夢を継ぐ一人の男 第12話 死神は似合わない M:衛宮士郎、遠坂凛etc... 傾:シリアス?


メッセージ一覧

1: Hyperion (2004/03/28 02:05:12)[eternal_free at nifty.com]

12、死神は似合わない



「そうか、君も大変なんだな」

ホテルの外にある広場。
噴水。ちょっとした飲み物を売るお店。
ここはイギリスだっていうのに、広場の隅にあるベンチには二人の日本人。

「いや、俺の方はまだましさ。でも、なんだか似た境遇だよな。
俺も君もこの魔術大会に出ている」

「それは、俺は出たくないっていったけど、
アルクェ……他の奴に強引に参加させられることになったんだ。
それを聞いた妹は付いて来るっていって手続きは勝手に済ませるし、散々だよ」


後少しすれば、一面が花に囲まれる広場。
今は黒いカーテンに覆われた、肌寒い広場。
まだ、気温は10度に満たない息が白くなる寒空の下で、
衛宮士郎は偶然、その広場に座っていた日本人の男を見つけた。
ここはイギリスだっていうの、結構な高級ホテルであるここの広場で、
自然と佇む眼鏡を掛けた好青年。
衛宮士郎はなんとなく彼に興味を持った。
そうでなくとも、此処に来てからまともな男友達と逢えたことなんてなかったし、
彼の佇まいを見ていて、悪い人ではないと感じ取れた。
率直にいうと、話してみたい。そう思った。
それに、彼は自分と同じ顔をしている。
そう思ったことが、なによりも衛宮士郎の足を動かした。


「そうか、うん。大変だなやっぱり」

「そっちこそ。君と同じくらいの女の子が二人もいるんだろう?
それに加えて綺麗なお姉さんだったかな……?
それこそ、色々と大変じゃないか。―――男としてね」

青年と士郎はお互いの名前の交換すらしていないが、それでも二人は打ち解けていた。
二人はお互いの名前が解らない訳ではない。
それでも、今はその関係とは違う位置にいたいと願ったのか、
二人とも相手のことを『君』と呼んでいた。
狂気が渦巻いている今。
この街で、彼らが求めていたただ一握りの聖域がそこにはあった。
海から流れる遠いアジアの島国と比べれば比較的暖かい寒気、けれどそれもまたアクセント。
寒いから何かをしていたい。そうすればこんな気持ちとはおさらばだ。
その身を裂くかのような冷気が、彼らの話を進めていた。

意味なんかないって解っていながら二人はそんな話を。
唇の皮が剥げてしまうまで、この乾燥した寒い広場で、
男と男にしか出来ない話を繰り返した。



_ _ _ _ _ _ _ _ _ Rin’s viewpoint


私達が勝ち残った。
ライダーがいるのだから、イレギュラーさえいなければ初めからこうなる予定だった。
あの一戦から私は二試合の間、戦線を離れていたけれど。
やっぱりライダーは英霊だ。
勝ち上がって来たチームが手強いとはいえ、ほとんどライダーと桜だけで勝ち抜いていったらしい。
でも、さすがに準決勝の相手は強かった。
音使いか風使いか、とにかくあの人の剣戟は私が連れ帰った女性とは桁違い。
あの魔術師の繰り出した魔術。これぞ、本職の成せる技。
本当に、ライダー無しでは危なかったかも。
あの試合は、ほら……私は復帰したばかり、だったし……?
あんまり、役に立てなかったかな……?

「―――やはり、素直じゃないんですねリンは」

……。こんな事言われたら尚更だ。
あいつは桜の大切な人だし。
何で、桜に幸せになって欲しい筈のライダーがそんなこと言うのよ。
私は姉だし。別にあいつなんかじゃなくったって、
いくらでも私に指輪をプレゼントしてくれる男なんているんだし。
『結婚してください。ボクを奴隷にして下さい。ボクゲドウマーボーコンゴトモヨロシク』
全く世の中の男はこんなのばっかりなのか。
もちろん、その指輪『だけ』受け取ったけど。

え……?当たり前じゃない。くれるって言ってる物は貰っとかないと相手に悪いじゃない?

