想い重ねて(藤ねえのお見合い、その2)


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1: sasahara (2004/03/17 10:30:29)

「シロウ、今日は学校で何かあったのですか?」
 その日、藤ねえは会議だか打ち合わせだかで遅くなると部活帰りの桜から言伝てがあったので、俺、遠坂、セイバー、桜の面子で夕食を囲んでいると、食事も半ばという頃、セイバーに突然そんなことを聞かれた。
「え? セイバー、どうして? なんか味付けおかしかったか?」
「いえ、別に味はいつものとおりです。美味しくできている」
「そう。なら、なんで?」
「シロウの料理はいつもシロウの心がこもっている。だから益々美味しく感じられる」
「あ、ありがとう。」
 セイバーの言葉は彼女の純粋な心のあり方を映す鏡のごとく、いつも飾り気がなく率直で、だからこそ直接心に響いてくる。
「だが、今日の食事はこう言ってはシロウに申し訳ないが、心がこもっているとは言い難い。正直な話、全く心ここにあらず、といった感想を抱いてしまう。」
 セイバーの言葉は彼女の純粋な心のあり方を映す鏡のごとく、いつも飾り気がなく率直で、だからこそ直接心に響いてくる。
「シロウに限って、こんなことは珍しい。少なくとも私が覚えている限りでは、初めてのことです。朝も普通でした。ゆえに、今日学校ではよほどのことがあったに違いないと推測しました。」
 でも、今は、その直接さが胸の痛くて哀しいところに響いてくるんだ。
「だから問うのです、シロウ今日学校で何がありました?」
「え? いや、別に何もないよ、なあ、遠坂」
 と、普通を装って遠坂に聞いてみる。
「んー、別に何もなかったわね、……少なくとも表面上は」
 士郎が思ったよりもシスコンだったってこと以外はね、と誰にも聞こえないくらいの声で遠坂は呟いた。いやマザコンなのかも、とさらに小声で付け加えた。
 俺は聞こえていたが、無視した。
 遠坂は屋上で目覚めて一緒に帰ってからは、私不機嫌です、という顔をずっと通している。今も無表情なまま、俺の方を見ずに喋っていたりする。手の味噌汁椀から、ズズと音を立てて味噌汁をすすると、多少味付けが濃かったのか遠坂は顔をしかめた。
「だってさ。……セイバーの気のせいじゃないかな」
「そうですか」
 納得いかない様子だったが、それ以上、追及する材料もないのかセイバーはそう言って矛を収めてくれた。
「せ、先輩、そういえば、藤村先生遅いですね」
 食卓のどことなくギクシャクとした雰囲気に気を使ったのか、桜は話題を変えようとしたらしい。急にそんなことを言ってきた。
 でも、それこそ今の衛宮士郎にとって、最も触れて欲しくないことだったわけで。
 食卓の向こうで遠坂がアチャーと小声を漏らして顔に手を当てたかと思うと、桜に向かって今その話はダメよ、とでもいう意味なのか、手を振っているのが見える。
 桜は、何気なく発した自分の一言が思いがけない効果をもっていたことに俺の顔をみて気が付いたらしい。え?え?、と首をキョロキョロ左右に振って慌てている。
 と、そんなところへ。
「あーあー、よいこらせっと。おねえちゃんは、今日も仕事で疲れちゃったよー。士郎ー、今日のご飯は何かなー。手を抜いてたりなんかしたらおねえちゃん許さないんだからねー」
 と、いつもの虎模様の服に身を包んだ藤ねえがいつも通りのん気なことを言いながらやってくるんだから、噂をすれば影って諺は本当だったんだな、と俺は思った。

