The bow and the sword  第三話後編(M美綴 綾子 Hなし)


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1: MARU (2004/03/28 15:23:40)[hirotan9 at happytown.ocn.ne.jp]

激戦、のちに……



日は既に沈み、街灯の光があたしを照らしていく。
「はぁ、はぁ、はぁ、………」
 あたしは走っていた。
「はぁ、はぁ、はぁ、………」
すでに学園があった深山町から離れ、今は新都の中を走り続ける。
「はぁ、はぁ、はぁ、………」
 気配を感じるのだ、何処に身を寄せようと気配があたしから離れない……だから逃げる。
「はぁ、はぁ、はぁ、………」
 既に体力は尽きている、だが止まったら彼女に殺される。
「はぁ、はぁ、はぁ、………」
 だからあたしは走り続ける。
「はぁ、はぁ、はぁ、……っ!」

 しかし、倒れてしまった。足が疲れで絡まってしまった。
 起き上がれず這いつくばりながら辺りを見回すと、あたしは新都のオフィス街にいた。
「はぁ、はぁ、はぁ………」
(こんな所で倒れていたら見つかってしまう)
 あたしは上半身の力だけでビルとビルの間にある死角に辿り着き、奥まで行くと身を潜める。
あたしは奥の壁に背を付き、震える足で体育座りをする。

倒れた時から気配は既に感じなくなったが油断は出来ない、だからせめて足の震えがなくなるまではここで身を潜めていようと思った。
呼吸はまだ荒いが多少落ち着きを取り戻したので、改めて回りを見回すとここは人が二人隣同士で歩けるかどうかの狭さだった。
道路の方からはライトでも照らされない限り見つかることは無いだろう。
そこまで確認するとあたしは体の緊張を取り、身体を休ませる。
制服を見るときっと這いつくばっている時にでも汚れたのだろう、暗闇でもわかるほど汚れていた。
そのことで頭を悩ましていた矢先。

 ……ジャラ

 頭上の方から金属の擦りあうような音を聞き、何事かと音のした方に首を動かすと。

「―――――――――!」

 叫び声を上げられなかった事をあたしは不幸と思った。

 頭上には………人が居た。
 その人物は垂直な壁に張り付き、鎖のような物を握っていた。
『見つけた』
 声は聞こえないがあたしにはそう思えた。
 …ジャラ。
 その人物はあたしを追ってきた女性だった。
逃げ出そうにも足はまだ回復しておらず立ち上がることも出来ない。
…ジャラ。
女性は鎖の音を響かせながら上からじりじりとあたしに近付いてきた。
あたしはあまりの恐怖に目を閉じ、耳を押さえた。


しばらく無音が続き、あたしは誰かに抱き上げられた。
抱き上げられたあたしは速い速度で移動しているようで、全身に風を感じていた。
あたしは覚悟を決めて震えながらも目を開ける。

「え?」
 
目を開けるとあたしは誰かの右脇に抱えられており、目に映ったのはその人物が持つ備前長舟だった。
ハッとしてその人物を見るため首を動かすと、必死な顔をして走っているアサシンだった。
「ア、アサシン」
 あたしは声を上げる。
 するとアサシンも気付いたようでこちらに顔を向け何事かを叫ぶか聞こえない。
「き、聞こえないよアサシン」
 答えるとアサシンは何か気付き、左手で自分の耳を指す。
「み、耳……!」
 あたしは両手で耳を押さえていたのを忘れていたようだ。
 慌てて耳から手を離すと。
「大丈夫か、綾子」
 必死であたしの心配をするアサシンの声が聞こえた。
「な、何とか大丈夫よ」
「…そうか、なら少し聞きたいことがあるのだが」
 アサシンは安心した顔を一瞬だけ見せたが、すぐに顔を引き締め、あたしに聞いてきた。
「な、なに?」
「ここの近くに障害物が無く、人気の無い広い場所は何処だ?」
 アサシンは急に変なことを聞いてくる。
「?…それなら中央公園ぐらいしかないけど……」
 十年位前に大火災が起きて、何も無くなった焼け野原の場所の一つにその公園を作ったが、その場所は何故か人通りは少なく、夜にもなれば誰も近付かないという不思議な公園だ。
 あたしがその公園を提案すると。
「そこへ案内をしてくれないか」
 アサシンはその場所を聞き出そうとする。
「な、何でよ?」
「……聞きたいか?」
 あまりあたしに言いたくなさそうに聞いてきた。
「当たり前よ、案内する代わりに教えなさいよ」
 その顔にムッとしたあたしは怒りながら言った。
「………」
「早く答えないと令呪を使うわよ」
 沈黙を通すアサシンに右手を差し出し答えを聞く、それで観念したのか口を開くアサシン。
「…先ほど、君を襲ったサーヴァントと戦うためだ」
「…………」
 聞かなければ良かったなと後悔した。

