錬剣の魔術使い・第六話 (M:士郎・凛・ルヴィア 傾:ほのぼの


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1: 福岡博多 (2004/03/20 17:55:15)

 「ところで、桜と藤村先生には、その髪と肌の事は、なんて説明したの?」

 「事故で、化学薬品をひっ被ったてことにした。」

 「余計心配かけてどうすんのよ!?」

 「うん、その日の内に病院に押し込められた。翌日、師匠に拉致されたけど。そのせいで、次に帰ったとき、酷い目に遭ったよ。」

 「自業自得ね。」

 「む。」




 錬剣の魔術使い・第六話




 昼食は、本格的な広東風焼きそば。台所に入ろうとする士郎を、ルヴィアゼリッタが舌を巻く程のガンドで大人しくさせた凛が作ったものだ。ちなみに、ルヴィアゼリッタは、箸の扱いも優雅で、それに凛が舌打ちをしていた事を除けば、和やかな食事の時間だった。
 そして、腹もこなれた頃、

 「さてと。」

 士郎が、庭に降りる。

 「士郎?」

 間接を解し始めた士郎に問いかける。

 「何する気よ?」

 「鍛錬。」

 「あんたね、少しは、安静に―」

 「悪い、遠坂。俺は才能無いから、怠ける訳にはいかない。まあ、今日は軽く流すから、見逃してくれ。」

 と、真っ直ぐとこっちを見て言う。

 「無茶だと思ったら、すぐ止めるから。」

 フンッとばかりに顔を背けながら返す。

 縁側に座る五人。庭に立つ士郎。

 「投影、開始。」

 士郎の手に握られる夫婦剣。そして士郎の鍛錬が始まった。
 イメージの敵は、武装した複数、人外、幻想種。剣を振るいながらも、剣術では無い動き。肘、膝、蹴り、果ては柄を握ったままの拳打。止まらない。全ての動きは繋がっている。気付けば、握っているのは、王の剣。夫婦剣に劣らない冴えを見せる。
 愚直で、無骨。群青の侍のような優雅さもなければ、青の剣士のように洗練されてもいない。不意に、頭に浮かぶのは、赤い夕焼け。そして―

 「フゥゥゥゥゥゥゥゥ!!!!!!!」

 渾身の平突きを繰り出して、士郎は、鍛錬を終えた。およそ一時間。汗はかいているが、息は僅かに早いだけ。負傷していなければ、それすらないだろう。

 「はい、シロウ!」

 「ありがと、イリヤ。」

 イリヤからタオルを受け取り、汗を拭く士郎。と、こっちを見る。

 「遠坂、エーデルフェルトさん?どうかしたのか?」

 不思議そうに聞いてくる。

 「な、なんでもないわよ!!」

 赤面しそうなのを、誤魔化す為に大声を出す。

 「え、ええ、その通りですわ!!」

 なぜか、ルヴィアまで大声を出す。首を傾げる士郎。そこへ、

 ピンポ〜ン。

 来客を告げる呼び鈴が鳴る。ただ、来客はそのまま扉を開け、居間にやって来た。

 「セラさん、リズさん、お土産持って来ましたよ。」

 と、誰もいない居間から、縁側にやってくる。そして、庭に立つ人物を認めたとき、その手から、お土産の箱が落ちる。

 「せ、先輩?」

 「おかえり、桜。」

 次の瞬間、そのまま庭に降り、士郎の胸に飛び込んだ。

 「センパイ、センパイ、センパイ、センパイ、センパイ!!」

 「さ、桜!?」

 「たくさん、たくさん心配したんですよ!?」

 「ご、ごめんな、桜。それと、ただいま。」

 「おかえりなさい、先輩。…もう少し、こうしてて良いですか?今、私、酷い顔してるから。」

 「うん、もちろんだ。」

 桜が落ち着くまで、胸を貸してやる。と不穏な視線を感じて縁側を見ると、遠坂とイリヤ、そしてなぜかエーデルフェルトさんの眉が吊り上っていた。なんでさ。
 この時、誰も気付かなかった。士郎が桜を受け止めたとき、桜に心配をかけている事にすまなさそうな表情をする前、ほんの一瞬、深い後悔と、自責の念がない混ぜになった表情を士郎がした事を。


