ってなかったからさ。
ちょっと腕を奮ってみたんだ。好評でよかった」
「シロウ、私のために毎日みそ汁を作ってくれますか・・?」
「まかせろセイバー・・それくらい幾らでも作ってやるさ・・」
「・・・・・話に入れないね」
「・・・・・そうね、入れないわ」
目の前でなにやら逆転したプロポーズをしている二人
ある意味固有結界を張った二人に話しかけるのは、結構勇気が要る。
「けどこのままだと目の前でラブシーンが来そうだよね・・」
「・・・・・私に任せなさいバーサーカー」
「どうでもいいけどバーサーカーって呼ばないで下さい・・」
「はーい、セイバー!二人の世界に入っている所申し訳ないんだけど、私達もここに居るのを忘れないでねー!
とりあえずバーサーカーの稽古はどうだったのか聞かせてもらえるかしらー!?」
無理に大声を出して自分を奮い立たせつつ、二人をこちらの世界に呼び戻す
「は!そ、そうですね、さっちんは力も早さも申し分ないんですが」
私達が居る事完璧に忘れていたわね、この反応。
「ですが?」
「なんというか戦い方が余りにお粗末というか。
そうですね、子供が棒を振り回している感じです。ただしパワーとスピードは削岩機ですが」
解りやすく言うと馬鹿に刃物を持たせている感じかしら。
ああ、この表現だと実に解り易い気がするわ、
まぁ、吸血鬼は動体視力と反射神経も強化されるって話だから使えない事はないか。
けど実際にサーヴァントとして戦えるレベルかどうかは疑問ね。
宝具がないっていうのは痛いわ、決め手がないってことだし。
復元呪詛が特徴といえば特徴か。
「あの、マスター?考え込んでいる所悪いんだけど」
「え、なに?私また考え込んでた?」
「まぁそれは良いんだけど。また固有結界が張られてるよ・・」
「・・・・」
「シロウ・・・」
「セイバー・・」
もうほっといて巡回に出る事にした。
情報収集なんて甘っちょろい事言わずにこっちから狩り出してやるわ!
――――
繋ぎの話です、なんぼ頑張っても笑える仕様にはなりませぬ