力を込めて、白い塊を捏ねる。手応えはばっちり。この手打ちうどんを食べた皆の表情を想像して笑みが零れる。と、そこにイリヤがやって来て、
「シロウ、ワタシも手伝おうか?」
「ノン。うどんはコシが命。非力なイリヤには、任せられないなあ。」
「ぶー。」
俺のキャラ違くない!?とツッコミたくなる受け答え。
と、俺が捏ねてるうどん生地の感触が変化する。
むにゅむにゅむにゅん。
まろやかな柔らかさと心地いい弾力。うどん生地に在り得ない感触。それに首を捻っていると、イリヤが満面の笑顔を浮かべながら、対照的な平坦な口調で、
「シロウ、おきて。」
と言いながら迫ってくる。同じ言葉を繰り返しながら、更に迫ってくるイリヤに、たじたじになりながら、これが夢だと認識していた。
錬剣の魔術使い・第五話
意識が覚醒する。窓から差し込む陽光が、日が昇ってることを指し示す。胡乱な頭で現状を把握しようとして、
むにゅむにゅむにゅん。
掌に素敵な感触を感じる。そして、
「シロウ、ちょっと、いたい。」
続く声に、そっちを向くと、リーズリットと目が合った。無言。ゆっくりと自分の右手に視線を動かす。
ええ、そりゃもう、しっかりとリーズリットの胸を掴んでおりました。
「シロウ、おそよう。」
リーズリットの挨拶を引き鉄にして、
「うわああああああああーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!!」
衛宮士郎は叫んでいた。
「士郎、何があったの!?」
「シロウ、どうしたの!?」
次の瞬間、襖を蹴破るような勢いで、遠坂とイリヤが部屋に入ってくる。そして硬直。視線の先には、布団の上にいる俺とリーズリット。厳密に言えば、リーズリットの胸を掴んでる俺の手。
「「シ・ロ・ウ!?な・に・し・て・る・の!?」」
あかいあくまとしろいこあくまがあらわれた。えみやしろうはにげだした。しかしまわりこまれた。
ゴッド。俺、何か悪い事しましたか?
居間で鼻にティッシュを詰める。あの後、デビルツープラトンベアナックルを喰らったのだ。魔力のたっぷり乗った。
「まったく、朝っぱらからなにしてんのよ、あんたは!!」
「い、いや起きたらあの状況で、」
「ちょっと、きもちよかった。ぽ。」
「ぽじゃなぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁい!!!!!!!」
「シロウの、エッチ、スケベ、おっぱい星人!!!」
「最っ低ね!!!」
ああ、切嗣。あかいあくまとしろいこあくまの目が、MAXに吊り上ってるよ。きょう、そっちに逝っちゃうかも。
「ミスタ・エミヤ。体の調子はいかがかしら?」
と、思わぬところから、救いの天使が舞い降りた。救いの天使は、セラが入れた紅茶を優雅に楽しんでいた。
「少し、体は重い感じがするけど、大丈夫だよ。ありがとう、エーデルフェルトさん。」
と、俺の答えに少し驚きながら、
「それは何よりですわ、ミスタ・エミヤ。」
笑顔で返してくれた。
綺麗な人だなーと感心してると、遠坂とイリヤが、半眼で睨んでいた。ただ先程よりは、怒りも治まっている事は分かった。とりあえず危機は脱したらしい。
エーデルフェルトさん、あんた、神様だ。
ただ、この認識はしばらくして木っ端微塵に砕け散るのだが。
リーズリットがお茶を淹れてくれる。ちなみに、俺とリーズリットが緑茶。遠坂、イリヤ、エーデルフェルトさん、セラが紅茶だ。
「それにしても、士郎、あんた四年前と全然違うんだけど、一体ミス・ブルーの下でどんな修行したの?ミス・ブルーと出会った経緯も合わせて聞きたいんだけど。」
「あ、ワタシも、ワタシもー。」
「確かに興味を惹かれますわ。」
と三人とも興味津々な様子。セラとリーズリットも耳を澄ませてるっぽい。
「いや、いつ、藤ねえが来るか分からないし。って、今日平日だよな。イリヤ、学校は?」
「この状況で、いけるわけないでしょ。」
「それじゃ藤ねえは、どうしたんだ?」
藤ねえが一人で学校に行くとは思えない。て言うか、イリヤがいないことに気付いてこっちに向かってる最中じゃなかろうか。
「大丈夫よ、暗示かけたから。そんな顔しない、軽いから影響は残らないわよ。それよりも早く話しなさい。」
「分かったよ、イリヤたちに話すのも初めてだな。」
と波乱の日々を振り返った。
衛宮士郎が日本を出て、半年ほどが経っていた。欧州の山間部にある小さな街で士郎は怪異に遭遇した。
死徒。力は三流だが、その頃の士郎にとっては強敵。鍬を強化して立ち向かったが、効果はない。流れる血。こんなところで死んで堪るかと、遠坂凛との約束を破り投影を行った。結果、死徒を滅ぼすも、出血と投影の負荷で、その場で失神してしまった。
意識を取り戻した時、目にしたのは治療された自分の体と、治療してくれたであろう、燃えるような赤髪を持つ女性だった。ちなみに、治療はお世辞にも上手いものとは言えなかった。
