Der Wecker einer weisen Prinzessin−届け奇跡は聖杯へ 6 M:凛、他 傾:シリアス


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1: 唄子 (2004/03/22 01:05:43)[orange.peco.chipi@m2.dion.ne.jp]

/6 春風誘うは

/6-1春風誘うは桜色

3月の終わり、もう直ぐ春が来る。
いや、もう来ているのだろうか。
桜はもう咲いているだろう。
見てはいないが――――

しかし、春が来ようと、この気持ちは深い泥を拭えない。
兄との会話を思い出す。
あの時は、全部終わったという開放感、兄の憑きモノの落ちたような様子、
先輩の気遣い、全部嬉しくて気持ちがフワフワしてたのに…。
また、暗い泥の奥に沈んでしまった。

洗面所に着く。

まだ少し冷たい水で顔を洗う。
目の奥の膜が落ちる感覚、意識がクリアになっていく。

逃げ出した時、負けないと決めた気持ちは消えてなくなった。
何でそう考えれたのか、今思えば奇跡みたいだ。
一瞬でも、前向きになれた自分がなぜか信じられない。
私も、私でも姉さんみたいにって、思えたのに…。

「聖杯は呪われている…」

蛇口を戻して、鏡に映った自分の顔。
目が少し赤かった。
顔を洗った時に、前髪を口に入れていたようだ。
本当に呪われているみたいで、笑いたくなった。

「気持ち悪い子。いつも臆病で、嫉妬して、姑息で、呪われていて…」

―――――やめた。

もう一度蛇口をひねって、顔を洗った。
さっきより、目は赤くない。

目の下にクマは、寝癖は付いてないかな?
朝から先輩に会うのも久しぶりだし…。
うん、いつもの自分だ。

そうしてまた部屋に戻って、着替えた。
流石に、スカートは薄桃色のまま。
最後に、もう一度髪を梳かして、
姉さんのものだろう、全身が映る鏡を見て、確認後部屋を出た。

居間に行くが、誰もいない。
時計はもう7時を回っている。

春休み中だから、最近は先輩も起きるのが遅いのだろう。
藤村先生もきっと。
弓道部の練習は午前中10時からスタート。
まだ時間は余裕だ。
きっとせんぱいは、もう直ぐ起きてくるだろう。

久しぶりに、この家の台所へ立てる。
それが少し嬉しくて、エプロンを掴んだ時、何かが目に入る。

あれ、誰もいないと思ったのに。
誰かが使った急須からは、まだ湯気が上っていた。

よくよく見れば、縁側へいく障子が少し開いている。
ゆっくり、縁側のほうへ歩いていく。
空いている隙間からは、縁側に腰掛ける足が見えた。

「先輩…?」

そう思って、足を踏み出して、違うことに気づく。

誰?このひと誰だろう?
先輩の家で、それも縁側でお茶なんか飲んでる。
藤村先生のところの人かな?

でも、雰囲気が違う。
そもそも、藤村先生の所の人達は勝手に上がったりしない。

それに、この人―――
線が細くって、身長が高くて、なんだか役者さんみたい…

不意に振り向かれる。
その顔は驚いた後、直ぐ笑顔になる。

「やぁ、おはよう。どう、痛いところとか無い?」

え、え?
いきなりの笑顔の不意打ち。
すごく自然で、それでいて―――



「ああ、驚かせちゃったかな?
僕は、志貴。昨日からちょっとした事情でね、
ここにご厄介になってるんだ。
君は…、間桐桜さん…だよね?」


「えっ、えっ、あ…そう…です。
えっと、その、志貴さんはどうして、先輩の家に…」

いきなり自分の名前言われてビックリしたけど、
多分、昨日からここに居るんだったら、先輩にでも聞いたのだろう。
それより、ここになんでこの人が居るのかが気になった。

「うん?あぁ、ちょっとばかし士郎の事情聴取を。」

「えっ!?事情聴取って、その、色々聞いたり…、
先輩がなにかしたんですか!?志貴さんって警察の…」

「あはは、違うよ。士郎は別に何もしてないって。桜ちゃんは本当に素直だなぁ。
先輩って士郎のことなんだろ?いいなぁ、士郎はこんな可愛い子に心配されて」

「か、可愛くなんか、可愛くなんか在りません…」

なんでこの人こんな事言うんだろ…。
何も知らないくせに…。
私は可愛くなんかないのに、醜いのに。
いつも先輩のことしか考えてない。
いや、先輩のこと考えている自分のことしか。
嫉妬ばかり、妬みばかり、考えるばかりで行動に出来ない卑怯者。

遠坂先輩、本当は姉さんって呼びたいのに、拒否されそうで怖い。
もし拒否されたら、先輩とも会い辛い、今は先輩の一番大事な人だから。
そして、私から全部取り上げた人。憎い、羨ましい。

セイバーさん、いつまで居るんですか、と聞きたい。けどそうすると嫌な子になる。
嫌いじゃない、むしろセイバーさんのことは好きだけど、やっぱこの家に、先輩と
一緒に居るのが嫌。
ずるい、羨ましい。

藤村先生、いつまでも先輩に甘えないでください。はやく結婚してください。
ベタベタしないでください。ずるい。

じゃぁ、私は?私はいいの?先輩なんかと仲良くしても。
なんのとりえも無い、私が?
(毎朝、ご飯つくりに来た。そうしたかったし、先輩も喜んでくれた)
嘘。あれはおじい様に言われたから。そうしろって。
(先輩が喜ぶんだったら、何でもできる。そうしたい。)
嘘。それは私が嬉しいだけ。だったら先輩と姉さんが居るところ邪魔なだけ。
(先輩に迷惑はかけない。いつもそばで笑顔を見たいだけ。)
嘘。だったらなんでここに来たの。巻き込む事分ってたくせに。

