赤い○マ M:遠坂凛 衛宮士郎 傾:…ほのぼの?


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1: 都間都 (2004/03/21 00:50:17)


 ―――唐突ではあるが。衛宮士郎が本来扱う魔術は投影だ。しかし通常の投影魔術ではない。普通の魔術師であるなら嫉妬を通り越して、殺意さえ抱くであろうその資質。

 ……だが、彼らは魔術を理解できるが故にその資質に目を奪われ、彼の持つ、もう一つの才能に気付かない。

 通常の魔術を扱う上では役に立たない『構造把握能力』―――対象の物質がどの様な材質から構成されていて、その構成はどのように成っているのかという物を一瞬で把握する能力―――それは衛宮士郎が投影魔術を操る上での欠く事の出来ない基礎の1つ。



 ―――それは、対象を見ただけで寸分違わず模倣する事が可能な能力とも言える!!



「出来た…! これなら……遠坂に勝てる!!」



 ―――聖杯戦争の最中、ほんの数日前に、とある勝負で衛宮士郎は遠坂凛に敗れた。

 自分の本来の得意分野では遠坂凛に勝つことは出来ない―――そう思った衛宮士郎が考えついた秘策。……彼はそれを実際に作るのは初めてだったが、彼とて伊達に十年近く研鑽を積んできた訳ではない。それに、今まで彼が作ってきた物も、遠坂のそれも同じカテゴリーに入る。



 いい仕事をしたと額に浮かぶ汗を拭って早速出来た物を持ち、その場を出て衛宮士郎は勝負を決める場所へと向おうとした。……が、

「…と、使った道具はきちんと元に戻さないとな。使う物が多かったから大変だ」

 と後片付けをし始めた。いくら大事な勝負の前とはいえ、生来のマメな性格がここでも発揮された。





「60点。このへっぽこ」

「ぐっ・・・」

 心ある人間なら決して口にはしない言葉をさらりと吐くのは遠坂凛。彼女は言うまでも無く、衛宮士郎が挑戦する相手である。

「でも遠坂、これはおまえが以前ウチで作った中華料理だぞっ!?」

 机の上に並んでいるのはかに玉、青椒牛肉絲、肉野菜炒めにシュウマイ。

……そう、量こそ少なかったが確かにその料理の数々は以前、衛宮邸で他ならない遠坂凛本人が作り衛宮士郎がへこまされた、いわくつきの品の数々。




 ―――彼、衛宮士郎には勝算があった。先程述べた彼の技能の1つ、『構造把握能』。一目見ただけでその物体を構成しているものを理解する、というものだ。

 遠坂凛。彼女は自分の料理、その中でもとりわけ中華には絶対と言ってもいい程の自信を持っている。

……ならばもし、その料理を模倣したらどうなるか。

 以前彼女が作った中華料理。それを一目見て、衛宮士郎は材料はもとより使われている調味料、果てはその調理過程まで把握した。ならばあとはそれを模倣するだけ。それだけでオリジナルである遠坂凛の中華料理に迫れる筈だった。

 自らが自信を持っている物を人は否定する事は出来ない。

 自らの自信、それを否定する事―――それは自己否定と同意義であるからだ。

 ―――故に。それが彼、衛宮士郎が考えついた秘策だった。自分の得意である和食では遠坂の中華料理には勝てないが、遠坂本人の中華料理であるならば……!!





 だがしかし。

「60点」

 応える声はやはり同じ。

「くっ、何でだ!? 俺は完璧に遠坂の料理をトレースした筈……!!」

 そう言って自身が作り上げた料理を食べる衛宮士郎。

 それは確かに遠坂凛が以前作った物と全く同じとまではいかなかったが、それでも60点と言われる程の差は無い筈だ。

 場所は衛宮邸。

 後片付けを終えた衛宮士郎は居間にあるテーブルに料理を並べ、離れの部屋にいる遠坂凛とセイバーを呼んだ。





 『勝負だ遠坂! 料理が出来たら呼ぶから!』

 そう言って1時間ほど前、彼は調理に取り掛かった。

 彼が自信を持って出した料理の数々はしかし、彼女の情け容赦ない一言に一刀両断された。

 60点と。二回そう言われた。……ちくしょう、二回言うな。

「呆れた。まだ気付かないんだ。……いいわ、ちょっと待ってなさい」

 そう言って席を立つ遠坂凛。

「……どこに行くんだ? 遠坂」

「貴方のそのコピーと私のオリジナル、その違いを貴方自身に教えて上げるのよ」

 そう言って遠坂凛は台所に消えた。





 そして遠坂凛は調理を終え、出来た料理を持って戻ってくる。

「さあ、食べてみなさい」

 テーブルの上に並べられた料理の数々。メニューは先程、衛宮士郎が作った物と同じだ。

 半信半疑のまま、言われた通りに料理に箸をつける。

「こっ、これは……!」

 ―――確かに自分が作った物と彼女が作った物は違う。

 ……使われている材料も調味料も同じならば、その調理過程も同じ。それなのに何故、自分が作った料理と彼女が作った物とではこんなにも差があるのか。

「まだ分からない? ならアンタの料理に何が足りなかったのか教えて上げる。
 それはね…… 『愛』 よっ!!」 

 言ってはみたもののやっぱりその発言は恥ずかしかったのか、顔を赤くしつつもはっきり言い切るのは遠坂凛。

「な、なんだってー!!」

 ガガーン! とばかりにショックを受ける衛宮士郎。

「……凛。さすがにそれはどうかと思いますが」

 しかしセイバーは冷静だ。

 今までは衛宮士郎と遠坂凛の勝負だからと口を挟まなかったのか、……それとも単に食べるのに夢中だったのか。それまで一言も発しなかったセイバーが言う。―――おかげで、今までその存在は忘れかけられていたが。

