すやすやと眠る凛。ガーターベルト付きの紅い下着姿とは、対照的な無邪気で可愛らしい寝顔。時折、額をくりくりと擦りつける様は、ホントに可愛い。もう少し眺めていたいな〜なんて、つい現実逃避したくなる。
部屋の入り口で仁王立ちする妹二人。その背後に鉛色の狂戦士が、現界してるんじゃないかと錯覚する程の威圧感。
ここは俺の家で、世界で一番心穏やかに過ごせるはずの場所なのに。帰ってきてからこっち、心穏やかな目覚めを迎えられないのは何故なんだろうな、オヤジ?
親父はとってもいい笑顔で、なぜかいたずらじいさんと肩を組みながら、親指をビシィッと立ててくれてました。
つまり、そっちに逝けってことかい、オヤジ?
錬剣の魔術使い・第八話
「これより、衛宮家最高裁判を開廷します!!!」
裁判官:藤ねえ
検事:イリヤ
陪審員:桜、ルヴィアさん
傍聴人:セラ、リーズリット
被告人:俺
重要参考人:凛
「判決!!!士郎、有罪!!!」
「いきなりかよ!?」
「あったりまえよ!!!お姉ちゃんは士郎をそんな風に育てた覚えはありません!!!大体、一昨日、そんなことないってたくせに、舌の根も乾かないうちに、行動に出るなんて!!!キーーーー!!!士郎、ホントは切嗣さんと血が繋がっているでしょう!!!手が速いとこなんかソックリよ!!!」
なんか、その発言だと、オヤジが藤ねえに手を出してたように聞こえるな。…まさかな。
「先輩、不潔です!!!あんな朝から羨ましじゃなくてはしたないことしてるなんて!!!大体、なんで遠坂先輩なんですか!!!私の方が、…は大きいし。昔は、私の…や…を凝視してくれてたのに―」
桜、不穏な発言は止せ。それと、俺は、はしたない事はしていないはず…、多分。
「もう、シロウ。リンなんかに手を出すなんて、よっぽど我慢してたのね。言ってくれればいいのに。私は、オールオッケーだよ。将来性だって有るし。それに私を選べば、セラとリズも付いてくるよ♪」
「おおおおお、お嬢様!?」
「役得♪」
だああああ!!イリヤ、そんなに俺をケダモノ扱いしたいのか!?
「シロウ、何か言い残す事はありまして?」
ルヴィアさん、何故あなたは、そんな可憐な笑顔でそんな凶悪な殺気を出せるのですか?
「………」
あの凛とした凛はどこに言ったんだろうと思うくらい、おろおろと今の状況を見守る凛。
俺に性犯罪者と視線を投げかける四対の瞳。ただでさえ、衛宮家ヒエラルキーの下部に位置している俺の立場が更に低くなる。このままではあかんと口を開く。ちゃんと説明すればわかってくれ―
「あのさ、」
「黙ってなさい!!!桜ちゃん、110番!!!」
「ハイ!!!」
なかった。って、桜、ハイって!?
「待て待て待て!!!俺は遠坂に何にもしてないぞ!!!だから、桜、電話を掛けに行こうとするな!!!」
警察沙汰はまずいだろ!
「士郎の言ってる事、ホント、遠坂さん?いいのよ、ホントの事言って。泣き寝入りはダメよ?」
藤ねえ、どうしても、俺を犯罪者にしたいのか。
「確かに、士郎は、皆さんが考えてるような事は、何もしてませんよ。ほんとにただ同じ布団で寝ていただけです。」
凛は、きっぱりと言ってくれた。良かった。これで最悪の事態は回避できそうだと、安心していたせいで気付かなかった。凛が、俺を責める様な視線で見ていた事を。
「ただ、キスはされましたけど。」
居間が凍りつく。ギギギと音が出そうな感じで首を動かし、こっちを見る四対の不穏な輝きを放つ瞳。
「士郎〜〜〜〜〜!!!?」
「「シロウ〜〜〜〜〜!!!?」」
「先輩〜〜〜〜〜!!!?」
詰め寄られながら、凛に視線を向ける。悪いのはあんたなんだからとばかりにそっぽ向かれた。そういえば、さっき凛と呼ばなかったような。
「天誅!!!!!!!」
振り下ろされる妖刀虎竹刀を視界に捉えながら、そんな事を考えていた。
あの後、タイガー大暴走をその身に受けた。で、動けなくなった俺に、どういう理屈か藤ねえ、イリヤ、桜がキスしてきた。ちなみに頬。何なんだろうな?