「で、でもアイツから逃げた方が……」
 先ほどの恐怖が甦り退却を提案するが。
「それは無理だ」
「どうして?」
 アサシンの否定の言葉に必死に抵抗するあたし。
「ずっと後を付けて来ている」
「!」
 アサシンの言葉に反応して後ろを振り向くが何も見えない。
「ほ、本当なの?」
 怯えきった声であたしは聞いた。
「ああ、このまま家に戻っても君の家が戦場になるだけだ」
「――――――!」 
アサシンの答えに絶句した。
 しかし、次の言葉であたしは安心する事に。
「しかし大丈夫だ綾子、あのサーヴァントは弱い」
「え?……ほんとなの」
アサシンの心強い言葉で生気が戻ってくる気がした。
「ああ、私の相手ではない」
「…………」
「だから早く場所を教えてくれ、綾子」
「……わかった、貴方の言葉を信じる」
「それでこそ、我がマスターだ」
「あ、当たり前よ、変な気を使わないで」
 アサシンが笑みを向けてきたことで顔が赤くなるのを感じながら、公園への場所を教えた。
 

「…ふむ、ここなら少々動き回っても大丈夫だな」
 公園の真ん中位に着くとあたしを地面に降ろし、辺りを見回しながら場所を確認するアサシン。
「しかし、ここの気配は以上だ……そうかここは前回の…」
「ねえ、アサシン」
 今度は考える仕草をしながら一人でぶつぶつ言っているアサシンに声をかける。
「ん、何だ綾子?」
 こちらに向き直るアサシン。
「本当に大丈夫なの?」
「…私が信じられぬのか」
 あたしの念押しに少しムッとしながら答えるアサシン。
「いや、そうじゃなくて…何でさっきの彼女…サーヴァントが弱いってわかったの?」
 移動しているときにアサシンが言った言葉を思い出し、誤魔化すために聞いてみる。
「ふむ…元々は強いのであろう……が彼女を召喚した者が未熟者なのか、または何か制約が掛けられているのかはわからぬが本来の実力を出し切れていないようだった」
 誤魔化すことに成功し、アサシンは少し考えながら答えてくれた。
 しかし、あたしはアサシンの答えに驚いた。
「じゃ、じゃあ彼女は本当はもっと強いの?」
「ああ」
「し、信じられない」
 あたしは呟く。
「何がだ?」
 あたしの呟きが聞こえたのかアサシンが聞き返す。
「だってそれじゃあ、人間なんかじゃ歯が立たないじゃない」
「当たり前だ、只の人間はおろか腕の立つ魔術師が束で挑んでも我々サーヴァントの一人にも敵うまい」
「…………」
「最初に言った筈だが、これは一騎当千…いや万にも勝る者が戦うからこそ戦争と称されるのだ」
「そんなの滅茶苦茶よ」
 あたしの理不尽な言葉にアサシンは自嘲気味な笑みを浮かべ。
「そうだな」
「あ、ご、ごめん」
 言い過ぎたことに気付きアサシンに謝る。
「いや、魔術師でもない綾子が気にするのも仕方があるまい、自分を責めるのは止めたまえ」
 落ち込むあたしを慰めるように、あたしの頭に手を置き慰めてくれるアサシン。
 