「い、いいじゃない! 一度くらい言ってみたかったのよ!」

 がーっ、と怒った勢いで誤魔化そうとする遠坂凛。

「……」

「……」

「……」

 ……しばしの間、場を沈黙が支配する。

 沈黙に耐えられなくなったのか。コホン、と咳払いをして何事も無かった様に遠坂凛は説明を始める。

「それじゃあ正解を教えてあげる。士郎? 貴方、料理が終わった後にすぐに私たちを呼ばなかったでしょう? マメなアンタの事だから、多分使った調理器具の片づけでもしてたんでしょう?」

「ああ、その通りだけど…」

「いい? 使った調理器具の片づけなんて後回し。私は確かに以前言ったはずよ。
『中華料理は冷めると犯罪的に不味いんだから』 と!!」

「なっ……!」

 ―――確かにあの時、自分は遠坂やセイバーを呼ぶ前に、使った調理器具の片付けをした。

 人からマメだと言われるその性格ゆえか。本来、彼は物が散らかっている環境というのが苦手だった。その為、彼の自室は簡素なものだ。何しろ生活する上で必要最低限の物しか置いていない。
 ……『自称』、姉であり保護者であるところの藤村大河が持ち込んでくる数々の品々のせいで、不本意ながらも現在、蔵には物があふれてしまっているが。

 ―――それがまさか、こんな失敗を招くとは……!

「初めて作った中華でそこまで辿り着いた努力は褒めてあげる。でも士郎、『中華料理は冷めると不味い』、そんな常識はね、―――私達が既に二千年前に通過した場所よっっっ!」

「……いや、遠坂。その台詞、どっかで聞いた事あるんだが」

 ビシッ、と遠坂凛は決めているが、衛宮士郎は騙されない。

 言っている事は正しいと思うのだが、それとこれとは別だ。

「大体、『私達』っていうのは何だ。日本人だろ、おまえ」

 それにまだ納得のいかない点がある。

「……リン、確かに貴女の言う通りシロウとリンの料理には差があります。しかし私には、40点もの差があるとは思えないのですが?」

 またもやセイバーは冷静だ。遠坂凛のポーズにも、それに突っ込んだ衛宮士郎も眼中に無いのか。……あるいはもはや面倒くさいのか。

 そう、納得のいかない点とはセイバーが言った通り。衛宮士郎も自分と遠坂凛の料理に40点もの開きがあるとは思えなかったのだ。

「……そうね。確かに料理だけでいうなら80点、っていう所でしょう。充分合格、とも言えるレベルね。いくら洗い物をするって言ってもそんなに時間は掛からないでしょうし。……でもね、士郎は言ったのよ、『勝負だ』って。それなのに士郎は私の料理をコピーした。それじゃあ例えどんなに上手くできたとしても私の料理と同じレベル。つまり、その時点でアンタは勝負を見誤っていたのよ! 引き分けを狙うようじゃ決して勝てはしない!!」

 今度こそ決まった、とばかりに ババーン! と効果音が付きそうな台詞を胸を張って言う遠坂凛。

「くっ、完敗だ……」

 そう言ってがっくりとうなだれる衛宮士郎。

 そんな彼に遠坂凛は近付き、

「そんなにがっかりする事ないじゃない。士郎? あなた、中華を作るのは初めてだったんでしょう? なら大したものよ、これだけのものを作れるなんて。魔術の方は全く才能無いけれど、料理の方は才能あるんだもの。もっと練習すれば、いつかは私も負けちゃうかもしれないし」

 笑顔で、優しいのか何なんだか、判断しづらい言葉をかける。

「遠坂……オマエ、胸は小さいけど、度量は大きいやつだったんだなぁ・・・」

 ……今までいじめられていた不満が少しづつ蓄積されていたのか。しみじみと、つい思っていた事を口に出してしまった。……それは決して口に出してはいけない禁句。

 ……そして彼が自分の失言に気付いた時、

 遠坂凛は笑っていた。

 笑ったまま―――

 突如視界から消えた。



 腹に重い衝撃。斜め下からのリバーブローだ。

 そして顎に突き抜けるような一撃、ガゼルパンチ。

 畳み掛けるように繰り出される左右の連打、デンプシーロール。

 まっくのうちっ!

 まっくのうちっ!

 ―――いない筈の観客の声まで聞こえる。

 そしてとどめとばかりに振り下ろされるナックルパート。

 もちろんベアナックル、例のグリズリー級のヤツだ。



 ……床に倒れ、意識を失う寸前。

 視界に入った赤い服を身に纏うその人物を見て、衛宮士郎は呟いた。

「…赤いアクマ……いや、赤い…クマ……」



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 あとがき

こんにちわ? こんばんわ?
都間都です。いかがでしたでしょうか。

 作中、……まあ、最後は士郎君の自業自得ですが。
このSSを書くのに最初に思いついたのが「赤いクマ」というのと「構造把握能力」という言葉だったのですが。
 「構造把握能力」→「料理をコピー」っていうネタはわりとすぐに思いついたんですが、「赤いクマ」の方はどうやって繋げたものかと悩みました。
 その為、最後はちょっと展開が急だったかもしれません。いかに凛をキレさせるか。…うーん、難しいです。というか、オチが弱い気が…(汗)
精進します。
当初はギャグのつもりで書いていたのですが、書き終わってみると何のジャンル何だか自分でもよく分からないという……。

SSは今作で2作目ですが、やっぱり難しいです。少しは前作と比べて上達しているのかなぁ…。

それでは、拙作ですが、長々とお付き合い頂きありがとうございました。

では。


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