凛と剣と永久の旅人(傾:クロスオーバー)


メッセージ一覧

1: レッドアイ (2004/03/26 06:51:34)[had40802 at ams.odn.ne.jp]


 どこまでも続く宇宙

   
 汽笛を鳴らして


 一両の汽車が走る


 次の駅へ向かって


 走り続ける


 汽車の中


 乗客には顔がなかった


 その中で1人だけ


 セーラー服に身を包む少女


 長く美しい黒髪


 瞳を閉じて寝息を立てている


 彼女にだけ顔があった


 しかし言葉を発するわけでもなく


 その少女は眠っていた


 汽車は本当に静かに


 ただ次の駅を目指していた







 凛と剣と永久の旅人・その1







「葉〜月〜」


 ふと、場違いな声が聞こえた。


 車掌の服を着た少年が少女に話しかけていた。


「……アーヤ?」


「葉月、ひさしぶりだね」


 葉月と呼ばれた少女は目を覚まし、アーヤという少年を見つめた。


「……何か用?」


 葉月はめんどくさそうにそういった。


「久しぶりなのにいきなりそれはないんじゃないかな〜」


 そういってアーヤは葉月の隣に座った。


「……そうかな?」


「どう?旅は楽しい?」


「……そうだね」


「いい世界は見つかった?」


「……そうだね」


「ボクのこと好き?」


「………」


「お〜い」


「……何?」


「つまんないよ?」


「……そうだね」


「………」


「………」


「冷たいなぁ〜葉月は〜」


「……そうだね」


「あらら…コリャ重症だぁ、葉月、なんかいやなことでもあったの?」


「……別に」


「そお?」


「………」


「………」


「……初美は」


「ん?」


「初美は今どうしてる?」


「多分、変わってないよ」


「そっか……」


 葉月の口元にわずかに笑みが浮かぶ。


「葉月は帰らないの?」


「……うん……」


「どうして?」


「………」


「………」


「……どうして、だったかな……」








 いつの間にか、汽車は駅についていた、葉月は汽車を降り、アーヤは汽車に残る。


「またね、葉月、良い旅を」


「……うん」


 汽車は走り出し、手を振るアーヤの姿はだんだんと小さくなっていく、葉月はよくわからない友人を見送ったのだった。










「ふぅ」
 ボクは駅のホームが消えていくのを見届けると振り返って本棚の山へ歩いていく。

 何十、何百回このことを繰り返したかもう覚えていない。

 そもそもこの世界には時間がないのだから覚えてもあんまり意味がない。

 もともとボクがいた世界なら何百年たっただろうか。

 ボクはその間ずっと旅をしていた、世界から違う世界へと気の遠くなるような時を過ごした。

 そしてこれからも旅を続けていくだろう。

 初美が愛する無限の世界を。




 本棚の間を歩き、目に付いた本を手に取る。

 選り好みはしない、すべて初美が作った世界だから。

 リリスから貰った定期券があれば世界の行き来は自由にできる。

 どんな世界でも、初美のソーマを浴びたボクの体は基本的に不老不死。

 コゲと分離するときについてきた狩人の鎌も持っている。

 これなら万が一にも死ぬことはないと思う。



「さて」

 手にした本を開く、次の世界への思いをはせながら。

 このときだけは心が弾む。

 世界は無限にある、ボクが知らないことも無限にある。

 見たことの無いものを見るのはとても楽しい。

 かつていた世界の常識などはものすごくちっぽけだ

 さまざまな知識を吸収したけど知らないことはまだまだある。

 知りたい心は止まらない、旅をやめられない理由にこのこともあるだろう。

 次の世界は何があるか、開いたページを見てみる、それは―――――――





「あっ」

 かつての。

 ボクと初美がいた世界に。

 ひどく、似ていた。








 ぱたん。


 本が閉じられ、床にゆっくりと下りていく。

 無人になった図書館は。

 とても静かだった。
   



































 
 深夜の冬木市 遠坂邸――――





 
 時計の針はじき午前二時を指そうとしている。

 私こと遠坂凛は成敗戦争に参加するマスターとなるべく、地下室の床に陣を刻む。

 ため込んだ宝石を惜しげもなく使い、陣を描いていく。

 セイバーを召喚するために、手を抜くわけには行かない。


「―――消去の中に退去、退去の陣を四つ刻んで召喚の陣で囲む、と」

 制限的にもこれが最初にして最後のチャンスだから、わずかでもミスをする訳には行かない。

「閉じよ。閉じよ。閉じよ。閉じよ。閉じよ。繰り返すつどに五度。ただ、満たされる刻を破却する」

 
 ……じき午前二時。

 遠坂の家に伝わる召喚陣を描き終え、全霊を持って対峙する。


「―――――Anfang」

 心臓にナイフを突き刺す。

 魔術回路が眼を覚ます、これより遠坂凛は人ではなく。

 ただ、一つの神秘を成し得る為の部品になる。


 大気から濃密なマナを取り込む。
 
 指先から満たされる感覚が広がっていく。

 もとの肉体の感覚が塗りつぶされていく。



「――――――――――――」

 全身に行き渡る力は、大気に含まれる純然たる魔力。

 これを回路となった自信に取り込み、違う魔力へと変換する。

 
 ………体が熱い。

 人である私の体が魔術回路になることを嫌っている。

 回路を魔力が通るたびに、言いようのない痛みが伝わってくる。

 
 熱く焼けた鉛が。

 茨の神経が。

 私の体を責め続ける――――


「――――――――――――」

 その痛みで。我を忘れて。


 同時に、至ったのだと手応えを感じた。


 あまりにも過敏になった聴覚が、居間にある時計の音を聞き届ける。

 午前二時まで後十秒。

 全身に満ちる力は、もはや非の打ち所がないほど完全。


「――――――――告げる」

 取り入れたマナを”固定化”する為の魔力へと変換する。

 あとは、ただ。

 この身が空になるまで魔力を注ぎ、召喚陣というエンジンを回すだけ――――


「――――告げる。

 汝の身は我が下に、我が命運は汝の剣に。

 聖杯の寄るべに従い、この意、この理に従うならば答えよ」


 魔力を注いでいく、目前で肉眼では捉えられぬという第五要素が舞いふぶき

 視覚は潰されるのを恐れ、自ら停止する。


「誓いを此処に。

 我は常世総ての善と成る者、

 我は常世総ての悪を敷く物。

 汝三大の言霊をまとう七天、

 抑止の渦より来たれ、天秤の守り手よ―――!」

 目の前で激しい光とエーテルの乱舞が感じられる、文句なし……!

 釣り竿でクジラをつり上げたってぐらいの巨大な手ごたえ、パーフェクト!

 
 「―――完璧……!間違いなく最強のカードを引き当てた……!」

 視覚が戻るまでに数秒かかった、その数秒がやけに長く感じられる。

 
 ゆっくりと、目の前が映し出される。

 そこには――――


 腰までの長さがある黒い髪。

 強い意志を感じさせる眼。

 手にした刀。

 そしてセーラー服を着た、

 引き当てた最強のサーヴァントが――――


 !?

 
 一瞬で眼を閉じた。

「変なものが見えちゃった……きっとまだ視覚が正常になってないのね……」

 そう言いつつもいやな予感が体を支配して、先ほどの体の熱さはひっこんだ。
 
 冷や汗が出ていた。
 
 眼を開けてみる。

 やはり最強のサーヴァントの姿はどこにもなく。

 セーラー服を着た女の子が。

 じっとこちらを見つめていた。

「わかったわ、現実逃避はやめましょう、私の目は悪くないみたいだし」

 と、腕を組んで言ってみたりして。

 うん、手ごたえは抜群で最強のカードのはずの女の子、セーラー服を着た英雄が目の前にいる、現状認識完了。


「――――――――」


 遠坂凛の頭脳から検索、セーラー服の英雄。


「――――――――」


 検索完了、該当なし。


「………当たり前よね………」


 聞いたことないし。

 なんかさっきから自分だけ考え込んでる気がする。

 向こうから見たら私が百面相してるみたいに見えるんじゃないだろうか。

「………………」

 女の子はこっちを見てるけど動かない。

 とりあえず女の子を見てみるけど人間そのものに見える。

 ……しかしこうしていると、女の子が桁外れの魔力を帯びている事が判る。

 外見に惑わされてはいけない。

 あれは間違いなく人間以上のもの、人の身でありながら聖霊の域に達した”亡霊”のはず、全然そうは見えないけど、たぶん。

 いつまでも圧倒されている場合じゃない。

 確かめることはさっさと確かめないと――――

「―――確認するけど、貴女は私のサーヴァントで間違いない?」

「………………」

「………………」

「………………」 

 動かないし。 

 召喚したときから女の子が全然動かないから心配になってきた。

 向こうはこっちを観察してるのか視線がわずかに動いたりする。

 負けじとこっちも見つめ返す。

「………………」

「………………」
 
 あ、この子凄い綺麗な顔してる、

 髪の毛もすっごくさらさらしてて、

 ちょっと触ってみたい――――
 
「……ねぇ、キミ」

「え?えぇ何――――」

 いけない、見とれてた、なんか悔しい。

「名前は?」

「え?――――」

「名前」

 
 彼女は私の使い魔のはず、ならば私の質問を優先させる権利がある。 

 
「それよりあなた、サーヴァントなの?」

 とりあえず基本的なことを聞かなければ、召喚したんだから間違いなくそうだと思うんだけど―――― 

「……サーヴァントって、なに?」

 予想もしない言葉で返された。

「……はい?」

 サーヴァントを知らないサーヴァント?最近のサーヴァントって何も知らずに呼び出されるのかしら、いやいやそんなはずはない、綺礼に聞いた話だとサーヴァントは召喚されたときすでに必要な情報を持っているはず、サーヴァントのことをサーヴァントに教えるなんて聞いてない、綺礼がうそをつくはずないんだけど―――― 

