その身は、剣で出来た聖剣の鞘 第一部その5〜  傾シリアス


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1: kouji (2004/03/19 20:53:59)

12セイバー視点

シロウの救出は困難を極めるのは予想出来た
何しろ最強の敵バーサーカーとそのマスターの本陣である
加えてこちらは武装すら出来ぬ身の上であり
リンとアーチャーの助力が無ければたつこともおぼつかない
そうなればもはや主の盾になる他あるまい

覚悟を決めて、何とかバーサーカーとマスターの不在時に侵入し、
シロウを救出した
ここまでは良かった

だが…………

出口へとようやくたどりついた私たちを待っていたのは、
鉛色の巨人を従えた白の魔術師

イリヤスフィール=フォン=アインツベルン

出口はこれで防がれた
アーチャー一人ではリンを護るのが精一杯だろう
私がシロウの盾になったところでたかが知れている

だと言うのに

「アーチャー聞こえる?
―――少しでいいわ、一人でアイツの足を止めて」

弓兵の主は自身のサーヴァントにそう命じた

「正気ですかリン? アーチャー一人ではバーサーカーにかなわない……!」

「私達はその隙に逃げる。アーチャーには逃げ切る時間を稼いでもらうわ」

私の意見を無視し、冷静に指示を続けるリン

「賢明だ、凛たちが先に逃げてくれれば私も逃げられる
単独行動は弓兵の得意分野だからな」

言い切るとアーチャーは私たちの前に出る

相手は最高クラスの英霊ヘラクレス
無銘の英霊がかなう相手ではない

「…………アーチャー、私……」

顔を伏せリンが何かを言いかける

「ところで凛、ひとついいか?」

それを、いつもとなんら変わりない口調でアーチャーがさえぎった

「いいわ、なに?」

「ああ、時間を稼ぐのはいいが―――」

少しだけ間を置いて、アーチャーは

「別に、アレを倒してしまっても構わんのだろう?」

そう、余りにも無謀なことを口にした

余りの発言にイリヤスフィールさえ呆然となった

「えぇ、遠慮はいらないわ、
ガツンと痛い目にあわせてやって、アーチャー」

それで開き直ったのか、リンもいつもの調子で言い返す

「……出来るのですか?」

「なに、これでも一度、生前にアイツとはやりあってる、
少なくとも六度は殺せる自信はある」

私の問いにアーチャーは静かに言い切った

「だがその先はわからん、後はお前たちしだいだな」

不可解なことを言う、六度死んだ程度では倒せないと言うことだろうか?

「衛宮士郎」

バーサーカーに向かいながら彼は私の主に声をかけた

「いいか、お前は戦うものではなく、生み出すものに過ぎん
余分なことなど考えるな、お前に出来ることなど一つだけだろう
ならばその一つを極めてみろ」

それは忠告

「忘れるな、イメージするのは常に最強の自分だ、
外敵などいらぬ、お前にとって戦う相手とは、自身のイメージに他ならない」

そう言うと
その両手に短剣を握り、弓兵は、狂人へと向かっていった


13

駆けていく主たちの足音を後ろに聞きつつバーサーカーへと走り出す
その手には双剣、それを持って、なぎ払われる巨人の剣をかわし、凌ぎ、避ける

やがて英霊の耳にすら彼女らの音が聞こえなくなった頃

「さて、それでは始めようか」

まるでここまでが準備運動であるかのようにアーチャーは呟いた

「手始めだ、これがかわせるか?」

“投影、開始(トレース、オン)”

