家に戻った私は、早速、ルヴィアゼリッタに連絡を取った。時間と場所を伝え、電話を切る。そして、先程まで一緒に居た士郎の事を考える。容姿は、ミス・ブルーの弟子の情報と一致している。間違いなく士郎がそうなのだろう。士郎の性格からして、協会に恭順を示さないだろう。となると、私も、ルヴィアゼリッタも魔術師だ。どういう展開になるか、想像は容易い。事を丸く治める良い方法ないかしら。ここで、私は一つ、ある事が頭から抜けている事に遂に気付かなかった。ミス・ブルーの弟子は、ミス・ブルーに依頼せざるを得なかった荒事を解決する実力の持ち主である事を。
錬剣の魔術使い・第三話
冬木の冬は暖かい方だ。とはいえ、深夜はやはり寒い。特に新都の中心部に位置する冬木中央公園は、その公園全体を包む万物を拒むような雰囲気のためか、余計に寒々しく感じてしまう。そんな昼でも人を寄せ付けない深夜の公園、その中央の広場に、二つの人影がある。五年前には無かった常夜塔の明かりの下、赤い外套を纏った遠坂凛と白い外套を纏ったルヴィアゼリッタ・エーデルフェルトは、一人の男を待っていた。
「本当に、『彼』はここにいらっしゃるのかしら、ミス・トオサカ?」
「ええ、間違い無く、ミス・エーデルフェルト。そろそろ約束の刻限ですし、もう間もなく、いらっしゃると思いますわ。」
と、彼女達が敷いた人払いの結界を上回るほどの重圧を湛える空気が、二人の間に流れていた。ちなみに二人が揃うことは、この異空間の発生を意味しており、時計塔でも恐れられていた。と、
「あの〜。俺、もう帰っても良い?」
着てすぐに、半泣きの声で青い外套を纏った衛宮士郎は、そんな事をのたまった。
俺の前にいるのは、二人の魔術師。二人とも凄い魔力の持ち主である事が分かる。その内の友人の方が声を掛けてきた。
「待ってたわ、衛宮君。こちらはミス・エーデルフェルト、倫敦の同期よ。ミス・エーデルフェルト、彼は、私の友人でミス・ブルーの弟子、衛宮士郎です。」
む、やっぱりばれてるか。さてどうするか。
「はじめまして、ミスタ・エミヤ。あなたのご高名、聞き及んでおります。お会いできて光栄ですわ。」
と、エーデルフェルトさんが、上品に挨拶してきた。うん、挨拶には、挨拶で返さねば。
「こちらこそ、エーデルフェルトさん。あなたと知り合えて、俺も嬉しいです。」
なんか、遠坂の目が吊り上った気がする。なんか間違えただろうか?とにかく話題を変えて逃げなければ、ヤヴァイ。
「で、遠坂、用件は?寒いから、早く帰りたいんだけど。」
「いきなりね。ま、回りくどいのは、嫌いだから、こちらも単刀直入に行くわ。衛宮君、協会に従いなさい。」
「ホントに、単刀直入だな、遠坂。」
「ええ、言ったでしょう。で、返答は?」
なんて、俺の答えなんてお見通しよと言わんばかりの表情で聞いてくる。
空っぽで歪な自分を満たす理想。その理想を叶える為に、置き去りにしてきたもののためにも、衛宮士郎は、自分を曲げられない。だから、答えは決まっている。
「断る。協会の下じゃ、俺は正義の味方になれないから。」
予想通りの返答。それが嬉しくもあり、悲しくもある。私一人なら、士郎に貸し十位で見逃したんだが。こいつはそういう訳にもいかないでしょうし。と、隣の奴に視線を向けた瞬間、
ガガガガガガガガガガガガガガーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!!!!!!