「ボクの名前は葉月、君の名前は?」

「……私は遠坂凛よ、とりあえずよろしく……サーヴァントのことを知らないってことはもしかして聖杯戦争のことも知らないの?」

「知らない」

 
 即答された。

 なぜか凄く眠いけどこの問題をほっといて寝ることはできない、こうなったら意地でも問題を解決してやる、覚悟しろ。

 遠坂凛の聖杯戦争はまだ始まってもいないのに大苦戦です父さん。



 


 私は、葉月と名乗る謎の女の子を連れて居間に戻る、葉月は黙ってついてきている、居間へ入る扉を開けたとき――――

「あ―――」

 私は自分のミスに気がついた。

「……しまった、時計」

 すっかり忘れていた、うちの時計すべてが私に反旗を翻したのを、普通なら大失敗してるところだ。

「―――む」

 振り返って葉月を見てみる。

「………………?」

 ……失敗したのかも。






  ――――で。

「……魔術師同士の殺し合い?」

「そうよ、それが聖杯戦争、これに参加する魔術師がマスターでそのパートナーがサーヴァントよ、私もマスターになろうとしてサーヴァントを召喚したらあなたが出てきたってわけ」

「サーヴァントって言うのは?」

「サーヴァントは過去の英雄そのものよ、奇跡を行い、人々を救い、偉業を成し遂げた人間が英霊と呼ばれる精霊に昇格したもの、それを
聖杯が力ずくで呼び出したものよ、サーヴァントはそれぞれ七人のマスターに従い、自分のマスターを守護し、敵のマスターを駆逐する、それが聖杯戦争よ」
 

 一気に説明した、説明の途中で気づいたことだが、私の手にはマスターの証である令呪がしっかりとあった、さらに私の魔力の何割かが葉月に流れていっているので葉月が私のサーヴァントであることは間違いない。

 間違いないのだが――――



「……ボクは英雄じゃないよ」

 葉月はこう言う、英雄っぽくないのはわかっていた、セーラー服だし、英雄じゃないサーヴァント、ならいったい何なのか。

「じゃあ結局のところあなたの正体はなんなわけ?それもわからないなんて言わないでよ?」

「人間…だと思うけど」

「ふざけないで!私はサーヴァントをちゃんと召喚したはずよ、それに人間だって言うならその魔力量はどう説明するのよっ!」

 葉月の魔力は私と比べても圧倒的だ、ただの人間にこれだけの魔力が持てるとは思えない。

「ボクは人間だよ、ちょっと長生きしてるけど」

 そんなことを言った、やけに気になったので聞いてみる。

「ちょっと長生きしてるって、ちょっとってどれぐらいよ?」

「そうだね…この世界で言う1000年以上は生きてるよ」

 そんなことを言われた。

 1000年と言われてもあまりピンとこない、冗談かとも思ったが、あまりに真剣な眼をしていたのでとりあえず信じよう。

「じゃあ何でそんなに生きてるのよ、人間のまま1000年生きるなんて到底無理よ。」

 少なくとも『人間』でそんなに長生きしたという例は聴いたことがない。

「それはボクにもよくわからない、ケンちゃんに聞いたらソーマを浴びたからだって言ってたけど」

 それを聞いて私はため息をつく、彼女は1000年もよくわからずに生き続けたというのか。

 ソーマってのは聞いたことないけど、それを浴びれば不老不死になれる薬かなんかだろうか、しかし――――

「ケンちゃんて誰よ」

 そっちのほうが気になった、なんかいきなり妙なあだ名が出てきて彼女がそう呼ぶ人物を見てみたくなったのだ。

 彼女は一言。


「インコ」


 と言った。

「インコって、鳥の?」

「うん」

 わからない、何でいきなり鳥が出てるのか。

「……たぶん近くにいると思う」

「え?鳥――って言うかその、ケンちゃんが?」

「うん」

 まぁ、いいか、それより――――

「あなた、生きてるのよね、ならどこから来たの?」

「図書館から」

 また来た、この子の発言はいきなりすぎる、インコだの図書館だの不老不死だの、訳がわからない、どうせその図書館の普通じゃないんだろう、魔術師の私にすら理解不能な何かのはずだ、私の想像力が貧相なんじゃないかと思えてくる。

「どこの図書館よ」

 まともな答えを期待してそういってみる。

「どこのって聞かれると……宇宙かな」

 宇宙にある図書館からここに来た不老不死の少女、しかもなんかインコのほうが学があるっぽい。

 だんだん頭痛くなってきた。

「……で、その宇宙にある図書館とやらは何のためにあるのよ」

「図書館の本は世界なんだ、平行世界は無限にあるから図書館も本も無限にある」

「平行世界!?何なのよその図書館って!?」

 平行世界に行く、なんてのは魔法の類だ、ならば彼女は魔法使いだとでもいうのか。

 

 それからしばらく彼女の話を聞いていたが驚いた、彼女が言うには平行世界を管理している図書館があり、彼女はそこからさまざまな世界を旅しているという。

 この世界に来たとき彼女は誰もいない公園に出るはずだったが、急にこの家に引き寄せられたらしい。

 さらに彼女はこの家に引き寄せられて世界に現れる瞬間。そこにあった魔力やら召喚されかかっていたものやらを自分の中に取り込んでしまったそうだ。


「令呪があるんだから聖杯は葉月をサーヴァントとして認識したみたいね、葉月が聖杯からの魔力を取り込んだせいかしら」

 どうやら葉月は人間でありながらサーヴァントの特性も持つというなんとも複雑な状況に陥っている。

「さて、私としては葉月に聖杯戦争に参加してもらわないと困るわけだけど――――協力してくれないかしら」

 葉月が私のサーヴァントなら戦ってもらわないとこまる、まぁ不慮の事故によってそうなったわけだけど、責任は取ってもらいたい、いざとなれば令呪を使ってでも参加してもらおう。

 などと考えていると――――

「いいよ、ボクのせいで困ってるなら助けなきゃ」

 意外とあっさりと返事をくれた、ここまではOK、遠坂凛にはサーヴァントが手に入ったというわけだ、しかし――――

「ありがとう、でもいいのかしら、聖杯戦争はサーヴァント同士の潰しあいよ?あなたはサーヴァントと戦える?」

 これが問題だ、もともと人間だというのだからサーヴァントにかなうはずがない、しかし彼女は聖杯からの魔力を飲み込むほどの器があり、彼女の持っている刀は見ているだけでとんでもない物だとわかる、葉月は強いのだろうか。

「サーヴァントの強さは知らないけど、戦うことは慣れてるし、大丈夫だと思う」

「自信があるのはいいことだけど、サーヴァントを甘く見ちゃだめよ、彼らは人間以上の存在なんだから」 

 まぁ私はどの道葉月に頼るしかないわけだ、ならその言葉を信じておこう。

「じゃあ葉月、これでサーヴァントとマスターの契約成立って事でいいかしら」

 葉月はそのときわずかに微笑みを浮かべ。

「うん…凛と一緒に戦う」

 そう言ってくれた、私も思わず笑顔になり返事をする。

「えぇ、よろしく、葉月」
 
 そこまで言うと急に眠気が襲ってきた、今になって疲れが襲ってきたのだろう、私はその眠気に逆らうことはせずにソファーの上で横になった。

「ごめん葉月、ちょっと疲れたから、眠るわ…」

「風邪ひいちゃうよ…凛?」

 葉月の忠告が聞こえたけど、やっぱり眠い、寝てしまおう――――
   






 葉月Side 
  
 


 


 今、ボクの目の前では、凛が眠っている、安心したのか、ぐっすりと眠りについてしまった。

「…しょうがないなぁ」

 風邪を引かれると困るので、寝室に運ぶことにする、ボクはソファーから凛を抱き上げて寝室を目指す、ちなみにお姫様抱っこの状態だ、ボクは一応女の子なのだから軽々とそれをこなしているのはどうかと思うが。

 
「よ……っと」

 凛の体をベッドに横たえて布団をかける、凛は完全に眠っている、起きる気配はない。

 
 ボクは近くにあった椅子に腰を下ろし、今の世界のことを考えてみる。


 さて、今回の世界はかつてボクと初美がいた世界に似ているけど違うようだ、気づいてなかっただけかもしれないけど、魔術師はいなかったはず。

 自ら今回の戦いに身を投じたのは他にやることがなかったのと、困っている人はなるべく助けるようにしているだけのこと、困っている原因がボクのせいだからなおさらだ。

 それにボク自身が絶対に死なないという自信を持っていることも関係している、伊達に1000年以上生きているわけじゃないのだ。

 旅の中で魔術師に会ったこともあった、この世界の魔術師も大体同じだ、凛の言っていることも理解できるし、ボクもある程度は魔術を使える。


 とりあえずこの世界での当面の行動は決定した、この今この家を出てもやることがなさそうなのでボクも寝ることにする。

「……………」

 少し考えてみる、今は聖杯戦争という争いが起ころうとしているはずだ、敵襲があるかもしれない。

 ―――それに、少し寒い。 

 そう思い、ボクは凛と一緒のベッドで寝ることにした、幸いベッドは結構広いので二人ぐらい大丈夫だろう。


 ベッドに潜り込み、目を閉じるとすぐに眠気が来た。



 そして、意識が闇に沈む瞬間、かつての姉の姿を思い浮かべる。



 どんなに時を重ねても、その笑顔の輝きは決して曇らず、葉月の心に焼き付いていた。

2: レッドアイ (2004/03/26 06:53:22)[had40802 at ams.odn.ne.jp]




 遠坂凛Side




「ん………」

 体が重い。

 て言うか苦しい、寝返りをうとうとしたけど動けない。

 苦しい、ホント苦しい、どうなってんだ。

「む―――」

 眼を開けてみると真っ暗で。

 私の顔はなんだかやわらかいものに包まれていた。







 凛と剣と永久の旅人 その2

 





 なんだこれは。

 私の頭がやわらかいもので包まれている。

 というか、後ろから押さえつけられているような―――

「ん―――」

 とにかく、このままでは窒息しそうなので脱出を試みる。
 
「ん、ん、ん……」

 足を使ってズリズリと進む。

 人の顔発見。



 ……………なんで?

