The bow and the sword   第三話中編(M美綴 綾子 Hなし)


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1: MARU (2004/03/28 15:20:55)[hirotan9 at happytown.ocn.ne.jp]

襲撃





「……じゃあ、美綴さん頼んだわよ」
「はい、わかりました」
休憩室の前で藤村先生との話し合いを終え、藤村先生は指導しに場を離れた。
あたしは休憩室のドアを開けると衛宮が座ってのんびりしていると思いきや難しい顔をして唸っていた。
「邪魔するわよ〜……って、なに唸ってんの衛宮。藤村先生に灸でも据えられたのか?」
「…よくわかったな、あまり拘るなって言われて……」
「なら、ちょうどいいじゃんか、あたしの弓を貸してやるから射ってくればいいじゃん」
「あのなぁ、そのことで悩んでるのにそんなこと言うなよ」
「…へぇ〜意外だな」
「何が?」
「あんたがまだ弓道に興味があったなんて」
「ん、俺が飽きたと思っていたのか?」
「ああ」
 あたしは少し意外だった。てっきり衛宮は弓道に飽きていたのかと思っていたからだ。
 衛宮は弓道部に入って的を外したのはたった一度だけで、それをからかおうとしたあたしがそのことを聞くとまるで外したことも予定の内のような素振りを見せていて、『ああ、こいつは弓なんか持たなくてもいいんだな』と思ったほどだったからだ。
「…………」
「…………」
 しばらく二人して無言のまま見つめ合ってると。
「シロウ、貴方は弓を使えるのですか?」
「!?」
「!」
 ハッとして振り向くとそこには、あの外人さんが居た。
「セ、セイバー。お前喋るなって言っておいただろう」
 衛宮の言葉はあたしの後ろにいるセイバーと呼ばれた少女に向けられた。
 彼女は真面目な顔をして。
「シロウ、その事は申し訳ありません。だが今はそれよりも答えて頂きたい」
「な、何をだよ」
「だから、シロウは弓を使えるのですか?」
「あ、ああ、使えるけど、それが何だよ」
「なら、彼女が弓を貸していただけるのでしたら、その腕前を見せてほしい」
 セイバーはあたしの横に来ると軽くあたしを一瞥してから言った。
「……何で?」
 衛宮も驚いているようで聞き返している。
「弓の腕前を知れば、今後の対応も立てやすい」
「……………」
 彼女の答えを聞いた後、衛宮はしばらく考え込みだした。
「ね、ねぇ、貴女はセイバーさんと言うの?」
「はい、セイバーと呼び捨てで構いません」
 あたしは考え込んでいる衛宮を見るのを止め、横に居る少女に話しかけた。
 彼女は女のあたしでも惚れてしまいそうな微笑を浮かべて答えてくれた
「貴女、喋れたのね」
「はい、しかしシロウには喋るなと言われていたので、今まで黙っていました」
「そ、そう、……じゃあ衛宮とは知り合いなんだ?」
「……そうなりますね」
「じゃあ、今は何処で暮らしているの?」
「昨日からシロウの家にいますが」
「――――――――――――」

なんだか爆弾発言を聞いたような気がした。
 
少しショックを受けているあたしをセイバーは一瞬考え込み、そして。
「何か問題がありますか?」
 凄いことを何の問題も無いような顔をして彼女は言ってくれました。
「い、いや、それよりもその事を藤村先生や間桐さんは知っているの?」
「いえ、知らないと思いますが」
「…………」
 セイバーとの話を止め、衛宮が彼女達にどう説明するんだろうと思い始めた時。
「………なあ、美綴。弓を少し貸してもらうぞ」
「え、ああ、あたしから言ったことだから別にいいけど」
 衛宮は立ち上がると休憩室から出て行く。