と轟音と共に、士郎の立っていた場所が土煙に包まれた。ルヴィアゼリッタは、右腕の魔術刻印を輝かせ、指先を士郎の居た場所に向けていた。
「な、あ、あんた、いきなりなにしてんのよ!!士郎を殺す気!?」
「あら、ミス・トオサカ、何をいきり立ってらっしゃるの?協会に従わない以上、適切な処置でしょう。洗脳と言った手間の掛かる手段より、こうするのが一番早いでしょう。それに死なない程度には、加減してますわよ。まあ、廃人でしょうけど。」
なんて事を、微笑みながら言ってきた。何が加減したよ!あんたのガンドは、フィンの一撃クラスでしょうが!そんなのあれだけ喰らったら、即死もんよ!っっっって
「し、士郎!!!!」
と魔力を込めた宝石を取り出して、慌てて駆け出そうとした私を、
「あっぶな〜。思いっ切りの良いとこなんか、遠坂に似てるな、エーデルフェルトさんって。」
と暢気な声が押し留めた。
「し、士郎!?あ、あんた無事なの!?」
着弾点から、30mほど離れた所に立つ士郎に問い掛ける。
「ああ、何とか。ってどわわわわわ!?」
とルヴィアゼリッタがまたガンドを撃ち始める。表情は先程の余裕あるものから、感情を消した魔術師のものになっている。
「うわわわわ!ちょ、ちょ、と、遠坂、何とかしてくれ!」
と情け無い台詞とは裏腹に、ガトリング砲のようなガンドの雨を危なげ無くかわしていく。それどころか間合いを詰め、ルヴィアゼリッタの背後に回り、
「落ち着いて、エーデルフェルトさん、とにかく、話し合いによる解決をーーー」
と、ルヴアゼリッタの回し蹴りを避けながら、挑発にしかならない事を言っていた。ルヴィアゼリッタの顔に怒りが浮かんでいる。魔術刻印の輝きも増した。まずいと判断したのか、士郎は、
「と、遠坂、彼女を止めてくれ。と、等価交換するから。と、取引をしよう。」
士郎が、等価交換ねえ。まあ、ミス・ブルーの弟子なんだし、なんか珍しいもの持ってるのかも。期待はできないけど。
「ミス・エーデルフェルト、彼は、取引したいそうですわ。ミス・ブルーの弟子でもありますし、何かあなたの目に叶うものをお持ちかもしれませんよ?」
と、口調とは異なる力を込めて、ルヴィアゼリッタに呼び掛ける。ルヴィアゼリッタは、こちらを睨んだ後、ゆっくりと体の力を抜いていった。話を聞く気はあるようだ。それを確認して、士郎に向き直り、
「それで、何くれるの、士郎?」
「ストレートだな。ま、遠坂らしいけど。その前に確認。ちゃんと見逃してくれるんだよな?」
「物次第よ。で?」
「分かった。あと、遠さかの魔術の祖って、「宝石」のゼルレッチだったよな?」
「そうだけど。ミス・エーデルフェルトもそうだし。」
「そうなのか?それなら、エーデルフェルトさんにも納得してもらえるかな。」
「それで、何くれるの?」
「宝石剣、投影するから、それで頼む。」
なんて事も無げに言ってくれた。耳を疑った。士郎が宇宙の言語を喋ったんじゃないかと錯覚した。
「フ、フフフフフフフフフフ。」
と見れば、怖気の走る笑みを浮かべ、魔術刻印の輝きが今までの比じゃないルヴィアゼリッタが、そこに居た。
「フフフフフフ。我が家の悲願を投影ですか。こんな屈辱、私生まれて初めてですわ。ミスタ・エミヤ。ルヴィアゼリッタ・エーデルフェルトの名に賭けてあなたに死を与えて差し上げますわ。」
怒ってる。まあ、当然よね。私も士郎の事知らなかったら、間違い無く怒っていただろう。ルヴィアゼリッタの怒った姿が、逆に私を落ち着かせた。
「ミス・エーデルフェルト、落ち着いて。彼は、投影できると言っている以上、間違い無く、それは実現しますわ。」
「ふざけないで、ミス・トオサカ。そのような事有り得る筈が無いでしょう。それはあなたも良くご存知のはず。」
まあ、確かに。第二魔法に具現たる宝石剣を投影するなんて、奇跡の中の奇跡だろう。だが、私は士郎の投影の出鱈目さを知っているし、何より、士郎は出来もしない事を出来るなんていうう事が出来無い。なら、士郎は、宝石剣を投影できるのだろう。
「まあ、物は試しと言いますでしょう、ミス・エーでルフェルト。試した後、納得行かなければ、士郎を煮るなり焼くなりすればよろしいでしょう。」