 寝起きで回転数の著しく低下した頭で考える。

 機能の記憶は――――

 サーヴァント召喚 → 初歩的なミス → セーラー服 → 居間 → 作戦会議

 この後は………ああそうだ、居間で寝ちゃったんだ、そこから導き出される今の状況は―――

 急に眠気が襲ってきた → 睡眠薬を盛られた

 ベッドの中で抱きしめられている → 情事の後
 
「……………なんでやねん」

 寝起きの私は思考パターンがすごいことになるようだ。

 今想像したことはありえないだろうけど、なぜ葉月は私を抱きしめて眠っているんだろうか。

 さっきのやわらかいものは葉月の胸だったようだ、今それは私の胸に押し付けられていて、圧倒的質量が感じられる。

 目線を下ろして確認。

「……………」

 ……でかい、桜よりでかいなこれは。

 セーラー服の襟元から谷間が見える。

「――――む」

 一緒に私の胸も眼に入るが、谷間とは程遠く、葉月の胸を押し付けられても、ほとんど形を変えていないのだった。

 ちなみに葉月の胸は、私が少しでも動くと、ふにゃんふにゃんと形を変え、私の胸に大変よい感触を伝えてくる。

「――――――――――」

 ふにゃんふにゃん

「……ん……」

 ふにゃんふにゃん

「…あ……ん…」

「―――――――はっ」

 しまった、葉月の胸の感触を存分に味わってしまった。

 見ると葉月は心なしか顔を紅潮させていた、ちょっと息も荒かったりする。

「――――!」

 ヤバイヤバイヤバイ、葉月、それはやばいって、私にはそっちの趣味はないはずなのに、理性を抑えないと思わずそのふくよか過ぎる胸を――(自主規制)――したくなってしまうじゃない――――

 クールダウンクールダウン、落ち着け遠坂凛、あっちは女、私も女、この状況は性的興奮を覚える状況ではない。

 OK、OK、そう、私はノーマルだ、こんなことで性的興奮は覚えない。

 ――――そう、だからこれは目覚めのスキンシップだ、女同士なのだからいくら触っても問題ない。

「……………」

 なんかおかしい、さっきから悪魔がささやいてる気がする。

 ――――まぁその辺は悪魔のせいにして、私はセーラー服の襟元から見える葉月の胸の谷間に直接手を――――

 
 って、なにやってんだ、私――――直接触ったらすっごい気持ちよさそうだとかそんなことを―――考えてない考えてない…………

「……お姉ちゃん…」

「――――!」

 

 葉月はそうつぶやくと、閉じられている目蓋から涙を一筋流した。

 それで私の葉月に対するさっきのもやもやした気持ちは一瞬で吹き飛んだ。



「おね…ちゃん……お姉ちゃん…」

 葉月はその言葉を繰り返していた、まるでそれ以外の言葉を知らないかのように。

 私を抱きしめる腕に力が入り、葉月は眉を寄せ、静かに涙を流し続けた。



「……まったく、起きるに起きれないじゃないの……」

 窓から外を見てみるとすでに昼のようだ、今から学校に行く気にはなれない。

 ……まぁ、しばらく葉月のお姉ちゃんになってやるのも悪くない。

「……桜には、こんなことしてあげられなかったわね……」

 養子に出された自分の妹を思い浮かべながら苦笑して、私は葉月の背中に手を回し、しっかりと抱きしめた。

「…お姉ちゃん…お姉ちゃん…」

 抱きしめてやると、葉月の表情は緩み、微笑みながらも、流れる涙の量は増えていった。

 






「まったく、どんな夢見てんだか」
 
 葉月は、抱きしめる私の腕を姉の腕と思っているのだろう、今は頬に涙の後を残し、微笑みながら静かに眠っている。

 わたしが離れようとすると、とたんに不安な表情になり、涙をこぼすので動けない。

 そんな葉月の頭をなでながら考える。



 葉月の姉はその腕を放すだけで二度と会えないのかと。

 

  

 


「……………」

 ……それにしてもいつまで寝てるんだろう。

 時計を見ると三時ごろだった、おなかすいたし、聖杯戦争の準備もしなくちゃいけない、そろそろ起きるべきだ。

「私はそう思い、抱きしめている巨大な妹(仮)を起こす決心をする」

 葉月の肩をつかみ、揺さぶる。

「葉月、起きて」

「…う……ん…」

 服が乱れているせいで、葉月の動作はいちいち艶っぽい、今この場面を誰かに見られたら絶対誤解されるだろう。

 と、しばらく揺すっていた葉月が薄目を開けていた。

「あ、葉月起きた?寝すぎよあなた」

「……………」

「ほら、ちゃんと起きなさいってば」  

「――――初美」

「え―――――」

 葉月が何かをつぶやいたと思ったら、私は葉月にのしかかられ――――

 葉月と唇を重ねていた。 


3: レッドアイ (2004/03/26 06:54:46)[had40802 at ams.odn.ne.jp]


 遠坂凛は不意打ちの出来事に弱い。

 それは事実だ、認めよう。

 しかし。

 たとえ不意打ちに強かったとしてもこの状況は予想できないだろう

 ……いきなり女の子に襲われるとは思わなかった。







 凛と剣と永久の旅人 その3







「…ん……むぅ…」

 葉月の下が私の口内まで侵入してくる、私の唾液をすべてかき出そうとしているかのように、私の口の中を動き回る。

「んーーー!んむぅーーー!」

 無論私は抵抗している、しているのだが、頭をものすごい力で押さえられていて、抜け出せない。

「うぅん……あ…」

 葉月の顔が少し離れる。

 混ざり合った唾液が糸を引き、私と葉月の唇の間に橋を架けていた。

「あ―――――」

 葉月は唾液の橋が切れると自分の唇を舌でぺろりと舐める。

「…初…美……」

 眼はうつろで、その表情、その仕草は。

 とてつもなく艶っぽかった。




 ――――ヤバイ、とにかくヤバイ、遠坂凛は今、貞操の危機を感じた。

 相手は女なのだがそんなことは問題ではないと。

 私の本能が告げていた。



 とりあえず私は女に貞操を渡すつもりはない、ならば全力で脱出しなければ目の前の相手からは逃げ切れない――――

 ――――魔力により脚力強化。

 葉月の足の間に強化した足を挟む。

 葉月の肩を掴み―――強化した足を振り上げる!


 秘奥義・魔術強化巴投げ



 どさり



 結構飛んだ、葉月はベッドから落ちて床に墜落。

 とりあえず引き剥がすことには成功、しかしこのままだとまた襲ってくるかもしれない。

 そう思うと私は瞬時に布団を引っ掴み、葉月を埋めた。




「………はぁ」

 葉月が埋まっている布団の山が動く気配はない、どうやら本当に寝ぼけていたようだ。

「お姉さん役から今度は恋人役とは…………あれ?」

 何か違和感がある、恋人役?

「……初美って、言ってたわよね」

 ………女……?   
















 部屋から逃げて居間に来た、葉月は起こすと怖いので埋めたまま置いてきた。
 
 今は遅い昼食をとっているところだ。



 さて、さっきまでいろいろあって混乱していたが、落ち着いた、さっさと気持ちを切り替えて、聖杯戦争の方針を考えなければ。

 ……ファーストキスが女だったなどというのは忘れてしまえ。

 ……しかしあの唇の感触は――――
 
「……おはよう」 

「―――――!」

 いつの間にか葉月が隣にいた。

「え…えぇ、おはよう」

 そう言いつつ、ついつい葉月の唇に眼が行ってしまう。

 ……だめだ、とんでもなく緊張してしまう。

「顔赤いよ?凛」

「―――――っ!」

 そういわれるとますます恥ずかしい。

 必死になって止めようとするが、私の顔はもう真っ赤だろう。

「あ…ご飯食べる?」

 とりあえず話題をそらしとこう、これ以上無様をさらすわけには行かない。

 ……女のプライドとかそのあたりが傷つきそうなので。

「うん……ありがとう」 


 

  

  
 
 葉月と一緒にご飯を食べる、葉月は無言、こちらも食事中に話すことはしないので静かになる。

 葉月の食べ方はとても優雅でお手本にしたいほどだ、なのでついつい葉月を見てしまい、時々眼が合う。

 なんとも緊張感漂う食事だった。













 


「葉月、外に行くわよ、案内してあげる」

 食事が終わった後、そう言って葉月を連れ出した、やはり葉月にはどこに何があるかを把握してもらわないといけないだろう。




「………………」   

「………………」

 道行く人々の視線が集まる。

 男女問わず。

 例外なく皆足を止めてその姿に見入る。

 私の横にいる存在に。

「なんか、すごい目立ってるわね」

「………………」

 葉月は綺麗だ、女の私が見てもドキドキするほどに。

 さらに私まで一緒に歩いているのだから、これで視線を集めないわけがない。

 ……まぁ葉月より私に向けられる視線が少ない気がするが気にしないでおこう。



 





 その後、正体不明のマスターの監視に気づくがそれ以外は私を見上げてるやつがいたぐらいで、戦場の下調べは終了した。

 ただ私が葉月を連れまわしただけに見えるが気にしない。

 きっといつかこのときの行動が役に立ってくれるはず。



  




 ――――で。

 深山町に帰ってきたときは、9時を過ぎていた。

 この時間にはもう出歩く人影はなくなっている。

 私と葉月はさすがに疲れたので家に向かっているところだ。

 ……と。

 なんか、前を行く人影があった。

「……あれ、桜……?」

 まずい。

 今は顔をあわせづらい。

「葉月、ちょっとこっち来て」

「………………?」

 葉月を引っ張って手ごろな場所に身を隠す。

「……どうしたの?」

「あそこにいるの知り合いなのよ、今日学校休んだから、顔を合わせたくないの」

 そのまま、前方の人影を観察する。

 桜と……知らない外国人が話している。

「凛、知り合いは女の子のほう?」

「ええ、外人のほうは知らないわ」

「………そう」

 すぐに話は終わったらしく、男は私たちがやってきた道を下っていった。

 桜も坂を上っていく。

「……なんだったのかしら」

 外人のほうは少なくともマスターではないようだった。

 桜の知り合いだろうか。







 


