地平線から朝日が昇る。それを眼下に見下ろす高度一万メートルの空に、正義の魔法使いと言った出で立ちの老人が浮かんでいた。と、風が吹いた次の瞬間、クラシカルな魔法使いの格好の老人がその隣に浮かんでいた。
「久し振りじゃな、わが朋友。」
「うむ。それで、あの娘は連れ出せたのか?」
「おうよ、今頃は再会しとるじゃろう。いやいや、ニミュエの監視が厳しくてのう。」
「嘘をつけ。タイミングを計っておったのだろう?この悪戯好きめが。」
「お前さんに言われとうないわい、ゼルレッチ。」
「お前ほどではないぞ、マーリン。」
錬剣の魔術使い・第十二話
死んだ。振り下ろされる魔剣を見ながら確信した。だが、
ギィィィィィィン!!!!
魔剣は、俺の命を断つ事はなかった。
「貴様、何者!!」
リィゾさんが、目の前の相手に斬りかかる。だが、その剣士は剣の丘から引き抜いたであろう剣を手にその斬撃を悉く防ぐ。いや、むしろ、剣士の方が黒騎士を押している。
輝く金糸のような髪。身を包む清麗な銀の鎧。その衣は、空の如き青。
思考は停止してる。現状を認識しきれない。これは夢だと自分を騙せない嘘が、心に湧き起こる。だが、目の前にいる「彼女」は現実だと、魂が訴える。
「「はぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!」」
裂帛の気合と共に繰り出された一撃の激突の後、剣士と黒騎士の距離が離れる。そして、両者が踏み込もうとした瞬間、
世界が殺されたかのような怖気が奔った―
その場にいた全員が新たな登場人物を見やる。いや、見ざるを得ない。そこには、
「全員、そこまでだ。これ以上闘うつもりなら、俺が相手をしよう。」
どこまでも蒼い輝きを放つ眼をした志貴さんがいた。全員、首肯する。今の志貴さんに逆らうのは、自殺行為でしかない。
「し、志貴、怒ってる?」
アルクェイドさんが志貴さんにおずおずと尋ねてる。
「怒ってる。」
笑顔で言う志貴さん。青ざめるアルクェイドさん、アルトさん、シエルさん。
「とにかく、闘いはこれまで。まったく、どうしていつもこうなんだ?たまには落ち着いたバレンタインでもいいじゃないか。」
と愚痴りながら屋敷へ戻る志貴さん。それに謝りながら続くアルクェイドさん、シエルさん、アルトさん一行。そこに残される俺、凛、ルヴィアさん、そして、
「シロウ…」
彼女。忘れた事なんてない。別れた時のまま、本物の朝焼けの中に彼女は立っていた。
「アルトリア!!」
呼んだ。彼女の真名を。一度も呼べなかった名前を。万感の思いを込めて。
「シロウ!!」
涙をその深緑の瞳から零しながら、彼女が俺の胸に飛び込んでくる。
「シロウ、シロウ、シロウ!!!」
俺の腕の中で泣くアルトリアを優しく、でも強く抱きしめる。別れた時の様な黄金の朝焼けの中、俺達は別離の時を埋めるように抱き合った。
あの後、いつまでも抱き合う俺達に凛と何故かルヴィアさんのガンドが降り注ぎ、引き離された。名残惜しかったが、凛とルヴィアさんの目が怖いし、何より聞きたい事もある。と言うわけで、俺達は遠野家の居間に移動した。ちなみに右腕にアルトリア、左腕に凛がくっついてる。二人の視線の間に紫電が迸ってるのは気のせいか?あとルヴィアさんは、凶悪と言う表現がぴったりな殺気を放っておいでです。
居間に着くとチョコの香りがした。どうやら、全員のチョコがお披露目されているようだ。
「あ、士郎。大丈夫かい?」
志貴さんが、居間に入ってきた俺を見て聞いてくる。
「ええ、大丈夫です。それより、あまり、お役に立てませんでした。申し訳ないです。」
「いや、そんなことないよ。士郎がいなかったら、被害が大きくなってたろうから。ほら皆、士郎に謝っとけ。」
「ごめんねー。」
「すみません。」
「すまぬな。」
「い、いや気にしないでください。そもそも、そのためにここに来たんだし。」
「ところで士郎、その子は誰なんだ?」
志貴さんがアルトリアを見て言う。
「アルトリア=セイバー=ペンドラゴンです。私は、シロウの、その……」
「友人です。」
凛がきっぱり口にする。
「リン!?」
「あら、何かしら、アルトリアさん?」
睨み合う二人。と、アルトリアが俺を見上げる。シロウはどう思ってるのですかって問いかけてくる。だが、応えられない。左腕がギリギリと締まるので。問題の先延ばしだが、疑問の解消を優先させよう。正直まだ混乱してるから。
「アルトリアはどうやって、今ここにいるんだ?」
別れた後、彼女を待っていたのは死であった筈だ。ならば、アルトリアはどうやって、今ここに生きた人間としているのだろうか?
