前回までのあらすじ
セイバーに犬耳と尻尾が生えました。
ただいまデート中です。
ちなみに、3.5とか言ってますが、時間的にそれぐらいというだけです。
冬の空は他の季節に比べて透明度が高い。
そんなことを思った。
俺の傍にはセイバーがいる。
真っ赤な顔で横たわり、これ以上ないほど恥ずかしそうだ。
「セイバー、痛い?」
「…………」
彼女は、首を横に振った。
「そ、良かった」
中断していた作業を続ける。
「んっ……」
「あ、大丈夫?」
「…………あっ、は、はい。気にせず続けてください、シロウ」
「そんな訳いかないだろ、俺は痛くないけどセイバーはそうじゃないんだ。無理なんかせず、はっきりと言ってくれ」
「……本当に、痛くありませんから」
「本当?」
「はい」
顔は見れない位置だけど、セイバーが嘘をついてないことは分かる。
他でもない、その体温が大丈夫だと肯定してる。
「じゃあ、続けるよ?」
コクリと、頷く動作が伝わった。
セイバーの『そこ』に手を伸ばす。
「おっ…と」
突風が吹き付けてきた。
海浜公園の風は寒い。午後の日差しが暖かいから尚更そう思える。川で冷やされた風が、容赦なく俺たちのいる場所へ吹いていた。
「うっわ、寒いなぁ……」
思わず腕を組んで縮こまった。
人払いの札は張ってある。
いま、この公園には俺たち以外には誰もいなかった。
緑の芝生は、さわさわと波打っていた。
向こうに見える水面も連動するように動いてる。
水も芝生も波をうち、俺たちの座ってるビニールシートだけが浮かんでる、そんなイメージが思い浮かんだ。
(まるで、ここが小船みたいだな)
セイバーの首筋に手を置いてみる。
俺を見ることができない彼女は、そんな動きにも敏感に反応した。
「セイバー、寒くない?」
「だ、だいじょうぶ、です」
緊張でカチコチだ。
ビニールシート一枚を隔てて、地面に寝そべる形になっている。その冷たさはセイバーの身体に伝わっているだろう。
俺は自分の上着を脱いで、彼女にかけた。
「あ、あの」
「いいからいいから」
セイバーは尻尾を足の間に挟んでいた。
これは怯えてる時の表現だ。
犬耳もペッタリと伏せられている。
俺は、その耳をやさしく起こしながら、彼女に話しかけた。
「じゃあ、犬耳そうじ、続けるよー」
「うぅ、なぜこのようなことに……」
セイバーは悲しげに呻いた。
Fate/stay night ss
いぬみみせいばー でーとへん3.5
てぃし
ここは海浜公園の歩道途中にある休憩所だ。
一辺が十m程度に四角く区切られ、中には芝生が敷きつめられている。
ベンチの一つも設置して無いため、普段から人気のない場所だが、今は特に人がいない。
人払いの札のせいだ。
四隅に張ることで結界となすコレは、遠坂から渡されたものだ。
彼女が言うには「こんなのは、ごく初歩の魔術」だそうだが、俺には魔力を通して発動させることしかできない。
きっと、遠坂がやったら、もっと上手に結界を張れるんだろうなぁ。
そんなことを思いながら、犬耳の内側に生えてる毛を、素手でぷちぷち抜いた。
これをしないでいると、耳そうじをしても中が蒸れたままになり、炎症の原因になる。
少しづつ、丁寧に抜いていった。
「うぅ」
「セイバー、そんなに嫌なの?」
「嫌というよりも、怖いです」
「そう?」
「はい、自分でも良く分からないところを触られてるのですから、すごく不安です」
それを証明するように、尻尾を股に挟みこみ、戻すこともない。
「でもさ、セイバーのここ」
覗き込み。
「中とかピンク色で、すごくかわいいよ」
「な!? なななな……」
俺のひざまくらにセイバーの頭が乗っかってるので、表情は見えなかった。
彼女の右耳はこちらを向き、顔は俺の反対側を向いている。
「ほら、けっこう毛深かったけど、いまは色まで良く分かる。うわ、けっこう複雑な形なんだな」
犬耳を引っ張って、広げるようにした。
「ほら、赤とピンクのまだら模様って感じで…」
「―――シロウ」
ん?