 遠坂凛は気づかなかった。

 間桐桜を見る葉月の眼には、確かに怒りが存在していたことを――――




4: レッドアイ (2004/03/26 06:55:53)[had40802 at ams.odn.ne.jp]





 葉月Side

 


 〜遠坂邸の朝〜

「学校に行く?」

 凛が学校に行くと言い出した、凛が学生だとは初耳だ。

「えぇ、私はマスターになったからって、今までの生活を変える気はないわ」

「うん…行くのはいいんだけど……」

 なぜボクが凛と同じ制服を着ているのだろうか。







 凛と剣と永久の旅人 その4







 朝、ボクはソファーの上で眼を覚ました、被っていた厚めの毛布を、畳んでおいておく。

 なぜか大量の布団を被って床で眼を覚ました昨日と比べれば、はるかに気持ちのいい朝といえるだろう。

「…んーーーっ」

 体を軽く伸ばす、冬の空気が火照った体を冷ましていく。

 まだぼんやりした頭のまま洗面所に行き、顔を洗い、髪を梳かし、歯を磨く。

 櫛や歯ブラシなどは昨日町に行ったときに凛が買ってくれたものだ。

 買い物をするのは久しぶりだった、少なくとも最近行った世界では、店などあ
る状況ではなかったから。

 思えばボクは戦ってばかりいた、世界に現れるたびに厄介ごとに巻き込まれ、途中で放り出すこともできずに戦い続ける。

 それが嫌な訳ではないけどたまには穏やかな時間もほしい。

 それにここは自分の故郷の世界に似ている、聖杯戦争とやらが終わったらしばらくいてもいいかもしれない。

 そんなことを考えながら居間に戻ると凛がいた。

「おはよう、凛」

「あぁ葉月、おはよ――――う」

 凛は挨拶をしつつこっちを向き、そのまま硬直した。

「……………?」

「――――――っ!服着なさい服!」

 ……と、凛はボクに服を押し付けると、プイッと顔を背けた。

 なにやら顔が赤いようだ。

 ………服?

 ボクは自分の状態を確認してみる。

 上がタンクトップだけで下がショーツだけ。

 ………まぁ確かに寒そうだ、凛の言う通りに服を着たほうがいいだろう。


  

 遠坂凛Side




 ……びっくりした。

 葉月の格好は朝からいきなり心臓に悪い。
 
 清潔感のある真っ白なショーツ、そして真っ黒のタンクトップ。

 シミひとつない綺麗な足、肩から指先にかけては、細く美しい。

 葉月の美しくしなやかな肢体がいきなり目の前にあった。

 いつものセーラー服だと思っていたからかなりの不意打ちだ。
 
 眼をそらして椅子に座ったのだが、葉月が服を着ているほうにチラチラと眼が向いてしまう。

 葉月のタンクトップをもりあげている二つのふくらみ、ブラジャーをしていないので動くたびにそれが揺れている。

 いくら女は胸ではないと言い張っていても、これをうらやましく感じない人は少ないだろう。

 ………着終わってしまうのが少し残念だ。

「さ、葉月、学校に行くわよ」
 
 私は葉月の着替えを一部始終観察してからそう言った。

 

 
 葉月Side




 今ボクは凛と一緒に学校の門をくぐったところだ。

 まだ早い時間なのか登校する人は少ない。

 と、何かいやな感じがした。

 門に入る前と空気が全然違う。

 ボクが立ち止まると同時に凛も立ち止まる

「――――凛」

「えぇ、わかってる、結界が張られてるみたいね」

「どうする……?」

 この空気はいやな感じだ、詳しくはわからないけど人に害を及ぼすものだろう。

「学校が終わったら結界を壊す、こんなもの見過ごすわけには行かないわ」

 凛は不機嫌そうにそう言った。










『じゃあ葉月、昼になったら迎えに行くから、昼食は私が用意するわ』

 ボクは当然授業は受けないので外で待つことになっている。

『何かあったら私に知らせて、レイラインでつながってるから位置はわかるはずよ』

 確かに凛の位置が感じられる、凛が今どんな状態かも大体わかる、これなら危険な状況のときにすぐ駆けつけられるだろう。

『………後は目立つ行動は極力慎むこと』

 制服はこの学校のものだし、狩人の鎌も竹刀袋に入れてある、問題ない。


 ―――――と、いう訳で

 今ボクは凛に言われた場所、弓道場にいる。

 ここは授業中には誰も来ないそうだ。

 目立つ行動は避けろと言われたし、授業中はここで時間を潰すことにする。

「――――――――」

 射場の真ん中に立ってみるとなかなか気分がいい、広く、立派な道場だ。

 手の中にある竹刀袋に眼を落とす。

 ……せっかく道場に来たのだから、たまには鍛錬というのもいいかもしれない。


 ―――紐を解き、竹刀袋から狩人の鎌を取り出す。

 
 ―――目の前で、鞘から美しい刃が現れていき、透き通る刃には自分の顔が写る。


 ―――1000年を超える戦いの日々葉月とともにあり、すでに葉月の一部となっている葉月の愛刀、狩人の鎌。

 
 ―――その刃に刃こぼれは一つもなく。


 ―――一片の曇りも存在しなかった。


「―――――ハアッ!」


 掛け声とともに刀を振り下ろす。


 手の中には、命を預けるにふさわしい最強の刀。


 ――――ドクン――――

 高揚する。

 ――――ドクン――――

 限りなく、昂っていく。 

 ――――ドクン――――

 熱い。 

 ――――ドクン――――

 血が煮えたぎり、マグマのよう。 

 ――――ドクン―――― 

 冷たい。

 ――――ドクン――――   

 頭の中は氷点下。

 ――――ドクン――――

 体は燃え上がり、頭は凍りつく。    



 ――――想定する敵は百人――――



「――――肩ならしだ」


 燃える体は爆発しそう。


 この昂りの熱さ全てを。


 絶対零度の殺意をこめて。


 架空の敵に叩き込む―――!


「――――――はぁぁぁあああ!!」

 












 一時限目の終了を告げるチャイムが鳴る。

 教師がその口から終わりを告げると、生徒は散らばり、思い思いに喧騒という名の曲を演奏し始める。


 そんな中、一人の女生徒が急ぎ足で教室を出て行く。

 それを気に留めるものは居らず。

 教室は、変わらぬ喧騒に包まれていた。




 実綴綾子Side



 
「やれやれ、筆記用具を置き忘れるなんて、あたしもヤキが回ったかね」

 私こと実綴綾子はらしくないミスをした。

 朝錬で自分の筆記用具を使い、そのまま置き忘れてしまったのだ。

 一時限眼は友人から筆記用具を借りたのだがそれを続けるわけにも行かない。

「まったく、カッコつかないったらありゃしない」

 言いつつ、校舎から外へ出て早足で弓道場を目指す。

 置き忘れた筆記用具は準備室にあるはずだ、幸い鍵を持っているので準備室にも入れる、私が部長でなかったら鍵を借りに行く手間だけで休み時間が終わっていたところだ。

 しかし、それでなくとも一時限目の休み時間は短い、急がねば二時限目に遅刻するという無様をさらすことになる、そんなことは許されない。

 そう思ったとき、すでに私は走っていた。



 足を止め、ようやく着いた弓道場の扉に手をかける。 

「……………ん?」

 何か違和感があった、道場内部から足音と、何か異様な音が聞こえる。

「誰かいるのか……?」

 サボりだろうか。

 結構早く走ったあたしより早くここにいられるのは、それぐらいのモンだろう。

 厄介ごとはごめんだが、ここまで着て易々と引き下がるわけにも行かないので、とりあえず射場が一望できる渡り通路のほうから様子を伺うことにした。

「時間ないってのにな………」

 そうぼやきつつ、私は柱の影に身を隠しつつ、射場の様子を伺った。



「――――――――な」



 ―――しかし、射場には私の想像を超えたものがいた。


 瞬間、私は何もかも忘れてその姿に見入ってしまった―――


 



 ――――修羅の如く剣を振るう、一人の女の子に。
   

5: レッドアイ (2004/03/26 06:57:11)[had40802 at ams.odn.ne.jp]


 ―――黒い髪が舞い踊り。

 ―――銀色の刃が煌く。

 ―――繊細で、力強く。

 ―――その姿は美しく。

 ―――ダンスを踊っているかのようだ。







 凛と剣と永久の旅人 その5






 
「――――――――」

 剣舞を続ける女の子に、あたしは見惚れていた。

 彼女は止まることなく剣を振り続け、その速度は上がり続ける。

 少女の腕の動きは視認出来るものではなくなっていく。
 
 前後左右に死角はなく。

 まるで竜巻のようだった。




 ―――――カキン―――――




 と、彼女は剣を鞘に収める。


 彼女は腰を落とし。

 
 剣の柄に手を添える。


 その瞬間――――


 ―――――ミシリ―――――


 と、道場全体が軋んだ気がした。


「―――――あ――」 


 背筋が凍るような寒気。 


 彼女から放たれる絶対的な殺意。


 ヤバイ。


 本能的に、彼女があの姿勢から打ち出す攻撃がとんでもない物だと理解する。


 逃げ出そうか、とも思ったが、足がすくんで動かない。


 ……ヤバイ。




 

