Der Wecker einer weisen Prinzessin−届け奇跡は聖杯へ 9 M:凛、他 傾:シリアス


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1: 唄子 (2004/03/28 15:25:33)[orange.peco.chipi@m2.dion.ne.jp]

/9 Waltz with Black Cat

/1 Dance a Black Cat


柳洞寺地下―――――――――

『大聖杯』という起動式が眠る龍の胃袋。


そこに間桐臓硯は居た。

目の前の“式”がせわしく稼動しているのを、愉しそうに見上げている。

「カッカッカッカ…!!とうとう動き始めたか…。
ふむ、中に巣くっておる奴も喜んでいるようじゃわい。
…この腐り行く器ともお別れじゃ…、もうすぐ…」

黒い炎―――
この大聖堂は、ゆらゆらと得体の知れない光源で照らし出されていた。

その老人の顔に刻まれた深い皺は、醜悪に歪んでいる。
本当に楽しいのだろう
眼の奥の濁りが、炎の様に明るい―――

黒く揺れる光によって生み出された
老人の影より、これも同じく黒い影が姿を表す―――


「魔術師殿、奴が戻ってまいりました」

アサシン――――黒い影は主に協力者の帰還を知らせる。


だが、アサシンは思う――協力者、果たして奴がそんな大人しいものかと…


「そう気を張るな、アサシンよ。
奴は所詮名ばかりの協力者。
ふぉっふぉ、役目の終わった役者は舞台からご退場願おうかのぅ…」

老人は思いを馳せた――――

この“孔”がアレを産み落とした時――――
それがもう一人の自分の誕生。

この古い器を捨てて。

その時―――
聖杯の中に潜む自分がアレと同化する。
それで間桐500年の悲願が達成される。

焦ることはない。
もうなにも心配することはないのだから――――








「今、帰りましたよ」

振り向かずとも分るほどの禍々しい気。
老人はゆっくり振り返って、微笑すら浮かべた。

「おぅおぅ、よう戻ってきたなぁ…志貴よ。
首尾は上場のようじゃなぁ…ワシも見ておったぞ」

トンッ。

志貴と呼ばれた青年の肩から、黒い塊が老人の方へ走っていく。

レンと呼ばれていた黒猫は、老人の足元で背中を嬉しそうに擦り付けている。

「…あぁ、、お前もご苦労じゃったなぁ。よしよし、この身は老体ゆえなぁ、
お前のようなものが一つ足りないだけで堪えるもよ。さぁ、戻っておいで…」

老人の目が怪しく淀む。
黒猫は驚いたように離れ―――

られはしなかった。

吸付けられるように、老人の足元に消えていく―――

顔から老人の足元に消えていくそれは、声もあげられず
狂ったように後ろ足ををばたつかせている。
尻尾はピンと上を向き、
奇妙な踊りのようだった。

それを咀嚼しているかのように、老人からは骨が砕けていく
ぐしゃ、くちゃ、
と嫌な音がして、

完全に、黒猫は消えた。


「あはは、お世辞にもいい趣味とはいえませんよ、ご老体。
いくらご自分の使い魔とはいえ、食べてしまうなんて」

苦笑する青年の皮肉にも、

「いやはや、使い魔といっても所詮はアレはワシの体の一部。
ちょっと貸していた物を返した貰っただけじゃよ…。
ワシの“蟲”を一匹住ましておったのじゃからな。」

かっかっかと、老人は醜悪な笑いをこだましながら答えた。



そして、暫しの沈黙―――

先に口を開いたのは老人だった。


「…さて、志貴よ、して桜はどこに?
ここに来るまでは一緒だったと思うんじゃが」

「ああ、彼女は気を失っていますから、奥で寝かせていますよ」

ふむ、と老人は納得したように頷く。
そして、また歪む笑顔を見せ

「ふぉっふぉ、此度はお主には随分と、無理をしてもらったからのぅ。
いやはや、本当にいくら礼を言っても足りないくらいじゃ…。
ワシでは、あの娘にはもう、絶望も希望も与えてはやれなかったからの。
おぬしのような者が、絶望、もしくは希望、すなわち何かしらの欲、
『願い』を与えてやらなければならなかったのじゃ。
そして、お前はアレに希望と言う甘い夢を与え、願いという欲を与えた。
かっかっか、さすればほらこのとおりじゃ、起動式は願望機と連動し動き出す!」

老人は謳うかのように、両手を挙げて笑う。
背後には、起動式が。

老人は続ける、嬉しいのだろう、いつになく饒舌だ。

「おお、そうじゃ。お主には礼をせねばなるまい。
しかし、おぬし見違えたのぅ。
今お前が身に付けているそれはまさに聖杯の中身…。
もうワシに与えられる物はないんじゃないのかのぅ」

老人が悲しそうに、――――いや悲しい振りの間違いだろうが
溜息と共にそう言った。

「ええ、この身は聖杯へ繋がりました。ご老体に御礼をしていただくなど…
それに礼ならばこちらが言わねばなりませんしね」

笑いながら、老人へ礼を言う――――

「そう、この身をくれたのは貴方だ。あの青崎製の木偶から彼の血を使い、
桜と繋げることで、私はこの世に生を受けたのだから…。
ああ、でも一つだけわがままを言えば…、
宜しいでしょうか?」