藤ねえとイリヤは学校、桜は藤村組に出かける。三人が、自分のやるべき事を放り出す人間じゃなくて良かった。
で、出かける前、俺は凛に1m以上接近しないよう命じられていた。だが、
「士〜郎〜♪」
凛から、俺に引っ付いていた。ちなみに、藤ねえ達が出かけてすぐ、キスされた。ルヴィアさんやセラ、リーズリットが見てるのもお構いなしに。お仕置き決定だな、こりゃ。ま、でも、
「士郎って、暖かい♪」
凛の嬉しそうな表情を見てると良いかと思えてしまう。
「ミス・トオサカ、シロウの迷惑になるでしょう。即刻、離れなさい!!」
と対面に座ってたルヴィアさんが、青筋を浮かべながら言ってきた。
「イ・ヤ。今までくっつけなかった分、くっつくの。」
あ、ルヴィアさんが目を丸くしてる。まあ、俺も驚いてる。凛にこんな一面があったとは。
「シロウ。わたくしあなたに真面目なお話しがありますの。その色ボケにどこかに行くように言ってくださらない?」
と、俺を睨みながら言う。さすがに、「色ボケ」発言には、頭に来たのだろう。居間の空気が、緊張する。む、まずいな。セラとリーズリットは、すでに他所に避難。援軍は期待できない。
「凛、落ち着け。二人にやり合われたら家無き子になっちまう。それで、ルヴィアさん、話って?」
ルヴィアさんは、何故か、先程より眉を吊り上げながら聞いてきた。
「シロウが、ミス・トオサカをいつの間にファースト・ネームで呼ぶようになったのかは、後で追及するとして、先ず、シロウの帰国の訳を伺いたいのですけど。」
「俺の帰国の訳?いや、ただの里帰りなんだけど。」
「ですが、今回に限って、協会に帰国の情報を掴まれていますし。」
「それに、今までと違って、かなり長いことこっちにいる、みたいなこと言ってたそうじゃない。」
魔術師の顔になった凛も話に加わる。くっついたままだけど。
「ま、一応、免許皆伝だしな。」
「修行が終わったから、解放してくれたと?」
「聞いてた感じじゃ、絶対玩具は手放さないって思ったのに。」
「玩具って。」
「シロウ、今回の帰国は何か目的があるのではなくて?」
「隠すとためにならないわよ、士郎?」
うん、この二人似た者同士だ。話さないと、後が怖そうだ。ま、師匠に口止めされてるわけじゃないしな。
「ん。目的は、ある。まだ知らないけど。」
「は?まだ知らないって、どういうこと?」
「師匠には、家で待機しときなさいって言われたんだ。しばらくしたら、連絡するからって。」
「つまり、ミス・ブルーの指示待ちと言うわけですか。」
「うん、そうなる。いつ、来るか分かんないけど。まあ、それまでは、ゆっくりしてようと。ホント久し振りだからな、落ち着けるの。」
けど、実際は落ち着けてない事実にちょっぴり愕然としてみたり。
「で、なんで、今回の帰国は情報が漏れたの、士郎?」
「あ〜、それは、居間までは師匠か老師が送ってくれてたんだけど、今回は自分で帰って来たからだと思う。」
「なるほどね。士郎、そういう隠蔽とか出来そうにないもんね。」
「悪かったな。」
「拗ねないの。あんだけ強くなったくせに、根っこの部分は士郎のままね。」
「本当に、危うい方ですわね、シロウは。」
「ルヴィアさんまで。へいへい、俺は、どうせ頼りないですよ〜。」
「そんなことない!!!」
「そんなことはありませんわ!!!」
声を揃える二人。やっぱり似た者同士だな、言わないけど。酷い目に遭いそうだし。あかのあくまときんのあくまのあいてはできないのです。
「それで、シロウ?いつから、ミス・トオサカをファーストネームで呼ぶようになったのですか?いえ、昨夜、何があったのか、詳しくお聞かせくださいな?」
む、やっぱり、追及されますか。さて、どう誤魔化そう?と言うか、何故ルヴィアさんはそんな事を聞きたがるんだろう?は、まさか、凛の弱みを握ろうとしているのだろうか?