 ――――しかし、その刀が抜かれることはなかった。

 彼女はその身に纏っていた殺意を雲散させると、刀を床に置き、道場の床に寝転んだ。

「………ふぅ」

 あたしは安心してため息を吐き、その場を動こうと思ったが――――

「……ありゃ?」

 ドサリ

 柱の影から出たとたん、こけてしまった。

 ………どうやら腰が抜けたようだ。

 ――――と、女の子がこちらに気がついたようだ、眼が合った。

 彼女は寝転んだまま、首を動かし、こちらを見ている。

 ちなみにあたしは、両手を地面につき、土下座一歩手前のような状態で、かなりかっこ悪い。

「………お〜い、助けてくれ〜」

 もうどうでもいいや、という気持ちになり、あたしは彼女に助けを求めていた。








  
「で、あんたここで何やってんだ」

「……人を待ってる」

「最近は人を待つときに剣舞をするのか?」

「………………」
 
「授業中だぞ、今」

「……それは、キミも」

「………………」

「………………」

 道場の中心で向かい合い、女の子と話をする、二時限目の始まりのチャイムはとっくに鳴り終えている。

「あんた、うちの学校の生徒なのか?見たこと無いぞ」

 制服を着てはいるが、こんなに目立ちそうなやつ、あたしが気づかないはずがない。

「…………………今日転校してきた」

「今の間は何だ」

 彼女が部外者であることは間違いないようだ。
 
「………で、誰を待ってるんだ、この学校の生徒か?」

「……………凛」

「……凛?遠坂凛のことか?」

「……知ってるの?」

「ああ、あたしのライバルだよ、あいつは」

 友達よりそっちのほうが正しいだろう、強敵と書いて『とも』と呼ぶ、そんな感じ。

「で、あんたいつまで待ってるんだ、学校が終わるまでか?」

「昼休みになったら来てくれる」

「あ、じゃあ私も行くよ、まだ話したいこともあるしな」

 二時限眼終了のチャイムが鳴っている、当初の目的も果たしたことだし、いつまでもサボっているわけには行かない。

「あ、そういえば名前聞いてなかったな、あたしは実綴綾子だ、綾子でいい」

「……ボクは、葉月」

「じゃあ葉月、昼休みにな」

 そういい残してあたしは駆けて行く。

 走りながら思い出すのは葉月の剣舞、今思い出しても鳥肌が立つ。

「――――――ハハッ」

 高揚する、こんな気持ちは久しぶりだ、この後の授業も葉月のことばかり考えてしまい、手につかないだろう。

 葉月、あいつはすごいやつだ。




 遠坂凛Side




「何であなたがここにいるのかしら?」

「よぅ遠坂、遅かったな」

「………………」

 葉月の分の食事を持って弓道場に参上した私は、異様な光景に出くわした。

「……何やってんのよ二人とも」

「何って、練習試合だよ、見りゃわかるだろ?」

「………………」

 なぜか綾子と葉月が互いに竹刀を持ち、向かい合っていた。

「何で、そんなことしてるのかって訊いてるのよ!」

「まぁそう言うなって、ちょっと見てろよ!」



 ―――と、綾子が葉月に向けて踏み込み距離を一気に詰める、竹刀を高く掲げ、面を狙うつもりだろう、

「――――――ぐっ!」

 しかし、それまで下げられていた葉月の右腕が上がり、振り下ろされる、それを、綾子は竹刀を横にして受ける。

 それはものすごく早く、強い一撃だった、綾子は顔をしかめ、あとずさる、そこに葉月の横薙ぎの一撃が襲い掛かる。

「――――――くっ!」

 後ろに飛び、紙一重でそれをかわす、しかし―――

 ビシッ

「あっ痛〜〜〜〜」

 かわされた葉月の竹刀は、瞬時に軌道を変え、綾子の頭にクリーンヒットしたのだった。







「見たか?片手で、しかも手加減してこれだぜ、あたし一応有段者なのにな〜」

「パワーとスピードが段違いね……って言うかあなたたちいつの間に知り合ったのよ」

「あぁ、そりゃもう運命の導きってやつよ、偶然あたしが道場に忘れ物をとりに来たら、葉月がいてな」

 綾子はやたらと嬉しそうに語る。

「『美人は武道をしていなければならない』葉月はその模範だよ」

 当人は、我関せずとサンドイッチを頬張っている。

「葉月、食べ終わったら昼休みが終わるまで手合わせしてくれ」

「………凛、いいのかな」

 その問いに私は、いいんじゃない?と適当に返しておく。

 その昼休みは、綾子が頭をぼこぼこ殴られてるのを見ながら過ぎていった。

  








 空が紅く染まる。

 教室から生徒の姿は減っていき、日が完全に落ちれば学校に残る人間はいなくなるだろう。

 夕日を背に、私と葉月は赤い教室に立っていた。

「葉月、始めるわよ、どんな結界かを調べてから、消すか残すか決めましょう。」

 陰になり、表情が見えない顔がコクリと俯く。

「さあ、行きましょう」

 私たちは、マスターとサーヴァントとして、行動を開始した。








「これで七つ目、とりあえずここが起点みたいね」

 校内を軒並み調べ、屋上に出たとき時刻は八時。

 学校に残っているのは、私と葉月だけだ。

「まいったな、これ、私の手には負えない」

 私は屋上に刻まれる刻印を見てそうつぶやく。

「…………凛、これは」

「……これが発動すれば結界内の人間は溶解するわ……完全に消したいところだけど、私じゃ邪魔するのが精一杯ね」

 左手を地面につけて、一気に魔力を押し流す、それで、とりあえずはこの呪刻から色を洗い流せるのだが―――



 「よう、嬢ちゃんたち、なかなかいい夜だな」

 唐突に。

 結界消去を阻むように、第三者の声が響き渡った。



6: レッドアイ (2004/03/26 06:59:08)[had40802 at ams.odn.ne.jp]





 葉月Side




給水塔の上。

 人の姿をしていながら、獣を思わせる男。

 人間とは違う異質な気配、人間を超える魔力。

 見た瞬間理解した。

 ――――これが、敵。







 凛と剣と永久の旅人 その6







「――――これ、貴方の仕業?」

「いいや、小細工を弄するのは、魔術師の役割だ。オレ達はただ命じられたまま戦うのみ、聖杯戦争に無関係じゃねえなら解るだろう」

「――――凛、あれは人間じゃない」

「ほう、察しがいいな嬢ちゃん、ならオレがこれからすることも解るな?」

 ――――危険。

 凛を抱き上げ、跳躍する。

 ごう、という音、ボクたちが1秒前にいた空間を、紅い、2メートルもの凶器が切り裂いていた。

ボクは凛を抱えたままフェンスの上に、とん、と降り立つ

 凛はボクの腕の中でびっくりした顔をして見あげてくる

「……乱暴だね」

「は、すげえな嬢ちゃん、その魔力量といい、人間とは思えねえ、サーヴァントか」

「……たぶん、そうだと思う」

 青い男が跳ぶ、フェンスの向こうに何もないことなど問題とせず、ボクへ向かって一直線に。

 ボクは落ちる、頭を下にして真っ直ぐに。

 窓枠の上を蹴り、加速、加速、加速。

 地面スレスレで壁を蹴り、着地、その勢いのまま飛ぶように走り出す。

 否、他人から見れば飛んでいるとしか見えないだろう。

 しかし――――

「速いな、やはりサーヴァントか、しかも半霊体じゃねえ完全な肉体……何者だ、テメエ」

 青い男は難なくついてくる。

 逃げることは不可能、凛を地面に降ろし、男と対峙する。

……凛の顔が青かったが見ないことにした。

「その剣……セイバーか」

 鞘から抜き放たれたボクの刀を見て青い男がつぶやく、確かに剣を持つのはセイバーだろう、だが――――

「違う」

 本当はどっちでもいいんだけど、そんな名前をもらった覚えはない。

「違う?じゃあ何だってんだよ」

「知らない。けど、あえて名乗るなら――――旅人」

「は、なんだそりゃ、知らねえな」

「当然、今考えたんだから」

「――――面白い嬢ちゃんだ」

言葉を切り、無言で睨み合う――――背後からは凛のうめき声が聞こえていた。




 遠坂凛Side




 ……クラクラする。

 いきなり葉月に抱き上げられたと思ったら、信じられない速度で落下するし、校舎の壁を蹴って限りなく90度に近い方向転換をしたときはもう頭がこう、ぐわんぐわんと。

「――――――――」

「――――――――」

 葉月と青い男――――たぶんランサーが睨み合う、戦闘開始のタイミングを計っているのだろう。

 さっき私は思いっきりお荷物だったので、マスターらしいことをしておきたい。

 開戦の合図ぐらいはやっておこう。

「……葉月、貴方の力、ここで見せてちょうだい」

 その言葉が、引き金となる。



葉月はランサーに突っ込む、ランサーもほぼ同時に動き、手に持つ槍を突き出す、葉月はそれを切り払い、ランサーに斬りかかろうとするが、ランサーの素早さによってそれを阻まれる。