なんだ、セイバー、俺の手なんか掴んで。
「それ以上の戯言は、シロウの寿命を縮めると思います」
めきり、と。
俺の手が嫌な音を立てた。
「お、おい!」
めきめきめき……
「分かった分かった、セイバー! 冗談だって!!」
うー、いてて。
俺、なんか悪いこと言ったか?
セイバーは、俺のひざまくらでふて寝してた。
ふんっ、てな様子だ。
「うー、なんだよセイバー、俺は見たままを言っただけだぞ。なにが気に入らないんだ?」
「知りません! シロウが自分の胸に聞いてください!」
む、ちょっと記憶を思い返してみる。
「……セイバーの耳がすごく綺麗で、見惚れてたってこと以外は何も言ってないよなあ……」
セイバーが再び俺の手を取った。
「わっ、ごめん! よく分からないけど俺が悪かった!」
力が込められる前に謝る。
彼女は決して、俺の方に顔を向けなかった。
本当の耳が真っ赤になっているのは、やっぱり、寒いせいなんだろうか。
「シロウ、やはり止めましょう。このようなことをしなくても、私は大丈夫です」
「いや、そういうわけにいかない。言ったろ? そのまま放って置くと炎症を起こして中耳炎とかになる危険性があるって」
「…………」
「酷い場合は耳が変形するぐらい腫れるし、不潔なままだと耳ダニに栖みつかれる場合もあるんだよ?」
「……わかりました」
閉じていた耳を、ピコっと開けた。
さすがにダニは嫌だったようだ。
「うし、続けるよ」
観念したように頷いてた。
俺は綿棒を用意した。
――――犬耳の中は、ねん膜でできていて凄くデリケートだ。人間の耳掻きを使うと確実に傷つけてしまう。これは乾いた綿棒でも同じだ。
ならばどうするかというと、ベビーオイルや市販の専用液で湿らせた綿棒を使うのだ。
「セイバー、入れるよー」
「だ、黙ってしてください!」
ぴと、っと綿棒をセイバーの耳にふれさせる。
瞬間、尻尾が垂直に伸び上がった。
こすらないように、ゆっくりと触れる感覚で耳そうじをする。
「うわー、けっこう起伏があるんだ」
でこぼこって感じだ。
「〜〜〜〜っ」
耳掃除とは言うが、耳の中までは入れない。
見える部分だけを綺麗に掃除する感じだ。
ひだの間の汚れを拭き取る。
「うーし」
シュっシュっと綿棒を動かす。
うーん、やっぱりちょっと汚れてるな。
俺は細心の注意を払って耳の中を拭く。
セイバーの尻尾が顔を覗かせてきた。
時折、綿棒の動きに連動して、尻尾の先も動いた。
俺は汚れてきた綿棒を取換え、ベビーオイルをつける。
その間を利用して、犬耳に鼻を突っ込んで匂いを嗅いでみた。
「ん」
「ひゃ!」
「うん、特に臭くない」
「シ、シロウ!」
「なに?」
「そんな場所を嗅がないでほしい」
顔をこちらに向け、困った顔で言ってくる。
「? でも、セイバーのって、いい匂いだぞ?」
「なっ!? シ、シロウは変態ですか!?」
「いや、コレ、たんなる健康チェックだし」
ちなみに、酷く臭うと、耳ダニに栖みつかれてる可能性がある。
「うぅ…」
不満そうに見つめてきてた。
「ほらほら、そんなことより続けるよ」
「あ、え」
強引に、顔を横にさせる。
また、丁寧に、拭き取るように綿棒を移動させた。
冬の風は冷たい、セイバーはその中で、俺にひざまくらされながら尻尾を振っていた。
犬耳も時折、動いてしまうので、俺は押さえながら耳そうじをした。
「おー、とれるとれる」
黄色っぽい、乾燥したものが取れる。
なんだか楽しくなってきた。
こういう単純な清掃作業は、ハマルと止められない。
セイバーは、ギュっと目をつぶっていた。
まだ、ちょっと怖いみたいだ。
絶対に傷つけないよう、ゆっくりと耳そうじをする。
俺から見て右の方で、尻尾が揺れていた。
ふむ。
ためしに外側の、もうだいたい拭き終わったところを綿棒でふれてみる。