 しばらくそのままでいたが、不意にあたしにアサシンは背を向けた。
「どうしたの?」
「どうやら来たようだ」
 あたしの問いに背を向けたまま答えるアサシン。
「ど、何処にいるの?」
「姿を消しているようだが気配は近くに感じる……綾子」
 固まっているあたしにアサシンは右手で背に掛けてある長刀を抜きつつ、左手に持つ備前長舟をあたしに持たせた。
「これを持っていろ、あと私から離れるな」
「わ、わかった」
 言われるがまま、あたしはアサシンの背に身を寄せる。

 キィン。

不意にアサシンの右手が霞む、そのすぐ後で何かを弾いた音が無人の公園に響く。

「え?」
何が起きたのかアサシンの背から顔を出そうとすると。
「顔を出すんじゃない、次が来るぞ」
 アサシンが叱り慌てて顔を引っ込める、その直後。

 キィン。

 あたしが顔を出していた場所をアサシンが何かを弾く。

(アサシンが注意しなかったら……)
 ゾッと背筋を凍らせているあたしを尻目に、アサシンは次々と立ち位置を変えながら何かを弾いていく。

 そんな攻防が数分続き。

「ふむ」
 一人頷くアサシン。
「ど、どうしたの」
「次の攻撃が来たら決着をつける」
「え?」
 あたしが聞き返す間もなく。

 キィン。

 アサシンが敵の攻撃を弾く、いや今回は弾くだけでなく地面に何かが突き刺さる。
 よく見るとそれは大きな釘に見えた、その釘は地面に深く突き刺さり、簡単には抜け出せそうに無い。
 釘の後ろには鎖が繋がれており、その先を見ると。

 いつの間に移動したのか少し離れた所に、アサシンとその横に腹を押さえて蹲る、あたしを襲ってきた女性が居た。

「自分の武器を手放すのは感心しないが、その行動は賞賛する」
 風に乗ってアサシンの声が聞こえてきた。
「もし手放せなかったら、胴から二つに断たれていただろう…だが」
 アサシンは刀を彼女に向けると。
「これで、…王手だ」
 刀は点の軌道で彼女の顔面を狙う。
 その後の惨状を想像し、あたしは目を瞑る。
 
パチパチパチ。

不意にあたしの背後から誰かが拍手をした。

驚いてあたしが目を開けると、アサシンの刀は彼女の目前で止まっていて、あたしの後ろを見ていた。

あたしも慌てて振り向くと、公園に植え付けられている木から音も無く人が降りてきた。

「ちぃ、逃したか」
 後ろからアサシンの声が聞こえ、その直後、アサシンがあたしを護るように前に来た。
「済まん、逃してしまった」
 逃げられた事が悔しいのか、声には悔しさが滲みでている。
「そ、そんなことより…アイツも?」
「ああ、別のサーヴァントだ」
 あたしの疑問に余裕の無い声で答えるアサシン。

「いや、良いもん見せてもらったよアサシン」
 木から降りてきた人物はどうやら男性のようだ。
「こっちに来たのは正解だったようだ」
 男はゆっくりとこちらに近付きながら何かを喋っている。
「お前、アサシンにしとくには勿体無いな」
「…………」
 アサシンは男の問いには答えず刀を構える。
「おいおい、もう戦ろうって言うのか気が早いな」
「戯言はそれまでだ」
 気さくに話しかけてくる男にアサシンは相手にしない。
「別に俺も戦るには賛成だが……」
 男は言いながら片手を振ると虚空から槍を生み出す。
「…嬢ちゃんを離しておかないと一緒に串刺しにしちまうぞ」
 男が立ち止まり、槍を構える。
「…綾子、私から早く離れるんだ」
 アサシンはあたしに離れるように命じる。
 あたしは男を警戒しながらゆっくりとアサシンから離れる。
「人の忠告はちゃんと聞くのは、…正しい判断だアサシン」
 男は軽口を言いながらも闘気を高めていく。
 あたしは改めて男を見ると、全身を青で統一している服装をしていた。
「嬢ちゃん、言わなくても見ればわかるだろうが、俺は…」
 男は相変わらず軽口を叩きながらあたしを一瞥し。