その言葉と供にその手に矢を番えた弓を構える

否、そこにあるのは剣であった

九つの釘のような剣が弓に番えられている

「……受けろ、挨拶代わりだ  
『射殺す百頭(ナインライブズ)』!!」

九つの刃は射手の意に従いその敵を射抜かんとする
だが、相手も只者ではない

飛燕を超えてくるそれを

一つをなぎ払い

二つを叩き落し

ついで三本を打ち払った

それでもなお、かわしきれなかった数本がその身に突き刺さる

だがその程度は狂人にとってたいした意味は無い
この程度では彼を傷つけるには足りない

「なんで、なんでアンタがヘラクレスの弓を使えるのよ」

驚いたのは感情の消された狂人ではなく、その主であった

『射殺す百頭(ナインライブズ)』

幾度首を落とそうと蘇生する九頭の大蛇をしとめた、
ヘラクレスの宝具たる弓の名であり

かの英雄の最強の技である

「なに、ただあやかっただけだ、では次に行くぞ」

もう一度、弓を構える

「我が骨子は捻れ狂う」

螺旋の剣をその弓に番え、放つ

「偽螺旋剣(カラドボルグ)!!」

轟音と供に解き放たれたそれは、
まっすぐに巨人の胸を打ち抜いた


14

アレハナンダ

                                  「ごめんね、士郎」
       
オレハタダ   
      
                「桜、藤ねぇは?」
                              アレハダレダ

     「違う、そうじゃない」

                 アレハせいばージャナイ   

「じゃあ何だよ? 全て無駄だったって言うのか?」

      ミトメラレナイ

                「先輩だって会いたかったんでしょう?」
       
  トオサカ、シヌナ

    「誰もいない、セイバーも、遠坂も藤ねぇも、一成も美綴も、誰も」

                                        いりやダメダ

                 「こんな再会は望んでない!!」

        サクラキミハ

               「まだ残ってたのか」

                                クロイキシ、クロイヒカリ

「誓約する、我が死後を預けよう」

      ココニヒトリノムイミナエイユウガウマレタ

                   コレハタダソレダケノコト


15

「これで五つ」

満身創痍でアーチャーが宣言した
相対する巨人も同様、
いや、むしろ傷の深さで言えば巨人の方が勝るであろう

それはイリヤからすれば信じられないことだった

自分のサーヴァントは最強であり、目の前の弓兵は真名すら判らぬ
格下に過ぎぬ
慢心が無かったと言えば嘘だろうが、このような虫けらが
神を討つなど誰が想像できようか

ただの保険のはずであった宝具『十二の試練(ゴッドハンド)』
その十二個の命の半分をここで使うなどどうして考えられようか

「さて、宣言してしまったのでな、少なくても後一つはもらっていくぞ」

傷ついた体で、それでも両足で地面を踏みしめ弓兵が言う

その時

ザワリ

           ザワリ
                                ザワリ

『なにか』の影が現れた

「ちッ、こんなときに」

舌打ち、バーサーカーを無視してそちらへと向き直る

「バーサーカー、イリヤをつれて逃げろ!!」

表情が険しくなる
苦渋に満ちた顔で、過去を思い出すように

「何よいきなり!!」

イリヤとてそれの危険度は解る
わからないのは弓兵の態度の方だ

「いいから俺の言うことを聞け!」

その表情は先ほどとは別人で、
まるであの少年のようだった

それについて、イリヤが考える前に、バーサーカーはイリヤを抱きかかえて
走り出した

理性が無いゆえの本能がそうさせたのだろう

バーサーカーは逃げた
逃げてくれた

あの少女の忠実な守護者として彼以上の存在はいないだろうが、
それも、凛達にとっては脅威でしかない

「さて、アレを始末できるかどうかは、もはや私の気にするところではないな、
それに、これでは逃げ場も無い、」

次第に囲まれていく中で呟き、ふと彼女たちに思いをはせる

「―――遠坂、達者で、
…………セイバー、君に会えてよかった」

巨人と少女を見送ると、そう呟いて彼は影の中へと消えていった


16
     ざわり
                                    ザワリ
                   ざわり
ザワリ
                                         ざわり

「間―か、こんな――に―――」

                          「マスター―――」

ザワリ
                      ざわり
                 
                                   ザワリ

「これは――!!?」

                   ざわり
                   
         ザワリ

                 「…………メディア……」

グチャ
                             パクッ

             モグモグ
                     
                                     ゴクン

                  ゴチソウサマ

                              ザワリ

ざわり


17士郎視点

一夜明けた朝、俺は、廃屋の外でぼうっと空を見ていた
昨日は貴重な経験をした
うん、自分の人生において、あんなことは二度とおきないだろう

そういう意味では、非情にもったいない事だが
あれは封印しておこう
うん、

セイバーの肌は白かったとか、

遠坂の唇は柔らかかったとか、

セイバーが処女だったとか、

遠坂はユリの気が有ったとか、

………………ぜんぜん封印できてないって、オイ!!