「…………」
尻尾は小さく揺れるだけだった。
特に変わった様子はない。
むう…ならば。
ちょっと奥まったところに綿棒を入れる。
あやしげな、汚れてそうな場所を拭いてみた。
「!」
尻尾が一際大きく震えた。まるで、電気ショックを与えられたみたいだった。
綿棒を離す。
へにゃ、っとうな垂れる。
同じ場所を、今度は何回も拭いてみる。
「!!!」
バッタンバッタンと揺れていた。
「はは」
「シロウ、なにがおかしいのですか?」
「いや、なんでもないさ」
頭を撫でる。
髪の流れに合わせるように静かに。ついでに、のどの辺りも撫でた。
「ぅ……」
嬉しそうに左右に揺れていた。
尻尾の動きを見ながら、俺はセイバーの耳を綺麗にし続けた。
「シロウ」
セイバーの手が、俺の膝頭を掴んだ。
「うん? どうした」
「……い、いいえ、なんでもありません」
「そっか」
その後も、彼女は膝頭を掴んだままでいた。
俺の綿棒の動きに合わせて、その手に力が込められる。
どうも尻尾の動きが激しいほど、握る力も強くなるみたいだった。
綿棒を犬耳の中に入れると、緊張のためなのか僅かに力が込められる。
特にどうともないところを拭くと、安心して力が緩む。
セイバーにとってクリティカルな所になると、痛いくらいに握ってくる。もちろん、尻尾はバッタンバッタン揺れている。
その反応を楽しんで、俺はつい必要以上に長く続けてしまった。
「さ、次は反対だよ」
「…………」
「セイバー?」
いつの間にかグッタリとしてた。
尻尾も元気がない。
握る手も、ほとんど力が入っていなかった。
「おーい?」
「…………」
返事が無い。
あー、どうしたものか。
俺はとりあえずセイバーの犬耳に口を近づけ。
「ふっ」
「ひゃっあぁ!!?」
空気を吹き込んだ。
「おーい、セイバー、反対もするよ」
「……え、あ、はい」
「ほら、逆」
のろのろと身体を動かした。
いままで見えなかった顔が分かる。
かなり赤かった。
目もトロンとしてて、まるで酔っ払っているみたいだ。
「セイバー、大丈夫?」
「……あ、はい、大丈夫です」
答える声も虚ろだ。
「んー、まあ、じゃあ始めるよ」
「…はい」
右耳でやった事を繰り返す。
すでに毛は抜いてあるから、綿棒で拭くだけだ。
さて、まずは端の方からだ。
ぴと、っと綿棒を犬耳につける。
尻尾が立ち上がり、セイバーの口が半開きになった。
シュっシュっと動かす。
「……んぁ…」
尻尾が左右に揺れ、セイバーの口がもっと開いてきた。
息もちょっと荒い。
時折、押し殺した声も漏れ出る。
「…………ぅ……」
「――――」
「……っ……」
「――――」
「………ゃ………」
「セイバー?」
「…………」
答えは返ってこなかった。
「気持ちいい?」
犬耳に囁くように言う。
「………はぃ」
答える声も囁き声だった。
それでもしばらく続けたが、だんだんと尻尾の動きが緩くなってきた。
「おい……?」
気になって手を止めた。
「ん……ゅ……」
「……寝てるのか?」
頭を撫でながら聞く。
彼女はこの上なく気持ちよさそうだった。もう意識もなく、夢の中だ。
あーあー、よだれまで滴らして。
まるで昼寝してる子犬みたいだ。
冬の太陽が照らす下、セイバーは俺のひざまくらでくーくー寝てた。
はあ、これじゃ、続けられないかな?
この眠りを邪魔したくはなかった。
「まあ、もうだいたい終ったからいっか」
誰にいい訳するでもなく呟いた。
ぼんやりと河の流れとかを見ながら、俺もぼうっとすることにした。
セイバーの背中を撫で、その反応を見て楽しんだりする。
「小さいなあ」
それに女の子なんだな。
寝顔を見ながら、そんな感想をもった。
セイバーは両膝を曲げ、片手で俺の服を掴んでいた。
それと、
「んん?」
ひょっとして、セイバー、身長縮んだんじゃないか?