 あたしとセイバーも休憩室から出て行くと、衛宮は弓置き場にすでに着いていてあたしの弓を手にしていた。
「せ、先輩!」
 その姿を見た間桐が走って衛宮の傍に行き、少し話を交わすと今度はこちらにやって来た。
 興奮しているのか、顔を真っ赤に染めている。
「しゅ、主将、先輩が弓をやるって……」
「はいはい、そう興奮しないでよ間桐」
「は、はい、でも……」
「お礼を言うのならあたしにじゃなくて彼女に言ってね間桐」
「え、……彼女、ですか」
 あたしがセイバーを指差すと先刻までの興奮は何処へやら、警戒の視線をセイバーに向ける間桐。
 あたしはその視線に気付かないまま喋る。
「そう、彼女が見たいって言ったから衛宮も弓を持ったのよ」
「そう……ですか」
「ん、どうかした間桐?」
「い、いえ、何でもありません……それよりも」
 昏い目でセイバーを見ていた間桐に気付き声をかけると、間桐は慌てて視線を衛宮の方に向ける。
あたしもそれに習い目を衛宮に向けると丁度、射に入る所だった。
射っていた部員も手を止め、衛宮の一挙手一投足を静かに見守る。
 衛宮はすでに集中しているようで周りからの視線には気付かず、流れるような動作で弦を引き、しばらくしてから弦から手を離し。
 ―――――トン。
 矢がまるでそこにいるのが当たり前のように、的の真ん中に刺さっていた。
 残心を終え、衛宮は一息付くと二本目の矢、乙矢を持ち射に入る。
 静まり返る弓道場で黙々と矢を射る衛宮。
 ふと、セイバーを見ると彼女は真剣な表情で軽く頷きながら衛宮を見ていた。

 それからも数回ほど矢を放ち、満足したのか射場を離れるとまっすぐにあたし達の方に歩いてきた
「うん、なんだかすっきりした。ありがとな美綴」
 衛宮はあたしに弓を返す。
「あ、ああ」
 弓を受け取り、何とか返事を返すあたし。
「ん……なんだか静かだな、うわっ…一体どうしたんだ、みんなこっち見て」
「アンタ、気付いてないの?」
「何が?」
 自分が周りから注目されたことに今頃気付いた衛宮に呆れながらも答える。
「あれだけ凄い事をやったのよ、注目されるのは当たり前じゃない」
「……そんなに凄かったのか?」
 自覚していない衛宮に少し腹を立てながら。
「凄いわよ、アンタの射はもう達人の域にいってるじゃないかと思うくらい」
「……それは言いすぎだろ、俺なんてまだまだだろ」
「はぁ、……自覚がないってのも問題よね」
「…今、俺のこと馬鹿にしただろ、美綴」 
 顔をしかめてあたしに食って掛かる衛宮。
「そういう所には敏感なのにね」
「む………」
 それについては自覚があるのか衛宮は唸るだけだった。
「……それより、セイバー」
 立ち直り、衛宮はセイバーに顔を向けると。
「これで俺の弓の実力はわかったか?」
 衛宮の腕前を見たがっていたセイバーに聞くと、彼女はコクコクと首を縦に振った。
 衛宮が休憩室に戻ろうとすると。

「何ですってーーーーーーー!!!」

 鼓膜も破れんとばかりに大音声が弓道場に響き渡る。
咄嗟にあたしや衛宮、セイバー、間桐ら大半の部員は耳を押さえて事無きを得たが、反応が遅れた数名の部員が悶絶して倒れていた。
事の原因である人物が怒りながらこちらに走ってくる。
「士郎ーーーーーー!!、なんで私が居ない間に射っちゃってるのよーーーーーー!!」
 その人物は衛宮の肩を掴み、持ち上げてユサユサではなくグラグラといった擬音が似合いそうな位の勢いで揺すっていた。
「ちょっ、ギ、ギブ………藤ね……や……め………き……悪……」
「わ〜〜〜〜た〜〜〜〜し〜〜〜〜に〜〜〜〜も〜〜〜〜、み〜〜〜〜せ〜〜〜〜て〜〜〜〜よ〜〜〜〜〜」
 藤村先生は半狂乱で衛宮を揺すっている。
「せ、先輩、ちょっ、藤村先生……」
 呆気に取られていたあたし達だが間桐はすぐに正気を取り戻し、衛宮を助けようとした。
「ま、間桐」
「…や、止めてください、先生ってば……え?」
 衛宮を助けようと藤村先生の腕を掴む間桐にあたしは話しかけた。
「ここは任せたわ、あたしは倒れている部員の介抱に行くから」
「は、はいお願いします主将。……せ、先生、手を離してください」
 間桐が返事をして再び藤村先生を止めに入った。
 あたしはその場を離れると倒れている部員達を介抱しに向かった。
「み〜〜〜〜せ〜〜〜〜て〜〜〜〜よ〜〜〜〜〜」
背後から聞こえる声は無視した。