「あら、ミス・エーデルフェルト。他人の睦事を聞きたがるだなんて、良いご趣味ですこと。」
「ミス・トオサカ、わたくしはシロウに事実を聞いているのです。あなたの妄想を聴くつもりはありませんわ。」
「現実を直視できない人程、哀れなものはありませんわね。」
「妄想と現実を区別ができない者の方が哀れではなくて?」
あれれ。ここは、俺の家の居間で、外は良い天気で、冬にしては暖かくて気持ちの良い日のはずなのに。
まるで空気の全てが鉄に変わったかのように重く、億の軍勢が激突しているかのごとき緊張が空間を満たしていく。
あかいあくま対きんのあくま。
伝説の魔物の戦いは昼まで続いた。身動き一つ取れなかったのに、仮免試験並みにきつかった。
それから一週間程は、何事も無い訳なく、俺の部屋で、凛、イリヤ、桜が寝るようになったせいで、寝不足になったり。寝れなくて、縁側にいたら、ルヴィアさんがやってきて、いろいろ話してたら、俺のいないことに気付いた三人に責められたり。俺が料理を作るようになって、三日目に凛、桜、ルヴィアさんが、俺の料理の作る回数を減らすよう言ってきたり。藤ねえとイリヤの反対を物凄い迫力で押し切ったり。風呂に入っているところに、凛やイリヤが入ってこようとしてタイガー大暴走が発動したり。凛や桜、イリヤにルヴィアさんと新都に出かけて、周りの視線が痛かったり。ご近所の目が前以上に厳しくなったり。あくまの戦いにこあくまが参戦したり。とらも立ち向かうも、あっさりやられたり。と色々ありながらも、穏やか?に過ぎていった。
そして、二月十一日の木曜日。それは来た。
「シロウ、手紙。」
「ああ、ありがと、リーズリット。」
礼を言って、封筒を受け取る。そして、リーズリットのお茶を淹れる。
藤ねえ、イリヤは学校、桜は藤村邸に出かけた朝食後のまったりとした時間。今日は雨が降っている。雷も鳴るらしい。
「派手な封筒ね。青一色なんて。あれ、この封筒、住所とか書いてないけど。赤文字で「衛宮士郎」って。まさか。」
凛、人宛の手紙を勝手にチェックするなよ。
「師匠からだな、間違いなく。」
「もしかして、わざわざ郵便受けに入れていったのかしら。」
「多分。そう言う回りくどい事も大好きなんだ、あの人は。」
「それで?封筒は二つあるけど。名前が書いてないのと書いてあるのと。両方開く?」
「いや、こういう場合、名前が書いてる方だけ開けって言う暗喩だ。書いてない方開いたら、問答無用でお仕置きだろう。と言うわけで、こっちだけ開こう。」
と、赤文字で「衛宮士郎」と書いてある鮮やかな青い封筒をペーパナイフで開く。ちなみにペーパナイフは投影したものじゃないぞ。って誰に説明してんだ、俺?
