錬剣の魔術使い・第十三話 (M:士郎・桜 傾:ほのぼの


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1: 福岡博多 (2004/03/27 22:56:36)[cukn01 at poplar.ocn.ne.jp]

 「ところで、士郎。一つ頼みがあるんだけど。」

 「なんです、志貴さん?」

 「今度、志貴の固有結界、見せて貰えないかな。俺、刀剣に、興味があって。」

 「ああ、琥珀さんに聞きました。いいですよ。その代わり志貴さんのコレクション、見せて貰っていいですか?」

 「勿論。」

 「何か、仲良いわよね、あの二人。」

 「性格が似てるからでは?」

 「ミス・コハクは、その、よ、夜の顔が同じだからと。」

 「「なるほど。」」

 「「ヘックシュン!!」」




 錬剣の魔術使い・第十三話




 冬木に向かう電車の中。士郎の旅の話もとい尋問が繰り広げられていた。それも一段落したころ、アルトリアが、

 「シロウ。貴方の在り方が、五年前と異なるように見えます。地に足がついていると言えば良いのでしょうか?」

 「そうか?」

 「はい。自身を顧みないところは変わってないようですが。それでも、あの時より揺るぎないと言いますか、危うさがあまり感じられません。」

 「そうかもな。師匠や老師に色々叩きこまれたから。」

 「どのような事を?」

 「うん、あれは―」



 災害があった。士郎は人々を助けるため、死力を尽くした。けれど、助けられたのは、士郎が腕に抱く赤子一人だった。

 「士郎、生存者は?」

 「この子だけです、師匠。」

 力無い返答。

 「また、また助けられなかった!!」

 血を吐くように言う。これまで幾度となく味わってきた無力感。それが士郎を支配していた。

 「師匠、俺―」

 続く言葉は弱音か、諦観か、それとも悔恨か。だが、それは青子の言葉で形にならなかった。

 「士郎、その子は軽い?」

 赤子一人、士郎にとっては軽いものだ。士郎は腕の中の赤子の存在を確かめる。暖かい。生きている。

 「どうなの?」

 そう、生きている。体温が。鼓動が。確かにここに在る。命がここに在る。

 「軽くないです。」

 首を振って答えた。オヤジもこんな気持ちだったのか?胸にある想いを処理しきれない。

 「士郎。あんたにとって、誰かを助ける事は当たり前。だから、助けられなかった命、見捨ててしまったり、置き去りにしてきたものばかりに目を向けて、助けた命、拾ったり、その手が掴んだものをないがしろにしてる。そんなつもりは無くても、結果的にそうなってる。」

 反論できない。俺にとって誰かを助ける事は当たり前で、だから、助けたことを気に掛けない。気に掛けるべきは助けられなかったこと。

 「そりゃ、助けられたものと、助けられなかったものは等価じゃないわね。助けたから、助けられなかった事が帳消しになるわけないし。でも、助けられなかったものを背負うなら、助けられたものを忘れないようにしなさい。誇れとは言わないけど、胸は張りなさい。あんたは、その子を助けたんだから。その子も、覚えて無くても、忘れないわ、きっと。」

 「………はい。」

 「よし。それにしても可愛いわね、この子。将来、女泣かせになりそう。」

 「いや、師匠。この子、女の子。」

 「う、うっさい!!このバカ弟子がぁぁぁぁぁ!!!」

 「へぶ!!何すんだ、いきなり!!」

 「フ、フェェェェェェェェェェェェェ!!!」

 「わ、な、泣き出したわよ!どうにかしなさい、士郎!!」

 「よ〜し、よし。ほら、泣かないで。」



 「それで、その子は?」

 「信頼できる所に預けた。元気にしてるらしい。」

 答えを得たとは思ってない。でも、この四年間で得たものはかけがえの無いものばかりだ。

 「シロウは、自分の道をしっかりと進んでいるのですね。」

 「いや、まだまだ未熟だ。だから、その、俺を支えてくれるか?」

 「「「もちろん。」」」

 俺の言葉に聞くまでも無いですって感じで答える三人。

 「プロポーズみたいだぞ、士郎。」

 あ〜、言われて見れば、そうとれなくもない。ニヤニヤする志貴さんと真っ赤になる俺達を乗せて、電車は走る。



 冬木に着いたのは、夜遅く。家目指して歩く。ちなみにローテションで、右腕、左腕、背中と三人が位置を変える。歩きづらいが、このためにタクシーを拒否したので、邪険に出来ない。志貴さんは苦笑している。分かる、分かると目が言ってるけど。

 「懐かしいです。」

 家が見えてきて、アルトリアが言う。そうだな、アルトリアには何年ぶりってとこかな。でも、眠ってたんだからどうなんだろ?