「それは、シロウのおかげです。」
「俺の?」
「はい、私は、あのまま死を迎える筈でした。ですが、私は失ったあるものを再びに手にしていました。」
「全て遠き理想郷<アヴァロン>!!!」
「ええ。そして、私は妖精郷で眠りに就いていたのです。そして、先日、悪戯好きの老人の脱走につき合わされ…」
「でも、よくここが分かったな。その悪戯好きの老人がつれてきてくれたのか?」
「いえ、彼の友人と言う女性に送って貰いました。しかし、到着してすぐ、士郎が危機に陥っているとは思いもよりませんでした。まったく、シロウらしいと言えなくもありませんが。」
「いや、今回は特別だと思うぞ。いっつも、危ない目に遭ってる訳じゃないぞ。」
そう、信じたい。
「ですが、間に合って良かった、シロウ。もし、間に合わなかったらと思うと…」
「アルトリア。」
涙目になるアルトリア。上目遣いと相まってクラクラする程可愛い。なんか節操なしっぽいな俺。涙を優しく拭い、顔を近づけようと―
「な・に・し・て・ん・の!?」
出来ませんでした。背後から響くあかいあくまの声。怒りだけじゃなく、拗ねているような、悲しそうな響きが含まれている。
「イ、イヤ、ベツニナニモシテマセンヨ、リンサン。」
なんか、俺って外道?と、今度は目の前のアルトリアの眉が吊り上る。
「士郎、いつからリンの事を名前で呼ぶようになったのですか?」
こっちも、怒っているが、どこか悲しそう。どうすりゃいいんだ!?周りを見ると、皆興味津々に見守っております。
「シロウ?」
「士郎?」
進退窮まった!!この窮地を脱するなどいかなる奇跡か。とその奇跡が起きた。思いもよらぬ第三者の手で。
「シロウ。」
いつの間にか俺の前に立ったルヴィアさん。怖いほど真剣な表情。その手にはチョコ?
「ルヴィアさん?」
ルヴィアさんは手に持ったチョコを口に含むと、
「んーーーーーーー!!!?」
俺にキスして来た。そして口内に感じるほんのり苦みを含んだ上品な甘み。
「な、何をしているのですか、あなたは!!?」
「な、何してんのよ、あんたは!!?」
固まっていたアルトリアと凛がルヴィアさんの顔と俺の顔を引き剥がす。
「シロウ、愛していますわ。私のチョコはいかがでした?」
なんて赤い顔で聞いてくるルヴィアさん。
「「「ななななななななな。」」」
ホワイ?どういうこと?ルヴィアさんが俺を愛してるって、これは現実?と、口に感じる甘みが否応無く現実である事を教える。
「な、なんで、口移しなんか?」
「ミス・コハクに教えていただきましたの。バレンタインの風習を聞いて困っておりましたら、手作りチョコに対抗できる唯一の方法と。」
見ると、満面の向日葵のような笑顔を浮かべる琥珀さん。犯人をあなたです!!!!