ほら、簡単。
私は一番自分が可愛い。
いつも、先輩先輩って思っても、結局それは私が嬉しいから。
そう、私の快楽、幸せ、悦びへ辿り着く為の方法、手段。
先輩があんなに澄んだ目で見てくれるのに、私は濁った瞳でしか返せない醜い蟲。

だからきっと、先輩が私のこと一番に見てくれるんなら、私は先輩でもころ――――――――



ぽふっ。
はっとした時には、大きな手が頭を撫でていた。
その先にある、二つの瞳は優しく揺れてる。
それが、なんだか懐かしく、親しみがあるものだと感じて―――――

「なんだか分らないけど。深く悩んじゃ駄目だよ、桜ちゃん。
君は可愛いし、魅力的だしね。よしよし、なんならお兄さんが相談に乗ってあげよう。
ん?恋の悩みかね?」

「え?ひゃぁ!志貴さん、もう頭は撫でなくて、その良いですから…」

驚いて離れる。
びっくりした…、だっていきなりあんなに近くで、その、頭撫でられていたし。

「あぁ、惜しい。もう少し撫でたかったなぁ。
桜ちゃんの髪ってさらさらしてて、すっごい手触りいいんだもんなぁ。
いけませんよ〜、桜さん、その髪は反則です♪」

なんて、腰に手を当てて、メッと人差し指を口元で立ててる。
それが、なんだか凄く似合ってなくて、でも真面目にやっているから、

「ぷっ、あはは…、何ですか志貴さんそれって」

「あは〜、ってこれはね。家のお手伝いさんが良くやる口癖なんだ。
僕と同い年、なんだろうけど、すっごく可愛くて。つい真似しちゃった」

「へぇ、お手伝いさん、ってええ!!
志貴さんのお家ってお金持ちなんですか!?」

「ふっふっふ!こう見えても実は御曹司なのだよ、見直した?
いや〜、後継ぎは妹だから、まぁ、実家が金持ちってだけかな、実は。
それにもう、家は出てるしね」

「あ、そうなんですか…。でもどうして妹さんが?
志貴さんってお兄さんなんですよね?」

「ああ、それは簡単。僕がその家の子供じゃないからだよ」

!!
今度は本当に驚いた。
志貴さん、こんなに、明るくそんな事言えるなんて。

「まだ、小さい頃なんだけど、両親が事故で死んじゃってね。
親族もいなかったし、身寄りも無かったから、偶然そこに拾われたんだよ。
そこには丁度、僕と同じくらいの子供が居たから、きっと遊び相手に良いと思ったんだろうね。
養子としてね、引き取られたんだ」

「辛くは無かったんですか?」

「まぁ、新しい父親は苦手だった。時折、そりゃ冷たい目で見るんだ、僕のこと。
でも、まぁその後、今度は僕が事故にあってね。信じられる?瀕死の重態で助からないって
言われたらしいよ。で、まぁ、その後回復はしたんだけど、後遺症がまだ残ってて、
遊び相手にも使えないし、
その家の遠い親戚に預けられてね。
そこで暫く、そうだね、丁度士郎と同じ歳位まで居たかな?そのあと妹に呼ばれて、
また実家に戻ったって訳さ。
親父が亡くなったから、呼んでくれたんだろうね。」

と、明るくなってきた空を見ながら、志貴さんは言った。

…私と似てる。そう思ってしまった。
経緯は違っても、
でも、私は父親に捨てられたんだって、思ってたから。
だから、少しだけ、志貴さんに近親間を覚えてた。

「ああ、そんな心配そうな顔しなくて良いよ。
今は友達とかいるし。もうずいぶん会っては居ないけど。
だから、平気なんだ」

私、きっと心配そうに見ていたんだろう。
遠野さんが気を使ってくれている。
この人も辛い思いしたのに。

「あ!この事は、士郎や遠坂さんには内緒だよ。変に気を使われるのも嫌だし。
なんか弱音吐いたみたいで、カッコ悪いかったね。
やな気持ちになったら、ごめん…」

あぁ、私が暗い顔していたから、また気を使わせてしまってる。
自分のこと、改めて考えてしまっていたから…

「いえ、あの、そんなことは…。その、ただ驚いたって言うか、
ごめんなさい、その、志貴さんのせいじゃ…。」




「ちぇっ、なーんだ。てっきりこう同情して、気に掛けてくれるかなぁと期待
したんだけどなぁ。
あははっ、失敗しちゃったか」

「えっ!?じゃぁ、今の話って…」

「あれは本当。でも桜ちゃんが落ち込んでるから、つい話しちゃったけど、
そういう奴も居るんだし、あんまりくよくよしちゃ駄目だよ。
元気出してね」

そう言って、くしゃっと私の頭をまた撫でてて笑ってる。

―――あぁ、この人の笑顔って、私に似てるのかもしれない。
だから、なんとなく落ち着くのかも。
そう感じてしまった。自分の笑顔なんて見たことは無いけど。
なにか、隠して、それでも笑いかける。
嘘だけど、本当の微笑み。
勝手にだけど、そう思う。
さっきの話を聞いたせいかもしれない。