「ん?ふぉっふぉ、言うてみぃ。わしに出来ることかのぉ?」

老人は、興味を示したようだ。
そうだろう、この身が何かを欲することはないと思っていたのだから。

「ええ、貴方しか出来ないことです。
ははは、それじゃあ遠慮なく」




聖杯の力で紡ぎだす、真紅の双剣――――
それが両手に現れる。

「死んじゃってください。貴方が居ると桜が悲しみますから」




目の前の老人が、ほぅと目を見張る。

「ふぉっふぉ、親殺しとはまた罪深いことじゃて。
といっても、どうせその感情は借り物なのだから、まぁ気にせんでいいじゃろ」

余裕の嘲笑。

「おや、随分と余裕があられるのですね。僕はてっきり泣いて許しを請う姿を
拝見できると思っていたのですが…」

「余裕余裕。御主は分っておらぬようじゃ…。その身を作ったはワシじゃぞ。
仕掛けの一つは用意するじゃろうて。
ああ、残念じゃ。おぬしも繋がっているのだから、ワシの次期体の候補に上がっておったのじゃが、
致し方あるまい。
ふぉっふぉ、死ぬが良い」


老人が、何かを動かすように手を振る。

そして、胸の中に居る何かが心臓を食い破った―――――
口から血が逆流して流れ始める。


「ふぉっふぉ、いくら聖杯へ繋がったといっても、所詮は人の身。
いや、木偶から生まれたお前には魂はないのだから、木偶の身じゃったか。
だが、臓腑を食い破られては生きてはおられまい?
あぁ、まことに残念じゃ。
そうそう、いくら聖杯に繋がったとはいえ、回復は無理じゃぞ、
なんせ自分であの力を、桜の助けなしには出し入れは出来んのじゃから。
クッカッカッカッカッカッカッカッカ…」

老人は、愉快そうに表情を歪めている。
そう、この老人は初めからこうするつもりだった。


だから待っていた。
桜が聖杯を使って僕に力を流してくれることを――――

「ふむ?如何せんしぶといのぅ。苦しい思いはしたくないじゃろう?
はよ冥府へいくがいい。
それともアサシンに…」


其処まで言って、老人の顔つきが険しくなる。

こちらの変化に気がついたようだ。
そう、僕は確かに死んで当然の怪我を負っている。
だが、この身は沈まない。
食い破った蟲は、もう消滅しただろう。
内側から取り込んでやったのだから―――

「ぬ!おぬし、一体…!?」

「――――ご老体、僕は繋がったんですよ。
聖杯なんて経由しなくとも、この身はもうアレと同じ。
なぜなら、僕の体は元より不安定な代物。
だから…」

だから、僕、いやもう混ざって来たから正確には僕等か?

アレが――――アンリ・マユがこの身に魂を写すのを待っていたんだ。

今この不安定な魂どうしが混ざり合って、一つに成ろうとしている。

そして、わが身に危険が迫れば―――――

「ば、馬鹿な!!
くっ!確かに桜よりもお主に自分の影を発現させたほうが効率は良いが、
こんな、なぜ!?聖杯でもないお前がそのような…」

「ご老体…。誤解してもらっては困る。
正確には、僕が生まれた時に注ぎ込んだもの…
あの泥に魂の欠片があったのですよ。
もともと空っぽだった物にそんなものを注げば、普通だったら飲み込まれる
小さな魂ですが、すっかり馴染んでしまった。
しかし、欠片だけでは何も出来ない。
この身には少しだけ、まぁ魂と呼べるか分りませんが、
念が残っていた。一人の少女を見つめ、悲しみを癒してやりたいと願う想いが…」

「なんとっ!?
確かにお前の体は間桐の地下に放置していたものだが、念が宿るとは…。
そうか、そうか…その不安定な魂が、アレの魂を呼んでしまったとはの…」


――――そう、思い出しても吐き気がする。

あの地下に置かれて何年が過ぎた頃だろうか。
気がつけば、いつも少女が泣いていた。
何年も何年も、その光景が続いた。
少女は何度も何度も許しを請う。
だが、老人はその攻めの手を休めない。
床に敷き詰められた、蟲、蟲、蟲。
少女は、その蟲の海の中で…

いつしか、この少女をどうにかして救ってやれないか、
そう考えていた。

だが、この体はただの木偶。
思うことが出来ること自体が奇跡。
目も自分では動かせず、
手は冷たい床に垂れ下がったまま。

悔しかった。
自分があの少女に恋をしていると気づいたのは
それから直ぐしてからだった。

自分の想い人を目の前で何年も何年も汚され続けた。

だが、それがピタリと止む。
恐らくは、今思えば聖杯戦争が終わったのだろう。

そして、あの醜悪な老人が、黒いサーヴァントを引き連れ地下に訪れた時―――――
この身は、遠野志貴の肉体を持つ、
アンリ・マユとの小さな魂の欠片が混ざった、歪んだ生き物として生を受けたのだった。

初めて自分の意志で動く手足。
それは何と言うことだろうか。
自由と言う意味の根源だろうか?