「シ、シロウ。あなたの気持ちを聞かせていただけませんこと?」
上目遣いで顔を真っ赤にして聞いてくるルヴィアさん。ちなみに俺の膝に乗ってる形になる。
「え、あ、あの。」
現状に、頭の状況が全く追いついてない俺。と、両腕に激痛が走る。
「シ、シロウは、そ、その私の良人となる人です!!あなたの想いには応えられません!!」
「し、士郎は、私の旦那様になるの!!あんたは引っ込んでなさい!!」
咆哮する、あおいきしとあかいあくま。
「わたくしは、シロウに聞いているのです!!部外者はお黙りなさい!!」
一歩も退かないきんのあくま。
「士郎、三つ股だー。」
「衛宮さん、ダメですよ。まあ、遠野君よりマシですか。」
「兄さんと同じタイプなのですね。」
「あは〜、女の敵さんですね〜。」
「衛宮様、ふしだらです。」
「ニャー。」
「士郎、志貴には及ばぬが女殺しじゃのう。」
「んー、でも、士郎の方が手、出した数は多いわよ。」
「なんか酷い言われようだなって、先生!?」
「し、師匠!?」
重なる俺と志貴さんの声。
「ハ〜イ、志貴、元気してた?はい、これ♪それとアルトリア、間に合って良かったわね。」
志貴さんにチョコを渡して、アルトリアに声をかけるあかげのまじょ。アルトリアを送ったのって師匠だったのか。
「あは〜、いらっしゃいませ。ところで、さっきの発言はどう言うことなんでしょうか?」
悪魔の笑顔で師匠に問いかける琥珀さん。ヤバイ!!!止めなきゃ!!!!
「「「是非聞かせてください!!!」」」
俺の動きを封じる三人。目で、師匠に哀願する。返って来たのはとってもいい笑顔。はは、切嗣、もうすぐ、そっちに逝くよ。待っててくれ。
「士郎が四年間、あっちこっち飛び回ってたのは知ってるわよね。で、まあ、首突っ込んだり、巻き込まれたり。表、裏、「こちら側」。そんな中でね、いろいろ、出逢いもあるわけよ。士郎、押しに弱いし。相手は、一回きりだからって大胆だし。」
三人の小○宙が増大している。神をも殺せるんじゃなかろうか?
「まあ、私や老師にも責任、ちょっとあるかもね。士郎ストレス溜まってたみたいだし。」
ええ、並みのストレスじゃございませんでした。あの頃は、生きる事に全精力を傾けてたんで、それ以外に精神力を割いている余裕がなかったんだよぅ。って、師匠、あんた悪いなんてこれぽっちも思ってないだろう、顔笑ってるぞ!!!
「「「それで、何人に手を出したんです?」」」
静かな口調が逆に怖いであります、師匠!!!
「そうね〜、三桁行ってるんじゃない?」
それはもう楽しそうに言うまじょ。ゴッド、俺何か悪いことしましたか?
「ダメだよ、士郎。複数に手を出すときはばれないようにしなきゃ。基本だよ、基本。」
って、いつから神になったんだ、オヤジ!?
「去年から。ジゴロの神としてね。」
オヤジらしいな。なんて現実逃避してる場合じゃない!!!!に、逃げなきゃ!!!
「ま、安心しなさい。子供はいないから。避妊してなかったけど。」
どうして、余計な事を言うんだぁぁぁぁぁ、あんたはぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!って言うか何で、そんな事まで、知ってんだ!!!見てたのか!!?
「ホント、よく子供できなかったわよね。あんだけ、濃いのに。」
ピキ。
世界が罅割れた音がする。
「「「何故、「濃い」と言う事が分かるんです!?」」」
ああああああああ、それを言うのだけは止めてええええええ!!!!!!!!!!
「ちょっとあってね。非常時で、ライン、繋いだ事あるのよ。」
はい、おわりました。みなさん、さよなら、サヨナラ、SAYONARA。
「「「フ、フフフフフフフフフフフフフ」」」
ワオ、皆さん怖い顔。美しい顔が台無しですわよ?
「シロウ、覚悟はいいですか?」
と、フルアーマーダブルセイバー。あれ?俺、約束された勝利の剣<エクスカリバー>と勝利すべき黄金の剣<カリバーン>なんて投影してたっけ?
「士郎、他の女に手は出せて、私に手を出さなかった理由聞きたいんだけど?」
と、あかいあくま。魔術刻印と宝石剣が煌々と輝いております。
「シロウ、わたくしのモノになる前に調教が必要なようですわね?」
と、きんのあくま。魔術刻印の輝く腕で首を絞めてきます。ギヴ、ギヴゥゥゥゥゥ!!!!!
