錬剣の魔術使い・第九話 (M:士郎 傾:シリアス?


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1: 福岡博多 (2004/03/22 20:44:33)[cukn01 at poplar.ocn.ne.jp]

 三咲町に着いたのは交通機関の関係のため、夜遅くになった。今夜の寝床は曰く付きのシティホテル。何でも、六年程前、宿泊客百名近くが一夜で行方不明になったらしい。そうなると廃れるのが普通と思うが、ミステリースポットとして有名になり、廃業の危機を乗り切ったそうだ。世の中って想像以上だ。そのため、深夜でも、チェック・インを受け付けてくれるらしい。
 そして俺達は、荷物を置いた後、ホテルの事を教えてくれたポニーテールの銜え煙草の女性の、お勧めの屋台が出てる場所に向かっていた。




 錬剣の魔術使い・第九話




 屋台が出ていたのは、公園の近く。薫るスープの匂い。うん、当たりだ、この屋台。

 「このようなところで食事ですか?」

 嫌そうな表情のルヴィアさん。

 「しょうがないでしょ、こんな時間にやってる店なんてないんだから。」

 たしなめる凛。

 「まあ、でも勧められて良かったと思うぞ。ここ、間違いなくうまい。」

 料理人魂が疼く俺。

 「ふ〜ん、美人に勧められたからかしらねえ、衛宮くん?」

 「シロウ、少々みっともなくてよ。」

 何故か眉を吊り上げる二人。

 「いや、スープの匂いで分かるんだって。是非、味を盗んでいかなきゃ。」

 意気揚々と座る俺。俺に続く凛。渋々と座るルヴィアさん。
 店主は寡黙だったが良い人だった。俺にチャーシュー、凛とルヴィアさんに煮卵をサービスしてくれた。ルヴィアさんは、

 「野蛮な料理ですわね。」

 なんて言っていたが、一口口にした後は、無言で箸を止めることなく食べて、

 「美味しい…。」

 食べ終わった後そう呟いていた。


 屋台を出た俺達は、公園を歩いている。あの味を、あの値段で提供するなんて。帰る前にもう一度食べたいな。しかし、凛とルヴィアさんは、ラーメン食べるのも絵になるよな。

 「屋台のラーメンも侮れないわね。」

 「中々でしたわ。」

 「さて、ホテルに帰って、早く寝よう。明日は、朝から動くから。」

 「それなんだけど、なんで私が、ルヴィアと同じ部屋なワケ?」

 「しょうがないだろ。二部屋しか空いてなかったんだから。」

 ちなみに俺がシングル、二人がダブルの部屋だ。

 「別に、私と士郎が一緒でいいじゃない。」

 「あのな。」

 「あら、シロウをリンの毒牙に曝す訳にはまいりません。シロウ、私と同室ならば安心ですわよ。」

 「だから。」

 「言うじゃない。覚悟はいい?」

 「そちらこそ、よろしくて?」

 「二人ともいい加減にしろ!言う事は聞く約束だろ?部屋割りは変えない。これは決定。ほら、ホテルに戻るぞ。」

 「ちょ、ちょっと、士郎。」

 「ま、待ってください、シロウ。」

 二人を置いて歩き出す俺。そんな俺を慌てて追いかける二人。
 だが、その歩みは、

 「いい夜ね。」

 そんな鈴を転がすような声に凍らされた。


 世界が、変わっていた。俺たちの存在が許されない世界に。その中心は、街灯の上に立つ女性。肩口までの金髪。白いセーターと紫のスカートに包まれた完成された肢体。赤い瞳。

 ヤバイ。

 そう、あれはヤバイ。殺される。俺達は間違いなく殺される。

 チガウ。

 あれは、チガウ。俺たちとは圧倒的なまでに違うモノだ。

 ニゲロ。

 逃げられない。どうにもならない。あれに遭ってしまった以上は。
 背後の二人の震えが分かる。分かってるんだ。今の状況がどれだけ絶望的かを。

 「協会の魔術師が、この町に何の用?」

 純白の死が街灯から、同じ地面に降り立つ。

 たったそれだけで、自分のあらゆる「死」を幻視した。

 ギリッ!!!

 奥歯を噛み締める。動かない体に喝を入れる。背後にいる二人を護るため、俺は、前に出る。

 俺の敵は、常に自分自身。呑まれるな!!

