その身は、剣で出来た聖剣の鞘 第一部その13 傾:シリアス Mセイバー


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1: kouji (2004/03/24 11:02:19)[atlg2625dcmvzk84 at ezweb.ne.jp]

43アーチャー視点

「おぉぉぉぉぉ!!」

気合と供に振り下ろした剣を、同じ剣を掴み上げ、渾身の力で叩き返す
互いの武器はそれだけで砕け、振りぬかれた腕は、残身すら無視して次の剣に手を伸ばす

それは既に、自分にとってありえない攻防だった

固有結界同士でぶつかり合う、という状況も異常だったが、
衛宮士郎が『それ』を作りうること自体は、決して不思議ではない、

                  難しいはずは無い
                  もとよりこの身は
               ただそれだけに特化した魔術回路

だからこその投影魔術であり、ものの構造を読み取る力だったのだから、

問題は、“衛宮士郎個人では、『それ』を創りうるだけの魔力が足りない”と言うこと

あの頃の自分は、ようやく魔術回路を開いただけの身であり、
精製できる魔力の量は、今の自分はおろか、遠坂凛の足元にも及ばない量だった

例えここが、自分から見た場合、平行世界であったとしても、
その魔力総量にさほど変化があるとは思えない

にも拘らず、目の前に居る衛宮士郎は、自分と同等の勢いで、固有結界を発現し、維持し続けている

「くっ!」

切り込んできた奴の剣をはじく、流石に精度が落ち始めているのか、双方ともに砕けはしたが、
此方の方が原形をとどめていた

しかし安心は出来ない、同じ様な状況は、先ほどから、既に何度も繰り返している
落ち始める剣の精度、消耗される魔力、後数度という確信、
その度に、衛宮士郎の身体は、まるで入れ替えたように『力』を取り戻す

「が……はっ」

距離をとった処で奴が、血を吐いた

こじ開けられた魔力回路が癒着した神経を圧迫し、なれない大魔術の行使が、回路自体を焼き始めている
全身からは血が流れ、その所々は、人ではない『何か』になりつつある

ぎしぎしとしたその音は、『衛宮士郎』というモノの起源そのものが発する悲鳴

まだ届かぬはずの先へと無理に手を伸ばした代償

それを強引に内に沈め、胃の中を逆流する血を飲み下して立ち上がる

愚考としか取れないその姿、だがそれこそが自分ではなかったか?

“愚かしい、お前は誰も救えなかったではないか”

首をもたげた想いを吐き捨てて、決着をつけるべく剣を手に取った


44

人の気配に気付いて、セイバーはゆっくりとその瞼を開いた

サーヴァントを拒むかのように張り巡らされた柳洞寺の結界は、
内に入ると呆れるほどに自分たちに寛大なようだ

そんな事を思いながら気配へと振り返る

「ライダー、イリヤスフィールはどうしたのです?」

「現状安全であるという判断から、こちらの様子を見に来ました、
どうやら、予想通りですね」

長い髪を揺らして、声をかけられた人物は答えた、
顔にかけられた枷にしか見えない眼帯のせいで表情はわからないが、
こちらを気遣ってくれていたらしい

「申し訳ない、ギルガメッシュとの戦いに全力を使い果たしてしまい、
回復に専念せざるを得ませんでした」

しおらしく、頭を下げる。
時間が無いことを思い出す、
聖杯を開かせるわけにはいかない、それに、

「士郎が気になります、彼はアーチャーと戦うつもりだったようですから、
ひょっとしたら、既に始まっているのかもしれない」

苦い顔で歩き出す、その足取りが酷く頼りないものに、ライダーには見えた

「まだ回復しきっていないようですが、それで良いのですか?」

サーヴァントとして戦うつもりであるなら、もう少し回復するのを待ってからにすべきではないか?
彼女はそう思ったが、どうやら、セイバーが急いでいる理由は違うらしい

「ライダー、士郎とアーチャーの戦いには、手を出さないでもらえませんか」

洞窟を進みながら、セイバーはとんでもないことを口にした

「セイバー、貴方は自分のマスターを見殺しにするつもりですか?」

英霊であるサーヴァントの能力は、人間の力をはるかに上回る、
それは自分たちが最も理解していることである
加えて、アーチャーは、彼女のマスター『衛宮士郎』自身の将来そのものである
過去の自分より、未来の方が強いのは道理であり真実だ