「「「それでは、話を聞ける場所に行きましょう。」」」
ドナドナ〜と言わんばかりに、あお、あか、きんの最早、まおうにクラスチェンジした三人に引きずられて行く俺。
「士郎、死なないようにね〜。」
くわ、師匠!!!原因がいけしゃあしゃあと!!!って、誰かお助けを!!!視線を彷徨わすも、返ってくるのは、
「君は生き延びる事が出来るか!?」
疑問形だった。そして、居間へのドアが閉じられた。
「おはようございます、志貴さん。」
「おはよう、士郎。とは言っても、もう昼前だけど。」
「他の人たちは?」
「あ〜、まだ寝てる。そう言う士郎の方は?」
「え、あ、あの、まだ寝てます。」
「士郎、案外鬼畜だな。」
「ぐ!!」
言われても、しょうがない。何せ、昨日の朝からずっと、体を張った説得と言うか、弁解と言うか、パトスが暴走したと言うか。しかも、三人同時に。ああ、俺、正義の味方失格だYO!!
「はは、まあ、三人とも大事に思ってるんだろ?大事なのはそこじゃないかな。」
穏やかにそんな事を言ってくれる志貴さん。なんだか説得力がある。
「ところで、何作ってるんです?」
「ああ、朝飯兼昼飯かな。士郎達の分も一応作ってるけど。」
「それなら、手伝います。」
一人、予測以上に食べるからな。と、ここである事に気づく。
「そう言えば、琥珀さんや翡翠さんが、志貴さんに食事の用意をさせるほど寝坊するなんて。なんかあったんですか、昨日?」
あの後、また騒動が起こったのだろうか。と、志貴さんは笑いながら、
「い、忙しかったから疲れてるんだよ、きっと。」
少し焦ったように言う。?少し不審に思いながらも、食事の作成にとりかかろうとすると、
「しき〜。ブルー、帰ったよー。」
と気だるげなアルクェイドさんが厨房に入ってきた。師匠、昨日泊まっていったのか。くそ、いつか仕返ししちゃる。
「あ〜、ラーメン作ってるー。」
そう、志貴さんはラーメンを作っている最中だ。
「それにしても、志貴、タフだよねー。まだ、アルトルージュやシエル、妹動けないみたいだよー。私も、足ガクガクするしー。琥珀や、翡翠、レンは起きないしー。ブルーは、つやつやしてたけど。」
「ば、ばか!」
「どういうことです?」
「あ、士郎。いたのー?」
「ええ。それで、何で足ガクガクなんです?」
確信をもって聞く。
「えへへ〜。士郎たちに刺激されて、志貴いつもより凄かったから。」
イヤンイヤンしながら嬉しそうに言うアルクェイドさん。
「………」
絶句。さっきの話から察するに、は、八人!?目を逸らす志貴さん。
「志貴さんも鬼畜ですね。」
「う!!」
「違うよー。志貴は絶倫超人だよ。あ、でも、士郎もそうか。」
ここに、絶倫超人タッグが誕生した。某超人格闘漫画に殴り込みだ!!(しません。)
志貴特製ラーメンが出来上がった頃に、全員が何とか起き出して来た。ちなみに女性陣がポ〜としていたが。食後、志貴と士郎が中庭で話してる間も、呆けていた。そして、いろいろありながら夕食時。志貴が、突然宣言した。
「明日から、ちょっと士郎のところに遊びに行く。あ、誰も、ついて来ちゃダメだぞ。」
遠野家女性陣から不満があがったのは言うまでもない。そして、その夜、志貴の体を張った説得が行われた。
あとがき:いや〜、力技。墓穴掘りまくりの福岡博多です。もう、戻れない、あの少年の日々には!!この穢れなき少年時代との別れを告げる失敗を糧に、我輩は成長!!出来たらいいな。しかし、絶倫超人のスキルは便利ですな。ま、ジョーカーだけど。思いっきり、扱いに失敗しているなあ。また、士郎を追い込むために青子さんとも関係持たせてシマッタ。ファンの方、ごめんなさい。さあ、そろそろ、オーラスかな。ココまで書いたんだし、何とか終わらせなきゃね。後しばらく、存在をお許しくださいな♪