でも、夢に出てくる男っていったら、父親とか、誕生日に毎年服を持ってくる言峰……とか。
でもやっぱり、肝心なところで出てくるのは、いつもあいつ……。

「何よ、なんか文句あるわけ……?」

誰もいない部屋に響くだけ。それでも言わないと気が済まなかった。
私だって好きであんな奴の顔見てるわけじゃないわよ。
―――だって。

私が、倒れたとき……血相変えて走り寄って着たんだもの……。
どうしろっていうのよ。
そりゃあ……藤村先生には、ああ言ったけど―――。

こんな事認めたくないけど!
何でか解らないけど……。
やっぱり―――。



「私、あいつが―――」


「あいつがどうかしたのかい?お嬢ちゃん」


―――わたしが本当の気持ちを言おうとするといつもこう。
急に背後に現れた青いサーヴァント。

「―――なんでもないわよ。
それより急に何よ?せっかく見逃してあげたんだから
ルヴィアお嬢様の近くに仕えるのがあなたの役目じゃないわけ?」

「ああ、それはそうだが。
俺とあいつとはパートナーだ。
俺はあの女のように契約をしてるわけじゃねえからな。
祖国を守るために戻ったきた、だけだ」

「それで、あなたがエーデルフェルトのお嬢様と契約していないのはわかったけど。
いったい何をしようとして、女の子の部屋に勝手に入り込んだのかしら?
わたしは許可した覚えはないけど」

「おっと、それはすまなかった。だが、いい話を持ってきたんだがな……?
何、嬢ちゃん達に協力してやるってだけさ。
解ってるんじゃねぇのか?俺らよりも尊い幻想が明日のチームにいるって事ぐらいはよお?」

もちろんそんなことは解っている。
さっきだって最初はアレの、あの女への対抗手段を考えていた。
途中でつまらない考えにその席を譲る羽目になったけど。

「それは、わたしとしては願ってもないことだけど。
あなたのパートナーが許すはずもないと思うのだけれど」

「それなら問題ないぜ。
あっちの嬢ちゃんも了承してる。
『貴方の目的に協力するからにはそれが一番ですわね』だとよ。
それと、嬢ちゃんへの借りを残しておきたくねぇのだろうよ。
だがよ―――、一つだけ条件がある」

満月の夜、この暗闇の中で尚も青々しく輝く一人の男は悪態をついて、
近寄ってくる。
男が示す条件とは何なのか。
彼はこの世に未練はないと、そう言った気がする。
自分は生前に思い残したことはないと。
欲しい物などなにもない。
彼が欲するものは
その彼が出す条件とは何なのか。
彼女の意向による条件なのか、それとも別の何かか。

「それで……?あんたの要求は何なのよ?」


ランサーはわたしのことを気に入っているとか言っていた。
条件によってはこいつ、殴り飛ばす。


―――あの女のことを教えろ。


こいつが言ったのはそれだけ、変な想像してたこっちが馬鹿みたいじゃない。


「何、俺はこの間の試合、嬢ちゃんがぶっ倒れちまった時だ。
あの時観戦していたんだがよぉ……」

あぁ、そういうことか。
彼にはあの時の記憶など皆無なのだろう。
わたしが彼女と話していた内容が気になるのだろうか。
それとも、覚えていて聞こうとしているのか。
どちらにせよ、こいつにとっては良い事なんかじゃない。
だっていうのに、こいつは聞こうとしている。
聞いてどうするというのか。
それでもわたしにはこいつに話してやる義務があると思う。
だから話そう。こいつがどう思うかも解らない。それでも話そう。
それが、彼女への。何よりこいつへの、消えてしまった記憶への手向けの花ではないか。