けど、胸のつっかえが少し楽になった気がした。




「あれっ、もう誰か起きてるのか?」

先輩の声が居間のほうから聞こえてくる。

「それじゃあ、私は先輩といっしょに朝ごはんの支度してきますから。」

「へぇ、士郎ってご飯作れるの?」

「ええ、先輩のご飯ってすごく美味しいんですよ。
志貴さんも楽しみにしててくださいね。」

「それに、桜ちゃんが手伝うんだったら、余計に期待できそうかな?
もちょっとしたらそっちに行くよ」

「ふふっ、はい。期待していてくださいね。」

なんとなく、心がポカポカ。
姉さんと会っても笑顔が作れそうだ。
志貴さん、不思議な人。
けど、なんとなく素敵な人だと思ってしまう。
あぁ、いけない、先輩が居るのに。
けど、足取りは軽く、頬は桜色。

「お、桜。おはよう、もう平気なのか?」

「はい。先輩、昨日はありがとう御座いました。」

と、いつも通り挨拶が出来るようになっていた。





/6-2 春風誘うは酒、団子

「お代わりお願いしまーす♪」

店員が訝しげに見たが、直ぐに営業スマイル。
そうそう、営業は笑顔が基本。
お皿を下げて、新しいものを持ってきてくれるだろう。

一旦、ホテルに帰ると服は着替えた。
流石にあの服装じゃ、お店に入るどころか、道も歩けない。
だから、今は長袖のブラウスに黒のメンパンツ。まだ寒いから薄手のコートを羽織った、
今は脱いでいるが。
靴はブーツから、パンプスに履き替えた。
いくら良いものだって、ブーツをずっとは履きたくは無い。
…水虫になりそうだから。

「はい、お待たせいたしましたー。チキン煮込みカレー、トッピングにキムチ、納豆です。
以上で宜しかったでしょうか〜?」

と、そこには新しい湯気を立てるお皿が…

「ええ、結構です。ありがとう」

そういって、ホッチキスで泊めてある伝票の束と、
香りたつスパイスの小宇宙(コスモ)も受け取る。

悩みは尽きないが、まずは一口。
口の中で、納豆と肉、そしてキムチが程よく混ざり、あぁ…

っといけない、いけない。
これを繰り返していて、今に至るではないか。
そう自分を制しながら、考え事をまとめる。

そもそも自分があの場所に居たのは、偶然ではない。
たしかに、冬木市には新しい代行者は派遣されたが、それだけでなく
もっと動き回れる、自由度の高い人員が必要だった、のだろう恐らく。
しかし、それは埋葬機関まで動かす仕事ではない。
それだけであれば。
あとは、都合のいいことに、自分から突っ込んでしまったんでしょうね。
ナルバレックが休暇を易々と与えたわけが何となく分る。
はぁ、と溜息をついて、また一口食べる。


先日、私宛に一本の電話が来た。
懐かしい声だった、直ぐには気づかなかったが…。
別に嬉しいとは思わなかったが、まぁ、懐かしいのは確かだった。
彼女とは何度か会っただけだったが―――――



私が住まいにしている、イタリア郊外の安アパート。
その日は、書類を整理するだけだったから、メレルと軽く引っ掛けて
帰ってきた。
まぁ、ワイン6本も二人で明かせば、軽くとは言わないかもしれないが。
つい飲みすぎてしまっていた、主に私が。
そこで、水を飲もうとキッチンへ向かったところで、電話のベルが鳴ったのだ。

そもそも、携帯のご時世だから、家の電話が鳴ることは、かなり少ない。
怪訝に思いながらも、受話器を上げる。

「シエル…?代行者ですか?」

不躾な電話だった。
しかも、いきなり自分の職業、しかも一般には公に出来ない事を
言われたものだから、ついきつく答えてしまう。

「…貴方は?これは何の嫌がらせですか?代行者などと…」

「私です。アトラス学院のシオン・エルトナム・アトラシアです。
思い出しましたか?」

「なっ!あなたこの番号をどうやって!?」

「それは…、財とツテを使って、まぁこの事は不問としてください。
それより、ご相談があってこの電話を掛けているのですが。」

「相談などと…。貴方の相談に乗ら無ければならない理由はありませんけど。
それは埋葬機関に属する私…、ということですか?」

「いえ…、私の方は、志貴の…友人としての頼みです。
同じ志貴の友人である貴方への…」

「だれが遠野君の友人ですかっ!!
私は遠野君の妻です!」

「虚言癖は、一種の病気ですよ、代行者。速やかに精神科に相談する事を進めます。
それはいいのですが、聞いてもらえるのですか?どうなのです?」

「くっ!良いでしょう。他ならぬ遠野君のことですから。
で、何を相談するつもりなのです?言っておきますが、
恋の相談は受けませんよ!遠野君は私にメロメロなんですから♪」

「代行者、貴方は実年齢が、もう三十路手前というのは本当なのですね、死語は痛い。
あと言っておきますが、虚言癖は向精神薬物療法及び、カウンセリングで治療できます。
それとも幻覚症状ですか?お花畑を見る前に、速やかに治療する事を、強く勧めます」

「がふっ!実年齢をもう一度言ったら切りますよ。
で、一体何の用なんですか?」

「…やっと聞いてもらえるようになりましたか。
単刀直入に言います。志貴を守ってください」

「なっ?どういう事なんですか?
遠野君を守れだなんて…?あなたは知らないかもしれませんが、
今の彼は、いやだいぶ昔からでしたが、私なんかより強い。
足手まといにはなりにしろ、守るというのは…。
それに、彼が今どこに居るかは知っているでしょう?
あの城に居る限り、結局は何もしてあげれないんです。せいぜい吸血鬼からの
サポートくらいですよ。
それだったら今でもたまには…」