老人は、どういう方法かわからないが
遠野志貴の記憶の欠片を僕に注いだ。
遠野志貴の記憶―――――
断片的なことだったが、この世界を知った。

そのあと、老人のたくらみ、目的を聞いた。
あの時、あの老人を殺して彼女のもとへ走りたかった。

だが、この身に仕込まれた蟲とサーヴァント。
どちらも相手に出来ないことも分っていた。

だから、待った。
こうしてアイツの、アンリ・マユの魂がこちらに傾くのを――――
もとより、交じり合った魂は、あいつにとっては格好の入れ物。
いつか桜が聖杯を開けば、桜から流れてくると思った。

そして、今。
この身は、アンリ・マユの分身として安定してきたことを実感する。
どうしようもない絶望感、死、略奪、欺瞞、悲しみ
負と呼べる全てが流れ込んでくるのを、辛うじて意思でとどめる。
今はまだ、この感情に流されるわけには行かない…
彼女のみを解放して、そして…


「アサシン、こやつを殺すのじゃっ!!」

目の前の老人が発するより早く、黒い影がどこからともなく現れる。

「木偶よ、いや今は遠野志貴か…。
元より無だった物ならば、また無に戻るは定石―――
あの時よりお前は危険だったのだ。
魔術師殿の慢心、今ここで滅ぼしてくれよう」

「ふん、慢心とはまた言ってくれるのぅ。
まぁ、しかし事無く済めば、結果よしじゃ…。
たとえ、お前が繋がっていようが、その器を壊してしまえば、またあの中に戻ろうて。
多少丈夫になったとしても、お主には戦いの心得はない。
まさか、前の一戦、実力だとは思っておるまいな?アサシンの演技の賜物よのぅ…。
加えて今のアサシンンは普通のサーヴァントではない。
ふぉっふぉ、なんせサーヴァント1.5人分の魔力を引いておるからな。
安心して死ぬがいい、桜はワシが巧く使ってやるでのぅ」


アサシンが、ダークを放つ予備動作に入る。

だが、待つ必要なはない。

この身は、聖杯の泥と繋がった。

今やその泥は自分の半身。

ならば、そう、例えばその泥の泉に溶けてしまった
あの青い英霊が使った――――




「グボッ…、おまえ、それは…!!」




アサシンの胸から、赤い槍が生えている。

ゲイボルグ―――――
刺し穿つ死棘の槍

それを使えるのも道理だと言うことだ。

その知識、宝具も一時的になら使用可能。

もとより彼らは聖杯に呼ばれ、還っていくもの、
この門は、そして聖杯の中身は集大成ともいえる、繋がったものなのだから。

アサシンは吹き飛ばされて、壁に刺さっている。
それがなんとも無様で、笑いたくなった。


「…くっ!?
ばかな、ばかな!!
アサシンまでもが…、そこまで侵食が始まっていようとは…!!」

「そうなんですよ。あはは、だからとっと死んじゃってくださいね。
もう貴方の腐った息を嗅ぐだけで参ってしまいそうなのでね。
よいしょっと…」

手のもった双剣のうち、一つを軽く振るう。

「ごがっ…」

それで全て終わった。

黒い突風は、老人の蟲を一つ残らず飲み込み―――

チリ一つなくなった。


だが、志貴はまだ笑わない。
あと一仕事。

そして老人の驚愕の声があがる。

なっ!?
何故これをお前が持っておる!?

「ふふふ、ご老体。僕に仕掛けたものを、貴方が桜に仕掛けてないわけないじゃないですか。
まぁ、でもさすがにやりすぎですよ?ご自分のお孫にまで…
どうです、この闇の中は?
桜の中に居た時とそう変わらないでしょう?
工夫したんです、気づかれないように」

そう、桜の中の蟲はすべて排除した。
気づかれることなく。
聖杯は一体化しすぎて取り除けなかったが、
その心臓に巣くっていた物はここに閉じ込めているのだ…

掲げた手に、一つの球体状の闇が現れる。

球体の中には、ミミズをより醜悪にしたような
蟲が浮いている。

や、やめんかっ!!
お前のようなものが…、お前ごとき木偶がこのワシに…

「まぁまぁ、誰もすぐ死ねと言ってるわけではありません…。
そうですね、まぁ…、小一時間掛けて、ゆっくり溶かしてあげましょう、ね?」

さも楽しそうに、志貴は笑う。

………!!
い、いや、待ってくれ!

「だめですよー♪
まぁ、アンリ・マユにしちゃぁ悪戯みたいなものなんですから、
そう怒らないでくださいよ。
せいぜい、自分のやったことの1000分の1位は後悔してください」

それだけ残して、志貴は闇を空間へと閉まった。
老人の声はもうしない。
間桐臓硯が、人としてこの世から消えた瞬間であった。




満足だった。
これで僕の戦いは終わったといってもいい。

見渡すと、アサシンのサーバントは忽然と姿を消していたが、
マスターが死んだ今となっては、なんの問題もないはずだ。
おそらく逃げたか、霊体となって彷徨っているのだろう。