「判っています、ですがそれでも、この戦いは、私たちが手を出して良いものではない、
もし、手を出してしまったら、それはきっと『衛宮士郎』を私自身が否定することになってしまう」

悲壮な顔で、セイバーはそう言った

余りにも悲しい結論ですね、
ライダーは口にこそ出さなかったがそう思った


45士郎視点

「ごふっ!」

血を吐いた、焼ききれた魔術回路に身体が耐え切れなくなってきた、
だからといって立ち止まることなど出来ない

「次弾装填(バレットリリース)」

底を尽きかけている魔力が、呪文と供に回復する、
強引に『差し替えられた』魔力が回路を焼いていく、
吐きかけた血を強引に飲み込んで、地面から魔剣アンサラーを引き抜く、
あいつのそれを強引にはじき返したお陰で、そいつは見事に粉々になった

正直、限界なんてとっくに超えてる、今固有結界を維持しているのは、
『鞘』の代わりに身体の中に突っ込んでおいたもののお陰だ

“いい? アンタは解ってないから言ってあげるけどね、
これは第二魔法って呼ばれる『平行世界干渉』の触媒で、
5人の『魔法使い』の一人にして、遠坂の大師父、『時の翁』
キシュア・ゼルレッチ・シュバインオーグの宝石剣、
通称『万華鏡(カレイドスコープ)』なの!”

これは一つの賭けだ、外ではなく、体内にモノを『投影』する
使い手と供に体内において再現されたそれは、強引な術の行使のせいか、
今、遠坂の手にある物よりも、さらに不完全なものに過ぎない

それを使って無理矢理に、無限に存在する平行世界の『衛宮士郎』から、魔力をかき集める

これを周りから見た場合、底をつきかけた魔力が突然回復するように見えるだろう、
からくりにいつか気付かれてしまう可能性は十分にあったが、
アーチャーは今のところ気付いていないらしい
とは言え、いい加減俺自身が持たない、『鞘』があった頃と違い、不死身という訳ではないのだ、
それに、不完全な投影が、いつまで効果を持つかわからない
動くこともままならなくなってきた身体を、『強化』をかけて強引に動かして
次の剣へと手を伸ばした


46

「え?」

余りにも不可思議な現象を目の当たりにして、セイバーは思わず声を上げた
目の前に、三つの世界が広がっていた

一つは、今自分たちが居るのと同じ、洞窟

一つは、鉄火場とも廃棄場とも尽かない、剣立ち並ぶ無限の荒野

そしてもう一つは、つい先ほど、自分が心のうちに、彼の後ろに幻視した、
墓標のごとく剣が立ち並びながら、空虚さしかない無限の荒野

(これが、士郎の心そのもの)

何もかもを置き去りにして、借り物の夢を追うことを決めた
一歩踏み出すごとに、きっとまた、彼は何かを置き去りにしてしまうのだろう

その証拠に、踏み出して行く彼の身体に、折れた剣―――内面世界の欠片が突き刺さり、
同化し、まるで身体そのものが剣になっているかのようだ

「投影した剣にしては不自然ですね、それに、
アレはまるで内側から剣に貫かれているように見えます」

ライダーはそう言うが、セイバーは答えない
否、答えることが出来なかった

目を背けたい、ここから逃げ出したい、自分が傷つくのはいい、でも彼に傷ついて欲しくない

歯を食いしばり、泣きそうになる自分を懸命にこらえ、彼女は、彼らの戦いを見ていた

目を背けてはいけない、逃げることは許されない、結末を見届けろ、
信じろ、衛宮士郎は、例え相手が自分の理想でも、膝を屈することなどないと

握り締めた手のひらに爪が深く食い込み、引き結んだ口の端から、切れたのか血がにじんでいたが、
彼女が気付くことは無かった


47士郎視点

パキン

体内に投影していた宝石剣が、乾いた音を立てて砕けた

再投影する時間など無い、今ある魔力が尽きる前にあいつを倒せなければ俺は死ぬ

ではどうするか?