 「うん、いい家だね。」

 志貴さんは気に入ってくれたようだ。玄関にかける。扉も向こうの気配は感じてる。志貴さんに目配せをする。

 「ただいま。」

 待ち構えるはすっかりお冠の桜とイリヤ。

 「「おかえりなさい!!」」

 ものすごく不機嫌そうな口調。そして、志貴さんが動く。

 「投影、開始!」

 顕れるのは、歪な短剣。全てを破戒する宝具!!

 「「「「「え。」」」」」

 眼鏡を外した志貴さんが歪な短剣を受け取り、桜の心臓を貫く。それは刹那の時間。

 「あ。」

 胸に刺さった短剣を目にして崩れ落ちる桜。それを支える。

 「さ、桜!!!」

 「シキ!!どういうつもりです!!返答しだいによっては……」

 「この家での狼藉は、いかにミスタ・トオノと言えど許せませんわ!!」

 「落ち着きなさい、アナタ達。桜は死んでないわよ。シロウ、セイバーがここにいる事を含めて説明してくれる?」

 「ああ。それじゃ、居間に行こうか。」



 「なるほどね。それじゃ、ここにいるのはサーヴァントじゃなく、「アルトリア」って言う人間なのね。」

 桜を部屋に寝かせてから、居間で説明をする。

 「それで、シロウ。さっきのあれはどう言う事?」

 その事に関しては女性陣の総意なのだろう。全員、嘘偽りは許さないという眼光を放っている。

 「その事に気付いたのは、仮免試験が終わった後、初めて帰って来た時だ。桜の体を蝕む毒と、桜の心臓に巣食う奴に気付いた。」

 「「「なっ!!!?」」」

 驚くアルトリア、凛、ルヴィア。イリヤは気付いていたんだろう。驚いた様子はない。

 「毒の方は、さっきの宝具「破壊すべき全ての符<ルールブレイカー>」で消せるけど、心臓に巣食う奴はそれじゃダメだったんだ。色々方法は探してたんだ。で、一昨日、その方法が見つかった。」

 「シキの力ですか?」

 「そうだ。桜に何の影響もなく、心臓にいる奴だけを殺せる力。」

 「な、どういう力よ。デタラメにも程があるわよ!?」

 「はは、まあ、それは男同士の秘密と言うことで。士郎、桜ちゃん、だっけ?彼女はもう自由だ。」

 「ありがとうございます!!」

 頭を下げる。

 「いや、頭を上げてくれ。こっちも助けられたし。」

 頭を掻く志貴さん。

 「それより、もっと早く先生に相談してれば、助けに来たんだけど?」

 「そ、それは、おいそれと相談できなかったんです。桜の過去にも関わることだったんで。」

 桜の蝕んでいたものの事と同時に、桜の間桐の家での日々も知る事になってしまった。だけど、桜は笑っていたから。何も、言い出せなかった―

 がたっ!!タッタッタッタッタッタッタッタ、ガララララ!!!

 「桜!!?」

 「早く、シロウ!!」

 「追いかけなさい、士郎!!」

 「一人で帰って来ちゃ許さないわよ、シロウ!!」

 「急ぎなさい、シロウ!!」

 「「シロウ!!」」

 女性陣が声をあげる。言われるまでもない!!