「そんなことは分っています。
しかし、…志貴は日本へ行きました。
貴方ももう存じているとはも居ますが、聖杯戦争のあった地です。」

「!?
何故そんなところに?
あれはもう終わっているでしょうに!?
確かに暫定的では在りますが、報告は受けています。
先日、内の方からも欠員が出ましたから、一人新しく派遣しているはずです」

「そう、あれはもう済んでしまっています。表向きは。
代行者、今回、前回の聖杯戦争がどのように終わったか存じていますか?」

「いえ、前回の事は。
ただし、今回はその“孔”は発現しなかったそうですね。
大体、あの戦争はどうも眉唾物ですし」

「そう、今回は“孔”は出来るに至っていません。
そして前回は、孔は開きましたが、直ぐに閉じています。
どういうことか分りますか?
英霊を使役するようなエネルギー、マナと言うのでしょう?
それがまだ残っているのですよ、あの地には大量に。
そして、それを動かす為の起動式もいまだ健在です。
まだ、続いているんです、あの戦争は」

「そんな!?たしかに、それではまだ終わったとはいえませんね。
しかし、なぜそのようば場所へ彼が?
いくらそんなの物が、マナがあるからと言って、彼には求める理由など…
まさか!?」

「ええ、おそらくは。そしてそのマナを大量に持ち帰る術も持っているのでしょう。
エーテライトを彼に打ち込むことは、とてもさせて貰えませんから推測ですが。
それを授けたのは、まぁ、これは確信に近いですがあのご老体でしょう」

「『宝石』が…・。
だとしたら可能性は大きいでしょうね。そもそも彼がそんなこと知っているはず無いのですから、
聖杯のこともあの人が教えたのでしょうね。彼は、遠野君の事をいたくお気に入りですから。
ここ最近の彼を見て、教えてあげたのでしょうね。その手段と一緒に」

「私もそう考えています。」

「ふぅ…、話は分りました。なんとか彼を守る、ことになるかどうかは分りませんが、
日本へ行ってみましょう。丁度、休暇申請を出そうと思っていたところでしたから。
しかし、シオン・エルトナム・アトラシア。なぜそんなに詳しい情報を?
それに、なぜ私に頼むのです?
自分では行けないわけでも?」

「今回は魔術が大きく絡んできますから、貴方が適任だと思ったのでです。
それに…、正直私は、志貴の目的を快く思っていない。
それを彼は知っていたのでしょうね、同行を願うと断られました。」

「ほほう、同行を断られた?
と言うことは、あなたは日本に旅立つ前に彼に会ったという事ですよね?
貴方は遠野君の為に情報を集めていたから、その用に詳しい情報もっていると、
そう私は考えちゃいますが?」

「…!?いえ、私はただ、代行者が忙しいだろうから代わりにお願いしますと…」

「ほぅ、そんな優しいことを彼が。胡散臭いですねぇ。
なんでも、魔術師関係の人間は、願い事は等価交換だそうじゃないですか…?
貴方の口から正直なことが聞きたいですねぇ…」

「う、うー!!その、貴方に頼むと、み、見返りが怖いとか、なんとか。
私はそう聞いただけです!」

「見返りを求めて、何が悪いんです?
私も、もういい年ですからね、一人寝の夜が寂しいんですよ。
そこに惚れた男のお願いを聞いてやるんですから、1回や、2回は在っても
良いんじゃないんですか?
おやぁ?それとも貴方はなんの見返りもなしに、そんな危険な仕事引き受けたんですか?ん?」

「・・・!!い、いえ私は別にそのようなこと…」

「等価交換」

「1回、いや、2回ほど…」

「遠野君には、久々に痛いお仕置きが必要ですね、フフフ…」

「代行者!!この事は私に聞いたとは…」

「言いませんとも。ええ、それに貴方の代わりに、彼をサポートして上げます。
もちろん等価交換でね」

「くっ!志貴は魔術師ではないではありませんか!そのようなことは…」

「女との取引は、すべえ等価交換ですよ。それに女の価値でレートも引き上がりますが…」

「…とりあえず、よろしくお願いします。
でも、貴方は志貴の目的を知ってて…、それで良いのですか?」

「まぁ、もうこんな状態が長く続くのもなんだかなぁ、と思っていたところですから、
ここで新しい動きがあったほうが、彼にも、彼の周りの私達にも丁度良いと思うんですよ」

「悔しくは、悔しくは無いんですか?」

「振り向いて欲しければ、自分を磨くのみ。そう思っていますから」

「…そうですか。ふふ、実に貴方らしい。
ではよろしくお願いします。」

「わかりました。別に貴方の為ではないですから、御礼はいいですよ。
でも、そうですね、…今度飲みませんか?」

「私と貴方がですか…?前代未聞ですね、アトラスの錬金術師と代行者の組み合わせなど…」

「あら、其れだけでは無いですよ。日本の鬼女と超能力者の姉妹。
それに、そうですねあの稀代の魔女にも登場願いましょうか?
最後に、あの幸せ者のお姫様にも…」

「なんと…。ふふ、あはは、それは楽しみにしています。
それでは会場は用意しておきますから、代行者…、いえ、シエルもご無事で」

「ええ、シオン。遠野君に皆で絡み酒と行きましょう」

「はい、そうしましょう。では」



その後、すぐその足でナルバレックのところへ休暇願いを申請した。
なぜか彼女は、あっさり許可してくれた。
裏があったと知ったのはこちらに着いてからだ。
教会の新しく入った関係者に顔を出したら、
ちゃっかり最終的な聖杯戦争のレポートを書けと、FAXが。
今思うと、すんなり行かせたのは、確かに怪しかったが、
あのくそアマ何か知ってたんじゃないだろうか?