「…ランサーのサーヴァントだ」
 ランサーが言い終えた直後、戦いが始まった。

 ギィン、キィン、ギィン………。

 戦いが始まった直後からランサーは物凄い速さで槍を突き出していく。
 アサシンは刀でその突きの軌道を変え、または身を翻しながら躱していく。

 あたしはその攻防を美しいと感じた。

 その攻防を人の身では作れない最高の剣舞だった。

 しかし、どんなにアサシンの刀が長くても相手はそれよりも長い間合いを持つ槍だ。アサシンは防戦一方に見えた。

「どうしたアサシン、その長い剣は飾りか」
 鋭い突きを立て続けに放ちながら、ランサーは笑みを浮かべてアサシンに聞く。
「…………」
 アサシンは無言で防戦に専念する。
「だんまりとは愛想が無いぞアサシ……っ!」
 ランサーが言い終える前にアサシンは防戦を止め、一気に詰め寄る。
 
アサシンはランサーの横をそのまま駆け抜けるとゆっくりと振り向き。
「…今までそなたが使う槍の間合いを計っていたのでな、相手をやらなんで済まんなランサー」
 背を向けたままのランサーに笑み浮かべる。
「…………」
 ランサーは手を頬に当てると先ほどアサシンが駆け抜けた時に付けたのであろう、一筋の切り傷があった。
「ふはははははは………」
 ランサーは急に笑いだした。
「気でも触れたかランサー」
「ははは……、違うぜアサシン」
 ランサーも振り返り、再び槍を構える。
「こんな芸当は今回のセイバーでも出来まい…だが」
 ランサーは笑みを浮かべるのを止めると、先ほどまでの闘気とは比べられぬほどの異質な闘気を纏い出す。
 あたしはその重圧に押しつぶされそうになりながらもその戦いを見届ける。
「む……」
 アサシンも異変に気付き、刀を構えだした。
「さっきので止めを刺しとけばアンタの勝ちだったのにな」
「何?」
 ランサーの言葉にアサシンは聞き返す
「…………」
 ランサーは無言を返し、一気にアサシンに詰め寄って行き。

「刺し穿つ(ゲイ・)」
 槍を先ほどよりも速く…。
「死棘の槍(ボルグ)」
…突き出した。
「!」
 アサシンは咄嗟に身をよじると先ほどまでアサシンの居た場所……心臓の辺りから空間を歪めて槍が飛び出していた。
 
 先ほどとは逆にランサーがアサシンの横を駆け抜ける。

 慌ててアサシンはランサーに向き直る、だがランサーはしばらくその場で佇み。
「チィッ」
 こちらからでも聞こえるほど大きな舌打ちをすると……。
 槍を虚空に返す。
「?」
「?」
 あたしとアサシンは槍を収めたランサーを不思議に思った。
 ランサーはこちらに…アサシンの方を憤怒の形相で見ると、再び背を向けて姿を消した。
 

「お、終わったの?」
 あたしはアサシンに駆け寄る。
「…そのようだな」
 アサシンはランサーが去った方に目を向けたまま答える。
「アイツ、何で急に帰ったんだろう?」
 あたしが先ほどの連戦での一番の疑問をアサシンに投げかけると。
「……推測に過ぎんが、恐らく…」
 アサシンにはわかったらしい、小声で何か呟く。
「え、何かわかったの?」
 あたしが聞き返すと。
「…いや、推測で結論を出すのは止めよう……それよりも綾子」
 自らの考えを否定し、あたしに向き直ると笑顔を浮かべ。
「ん、何アサシン?」
「君の服も汚れている事だし、…早く家に帰るか」
「……そうね」 
 アサシンの提案に笑顔で答える。


interlude3−2

 夜の十時を過ぎた頃、一組の男女が柳洞寺に足を踏み入れた。

「一体、何がここで起こったの?」
 少女は顔をしかめながら辺りを見回す。
 辺りには小さなクレーターがいくつも出来ていた。

「凛」
 全身を赤で統一された服装をした長身の男が少女に話しかける。
「どうだったアーチャー?」
「ああ、衰弱はしているが全員無事だ」
「そう」
 アーチャーの答えに満足し、内心ホッと胸を撫で下ろす。