―――ランサーが凛に話を聞いて何をしたのか。それはまた別の話―――



_ _ _ _ _ _ _ _ _ Shiro’s viewpoint






「ダメです、士郎。それ以上彼に近づかないで下さい」

ライダーの言った、たったの一言で。
二人の夢も終わりを次げた。

リングの上。本気で斬り合っただけ。それだけでライダーは俺と遠野を突き放そうとする。

「ライダー、俺だってこれから遠野とやり合うってことは承知してる。
だからといって、やり始めてしまって、それが許されないって言うのか?
それは、俺たちの心構えを崩すことになる……」

これだけは譲れなかった。
例えライダーがなんていい返そうと覆すつもりはない。

「いくらあなたが優れていようと、彼が劣っていようと。その逆であろうとも。
彼と戦ったものは決して生きては戻ってこれません、だからいっているのです。
―――士郎、リングを今すぐに降りてください。」

以外だった。たしかに遠坂から聞いたとおりの能力者なら、
その戦闘能力は揺るぎないものだろう。
だが、そんなこともお構いなしでライダーは遠野と戦ったら生きていられない。
そう、言ったのだ。
遠野はナイフ一本で俺の投影した剣の剣戟と渡り合っていた。
だが、ライダーの言っているようなほどのことは何一つ感じられなかった。


「そうではないですか?あなた自身が一番それを理解しているはずだ。
―――あなた、一度死んだことがあるでしょう?」

死んだことがある……?そんなことはあり得な―――あった。
俺も一度死んだ。
死んだといえば語弊があるかもしれないけれど、
あのときに遠坂が俺を助けてくれなかったのならば。
ランサーに突き刺されたその胸の鼓動は次第にゆっくりとなっていき、
本当なら今は動いてなどいないはずだ。



「先程からあなたの剣筋を見る限りでは、必ず士郎の一番脆いところに
あなたのナイフは向かっています。
何よりも私の眼が疼くのです。ただの人間のあなたに、私の眼は恐れているのです。
―――聞いたことがあります。一度死んだものは、ぱっとなにかに繋がってしまうと。
ですが信じてなどいなかった。ええ、きっとそこに居るお姫様だって最初は信じてなどいなかったのでしょう?
……今あなたは、擬似的とはいえ繋がってしまっているのですね。
先天的なものではないにしろ、このような異常な能力。
私の時代でもあなたのような人はいませんでした」

「ライダー、それどういうこと?私には何がなんだかさっぱり……」



「―――直死の魔眼―――そうですよね……?」


ライダーの言葉が静まり返っていた会場に響いた瞬間に、
遠坂の口が動かなくなった。
桜の呼吸は止まった。
その言葉は聞いた事があるのか、観客の一部は静まり返って恐怖した。
リングを見守っていたお偉い方でさえ、その息を飲んでいた。

ライダーが言い放った一言で、そのたったの一言で。

人々が少年を見る目は、人を見る目ではなくなっていた。


アレは人ではない。人ではない。人ではない。人ではない。
人ではない。人ではない。人ではない。人ではない。人ではない。人ではない。人ではない。人ではない。
人ではない。人ではない。人ではない。人ではない。人ではない。人ではない。アレは―――。


「―――死神―――」


そう最初に言ったのは、マイクを握っていた実況の女魔術師。



やってきた風に揺らされる木の葉。
風に揺らされて起きるなんて簡単なものではない。
それこそ台風に恐れて軋むように、そしてそれは広がって、そしてそれは戦場を黒く染め上げた。
あってはならないモノ、既にこの場にはそれがいるというのに、それすらも無に帰すことができるかもしれない。
そんな黒い強風が衛宮士郎の身体にも感じられた。
でも、彼は黒く染まることなどしなかった。
この会場でライダーの言葉の意味が理解できた者の大半の心が、黒い感情に塗り替えられても、
彼はいつまでも白で立っていた。

「だから、それがどうしたんだよ」

「士郎、下がれというのです。この戦いは貴方に勝ち目はありません。
例え彼に痛手を負わせたとしても完全に仕留めなければ彼に殺されるだけです」

「いやだ、俺は退かない」

「……そうですか、残念です、士郎。
あなたはこういう時に何を言っても聞かないのはリンもサクラも解っている筈です。
だから、私はもう何も言いません。ですが、生きて帰ってきてください。
あなたの手料理が食べられなくなるのは非常に惜しい」