「おいおい、他人事だと思って、変な事言うなよ、遠坂。」
「士郎は黙ってて。で、どうします、ミス・エーデルフェルト?」
「………。分かりました。ここは、ミス・トオサカの顔を立てる事にしますわ。ですが、もしもの時は、」
「ええ、その時は、私もお手伝いいたしますわ、ミス・エーデルフェルト。」
「なんか、やる気がすっごく無くなるんだけど。」
「士郎、私の期待に応えてね♪でないと、フフフフフフフフフフフ♪」
「ガンバリマス!!!」
士郎は、自然体で目を閉じる。周りの空間に緊張が走る。この感じ覚えがある。バーサーカー戦で、士郎が、「勝利すべき黄金の剣<カリバーン>」を投影した時と同じだった。
目を閉じ、自分の内面世界へと、意識を飛ばす。そして、あのはっちゃけ爺さんの秘奥である短剣を検索する。検索完了。
そして、二十七の撃鉄のイメージ。その全てが落ちる。
「投影、開始」
呪文と共に、この身はただ一つの奇跡を成し遂げる回路となる
―創造の理念を鑑定し
―基本となる骨子を想定し
―構成された材質を複製し
―製作に及ぶ技術を模倣し
―成長に至る経験に共感し
―蓄積された年月を再現し
―あらゆる工程を凌駕しつくし
ここに幻想を結び剣と成す―
士郎の体に浮かび上がる、二十七本の光を放つ魔術回路。魔術刻印ならまだしも、魔術回路が、あんな風になるなんて、聞いた事が無い!なんてデタラメ!
光が治まった時、士郎の手には、宝石を刀身に見立てた短剣が握られていた。
「ハア、ハア、ハア。本物には及びも着かない粗悪品だけど。一応、老師には合格点貰ってるから、遠坂達の役に立つと思うけど。」
投影された宝石剣の複製を手に取る。
凄い。確かに粗悪品だけど、解る。これ、第二魔法の真似事くらいならできちゃう。びっくりなんてものじゃない。ルヴィアゼリッタにも渡して、確認させる。彼女の顔色が変わる。それはそうだ。私達の家系の悲願に、私達が届く大きな足がかりなんだから。反則な位に。
「士郎、あんたホントに、人間?一回調べさせて欲しいんだけど?」
「勘弁して―」
と、いきなり士郎が、私とルヴィアゼリッタを抱えようとする。
「ちょ、士郎、い、いきなり何?」
「ぶ、無礼な!お放しなさい!」
「大人しくしろ!!!」
と、私達の抵抗で一瞬だけそこから飛び退くのが遅れた。
「あ」
と、ルヴィアゼリッタの手から宝石剣が滑り落ちる。そして私達がそこから離れた瞬間、何かが、その空間を浸食した。地面は腐食し、そこに残された宝石剣が溶解していく。
「な、何が起きたの?」
「わ、分かりませんわ。」
私達は呆然としている。すると、士郎は、常夜塔の向こう側の暗がりに、鷹のような鋭い視線を向け、
「何か用か、吸血鬼?」
と硬い声を出していた。
その声に応えるように暗がりから、男が姿を現す。
「気付いていたか、魔法使いの弟子よ。」
その男は、赤い眼を細め、士郎を観察するように見ていた。
「で、何の用だ。こそこそ監視するのが、あんたの役目じゃないのか?」
全身に力を漲らせながら、言葉を発する士郎。
「確かに私の任務は、監視だったが。」
男もそれに応えるように、殺気を放ち始める。
「宝石剣を投影、複製するような危険な人間を野放しにはできんのでなあ!!!」
私達を放し、弾丸のように前に出る士郎。ほぼ同じスピードでこちらに向かってくる男。
「投影、開始」
次の瞬間、見覚えのある夫婦剣を手にした士郎と、人ならざる気配を持つ男が激突した。
あとがき;バトルってムツカシイ。何とか書こうとしたけど断念しちまいました。修行が足りねえーーー。次回、ガンバルッス。士郎が、青い外套なのは、「彼」に対する反発、「彼女」のイメージと、師匠の趣味?に因るものです。つまり、「彼」にはなりません。無茶苦茶な設定やけど、生暖かく見守っておくんなまし。批判、生怖えー。生ってサイコー。
次回はバトルですか、頑張ってください。
構成 9点
錬度 9点
文才 9点
展開 10点
期待 10点
誤字がなければもっといったかな。
でもお見事 先を待ちます
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マナー違反:−10点。赤文字見ようよ。