葉月Side
〜遠坂邸の朝〜
「学校に行く?」
凛が学校に行くと言い出した、凛が学生だとは初耳だ。
「えぇ、私はマスターになったからって、今までの生活を変える気はないわ」
「うん…行くのはいいんだけど……」
なぜボクが凛と同じ制服を着ているのだろうか。
凛と剣と永久の旅人 その4
朝、ボクはソファーの上で眼を覚ました、被っていた厚めの毛布を、畳んでおいておく。
なぜか大量の布団を被って床で眼を覚ました昨日と比べれば、はるかに気持ちのいい朝といえるだろう。
「…んーーーっ」
体を軽く伸ばす、冬の空気が火照った体を冷ましていく。
まだぼんやりした頭のまま洗面所に行き、顔を洗い、髪を梳かし、歯を磨く。
櫛や歯ブラシなどは昨日町に行ったときに凛が買ってくれたものだ。
買い物をするのは久しぶりだった、少なくとも最近行った世界では、店などあ
る状況ではなかったから。
思えばボクは戦ってばかりいた、世界に現れるたびに厄介ごとに巻き込まれ、途中で放り出すこともできずに戦い続ける。
それが嫌な訳ではないけどたまには穏やかな時間もほしい。
それにここは自分の故郷の世界に似ている、聖杯戦争とやらが終わったらしばらくいてもいいかもしれない。
そんなことを考えながら居間に戻ると凛がいた。
「おはよう、凛」
「あぁ葉月、おはよ――――う」
凛は挨拶をしつつこっちを向き、そのまま硬直した。
「……………?」
「――――――っ!服着なさい服!」
……と、凛はボクに服を押し付けると、プイッと顔を背けた。
なにやら顔が赤いようだ。
………服?
ボクは自分の状態を確認してみる。
上がタンクトップだけで下がショーツだけ。
………まぁ確かに寒そうだ、凛の言う通りに服を着たほうがいいだろう。
遠坂凛Side
……びっくりした。
葉月の格好は朝からいきなり心臓に悪い。
清潔感のある真っ白なショーツ、そして真っ黒のタンクトップ。
シミひとつない綺麗な足、肩から指先にかけては、細く美しい。
葉月の美しくしなやかな肢体がいきなり目の前にあった。
いつものセーラー服だと思っていたからかなりの不意打ちだ。
眼をそらして椅子に座ったのだが、葉月が服を着ているほうにチラチラと眼が向いてしまう。
葉月のタンクトップをもりあげている二つのふくらみ、ブラジャーをしていないので動くたびにそれが揺れている。
いくら女は胸ではないと言い張っていても、これをうらやましく感じない人は少ないだろう。
………着終わってしまうのが少し残念だ。
「さ、葉月、学校に行くわよ」
私は葉月の着替えを一部始終観察してからそう言った。
葉月Side
今ボクは凛と一緒に学校の門をくぐったところだ。
まだ早い時間なのか登校する人は少ない。
と、何かいやな感じがした。
門に入る前と空気が全然違う。
ボクが立ち止まると同時に凛も立ち止まる
「――――凛」
「えぇ、わかってる、結界が張られてるみたいね」
「どうする……?」
この空気はいやな感じだ、詳しくはわからないけど人に害を及ぼすものだろう。
「学校が終わったら結界を壊す、こんなもの見過ごすわけには行かないわ」
凛は不機嫌そうにそう言った。
『じゃあ葉月、昼になったら迎えに行くから、昼食は私が用意するわ』
ボクは当然授業は受けないので外で待つことになっている。
『何かあったら私に知らせて、レイラインでつながってるから位置はわかるはずよ』
確かに凛の位置が感じられる、凛が今どんな状態かも大体わかる、これなら危険な状況のときにすぐ駆けつけられるだろう。
『………後は目立つ行動は極力慎むこと』
制服はこの学校のものだし、狩人の鎌も竹刀袋に入れてある、問題ない。
―――――と、いう訳で
今ボクは凛に言われた場所、弓道場にいる。