 「桜!!!」

 桜を追って、家を出た。


 士郎も出て行った後の居間で、お茶を飲む六人。落ち着いたものである。

 「良いのかい?ライバル増える事になるみたいだけど。」

 「構いません。いえ、むしろ、歓迎します。サクラなら文句はありませんから。」

 「なんか、その言い方だと他の誰かに文句があるように聞こえるけど。ま、私も桜に文句は無いわね。」

 「わたくしも、文句はありませんわ。サクラの人柄は好ましいですから。」

 「愛されてる余裕かしら?」

 視線で射殺しますと言わんばかりのイリヤ。だが、反応は彼女の予想外のものだった。

 「余裕など、ある筈がないでしょう、イリヤスフィール!!!」

 「むしろ、切羽詰ってんの、こっちは!!!」

 「三人では、こちらの体が保ちませんわ!!!」

 「へ?」

 「しかし、四人で、大丈夫でしょうか。正直不安ですが。」

 「そうね。じゃ、今日からイリヤにも加わってもらいましょ。オールオッケーとか前に言ってたし。」

 「五人ですか。それなら何とかなりそうですわね。」

 「ええ〜〜〜〜〜〜!!!!?」

 「………士郎も、これから大変だな。」

 異常な熱を帯び始めた居間の様子に一人ごちる志貴だった。



 裸足で駆けて行く。足の裏に痛みが走るが、そんな事に構っていられない。今は、少しでもあの家から離れなくては。

 知られた、知られた、知られた。一番、知られたくないあの人に。

 夜の町を駆ける。目的地なんて無い。視界が滲んで、何処にいるのかも分からない。

 私の穢らわしさを、浅ましさを、卑らしさを。

 冷たい風が頬を撫でる。辿り着いたのは海浜公園。息がきれる。

 もう、あの人の側に居れない!!

 足が滑り、こけそうになる。と、腕が掴まれ、引き寄せられる。

 「え?」

 感じるのは力強く、優しく、暖かい、世界で一番、わたしに安らぎを与えてくれる感触。

 「つかまえたぞ、桜。」

 先輩。わたしが、世界で一番愛してる人。

 「い、いや、放して、放して下さい!!!」

 暴れる。だって、知られてしまった。わたしのこと。

 先輩の一番じゃなくて良いです。だから、だから、側にいさせてください!!

 心と体が矛盾した行動に出る。心は先輩の側にいる事を望むのに、体は先輩を拒絶する。

 「わたし、汚れてるんです!!蟲に侵されて、犯されて、冒されて!!汚れていないとこなんて、どこにも無いんです!!体だけじゃないんです!!心も穢れているんです!!セイバーさんにも、姉さんも、藤村先生にも、イリヤちゃんにも、セラさんにも、リーズリットさんにも、ルヴィアゼリッタさんにも嫉妬してるんです!!先輩の側にいる女の人全員、嫌いなんです!!そんなこと考える資格なんて、これぽっちもないくせに!!」

 激情のままに、吐露する。

 「だから、わたしの事なんて放っておいて下さい!!わたし、先輩の側に居ちゃいけないんです!!」

 沈黙。次に先輩の口が開いた時、全てが終わる。耳を塞ぎたい。でも、聞かなきゃ。だって、それが、先輩がわたしにかけてくれる最後の言葉だから。でも、先輩の言葉はわたしの考えてたものじゃなかった。

 「放っておけない。桜には、俺の側に居て欲しいから。」

 「………え?」

 「桜がどれほど苦しかったか分かるなんて言わないし、言えない。だから、桜の事情は無視させてもらう。」

 「先輩?」

 「あと、桜は汚れてなんていない。心も体も。他の誰がなんと言おうと、桜は綺麗だ。桜自身が認めなくても、俺が認める。」

 ああ、わたし、夢を見てるんだ。だって、先輩にこんな優しく、でも強く抱きしめられながら、こんな嬉しくなるしかないこと言われるはず無いもの。

 「それに、汚いとか言う話なら、俺の方がよっぽどだ。約束破って、たくさんの人と関係持ったし、昨日一昨日も、アルトリアと凛、ルヴィアとベッドを共にしたし。」

 はい?夢にしてはずいぶん生々しい事言われちゃった気がする。

 「だから、桜は汚れてなんかって、イタタタタタタタタタタタ!!!さ、桜、爪、爪刺さってる!!!」

 「あ、当たり前です!!約束破っただけでも許せないのに、さ、三人と、そ、そのそういう事するなんて、先輩、不潔です、最低です!!!」

 「うん、俺もそう思う。でも、側にいて欲しいし、側にいたい。この事に関してだけ、欲張りになる事に決めたんだ。」

 「ひ、開き直ってません!?」

 「かもな。でも、気持ちに嘘はついてない。それに三人も、了承してくれてる。」

 「そ、そうなんですか…」

 私には、できそうもない。ううん、する資格がない。

 「で、そ、その、俺は、桜にも俺の側にいて欲しいんだけど。」

 「え?」

 つまりどう言う事なんだろう?

