その身は、剣で出来た聖剣の鞘 第一部その10 傾:シリアス


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1: kouji (2004/03/18 16:01:23)

34士郎視点

取りあえず、なんにせよ準備は必要だ、と言うことで、
俺たちは衛宮邸に帰って来た
それも大急ぎで、

何故、大急ぎになったかと言うと、
遠坂曰く

「イリヤのこと忘れてた」

らしい、それだけでも不味い話の上、さらに、

「あの場でサクラが覚醒してたから、言峰も何も言わなかったけど、
もともと、今回の聖杯の器はイリヤだったのよ」

とのこと、
どうも、遠坂に言わせると、その辺りで、アーチャーの記憶と食い違ってるらしい

「そもそも、ライダーが生きてる辺りから、アイツの記憶とは食い違ってるみたいなのよね、
アイツの士郎としての記憶なら、あの、キャスターの襲撃を受けた日、
士郎はイリヤに捕まる筈で、キャスターが来るのは、確か、十三日の夜だったと思う、
で、キャスターは金ぴかにやられて、士郎とセイバーがデートして、って流れになってたみたい」

「デートの中身とかはそんな変わらなかったのか?
ギルガメッシュと戦ったときとか」

「その辺ははっきりとは、で、教会の地下室の後、戻ってきたあんたたちが見たのが……」

血まみれで、居間の壁に背を預けて倒れている、遠坂の姿だったらしい
不意打ちを受けながらもイリヤを護った結果だとかで、死んではいなかったとか

「とりあえず、ここが襲われた形跡はなさそうですね」

戸口を見て、ライダーがそう言う

「では、イリヤスフィールは無事と思ってもよさそうですね、
一応、念のため、確認しましょう」

セイバーの言葉に頷いて、家の中を一通り見て回る

居間、客間、和室、庭、道場、と来て、

「あ、お帰り士郎」

何故かイリヤは土蔵から顔を出した

「イリヤスフィール、そこは士郎にとって工房も同じです、
断りもなく入って良い場所ではない」

セイバーが真面目にそう言うが、みんなイリヤが無事だったことに安堵したところだし、
特に工房らしくも無いので気にしないことにする

「ところでイリヤ、土蔵で何してたんだ?」

「え? キリツグのモノが何か無いか探してたんだけど、
それよりシロウ、どうしてこれが此処にあるの?」

そう言ってイリヤが出したのは、不恰好な、水晶の塊で出来た剣のようなものだった

「何ですかこれは?」

ライダーも不思議そうにしている、

「………………」

そして、何か怖い顔で『それ』と、こっちを見比べる遠坂

「遠坂、何そんな怖い顔してんだ?」

「衛宮君、アンタこれを何処で手に入れたの?」

俺の問いに対し、遠坂が魔術師の顔で聞き返してくる

「士郎、イリヤスフィールやリンの言うとおりです、これを一体何処で手に入れたのですか?」

同じ様な顔で、セイバーまで聞いてきた
でも、何処だったかなぁ?……………………

あぁ、そうだ

「五年位前かな、親父が死んだすぐ後でさ、変な爺さんが訪ねてきたんだよ、
そん時にその爺さんが持ってた、多分、魔術用の、『自分で光ってる』宝石みたいな剣が気になってさ、
その日の夜に投影しようとしたんだよ、
まぁ、出来上がったのは、形だけそっくりの変なガラスの塊みたいだったけど」

それが、今、イリヤが持ってるこれな訳だ

「一応なんかの魔術回路みたいなモンはあるみたいなんだけど、
使い方なんかわかんなかったし、土蔵の隅に転がしてたんだけど………………
遠坂、なんか本気で殺気放ってないか?」

顔がものすっごく怖いんだけど………………

「えぇ、放つわよ!
本気で殺意芽生えそうにもなるわよ!
『気になったから創ってみた』ですって?
そんな簡単に第二魔法の触媒を作れるなんて何者よアンタ?!!」

うわ、すごい剣幕

「遠坂、落ち着け、おい」

「落ち着けるかあああああああああ!!!!」

ドカアアアアアアアアアアアアアアアンッ!!