 払われた槍は一瞬にして引き戻され、葉月の目の前に戻ってくる、しかし葉月は関係ないとばかりにそれを切り払い進もうとする。

 葉月とランサー、互いに一歩も引かずただ己の武器を相手にぶつけようと進み続ける。

 ランサーの槍の速度はなおも上がり続けるが、葉月の剣もさらに加速する。

 互いに後退などあり得ない、ただ目前の敵を倒すのみ。

 ランサーは烈火の如き殺気をぶつけ、葉月は冷気の如き殺気でそれに応じる

幻想的な打ち合い、しかしそこで起こっている異変に私は気付いた。

「―――――――!」

「――――チィッ!」

 葉月の魔力が増えている。

 それにより葉月の力は強化され、ランサーに、より強烈な一撃を見舞っている。

 しかし、戦闘中に勝手に魔力が増えるなどあり得ない、葉月はどこからか魔力を補給している―――

「…………そうか」

 そこまで考えてみれば簡単だった、葉月は、目の前にいる魔力の固まりから魔力を吸い取っているのだ。

 ―――即ち、ランサーから。 

 サーヴァンは魔力の固まりともいえる存在だ、魔力によって体は編まれ、魔力によって現界し、魔力によって戦う、ならばその魔力がなければどうなるか。

 一撃打ち合うたびに、ランサーの槍の魔力が葉月の剣に絡め取られる、魔力は葉月の剣の周りを渦巻き、吸い込まれていく。

「――――――クッ!!」

 ランサーは己の不利を悟ったのか、いったん大きく間合いを離す。

「全く、なんてえげつない剣もってやがる、直接触れないでこれか、一回でも切られたらやばそうだな」

「……本気を出さないと次は、当てる」

「――――は、言ったな」 


 ――――途端、あまりの殺気に、呼吸を忘れた。


「なら食らうか、我が必殺の一撃を」

 
 槍の穂先は地上を穿つかのように下がり、ただ、ランサーの双眸だけが 葉月を貫いている―――――

「…………………」

 葉月は無言で剣を構える、それが答え。

 クッ、とランサーの体が沈む。

 同時に。

 茨のような悪寒が、校庭を蹂躙した。

 ……空気が凍る。

 比喩ではなく、本当に凍っていく。

 大気に満ちていたマナは全て凍結。

 今この場、呼吸を許されるのはランサーという戦士だけ

 ランサーの手に持つ槍は紛れもなく魔槍の類だ。

 それが今、本当の姿で迸る瞬間を待っている―――

「――――まずい」

 この状況は本当にやばい、元から英霊ですらない葉月には、あの魔槍に対抗できる“宝具”が存在しない。

 葉月が使っていたさっきの刀は、概念武装としては相当強力なものなのだろう、しかしそれだけだ、伝説上の破壊を再現する“宝具”には敵うはずがない。

 あれがどんな“宝具”かは知らないけど、葉月はやられる。
 こんな直感、初めてで信じがたいけど間違いはない。

 あの槍が奔れば葉月は死ぬ。

それは絶対だ。

 文字通り、ランサーの槍は必殺の“意味”を持っている――――

 葉月は敗北する。

 ランサーに心臓を貫かれれば葉月は死ぬ。

 ―――そこまで解っているのに。

 私は指一本動かせない、私が動けばそれだけで開始の合図となってしまうからだ。

 ……この戦いで葉月が死なない方法、例えば――――

「――――――誰だ…………!!!!」

 第三者の登場とか。

「……あれ?」

 ランサーから放たれていた鬼気が消えた。

 走り去っていく足音。

 ……その後ろ姿は、間違いなく学生服だった。

「生徒……!?まだ学校に残ってたの……!?」

「……………?」

「あれ、葉月何でここに」

「何で……?」

 首をかしげる葉月。

「ランサーはどうしたの?」

「何処かに行った」

「…………………」

 あ、そうか、目撃者を消しにいったんだ。

「……ってやばい!、葉月、行くわよ!さっきの生徒を追って!」

「……うん」

 といわれると、葉月は飛ぶように校舎の方へ駆けていく。

「……くそ、なんて間抜け……!」

 思わずそんな言葉を吐き、私も葉月の後を追う。

「間に合って……葉月!」






 月明かりも閉ざされた夜

 ひどく冷たい廊下には、床に倒れた生徒と、それを起こそうとしている葉月の姿があった。

「―――葉月……!」

「……青いやつの槍で心臓を刺されてる」

「………………」

 葉月は淡々と事実を述べる、私はそれを聞いて呆然とした。

 しかし葉月が、うつぶせになっていた生徒をひっくり返した瞬間―――――

「――――――――」

 私はこのまま、崩れ落ちそうなほどの衝撃を受けていた。

「なんで……あんたが」

 何故よりにもよって、こいつがここにいるんだろう、頭にくる、いくらぶん殴っても足りないほどの怒りが湧いてくる。

 鮮やかに目撃者を始末したランサーに怒りは湧かない。

 ただこんな時間まで学校に残ってたコイツが憎たらしくてしかたない……!

「……まだ生きてる」

「ええ……でももうすぐ死ぬわ」

「……生きてるなら、助けられる」

「?……できるの、そんなこと」

「……大丈夫」

 と、葉月は槍に貫かれたところに唇を当てた。

「葉月……?」

 見ると、葉月の唇を当てたところが、薄緑色に光っていた。




「……ふぅ」

 葉月が唇を離す、倒れていたやつの心臓は鼓動を再開している。

「葉月……今のは」

 葉月は魔術を一切使っていない、ただ、唇を当てただけ、いったい何をやったのか。

「……ソーマを少し使った」

 ……ソーマっていうと前に聞いた不老不死がどうのってあれだろうか。

「え、じゃあこいつも不老不死になったりするの!?」

「それは無理、人を不老不死にすることはボクにはできない」

 そうあっさりなられても困るので私も安心した。

「あぁ、もう今日は疲れたわ、家帰りましょ、葉月」

「……うん」

 こうして私は、倒れてるやつの顔を2〜3回踏みつけた後、家に向かった。

7: レッドアイ (2004/03/31 05:16:22)[had40802 at ams.odn.ne.jp]


 家に到着し、私は居間のソファーに腰を下ろす、葉月も続いて向かい側の椅子に座り、向かい合う。

「さて、葉月、今後のことを話しましょうか」

 聞きたいことは沢山ある、一つ一つ疑問を解消していこう。







 凛と剣と永久の旅人 その7







「葉月、サーヴァントと戦って、どうだった?」

「……強かったけど、何とかなる」

 確かに、葉月はあの青いサーヴァント――ランサーと互角に打ち合っていた、しかしそれは純粋な剣技だけの話。

「……サーヴァントの強さは、宝具によるところが大きいわ、人間であるあなたにはそれがない、ランサーが宝具を発動すればあなたに対抗手段はなかったはずよ」

 もしあのままランサーが宝具を使っていたら、今頃葉月はどうなっていたか。

「宝具っていうのは?」

「宝具はそれぞれの英雄が生前に愛用した武器よ、彼らはその武器の真名を紡ぐことによって伝説上の現象を再現する、まともに受ければ勝ち目はないわね、宝具を使わせないようにするしかないわ」

 それができるのかどうかが問題だけど。

「次にあなたの刀ね、それが魔力を吸収していたように見えたけど……」

「うん、ボク自身にそんな力はないけど、これが魔力を吸収してくれる」

 手に持っている刀へと視線を移し葉月は言う。

「これにボク以外の人が触ると魔力を吸い取られる、凛も気をつけて」  

「……?なんで葉月は平気なの?」

「………………」

「………………」

 ……葉月は黙っている、何か言ってはいけないことだったのだろうか。

「……なんでだろう?」

「……知らないの?」

「……うん」

「………………」

「………………?」

 葉月は刀を見つめながら首をかしげている……本当に今気付いたという顔だ。

「……それはさておき。
 魔力が吸収できるのは役立つわ、サーヴァントは魔力が切れたら動けないし、かなり有効な武器ね、これをうまく使えば何とかなるか……」

 ふむ、と私は思案する。
 強さに関しては問題なさそうだ、宝具がないというのは確かに痛いがそれを補う武器がある、あとはあの死体一歩手前のやつを生き返らせるほどの治癒能力――――――

「って、ちょっと待った」

 よく考えればあいつを助けられたことですっかり忘れていたが、ランサーは目撃者の消去を優先した、最優先で殺したやつが生きているとしたら――――――

「――――やっぱトドメ刺しに来るかな……」

 ……ヤバイ。

「葉月、帰ってきたばかりで悪いんだけど走るわよ、急がないとあなたが助けたやつが死ぬわ」

 





 夜の町を走る。

 雲に覆われた夜空の下、私たちは武家屋敷にたどり着いた。

「……凛、さっきのヤツがいる」

「解ってる!」

 ―――先を越された、気配は塀の向こうからしている、ランサーは何も解らずに帰ってきたあいつを再び殺そうとしている。

「葉月、塀を越えてランサーを倒すわよ!後のことは後で考えればいい――――――」

 そのとき。

 カア、と太陽が落ちたような白光が屋敷の中から迸った。

「――――――」

 気配が、気配に打ち消された。

 ランサーというサーヴァントの力の波が、それを上回る力の波に消されていく。

 ……瞬間的に爆発したエーテルは幽体であるソレに肉を与え、実体化したそれは、ランサーを圧倒するモノとして召還された。

「……凛、気配が一つ増えた」

「―――ええ、なんでこんな所でサーヴァントが召還されるのかしらね、理解不能だわ」

 ……葉月のおかげでだいぶ理解不能なことにも慣れてしまったのだが。

 塀の向こうから聞こえてくるのは断続的な金属音、どうやらランサーとたった今召還されたサーヴァントが打ち合っているようだ。

「……どうする?」

「ここまできて帰ることはないでしょ、しばらく様子見よ」

 葉月は無言で俯くと塀の向こうに意識を集中した、夥しい殺気と凍結していくマナ、この感覚には覚えがあった。

「……これ、ランサーの宝具ね」

 塀越しにも大きな魔力が放たれたことは感じられた、そしてしばらくの静寂の後、ランサーが塀の向こうから飛びだしてきた。

「……塀の向こうのサーヴァントも健在、ランサーの宝具を使われても生き延びる程のサーヴァントか、なかなかに厄介そうね」

 ランサーを追いかけるのは却下、塀の向こうのサーヴァントを優先する。

 さて、どうしようかと考えていると――――

 そのサーヴァントは塀を越え、私たちの前に現れた。

 銀の鎧に身を包んだ金髪の騎士。

「……魔術師と、サーヴァントか?」

 鈴のような声、僅かに疑問の響きを含んでいる、しかし疑問の表情は一瞬で消え去り、その手に持つ“何か”を正面に構え直しこちらを見据える。

 私はそのサーヴァントの可愛らしさに心を奪われ、一瞬だけでもその少女をサーヴァントとして認識することが遅れてしまった。一人であったならば致命的な隙だが、葉月は臆することなく私を守るように前に出ている。