ライダーは分かってくれた。
遠坂だって桜だって。
何も言わずにこっちを見つめてるのはそういうことなのだろう。

「生きて帰ってくるだって?
当たり前じゃないかライダー。
それに何も負けずとも―――あの魔眼をどうにかしてしまえばいいのだろう?」

「士郎……それはそうですが、そう簡単にはいきませんよ。
とはいえ、この初戦は貴方に任せます。私達も貴方の相手ばかりしていられませんから」

「任された。ライダーも死ぬなよ。桜と遠坂を頼む」

「けっ、小僧。お前一人でアレの相手をしようってのか?
そいつはちっとばかし骨が折れるぜ?」

「解ってるさ。お前だってライダーと二人がかりで精一杯なんじゃないのか?
それと、桜を頼む。今お前は桜からも魔力の供給を受けてるんだから、
それぐらいは頼んだぞ」

「違いねぇ、任せるしかないみてぇだな。こっちは任せとけ。
だが、嬢ちゃんを泣かせるようなまねをしやがったら承知しねぇぞ……」

そう言って蒼い弾丸は白い姫に、ライダーと共に疾走する。

「衛宮くん、解ってると思うけど。わたしも手助けはできそうにないから」

遠坂もあの少女の相手で手一杯になりそうということなのか。
危険過ぎた。そんなこと解ってる。それでも遠野の気持ちを受け止めなきゃならないと思った。


だって―――あいつには死神なんて似合わないのだから。

2: Hyperion (2004/03/28 02:11:09)[eternal_free at nifty.com]

「真・作者の駄文 その1」 (そのxじゃ不味いよなぁ。やっぱりでも真って……)

お読みくださった方有り難うございました!
いかがでしたでしょうか。
構想段階で躓いていて時間だけが過ぎてしまいました。
本当はまだ、完全にきまってはいないのですが……。
時間があまりにも経過しては不味い、と思い12話で予定していた量の30%ほどですが、
投稿させていただきました。
感想があれば書いてくれるとうれしいです。


余談ですが自分は人気投票は遠坂に入れます。
皆さんも遠坂凛に悪しき一票を!
―――あれ?

3: Hyperion (2004/04/02 05:13:31)[eternal_free at nifty.com]

13、貫くモノ

_ _ _ _ _ _ _ _ _ Shiro’s viewpoint


拮抗する剣戟。
込められた思い、避ける事など適わない。遠野の一撃は他の者達から見れば上手い剣捌き。
だが、少年から見ればそのどれもが必殺。
何も致命傷にならずともよい。ただ、そこにある線を引けばいい、それで終わり。
少年は知っていた、物の死を視るという事を。少年は知っていたその重さを。
そして少年は知っていた、その辛さを。

「俺には分からない」

何より、そんな簡単に分かると言ってはいけない。
桜、ライダー、そして……。数えることなんて無意味だった。俺がここ数年のうちに出会った人達は、
皆何か危ういところを持っていた。それは自分だって一緒だ。
点々と照りつける黒い日差し。そんな中で彼らは戦っていた。
きっと、あの白い吸血姫も、あの赤い髪をした少女も。

少年は終始無言だった。本より語ることなど意味を成さず。
その剣に掲げられた思いだけが消えることのない問いかけだった。

魔眼。直死の魔眼とライダーは言った。それはこの世にあってはならない能力。
こんな眼を持たなかったら、遠野の人生はどんなものになっていたのだろうか。
否、それでも遠野の人生は同じだったのだろう。例えこんな眼を持たずとも。
それは俺にとっても同じだった。
俺は例えあの時に、あいつの腕がなかったとしても、きっと逃げなかっただろう。
桜を守ると決めた。そのときから変わらなかった。
たった一人の正義の味方になった。
それを切嗣はどう思っていただろうか。