桜は救った。
もうあの悪夢にさいなまれることもないだろう。
これで彼女は幸せになれる。

たとえその場に自分が居なくても。

士郎が居る。
遠坂さんが居る。
セイバーが居る。

心に残した傷は、直ぐには癒えないだろう。
だけれど、もうこれ以上傷つくことはない。

「贅沢を言えば…、あいつを殺したいんだけどなぁ」

アンリ・マユ
今や自分の半身となってしまった復讐者。

もうここまで同化が進めば、もう手を挙げることは出来ない。
今は半身と機能している僕が逆らうことを、アレが許すはずがない。
それに、そんなことして僕が死ねば、桜が狙われるのだから。


「士郎、それに殺人貴」


彼らなら、僕を殺してくれるだろうか?
もう直ぐ、意識もアレに飲まれるだろう。

そうなってからでは遅い。

そう思い、桜を起こしに行く。
最後のお別れ、そして伝言を頼む為に。


「ああ、やっぱり木偶なんかがハッピーエンドを迎えることなんか、
出来はしないんだなぁ」


そう呟きながら――――――















/2 Waltz with Black Cat

遠野さんと桜が忽然と姿を消した。

しかも遠野さんは、聖杯の中身を操っていた。

もう思考回路はパンク寸前だ。

だと言うのに、目の前には、その遠野さんをも無傷で倒した

殺人貴と呼ばれる、化け物が居た―――――




「くっ、セイバー、凛をつれて逃げろ…!」


こちらの打てる手もう出し尽くした。
はっきり言って、もう駄目だと思う。

俺の世界も通じない。

だけど、死ぬわけにいかない。

それは凛やセイバーを守ってからだ、
今は彼女たちを逃がすのが最優先。

たとえ、数分も持たないとしても―――――



と、覚悟したのだが。
どういうわけか、殺人貴はこっちを向いて
きょろきょろと凛やセイバー、そして俺の顔を見て回っている。

そして、こともあろうか庭石の上に腰掛けると、
胸のポケットから、眼鏡を取り出していた。

殺人貴が眼鏡を掛けた瞬間、
さっきまで取り巻いていた寒気が消え、
いつもの少し暖かい夜が帰ってくる。

あいつ―――殺人貴は眼鏡をはめると、もう遠野さんと区別がつかなくなっていた。

そして、ほっ、と溜息をつくと
声を掛けてきたのだ。

「えーと、ごめん、一服させてもらっていいかな?
どうもこの眼使っちゃうと、ストレスが溜まってさ」

俺は固まったように、言葉を返せない。


少し遅れて、

「ちょっと、あんたどういうつもりよ!」

凛が怒鳴ってる…。
そりゃそうだろ。
こんだけ暴れといて、いきなり一服し始めるんだ、
何なんだって思うだろ、普通。
なのに、あいつは

「ああ!ひょっとしてタバコとか駄目な人?」

なんて気まずそうに答えてくるもんだから、
凛も答える気力を無くしたようだった。

セイバー、凛がのろのろと俺の所にきて
俺たち3人は、至福の一時を味わっているの殺人貴を眺めていた。




その最中、ふっとあいつが何かに気づいたように、暗闇に声を掛ける。

「あ、忘れてた。おーい、レン。もう大丈夫だよ」

レン――――、そういえば遠野さんの黒猫もそんな名前だっけ?

そして、闇からひょっこり現れたのは―――

青い髪の幼い女の子だった。
服装は黒一色。
黒いコートを揺らしながら、楽しそうに小さなリュックを背負っていた。

「ああ、ごめんごめん。すっかり待せちゃったな。
寒くなかったか?」

女の子は、首を横に振って答えてる。

それを嬉しそうに見つめた後、
こともあろうか
こっちを指差して、

「きっとあそこのお兄ちゃん達が、温かい飲み物くれるよ」

なんて言ったのだった――――――――――











衛宮邸、居間―――――
目の前には、ホットミルクをフーフーしながら飲んでいる
女の子―――レンと呼ばれている女の子がいる。
これは良い。
温めた後、少し砂糖を入れたのだが、嬉しそうに飲んでいるあたり
好評のようだ。

問題は、あいつだ。
あいつも嬉しそうに日本茶を飲んでいる。

そもそもお茶を出すときに、かなり緊張したのだ。
家に上げるときは、気力が萎えていて、誰も反対しなかったのだが―――――


「ちょっと士郎!なんでこんな事に成ってるのよ!?」

そんなの俺に聞かないで欲しい。

「士郎、彼は志貴にそっくりだが、危険さは並みのものではない。
慎重にならなければ」

慎重ったってどうしようもないのだからしょうがない。


「話があるから、家に上がらせてくれないか?」


と言われた時、
思わず頷くことしか出来なかった俺が悪いんだろうか…。



ひとしきり満足したのか、目の前のあいつがこちらを見て自己紹介を始めた。

「ごちそうさま。俺は遠野志貴。それで、こっちがレン。
…行き成りあんな事になって申し訳ないと思ってる。
でも、事情が事情なだけに、その仕方なかったんだ」

と、申し訳無さそうに頭を下げた。

「で、貴方も遠野志貴、と。
何人『遠野志貴』って人間は居るのかしら?」

と、凛が皮肉交じりに答える。

「そうか、あいつもやっぱり…。」

遠野志貴って、こっちも遠野さんになるのか?
なんか遠野さんはあっちのホワッてイメージがあったけど
こっちの人は、普通に感じる。
志貴さんって呼ぶことにするか…?

