錬剣の魔術使い・第四話 (M:士郎・凛 傾:シリアス


メッセージ一覧

1: 福岡博多 (2004/03/17 21:46:50)

 目の前で繰り広げられる、人の領域を凌駕した戦闘。青の槍兵と赤の弓兵、青の剣士と鉛色の狂戦士との戦いを連想させる激突。目が奪われる。心が囚われる。鍛え抜かれた鋼の肉体に、磨き上げられた鋼の技に、折れる事の無い鋼の意思に。




 錬剣の魔術使い・第四話




 ザッ!!

 何十回目かの打ち合いの後、二人は離れた。見た限り、互角のようである。双方共に新たな傷を負っていない。

 「ふむ、超越種たる私と正面から打ち合えるとは、師に似て非常識だな。」

 と、吸血鬼は無表情に話し始めた。士郎に、応える気はないようだ。だが、お構い無しに話し続ける。

 「しかも、わが毒に侵されながらも、動きに淀みが無い。驚嘆に値するな。」

 ―え、今、あいつなんて言った?

 見ると、士郎の左腕の外套が腐食して、そこから覗く皮膚が変色していた。

 「魔力を体に透す事で、毒の浸透を防いでいるようだが、戦闘しながらでは、効果は薄かろう。時間が経つほど、私が有利となる。後ろの足手纏いのおかげだな。私の攻撃を命中させてくれただけでなく、貴様の攻撃方向を限定をしてくれているのだからな。」

 思い出す。先ほど、自分達が暴れたせいで回避が遅れた事。そして、打ち合いの最中、士郎の背中しか見ていなかった事を。

 「魔法使いの弟子よ。貴様のような人間は、足手纏いがいれば容易く自滅していく。この好機、存分に活かさせて貰う。」

 あ、あったまきたーーー!!!私が足手纏いかどうか、たっぷり思い知らせてやる!!!

 と、私が動き出すより早く、ルヴィアゼリッタが動いていた。私達は中長距離の戦闘が主体だ。ルヴィアゼリッタは、士郎の背後から疾風のように離れ、私が使うのを躊躇う様な宝石を取り出し、

 「私が、足手纏いかどうか、その命をもって知りなさい!!!」

 「やはり足手纏いだな。」

 と、一瞬で肉迫されていた。男の爪がルヴィアゼリッタを貫こうとする。魔術の発動は、間に合わない!

 ザシュ!!

 だが、男の爪が、ルヴィアゼリッタを貫く事は無かった。男の視線の先には、ルヴィアゼリッタを脇に抱えた士郎。そして、

 「これで、詰みと言うところか。」

 士郎の脇腹には、新たな傷が刻まれていた。
 士郎が、男を警戒しながら私の方に来る。男から目を離さず、ルヴィアゼリッタを降ろした。士郎の呼吸が荒い。心なしか顔色も悪い気がする。当たり前だ。並大抵の毒じゃないんだろうから。

 「彼我の戦力差も計れずにあの程度の挑発に乗るとはな。協会の質も堕ちたものだ。」

 く、言い返したいけどそれもできない。今、間違い無く私達は、士郎の枷になってる。目の前の吸血鬼は、最低でも二百年ものってとこだろう。悔しいけど私達じゃ太刀打ちできない。
 と、士郎が一歩前に出る。瞳に宿る意思は、いまだ鋼のまま。

 「足掻くか。ならば、私も応えよう。」

 男の殺気が膨れ上がる。そして、士郎の命を砕かんとばかりに踏み込んだ。

 ―I am the bone of my sword―

 聞いた事の無い呪文。光を放つ魔術回路。そして、

 「是、射殺す百頭<ナインライヴス・ブレイドワークス>」

 ドドドドドドドドドーーーーーーーーー!!!!!!!!!

 岩塊のような剣が九つ、男に降り注ぐ。神代の神殿の一部であった岩塊は、一級の概念武装に匹敵した。

 「ガ、ガハァ!!!」

 その襲い来る死を、満身創痍になりながらも潜り抜ける男。だがしかし、

 「投影、開始」

 次の瞬間、男は自分が敗れた事を知った。士郎の手にあるのは、彼が最も信頼する剣。ギリシャ最大の英雄を七度殺しきった黄金の剣。「彼女」の剣。

 「勝利すべき黄金の剣<カリバーン>!!!」

 剣は容易く男を切り裂き、刀身から迸る光が跡形も無く肉体を消し去った。吸血鬼は、名を残す事無く闇に還った。


 圧倒的だった。私達が太刀打ちできない奴を、あっさり滅ぼした。さっきまでやり合ってたのは何だったんだろうと思うくらい。まあ、力を隠しておきたかったんだろう。私だけなら、ともかくルヴィアゼリッタもいることだし。ルヴィアゼリッタも呆気にとられてる。まあ、分からなくも無い。私の知る士郎と強さのレベルが違いすぎる。一体、ミス・ブルーの下でどういう修行してたんだろ?なんて考えてると、士郎がこっちにやってきて、

 「二人とも、怪我無いか?」

 と分かりきった事を聞いてきた。

 「怪我したの、あんただけでしょうが。それよりもあんたは、大丈夫―」

 なんて馬鹿な事を聞いてきたバカを嗜めようとしたら、そのバカが体を預けてきた。

 「ちょ、何してんのよ、士郎!?」

 「悪い、遠坂。ちょっと無理が祟ったみた―」

 言葉は最後まで続かず、士郎の体から力が抜ける。顔色が悪い。呼吸が浅く荒い。汗が噴き出している。このままじゃまずい!

 「ルヴィア、こいつを運ぶの手伝って!」

 「え?」

 まだ呆然としてる。一刻を争うってのに!

