その身は、剣で出来た聖剣の鞘 第一部その12 傾:シリアス Mセイバー


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1: kouji (2004/03/20 20:02:14)

42セイバー視点

空間すら切り裂く断層は、傷ついた男が振るってなお、私の剣を上回った
満身創痍で、短く息を吐く、離れた所に聖剣が落ちる音を聞いた

鞘が無ければ死んでいたかもしれない

持ち主に不死性を与える聖剣の鞘、それをもってしても、ここからの回復は容易ではなかろう

「ここまでだな、セイバー」

勝ち誇った顔でギルガメッシュが私を見下ろす
絶対の自信を、乖離剣を振るい、私の剣に勝ったことで取り戻したのか、
その相貌には不遜な色が戻っていた

「あの雑種に身の程を教えに行かねばならんが、
その前に、おまえを躾けて置くべきだろう」

言葉と供に私の体が逆さに浮き上がる、
足を掴まれて、持ち上げられているのだと直ぐに判った

目だけで、手から離れた聖剣を探す、
かなり遠い、たとえ捕らわれていなくとも、この体では一息とは言えない距離だ
それでも、まだ手はあると信じて、相手を見据える

「言った筈だ、この身には一つの自由もないと、
私は既に国のものだ、貴様とは決して交わらない、
『王』としての誓いに賭けて、
私は貴様には屈しない」

はっきりと言い放つ、

そうだ、人としての幸せも、少女としての夢も、
『王』としての誓いの基に、置き去りにしてきた
国を救いたかった、
みんなに笑っていて欲しかった
その為に多くの騎士を斬り、民を捨ててきた
女である自分が、騎士として、王として生きること、
それを抜きにしても、矛盾した生き方だったと思う、

思えば、自分は矛盾だらけだ
その矛盾を打ち消したくて、その求めた先で、

一人の少女としての夢を見た
王として駆け抜けてきた幾年もの間、自分に欠けていた答えを得た

その果てに、あの丘に戻ろうとしている

そのことに後悔は無い、
未練ならばあるだろう、
この暖かな日々の夢を、何時までも見ていたいと思う気持ちに嘘は無い

それでも自分はあの丘に戻る

“やり直しなんか出来ない、
死者は蘇らない、起きた事は戻せない
例え過去に戻ってやり直したって、そんなものは救いじゃない”

“置き去りにしてきたものの為にも、自分を曲げることなんか出来ない”

あの空っぽの、借り物の理想に彩られた少年の答え、
その果てが、例え、あの赤い外套の騎士だとしても、

その道が、間違っていなかったと、信じている

瞳を閉じる、
目に映るのは、土蔵で初めて出会ったときの驚きに満ちた顔、
身を捨てて自らを庇った傷ついた姿、
事ある毎に私を『女の子だ』と言った声、

「これより我が剣は貴方と供にあり、貴方の運命は私と供にある
―――ここに契約は完了した」

あの時から、自分は彼の剣だった、

「我が身を穢すことが聖杯をえる手段であるのなら、
今宵、ひと時の夢全てを賭けて、その存在を否定しよう」

だから、彼の願いを取った

「私の求めるものは、全て揃っていた、
―――初めから、求める必要など無かった、
ただ、私が気付かなかった、目をそむけていただけだった」

王としても、少女としても、この身はきっと満たされた

「ほう、剣を失くしてもなお吼えるか?」

男が嘲笑する声が聞こえる
なくした? とんでもない、この手には鞘が、彼の半身があるのだ
拙い、未熟な少年の思い、
私を酷く気にしながら、
その実、何よりも危うく、そして、何よりも心強い

何故か、その彼の後ろに、誰もいない丘が見えた

荒れ果てた丘、墓標のように剣が群れなすその中心に、

何よりも強い輝きをもって、一振りの剣がある

“I am the bone of my sword”
敗れた夢の答えを求め                     体は剣で出来ている

“Steelismybody,and fireismyblood”
手に入らない夢を追い                     血潮は鉄で、心は硝子。

“I have created over athousand blades.”
亡くした物に思いをはせ                    幾たびの戦場を越えて不敗

“Unaware of loss. Nor aware of gain”
ただの一度も立ち止まらず、ただの一度も振り返らない      
ただの一度も敗走は無く、ただ一度も勝利もなし

“Withstood pain to create weapons.
waiting for one‘s arrival”
だから矛盾した全てを受け入れて           担い手はここに独り,剣の丘で、鉄を鍛つ

“I have no regrets. this is the only path” 
もはや世界に答えは求めず                  ならば、我が生涯に意味は不要ず  

“Mywholelifewas   『unlimited blade works』”
かの半身だったその鞘は、やはり無限の剣で出来ていた          

“自分の命が一番大事だったとしても変わらない、
きっとそれ以上にセイバーはキレイなんだ。
お前に代わるものなんて、俺の中には一つも無い”

「剣ならある」

丘の中心に手を伸ばす、
完璧だと思っていた鞘の復元は
その手に剣を握り締める
                                 その実、復元などではなかった
引き抜いたその剣は
                                 そう、これは彼の半身
紛れも無く
                                 ならば負ける道理が何処にある?
『勝利すべき黄金の剣』

「受けろ、英雄王!!」

振りぬいた剣が、私の足を掴むギルガメッシュの腕を斬り飛ばす

「ぐをっ!!」

輝きを放って振りぬかれた剣に弾き飛ばされ地を転がる、
目を向けた先に、エクスカリバーが転がっていた、
掴み上げ、立ち上がる

「おのれ、セイバー!!」

立ち上がった英雄王の手に、乖離剣が現れる

「消えろ!! 天地乖離す開闢の星(エヌマ・エリシュ)!!」

空間すら断ち切る渦がせまる、
だからなんだ?

巻き起こる風に踏み込んでいく
                                  籠手が砕ける
左手に持ったカリバーンを掲げ上げ、
                                  胸当てに亀裂が走る
振りぬいた黄金剣で、相手へ向かう一歩を創る
                        幻想の剣が砕ける
絶対の勝利を確信し、男の顔がゆがむ
                                  開いた左手を風の中心に向ける
その手の先に、鞘を開く

             「全て遠き理想郷(アヴァロン)!」

その瞬間、
巻き起こる風も、世界すら断つ渦も、全てがはるか彼方の出来事のように、
私の周囲、その全てが、静寂に包まれた

万物の頂点を自負し、自らを超越者と呼ぶ英雄王
絶対を誇った、その全力の一撃ですら、ここには届くことは無い、

不死性の象徴、あらゆる呪い、あらゆる災いより主を護り、
魔法ですらも、その護りを抜けることは出来ない、

そして、それに収められたものこそ、騎士王の象徴、幾たびの戦場を越えし神造の聖剣
右手でそれを振り上げる

「約束された(エクス)―――」

風が凪ぐ、目の前には、振り切った姿勢のまま硬直するギルガメッシュ、
目を見開き、驚愕に満ちた顔で叫ぶその男に向けて、渾身の一撃を叩き込む

「勝利の剣(カリバー)!!」

振りぬかれた剣の輝きが、閃光となってあたりを包む

「莫迦な…………この我が…………
天地乖離す開闢の星(エヌマ・エリシュ)が敗れるなど……」

絶対の自信を打ち砕かれた、その驚きを理解できぬまま、
英雄王は閃光に飲み込まれて消えていった

「はぁ、はぁ…………」

膝をつく、足に力が入らない、
無理もない、これだけの宝具を後先も考えず放ったのだ

「早く、…………士………郎の……とこ…ろ……へ…………」

向かおうとして、私の意識はそこで途切れた


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