「この惨状はバーサーカーの仕業かしら?」
 凛はこの惨状を引き起こした人物をアーチャーに聞いてみる事にした。
「違うな」
「え、違うの?」
「ああ、よく見てみろ」
 アーチャーに指摘されクレーターが出来た辺りを注意深く観察すると。
「あ!」
「わかったか」
「ええ、複数の剣が突き刺さった形跡があるわね」
 よく見てみるとクレーターの辺りには色々な物が刺さった形跡が見られた。
「ああ、どんなサーヴァントか知らんが、厄介な相手であることには違うまい」
「そうね、…とりあえず今日は家に帰って教会に連絡する事にするわ」
「…それが賢明か」
 凛の言葉にアーチャーの返事には多少の呆れが混じる。
「文句なら後で聞くわ、…急ぐわよ」
 アーチャーの皮肉には慣れているのか聞き流し、走りながら柳洞寺を後にする。


interlude out


interlude3−3

 私は綾子を背負いながら走っていた。
(今日の出来事で既に心身共に疲れ果てている事だろう)
 浅い眠りについている綾子を起こさぬよう慎重に、だが出来るだけ早く家に着くように注意を払いながら走っていた。
 深山町に繋がる橋を渡り終え、油断が生まれた。

「!!」

私は今日という日を呪った。
新たなサーヴァントに見つかったのだ、まだ姿までは見えないが確実にこちらへと近付いてくる。その後には力(魔力)が弱い人物が付いて来ている、どうやらそのサーヴァントはマスターと行動しているらしい。
どう行動するか少し迷い、辺りを見ると公園らしき所を見つけ、そこに急行する。

公園に着くとすぐに私のマスター、綾子を草が茂っていて外からは見えにくい場所に優しく寝かすと、その上に備前長舟を握らせる。
「スゥ、スゥ……」
 穏やかな顔で眠りに付く綾子を見て笑みを浮かべ、静かにその場を離れる。

寝ている綾子から少し離れた場所で私は静かに佇む。

「見つけた!」

 先にサーヴァントが到着し、私と対峙する。

「貴様は……侍?」
 西洋の甲冑に身を包んだ少女が呟く。
「………」
 呟きには答えず私は、右手を背に伸ばし愛刀を静かに抜く。
「――――――」
 少女が息を呑む、大方私の長刀に驚いたのだろう
 私は刀を構えると。
「アサシンのサーヴァント、佐々木小次郎……参る」
「――――――!」
 自らクラスと真名を教えた事で、動揺した少女に向かって一気に切りかかる。
 
少女も動揺から立ち直り、何も手にしていない筈の両手で何かを掴む動作をする。

「!」

私は危険を察知し、その場を飛び退く、すると何も手にしていない筈の少女の両手の先にから空を切り裂く音が聞こえた。

「ほう、視えぬ武器とは珍しい」
 私は感嘆する。
「……………」
 今度は少女の方が沈黙する。

 私は笑みを浮かべて、再度刀を構える。
 今度は少女の方からこちらに向かって来た。

 ギィン、ガッ、ギィン………。

 私は見えぬ武器の長さを計測しつつ攻撃を受け流す。
 打ち合いながら少女は私を睨み。
「堂々と打ち合いなさいアサシン」
 少女の叫びに私は苦笑し。
「見ればわかると思うが、私の刀は打ち合いには向いていないので、西洋の戦いのような事を期待されると私としても困るな」
「くっ」

 曲線を描き少女の首筋めがけて刀を振るうが、少女は紙一重で躱し、返しに力強い直線の動きで視えない武器を振るう少女、私はそれを刀で受け流す。

「はっ!」
 少女は踏み込みながら何かを横薙ぎに振るう、私は十分に距離を取って躱し、空いた距離を一足で帳消しにして同時に長さを生かして少女の頭上めがけて刀を振るう。それを同じく距離を離して少女は躱す、再び踏み込んで攻撃を仕掛けてくる。