いや、浮ついてる訳じゃない、と思う、
正直、この面子でバーサーカーに挑むわけだし
不安のほうが多いだろう、うん、

でも脳裏にセイバーの      が

って、いい加減落ち着け、俺

状況を整理しよう、昨日俺たちは

1、アーチャーでバーサーカーを足止めしつつイリヤの城から脱出した

2、無理やりイリヤの術を解いた反動と消耗から、俺とセイバーが力尽きた

3、城の周りの森にある廃屋にひとまず逃げ込んだ

4、遠坂の提案でセイバーに魔力を供給した

簡潔にするとこんな感じか、

うん、魔力供給の方法が問題だったけど

そもそも、進言したのはライダーだそうだ
遠坂はそれを言われたとき

「なんでそれに今まで思いつかなかったんだ」

って思ったらしいんだけど

いや、うん、健全な一男子としては、その、願っても無い状況だったんだろうけど……

うん、いい加減、考えるの止めよう、これじゃ何時までたっても堂々巡りだ

取りあえず、何か武器になるものでも用意するか……


18

戦いは、苛烈を極めた

セイバーを前面に押し出し、士郎は援護に回り、二人で足止めしたところを
凛が奇襲して止めを刺す

作戦は成功し、凛は捕まりながらもバーサーカーの首を吹き飛ばした

だが、巨人を倒すにはそれでは足りない

だから今、遠坂凛は死にかけていた

届かない、通じない、叩きのめされ満身創痍

魔術回路が動いているが『強化』程度では通じない

――現実で勝てないのなら想像の中で勝て
   自身が勝てないのなら勝てるものを幻想しろ

側ではセイバーが聖剣を抜こうとしている

「使うな、セイバー―――!!!」

それを全力で止めさせる

英霊を従える三つの絶対命令権、そのうちの一つをもって命じる

「な―――どうして、もうこれしかないではないですか、シロウ……!!」

セイバーが抗議の声を上げるが、エミヤシロウにそんなことをさせる気は無い

「くっ……」

力尽きたように膝を突くセイバー
無理に使おうとした聖剣の反動、今の彼女にアレは使えない

ならば、創れ
常に最強のイメージを持って
誰をも騙し、自分さえ騙しうる、最強の模造品を創造しろ                          
                  難しいはずは無い
                  もとよりこの身は
               ただそれだけに特化した魔術回路

立ち上がった少年の手には金色の剣が握られていた

一閃で巨人の腕を両断する
凛は助かった、だが剣は壊れた

それでは足りない、アレは不完全だ、本物であるならこの程度では壊れない
だからこそ、エミヤシロウは内に沈む、
そこに妥協は無く、そこに外敵は無く、
ゆえに

                  創造の理念を鑑定し
基本となる骨子を想定し
構成された材質を複製し
製作に及ぶ技術を模倣し
成長に至る経験に共感し
蓄積された年月を再現し
あらゆる工程を凌駕し尽くし

“投影開始”

ここに、幻想を結び剣となす

作り出された剣は二人の使い手によって、不沈たる巨人を滅ぼした

それは、『勝利すべき金色の剣』
選定の岩でアーサー王が引き抜いた、王を選定する剣
はるかな昔において失われたかつての王の剣
二度とは存在せぬ幻像

「だが、その幻想も侮れぬ、よもや、ただの一撃で、
この身を七度滅ぼすとは」

巨人は滅びた、だが、彼らには、巨人の主の処遇について口論する暇も、
疲れた体を休める暇も与えられなかった


19セイバー視点

バーサーカーは倒れた、イリヤスフィールは呆然としている
ここで敵である彼女を斬るのは容易いが、シロウがそれを許さなかった
彼曰く、バーサーカーを倒した今、彼女に害はない、と言うことだそうだ

これには私だけでなくリンも反対した
シロウはなれない大魔術のお陰で消耗し、
なおかつ、バーサーカーによって多大な傷を負っていたが
その意志を曲げる気は無いようだ

ザワリ、と

不可解な『影』が現れたのはそんな時だった

新手のサーヴァント?