固有結界の中の剣もそろそろ限界だろう

破山剣、髭切、レヴァンテイン、フラガラッハ、草薙の剣、黒鍵、アヴェンジャー、
十拳の剣、バルザイの偃月刀・・・

いまだ剣なら無数に転がっているが、それはアイツも同じこと、

ではどうすればいい?

このままいたちごっこを続けていてはアイツの勝ちだ、

だから、創ろう、
                                 零から創るのはお前には不可能だ
基本骨子設定
                                 模倣以上のことは出来ない
構成材質合成
                                 想定すべき物の無い物は創れない
存在定義…………

「ごっ! がはっ!!」

血を吐いた、魔力が一気に抜けていくのが判る

所詮、模倣者にはこれが限界か…………

                       「士郎!」

あっ、セイバーが呼んでる…………
                                それは丘の中心に
アイツ、また泣いてるのか………………
                                まるで最初からそうであったように
だったらさっさと終わらせないとな…………
                                黄金の剣と寄り添うように
それにしても心配性だよな…………
                                聖剣と寄り添うように
でも待ってろ、すぐに終わらせるから

               型も、歴史も、使い手も無い空っぽの剣

はるか昔に全てを失った、『何も持たない』自分へ、俺は最後の手を伸ばした


48セイバー視点

耳障りな甲高い音を響かせて、士郎の心象風景は、現実から消えようとしていた

アーチャーは踏み込まない、しばし確認するように彼の様子を伺うと、
彼は、丘の中から双剣を手に取った

「成る程な、まさか第二魔法の真似事に挑んでいたとは」

リンの言っていた『平行世界への干渉』を、士郎がおこなっていたのだろうか?
士郎は答えない、静かに、手を残された丘の中心へ一度向ける

エクスカリバーを使うつもりだろうか?

だが、彼は、何を手にする訳でもなく、
しかし、しっかりと何かを手にしてアーチャーへと向き直る

「セイバー、アレは貴女の剣ですか?」

「いえ、アレは『風王結界』では…………」

ライダーの問いに首を振って答える

そして私は気がついていた
『アレ』は剣ではない、アレは中心、アレは起源、世界を創る、そのきっかけ
アレは『衛宮士郎』そのもの、

本当に空っぽで、本当に何も無い、
純粋な『衛宮士郎』の型そのもの

「これで最後だ」

ポツリと士郎が呟いた
何の気負いも、気迫も無い一言、
無造作に『それ』を構えて、彼はアーチャーを見た

空気が凍る、アーチャーも、既に士郎が何かを持っていることには気付いている
それでも彼が持つのは双剣、

深く息を吸い、互いに同時に走り出す

同時に、士郎の固有結界(世界)が完全に崩壊する

そして二人はぶつかり合い、士郎が振り下ろした剣は、

見事に、アーチャーの世界(固有結界)を両断した


「ガッ………………」

アーチャーが倒れたのと、士郎が倒れたのはほぼ同時だった
戦いは終わった、果たしてどちらが『勝った』のか

瞳を閉じ、令呪のつながりを確認する

つながりは消えていない、ひとまず安心して彼の元へ駆け寄る

「くっ」

軽くうめいているものの、士郎の身体は、少しずつ癒されているようだ
鞘の欠片のうち、幾つかが、まだ士郎の中に残っているのだろう
そのことに深く感謝して、もう独りへと向き直る

「アーチャー…………いえ、エミヤ…………」

「何だ? セイバー」

彼の表情は、あの赤い外套の頃のそれに戻っていた

「何があったのか、話していただけませんか?」

酷なことだとは判っている、それでも聞いておきたい、

リンは、エミヤがまだ『衛宮士郎』であった時、
参加した聖杯戦争で、私が知る『彼』と同じ答えをしたといっていた

その彼がどうしてこうなったのか、

「そうだな…………」

私の問いかけの意味がわかったのか、彼は静かに話し始めた



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