 そんな攻防が数十回と行われると、私は少女が手にしている武器が何なのか、そして長さがどれ位かがわかった。
少女が視えぬ武器を振り下ろし、私はそれを紙一重で躱す。
「!!」
 少女は私が完全に視えない武器を見切ったとわかり後ろに退く。
「アサシン……貴様」
 少女の言葉に軽く頷く。
「刀身三尺余り、幅は四寸(一寸は約3,03cm)といった所か、…ふむ典型的な西洋の剣だな」
「―――――――!」
 合っていたらしく驚愕を露にする少女。

「……セイバー!」

遅れてきたのは少女のマスターだと思われる少年が姿を現した。
「シ、シロウ、…危険ですからそこから動かないでください」
 追いついてきたマスターである少年をその場に留まる様に、こちらを気にしながら大声で呼びかける少女。
「で、でも」
 少年は困ったように私と少女を見比べる。
「ふむ、貴公がセイバーか?」
「そうですが、それが何ですアサシン」 
訝しげながらも私の問いに素直に答えるセイバー。
「それで合点が行った、セイバーのクラスならその剣筋もわかる」
「…………」
 私が笑いながら言ったがそれには無言を返すセイバー。
「そこで提案があるのだが」
 私がセイバーに提案を持ちかける。
「…何の提案ですかアサシン」
 視えない剣を正眼に構えたまま、話を促すセイバー。
「貴公も後ろの少年が気になって実力がだせんだろう、私にも早く連れて帰りたい人がいる……ということで今回は痛み分けといかないか?」
 刀を鞘に収めつつ私は答える。
「…そちらが退く代わりに、こちらも退けと言うのですか?」
 飲み込みの早いセイバーはこちらの意図に気付いたようだ。
「ああ」
「もし、それを了承しなければ?」
 最後の確認だろう、セイバーは聞いてきた。
「私にも譲れぬ事もある、破棄された場合は後ろの少年を襲ってでもこの場を退いてもらう」
 感情を消した顔で少年を見る。
「…………」
手にした視えぬ剣を消し、考え込むセイバー。

「セイバー、今回はアイツの言う通りだ」
「シロウ…」
 いつの間にかセイバーに近付き、退く事を勧める少年。
「セイバーだって昨日の傷、まだ完全に癒えてないだろう」
「シ、シロウ!」
「あ」
 少年は私を慌てて見る。
 セイバーも慌てて少年の前に出て、視えぬ剣を出す。

 私は……。
「く、くくくくく………」
 二人のやり取りを見て笑い出す。
「何が可笑しいんだよ」
「何が可笑しいのです」
 二人とも顔を真っ赤に染めながら私に向かって叫ぶ、がその声が見事にハモる。
「くくくく…、いや済まない…あまりにも面白いのでな」
 笑いを堪えながら何とか答える。
「それを聞いたからには尚更だ、…私は完全な状態の貴公と戦いたい」
 セイバーを見据えながら私は言った。
「済まない…」
 セイバーは軽く私に顔を下げると少年を連れて去ろうとする。

「…ア、アサシン!」
 綾子が目を覚ましたのか、身を隠しておいた場所から怒鳴り声が聞こえた。
 何事かと去ろうとしていた二人も振り向き、声のした方に目をやる。
「す、済まん、私のマスターが目を覚ましたようだ」
 私は苦笑を浮かべ二人に謝罪すると、綾子の方に歩いて行った。

「シ、シロウ、あの声は…」
「あ、ああ、聞き間違いが無ければ…」
 セイバーと少年は顔を見合わせながら何かを話している。
「行って見ようセイバー」
「はい」
 二人はアサシンの後を追って行った。


interlude out


 あたしは目を覚ました。
 どうやら何処かの草場に寝かされており、草の匂いがした。
手に何かを掴まされているの事に気付き、手を見ると備前長舟が在った。
「ちょっとアサシン、どういうつもりよ」
 あたしは刀に向けて文句を言ったが返事が無い。
「ふざけてんのアサシン」
 再び文句を言うが返事が無い。
 それで今、刀にはアサシンが居ない事がわかった。
 あたしは不安になり。
「…ア、アサシン!」
 あたしは怒鳴りながら立ち上がった。
 辺りを見回すとアサシンが苦笑を浮かべながらこちらに向かって歩いてくる。
「一体何してたのよ、こんな所で寝かされたら風邪引くじゃない」
 ホッとしながらもアサシンに文句を言う。
「いや、少し野暮用があったので済まないと思ったが……ん、どうした綾子?」
 あたしはアサシンの声が途中から聞こえ無くなった、そんな事より重大な事を発見したからだ。