「気付いたようね。まったく、人の目の前で死にそうにしてないでよね。治療苦手なんだから。私の名前は、蒼崎青子。あ、名前呼ぶと怒るから、よろしくね。」
「は、はあ。あ、俺の名前は衛宮士郎です。助けてくれて有難う御座います。」
それから、色んな事を話した。蒼崎青子も「こちら側」の人間で、その事に気が緩んだのか問われるままに、洗いざらい喋っていた。話さなかったのは「彼女」の事ぐらいで、気付いたら俺の「理想(夢)」の話までしていた。この時が、衛宮士郎の人生の岐路だったに違いない。
「ふ〜ん、正義の味方ね〜。」
「おかしいですか?」
「いえ、そんなことないわよ。……うん。気に入ったわ。顔も可愛いし。士郎、あんた、私の弟子になりなさい。」
「え、あの?」
「士郎、正義の味方になりたいんでしょう。正義の味方は、強くなくっちゃね♪私があんたを強くしたげる。そうなると呼び方だけど、「先生」はあの子だけの呼び方だから、捻りはないけど「師匠」で良いっか。」
「いや、だから。」
「何、士郎?」
と、衛宮士郎の良く知るトラとあくまをかけて二乗したような笑顔のまじょ。
「拒否って、できます?」
「できないわよ♪」
ミス・ブルーの弟子、衛宮士郎誕生の瞬間だった。
ししょうとしろうの修行の日々
その一:魔術回路を開こう!
「士郎、あんた魔術回路二十七本もあるのに開いてるの二本だけじゃない。」
「ええ、まあ。」
「勿体無い。あるもんはちゃんと使いなさい。」
「でも、どうすれば?」
「手っ取り早く、わたしの魔力をあんたの回路に透すわ。要は詰まった水道管を、水圧で詰まりを取るようなもんよ。」
「なんか強引ですね。」
「でも、手っ取り早いのよ。じゃ行くわよ。気を抜いたら死ぬから、気を付けなさい。」
「え、ちょ、ちょっと、待っ―」
例えるならそれは、ダムの放水を紙コップで受け止めるがごとき愚行。
「ぎゃああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!!!」
その二:投影は習うより慣れろ!
「といっても、ワタシ、投影なんてわかんないし。」
「じゃ俺どうしたら良いんです?」
「ま、習うより慣れろって言うし。とりあえず、そうね、一日投影二百本くらいから始めようか?」
「へ、あ、あの師匠?」
「ほら、早くしなさい。あ、言っとくけど、投影の質が落ちたらペナルティーだからね。」
「いや、だから、話を、」
「は・や・く♪」
「イ、イエッサァァァァァァァァァァァァァァァァァァ!!!!!!!!!!!!!」
その三:発動できない宝具は、ただの宝具だ!
「士郎、あんた投影した宝具の憑依経験に共感もしてるのよね。」
「はい、そうですけど。」
「ふむ、それなら、担い手には及ばなくても、宝具を発動できるのかも。」
「いや、無理なんじゃ―」
「試してみましょう。」
「どうやってお試しになるんですか、師匠!?」
「宝具を発動させて、私の攻撃を相殺しなさい。」
「無茶苦茶やーーー!!!」
「死にたくなければ気張んなさい!!!」
「いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!!!!!」
その四:師匠の世話は、弟子のお・仕・事♪
「ん〜〜〜。このボンゴレ・ロッソ、絶品ね〜〜〜。」
「喜んでもらえて何よりです。」
ガリ!
「え?」
「アサリの砂抜きが完璧じゃなかったみたいね。」
「あ、あああああ。」
「師匠に対する敬意が足りない証拠ね。オ・シ・オ・キ・よ♪」
「ずわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!!!!!」
その後:仮免は、サバイバル!
眼下に広がる深い森。その上空に浮かぶトランク。そのトランクに腰掛ける女性と、ぶら下がる男。
「あの〜。今から何するんです師匠?」
「仮免試験よ。」
「仮免って。」
「試験内容は、下の森から生きて出で来る事。はい、これ、中でも使える方位磁石よ。」
「なんか、下の森から、魔力感じるんですけど。」
「腑海林アインナッシュだからね。当たり前でしょ。」
「あの死徒二十七祖のですか?」
「そうよ、ちなみに活動期。」
「いや、シャレになりませんよ?」
「ええ、本気だもの。じゃ、行ってらしゃい。」
次の瞬間、トランクごと青子が消える。翼のない士郎は、重力に従い墜ちる。
「おにーーーーー!!!!!あくまああああああぁぁぁぁぁぁぁ…………!!!!!!!」
お茶を一口含む。喋りっ放しだったせいか、喉に染み入る。周りを見ると、全員憐れみの目で俺を見ていた。
「シロウ、苦労したんだね。」
「士郎、無事で良かったわ。」
「良く、無事でしたわね、ミスタ・エミヤ。」
「シロウ、昼食はシロウの好きなもの作ってあげます。」
「シロウ、生きてて、良かったね。」
それぞれに、慰めの言葉をかけてくれる。
うう、人情がしみるぜ〜。
「で、大師父とはいつ会ったの、士郎?」
「ああ、仮免試験後かな。ふらっとやって来てさ。」
回想再開。
ろうしとししょうとしろうの修行の日々
その一:わしの事は老師と呼べ!