 葉月は刀の柄に手を掛け、相手は正面に剣を構える。

 ―――一触即発とはこのことか、息の詰まるような緊張感、十秒にも満たない時間が何分にも感じられる。

 互いに隙をうかがうも隙がなく、攻めあぐねている、その冷たい空気はしかし――――

「セイバーーーー!!」

 状況をまったくと言っていいほど理解していなさそうな大声によって打ち砕かれた。




 衛宮士郎Side




 ……いったいどういう状況なんだろうかこれは。

 ともかく今日はいろいろあった、槍で心臓刺されたり、家に帰っても追っかけ回されて、気付いたらなにやら金髪の女の子を召還してしまった模様。
 その子はセイバーと名乗りオレを追ってきた槍を持ったサーヴァントと戦って傷を負う。で、槍を持ったサーヴァントが帰ったと思ったら外に何かいるとか言って跳んでいってしまう。当然オレも追いかけるわけだがたどり着いてみると不思議空間だったり。

「なんですかマスター」

 緊張を未だ解かず、声だけで応答するセイバー。

「いやなんというか状況がさっぱり解らないんだが、どうなってるんだこれは」

 セイバーと対峙している、月明かりに照らし出されるその顔はとんでもない美人だというのが解る黒い髪の女の子。
 うちの学園の制服を着ているが見たことない女の子だ。

 背筋をピンと伸ばし、日本刀と思われるモノの柄に手を掛けている。

「え〜〜っと、誰だか知らないけど女の子がそんなことしちゃだめだ、危ないだろ、セイバーも女の子相手に剣を構えるなんて止めてくれ」

「マスターは何を言っているのですか、相手はマスターとそのサーヴァントです、油断すればこちらがやられる」

「だから、そんなこと言われてもちっとも状況が解らないんだって、俺をマスターって呼ぶんなら説明とかするのが筋ってもんだろう?」

「それはそうですが……しかし……」

 セイバーは女の子と対峙しながらこちらをちらちらと見てくる、そこへ。

「セイバーとそのマスターさん?とりあえず剣を納めて話し合わないかしら」

 丁寧なくせに刺々しく感じる言葉でそいつは声を掛けてきた。

 黒い髪の女の子の横に、同じ服を着た少女が立つ。

「遠坂、凛――――」

 何故、ここにいるのだろう、ただいま頭が大混乱中なのでこれ以上変な現象が起きないことを願っていたのだが。

「え?何、私のこと知ってるんだ。なんだ、なら話は早いわよね、とりあえず今晩は、衛宮君」

 何のつもりなのか。
 とんでもなく極上の笑顔で、遠坂は挨拶をしてきやがった。

「あ――――え?」

 それは、参った。
 そんな何気なく挨拶をされたら、今までの異常な出来事が嘘みたいな気がして、思わず挨拶を返したくなってしまう―――

「―――って、今晩はって、そんな場合じゃないだろ、遠坂、この状況を見て何も思わないのか、っていうかなんでここにいるんだ」

「決まってるじゃない、私もあなたと同じマスターだからよ。つまりは魔術師ってこと、お互い似たようなものだし、隠す必要はないでしょう?」

「魔術師、だって――――?そんな、お前魔術師なのか遠坂……!?」

 目を見開いて、思わず遠坂を指さしてしまう。

「あ――――」

 ……しまった。
 なんか知らないが遠坂のヤツ、いかにも不機嫌そうにこっちを睨んでいる。

「あ、いや、違う。言いたいのはそういうことじゃなくて」  

「――――そう。納得いったわ、ようするにそういうことなわけね、貴方」

 遠坂は俺たちを一瞥すると、となりの女の子に目を向ける。

「葉月、しばらく戦わないわ。セイバーも、剣を納めてくれない?」

 遠坂がそういうと女の子は剣の柄から手を離し、ピリピリした空気は消えていった、どうやらセイバーもすでに武器を持っていない。

「え、あれ、遠坂、何を……」

「いいから話は中でしましょ。どうせ何も解ってないんでしょ、衛宮君は。安心して、イヤだっていっても全部教えてあげるから」

 さらりと言って、遠坂はずんずん門へと歩いていく、それに続く黒髪の女の子。

「え―――待て遠坂、なに考えてんだおまえ……!」

 思わず呼び止める。
 と―――
 振り向いた遠坂の顔は、さっきの笑顔とは別物だった。 

「バカね、いろいろ考えてるわよ。だから話をしようって言ってるんじゃない。
 衛宮君、突然の事態に驚くのもいいけど、素直に認めないと命取りって時もあるのよ。 ちなみに、今がそのときだって分かって?」

「っ――――う」

「わかればよろしい。それじゃ行こっか、衛宮君のおうちにね。貴女もそれでいいでしょうセイバー?
 貴女のマスターほんっとどうしようもないヤツみたいだから、少しはマシにしてあげる」

「……いいでしょう。何のつもりかは知りませんが、貴女がマスターの助けになる限りは控えます」

 ……どうしようもないヤツってのは否定しないのか。

 遠坂は衛宮邸の門をくぐっていく。

「なんかすげえ怒ってるぞ、あいつ……」

 理由は判らないが、学校で見る遠坂と性格が違う気がする……俺のせいだろうか。

8: レッドアイ (2004/04/11 21:45:41)[had40802 at ams.odn.ne.jp]


 で、なんだか不思議な状況になってしまった。

 我が家の廊下を歩く先頭に遠坂、学園のアイドルで憧れていた遠坂凛がいて。

 その後ろから学園の制服を着た、知らない女の子が付いて行く。

 その女の子の背中を見ながら歩く俺がいて。

 俺の背後には無言で付いてくる金髪の少女、自らをサーヴァントと名乗るセイバーがいる。

「………………」

 あ。
 なんか、廊下が異次元空間のような気がしてきた。







 凛と剣と永久の旅人 その8







 ――――――で。

 この俺、衛宮士郎は遠坂凛からへっぽこの称号を賜り『第一回 遠坂凛の優しいマスター講座』を受けることとなった。

 その講義の内容はわかりやく、かつ難解で厳しく、時に優しく説明された。

 話を聞いて思ったことは、題名の『優しい』は嘘だと思ったことだった――――――  
「ちょっと、聞いてるの衛宮君」

「ん……ああ大丈夫、大体のことは理解した、納得はしていないけどな」

 マスターになった人間は、召還したサーヴァントを使ってほかのマスターを倒さなければならない。サーヴァントは強力な使い魔だからうまく使え。

 言われたことは理解した、そこで一つ疑問があるのだが――――――

「……なぁ遠坂」

「なによ」

「遠坂もマスターなんだよな」

「何を今更、そんなの聞くまでもないと思うけど?」

「そこで疑問だけど、その……遠坂のサーヴァントはどこにいるんだ?」

 マスターはサーヴァントを従える。マスターの俺のそばにセイバーがいるなら、同じくマスターである遠坂のそばにはサーヴァントがいないとおかしいと思う。

 遠坂は一瞬きょとんとした顔をして。

「何言ってるの?さっきから私の隣に居るんだけど」

 遠坂が話している間終始無言だった隣に座る女の子に顔を向けた。

「…………いや、遠坂、さっきから聞きたかったけど聞くタイミングがなかったから今聞きたい、その子はうちの学園の生徒じゃないのか?」

「ん?……ああ、そういえば制服着てたわね」

 遠坂は納得した様だ、一人で納得されても困るのだが。

「セイバーは気付いてるだろうと思うけど衛宮君のために改めて紹介するわ。
 私のサーヴァント、葉月よ」  

「…………………冗談?」

遠坂がこんな時に冗談を言うとも思えないが一応確認してみる。

「私が今、この状況でこんな気の利かない冗談を言うと思う?」

 そしたらなんかすっごい冷たい声で返された。

「……言いたいことは解るけど、葉月は私のサーヴァントとしてここにいる。それは確実よ」

 ……そう言い切られると素人であるこの俺は素直に納得するしかない――――

「待ってください」

 と、今まで傍観していたセイバーが声を上げた。

「質問があります。サーヴァントだというのなら何故クラス名で呼ばないのですか」

「……何よセイバー、私がサーヴァントをクラス名で呼ばないと何か不都合でもあるの?」

「サーヴァントの真名は隠し通すべきモノでしょう。それを軽々しく――――」

「じゃあ聞くけど、セイバーは、葉月、なんて言う英雄に心当たりはあるの?」

「いえ、ありません、それにそれが真名かどうかも解らない。ですがさらに気になることがあります。それに答えていただけないと私は貴女を信用することができない」

「へえ、いいわよ、言ってみなさい」

「ええ、そもそもそこにいるモノは英霊ではない、ということです」

 セイバーは話の中心である女の子に目を向けてそう言う。

「……………む」

 言われて遠坂は僅かに顔をしかめる。

「彼女と貴女はレイラインで繋がっているのは解ります。おそらく令呪もあるでしょう、その点では確かにサーヴァントといえます。しかしサーヴァントとして呼び出される英霊は半霊体のはず、ですが彼女は完全な肉体を持っている」

「………………」

 遠坂は反論できないのか、面白くなさそうにセイバーの話を聞いている。

「彼女の持つ膨大な魔力は英霊にも引けをとりません。人間がそれほどの魔力を持つことができるはずがないのですが、人間以外の気配もない」

 セイバーはそう言って遠坂と向き合い。

「答えていただけますか、彼女が何者かを」

 そう問うた。
 返答次第ではここで一戦ぶちかますのも厭わないとその目が語っている。

「……確かに、貴女の言ったことは全部真実よ。葉月は英霊ではないわ」

 それに対し遠坂はあっさりとセイバーの言ったことを認める。

「隠しておくつもりだったけど、下手にあなたに疑われるのもなんだしね」

 遠坂は、はぁとため息をつく。

「葉月は人間なのよ。サーヴァントとして聖杯戦争に参加することになった、ね」

「バカな、人間がそのような魔力を持てるわけが―――」

「何よ、持ててるんだからしょうがないじゃない。悪いけどそこから先は私にも解らないわ。サーヴァントとしてのクラス名だって知らない、確かなのは葉月が生きている人間ってことだけよ。これ以上は当人に聞くことをお勧めするわ」