「やはり、綾子のようです」
「や、やっぱり美綴だったのか」
「あ、あんた達、一体ここで何してんの?」
 
あたし、衛宮、セイバーの三人はそれぞれ声をあげた。
 一人、事情の知らないアサシンは三人を見つめ。
「なんだ、三人とも顔見知りだったのか」
 呑気にそんな事を言っていた。

 あたしとアサシンは家に帰ろうとしたが、衛宮が家にバレるとヤバいんだったらと自分の家に来てに制服を洗濯した方が良いと勧めてきて、あたしも渡りに船とばかりにお邪魔することにした。


 衛宮邸に着き、あたしはまずセイバーにお風呂に連れてかれた。
 アサシンは衛宮とセイバーに話が有るそうなので衛宮と共に居間で待っているらしい。
「綾子、済みませんがシャワーで我慢してください」
 お風呂の水は既に冷えきっているらしく、すぐ用意できるのはシャワーだけだった。
「気にしなくてもいいよセイバー、貸して貰えるだけで感謝しているんだから」
 笑顔をセイバーに向ける。
「そうですか、そう言って貰えると助かります」
 セイバーも笑顔を浮かべる。
「制服と下着は洗濯しますから、そこに置いて下されば後は私がやります」
「ありがと、セイバー……っとついでに頼んで良いかな?」
「はい、何ですか綾子」
「ああ、衛宮に後で電話を借りてもいいかって、聞いといて貰える」
「はい、ついでに聞いておきます」
 セイバーは答えると外に出て行った。
 あたしは汚れた制服や汗で湿っていた下着を指定された場所に置くと浴槽に入る。
 あたしはまず、全身にシャワーを浴びる。
「痛ぅ」
 這いつくばっている時に摺り切った所がお湯に染みた。

 痛みにも慣れ、頭を洗っている時にドアから人の気配を感じた。
「セイバー?」
 あたしが声をかけるとドアの向こうから「はい」と返事が返ってきた。
「綾子、代えの服を持って来ましたから出たら袖を通して下さい、それと電話の方はシロウが別に構わないとの事です」
 セイバーは家政婦でもやれば似合うんじゃないか、と思うくらいの献身振りにあたしは内心思いながら。
「ありがとう、セイバー」
「いえ、…では行きます」
「ええ、また後でねセイバー」
 あたしは頭に付いたシャンプーを洗い流すと体を洗うべく石鹸を手に取った。