「久し振りじゃな。アオザキ。」
「!お久し振りです。今日はどうなされたんですか?」
「いや、何、お前さんが弟子を取ったときいてな。見物に来た。」
「あの、師匠?」
「ああ、士郎、紹介するわ。こちらは「宝石」のゼルレッチ。魔法使いよ。で、これが、不肖の弟子の衛宮士郎です。」
「よ、よろしくお願いします。」
「ふむ、いい眼をしとるの。」
「正義の味方を目指していますから。」
「正義の味方?ぷっ、はっはっはっはっはっはっはっはっはっはっは!!なるほどのう、気に入った!!以後わしの事は老師と呼べい!!」
「え、あ、あの?」
「士郎は、潰さないでくださいよ?せっかく手に入れた…なんだから。」
「うむ、任せておけ。わしにとってもいい…になりそうだからの。」
「いや、その…は何なんだあああああああああああああ!!!!!!!!!!?」
その二:第二魔法は、死のカ・ホ・リ♪
「では、士郎。見事、わしとアオザキとのコンビネーションを防いでみよ!」
「コンビネーションって?」
「うむ、アオザキの攻撃を、わしの魔法で前後左右、上下斜めと縦横無尽に奔らせる訳だ。」
「いや、死にますって!!」
「信じてるわ、士郎。」
「信じとるぞ、士郎。」
「嬉しくなああああい!!!」
「ええい、うるさいわい。行くぞ、アオザキ!!」
「了解!気合入れなさい、士郎!!」
「やめてぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!!!!!!!!!」
その三:老師と師匠の世話は、弟子のお・仕・事♪
「ほう、今日は和食か。肉じゃが?だったか。」
「ん〜〜〜。士郎の歳でお袋の味出すなんてね〜〜〜。うん、八十点。」
「満点ではないのか?ズズ。む、この味噌スープ、味が薄いな。」
「おいしいですけどね。ズズ。あ、この味噌汁、味が濃いわね。」
「え、ありゃ、老師の分と師匠の分間違えたかな?」
「ふむ、アオザキ。士郎は、目上に対する配慮が足りんと思わんか?」
「ええ、同感です。」
「って、何で二人とも、ものすごく嬉しいそうなんです!?」
「制裁だな。」
「お仕置きね。」
「た、助けてぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!!!!!!!!」
その四:免許皆伝は、トラブル・トラベル!
「ふむ、そろそろ、免許皆伝の時期か。」
「何なんです、免許皆伝って。」
「腑海林には、連れて行ったのか、アオザキ?」
「ええ、仮免で。」
「ならば、それを越える場所でなければ駄目だな。ふむ、あそこが良いな。行くぞ士郎。」
「激しく、嫌です!!!」
「どこです、腑海林以上のとこって?」
「近いようで、遠い場所だ。ほれ、往生際が悪いぞ、士郎。」
「士郎、若い内の苦労は買ってでもしなさい。」
「イヤダァァァァァ、イヤダァァァァァァァァァァァァァァ!!!!!!!!!!!!」
―一週間後
「ブツブツブツブツブツブツブツブツブツブツブツブツブツブツブツ」
「………士郎、明日はゆっくり休みなさい。」
「やりすぎたかの?」
膝を抱え、虚空に向かって、高速言語を呟く士郎。それを見ながらでっかい汗を垂らす老師&師匠ズ。
「ああ、生きてるって素晴らしい!!!」
感極まったように言葉を紡ぐ士郎。その頬を、不純物の一切無い生への歓喜に溢れた美しい涙が、止めどなく流れていた。
そんな士郎を、重度の精神疾患に罹った者を看る様な温かい眼差しで、五人の女性は見守っていた。
あとがき:やっちゃた。ホントは更新してる場合で無い福岡博多です。今回ほのぼのです?イヤ〜、老師と師匠の性格、独断と偏見です。ファンの方ゆるしてちょ。士郎、苦労してるね。前回のバトルはっきり言って、バトルじゃないだろ!一人ツッコミ。開き直って、バトルもう書きません。バトル未満で何とか繋ごうと思っちょります。ちなみに私ハッピーエンドダイスキッ漢なので、皆の幸せになる道を探って行く所存。具体的には、多股同時攻略現象。似非第弐魔法。さてペースを落として、ボリューム保つか、ペースを保って、ボリューム落とすか。次回やっと、桜光臨。桜ファンの人お待たせしました。ちゃんと書けるかしら?
いつまで続くの士郎の下っ端人生。今回はギャグですか、次回も楽しみです!
>イオン結合
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赤文字でわざわざ注意書きがしてあるんですから、ちゃんと読みましょう。