 あの後、桜のお土産をお茶請けにお茶をした。温泉饅頭だったので、全員緑茶。エーデルフェルトさんも気に入ってくれたようだ。桜に旅行の話を聞く。

 「楽しかったか、桜?」

 「はい!驚いた事もありましたけど。」

 「驚いた事?」

 「その、プ、プロポーズされたんです、私。旅行先で知り合った人に。」

 「「「プ、プロポーズ!?」」」
 ズズ〜×3

 反応する俺、遠坂、イリヤ。無反応のエーデルフェルトさん、セラ、リーズリット。

 聞けば、パック旅行で同じ旅館に泊まってたその頭を染めた男と雷画爺さんが意気投合。食事に同席して、桜に一目惚れ。

 「桜ちゃん、君こそ俺の運命の人!結婚してくれ!」

 「え、ええ!?」

 混乱する桜。ひとしきり混乱した後、深呼吸。

 「ごめんなさい!私、好きな人がいるんです!」

 真っ直ぐに相手を見て言い切った。

 「オウ、ジーザス!!なんで、俺が好きになる娘には、好きな相手がいるんだぁぁぁ!!」

 叫んだ後、自棄酒とばかりに雷画と飲み始めた。


 「面白い人でしたけど。」

 桜には珍しく笑いながら話す。よっぽど、面白い人だったのだろう。

 「楽しかったみたいだな。ところで、桜?」

 「はい、何ですか、先輩?」

 「桜の好きな人って誰なんだ?」

 居間が凍り付く―

 「内緒ですよ、先輩♪」

 笑顔で応える桜。いつもは心温まるはずのそれが、今は絶対零度。

 「あ、あの桜?」

 「どうかしました、先輩♪」

 「イ、イヤ、気にしないでくれ。」

 見ると、皆大仰に肩を竦めたり、溜息をついたり。桜の兄代わりとして、聞こうと思っただけなんだが。ストレートに聞くなんて、デリカシーに欠けたかな?と的外れな反省をした士郎だった。


 夕飯は、流石に作らなきゃと台所に入ろうとした士郎だが、桜が、

 「私に作らせてください!!」

 と、強硬に主張。先程のデリカシーの無い発言のこともあり、譲る事にした。ちなみにメニューは、チキンのクリームシチュー。ベシャメルソースも手製の桜の力作だ。

 「「「「「「「「いただきます。」」」」」」」」

 「うんうん、おいしいよぅ。桜ちゃん、おかわり。」

 「って、もうか、藤ねえ!?もう少し味わって食べろよ。」

 「おいしいから、たくさん食べたいんじゃない。ところで士郎。」

 「ん?」

 「この人誰?」

 と、スプーンでエーデルフェルトさんを指し示す藤ねえ。失礼だろ!どうしてこの人が教師になれたんだろ?

 「藤ねえ、スプーンを下ろせ。失礼だろ、まったく。この人は、エーデルフェルトさん。遠坂の友達だよ。」

 「はじめまして、ミス・フジムラ。ルヴィアゼリッタ・エーデルフェルトと申します。ミス・トオサカとは、同期、ですわ。」

 「同期」を強調するエーデルフェルトさん。

 「こちらこそ。ああ、ルヴィアちゃんでいい?で、士郎。なんでルヴィアちゃんが、家に居るの?」

 「え、それは―」

 ヤバ、考えてなかった。どうしよう?

 「わたくし、日本家屋に興味がありまして。それで、ミス・トオサカにミスタ・エミヤを紹介していただきましたの。おかげで、有意義な時間を過ごさせていただきました。」

 「なるほど、外人さんには、日本の家は珍しいもんね〜。」

 エーデルフェルトさん、やっぱあんた、天使様だ!トラの暴走を未然に防いでくれるなんて!
だが、次の瞬間、てんしは、

 「ですので、昨夜に引き続き、しばらくここに滞在させていただきます。」

 あくまの本性を露にしていた。

 「ダメーーーーーーーー!!!」
 「ダメに決まってんでしょ!!!」
 「ダメです!!!」

 すぐさま反応するイリヤ、遠坂、桜。そして次の瞬間。

 「どういうことぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!!しろうぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ!!!!!!!」

 虎が吼えた。

 「お姉ちゃんは許しませんよ!!!国を遠く離れて心細い思いをしているところを、優しくして恋に発展だなんてベタベタな展開、絶対に許さないんだからーーーーー!!!!!!」

 うおおお、藤ねえ、絞まってる絞まってる!あ、オヤジ、久し振り、今そっちに逝くよ―

 「ミス・フジムラ、そのままではミスタ・エミヤが死んでしまいますわ。」

 「ルヴィアちゃん!年頃の若い男女が、同じ屋根の下で寝泊りするなんてダメよ!そうだ、日本の家に泊まりたいなら家においでよ。うん、それが良いよ!」

 俺の首を放した後、エーデルフェルトさんに向き直り、迫る藤ねえ。

 「申し出は、大変ありがたいのですが、わたくし、この家に滞在したいのです。この家の主は、ミスタ・エミヤ。ミスタ・エミヤがダメだとおっしゃるのなら諦めますが。」

 「「士郎?」」
 「「「「シロウ?」」」
 「先輩?」

 一斉に俺を見る女性陣。断れと、その視線が雄弁に語っている。
 だが、口を開く前に、きんのあくまは爆弾を投下した。

 「わたくし、男性に抱き上げられたの初めてでしたのよ。しかも、二度も。ミスタ・エミヤの逞しさを感じましたわ。」

 恥らう演技をしながら、それはもう楽しそうに言う。

 オウ、ゴッド。どうして俺の周りにはあくまやとらやまじょが集まるんですか。教えて下さい。

 「ふん、雑種が、我の物に手を出すから、女運が下がるのだ。」

 今ならやれるぜ、カミゴロシィィィィィィィィ!!!!!!!!