倒れていた部員達も症状は軽く、しばらくすると部活にも参加した。
……藤村先生はやはり間桐一人では止めるのは無理だった、なのであたしを含め力自慢の部員数名で引き離した。しばらくは不機嫌だったが、意識を取り戻した衛宮が次は必ずいるときにやると言ってくれたおかげで機嫌が直った、………次がいつ来るかはわからないが。

日も傾き始め時刻も五時を少し過ぎた頃に部活が終わった。
後片付けも終え、後は鍵を職員室に預けるだけだ。
弓道場の扉の鍵を閉め校舎へ向かおうとすると衛宮に呼び止められた。
「そういえば慎二はどうしたんだ、今日は見かけなかったけど」
「ただのサボりよ……って、思い出した」
 あたしは慎二の話題が出てきたことで、衛宮が昨日の掃除をしてくれたことを思い出した。
「美綴、どうしたんだ一体?」
「昨日は悪かったな」
「?」
 忘れているのか、または慣れているのか、言っていることがわからないといった風に首を傾げる衛宮。
「アンタ、昨日は弓道場の掃除を慎二から押し付けられたでしょ」
「あ、それか……でも別に押し付けられてなんかじゃないぞ、やってくれと頼まれたからやっただけだ」
 コイツは別に慎二を庇ってそう言ってるんじゃなくて、本当にそう思って言ってる。
 あたしは多少呆れながら。
「……アンタはそう言うけど、一般的には押し付けられたって言うんだよ、ソレは」
「…そうなのか?」 
「そうなの……慎二には後でちゃんと言っとくから」
「別にいいよ、こっちも好きでやったんだから」
「そう言う訳にもいかないよ、慎二だって副主将なんだ、雑用の一つや二つはちゃんとやって貰わないと他の部員にも示しが付かない………ってアンタに愚痴っても仕方ないか」
 アハハと笑って誤魔化すあたし。
「色々大変なんだな、…俺はもう帰るけど美綴は?」
 聞いてくる衛宮にあたしは部室の鍵を弄びながら。
「あたしは野暮用を終わらせてから帰るけど……そうだ、衛宮」
「な、何だよ、まだ何かあるのか?」
 にんまりと笑みを浮かべたあたしに衛宮は少し後ずさりながらも聞いてきた。
「詳しくは聞かないけど、これから大変だな」
「た、大変って何が」
「セイバーの事よ。彼女、今アンタの家に住んでるんだって」
「な、な、な、な、な、」
 衛宮はびっくりして口をパクパクさせている。そんな様子を見て、あたしは笑みを深め。
「何で知っているのかって、それはセイバー本人から聞いたのよ。……そんな事より二人になんて説明するの?」
「――――――――!」
 今、そのことに気が付いたのか、形容し難い顔をして絶句した。
「ま、骨は拾ってやるよ、じゃあな少年」
 笑いながらあたしは絶句している衛宮をその場に置きざりにして、校舎へと足を向けた。