そう、心で一人ごちた後、うーんと考え込んでいる志貴さんに話し掛ける。



「ええ、あの人も自分のこと『遠野志貴』だって言ってました。
だから…、正直混乱しちゃって…。
志貴さんは、何か知ってるんですか?
というか志貴さんは一体何者なんです?
一応、あっちの遠野さんには実家が富豪とか、妹が跡取だとか、
あ!あとシエルさんの知り合いでもあるんですよね?教会の代行者の」

その単語で志貴さんはビックリしたようにこっちを向いた。

「シエルって、君たちシエルに会ったのか?」

「ええ、シエルさん、遠野さんのこと信用するなって残して、出て行きましたけど…。
なんか向こうの遠野さんの事疑っていたみたいですし…」

志貴さんは、へーって顔して

「シエルなんでここに来たんだ?まぁ、シオンの奴が喋ったのかな?
でもまぁ、シエルの奴もよく分ったなぁ…。付き合いが長いし、やっぱ違和感があったんだろうな。
いくら記憶を持ってても、人格とかはそうそう一緒になるもんじゃないし。」

と頷いている。

「ねぇ、ちょっと。それじゃあなに?あんたが本物で向こうは偽者って事?
ちゃんと説明してくれなきゃ分らないんだけど」

そりゃそうだ、凛が言う通りはっきり言って、分らない。
セイバーもコクコク頷いている。

ん?と志貴さんはお茶をすすり、姿勢を正した。

「それじゃぁ、改めて説明しようか。
まず、俺は正真正銘『遠野志貴』、まぁあいつが説明したろうけど、
三咲町の遠野家っていったらそこそこ有名なんだろ?
それで、今は、まぁ場所は詳しく言えないけど外国に住んでる。
今回ここ来たのは、聖杯戦争の話を知り合いから聞いたからだ」

そういって一息ついた。

「知り合いって誰なの?外国に居て、ここの事を聞いたって、魔術師なんでしょ?
その人」

「ああ、魔術師って言うか、君、遠坂の人間だろ?知ってるはずなんだけどなぁ、
ゼル爺さんの事」

は?
と凛の眼が丸くなる。
その様子から、まぁ知ってる人の名前が出たんだってのはわかるけど、
凛の知ってる人で、志貴さんとも知り合いって誰なんだろう…
と思っていたら―――

「ゼ、ゼル爺さんって、あんた、ま、ま、まさか…」

そんなに凄い人なのか?
と訝しがる俺の表情に凛がキッと睨んできた!
な、なんでさ!?

「ゼル爺さん、えーと確か本名はなんていったかな?
周りからはなんか、『宝石』とか『万華鏡』とか言われている
気のいい爺さんなんだけど、えっと知ってる…よね?」

志貴さんは、知らなかったらどうしようと、困った表情になっている。
ほら、凛が、黙って震えてるからだ。
って震えてるって…

「キシュア・ゼルレッチ・シュバインオーグ!!志貴、あんたなんでそんなことも知らずに!
ああ、士郎も!!
いい、ゼルリッチって言ったらね、現存する5人の魔法使いの一人なのっ!!
魔術師じゃないの!!すごいお偉いさんなの!!!
ちょっとなんでそんな人と知り合いなわけ!?
あんた、私達を騙そうとしてるんじゃないでしょうね?
ゼル爺さんって、なんなのよっ!ゼル爺さんって!!」



ぽかーん――――
俺も、セイバーも、
そして志貴さんも凛の剣幕に唖然となってしまった。

「ああっと…、俺、その魔法と魔術の区別いまいち分んなくて…。ごめん。
それと、別に騙そうとしてるわけじゃなくて、ゼル爺さんとは彼女を通して知り合いになったんだよ。
アククェイドっていうんだけど…」

と言って、志貴さんは一枚のぼろぼろになった写真を見せてくれた。

もうだいぶ前に取ったものだろう。
夕焼けの繁華街で、二人の――多分この右の人が志貴さん。
っていっても学生服で年頃は、…そう俺ぐらいの時のものだろう。

それで隣には、笑顔で志貴さんに腕を回している金髪の女性―――人ではないような整った容姿、
恐ろしく美しいとは、こういう事なんだろう。
それに付け加え、眼が燃えるように紅い事が際立って美しさに花を添えていた。

この人がアルクェイドって人なんだろう、本当に楽しそうに笑っていた。
隣の志貴さんは、すこし照れたようにしているけど―――
すごく幸せが伝わってくるような、そんな1枚だった…。

セイバーもほぅと見つめている。

そして凛は…、
なぜか真っ青になっていた。

え?なんで?