まぁ、そんなこんなで今に至った訳だが。

まぁ、埋葬機関で無ければ今回の任務は無理だろう。
一介の代行者には荷が重過ぎる。

聖杯戦争後も現界するサーヴァント。
もっともセイバーのクラスは正規の方法で、あの遠坂の娘に繋がっていた。
こちらは良い。

問題は、あのアサシンのクラスだ。
あれはもっと何か強力な力の流れがある。
人間ではなく、半霊体の彼らは力の流れが人間より分りやすい。
あの黒いサーヴァントは嫌な気が溢れている。
聖杯が生きているのはおそらく間違いないだろう。



そして、何より彼のお変わり様。
あれが、私の思考の中で一番のネックになっている。

口調、性格の変化は、まぁ、ありえるだろう。
月日は人を変えるというし、まぁちょっとはっちゃけた気がするが。

しかし、そんな事よりも腑に落ちない点が多すぎる。

あの戦闘スタイルは、彼の使うものとは異なる。
彼は一撃必殺の死神、――――――蒼眼の暗殺者。
ありえない動作、奇抜な、そう例えるならば蜘蛛のような――
それが双剣で対応する器用さを、ここ2年間で習得したと言うのだろうか?

そして彼を治療し様とした時に感じた、気の流れ。
あれは、なにか嫌なものの気配を感じた。
なにか、なにかが彼の中に入り込んでいる?
そんな様子は見えなかったが…。

そして、これが決定的に思える。
彼を死神たる者にしてしまっている、青い浄眼。
その発現を、彼はしなかった。

いや、確かに今の彼であれば、ちょっとした死徒なら
それ抜きでも、充分であろう。
しかし、どう見ても相手の力量は、それを遥かに凌駕していた。
ならば、どうして――――。


その後、彼の目を見てわかった。

あの夜、
彼の体を起した時、目が合った。
普通なら、そこに現れるべき魔眼起動時の二次的な変化、

――――底冷えするかのような、淡く輝きを放つ蒼。
それが、あの時は、黒瞳のままだった。

推測だが、今の遠野志貴は魔眼を失っている。
彼は発現しなかったのではなく、出来なかったのだと悟る。
原因はわからないが…。



しかし、まだその他の問題も山積みだ。

現存しているマナ、起動式、サーヴァント、聖杯――――

はぁ、本当はちゃっちゃと片付けて、等価交換を愉しもうと思っていたのに…。

だが、取り合えず今は!
目の前の皿が空に、そして…


「すいません!次は煮込み海老に、ゆで卵のトッピングで!
あ備え付けのと福神漬けなくなっちゃいましたから、お願いしますね」

店員がひそひそ話を始める。
ふんっ、色気はだいぶ先になりそうだ。
ならば食い気で補うしかないではないか。
どうせ直ぐには帰れそうに無い。

ナルバレックにでもつける気であろう。
うら若き乙女(実年齢三十路手前)は今日もカレー屋を震え上がらせることとなる。






/ 6-3 春風誘うは

凛は、苦虫を噛み潰したような表情している。。

「それじゃ、桜が逃げてきたのは…」

「はい、祖父 間桐臓硯からです。あの人は言っていました。
まだ、その、聖杯戦争は終わっていないって…」

俺は、まだ驚きを隠せないでいた…。
桜までもが、魔術師でライダーのマスターだったこと。
そして、桜と凛、二人が姉妹だったって事に…。






朝食を片付けて、凛が

「士郎、昨日の話をしない?」

と、お茶を準備しながら提案してきた。
渡れたカップは5つ。藤ねぇは今朝は来なかった。


電話は朝の9:45頃。
あんまり遅いから、先に食べましょう、とセイバーが言った時に
ベルが鳴った。
「士郎!寝坊しちゃったよぅ!」
との事。
ついでだから、桜が午前中は部活を休むことを伝えた。
そのとき、桜が家に泊まったことも伝えたので、何か言われるんじゃないかと
危惧したが、あっさりと
「そぅ」
の一言で終わったから、拍子抜けしてしまった。
きっと、最近じゃ凛もセイバーもいるからいまさらって事だろう。

その後、どこから話そうかと言う時、
遠野さんが、
「僕の話は、桜ちゃんの話を聞いた後での方が良いよ。
たぶん、そのほうが手間が省けるから」

と、いうことで、昨日桜が襲われた話になった。

桜が、じゃぁと話し始める前に、今度が凛が口を開いた。

「もう、聖杯戦争も取り合えず一段楽したし、いいわよね、桜?」

と、凛と桜が姉妹で、事情があり間桐家に養女に出されていることを聞いた。
桜は、時々辛そうにしたり、恥ずかしそうに下を向いたり
複雑そうな表情だった。
でも、最後に