あ、爆発した

「いい? アンタは解ってないから言ってあげるけどね、
これは第二魔法って呼ばれる『平行世界干渉』の触媒で、
5人の『魔法使い』の一人にして、遠坂の大師父、『時の翁』
キシュア・ゼルレッチ・シュバインオーグの宝石剣、
通称『万華鏡(カレイドスコープ)』なの!
遠坂の魔術師は『これ』に辿り着く為に代を重ねてるって位の代物なのよ!
つ・ま・り!
私の家はこれを作るためだけに六代も家を重ねてきたの!!
それを『気になったから創ってみた』で済まされて、殺意持たない方がどうかしてるわよ!!」

「わかった、解ったからその左手をこっちに向けるな!
なんか無茶苦茶物騒なもんあるだろそれ!」

左腕にボンヤリと光が浮かんでます……
危険、危険、退避せよ、退避せよ

アレって多分、親父の言ってた魔術刻印ってヤツなんだろうな、
とか、変に冷静に思ってみたり………………

親父、俺、ここで遠坂に殺されそうです、ごめんなさい…………


35アーチャー視点

ほの暗い洞窟の中の開けた場所に立ち時を待つ、
そう間をおかず、衛宮士郎はここに来るだろう

「何の用だ、言峰?」

不意に現れた気配に振り返り問う

「ここに来ても、貴様の娯楽になる様なモノなど無いぞ?」

「ふむ、かなわぬと知りながら、過去の改変を求める君は、
十分に娯楽に値するのだがね?」

そのために聖杯を求めない辺りが君らしい、と言峰は俺にそう言った

「それこそ無意味だろう、それに、これはただの八つ当たりだ」

それにしても、この男もなかなか生き汚い、
すでに、心臓の代わりをしていたアンリマユの欠片を、桜に渡したと言うのに、まだ生きているのだから

「そう言えば、あの生き汚い老人は何処に行った?」

アサシンは吹き飛ばしたが、やつの姿を見た覚えが無い

「アレなら間桐桜が覚醒時に握りつぶしたが、
何か用があったのかね?」

なんだ、そうか

「いや、姿を見てないから気になっただけだ」

「ふむ、そうか」

それだけ言うと言峰は去っていった
俺は目をつぶり、言峰の存在を頭の中から追い出した


36士郎視点

夕食を食べた

この一服が終わったら、最後の戦いが始まる
だからこれは、俺たちにとって最後の晩餐になるだろう

食後、セイバーをつれて土蔵へ向かう、
遠坂は、あの、俺の創った宝石剣が、一応の効果を持っていることを確認すると、
自室で何かの準備を始めたらしい

「士郎、ここで一体何を始めるのです?」

「あぁ、鞘をな、君に返そうと思うんだ」

セイバーの問いに俺はそれを、なんでもないことのように告げた

「………………」

「………………」

沈黙が落ちる、
セイバーも俺もわかっている、ここに、彼女が帰ってくることは無いということを

遠坂は何も言わなかった、でも、あいつの知る、アーチャーと成った衛宮士郎も
最後の時をこうやって迎えたんだろうと思う、

「士郎、判っているのですか? 鞘を失ったら、今までのようには行かないと、
何時死んでしまうかも知れないということが」

確認するように、セイバーが言う
でもそれは、きっと当たり前のものだ、

「判ってるさ、でもみんな命がけなんだ、
…………それに、
セイバーにはきっと、独りでギルガメッシュの相手をしてもらうことになる、
その為にも、これは必要なことなんだ」

「…………士郎は、アーチャーではギルガメッシュに勝てないと思っているのですか?」

俺の答えに、どこか悲しみを含んで問い返す

「いや、あいつが勝つさ、
でも、アイツにとってギルガメッシュなんてどうでもいいんだ。
あの時、あの地下室に現れたあいつは、
まっすぐに俺を見てた、
あいつはきっと、俺以外のヤツはもうどうでもいいんだ
ギルガメッシュも、言峰も、聖杯の行方も、
………………俺は、あんなのが自分の理想だとは思わない
だから、戦ってあいつを超える。
自分の手で、理想の、その更に上へ手を伸ばす、
出来るって信じてる、
だからセイバー、君も、俺を信じてくれ」

セイバーは目を閉じて、少しの間俯いて、

「判りました、衛宮士郎、アルトリア=ペンドラゴンの名において、
貴方を信じ、サーヴァント・セイバーとして、貴方の心をお借りします」

真摯な顔で、そう答えた


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