 結局、夕食はなんだか妙な雰囲気のまま終わった。
 遠坂は無表情で不機嫌なまま。
 セイバーは何も言うべきことが思いつかないのか、それとも今は何も言いたくないのか、やはり表情を浮かべずに無言で早く食事を終えると静かに食後のお茶を啜っていた。
 桜は、慣れない気まずい雰囲気に食事の間中ずっとオロオロしていた。
 藤ねえは、そんな周りのことなんかちっとも構わずに、いつも通りおちゃらけたことを言っては自分で笑ってたりなんかして。
 そんなことは藤ねえにしてみればいつものことなのに、今日はなぜだかそんな藤ねえの脳天気さに俺は腹が立って腹が立って仕方がなかった。
 …わけなんかない。わけなんか何もないのに。
 俺は俺でムッツリしたまま食事を終えると、皆の皿を片付けて台所へと持っていき、黙々とそれを洗い始めた。
 すると、後ろから、藤ねえの声で、
「ね、遠坂さん、士郎なんだか機嫌悪いみたいだけど、まさかアノ日?」
 なんて台詞が聞こえてきた。
 思わず洗っていた皿に力が入って1枚割ってしまった。パリン。
 幸い、皿の割れた音は、遠坂の「そんなわけないでしょーが!!」というツッコミの音に紛れて向こうには聞こえていないようだった。
 音を立てないように静かに皿を片付けていると、
「じゃ、アノ日なのは、遠坂さん? なんか遠坂さんもすんごく虫の居所が悪いって感じなのだー。あ、セイバーちゃんは、まだお赤飯炊いてなさそうだから違うよねー」
 という声が聞こえてきた気もするが、その後の阿鼻叫喚の騒ぎと一緒できっと気のせいだろうと思う。
「タイガ! それは失礼です。私とて、最早立派な淑女、○潮くらい迎えています!」
 セイバー、立派な淑女は、そんな恥ずかしいことを大声で言わないと思うぞ。初○だなんて、はしたない。お前仮にも貴族の出だろうが。
「え? うそ? じゃ、セイバーちゃん、タ○ポン使っているの?」
「そ、そのようなものは…」
「じゃ、ナ○キン派なんだ? 桜ちゃんと一緒?」
「先生、そ、そういう話は…」
「遠坂さんは、タン○ン派だなんだよねー」
「な、何で先生が知ってるんですか!」
「え、うそテキトーに言ったのに、まさか当たっちゃったの?」
「うぅ……」
 遠坂、例によって例の如く肝心なところで自爆。
「遠坂さんって、おっとなー。あのさー、私ナプ○ン派だからわかんないんだけどさー、やっぱ、あれって初めてのときは、ちょっぴし痛いの?」
「し、知りません!」
「桜ちゃんは、わかる?」
「あ、あの、わ、私は、そういうことはよく……」
「桜ちゃん、結構慣れてそうだけど」
「な、なんでですか」
「…フッフッフ、桜ちゃんの秘密、その一! 桜ちゃんは、実は…」
「わー、わー、わー!!! な、何を言うつもりなんですか、藤村先生!」
「桜、声が大きい」
「そっか、でも結局タンポ○派は遠坂さんだけかー」
 すると何か考え込む仕草をしたかと思うと、突然閃いたか、納得の雄叫びを上げようとする虎。
「…あぁーーーー!! そうか! 遠坂さんて、既にけ…」
「先生、それ以上言ったら殺します」
 洒落じゃなくボクサー顔負けのスピードで右フックを藤ねえの顔面に叩き込まんとする遠坂。
「あははー、やだなー、ジョークじゃない、ジョーク。ちょっぴりイタリアンなウィットの効いたアメリカンジョーク」
「タイガのは単なる下ネタではないですか」
 割れた皿に血がにじんでいたのは、破片で指を切ってしまったからであって、他の部位から出た血ではなかったと思う。
 藤ねえ、仮にも聖職者。もうちょっと自覚をもて。
 ていうか、男の前で、そういう生々しい話を大声でするのはどうかと思うぞ。
 たく、そんなんだからいつまで経っても嫁の貰い手がないんだぞ。
 ……って、そうか藤ねえ、見合いするんだったけ。
 パリン。なぜか俺の手の中で皿がもう1枚割れた。
 全く。今日は厄日だ。


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