「凛、おまえさっきからどうし…」

はぁ、っと大きく溜息をついて、凛はこっちを半眼で見ていた。
こっちは訳がわからないから、なんか馬鹿にされたみたいで
悲しくなってくる。

そうな、俺の心情を読んでくれたのだろうか、
凛が口を開く――――

「私、頭が痛くなってきたわ。
志貴、あんたかなり凄い人だったのね。
真祖と知り合いだったなんて…。
しかも彼女ときたもんだから、ああ、もうだめ。
訳わかんないわよ、はぁぁ〜」

凛は深い溜息を吐いて、ちゃぶ台に突っ伏した。

「凛!?
真祖と言ったのですか!?
では、もしかして、アルクェイドとは…、志貴…
彼女のフルネームは…」

「えっと、ああ、遠坂は魔術師だもんな、知ってて当然か。
セイバーだっけ?彼女のフルネームはアルクェイド、アルクェイド・ブリュンスタッド。
そう、真祖のお姫様だよ」

「!?」

セイバーが今度こそ、驚いている。

そんな、志貴は一体…なんて呟いているけど、
俺には何がなんだか、真祖ってなんなのさ。
また凛が睨んでいる。
悪かったよ、と視線で返すと、凛がこっちを見て呻きながら言ってきた。

「昨日の夜、二十七祖の説明はしたわよね…。
彼女、アルクェイド・ブリュンスタッドはね、その頂点に君臨する
お姫様の名前よ。その力はサーヴァントを軽く凌駕するでしょうね。
ったく、志貴あんたって一体…?」

だぁ〜、そんな、吸血鬼の親玉の上を行くような人とこの人は付き合ってんのか!?
改めて、志貴さんの顔を見る。
そりゃ、さっきの戦闘見たから、凄いとは思っていたけど、
ここまでとは…、魔法使いに、吸血鬼のお姫様。
そうとう有名なんじゃないのか?この人…。

ん…、まて遠野さんは確かこの人、志貴さんの事を…
って最近の二十七祖を倒してるあの…




「殺人貴!?」




凛と俺の声がハモッた――――













それから、暫く俺達と志貴さんは、お互いの情報を交換し合った。

居なくなった桜のこと、これに関しては、後暫くは大丈夫だろうという見解だった。
聖杯が満ちるまで、あと少し時間がかかると、志貴さんの調べで分っているらしい。
なんでも、知り合いの女性に調べて、分析してもらったそうだ。

これには、最初俺が、

「それでも、今すぐ桜を助けに行こう!」

といったのだが、凛と志貴さん、セイバー三人がかりで止められた。

凛の言い分はわかる。
確かに、さっきの志貴さんとの戦いで、俺達はとても戦えるだけの魔力が
回復していなかったのだから。
だが、それでも行こうとした俺を留められたのは、
凛が自信を持って大丈夫といってくれたおかげだろう。

志貴さんがいったアトラスの(何でも凄く頭がいい人らしい)名前をだしたら、
凛もほっとして

「まぁ、アトラス錬金術師が分析したんだもの、きっと大丈夫でしょ」

と、志貴さんの言い分を信用した結果だった。

凛が其処まで言うのなら、俺もそれを信用する。
セイバーもこれに少し安心したようだった。


だが、不安がなくなったわけではない。
遠野さんの狙いがなんなのかは分らないが、
志貴さんの偽者『遠野さん』を使ったのが、間桐臓硯だと察することが出来たからである。

志貴さんは、なんでも冬木市に着いて直ぐ、アサシンと一戦やり合ったらしい。
その時に、髪の毛と、血液を奪われたのだろうと言っていた。

髪の毛はともかく、血液はどうやって?
そう言うと、志貴さんは、
「腕を軽く切られたんだよ」
と、もう治りかけている、切り傷を見せてくれた。
しかし、あのサーヴァント相手に、それで済ますあたりが恐ろしくもあるが…。
あと、臓硯が記憶も奪ったのだろうという推察だった。

凛は、間桐家は『略奪』の魔術専門とであり、
何らかの方法で記憶を奪ったのかもしれないと、言っていた。

そうして、出来上がった偽者、遠野さんは俺たちの中に入り込み、
まんまと桜を連れ去ったわけだ。

だが、それじゃ矛盾が生まれる。

なんでわざわざ逃がした桜を、連れ戻すような
手間のかかることをしたのか?
そもそも、桜は俺たちに対しての対抗勢力として、
サーヴァントを呼ぶためのものだったはず。
ならば、なぜ?
連れさらうだけだったなら、いくらでもチャンスはあったはずだ。

それに、今思うと、あのサーヴァントだけでも充分に俺たちへの対抗札になっている。
あのとき遠野さんと二人掛りで来られたら、俺達は全員が死んでいただろう。
それで済む事を、何故わざわざ遠野さんを送り込まなきゃならないんだ?


だが、その疑問は、志貴さんの説明で氷解した。

「桜って子は、聖杯なんだよ。
彼女は間桐臓硯から、10年前の聖杯の欠片を植え付けられている。
そうして、アインツベルンの黄金が消えた今、その役割が回ってきてしまったというわけだ」

「なんですって!?それじゃ、あの子は!!」

「ああ、聖杯が、“孔”が開いた後は、おそらく死んでしまうだろう。」

「なんだって、そんな…こと…」

凛が狼狽している。
俺だって、セイバーもそうだ。

桜があの聖杯だったなんて…。
桜は、知らなかったのか?
それとも、心配させまいとして、嘘をついたのか…?