否、そんなはずは無い

バーサーカーは倒れた、アーチャーも死んだ、ランサーは違う
キャスターでもない、アサシンとも別人、ライダーでもない

そして、セイバーは自分だ、七体のサーヴァント、その全てを知っている以上
目の前のそれを否定する

ではなんだアレは?

「やばい、なんかわかんないけど、ものすっごくやばいぞアレ」

「同感、形を持った『呪い』があるとすればあんなのかしらね」

シロウとリンが眉を潜めて言う

「ではどうしますか? 二人とも」

「逃げるぞ、多分、バーサーカーよりたちが悪い」

ふらつく足でイリヤスフィールの手をとってシロウが言う

「イリヤスフィールも連れて行くのですか?」

「当たり前だろ、ここに置いてったら死んじまうんだぞ?」

さも当然と言い放つ、

あぁ、シロウはそういう人でした、

と、納得して、『影』に目をやる
ザワザワと動きながら周囲のマナを取り込もうとしているようだ

さて、走って逃げたところで逃げ切れるだろうか?

その時、

「エミヤシロウ、無事ですか」

私たちの頭上からそう言う声が聞こえた


20士郎視点

何とか俺たちはライダーのお陰で脱出に成功した
桜のことが心配だったが、ライダー曰く、

「教会に預けた」

そうなので、一応の安心をしつつ、後で見舞いに行こうと決める
それを、

「しない方がいい」

とイリヤが言った

「なんでさ?」

「士郎、アレはね、壊れるしかないものなの、士郎にはどうすることも出来ないの」

無感情な声、でもそれは何かを拒むような声だった

「イリヤ、桜と遭った事ってあるのか?」

聖杯戦争を他人任せにして、こそこそ逃げ回ってるようにでも見えたんだろうか?

「私はマキリの紛い物なんか嫌いなの」

素っ気無く答えるイリヤ
紛い物か、まぁ、桜は養子だしな

「士郎、多分イリヤスフィールが言ってるのは、そういう意味じゃないと思う」

俺の考えが読めるのか遠坂が口を挟んだ
じゃあなんだ? そういえば遠坂、イリヤのことで何かに気づいたみたいだったけど

その次の日の事

「ところでリン、アーチャーは『アレ』のコト知ってたみたいだけど?」

と、唐突にイリヤが聞いてきた

「ホントか? イリヤ」

「うん、『アレ』を見たとたんバーサーカーのこと、ほったらかしにしたくらいだもの」

アイツ何者だったんだ?

「あ、でもサーヴァントって、本来英霊としてあっちこっちの時代に無差別に呼ばれるんだろ?
その過程で『アレ』と良く似たものに出会ったことがあるんじゃないか?」

「それは無いわ、『アレ』がサーヴァントに似た『何か』であることは、
士郎だってわかるでしょう?
サーヴァントシステムは冬木市特有のものだもの、むしろ私は、
『アレ』がアーチャーが桜を殺そうとした原因じゃないかと思う」

「オイ、遠坂、お前ひょっとして
「あの『影』を操ってるのは桜だ」とか言い出す気じゃないだろうな?」

「操ってる、と言う自覚が有るかどうかは分からないわね、
いい、士郎? もともと間桐―――いえ、マキリの魔術って言うのはね
『何かを奪う』魔術なのよ、多分今、桜は本人の自覚無しに『魔力不足』、
を補うつもりでいるんだわ」