 「だから、そ、その、俺、桜の事も好きだから、側にいて欲しい。」

 「せ、先輩?」

 これは夢だ。だって、何度も見た。何度も何度も何度も。その度に目覚めて絶望して。でも、抱きしめてくる温もりが、ホントだって訴えてくる。

 「それって、ものすごく酷いですよ?」

 声が震えてる。心を埋め尽くすのは、ただ一つ。

 「す、すまん。」

 「許し、ません。だから、だから、もう一回、言って、ください!!」

 「桜、愛してる。」

 嬉しい。先輩の唇と自分の唇が重なり合うのを感じながら、馬鹿みたいに心の中で、それだけを繰り返していた。



 桜を連れて帰った後、桜の事を皆に話した。反対されるかと思ったが、何か好意的に受け入れていたのが、気にはなった。後、イリヤが、俺と目を合わすと真っ赤になって俯いてた。どうしたんだろ?

 「え、凛と桜って、姉妹だったのか?」

 「ええ、桜は小さい頃、間桐に養子に出されたの。」

 「でも、二人ともそんな素振り全然見せなかったけど?」

 「それは、遠坂と間桐の間で取り決めがあったんです。ですから、私達は他人で無くちゃダメだったんです。」

 「む。でも、もう、そんな取り決めに従うことないな。」

 「え、でも、それは、遠坂先輩も嫌―」

 「そんなわけないでしょ!!!」

 「え?」

 凛が怒った顔で桜を抱きしめる。

 「ごめんね。桜が苦しんでたのに、何も出来ないダメなお姉ちゃんで。」

 「姉さん?」

 「リボン、使ってくれてて、嬉しかった。弓道場に桜、見に行ってた。それぐらいしかできなかったから。ここで、一年ぐらいだったけど、一緒に過ごせてすごく嬉しかった。」

 「姉、さん、姉さん、姉さん!!!」

 「桜、私、桜のお姉ちゃんでいてもいい?」

 「ハイ、ハイ!!!」

 「ありがとう、桜。」

 泣きながら抱き合う姉妹。周りの表情も穏やかだ。と、

 「イリヤ。大聖杯の場所、教えてくれないか?」

 厳しい表情で、士郎が聞く。

 「それを知って、どうするの、シロウ?」

 「潰す。」

 断言する。

 「聖杯は、アインツベルンの悲願でもあるし、遠坂や、マキリにとっても、そうよ。まあ、私はもう、どうでも良いけど。リンはどうかしら。」

 「私もいらないわよ!!士郎、遠慮は要らない、完っ璧に潰してきて!!!」

 「ああ、任せろ。」

 「士郎、俺も手伝うよ。」

 「良いんですか?」

 「乗りかかった船だしね。」

 「ありがとうございます。」

 「シロウ、私も行きます。」

 「いや、こういうのは男の仕事だから。」

 「そうそう、それに皆は体力温存しておかなきゃ。」

 「「「「「な!!」」」」」

 「志貴さん、どう言う意味です?」

 「気にしない気にしない。それじゃ行こう、士郎。」

 「気になるけど、置いといて行くとしますか。…桜。」

 「はい?」

 「大聖杯に行く前に間桐の家に行くけど良いか?」

 「………はい、お願いします。」

 俺の言いたい事を分かってくれたらしい。正直、あのままにしておけない。

 「士郎、大聖杯は柳洞寺の地下よ。……頼んだわよ。」

 「ああ。」

 志貴さんと二人、夜の町に繰り出す。蒼眼の死神と錬剣の魔術使い、この二人組の攻撃対象になったものは、間違いなくこの世から消え去ることだろう。
 翌朝、冬木の街に、二百年ぶりに何者にも冒されていない朝が訪れた。




 あとがき:うお、ヤバ!!!整合性など全くない展開に後悔しっぱなしの福岡博多です。いや〜、士郎の性格、何かメチャクチャだ〜!!後、青子がいってた、士郎のあり方は私がFateやってて、思った事なんで、テキトーです。違うと思っても、勘弁してください。あくまで私見なんで。それにしても、凛以外、あんま内面書いてないなあ。今後の課題にしたいけど、把握が難しいにゃ〜。できるかな?さて次回最終回。ハッピーエンドを書いて魅せらあ!!!


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