その身は、剣で出来た聖剣の鞘 第一部その14 傾:シリアス


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1: kouji (2004/03/25 10:27:41)[atlg2625dcmvzk84 at ezweb.ne.jp]

49『回想』1

穏やかな日々は、ある日突然に終わりを告げた

切っ掛けは、あの『戦争』から一年経ったある冬の日

その日、銀の髪の少女は、なんでもないことの様に、静かに息を引き取った

誰も、何も言わなかった、

暫くして、彼女の家の人たちが、彼女を引き取っていった

逃げるように、友人とともに祖国を後にしたのは、そのすぐ後だった

静かに全てを受け入れて、何年もかけて立ち直った

慌しく過ぎていく、倫敦での日々の中で、

赤い背中の正体に気がついて、見返してやろうと、がむしゃらに駆け抜けた

ある人物の手伝いを頼まれたのはそんなある日

いつもは断固反対する彼女が、その日に限って何も言わなかったのが不思議だった

珍しいな、と思いながら、特に気にすることも無く出掛けたことを、自分は後に酷く後悔することになる


50『回想』2 士郎視点

もう随分遠坂の所に戻ってないな、と思う
ルヴィアの所で働くことに不満があるわけではないけれど、
最近は時計塔でも姿を見かけないので気になっていた

そんなある日
日々の雑務を終えて、ふと、空を見上げながら、俺は、セイバーに思いをはせていた

この空を、彼女も見ていたんだろうか…………

浅黒く変色した肌と、色素の抜け落ちた髪を見たら、あいつはなんて言うだろうか?