犬耳化する前が150とちょっとくらいだったのに、今は150ないぐらいに見える。
目算だから正確には分からないけど、昔はセイバーの頭が俺のアゴ程度だったのに、現在は胸のぐらいの高さだ。
いつの間に下がったんだ?
「ひょっとして、犬耳化の影響か?」
憑いたのが子犬だったみたいだから、それに引きずられているのかもしれない。
「…………」
俺には、これがあまり良い事と思えなかった。
霊体ではないセイバーの身体に影響を与えているのだ。いくら『肉体を持った英霊』とはいえ、これは異常ではないだろうか。
頬をさすってみる。
「ン……」
ちょっと眉を寄せたが、嫌では無いようだ。
「大丈夫、だよな」
実体のない不安が俺を包んだ。
そうだ、ついつい忘れそうになるけど、『今のこの状態』こそが『異常』なんだ。
いくら霊的なパイプが通ってるとはいえ、他のモノの魂魄がセイバーの中に入れるのか? しかも、それが肉体にまで影響を及ぼすなんて普通じゃない。
「考えすぎか……?」
半ば自分に言い聞かせる言葉だった。
ざわめく芝生の上。
小船のように浮かんでるシートの上で、俺は不安を押し殺す。
「えいっ」
撫でてみた。
自分の中にあるモヤモヤを消すためにも、ちょっと強めで。
セイバーは、俺のふとももの上で身じろぎし、
「ん……あ、シロウ」
「おはよ、セイバー」
「はい……」
「おい、また寝るな!」
「いいえ、違います……」
「なにが違うんだ、おきろー」
「んん」
セイバーは、ふとももの上の上を移動した。
ずりずり、と俺の方へと。
「おお!?」
そうなると、必然的に俺のテント、自前のゲイ・ボルグに近づくことになるわけで。
「んむぅ……」
「セ、セイバー! 顔を寄せるなー!」
しかも、そんな幸せそうな顔で!
セイバーは、まるで狙ったように、俺の局部に鼻を近づけていた。
「ぅん…」
そして、そのまま、寝てしまう。
口を半開きにして、緩やかに呼吸をしてる。
表情は、前にも増して幸せそうだ。
けど、これは、その……
「セイバー、さん?」
ひょっとして、においを嗅いでないか?
寝ながらも、ちょっと鼻がクンクンしてるみたいなんですが……?
顔を横にし、鼻をちょっと突き出すようにしていた。
その時、ある知識がフラッシュバックした。
犬が肛門のにおいを嗅ぐのは情報交換のようなものなんだって、堂々とにおいを嗅がせるのは自分に自信を持っている強いワンちゃん。逆に隠してしまうのは自分に自信のない弱いワンちゃん。そういう具合に犬の中で順位を決めてるんだね。だから、ワンちゃんにいきなり股間を嗅がれても、慌てず堂々とするんだよ、士郎ー。
なぜか藤ねえの声だった。
まあ、なんだ? ここはセイバーにちゃんとにおいを嗅がせないと、なにかと問題になるってことか?
もし、俺が振り払いでもしたら、セイバーに弱い子だと思われるって事だよな。
彼女は、俺と密着するようにして、においを嗅いでいた。
苦しそうな顔はしてない。
むしろ安心した、子どもみたいな表情だ。
くそう、これじゃ起こせないじゃないか。
崩す事なんて考えられない、あまりにも平和な寝顔だった。
……でも、
ふと気がつき、改めて左右を見てみる。
誰もいなかった。芝生がさわさわ揺らめいているだけだ。
人払いの結界が張ってあるんだから当然ではある。
ちょっと先に見えるタイル張りの歩道、そこに歩く人々も俺たちの方を見たりしない。
こっちが何をしてても気がつかないだろう。
つまり、この、俺のふとももの根元で寝てる犬耳少女と、実質的にはふたりっきりだ。
何をしても、周囲の人間には、分からない……
「おーい、起きろセイバー」
ゆさゆさ揺らした。
想像上のオヤジが「おお、いきなりアオカンか、やるなっ!」と親指を立ててきた。
頼む、薦めないでくれ。オヤジ。
ふたりっきりなのに野外というシュチュエーションが、俺の理性を溶かそうとしていた。
「こら、セイバー! 起きてくれ! においを嗅ぐな! そして、そんなに尻尾を嬉しそうに振るな!!」
ましてや赤い顔でクンクンなんてしないでくれ!