ここは授業中には誰も来ないそうだ。
目立つ行動は避けろと言われたし、授業中はここで時間を潰すことにする。
「――――――――」
射場の真ん中に立ってみるとなかなか気分がいい、広く、立派な道場だ。
手の中にある竹刀袋に眼を落とす。
……せっかく道場に来たのだから、たまには鍛錬というのもいいかもしれない。
―――紐を解き、竹刀袋から狩人の鎌を取り出す。
―――目の前で、鞘から美しい刃が現れていき、透き通る刃には自分の顔が写る。
―――1000年を超える戦いの日々葉月とともにあり、すでに葉月の一部となっている葉月の愛刀、狩人の鎌。
―――その刃に刃こぼれは一つもなく。
―――一片の曇りも存在しなかった。
「―――――ハアッ!」
掛け声とともに刀を振り下ろす。
手の中には、命を預けるにふさわしい最強の刀。
――――ドクン――――
高揚する。
――――ドクン――――
限りなく、昂っていく。
――――ドクン――――
熱い。
――――ドクン――――
血が煮えたぎり、マグマのよう。
――――ドクン――――
冷たい。
――――ドクン――――
頭の中は氷点下。
――――ドクン――――
体は燃え上がり、頭は凍りつく。
――――想定する敵は百人――――
「――――肩ならしだ」
燃える体は爆発しそう。
この昂りの熱さ全てを。
絶対零度の殺意をこめて。
架空の敵に叩き込む―――!
「――――――はぁぁぁあああ!!」
一時限目の終了を告げるチャイムが鳴る。
教師がその口から終わりを告げると、生徒は散らばり、思い思いに喧騒という名の曲を演奏し始める。
そんな中、一人の女生徒が急ぎ足で教室を出て行く。
それを気に留めるものは居らず。
教室は、変わらぬ喧騒に包まれていた。
実綴綾子Side
「やれやれ、筆記用具を置き忘れるなんて、あたしもヤキが回ったかね」
私こと実綴綾子はらしくないミスをした。
朝錬で自分の筆記用具を使い、そのまま置き忘れてしまったのだ。
一時限眼は友人から筆記用具を借りたのだがそれを続けるわけにも行かない。
「まったく、カッコつかないったらありゃしない」
言いつつ、校舎から外へ出て早足で弓道場を目指す。
置き忘れた筆記用具は準備室にあるはずだ、幸い鍵を持っているので準備室にも入れる、私が部長でなかったら鍵を借りに行く手間だけで休み時間が終わっていたところだ。
しかし、それでなくとも一時限目の休み時間は短い、急がねば二時限目に遅刻するという無様をさらすことになる、そんなことは許されない。
そう思ったとき、すでに私は走っていた。
足を止め、ようやく着いた弓道場の扉に手をかける。
「……………ん?」
何か違和感があった、道場内部から足音と、何か異様な音が聞こえる。
「誰かいるのか……?」
サボりだろうか。
結構早く走ったあたしより早くここにいられるのは、それぐらいのモンだろう。
厄介ごとはごめんだが、ここまで着て易々と引き下がるわけにも行かないので、とりあえず射場が一望できる渡り通路のほうから様子を伺うことにした。
「時間ないってのにな………」
そうぼやきつつ、私は柱の影に身を隠しつつ、射場の様子を伺った。
「――――――――は?」
―――しかし、射場には私の想像を超えたものがいた。
瞬間、私は何もかも忘れてその姿に見入ってしまった―――
――――修羅の如く剣を振るう、一人の女の子に。
あとがき
あ〜ヤバイ、やっちゃったかも。
もっとかっこよく文章書きたいなぁ。
やっと凛と葉月以外の人がまともに登場しましたね。
つーかいつ終わるんでしょうね、このSS。
まぁ完結まで頑張るつもり満々ですけど。
それまで見捨てないで下さるとめっちゃうれしいです。
顔からいろんなもの流して喜んじゃいます。