_ _ _ _ _ _ _ _ _ Sakura’s viewpoint


神速で放たれる紅い槍の打突。急所を狙う短剣の切っ先。
そのどれもがわたしたちにとっては必殺。
英霊二人がかりの決死の攻撃、でもわたしの目の前にいる白いお姫様はそれをいなす。
彼らだってこんなこと初めてだろう。どうしようもない戦力差。
白いお姫様は笑っていた。

「そっちの子は攻撃してこないの?したほうがいいんじゃない?」

そんな事解ってる。でも私がいくら攻撃したところであのお姫様はきっと無傷なんだろう。
怖い、逃げたい、敵うわけない、でも、先輩も戦ってる、私がここで逃げたら。
先輩が、あの女に殺される。だから私は戦わなくちゃいけない。
だって、先輩がいなくなったら私、どうすればいいかわからない。
先輩は私の傍にいてくれるって言った。

―――でも本当だろうか。

私だって姉さんのことが心配だった。
私だって心配してた。私だって戦ってた。
でも先輩が気遣っていたのはいつも姉さんだけだった気がする。
ライダーだってそうだ、私の使い魔なのに、なのにどうして姉さんの先輩への気持ちを煽ろうとしているのだろう。
わからない、けど今はそんなこと言っていられない。
それでも考えてしまう、もし、もし姉さんが先輩に想いを打ち明けたのなら、
先輩はいったいどうするのだろうか。
―――姉さんのところに行ってしまうのかな。
先輩は私の傍にいてくれるって……わからない、
それに姉さんは先輩の憧れの人だったんだ。先輩はそのことを私が知らないと思ってる。
どんなにかっこいい人に付き合いを申し込まれても、姉さんがそれを受けなかったのは、
心の奥にいつも先輩の姿が交差していたからだったんだ。
姉さんも先輩も私が知らないと思っているけどそれは違う。
私はいつだって、今だって、先輩が姉さんのところに行ってしまうんじゃないかって思ってる。
いつ先輩が姉さんと一緒にロンドンに行ってしまうのか、といつも怯えていた。

先輩の言葉を信じたいけど信じられない。

いままでの私ならここで負けてしまっていた。
―――でも、負けないんだから。
姉さんが先輩のことが好きだって言うのならしょうがない。
だって、私たち姉妹なんだし。少しくらいそういうところは似ていてもしょうがないじゃないですか。
私はこんどこそ自分の力で先輩を繋ぎ止めるんだ。
考えた末にそれだけは決めていた。
誰の力でもない、私の力で繋ぎ止めるんだから!

「いえ、私が貴女に無闇に攻撃を仕掛けたところで何も変わりそうにありませんから。
私はライダーとランサーさんにあなたを任せて後方支援するだけなんです。
それよりも、貴女は心配じゃないんですか?先輩だって、姉さんだって、一筋縄ではいかないですよー?」

満面の笑顔で返すんだ。それが今の私にできることだから。

「へぇー、私は貴女がこの中で一番精神的に脆いと思っていたんだけど、間違えちゃったみたいね。
心配には及ばないわ、志貴だって妹だって、そう簡単には参らないから」

笑顔で白い吸血姫は問い掛けを切り捨てる。
だが、それを黙って聞いていなかったのは桜ではなくランサーだった。

「あの二人がそう簡単に負けそうにねぇのはあんたの言うとおりだ。
だがよ?あんた知ってるか?あの小僧の能力。まぁ俺もあいつには一杯食わされたくらいだ、
あんたが知らないのも無理はねえ。しかし俺は知ってるぜ……?
あのとんでもねぇ能力の防ぎ方をな、所詮は魔眼だろ?世界の恩恵すら受けてるあんたが、
知らないわけは無いと思うんだがなぁ……石弾(俺の親父)をよお?
そっちの姐さんは知ってるんだろうよ?あんたも魔眼持ち出しなぁ」

ランサーさんはお姫様の爪と槍を交わしながら、企みを隠した笑顔を私に向ける。
石弾とはなんだったか……それを私に伝えようとしているのか。

「無論、私も存じていますが私が知っているのは弾というより槍ですね」

「……だから何よ?確かにアレがあれば志貴の魔眼を止められるかもしれないけど、
そんなものあるわけないじゃない。それとも何?貴方達みたいに長腕でも召喚しろっていうわけ?
それは土台無理な話ね」

「長腕、石弾、槍……?」

この三つのキーワードが示すもの。
ランサーさんが私に気付けと言っている。
魔眼に対抗できる……槍……?