「………………」

 セイバーはちら、と葉月と呼ばれた女の子を見ると黙り込んでしまった。



 ――――――さて

 セイバーと遠坂の会話について行けず、俺は話題の中心の女の子と向き合っていた。

 美貌だが、冷たい印象を受けるその顔に、俺は見入っていた、同じ人間だと言われても信じられない。どうやら今日は現実離れした美人に縁があるようで――――――

「何見つめ合ってんのよあなた達」

「うわ!と、遠坂か、脅かすなよ」

「ただ声を掛けただけよ、葉月のことを気に入って、見つめるのもいいんだけどね、話ぐらいちゃんと聞いた方がいいわよ」

「な、別に見つめてなんか――――――」

「本当に?」

 遠坂はにやにやしながら問いかける。

 むぅ、あれは生粋のいじめっ子の目だ、俺を追いつめて楽しんでやがる。

「さ、冗談はこれぐらいにして、セイバーも納得してくれたみたいだしそろそろ行きましょうか」

 と、いきなり態度を切り替え、遠坂がそんなことを言った

「?行くってどこへ?」

「だから、貴方が巻き込まれたこのゲーム……“聖杯戦争”をよく知ってるヤツに会いに行くの。衛宮君、聖杯戦争の理由について知りたいんでしょ?」

「ああなるほど、確かに行くべきか、でもどこまで行くんだ、あんまり遠くて今日中に帰ってこれないとかは」

「大丈夫、隣町だから夜明けまでには帰ってこれるわ。それに明日は日曜なんだから、別に夜更かししてもいいじゃない」

「いや、そういう問題じゃなくて」

 単に今日は色々あって疲れてるから、少し休んでから物事を整理したいだけなのだが。

「なに、行かないの?……まあ衛宮君がそういうんならいいけど、セイバーは?」

 何故かセイバーに意見を求める遠坂。

「ちょっと待て、セイバーは関係ないだろ。あんまり無理強いするな」

「おっ、もうマスターとしての自覚はあるんだ。私がセイバーと話すのはイヤ?」

「そ、そんなことあるかっ!ただ遠坂の言うのがホントなら、セイバーは昔の英雄なんだろ。ならこんな現代に呼び出されて右も左も分からない筈だ。
 だから―――」

「士郎、それは違う。サーヴァントは人間の世であるのなら、あらゆる時代に適応します。ですからこの時代のこともよく知っている」

「え――――知ってるって、ほんとに?」

「もちろん。この時代に呼び出されたのも一度ではありませんから」

「な――――」

「うそ、どんな確率よそれ……!?」

 あ。遠坂も驚いてる。

 ……という事は、セイバーの言ってる事はとんでもない事なのか。

「士郎、私は彼女の意見に賛成です。貴方はマスターとして知識がなさすぎる。貴方と契約したサーヴァントとして、士郎には強くなってもらわなければ困ります」

 セイバーは静かに見据えてくる。

 ……それはセイバー自身ではなく、俺の身を案じている、穏やかな視線だった。

「……分かった。行けばいいんだろ、行けば。
 で、それって何処なんだ遠坂。ちゃんと帰ってこれる場所なんだろうな」

「もちろん。行き先は隣町の言峰教会。そこがこの戦いを監督してる、エセ神父の居所よ」





 夜の町を歩く。

 深夜一時過ぎ、外に出ている人影は皆無だ。

家々の明かりも消えて、今は街灯だけが寝静まった町を照らしている。

 俺、遠坂、セイバー、そして葉月、男1対女3のこの状況は俺にとって凄く落ち着かない状況なわけで。

「なあ遠坂。つかぬ事を訊くけど、歩いて隣町まで行く気なのか」

「そうよ?だって電車もバスも終わってるでしょ。いいんじゃない、たまには夜の散歩っていうのも」

「そうか。一応訊くけど、隣町までどのくらいかかるか知ってるか?」

「えっと、歩いてだと一時間ぐらいかしらね。ま、遅くなったなら帰りはタクシーでも拾えばいいでしょ」

「そんな余分な金は使わないし、俺が言いたいのは女の子が夜出歩くのはどうかって事だ。最近物騒なのは知ってるだろ。もしもの事があったら責任持てないぞ、俺」

「安心しなさい、相手がどんなヤツだろうとちょっかいなんて出してこないわ。衛宮君は忘れてるみたいだけど、葉月とセイバーはとんでもなく強いんだから」

「あ」

 そう言えばそうだ。

 通り魔だろうが何だろうが、セイバーに手を出したらそれこそ返り討ちだろう。
 しかし少し気になる事が―――

「……セイバーが強いのは知ってるけど、葉月って強いのか?」

 葉月もセイバーも強いと言う遠坂、しかしさっきの話では葉月は人間だという事らしかった、なら葉月は――――

「……衛宮君、人を見かけで判断しない事ね、人間とはいえ葉月は貴方が百人いても太刀打ちできないほど強いわよ」

「……なあ遠坂、葉月は人間なんだろ、なんでそんなに強いんだよ」

「だからそう言う事は本人に訊きなさいって、私が話していい事じゃないわ」

「……葉月って喋れるんだよな」

「?喋れるわよ、なんで?」

「いや、今日遠坂と合ってから葉月、一言も喋ってないだろ」

 少し後ろを見ると、セイバーと葉月が並んで歩いている。互いに無言だ。セイバーは雨合羽を着込んでから無口になってしまった。

「ああ、確かに喋ってないわね。普段から無口だから気付かなかったわ」

 そう言って遠坂はにやりと笑うと。

「葉月、ちょっとこっちに来なさい、衛宮君が話したい事があるんだって」

「な、遠坂!?」

 と、少し後ろにいたセイバーと葉月が歩幅を広め、追いついてきた。

 今、俺の真横に葉月の顔がある。

 冷たい印象を受けるが、美しいその顔。

「…………何?」

 唇から紡ぎ出された、初めて訊く葉月の声。

 それを訊くだけで俺の心臓の鼓動は高まってしまう。

 俺の顔はかなり赤くなっていることだろう。

「凛、士郎は何を訊きたいのでしょう、言いにくいことなのですか?」

「…………プッ」

 そして肩をふるわせて笑いをこらえる遠坂、それを首を傾げて見るセイバー。

 ……遠坂は性格にかなり問題あり、と。

「い、いや、今のは遠坂の悪戯って言うかその―――」

「あら、なに?衛宮君が訊きたいことがあるって言うから呼んだんじゃない、それを悪戯扱いとはひどいわね」

「……………?」

 葉月は首を傾げてこちらを見る。

「―――あ、ああ、今はいいや、また今度にする」

 これ以上遠坂にからかわれるのも嫌なので無理矢理話題を切り上げ、歩幅を広める。

 何というか、女の子3人と肩を並べて歩くというのは非常に抵抗があることで―――




 教会前にて




「シロウ、私はここに残ります」

「え?何でだよ、ここまで来たのにセイバーだけ置いてけぼりなんて出来ないだろ」

「私は教会に来たのではなく、シロウを守る為についてきたのです。シロウの目的地が教会であるのなら、これ以上遠くには行かないでしょう。ですから、ここで帰りを待つことにします」

「分かった。それじゃ行ってくる」

「はい。誰であろうと気を許さないように、マスター」

「……凛、ボクもここで待つ」

「ん?まあいいけど、何で?」

「神の家に、ボクが行く必要はないと思うから……」 

「……神のご加護がいらないって意味かしら?」

「……間に合ってる」

「じゃ、行ってくるわよ、セイバーと仲良くね」


 教会の建つ高台にただ二人、セイバーと葉月は対峙する。







 葉月 ステータス

 CLASS・???

 真名・東 葉月

 性別・女性

 身長・高め  体重・何ともいえない  胸・巨乳

 属性 秩序・善

筋力 B  魔力 B

 耐久 D 幸運 A

 敏捷 B 宝具 ???


 詳細

 宇宙創造のエネルギーたるソーマの化身イブ。
 彼女は一つの世界で葉月の姉―――初美として暮らしていた。
 ある時彼女は一つの世界とともに砕け散り、数多の世界へ欠片として飛び散った。
 イブが砕け散るとき、一番近くにいた葉月は大量のソーマを浴びる。
 イブの欠片を集めて元に戻す一連の騒動の後、葉月は旅へ出た。
 かつて初美が旅した世界を巡る旅へ。

 葉月には元々魔術回路などないが、体内でソーマが勝手に魔力を生成する、その量は恐るべき物だが、葉月は肉体の強化などにしかあまり魔力を使わない。

 技能 保有スキル

 気配遮断:EX

 サーヴァントとしての気配が最初からない、さらに一流の剣士として気配の遮断を行えば気配はゼロ、気配のみで葉月を捜すことはほぼ不可能。 

 肉体再生:A+

 体内のソーマによる再生能力、大抵の傷は一瞬で完治する。
 葉月の保有する無限と言っていいほどの量のソーマは、葉月だけではなく他人の傷を癒すことにも効果を発揮する。

 単独行動:EX

 元々生きた人間である葉月にマスターは必要ない、魔力供給を絶たれても、死亡するか、気が向かない限り世界から消えることはない。
 凛が葉月にしている魔力供給はあんまり意味がない。 

 直感:B

 長い年月で養った第六感、危険を敏感に感じ取る、不意打ちなどで葉月を倒すことは難しい。

 武装

 狩人の鎌

 刀の形をしているがその本質は鎌。
 図書館世界の管理人がかぶる帽子、ジョウ・ハーリー、その分身である狩人の武装。
 ジョウ・ハーリー、狩人、共に並の人間が触れれば一瞬で魔力を吸い取られ死んでしまう。
 強力な魔力吸収は、サーヴァントの天敵ともいえる。
 狩人と融合したことのある葉月だからこそ使える武装である。

 葉月のセーラー服

 イブが砕け散る際に葉月が来ていたセーラー服、これにも大量のソーマが宿っており、そのエネルギーはかなりの防御力を生み出す、しかも破れても再生するという恐るべきセーラー服。
 防御力は大体一ランクぐらい上がる
 しかし今は凛に借りた制服を着ているのでランクが下がっている。 


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