 お風呂から出たあたしはまず出されていた浴衣に袖を通してから家に電話を掛ける、今日は遠坂の家に泊まるとだけ伝え電話を切った。

 居間に着くとあたしを除く三人が待ち構えていた。
「お、お茶を用意するから座って待ってろ美綴」
 衛宮は赤い顔をしてあたしの返事も聞かず台所に行ってしまった。
 あたしはセイバーの横に腰を下ろすと反対側に座っていたアサシンに聞いてみた。
「アサシン話し合いをするって言ってたけどどうなったの?」
 アサシンは答えずチラリとセイバーの方に目を向けた。
「それは、私から説明します」
「え、セイバーから?」
 驚くあたしを他所に、話し始めるセイバー。
「はい、これからアサシンと私……そして私達のマスターであるシロウと綾子は手を組むことになります」
「ええっ、そうなの?」
 アサシンに目を向けるとお茶を啜りながら頷いた。
「当面は協力体制を取りつつも個別に行動し、もし一人では敵わぬとわかったら共同してその敵に立ち向かうといった簡単な体制ですが、後は綾子が賛成すればこの同盟は可決されます」
 あたしを真剣な顔で見つめてくるセイバー。
「え、ええ、別にあたしもそのことについて問題は無いけど」
 セイバーの気迫に押されながらも同意する。
「良かった、これで同盟は可決されました、おめでとう綾子」
 にっこりと笑顔を見せるセイバー。
「お、もう話は終わったのか?」
 台所から出てきてあたしの前にお茶を置く衛宮。
「サンキュ、衛宮。よくはわからないがこれからよろしく」
 あたしは立っている衛宮に手を差し出すが、衛宮は顔を赤らめてこっちを見ようとしない。
「ん、どうしたんだよ衛宮、あたしとは握手が出来ないか?」
 からがい気味に言うが衛宮は顔を赤らめるだけだった。
「あ、あのな美綴、怒らずに聞いてくれないか?」
「?」
 相変わらずこちらを見ずに何かを伝えようとする衛宮。
「あ、あのな、お前の着ているゆかたーっ!」
 いい終える前に派手に転ぶ衛宮。
 視線をアサシンに向けると床に置いていた長刀を持ち上げていた。
 あたしは長刀を使い衛宮を転倒させたとわかり。
「ちょっと、アサシン同盟を組んだばかりなのに何やってるの!」
 あたしはアサシンに向かって怒鳴るが、アサシンは涼しい顔をして。
「綾子」
「何よアサシン?」
「君の着ている浴衣は本来、男性用だ」
 いきなり変な事を言い出してくる、アサシンは続けて。
「普通に着ただけでは、見下ろされると女性用に比べて胸が見えてしまうのだよ」
「!!」
 慌てて胸元を見ていると確かに大きく開けているのがわかった。
 あたしは頭を押さえている衛宮に笑顔を浮かべ。
「え〜み〜や〜、何時からお前そんなにスケベになったんだ」
「つぅ〜、ちょ、ちょっと待て美綴、これは冤罪だ、信じてくれ、な、な?」
 その言葉に笑みを浮かべ、手を上げるとアサシンが上手く備前長舟を投げてきた。
 それを空中で掴むと鞘に収めたままだが切っ先を衛宮に向ける。
「お、おい、それは卑怯だぞ、そんなモンで殴られたな死んじまう」
 あたしの横にセイバーが立つ。
「セ、セイバー、お前はわかってくれるか、は、早く美綴を止めてくれ!」
「セイバー、邪魔する気?」
 衛宮の言葉にあたしは反応し、セイバーを睨む。
「………いえ」
 彼女は首を横に振りどこから出したのか手に竹刀を持っていた。
「お、おい、セイバーさんそれは何ですか」
 衛宮は震える声でセイバーに聞く。
「シロウ……貴方は婦女子の敵です」
「ちょ、ちょっと待ってくれよ二人共、話せばわかる、だ、だから話合おう……」
 あたしとセイバーは同じような笑顔を浮かべ。
「「問答無用!!」」
 それから数十分、士郎をあたしとセイバーは共に袋叩きにした。


 あたしは一息付く。
「そう言えば今日、ここに泊まるからよろしくね。セイバー」
 ぼろぼろになって気絶している家主を無視し、セイバーに聞く。
「ええ、それは構いませんが…」
「大丈夫よ、起きたらすぐに家に帰るから」
 あたしは笑顔で答える。
「そうですか、なら和室を使えば良いと思います。……案内します」
あたしは備前長舟を手に取り、アサシンに刀に戻るように命じるとアサシンは無言で姿を消し「行くぞ」と刀から声を出してきた。
セイバーの後を追う。
案内されたのは広い和室で三人は楽に寝れそうな部屋だった。
セイバーは押入れから布団を出し、器用に敷くと廊下に出て行った。
「さてと、今日は疲れたし……あたしはもう寝るから」
 刀に語り掛けるが、アサシンは答えなかった。
 苦笑を浮かべながら電気を消し、布団の上に刀を置くと、布団に入り込む。
やはりかなり疲れていたそうで、あたしはすぐに深い眠りについた。





激戦、のちに……  了


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