「だが、それに関しては最悪の事態は避けられたようだ。
恐らく彼女が死ぬことはもうないだろう。」

と、また志貴さんはよく分らないことを言ってくる。
さっきと言っている事が矛盾して、付いていけない――――

「それはあの偽者に関連することなのかしら?」

凛は、何か思い当たることがあるのだろうか?
志貴さんに問い詰めていた。

「ああ、最後にあいつが起き上がったとき、凄まじい力を感じた。
多分、あいつは今、直接聖杯と繋がっているんだろう。
つまり、桜の負荷は限りなくゼロに近いということ。
…孔を開いた後は、あいつ自身にその力を受けるんだろう。
だがら、桜は…、いくらあいつが直接繋がったとはいえ、それはまだ不安定なものだろうし、
おそらく事が終わるまでは、桜は無事というわけだ」

「まぁ、その話が本当なら、桜は無事だと考えられるわね。
でも、まだ全部分ったわけじゃない。
なんで、なんであの『志貴』はここに潜り込んだのかしら?」

そう、なんで遠野さんはそんな事を…

「これはゼル爺さんに聞いたことだ、桜は…。
うん、君達には知ってもらっていた方がいいと思う…。
あの子は、間桐の家でかなり酷い扱いを受けていた。
間桐家の跡取、そして聖杯の器として耐久力を挙げる為に…」

!?
それはどういう…


志貴さんは抑揚のない声で、語り始めた。

それは、想像を絶するものだった。

桜は、桜は――――――


暫く、みな口を利けなかった。
そんな事、考えたこともなかった。

凛は、一人になりたいといって、庭に出て行った。
実の妹の、桜の事を気づけなかったことを後悔しているのかもしれない…。






俺も、後悔していた。
でも、本当に分らなかったんだ…。

いつも桜は笑っていたから…。
俺は――――


「だが、それは過去の話だ。君たちはまだ救える。
俺もそういうことが在ったから、士郎…お前の気持ちが少しは分る。
俺も…、大切な人の事、気づけなかったから…」

志貴さんは、そう言って悲しそうにこっちを見ていた。
そういうことがあったのか!?
志貴さん、志貴さんもそんな思いを…

頭を振って、志貴さんはこっちに話し掛ける。

「いいかい?今からどうするかが大事なんだろ?
今まで気づけなかった。でも今知ったろ?じゃぁ、後は全てやるだけ。
彼女を救って、聖杯を彼女から取り出すんだ。」

「そうね。間桐臓硯を一片残さずぶっ殺してね」


凛が庭から戻ってきていた。
その眼には強い意志が宿っている。

俺も、悩むのは止めだ。
桜を救う。
それが全てだ。

「じゃあ、続きを話すぞ。
それであの偽者なんだが、おそらく桜の聖杯を起動させるために
精神的な揺さぶりが目的だったんだろう。
俺が、あいつに歩み寄ろうとした時、あの子はそれを止めようと強く祈った。
それが、聖杯起動のキーになったんだろうな…推測だけど。
そして、その後は君達が見たとおりだ。
くそっ!最低の奴だ!!」

そう言って、志貴さんは悔しげに下を見つめている。

つまり『遠野さん』は桜の心を弄んだんだろうか?
どうも腑に落ちない。
遠野さんとは、会ってから2日と満たなかったが、そんなことする様な人なのか。
それに、最後、桜が聖杯を開いた時…だったんだろうか。
凄く悲しそうな瞳で、桜を見ていたんだ…。
弄んだなんて考えにくかった、いや考えたくないのかもしれないが…。
なんだかんだ俺も、あの人の事を信じていたから…。

「まぁ、それは推察なんでしょ?
直接会って聞けば分るわよ。
志貴、あんたあいつが何処にいるかも調べてるんでしょうね?」

「ん?ああ…。
あいつは間違いなく起動式、大聖杯が眠るところにいる。
そこは、君たちもよく知っている場所だ…、柳洞寺の地下に居る」

「そう、やっぱりね。
あの地は、龍脈が眠る土地。
起動式を配置するには最も適した場所だもの」

そうか、だからあそこは聖杯戦争の最後の土地の一つでもあるのか。
場所はわかった。
後は、準備を万端にしていくだけ。

桜を救う。

そして桜から聖杯を…、どうやって取り出すんだ?
そういえば、志貴さんがそう言っていたが、志貴さんの目的って…?
前の遠野さんの目的は『臓硯を倒す事』だったが、今回の志貴さんの目的って…

「えっと、志貴さん…?さっき言ってましたけど、桜からどうやって聖杯を取り出すんですか?
それに、志貴さんの目的って…なんなんですか?
いや、疑ってるわけじゃないんですけど、来たからには理由があるんだろうし…」


志貴さんは、眼鏡の位置を直して、ああっと言う顔をした。

「そうだね。俺の目的…、まだ言ってなかったね。
さっき写真で見せた彼女、アルクェイド…眠ったまま起きてこないんだ。
俺はね、彼女を起す為に聖杯の力を必要としているんだ…」

「それって、その、病気か何かなんですか…?
起きてこないって、…ずっと?」

「ああ、まぁ似たようなものだよ。もう4年近くになる。
彼女は日に衰弱していっているんだ。このままじゃ…。
だから、藁にもすがる思いだったところに、ゼル爺さんがお俺に聖杯の事を教えてくれたんだ。
それに、君達が勝ち残っていることも。だから君たちを尋ねて来たって言うわけさ。
もっとも途中で邪魔者が来たから、そっちを追うので遠回りになったけどね」