「それで、なんて書いてるの士郎?」
「ミス・ブルーはシロウに何をさせようとしてますの?」
興味津々なご様子の時計塔主席候補二人。そういや、二人は倫敦に戻らなくて良いんだろうか?
「え〜と、もう一通の手紙を持って、師匠の「教え子」を訪ねろってさ。」
「ミス・ブルーにまだ弟子がいるの!?」
「聞いた事ありませんわ!シロウは知っていらしたの!?」
驚く二人、息ぴったり。
「いや、弟子じゃなくて、人生の「教え子」らしい。」
「人生の…」
「教え子…」
呆ける二人。ユニゾンアタックすら可能だろう。
「まあ、確かに信じ難いけど。」
無軌道、我侭、理不尽の三拍子揃った人物なんだろう。
「それで、訪ね先は?」
「ああ、○○県△△市三咲町だって。」
ピカッ!!!
ゴロゴロゴロゴロォォォォォォォォォォォン!!!
「それでいつ出発なさいますの、シロウ?」
「うん、すぐ出ようと思う。夜には着くだろうから、翌日、朝一番に書かれてある住所を訪ねるよ。」
「皆に、何も言わずに?」
「帰ってきたら、埋め合わせするさ。すぐ行動しないと、後が怖いし。何とか宥めてくれないか、凛。」
「は?何言ってんの。私もついていくわよ。」
「もちろん、わたくしも。」
「い、いや、何が起こるか分かんないから、二人を連れて行くわけには―」
「そう。じゃ、しょうがないわね。」
「ええ、しょうがないですわね。」
ほっ、納得してくれたかな?って、絶対してないな、あの顔は。
「ミス・エーデルフェルト、ちょっと旅行に出たくはありませんか?」
「ええ、ミス・トオサカ、同感ですわ。」
「「目的地は三咲町。」」
「お、おい。」
「あら、士郎。私たちがどこに行こうが。」
「私たちの勝手でしょう、シロウ?」
はあ、勝てそうもなさそうだ、あくまのコンビには。白旗の代わりに両手をあげる。
「お手上げ。分かった、一緒に行こう。ただし、無茶はしないでくれよ。」
「士郎に言われたくないわ。」
「シロウに言われるとは思いもよりませんでしたわ。」
もう、どうでも良くなって来た。
30分後、用意のできた俺たちは玄関にいた。
「それじゃ、後の事頼むよ、セラ、リーズリット。イリヤや藤ねえ、桜に謝っといて。ちゃんと帰ってくるからって。」
「分かりました、シロウ。後武運を。」
「シロウ、ファイト。」
「いや、戦いに行くと決まった訳じゃ。」
ないと言い切れないんだよな。
「じゃ、行ってきます。」
「「いってきます。」」
「いってらっしゃい。」
「おみやげ、まってる。」
雨の中新都に向かう。雨の激しさが、先行きを暗示しているようだった。
あとがき:マンセーーー!!!どうも、へっぽこオジサン、福岡博多です。八話です。よくもここまで、恥知らずにもやれたものじゃな〜。ようやっと、新展開。うむ、自分の力量を顧みないあたり、士郎に親近感を覚える今日この頃。ま、士郎程、立派なはずもなく。
凛が、士郎に「好き」言われた事を、他のヒロインに言わないのは、話の都合上と言う裏事情と、言わない事で、他のヒロインを無闇に刺激しないようにしようと言う表の事情からです。前にも、言いましたが、皆幸せを目指してますんで。少々の矛盾は、皆様の広い心で許してやってくださいな。
ふと気付いたんですが、題名が内容に、全く反映されてないように思うんですが、気のせいでしょうか?気のせいですよね。うん、そうにちがいない!!そうなの!!!はっ、お見苦しいとこ見せてすんません。さて次回。士郎クン達は夜の三咲町で、白の姫君に遭います。うむ、どうなるのでしょうか。教えて、知得留先生!!