 ミスタ・エミヤの犠牲で、場の主導権を握り、エミヤ邸の滞在を認めさせた。一番、警戒していたミス・トオサカも冷静さをなくし、事を思い通りに運べた。ただ、ミス・トオサカとミス・マトウも滞在する事になったが。まあ、許容範囲無いですわ。

 「エーデルフェルトさん?」

 私の前方を、私の荷物を抱えて歩くミスタ・エミヤが振り返る。滞在しているホテルから荷物を取りに来たのだ。帰りは、歩きを主張した。その途中、いつの間にか立ち止まっていたらしい。

 「いいえ、何でもありませんわ、ミスタ・エミヤ。」

 言って、ミスタ・エミヤに並ぶ。隣のミスタ・エミヤに目を向けるながら歩く。
 私を遥かに上回る戦闘能力を持ちながら、朴訥で人の良い青年。そして、決して届かないと分かっている高みへ、鋼の意思で挑み続け、手を伸ばし続ける男。いつか届く、いや届かして見せると。
 私は、何でもそつなくこなせる。自分の力を知っているから。だから自分にできないことはやらない。私にとって、それは無駄でしかないから。だからできない。彼のように挑む事は。
 だから、興味を惹かれる。私にできないことをできる彼に。昼、愚直に高みへと手を伸ばす彼を尊いと思ったから。

 「エーデルフェルトさん、俺の顔なんかついてる?」

 「いいえ、少し見惚れていただけですわ。」

 「からかうのは、止めて欲しいんだけど。命に係わるから、ホント。」

 「フフ、善処いたしますわ。その代わり、お願いがありますわ。」

 「ま、俺にできることなら。」

 「あなたの事、シロウと呼ばせていただきます。ですから、あなたも私の事はルヴィアとお呼びください。」

 「あ〜、うん。分かったよ、ルヴィアさん。」

 「さんはいりませんわ。」

 「いや、流石に、それは。」

 「確かに、シロウの性格ではすぐというのは難しそうですわね。しょうがありません。ですが、努力はなさってくださいね。」

 「あ、うん、了解。」

 二人は笑い合って歩いていく。
 ルヴィアゼリッタは、道すがら自分の事を話し、士郎の事を聞く。純粋に士郎の事を知りたくて、士郎に自分の事を知って欲しくて。自分が、初めて抱く感情に戸惑いながら。


 私は、苛立っていた。ルヴィアの滞在先であるホテルから帰ってきた二人は、道中何があったのか名前で呼び合うようになっていた。ムネガイタイ。私、イリヤ、桜の三人で詰め寄ると、

 「いや、頼まれたから。」

 と何でもない様に言う。ムネガイタイ。ルヴィアの士郎を見る目にどうしようもなく苛立つ。ムネガイタイ。あいつは、「彼女」の事知らないから、考えなしにそんな目を向けれるのよ。ムネガイタイ。そんな目?ムネガイタイ。それってどんな目?ムネガイタイ。それは。ムネガイタイ。それは?ムネガイタイ。私と同じ―

 風呂に入る。いつも以上に念入りに洗う。風呂から上がる。着替える。軽く香水を吹きかける。風呂場を出る。薄暗い廊下を歩く。襖の前に立つ。ゆっくりと手を上げる。下ろす。それを数度繰り返す。襖に手が当たる。ノックする。

 「誰だ?」

 応える優しい声。自分が何をしているのか分からない。自分がどこに居るのか分からない。頭はパンク寸前。心臓は、爆発5秒前。
 手が動く。私の意志を離れて。襖が開かれる。窓からは、月明かり。部屋の中を照らす。部屋の主も。後ろ手に襖を閉める。同時に結界を起動。

 「遠坂?どうしたこんな時間に。」

 部屋の主は不思議そうに聞いてくる。息を忘れるくらい麻痺していた口を動かして、言葉を紡いだ。

 「等価交換しに来たの。」




 あとがき:すんません!!やっちゃった!!急展開過ぎだYO!!難しいね、恋愛って。思い通りに行かないもんですなあ。次回どうしよ?つうかどうなる?て俺作者なのに〜〜!!
 久遠さんに応援されて、気合入ったは良いけど、先走りすぎたかにゃ〜?しかし、久遠さんに尊敬しますとか言われちゃったよ。いやいや、私の方こそ、あなたを尊敬してます。二作品とも愛読してます。ほかにも応援してくれた皆さんに多謝。感想掲示板に参加したいんですが、展開喋っちゃいそうなんで、自粛してます。でも、チェックはしてるんで、これから応援してください。応援こそ、製作のパゥワァなので。生ガンバリマス。某ウーロン茶のCMより。


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