夢を見た。
それは十年前の夢。
一面の廃墟。
何故か一人だけ生き残った自分。
よほど運が良かったのか、それとも運の良い場所に家が建っていたのか。
どちらかは判らないけれど、ともかく、自分だけが生きていた。
でも、助かるなんて思えなかった。
何をしたって、この赤い世界から出られまい。
幼い子供がそう理解できるほど、それは、絶対的な地獄だったのだ。
そこで目が覚める。
近頃は見ることの無かった夢。
俺が奇跡的に助けられた過去の夢。
久々に見たそれが、何を意味するのかは分からない。
でも、何かが起こる前兆のような、悪い予感がしていた……。
* * * * *
悪い予感は的中した。
学校の帰りに人外魔境を垣間見るわ、そこの住人の青いのには殺されかけるわと全くおかしな事が続いた。
何故俺が生き返ったのかも分からない。
ただ、体に激痛が走り、働かない頭のまま、現場の血を掃除してふらふらと家に帰った。
それでも災難は終わらなかった。
結界が反応して、悪意のある侵入者のことを告げる。
その殺気に、先ほどの青いのを思い出す。
いかにして奴をやりあうか考え、色々策を弄したものの相手は規格外の存在。
全て意味がなかった。
そして今、俺、衛宮士郎は吹っ飛ばされて土蔵に居る。
ここに来れば何か武器を手に入れることが出来て、どうにかなるとも思ったが、甘い考えだった。
奴は人外の化け物だ。
俺程度じゃ相手にならない。
殺される。
間違いなく殺される。
奴はすぐさまやってくるだろう。
……死ぬ。
その単語とともに、地獄が頭をよぎる。
今朝見た夢。
十年前の出来事。
迫る死の気配。
つい数時間前にも感じた気配だ。
そして十年前にも……。
フラッシュバックする風景。
焼け野原。
死の満ちた世界。
……いいのか?
そんな簡単に死んで良いのか?
死ぬわけにはいかないだろう。死んで良いはずがない!
俺はあそこで助けられた。
俺だけが助けられた。
俺は生きて義務を果さなければいけないのに、死んでたまるか!
またもフラッシュバックするあの地獄。
その地獄が強く頭にこびり付き、離れない。
こんな所で、
「死んで……たまるかーーーーー!」
…………。
「……え?」
それは突然現れた。
「なに………!?」
青いのも驚いているようだ。
目映い光の中、まるで魔法のようにそいつは現れた。
いや、正確に言えば今も光り輝いている。
そいつは黄金の鎧を身につけ、そこに多大なる存在感と共に颯爽と立っていた。
ぎぃぃぃぃん。
何かを弾くような音がして、ハッとする。
金ぴか男の周りの空間が歪み、何やら剣と思しきものが射出される。
それを青い奴が槍で打ち落とす、或いは後退をして回避する。
気がつけば、戦場は庭の中心まで移っている。
「七人目の……サーヴァントか」
青い奴は槍を握り直す。
その表情は真剣そのもので余裕のなさが伺える。
そこでまた金ぴかの周りの空間がゆがむ。
ぎぃぃぃぃぃん。
青いのは、またもその攻撃を打ち落とす。
金ぴかがいかに優れた性能を有しているのかは、一目瞭然だった。
あの一撃は凄まじい。
青い奴の校庭でのあれも凄まじかったが、これはそれに追随するものがある。
青いのが攻めかねている、というよりもその攻撃を防ぐのに全勢力を注いでいるといった風だ。
「チィッ」
憎々しげに舌打ちをこぼし、男は僅かに後退する。
「ふん、逃げるか…。まぁ賢明な判断だな。貴様如き弱小サーヴァントでは我に触れることすら叶わんからな」
「うるせー! こいつはマスターの命令だから仕方なくだ!」
捨てぜりふを残し、一瞬にして塀を越えて外に出ていってしまった。
何て身軽な奴だ……。
「で、そこの雑種。貴様が俺のマスターか?」
青いのが出て行った塀をしばらく見ていたと思ったら、突然振り返って聞いてきた。
は?
マスターって、どういう事だ?
こいつはいったい何を言ってるんだ?
と、取り敢えず、
「お前、何者だ?」
お、顔をしかめた。
俺、なんか変なこと聞いたかな?
「貴様が我を呼び出したのではないのか?」
「は? 呼び出した?」
「そうだ。聖杯戦争の為にサーヴァントとして我を呼び出したのであろう?」
ちょっとまて、何がなんだかさっぱりだ。
聖杯戦争? サーヴァント?
って、何だよ金ぴか野郎!
その馬鹿を哀れむような視線は!
「……ふむ、雑種」
「な、なんだ」
っていうか、雑種って何だよ……。
「貴様正規のマスターではないのか」
「いや、だからマスターとかサーヴァントとかってのがよく分からないんだけど……」
成る程な、なんて一人で納得してるし。
しかも俺を見下す視線はそのまんまだし。
「雑種、手を出してみろ」
手?
「痛っ……!」
突然、左手に痺れが走った。
「あ、熱っ……!」
手の甲が熱い。
まるで発火しているかのような熱さをもった左手には、
入れ墨のような、おかしな紋様が刻まれていた。
「それが令呪だ、雑種」
は? だから令呪とか言われてもよく分からないんだって……。
そんなこんなで俺と金ぴかが問答をしていたが、突然金ぴかが殺気に満ちる。
一瞬何かと思って飛び退いてしまった。
まじまじと金ぴかの方を観察してみると、何やら塀の外をまた見ているようだ。
「おい、……
「また雑魚が群がってきたようだな。英雄王たる我に叶うはずもないのだから、家でふるえて隠れていればよいものを」
「おい、どういう事だ! 敵なのか?」
金ぴかはちらりと此方を見たが、また塀の外に視線を向ける。
「貴様との問答も飽きた。我は狩りを楽しんでくる」
そんなことを言って、軽やかに跳躍し塀を越える金ぴか。
青いのといい、金ぴかといい、ホントに規格外の奴らだ全く。
なにはともあれ、あんな奴を野に放つわけにはいかない。
大体、狩りって何すんだよ。
「くそっ……!」
あわてて走り出す。
後先考えず、全力で門へと走り出した。
門まで走って、慌てる指で閂を外して飛び出る。
「くそ、あの金ぴか野郎どこだ!」
あれだけ目立つ金ぴか装備だ、多少月がかげっていても目立つはずだ。
闇夜に目をこらす。
そして……
闇夜に、今日はやけに聞くことの多かった武器を打ち合う音が響いた。
「そこかっ!」
人気のない小道に走り寄る。