実際には不足どころか溢れかえるぐらいになってるって言うのにね

っと遠坂は言う

うう、全く解らんぞオイ

「遠坂、もうチョット詳しく説明して欲しいんだが?」

「私だってまだ全部解ったわけじゃないわよ、ただなんとなくそう思っただけ」

遠坂は言いづらそうにそういって、俺から顔を背けた


21士郎視点

「おかしい」

「あぁ、そうだな」

柳洞寺の山門の前で、俺達は首を傾げていた

「まぁ、手間が省けてよかったんじゃない?
案外ランサーあたりが片づけてたのかもよ」

キャスターの方も片付いててくれると楽よね、とか言いつつ遠坂が山門を開く

しかしてそこには、

「ほう、誰かと思ったらセイバーではないか」

金色の騎士が一人立っていた

「アーチャー、何故お前が現界している?」

驚いた顔でセイバーが問う

「ふん、十年ぶりの再会で第一声がそれか」

さして不服な様子でもなく、かといってその言葉に満足をしたわけでもなく
金色の騎士は呟いた

「我の下した決定を忘れたわけではなかろう?
あぁ、そうか、お前にとっては昨日のことだったか」

傲慢な態度でそいつは言った

セイバーはこいつをアーチャーだと言った、
そしてこいつはセイバーに十年ぶりだといった

「お前、前回の聖杯戦争のサーヴァントなのか?」

「ふん、無礼者め……八つ裂きにしてやっても良いが
セイバーをつれてきた礼だ、特別に不問にしてやるぞ雑種」

俺の疑問に見下すような視線を、ようやく向けて、そいつは言った

「ここで連れて行くのも良いが、まだアレが開かんからな
用意が出来ていないなら整えておけ、近いうちに迎えに行くぞセイバー」

そう言ってやつは姿を消した

三人の間で知らず安堵のため息が出る
あいつは強い、ひょっとしたらバーサーカーなんて目じゃないくらいに……

その後、キャスターを探して柳洞寺をうろついてみたものの
発見できず、恐らくはやつに倒されたのではないか、と結論付け、
俺たちは帰路についた


22凛視点

さて、その翌日

私は、居間でイリヤスフィールの相手をしていた
士郎とセイバーはデート中

昨日の夜に出会った謎のサーヴァント
十年前の生き残りにして、正体不明の英雄、セイバー曰く、クラスはアーチャー

十年前の戦いで最後まで残ったサーヴァントであったがセイバーはその正体を知らないらしい
彼女が言うには

「あの騎士の武器は余りに多く、出自も多種多様すぎます
だからこそ、惜しげもなく武器を飛ばす戦いをしながらも、
その正体をつかませなかったのでしょうが」

との事だそうな

それにしても、豪華なヤツよね、

鎧は金ぴかで、世界中の武器を持ってて、挙句の果てにはトコトン偉そう

あぁ、なんかお金にも不自由してなさそうな気がする、うらやましい

で、さらに言うと、あいつ、前の聖杯戦争のときにセイバーを口説いたとかどうとか
なんか、にべもなくスパーンと斬って捨てたらしいんだけどねセイバー自身は、

ま、あの調子だと、人の意見なんか聞かないでしょうけど

「リン」

「なによ?」

考え事をしていたらイリヤスフィールのほうから声をかけてきた

「リンは何を触媒にサーヴァントを召喚したの?」

「えっ? 触媒って何よ、召喚の魔法陣ならちゃんと組んだわよ?」

そりゃあ変な英霊だったけどね、儀式そのものは用意だけはちゃんとしてたんだから

「呆れた、散々シロウのこと馬鹿にしといて自分だってそうじゃない、
いい? サーヴァントは英霊だけど、その英霊を呼ぶには
ちゃんと英霊に関係した触媒を持ってやるのがただしいのよ」

「う、……悪かったわね」

イリヤスフィールに諭されてしまった
彼女曰く、バーサーカーはあの岩の塊みたいな剣で呼び出されたし、
前回セイバーを呼ぶ際にはアインツベルンが用意した剣の鞘が使われたそうな

「だとすると、今回士郎がセイバーを召喚できたのもその鞘のお陰よね?
でも、そんなもの土蔵にも無かったわよ?」

そうなのだ、そんなものがあればセイバーが真っ先に気づいているはず
彼女ゆかりの鞘なんて、それこそ一つしかないんだから

「そんなの解るわけないわ、シロウにでも聞いてみたら?」

にべも無く一蹴された、まぁ、仕方ない、二人が帰ってきたら問い詰めよう
…………それにしても遅いな二人とも、今頃何処かで『休んで』いたりして……

「ただいま戻りました」

そんなことを考えていたら玄関の方からセイバーの声が聞こえてきた
士郎の声は聞こえない、まさかセイバーだけ帰ってきたとか?