「ん?」
 職員室に鍵を納め。校舎を出たあたしは何気なしに弓道場の方に目を向けると、今日は居なかった筈の人物がそこに居た。
 あたしは急いでそこに向かう。

 その人物に近付き。
「……慎二!」
 あたしは今日部活を休んだはずの間桐慎二に声を……怒鳴りつける。
「ん、……ああ、綾子じゃないか、どうしたんだそんなに血相を変えて」
 まるであたしが何で怒っているのか、まるでわからないといった風に聞いてくる慎二。
「自分でわからないの?」
「ハア?……なんで僕が、君が勝手に一人で怒っていることの何がわかるんだよ」
 何言っているんだ?というような顔をしている慎二
 あたしは深呼吸して少し落ち着き、冷静な声で慎二に答える。
「今日部活をサボった事と、……昨日、掃除を衛宮に押し付けたことよ」
 あたしの答えに、そんな事かと軽薄な笑みを浮かべ。
「今日用事があって、さっき終わったばっかりだったんだよ、それで今来た所だったけどもう終わってたんだよ」
 その言い分は多少理解出来るので軽く頷く。
 それを見てあたしが完全に納得したと思い、続けて慎二は。
「掃除の方は……アレだ」
「アレ?……アレって何よ」
 訝しげながらに聞く。
「…そう適材適所ってやつだよ。ほら、衛宮は頼まれること好きだろう、だからちょうど困っていた僕は衛宮に頼んだんだよ」
「……………」
あたしが沈黙しているのを肯定と勘違いした慎二がさらに続ける。
「バカとハサミは使いようって言うだろ、バカな衛宮にただ僕はアイツが活躍できる場を与えたに過ぎないんだ、感謝されることはあっても批判される覚えはないね」
 納得しただろうといった顔であたしに軽薄な笑顔を浮かべ続ける慎二。
「……慎二、あんた衛宮とは親友だよね」
 ポツリとあたしは口を開いた。
 慎二はまるで心外だといった顔で。
「ハァ、一体何言ってるんだよ?アイツが僕の親友なわけないじゃん。僕みたいな選ばれた人間があんなクズと親友だなんて同列に扱うなよ綾子」
「……そうか、わかったよ」
「ん、わかってくれたか綾子、君もなかなか聡明だったんだな」
 笑みを浮かべたままあたしに近付き、肩に手を置こうとする。
「ああいうバカは僕みたいな人間が使ってあげるのが……何するんだよ、綾子」
 肩に手が置かれる瞬間、あたしはその手を払いのける。
「わかったって事はね……」
「な、何だよ」
 あたしの気迫に押され、じりじりと後退する慎二。
「アンタがどうしようもないクズってことよ」
 言い終えると、あたしは慎二を殴るべく駆け寄る。
「ひ……」
 慎二が怯えて頭を庇おうとする。その時、手に本を持っていることに気付いた瞬間、異変が起きた。
 黒い旋風があたしを襲ったのだ。
 
 直後。

「え……?」
 あたしは宙を舞っていた。
 その事にすぐ気付いたあたしは地面に叩きつけられる前に受身の体勢を取る。

ダンッ。

「…………ッ!」
何とか頭から落ちるのは免れたが、背中を強打するあたし。
肺に溜まっていた酸素がその衝撃で一気に吐き出されたかのように、呼吸が出来ず苦しむ。

「はぁ、はぁ、……くぅ…い、一体何が起こったの?」
呼吸が出来なかったのはほんの数秒だったがあたしには何時間にも思えた、呼吸が出来るようになるとすぐに立ち上がり、何が起こったのか辺りを見回す……と。

 5メートル程離れた所に顔を腕で覆っているままの慎二との少し前に、あたしに何かをしたと思われる人物が立っていた。
 その人物を見た瞬間、ゾクリと背筋が凍りつき、あたしは金縛りにあったように動けなくなった。

 その人物の顔は慎二の方を向いている、姿は……身体を見る限り女性のようだが身長は話をしている慎二より少し高く、髪は足まで届くほどの長さだ。
……慎二との会話が終わったのか、女性がこちらに振り向いた。