 「し、士郎。」
 「シ、シロウ。」

 二人の声が耳に届く。いつもの自信に満ちた声ではなく、弱々しい声が。

 「投影、開始」

 顕れるのは宝石剣。背後の凛に投げる。

 「時間稼ぎをする。二人は退け。」

 端的に話す。

 「「ダ、ダメ。」」

 二人の台詞は、こんな時まで一緒だ。ホントに似てる。

 「死ぬ気はない。行け!!!」

 死ぬ気はない。けど生き残れるとも思えない。だが、二人を逃がすくらいの時間なら稼いでみせる―

 「ねえ、もしかしてあなた、シロウ?」

 出足を思いっきり挫かれた。危なく顔面から転ぶとこだった。

 「そ、そうだけど、なんで、俺の名前を―」

 「うん、爺やの手紙に書いてあったのー。」

 「爺や?」

 「うん。ゼル爺。」

 「老師!?老師の知り合いなんですか?」

 「うん。爺やはね、私の世話役だから。」

 「「え、ええ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!!!!!」」

 「「わっ。」」

 驚く俺と女の人。さっきまでの緊迫した空気は微塵もない。

 「どうしたんだ?凛、ルヴィアさんも。」

 「どうしたじゃないわよ!!大師父が世話役やってるって言ったら」

 「真祖の姫しかいないではありませんか!!」

 言われて、女の人を見る。人間離れした美貌。敵意は無くなったとは言え、感じる圧倒的な力。そして赤い瞳。なるほど納得。それじゃ、

 「あ〜、先ずは、始めまして、衛宮士郎です。よろしくお願いします。」

 初対面だからな。ちゃんと挨拶しなきゃ。何故か硬直する二人。

 「こちらこそー。あ、私の事はアルクェイドでいいよー。でも士郎凄いねー。爺やの宝石剣、投影するなんて。」

 「あ、宝石剣を投影したから分かったんですね。老師、俺の事、なんて書いてたんです?」

 「えーと、スパイシーな面白さを持った弟子だって書いてたー。」

 スパイシー!?一味違うって言いたいんだろうか、あのじいさんは。

 「ねえねえ、士郎はなんでこの町に来たの?」

 人懐っこい仕草で尋ねてくる真祖の姫。VIPとは思えない気さくさだ。

 「ちょっとした頼まれ事で。」

 「何かの調査とか?」

 「いや、メッセンジャーボーイみたいなんもんですけど。」

 「ふーん。」

 何か考え込むお姫様。しばらくして、まだ硬直している二人を見て、

 「あそこの協会の魔術師は?」

 「え〜と、付き添いみたいなもんです。」

 「士郎、二股かけてるの?」

 「ち、違います!!」

 「あははー。顔真っ赤だー。」

 「勘弁してください。」

 「ごめんねー。士郎の目的も分かったし、もう行くねー。」

 「え。あ、はい。」

 「それじゃー、ばいばい。」

 と、トンとジャンプして、一気に公園の外に消えていく。

 「やっぱり、人間じゃないんだなあ。」

 あんな軽いジャンプで、どれくらい跳んだんだろう。

 「「………」」

 む、まだ呆けてる。

 「お〜い、戻って来い、二人とも。」

 ひらひらと二人の顔の前で、手を振る。

 「あ、士郎。」
 「あ、シロウ。」

 お、戻ってきた。

 「は〜あ、なんか異様に疲れたわ。」

 「同感ですわ。」

 二人揃って肩を下ろす。

 「それじゃ、早くホテルに戻ろう。」

 歩き出す。ただ続く足音が無い。

 「どうしたんだ?」

 振り返り尋ねる。目に映るのは、地べたに座り込んだ二人。

 「そ、その、腰が抜けて。」

 「あ、足に力が入りませんの。」

 俯きながら言う二人。あ〜、一人ならどうにかなるんだが。次の台詞が、なんとなく予想がつく。

 「士郎、抱っこして運んで♪」

 「シロウ、私を抱き上げる事を許可しますわ♪」

 やっぱり。ものすごく似たもの同士だなあって、しつこい?

 「二人いっぺんに抱えるのは無理だぞ。できるけど通報されそうだろ、見ため的に。」

 かといって、どちらかを先に運んで、もう一方を後から迎えに来るって言ったら、血を見るのは間違い無い。う〜〜ん、あれしかないかな。

 「じゃ、こうしよう。一人を抱えて、もう一人をおんぶしていく。どうする?」

 つまり、どっちが抱っこで、どっちがおんぶかだ。二人は、抱っこを主張。平行線をたどっていたので、凛におんぶで我慢するように頼む。渋々ながら了解してくれる凛。勝ち誇った笑みを浮かべるルヴィアさん。いや、挑発するのは止めてくれ。

 「士郎の背中って広いね♪」

 「シロウの力強さを感じますわ♪」

 凛さん、背中に柔らかいものが、ぐいぐい押し付けられているんですが。ルヴィアさん、意味ありげに胸を指先で撫でるのは止めて下さい。ふお、息子よ、将軍になってはいけません!!!色欲煩悩退散、喝!!!
 速やかに移動し、ホテルに着く。フロントの人に怪訝な顔をされたが、無視!!凛達を部屋に押し込める。

 「ちょ、ちょっと、士郎。もう少し丁寧に。」

 「も、もう、シロウ。乱暴ですわ。」

 「そ、それじゃ、俺、もう疲れたから寝る!!お休み!!」

 「「―」」

 二人が何か言っているようだが、無視して自分の部屋に向かう。ベットに倒れこむ。

 「真祖の姫か。」

 今回の一件に関わりがあるのは間違い無いだろう。偶然、この町にいたと言う事はまずない。

 「敵に回らないことを祈るか。」

 目を瞑る。先ほどの邂逅に気付かぬ内に、疲れていたんだろう。容易く眠りに堕ちて行った。




 あとがき:今回短め。最初は、アルクともバトルさせようと思ったんですが、無理!!と言うことで、宝石剣の出番となりました。うん、便利なアイテムだ。紅桐葉平さんのサイトは良く覗いてたんで、影響は間違いなく受けてます。再開が待ち遠しいですね。しかし、切りよく十話目で、士郎と「彼」が会う事になったにゃ〜。別に計算してたわけじゃないのに。偶然って凄いな〜。さて、次回十話で、衝撃の事実が明らかになる!!!期待外れでも許して〜。

 


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