「君が、衛宮士郎か?」

「え?」

声をかけられて振り返ると、そこには隻腕の女魔術師が立っていた

「会うのは初めてだな、私の名はバゼット、ランサーの元マスターだ」

自己紹介はそれだけだったが、それで十分だった

彼女とともに、拉致同然で俺は冬木市へ足を踏み入れた
十年ぶりの帰郷
イリヤが死んで、遠坂と倫敦に渡ってから、一度も帰っていなかったそこは、

「…………なんでさ」

明かりの無い、無人の街と化していた
表向きの原因は不明、判っていることは、これが、『今回の聖杯戦争』が引き起こした結果だということ

「遠坂の姿を見かけなかったのは、そういうことだったのか」

バゼットさんに連れられて教会へ向かいながら、俺はそう思った。

それにしても水臭い、言ってくれれば手伝ったのに

「何処行ってたのよバゼット!! この状況で!!
って…………士郎…………どうして此処に?」

遠坂の第一声はそれだった

「手が足りない、といったのは君だろうトオサカ、
だから、人手を用意したんだが」

バゼットさんの答えに遠坂は唇をかんだ

「とにかく、士郎は倫敦に帰って」

「なんでさ? 俺だって少しは役に立つぞ?」

手伝うという俺を遠坂はそう言って拒絶した
いくら俺でもアイツが必死に何かを隠そうとしてることくらい判る

平行線をたどる遠坂との言い争いに疲れた俺は、一人、衛宮邸にむかった

誰もいないと思っていたそこで、俺は懐かしい人にあった

長い銀の髪を揺らし、赤い瞳をした女性

「あぁ、先輩、帰ってきたんですか」

はじめ、それが誰かわからなかった、
俺に向けられる、親しみを込めた笑み、それだけが、かつての彼女、
俺の知る、間桐桜という人物の名残を残していた

「桜、藤ねぇは、藤ねぇはどうした?」

「藤村先生ですか? この間までは聞こえたんですけどね、『士郎助けて』って」

もう消化されちゃったみたいですね、と
微笑みすら浮かべて答える桜に、背筋が凍った

「先輩、そんなに落ち込まないでください、
それに、喜んでください、実は私、セイバーさんを呼び戻すことに成功したんです」

呆気にとられる俺をよそに、桜の後ろからそいつは現れた

金の瞳、病的な白い肌、黒い鎧には呪詛めいた模様が浮かんでいる

「先輩だって会いたかったんでしょう?」

どこか自慢げな顔で、桜が言う

「違う」

声が震える、

「そうじゃない、俺は…………俺はこんな再会は望んでない!!」

叫んだ、目の前の彼女が、例え本物のセイバーでも、
こんな笑い会えない再会なんか望んでない

俺は逃げた、目の前の全てからとにかく逃げ出した

気がつくと、新都の自然公園に来ていた

「だから、士郎には来てほしくなかったのよ」

降りだした雨の中、立ち尽くしていた俺のそばに、いつの間にか遠坂が、傘もささずに立っていた

そして遠坂の口から語られる事実

桜が間桐の手によって、聖杯の器の紛い物になっていたこと、
聖杯の中の『この世、全ての悪(アンリマユ)』の正体
冬木の人たちが、生贄として使われたこと、
ことの張本人であった間桐臓硯そのものはすでに桜によって殺されていること

「じゃあ何だよ? 全て無駄だったって言うのか?
親父がやったことも、セイバーがやったことも何もかも」

「そうね、そして最悪の結果をもたらしたわ、
……士郎、もう一度言うわ、今すぐ倫敦に帰りなさい!
冬木市のことは忘れて、黙って時計塔に帰って!!
…………貴方のことはルヴィアが引き受けてくれるわ」

「ちょっと待てよ、遠坂!!
なんだよその『ルヴィアが引き受けてくれる』って?」

「言葉どおりの意味よ、これは私の管理ミスだもの、
冬木のことは私が責任を取らなきゃいけないのよ、
でも、貴方は関係ない、だから…………」

懇願する遠坂に俺は首を振った、

「出来るか! 桜も遠坂も、藤ねぇもセイバーもみんな俺の大切な人なんだ、
それを放り出して独りだけのうのうとなんて出来るわけ無いだろう?
遠坂、俺は絶対に倫敦には帰らないからな!!」

言い切って、赤い外套に手をかけた、
聖骸布で作られた概念武装、それに始めて袖を通した、


51回想3エミヤ視点

戦うと決めた、だから桜や、セイバーと戦った

気がついたら、遠坂の姿を見失っていた

せめて彼女だけでも護りたかった

「ごめんね、士郎」

セイバーを倒して

「だめだ遠坂、死ぬな!!」

大聖杯にやっとの思いで辿り着いたとき

「ごめん、ホントにかっこ悪いね、わたしって」

すでに事は終わった後だった

遠坂と桜は、互いの胸を刺し合って、その命を閉じた

「誰もいない、セイバーも、遠坂も藤ねぇも、一成も美綴も、誰も」

気がつくと、何もかもなくなっていた

「まだ残ってたのか、
残務処理はわたしが引き受けよう、
君は、倫敦に帰って休むといい」

「帰って休め? それは出来ないな、それに…………
私はもう、あそこには用がない」

バゼットの言葉にそう返す

あぁ、そうだ、凛を手伝う為にあそこへ行ったんだから、
当人が居なくなったのに何しにもどれというのだ

「誓約する、我が死後を預けよう」

残された大聖杯の残骸を使って世界に訴えた

その日『衛宮士郎』は『死んだ』


52回想3

救えたのは、目に留まる中のほんのわずかだった

感謝された数は、その半分にも満たなかった

それは別に構うことではない、

私は救いたかっただけで、見返りなど求めていなかったのだから

「シロウ、私とともに倫敦へ戻ってください、
今の私なら、時計塔でもそれなりの発言権があります」

「申し出はありがたいがな、ミスエーディルフィルト、
私はもうエミヤシロウではないのだよ」

友人の懇願をそういって拒絶した、
申し出はありがたかったが、独りの方が楽だった

それに、彼女まで巻き込むわけには行かなかった

魔術師は皆、魔法か、根源の渦を目指すものだ

固有結界などの秘奥に到達し、その先を目指すためであれば、
何をしても許されると勘違いしたものたち

それらとの争いにどうして他人を巻き込めようか?

この、秘奥の一端のみに特化した身、それにかかる火の粉に、
誰を巻き添えに出来るだろうか?

体は剣で出来ている
血潮は鉄で、心は硝子。
幾たびの戦場を越えて不敗
ただの一度も敗走は無く、ただの一度も理解されない
かの者は常に独り、剣の丘で勝利に酔う
故にその生涯に意味は無く
その体は、きっと剣で出来ていた





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