悪寒が激しくなる。…女性の顔には特殊な素材で目を隠されているが、確かにあたしの存在を認知しているようだ。

 彼女はゆっくりとした動作であたしに近付いてくる。

コツ、コツ、コツ……。

本来、聞こえるはずが無いはずの女性の足音があたしの耳に響いてくる。

 コツ、コツ、コツ……。

 彼女があたしの目の前まで来た、そしてあたしの首筋にスゥッと手を伸ばしてくる。
 あたしは金縛りが解け咄嗟に手を払うと、脱兎の如くその場から逃げ出した。

「は、はははははは……」

 背後から慎二の気が狂ったかのような笑い声を浴びながら、あたしは学園から逃げだした。


interlude3−1


日が沈み、暗闇が支配する柳洞寺で黒き魔術師と青き槍兵が対峙する。

「何の用です、ランサー」
「何の用かって、俺が遊びに来たとでも言えば信じるのかキャスター?」
 キャスターの問いに、手にした槍を弄びながら答えるランサー。
「そうですね……このまま素直に引き下がれば信じるかもしれませんよ」
 キャスターは手を門の方へ向け、ランサーの退去を促す。
 しかしランサーはその言葉に頷かず、その場に佇んだまま。
「昨日…いや今日か、まぁどっちでも構わないんだが自分の番犬に手を噛まれて弱っているアンタから逃げだすほど……俺は弱腰でもないんでね」
 言いながらランサーは槍を構える。
「な、何でその事を貴方が知っているのです?」
 彼女以外知るはずも無い事柄を指摘され、狼狽するキャスター。
「…さてね、そんな事よりもそっちの準備は出来たのかい…キャスター?」
「じゅ、準備?」
 ランサーの言っている意味がわからず、聞き返すキャスター。
「ああ、戦いの準備だよ」
「……いいのですか、そんな事を言っても後で後悔するかもしれませんよ」
 ランサーは笑い。
「何も言わずばっさりというのも味気ないんでね、少しくらい抵抗はしてくれないと面白くない」
「ふふふ…、愚かね」
「…………」
 キャスターの笑いは気にせず、闘気を高めるランサー。

「…………」
「…………」

しばらくの間、微動だにせず対峙する二人。

「……行くぞ、キャスター」

 ランサーが開始の合図を送る。…その瞬間、青き槍兵の姿が消えた。
 
ランサーは文字通り高速の如き速さでキャスターに詰め寄り……。

シュンッ。
突然、空から空気を切り裂き何かが降って来る。

「!」
「え?」

ランサーは後ろに大きく飛び退く。
ランサーが飛び退いた場所、キャスターの目前の地面に何かが突き刺さった

地面に刺さっているのは一本の剣だった、形状は西洋剣の一種であることはわかるが、ソレが何故ここに突き刺さっているのかキャスターはわからなかった。

「テメェ、一体何しやがる!!」
「!?」

 突然ランサーが横に向き直り怒鳴りだした。キャスターもランサーが向いている方角に目を向けると。

 一人の青年が立っていた。
 青年が着ている服装や肉体を持っているので人間の筈だが、青年には人間とは思えないほどの気配が感じられる。

「聞いてんのかよ」
「…………」

 ランサーの声など聞き流しているのか、涼しい顔をしてランサーに近付いていく。
 ふと、青年がキャスターに顔を向ける。
 
ゾクッ。

 サーヴァントである彼女が青年に見られただけで悪寒が走った。

 青年は顔を戻し、ランサーに向き直ると一言。
「作戦は変更だ、ランサー」
「何だと?」
 思わず聞き返すランサー。
「貴様はアサシンの方へ向かえ」
「…じゃあキャスターはどうするんだ」
 ランサーの問いに青年は笑みを浮かべると。
「我が始末する」
「…………」
 沈黙するランサー、青年は体をキャスターの方へ向け。
「早く行かぬか」
「チッ、わかったよ……で、場所は?」
 槍を虚空に戻すと青年に居場所を聞く。
「新都の方へ向かったそうだ、後は貴様で見つけろ」
「はぁ、うちのマスターは人使いが荒いな」
 愚痴を言いながらランサーは姿を消した。青年の言う通りにアサシンを追いに行ったのであろう。

 キャスターは青年に話しかけた。
「……貴方がランサーのマスター?」
 キャスターが疑問をぶつけると、青年は急に笑い出した。
「ハハハハハハハハ……、面白いことを言うな雑種」
「な、何が可笑しいのです」
 青年は笑うのを止め、片手を軽く上げながら。
「我がマスターなどになった覚えは無い」
「な、なら貴方は一体?」
「貴様如きに答える必要は無いな」
 青年は言い終えると上げていた手の指で音を鳴らす。

 パチンッ。

直後、青年の後ろから空間を歪めて何かが姿を現してきた。
「――――――――――!」
 キャスターは信じられないといった顔で青年とその後ろに出てきたモノを見ている。
「…あ、貴方は……い、一体?」
 震える声で再びキャスターは問うが、青年は答えず…ただ一言。
「死ね」

 キャスターにとって永遠とも思われる地獄が始まった。 


interlude out




                 襲撃  了 


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