「そうだったの…。でも、志貴、あなた肝心なことを見逃してるわよ。
今の聖杯は昔の聖杯ではない。呪いの泥で満たされているわ。
そんなものを、いくら真祖とはいっても、汲み取れるのかしら?」

「ああ、それも知っていた。だから、…俺にしか出来ないんだ。
あの泥を、呪いだけ打ち消して、元の純粋なマナに戻す」

「なっ!そんなこと出来るわけないじゃない!?
大体そんな事出来るって事は、同量のマナを所有してるって事でしょ?
それだったら…」

「えっと、いや、それは可能なんだ。
ちょっと無理しなきゃいけないけど…。
…さっきあいつと戦っていた時の、俺の『眼』覚えてるかい?」

ああ!
アレは忘れることなんて出来ない…。
全てを射殺すような、壮絶なまでの冷気、燃え上がるような蒼い双眼…

「そうそう、志貴あんたノウブルカラーだったのよね。
アレは何の能力なの?そりゃはっきり言って凄まじい殺気を発していたけど、
金縛りにする類ではないしょうし…。
泥の浄化と繋がらない…」

「この二つの瞳、聞いた話じゃ『直死の魔眼』って言うらしい」

「直死の…魔眼…。
直死のってまさか…?」

凛が、まるでゼル爺さんの時みたいに、口をパクパクさせて驚いている…
直死って言うくらいだから、相手を殺す為のものなんだろうけど…。

「えっと、凛は分ったみたいだね。
そういうこと、俺は触れさえすれば全て殺せる。
それに、桜の聖杯のみ、聖杯の呪いのみといった限定で殺すことも可能なんだよ」

…!!
なんていんちきなんだ!

「そう、まさかそんな魔眼、本当にもっている者がこの世にいるなんてね…。
ん、でも、志貴はさっきあいつの事殺してなかったじゃない」

「言ったろ、聞きたいことがあるからって。
だからさ。最もこの眼は、自分の死も見つめているから、戦う時は便利なんだよ。
急所を避けられるからね。相手のも、自分のも」

これで材料はそろったと思う。

「わかりました。これで大体のことは…。後は、乗り込むだけだ…。
桜…、助けてやるから…!!」

俺はギュッと両手を握りしめた。


俺達は、その日はそれで休む事にした。
それに、志貴さんも消耗していたから。
俺たちは純粋な魔力不足だが、
志貴さんは、目の負担が大きかったそうだ。

よって、全ては明日。

志貴さんは、愛する人を。
俺達は大切な人を。

全ては幸せを掴む為に―――














皆が寝静まった、暖かい夜。

星が見える――――

数多の星が、――――瞬いている。



この星空を、彼女と見ることが出来るだろうか。

いや、見るために今まで戦ってきた。
だが―――――

この命は、あと幾ばくの猶予があるというのだろう…

最近は寝ることが怖い。
そのまま起きて来れないんじゃないのかと…そう考えてしまう。

あれから4年たった。
今こうして、この目を眼鏡で抑えていられるのも、あの宝石の翁の所業だろう。
もちろん、有効期限付きの限定品なのだが…。


そして、思いは彼女のことへ――――


自分がここでこうやって生きている事は分っても、
明日生きているかは、分らなかった。

だから、彼女を起す事、
それは自分の幸せであっても、彼女の―――アルクェイドにとっては辛い現実なのかもしれない…、

最悪、彼女を起せても、その瞬間自分がいなくなってしまう可能性も否定できないのだから…。


「なぁ、アルクェイド…、これは俺の我侭なのかな…」


答える者は居ないと分っている。

でも、そう聞かずにはいられなかった。

誰かに、背中を押してもらいたい。

でも、その人は今は深い闇の中、きっと夢を見続けているのだろうから―――

だから、自分で決めなくちゃならない。

それに、聖杯のこと、もう一人の自分のこと、
放って置けることじゃない。

だから、明日。

ここに来るのを決めたのは、自分自身だ。

なら、どうするかは決めていたはずだ。

だから―――――――
明日は――――――


肺に残った紫煙を吐き出し、
殺人貴とよばれる青年は、庭から立ち去る。

明日も生きられるように―――

些細な日常を願いながら。










その後ろを、黒猫が、踊っていた。

主の後を楽しそうについて行く。

ただ、今日も主と過ごせたことを、

この夜に感謝しながら。

踊る踊る、黒猫。

明日の事は、明日考えればよい。

なぜなら猫は気まぐれなのだから。

だから、今日の喜びが全てであった。

だから、踊る。

今日も、主と過ごせたことを―――――――







*後書き


    あ、あきまへん。
    説明が長々と…。
    飽きさせてすいませーん!!(汗
    あぁ、かくかくしかじかで書けるわざがあればいいのに…w

    というわけで、あと残り1話です。
    なんとか来週までには…。

    本当に、本当に皆様のおかげです。
    見てくださった方、感想をくれた方、
    これがなければ、恐らく4話くらいには青先生が登場して
    DEAD ENDを迎えていたでしょう(汗 途中放棄とも言う   

    そして深い考察の似非金ぴか様、穿様、このお方たちの考察の上で
    何とか回っています(感謝!!

    残り一つとなってまいりましたが、なにぞ最後までお付き合いお願いいたします。
    
    今日の愚痴:ギャグ書きたい

    唄子


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