Recollection_ _ _ _ _ _ _ _ _ Sakura’s viewpoint


「いい?衛宮くんも桜もここに来たからには私の指示に従って貰うわ。
まずは、そうね。取り合えず、そこに置いてある書物を読破するところから始めようかしら。
桜は読み飛ばすくらいでいいけど、衛宮くんはちゃんと読みなさいよ?
後でテストみたいなことするから……ねえ?」

うぅ、やっぱり姉さんは怖い。
あの笑顔の裏にどれだけの企みを隠しているんだろう。
今、一緒に生活してるときに垣間見る姉さんは、私が知っていた姉さんとは違う。
わたしの知っていた姉さんは、完璧超人で、いっつも何一つ不自由ないお嬢様だった。
それは擬態だったんだって今になってみればはっきりと判りました。

「おい、……遠坂」

先輩、それは言っちゃいけないんです。
それを言ったら姉さんの仮面が音を立てて崩れ去っちゃいます!

「あら、どうかしたかしら?衛宮くん」

背中で語る姉さん。先輩には背を向けているから解らないのでしょうか、
横から見る私ならば、決して抗議の声をあげようとは思いません。

「どうかしたかとは何事か……遠坂、そこに置いてある書物というには表現が噛み合わないんだけど」

あぁ……言ってしまいました。
先輩、こればかりはわたしも助け舟の出しようがありません。
今、ぶちっ、と音を立てて姉さんの仮面が崩れ落ちました。
姉さんは手に取ろうとしていた本に向かうのをやめて、そうして、こちらに振り返りました。


「文句があるのなら言ってみなさいよ士郎!
いーい!?元はといえばあんたがここに来てから見せた失態の数々が原因よ!
あんた、ライダーの生い立ちも、一般的な神話すら知らないってどうゆうことよ!?
じゃぁ、なんで金ぴかが出してきた数々の宝具は知ってるわけ……!?
この武器マニア!もうこうなったら……」


―――あかい悪魔ご立腹です―――
        ・
        ・
        ・
―――時は進んで、一時間後―――


「……とにかく!そこにある書物を読んでおくこと!」

ガタン!

姉さんは思いっきりドアを叩き閉めて出て行ってしまいました。
ご愁傷様です、先輩。
いえ、良くぞこの一時間姉さんのお説教をお聞きになられました。
桜は改めて先輩のことを尊敬し直しました。

「……先輩……?とにかくこれ読んじゃいましょう……?
今度姉さんが来たときまでに読んでおかないと、どうなるか解りませんから」

「―――うん。そうしよう……」

積み上げられた書物を囲んで、そんなちょっとした言葉を先輩にかけた。

先輩も判ったんですね。
さっきから命のアラームが立て続けに警告音を発し続けている事が。
そうです。そうしないと後がどうなるかわかりません。
それこそ、姉さんは今頃どこかで試し撃ちでもしているに違いないです。





―――そして二時間後―――


先輩はさっきから一つの本を繰り返し読んでいます。
真剣に、湖から零れ落ちそうな滴を抱えて。
知っています。
先輩はそれでも、最後まで湖を決壊させることはないでしょう。
いえ、先輩は……本当はそれを思いきり壊してしまいたいんです。
本当は洪水のように流れ落ちているんです。