「でも、弓道場でいつも見てたわよ」

と、照れくさそうに言う凛に、桜は泣いてお礼を言ってた。
俺には、兄弟がいないからわからないけど、やっぱり姉妹が離れ離れになるのは
いけないことだと思う。

でも、桜は

「ありがとう御座います、でも今は兄もいますから、私は幸せです」

って、言ったんだ。
慎二がときどき、桜に酷いことしていたのは知ってた。
あいつは、プライドが高いし、思い通りにならないと八つ当たりするところが在ったから。
でも、そんな兄貴でも桜は、今は幸せだと言う。
いまでは、慎二の奴憑き物が落ちたみたいに、桜に優しいらしい。
でも、それを聞いている凛は、どこか寂しそうでは在ったけど。

二人が姉妹だったなんてなぁ、かなり驚いた。
これにはセイバーも驚いていたから、別に俺が鈍かったわけじゃなさそうだ。
…似てないんだけどなぁ、どことは言わないけど。
殺されるから、凛に。

そしてこれからの事、桜の身に降りかかった昨夜の凶行。
黒いサーヴァント。

どうも、桜の祖父『間桐臓硯』が絡んでいるらしい。

桜が間桐の家から逃げ出した理由。
それは、またサーヴァントを召還させられそうになったからだと言った。
では何故今ごろ召還を?

狙いはセイバーだった。
聖杯はあの時、中身が少し零れてしまったせいで、
僅かに満ちていないらしい。
そこで唯一、現界するセイバーを手に入れて
それを満たそうと考えているそうだった。

あの時、俺たちが壊したものはあくまで聖杯の一部。
そのショックで、孔が一時的に閉じたに過ぎないらしい。
僅かだが隙間がまだ空いている、ということだった。

その隙間から力を引っ張って、あのサーヴァンント、アサシンを
一時的に召還しているらしかった。
だが、仮にこちらはセイバーと魔術師とその半人前の弟子。
戦力は僅かでも多いほうがいいと、桜が選ばれたらしかった。
慎二はもともと適正が無かったらしく、しかも今は入院しており
リストから外されているそうだ。
それを聞いて少しほっとする。
これ以上に、誰かを守れそうに無かったから。

つまり、話をまとめると、諸悪の根源は間桐臓硯。
やつのサーヴァントアサシンを何とかして、奴を倒せば
今回のごたごたは収まると言うことだった。

「でも桜、それじゃぁ、聖杯は?聖杯はまだ他にあるって言うの?」

「凛、聖杯は俺たちが壊したからもうないだろ?
お前、話聞いてたのかよ?」

「馬鹿ね。孔が僅かにでも開いていると言うことは、どんな形であろうと
聖杯があるってことなのよ。つまり臓剣は何等かな方法で聖杯を手に入れているって事なの。
わかる?」

「そうなのか!?
それじゃ前回のあの戦いの時のドサクサに紛れて…」

「多分ね。前回の慎二同様に何かに欠片、いえ最悪の場合はアインツベルンの心臓を
埋め込んでいるかもしれないわね。」

「じゃぁ、また誰かが被害者になっているかもしれないって事か?」

「さぁ、でも誰かに埋め込むのは最終段階になってからで間に合うわ。
それまでは、呪術的な封印で聖杯を維持しているのかも。
最悪の場合、あんたか、私、桜の誰かが慎二の二の舞になるかもしれないって事よ。
多分、慎二は前回の影響で、今回は耐えれないでしょうからね。」

「俺や、凛に、桜が…。それは、魔術師だからか?」

「ええ。さっきは何かにって言ったけど、多分一番良いのは魔術師、
それも回路の数が多いほど良いから
私か、桜のどちらかを狙ってくるでしょうね。
それにあいつ初めは桜を捕まえようとしてたから、桜があのままあの家にいたら…」

「!!!?
こりゃ、何とかしないと」

「言われるまでも無いわね。桜とセイバーは私達で守らなきゃいけないって事よ」

そこで不服そうにセイバーが唸る。

「そんなことを言われるのは、少し悲しい。
私とて、今は全力とはいわないまでも、ある程度戦えます!
それこそ、士郎や凛に守って貰うなどと…」

「ったりまえよ。貴方から守るのは間桐臓剣だけ。
さすがに相手は海千山千の老魔術師だからね。
どんな裏技もってるか分らないでしょ?
サーヴァントが出てきたら、サポートしか出来ないから油断しないでね。」

「はい!必ずや」

セイバーは頼もしく、凛に返す。
やっぱりセイバーが居るだけで戦力的には全然違う。
それに今回は…

「と、いうことで頑張ろうね、セイバーちゃん、桜ちゃん」

と、にこやかにやってる、この遠野さんも居ることだから、
何とかなりそうな気がする。

「志貴、貴方も頼りにしています。
あのアサシンとの戦い、力量は確かのようだ」

セイバーが少し微笑みながら、遠野さんのほうを見ている。

「はは、照れるなぁ。まぁ、セイバーちゃんと二人掛りなら、
アサシンもなんとかなるだろ。と、いうことは後は臓剣を探して
倒せばいいのかな?」

「まぁ、そういう事。でも、きっとそのジジイもう間桐家には居ないでしょうね。
なにせ、昨日の志貴の力、そしてこっちにはセイバーもいるから迂闊に手出しは
出来ないだろうし」

「ああ、そうだな。それじゃあ暫くは守りに入るって事か?」

「そうね。そのうち痺れを切らしてやってくるでしょ。悪役ってそんなもんよね」

と、凛も悪役顔負けの微笑み。
おまえも中々悪役が板につくよなぁと考えてたら、

「じゃぁ、部活も暫くは休まなくちゃいけないんですか?」

と、桜は言ってきた。
そりゃ、休んでここに居たほうが何かと便利だが、
桜は慎二のお見舞いにも行かなきゃいけない。
それに、部活も休んで、この家に皆が居たら藤ねぇが怪しがるに違いないし…

