春、すこし暖かい風と、それに涼しげな空気。四季の中でも個人的に一番過ごしやすいと思う季節になった。ちょっと前までは蕾がついてるだけの桜の木も、淡い色の花になって、零れ落ちながら俺たちの目を楽しませる。
俺が一度死んだ場所、俺の日常の壊れた場所、そして、あの忘れがたき時間の始まったであろう場所から、今日卒業する。
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HAGANE 第1話 "彼女"
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今日と言う特別な日、空気すらも楽しげに感じるくらいに、この場所にいるみんなの顔は輝いている。嬉しげな先生、涙を浮かべてる女の子、笑いあう生徒、喜びの顔ばかりがこの場にある。
そんなことを考えていると、後ろから肩を叩かれた。
「衛宮、もっと笑えよ」
美綴綾子、元クラスメイトで同じ部活にも在籍していたことがある。
「この輝かしき我等の旅立ちの日に、そんな間抜け面をしてどうした?」
「あ、あぁ。ちょっとボーッとしてた。」
間抜け面とはひどい言われようだが、確かに字の如く、間が抜けてる面をしていたのだろう…。
「まぁ、お前がボーッとしてるなんていつものことだがな、こんな日くらいもっとシャキッとしろ!」
バンバンと背中を叩かれる。彼女が俺の変り様を心配してたのは知ってるが、それにしても力加減が無さ過ぎでは無かろうか?…さすが弓道部主将だっただけのことはある、あざになってるるんじゃないだろうか…。
「確かに、今日の衛宮は気が抜けすぎだぞ。」
そこで卒業生答辞を答えた、我が校の前生徒会長がやってきた。柳洞一成、成績優秀、眉目秀麗、だが寺の子倅のせいか、性格がちょっと変だが、親友と呼べる付き合いをしてる。
「それにしても、卒業式とは真に感慨深いな。お前とは長い付き合いであったが…。」
こいつは高校卒業と同時に、佛学校と言うのであろうか?寺を継ぐための勉強をするらしい。俺と同じく冬木町から離れる、とのことだ。
「衛宮は東京の大学に進学であったな?あちらでも勉学に励め。照見五蘊皆空
度一切苦厄 喝。」
「柳洞、般若心経なんて言われても意味がわからないわよ。」
美綴も弓道の推薦で地方の国立に入ることになっている。
「そういえば、結局間桐慎二は見つからなかったらしいわね。」
「うむ…息災にしておればいいのだが。」
慎二、間桐慎二は聖杯戦争の時に殺されてしまったが、死体判別が不可能だったらしく行方不明扱いになっている。既にあいつがいた痕跡はほとんど無くなってしまった。いつか、人々の記憶から風化していくのだろうか…?
「おい!衛宮!またボーッとしやがって。」
む、どうやら考え事に没頭してしまったようだ。
「悪い悪い、どうも考え事に没頭しちゃってさ。」
二人とも呆れた顔で俺を見ている。…美綴なんて哀れみすら浮かべている気がするが…。
「だけど、みんな離れ離れになっちまう───」
な、と言いかけた時、声が聞こえた。
「―あ、いたいた、綾子」
――その声を聞いた瞬間、俺は逃げ出したくなる。やめろ思い出させるな、俺は思い出したくないセイバーなんておもいだしたくないせいはいせんそうなんておもいださ――
気がついたら、俺は逃げ出していた。
Interlude ―柳洞一成
あの雌狐の声が聞こえたと思ったら、いつの間にか衛宮がいなくなっている。ふむ、トイレだろうか?
「―あら、これはこれは生徒会長、お見事な答辞でしたわね。」
…雌狐が俺に気がついたらしく、いつもの通り嫌味を言ってきた。
「いやいや、学年主席殿、それほどでもない。」
卒業生答辞は、俺とこの雌狐、遠坂 凛のどちらかが最終選考に残ったらしい。片や学年主席を3年間キープ、片や人望のある生徒会長。最終的に学校への貢献度で見て俺が勝ってたらしく、卒業生答辞は俺に決まった。まぁ、学校の備品などはもっぱら衛宮に頼んでおったのだが…。
「おい、遠坂、アンタ倫敦に行くって本当かい?しかも美大。」
驚いたことに、いや、考えてみれば波長は合っておるかも…美綴と遠坂は知り合い、それも親しい。何に驚いたかと言うと、遠坂凛に親しい知り合いがおったことにだ。この女はまさに人々の「優等生の理想」を具現化したような存在。もっとも、そんな完璧な存在などおらぬと考えるから「雌狐」と呼称しておるのだが。
「―え、えぇ、私の才能を日本で伸ばすよりも海外で伸ばした方が人類のためと思ってね。」
出口の方を見ていたらしく、一瞬返事が遅れたようだ。
「まぁ、これでそなたとも永遠の別れと思えば、寂しいものだな。」
「永遠って、死んだわけじゃないだろう…。」
「えぇ、あなたの禿髪姿が見れなく本当に残念だわ。」
「お前も毒があるな…。」
剃髪はするが、それをとくはつなどと…ハゲでは無いぞ。
「にしても、これでみんな別々のみちに―」
「ごめん綾子、ちょっと用事を思い出したわ。」
そう言うが早いか、駆け出した。
「…トイレだろうか?」
「柳洞、あんたがモテない理由わかったわ…。」
むぅ…女体は禁制なのだが、なぜ自分にわからぬことを看破されたのであろう?精進せねばな。
―Interlude OUT
Interlude 凛―
遠くに、橙色の髪の毛が見えた。綾子との会話もそこそこに切り上げ、それを追う事にした。
衛宮士郎が私を避けていることには気づいていたが、タイミングからして声が聞こえた瞬間に駆け出すほどとは思っていなかった。そんなことされると追いたくなるのが人情ってものでしょう?…それに彼には色々と聞きたくて、でも聞けなかったことがある。
あの日の経過。何があったのか。どうして私を避けるようになったのか?
など、卒業式が終わってしまったら離れてしまうから、聞く機会にはちょうどいいだろう。
―Interlude OUT
俺は逃げ出す。何から逃げ出す?聖杯戦争から逃げ出す。聖杯戦争からだけか?俺の夢から逃げ出す。君の夢?正義の味方になることから逃げ出す。
ま だ あ る だ ろ う ?
…セイバーから逃げ出す…。
-----あとがき&説明-----
ハガネでは、士郎はセイバーから別れた時から弱くなってしまった設定です。ですから微妙にFateEndとは相違点があると思います。
また、感想をいただいたのですが、自分もまさか感想をいただくのがあんなに嬉しいこととは思いませんでした。
この物語は最後にはHappyEndで終わる形になります。
更新遅い&文が幼稚&短いとか文句や、おもしろい&気になるなどの褒め殺しなど大歓迎です。
ところで・TYPE-MOON SideStory Linksへの登録って自分ですんの?(゜゜;)(まだ良くわかってない。
これからもよろしくお願いしますペコm(_ _;m)三(m;_ _)mペコ