本当は―――泣きたいんですよ。

「ごめん、桜……。
他の本も読まないとな!遠坂に叱られる」

私が先輩を見つめていることに気がついたのか、
そう言って、先輩は部屋の隅の机にその本を戻しました。
私には、先輩に返す言葉が見つかりませんでした。

その本は『アーサー王の死』

姉さんも……読ませたくなかったのなら、
どうしてもっと目に付かない場所に置いておかないのでしょうか。
どうしてちゃんと持って行かなかったのでしょうか。
部屋の隅の机、私たちがいま腰掛けている、中央の机とは違うところに、
一冊だけ、隠すようにぽつん、と置いてあった本。

「全く、あんなところにもあるのか。
遠坂のやつ、読めというのならもっと纏まった所に置いておけばいいのに」

それを見つけてしまった先輩。読ませたくなかった姉さん。
それは見つけられるべくして、先輩の下にやってきたのでしょうか。
日が落ちてきて、太陽がちょこん、と顔を出しているとき。
その、あかい日の光が一層、先輩の笑顔を照らしました。

先輩、ごめんなさい。ごめんなさい。
私がもっとしっかりしていたのなら……。

「なぁ、桜こっち来てみろよ。
これ、ランサーのやつの親父らしいぞ。親子なのに似てないよなぁ」

元気付けて上げなきゃいけないのは私なのに。
それなのに先輩は笑顔で、私に話しかけてくれました。

「……そうですねー。
似ていませんね、ランサーさんに。
でも、先輩見てくださいよ。こっちにある槍はあの人の槍にそっくりですよ?」




_ _ _ _ _ _ _ _ _ Recollection end


_ _ _ _ _ _ _ _ _ Sakura’s viewpoint


思い出しました。
ランサーさんのお父さんの槍。
魔槍ブリューナク、現代では、書物によっては石弾タスラムと同一視される槍。
魔眼、それを封じるためにはもってこいのこの槍。
先輩は思い出しているのだろうか。

「先輩!槍です。あの槍を思い出してください。
見たことも触ったこともないけど、きっと先輩なら……」

叫ぶ、伝えたくて。
唯一つの勝因となるべく武器の存在を、愛しい人に告げる。
突如……何を思ったのか、白い姫から今までに一度も相手にされなかった私に、
その爪が襲い掛かった。

咄嗟の反発に、彼女を全力でその腕を引き戻そうとした。しかし、それも無駄だった。
その爪を浴びせた彼女自身、どうしてこんなことをしてしまったのか理解できなかった。
言われていた、『本気で戦うな』と。
誰に言われた言葉だったか、それを守ることが出来なかった。
ただ、彼女も、愛しい人の危険に操られただけだった。

その場にいた誰もが、それを防ぐことは出来なかった。
途中で減速して威力を落とした一撃。
それでも、その傷は浅いというには余りにも深すぎた。

二人の男を除いてその場は凍った。
少年は気付いていたが振り向かなかった。今、彼が振り向けばそれで終わり。
目の前の少年はそんなことには微酔もせずに、ナイフを落とすだろう。
しかし、その言葉だけは噛み締めていた。


「先輩……私。役に、立てました……よね……?
大丈夫ですよ……、死ぬわけじゃないですから」

少女は倒れる。でも後悔はなかった。
何故かそれほど深い傷ではなさそうに思ったから。
例え死に至るほどの傷だったとしても、少しも、死んでやろうなんて気持ちがなかったから。
なによりも。
今度は守られるのではなく、自分で彼を守ったのだから。

4: Hyperion (2004/04/02 05:21:24)[eternal_free at nifty.com]

読んでいただいた方!本当にお読み頂き有り難うございます!
まだ、残っていたようなので再利用させていただきました。
最初からタイトルに12話とか付けるべきではありませんでしたね。
反省しております。
今回、第13話いかがだったでしょうか?
感想があれば、掲示板に書いて頂きたいです。


某掲示板にて叩かれてますが、完結させる、といったからにはやめることは決してしません。とはいえ、自分が未熟ゆえに叩かれるわけですから、
参考にさせていただいておりますが……。
批判があるならできるだけ、感想掲示板にお願いしたいです。
よろしくお願いします。


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