思わず「ここでチャックを開けたらどうなるのかな?」なんて誘惑が起きるじゃないか!!
くそっ、冷静にならなきゃいけない!
俺は一旦、手を止め。深呼吸した。
「す〜は〜」
ここでパニックになると碌な事が起きない。
目を閉じてこころを落ち着かせる。
普段やっている魔術鍛錬と基本は一緒だ。意識を集中しようとして。
「…………」
セイバーの鼻息をよりリアルの感じた。
って、駄目じゃないか!
分厚いジーンズ生地を通り抜け、地肌をこそばゆく触れてくる。
『地肌』がどこなのかは内緒だ。
「くっ」
目を開ける。
「…………」
俺の手は、ふらふらとセイバーの顔に近づいた。
なんか、もう駄目だ。
この手が彼女を起こすのか、それとも、俺のファスナーに行くのかは、自分でも分からなかった。
丁度、その中間あたりを彷徨い行く。
「セ、セイバー……?」
呼びかける。
起こさないように小声でだ。
「なんでさ」
自分で自分にツッコミをいれてしまった。
そうしつつも手は進む。
彼女の鼻あたりを突き進んでいた。
ついには『その場所』に手が到着しようとして。
ぐぅ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!!
セイバーのお腹が盛大に鳴った。
「!!」
丁度、接した瞬間だったので、まるで、ブザーを押したみたいだった。
進む速度の数十倍で腕が戻った。
心臓の打ち鳴らすリズムも格段にテンポアップした。
「…………」
セイバーの目がパチっと開く。
ムックリと、セイバーが身体を起こした。
起き上がり小法師みたいな動きで、横たわった状態から正座へ一動作(シングルアクション)だった。
ゆらんゆらんと、頭が左右に少し揺れてた。
その視線はボーっと、ただ虚空を見ている。
「あ、あの……セイバー?」
おそるおそる、俺は問い掛けた。
セイバーは、いまだ寝ぼけている様子だった。
「シロウ……」
ぜんぜん別の方向を見ながら喋っていた。
「な、なに?」
彼女は、ゆっくりと両手を自分のお腹に置き、
「…………」
ぐぅ〜〜
情けない表情でこっちを向いた。
「お腹がすきました」
ガックリと、全身の力が抜けた。
「セ、セイバー、お前ってやつは…」
「シロウ、ごはん」
彼女は俺の袖口を掴んで揺らした。
眉は八の字、動作も妙に幼かった。
はぁ。
「分かった分かった、昼飯にしよう、な?」
彼女はコクンと頷く。
そして、正座のまま、両手を伸ばしてきた。
「ん? なにさ」
「だっこ」
「へ」
「だっこを所望します、シロウ」
「なぁ!!?」
更に言えば、お姫様だっこか!?
雰囲気からいって、そんな感じだった。
「起きろ! セイバー! お前、絶対に寝ぼけてるだろ!?」
ガクガクと肩を揺すった。
「そんなことはありません、シロウが悪いんです…」
揺らされながらも、いまいち瞭然としない声が返ってきた。
「なんでだよ!?」
「シロウが意地悪して、私に食べ物をくれなかったからです…」
「……はい?」
なんのことだよ、いったい。
「シロウがウィンナーを独り占めして、渡してくれなかったではありませんか…」
「それ、確実に夢の話だろ!!?」
「違います……くぅ…」
「寝るなーーーーー!!!!」
その後、本格的にお腹をすかせたセイバーが起き出すまで、この問答は続いた。
セイバーは、意外と起きたてでは寝ぼけるみたいだ―――
―――ところで、気になったことがひとつ。
『ウィンナー』ってどういうことさ、セイバー?
ひょっとして、そのままにしてたら、今朝みたいに噛み付くつもりだったのか……?
想像し、下半身が冷たくなった―――
――――――――――――――――――
あとがき
えーと、ちなみに犬耳の掃除は、専用の洗浄液をかけて、水を拭けば大体OKです。
素人が綿棒を使うのは、逆にヤバイ場合があるみたいです。