「いいんじゃない?昼間の明るいうちだけなら」

と、凛は言ってのけた。

「おい、凛。それでも危ないんじゃないのか?聖杯には魔術師の体が居るんだろ?
だったら…」

「もちろん、桜一人では行かせないわよ。
私達もついていけばいいんじゃない」

ああ、そうか。でもそうすると、藤ねぇや部活の連中はどう思うだろう?
かなり不思議がられるんだろうなぁ。

「ああ、それなら、僕一人でいいんじゃないのか?
そんな皆でぞろぞろ行ったら怪しいし。
それに留守の間に、この家に罠でも仕掛けられたら、おちおち休みも出来ないよ」

と遠野さんが言ってくる。
確かに、この家に前の学校みたいな結界張られでもしたら一網打尽だ。
前回の聖杯戦争じゃ、そういうのは無かったけど、今回も無いとは言えない。
それに、昨日の遠野さんの実力だったら、何とかなるかもしれない。

「そうね、そう…あっ!!っつ…。
…志貴、わたしはね、まだ貴方を信用してないのよ。
大体貴方の目的って何なのか、まだ聞いてなかったわよね?
ねぇ、何が目的なの?聖杯戦争の報告はシエルさんがするんでしょ?
それにシエルさんは志貴は関係者じゃないっていってたわよ」

こいつ、志貴さんを信用してないこと、きっと忘れてたな。
それに、流石にそこで、シエルさんが信用するなって、言ってたなんていえないんだろう。

そんな、凛に遠野さんは、苦笑しながら

「あはは、まぁ、そう取るのも仕方ないよね。
でも、教会の関係者ってのは嘘ではないし、現にシエルとは旧知の仲だしね。
それにこんな事言うのもなんだけど、なんでシエルは信用して、僕は信用が無いんだ?
彼女も初めて会ったんだろ?」

そりゃ、そうだ。遠野さんの言いたいことも分かる。
凛は、なぜか遠野さんのことやけに信用してないって言うか
なんでだ?

「そうね、彼女とは初めて会ったわ。でも、確かに彼女は代行者よ。
おそらくは、あれ程の回復魔術の使い手だもの。埋葬機関かもしれないわね。
いい?彼女の使った神聖治療はね、教会だけの門外不出の治療術。
おそらくは魔術をあまり使わない教会が、奇跡の一環として広めていった名残だとは思うけど、
そうそうお目にかかれるものじゃないわけ。つまり、彼女より貴方の素性のほうが怪しいわけよ。
だからー、目的を聞かせなさいって言ってるの!それしだいじゃ…、信じてやるわよ。」

あ、遠野さん目を丸くして驚いてる。
なーんか、恨めないんだよなぁ、時々怖いけど。

「ああ、そういう事だったのか〜。
心配したよ、なにか人格的な差があったのかと、危惧していたところだった」

遠野さんは、まぁ、自分の予想と違ってほっとしている様だった。
まぁ、シエルさんの方が、まともっぽいけど、人格。

「僕の目的は一つだけ。それは最初は予想だったけど、今は確信に変わってる。
間桐肝臓の野望を完全に破壊すること。つまりは君たちと同じだ」

「それを信用しろって言うの?なにも貴方が危険を冒してまでして、
何のメリットがあるって言うのよ。」

「…聖杯の中身を知っているかい?」

「ええ、あれは呪い。人を殺す為だけに特化した呪いの泥。
私も直で見たけど、あれが聖杯の正体だったなんてね」

そうだ、あれはとても聖杯と名前が付くような物じゃなかった。
セイバーが求めて止まなかった物。
7人のサーヴァントが餌となる最悪の…

「そう、あれが吹き出れば、大変なことになることは明白だ…。
僕はそれを防ぎたい。それだけじゃ駄目なのか?」

「…ふん、そんなの、そこの馬鹿以外リスク背負ってやる奴は居ないって…」

俺の方を指差しながら凛は、ますます目元をきつくしてる。

「なぁ、凛。良いんじゃないのか、遠野さんだって手伝ってくれるっていんてるんだし…。
それに俺やっぱり遠野さんが悪い人間なんて思いたくないしさ。」

なんかもう、見てられなかった。
遠野さんは、なんか初めてこんな顔できるんだなぁって
凄く悩んで、落ち込んだ顔してるし、それにやっぱり悪い人とは思えないから…

そう言った後で、凛の顔を見た。
凛は、射殺すようにこっちを睨んでる。
でも、こればっかりは譲れない。
昨日だって助けてもらったし、その遠野さんを悪く言うことなんか…
そうやって、睨み合っていると、助け舟は意外なところからやってきた。


「姉さん、私からもお願いします」

桜がそう言ったのだった。
普段はあんまりこんな場面では発言しない桜が。
遠野さんを庇っているのが、なんか不思議だった。
それは遠野さんも同じだったらしく、照れたようにはにかんでいる。

んで、凛のほうを見て…

「遠坂さん、ごめん。その信じてはもらえないかもしれないけど、
僕も想いは同じだから、どうか協力させて欲しい」

と、頭を下げた。

「…わかったわよ。どうせ多数決じゃ私の負けだしね。
警護される桜が良いって言ってるんだから、もう止めないわよ。
ったくこれじゃ私が悪人みたいじゃない。はぁ、心配してるのは私だってのに」