 「急いで!!」

 「え、ええ、解りましたわ。」

 脱力した士郎を二人で運ぶ。夜の街を駆ける。そんな私の心に満ちてるのは、

 死んだりしたら、絶対許さないんだから!!!

 怒りだった。



 鍵を開ける。薄暗い廊下を進む。居間に着いた。明かりを付けようとすると、

 「リン、何があったの!?」

 先に明かりが付き、心配そうな表情のイリヤと、後ろに控えるセラとリーズリットが居た。イリヤは、すぐに士郎を認めると、

 「シロウ!?け、怪我してる!!セラ、リズ、すぐに手当てして!!」

 「わかりました、お嬢様。」

 「了解。」

 セラとリーズリットが、士郎の手当てを始める。イリヤは私達をキッと睨んで、

 「なんでシロウが、こうなったか聞かせてもらうわよ!?」

 と親の仇に対する様な口調で、聞いてくる。要点だけを、明確に話す。

 「つまりシロウは、あなた達を庇って傷ついたってワケね。」

 治療を受ける士郎を見ながら、呟くように言う。責める響きは無い。ただ泣きそうな表情がイリヤの心情を表していた。。
 そんな表情を見ていられなくて、イリヤと同じように、士郎に目を向けて、

 心が凍った。

 ―傷疵痕キズきず―

 何かに斬られた傷。
 何かに貫かれた疵。
 何かに灼かれた痕。
 何かに撃たれたキズ。
 何かに侵されたきず。

 大小様々な傷。疵の上に痕があるのも珍しくない。首、胸、腹、背中、腕、いたる所が傷だらけだった。
 聖杯戦争で受けた傷は、聖剣の鞘の加護のおかげか跡は残らなかった。卒業までの一年間、シロウは傷を負う様な事はしていない。つまり、この傷は、すべて卒業後に負った事になる。「こちら側」に居る以上、傷を負う事は珍しくなど無い。同じくらい傷だらけの人間を見た事が無い訳ではない。だというのに、

 「そっか。リンは、初めて見るのよね。」

 何故、こんなにも胸が痛むのか。

 「帰って来るたんびにね、増えるの。私も、タイガも、サクラも、今度帰ってきたとき、増えてたら承知しないんだからって怒っても、増やして帰ってくるの。シロウ、ずるいんだよ。私達がいくら怒っても、笑いながら、「大丈夫。」て言うんだから。あんな笑い方されたら、怒れないのに。」

 口調は平坦なのに、声が震えている。涙が零れそうなのを、懸命に堪えているのが分かる。
 大切な人が傷付くことは誰だって辛い。だが、更に辛いのは、痛みを訴えてくれない事ではないだろうか。痛みを訴えてくれなければ、痛みを分かち合うことすらできない―

 「ホント、シロウってしょうがないよね。し、心配ばっか、か、かけて、ゆ、ゆるさ、ない、か、ら。」

 イリヤを抱きしめる。顔を埋めて、肩を震わせるイリヤ。優しく髪を梳いてやる。
 士郎を見る。傷の手当ては終わり、今は解毒作業に入っているようだ。セラとリーズリットの手際は淀みなく的確だ。慣れているのかもしれない。この自分を顧みないバカの治療に。ルヴィアゼリッタを遠坂邸に入れる訳にはいかないと、魔術師の思考で、衛宮邸に進路を取ったのは正解だったようだ。この分なら、士郎は、大丈夫だろうと安堵する。
 だが、安堵と共に怒りがこみ上げて来た。自分を顧みない士郎もそうだが、士郎が傷付いていながら、かすり傷一つ負ってない自分に腹が立った。聖杯戦争の時は、肩を並べて戦ったのに。今は、ただ護られただけだった。同じ場所に立ててないという事実に、途方もなく腹が立った。士郎と対等じゃないことが、とにかく嫌だった。

 「お嬢様、シロウの治療終わりました。解毒も成功しました。とりあえず、問題はありません。このまま、寝室に運びます。」

 「シロウ、重い。」

 セラとリーズリットに運ばれる士郎を見送る。落ち着いたのか、イリヤが離れて、

 「リン、泊まっていったら?部屋用意させるから。あなたもいかかしら、ミス・エーデルフェルト?」

 「そうですわね。あの死徒に仲間がいて、襲ってこないとも限りませんもの。お言葉甘えさせていただくわ。」

 セラとリーズリットが戻ってくる。イリヤに言われ、離れの部屋を用意する。私は慣れ親しんだ部屋だが、ルヴィアゼリッタは露骨に嫌な顔をした。狭いと言いたいんだろうが、状況が状況なだけに渋々ながら部屋に入っていった。

 「士郎が、起きたらとっちめてやらなきゃね。」

 そんなことする資格はないはずだが、士郎が悪いったら悪いと、論理もへったくれもない結論で、ムリヤリ自分を納得させる。
 ベッドに入り、何か異常があれば、すぐに覚醒できるよう自分をコントロールしながら眠りに付いた。





 あとがき:勢いでここまでやってもうたーーー!!!バトル、生むずーーー!!!生が気にイっている福岡博多です。士郎強すぎかにゃ〜?ま、正義の味方は強くなきゃあかんと思うわけですよ。次回は士郎の強さの秘密に迫ります。それとこの場を借りて、アン・ちょびさんありがとう。期待に応えられるようガムバリマス。何気に凛視点多いな、俺。士郎視点、ルヴィア視点も勉強じゃ〜!!!生で。
 

 

2: イオン結合 (2004/03/18 21:14:04)

展開が気になりますね、5話期待してます。


記事一覧へ戻る(I)