「遅かったわね、……ってどうしたの二人とも?!」

玄関へ行くと、いかにも満身創痍な士郎と、血で汚れたセイバーが立っていた
セイバーは取りあえず無事
士郎のほうも、意識はないみたいだけど、
例の自然治癒のお陰で傷の方は気にするほどじゃないらしい

「それで、何があったの?」

とりあえず、士郎を部屋に寝かせてから、居間へ移動してセイバーに説明を求める

「アーチャーと戦いました」

セイバーの答えは簡潔でわかりやすい

「アーチャーって、あの金ぴかのこと?」

「はい、私はほとんどなすすべも無く、彼に破れ、士郎も傷を負いました
宝具も通じず、無様に膝をついた私を、それでも士郎は護ろうとしてくれました」

俯いて、セイバーは語りだした

士郎に連れられて、新都の町を回ったこと、私の勧めた店で昼食をとったこと
ファンシーショップで長いこと粘ったこと、

士郎に告白されて、それを拒絶したこと

そして、アーチャーの襲撃

「ギルガメッシュ? ってメソポタミヤの半神半人の英雄のこと?
あぁ、なんか納得したわ」

セイバーの宝具さえ上回る宝具を有し、その財宝にはあらゆる武器の原型を持つ英雄王

バーサーカーすら一撃で倒したセイバーの「勝利すべき黄金の剣」
それですら、あの男の所有物「太陽剣グラム」によって打ち砕かれた

もともと、かの選定の剣は、ヴォルスング王の大樹に刺さったこの剣を原型としている上に、
グラムには竜殺しの特性がある

対セイバー戦においてこれほど強力な武器も無い

士郎にとって最強のカードはなすすべも無く破壊された

その様を、セイバーは見ていることしか出来なかった

傷つき、倒れ、膝を屈し、護るべき主が傷つく様を呆然と見ていた

「私は士郎に傷ついて欲しくなかった、私はただのサーヴァントです
敗れ去った今、おとなしく消えるのが正しい、そう思いました」

それでもセイバーを護るため士郎は立った

「そうね、ま、士郎がゆがんでるのは確かね、
でも士郎らしいわよ『俺にはセイバー以上に欲しいものなんか無い』なんて直球じゃない」

十年前のあの火事に巻き込まれたあの日から、彼が『衛宮士郎』になってから、
彼の生き方は歪なものになった

彼にとって、自分は救うべきもの、護るべきものには入らない
どんな大切なものとも比較できない秤そのもの

それを失った人間は、きっと幸せになることも、幸せを分けることも出来ない

でも、士郎の中の空席には、今、彼女がいる

「『自分の命が一番大事だったとしても変わらない、
きっとそれ以上にセイバーはキレイなんだ。
お前に代わるものなんて、俺の中には一つも無い』
そう言って、士郎はアンタに謝ったんでしょ?
アイツは本気よ、ただセイバーを大切に思って、それを実行しただけ」

そしてその思いは形となってあの英雄王を追い払った
つまりはこれは、そういうこと


23セイバー視点

一夜明けて、もはや昼過ぎ
いつの間にか姿を消していた士郎を思いながら一人縁側で空を仰ぐ

「ごめん、俺、セイバーが一番好きだ」

そう言って、彼は傷だらけの体でギルガメッシュに挑んでいった

「士郎は、私の鞘だった」

確信する、彼は、遠い昔に失われた、私の剣の、いや、私自身の鞘

余りに危うく、余りにも悲壮なその生き方

女として、彼の隣に居続けることは許されない、
それでも、彼の行く先に、少しでも、幸あらんことを願わずにはいられない

「セイバー、士郎何処行ったか知らない?」

唐突に、リンが私に話しかけてきた

がばっと立ち上がって振り返る

「な、何ですか、凛、私は決して士郎の軍門に下ったわけでは」

何かとっさのことだったので訳のわからないことを答えてしまっている気がする

「そう? ま、それはそうとして」

私の慌てぶりが面白かったのか、士郎をからかうときと同じ、何かを含んだ笑いを暫く見せた後
リンは口を開いた

曰く、ランサーのマスターは、既に殺されている
確認してはいないものの、その住居には大量の血痕と、
切り落とされた左腕だけが残されていたそうなので、まず、間違いない
ただし、それが行われたのは私が士郎に召喚されるよりも前
だとすると、ランサーは私とであった、いや、リンと出会う以前にマスターを失っていることになる