「それじゃ…」

「はぁ。ええ、よろしくね、志貴。
まだ、完全に信用したわけじゃないけど、今は信じてあげるわ」

こうして、遠野さんが、桜の病院と部活には付いていく様になり、
俺たちは自宅待機になった。
何かあれば、凛の携帯にすぐ連絡を入れるようになっている。
12時になって、俺たちは昼食を取った。
暫くは黙々食べていたけど、遠野さんが凛やセイバーをからかい
凛が怒って、桜がなだめて、セイバーが遠野さんのおかずをちょろまかして
にぎやかな昼食になった。

そして、遠野さんと、桜は学校に出かけてしまった。

一応、俺たち以外への遠野さんへの説明は、お約束のあれ。
切継の知り合い、で行くことになった。生前お世話になったパート2。
こんなとき放浪癖の父は勝手が良い。
親父、グッジョブ!

そんなわけで、俺たちは見送った後、二人が帰ってくるまでの間、
束の間の日常が戻ったのだった。









昼間はすっかり暖かい。
ポカポカ陽気に眠気が誘われた。
見るものが、寒かった冬を越えて色を付け直したように
新しく感じる。

そんな陽気の中を、遠野さん、…志貴さんと学校まで歩いていった。
身長が高いから、きっと志貴さんは私の歩調に合わせてくれてるんだ。
なんだか、くすぐったかった。
ゆっくり、学校までの続く道。
志貴さんは、家ではあんなにお喋りだったのに、
学校までの道のりは、静かだった。
でも、決して嫌な沈黙じゃない。

日の光が強くも無く、弱くも無く。
なんとなく、一人じゃないこの道が、
志貴さんと歩くこの道が、楽しかった。

不思議な人。
まだ会って半日も絶たないのに。

私は、人見知りする方だと思う。
クラスでもあまり男の子と話したことは無い。
いや、女の子とも余り話さない。

弓道部のメンバーや、先輩くらいだろうか、よく話すのは。
男の人は、先輩以外苦手だった。
兄みたいになるかもしれなかったから。
だから自分でも、知らないうちに避けている。

でも、志貴さんだと、なんだか安心してしまう。
先輩とは全然似てないのに、
話していて、ときどきすごく身近に感じてしまう。
特にあの笑顔が。
なんでだろう。
わからないけど、きっと似たもの同士だから。
そう、思うとまた嬉しくなってしまった。
勝手に思っているぐらい、罰も当たらないだろう。


いろいろ考えてたら、もう弓道場まで、着いてしまった。
残念に感じる自分にまた驚く。
まぁ、しょうがない。

「んじゃ、桜ちゃん。僕はこの辺うろうろしてるから、何かあったら呼ぶんだよ」

「はい。その、志貴さんは中にはいって待たれませんか?」

と、ちょっと引き止めてみたけど、

「いや、目立つのもちょっとね。邪魔しちゃ悪いから。
それに、藤村先生だっけ?ここで話したら長くなるだろ、きっと。
だから近くをぶらついてるよ。
ははは、大丈夫だよ、直ぐ駆けつけれるところに居るから」

と言って、裏の雑木林の方へ行ってしまった。

しょうがないから私も部活に向かう。
なんだか、目的が反転したみたいだ。
それでも帰りにまた一緒ならと、頑張ることにした。
春は陽気で、気持ちが前向きになる。
なんだか、大分元気になったみたいだ。
今朝見た夢の事なんか、忘れてしまっていた。









雑木林は、春の陽気を受けて、普段では感じる重苦しい影が少しだけ和らいでいた。
風も無く、ただ立っているだけで気持良い。
新しく芽生える新緑の匂いが立ち込めていた。

「はぁぁあ…、春の陽気にでも誘われたのかな…?
おい、居るんだろ?」

遠野志貴――――
そう呼ばれている男が、背後にいる者へ声を掛ける。
振り向きながら、その顔には昨夜同様の微笑みが。
そして、その後
背後立ち込める殺気――――



それは殺気と言うのとは、少し意味合いが違うものかもしれない――――
殺気と言うのは、相手を死に至らしめんとする気迫。
なら、これはどうだ。
先ほどまで暖かかった陽気は消え、足元から伝わってくる冷たい感触、死の気配。
死へのプロセス、滅びの工程を完了させているかのような、殺気より性質が悪いものだ。

だがそれでも、遠野志貴は笑う、笑う。

「気色が悪い奴だな…、お前」

何者かに、非難を浴びる。
遠野志貴は、さも心外だといわんばかりに、溜息を。

「そんな事言うなよ。これでも受けはいいと思うんだけどなぁ。
それに、お前がそんなに…。
ふふ、そうか、やるつもりなのか?」

顔には微笑みを、両手には剣を。
昨夜と同じ、二振りの黒鍵を構えて――――



「さぁ、殺しあおうか――――――」


どちらが言うとでもなく、二つの黒い影はぶつかり合って、弾けた。
物音もしない。
無音の殺陣空間が、異物のように雑木林の一角に生まれる。
誰にも気づかれる事無く、静かに、静かに――――――








あとがきーーー

 なんか、ごたごたして、文章ののりが悪いですねぇ。
 読んでくださっている方には、申し訳ない限りです。
 話は、簡潔にとおもってるのですが、性格が出ているようです。
 くっ!タイピングの神様!わたしに文才を!
 
 すすめ、話よ!

 では、ぐちる 唄子 


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