「ねぇ、セイバー、マスターって聖杯戦争が終わってもサーヴァントと令呪があれば、
ずっとマスターなの?」

「恐らくは、……リン、まさか?」

私の問いにリンは頷きをもって答えた

ランサーを使って、敵対するサーヴァントの情報を集め、
その後に自身の本当のサーヴァントで敵を倒す

加えて、今残っているのは3人とは言え
ライダーの実力など、あの男には通じないだろう

「まったく、あの『影』だけでも厄介だって言うのに」

リンが事態を分析し、そう言う

「リン、士郎が何処に行ったか解りませんか?」

「う〜ん、ひょっとして言峰のところかな?
昨日も行ってたみたいだし、桜の見舞いでもしてるんじゃない?」

士郎が、あの教会に?

「リン、教会の神父は、前回の聖杯戦争に参加していた、と言っていましたね?」

「うん、そうだけど?」

ダンッ!!

気がつくと私は堀の上に飛び乗っていた

「セイバー?!」

「リン、迂闊でした、ギルガメッシュが現れた段階で、進言しておくべきだった
…………キリツグは前の聖杯戦争で、マスターを倒すことで勝利を収めた
そのキリツグがしとめ損ねたのは唯一人、
アーチャーのマスターだけだった」

そして、前回そのクラスに居たのは…………

私は、皆まで言わず協会に向かって駆け出していた


24

その少し前、

キンッ!!
                       カンッ!!
         カキッ!!

教会の前で、ランサーはソレと対峙していた

「はっ、この程度かよアサシン、まがいモンの方がよっぽど強かったぜ?」

投擲される黒塗りの短剣をはじきつつ、ランサーは相手にそういった
白い髑髏面をかぶった暗殺者は答えない

もともと、アサシンのサーヴァントは
「ハサン=サッバーハ」という不特定多数にして誰でもない存在である
誰でもないがゆえに、その真名に意味は無く、あえて言うなら総称に近い

個人における「ハサン=サッバーハ」の伝説が存在しない以上、
英霊とは言い切れず、ゆえにサーヴァントとしての能力は最下級とも言われる

「どうしたよ、この程度じゃ、セイバー相手の準備運動にすらなりゃしねぇぞ」

ランサーとて油断している訳ではない
相手の宝具が何かまだ解らないのだ、
ひょっとしたらこの状況を覆すものかもしれない

だからこそ、興味がある、
あのいけ好かない男が、始めて、最初から殺すことを許可したのだ
ただのごみ掃除で終わってしまったのでは面白くない

だというのに挑発に乗るどころか、手持ちのナイフも使い切ったらしい

(やれやれ、まさか本気でこれで終わりじゃなかろうな?)

だとしたらそれこそ拍子抜けだ、ただの腰抜け用の使い魔では無いか
こんなヤツまで含めて『サーヴァント』とひとくくりにされるのは、ソレこそ我慢ならない

苦々しく、彼が思った、まさにその時

ドドドドドドドドドドド!!

轟音を響かせて大量の『剣』が頭上から降り注いだ
自身の持つ『矢除けの加護』と技量で凌ぎきる

アサシンは今ので死んでしまったようだ

「ちっ、誰だかしらねぇが、詰まらねぇ横槍入れやがって」

舌打ちし、辺りを見回す

そこへ、

「『矢除けの加護』か、お陰で手元が狂ったな」

先ほどの『剣』の主が姿を現した

その姿に確かにランサーは見覚えがある、
だが、その男の姿はランサーの覚えているものとは別人だった

「さて、仕方が無い、この埋め合わせは自分でするか」

淡々とそう言って、男はランサーへと向き直る

「てめぇ、何の冗談だ?」

口の端を吊り上げて笑う男に、ランサーは槍を向けて問いかけた










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