Fate/OverDebt (傾:シリアス、クロスオーバー)


メッセージ一覧

1: スカイライン (2004/03/16 18:30:57)[naoto-o at ca.thn.ne.jp]


1−

 音が響いていた。それは銃声であり、爆発音であり、断末魔の悲鳴だった。
それらを一言で表すなら破壊の音。大都市倫敦の郊外で響くにはあまりに場違い
だったが、それは止まることなく続いている。
 火を吹き上げ燃える車、倉庫、そして人。
 地に伏すのは持ち手を失った銃器に瓦礫、そして……かつて人であったもの。
 
「オラオラオラオラ、オラァ!」

 獣のごとき咆哮を上げて、男が一人疾走する。老人のごとき白髪、目をベルトの
ようなもので被い、身体に纏うはツギハギだらけのコート。
 何より特徴的なのは両手に一振りづつ握る武器だった。
 1m近い細身の剣。鍔本はハンドガンになっているという、武器の正史からみれば
外道の装備。男はこれこそ最強とばかりに、己に銃を向ける幾つもの影を次々と切り伏せ、
打ち倒し続ける。
 だが、この男すらももう一人に比べれば真っ当といえてしまう。
 豪奢に逆立てた金髪、真っ赤に映えるライダースーツ。これらはまだいい。
この破壊の場にふさわしいとは思えないいでたちだが、まだいい。
 かき鳴らされるギターの音と共に、青白い雷が四方八方へ放たれる。そう、
この男の武器は、エレキギターだった。ボディの下の取り付けられている刃で
切り裂くならまだこれを武器と呼ぶことができるだろう。だが、男がシャウト
しながらギターを演奏するたびに紫電が雨霰と周囲に降り注ぐこの現象を、
出来の悪いジョークかはたまた悪夢かと疑いたくなるが
それは現実として起こっていた。
 一体どれほどの敵がいて、どれほど破壊しつづけたのだろう?
 二人を除いて動くものはほぼ皆無に近く、周囲は戦争でもあったかのような
ありさまに成り果てていた。

「これで終りっつーことは……ここもハズレか? クソッ!」

 眼帯の男が、八つ当たりとばかりに足元に転がっていたそれを蹴り上げた。
それは何度か地面をバウンドし、水風船がはぜるように青白い液体を撒き散らせた。

「まあいいじゃないか。これでまた一つ流通ルートを潰せたわけなんだし」
「元を叩かねぇとイタチごっこだろうが!」

 なだめられても男の怒りは収まる様子を見せない。破壊は終わった。
この場に響くのは、この奇妙な二人組みの声と燃え盛る炎の音のみ……
エンジンのイグニッション音が鳴るまでは。

「なんだぁ?」
「まだいたのか!?」

 二人を照らす強烈なハイライト。光源は、燃える倉庫の中。
勢いよく飛びでるトラックに二人は反応できない。
なすすべもなく跳ね飛ばされる。
 速度が出ていなかったことが幸いしたのか、すぐさま起き上がると、トラックへ
向けて銃弾と紫電を飛ばす。が、片方は荷台を傷つけるだけに止まり、
雷光は届く事がかなわなかった。

『やばいよ! 今のトラックから反応があった!』

 無線らしき雑音混じりの声が、二人の耳朶を打っつ。変声期前の
少年の声だ。

「五月蝿え! ぎゃーぎゃー喚くな」
「けどどうする? このまま逃がすのは流石に不味い」
「んなこといったって、足がなきゃ追いつけねえだろうが」

 金髪の男はあたりを一瞥する。周りにある車両は軒並み焦げ、
あるいは炎上している。弾丸、高圧電流、斬撃。彼らの付けた
破壊の残滓がどの車にも存在した。

「ちょっとハデにフィーバーしすぎたか……お?」
「どうした」
「エンジン音……単車か?」

 光が一つ、爆音を轟かせて二人に接近していた。かなりの排気量が
あるのだろう、光点はあっという間に大きくなる。

「生き残りか?」

 金髪の男の指が、弦にかかる。鼻をひくつかせて、眼帯の男が
それを押し止める。

「やめろ。ヤツだ」
「あ?」

 バイクが二人の脇を通り過ぎる。ハーレーの巨体にまたがるのは、
二人の知る人物だった。

「……ダンナ、どっからアレ拾ってきたんだ?」
「知るか。オイ、聞こえてるかメスガキ。
ヤツが追いかけたぞ。俺らを拾いにこい」
『わかりました。すぐ行きます』

 無線から少女らしき声が響く。その後ろで少年がなにやら
怒鳴り散らしているが、それを聞き取ろうとする者はいない。
 金髪の男はトラックとハーレーのむかった方向へ視線を向ける。

「あっちは街の中心……一般人を巻き込まなければいいが」


 −1

 街頭に照らされた道を、とぼとぼと歩く。移動手段はすべて
本日の営業を終えてしまった。いくら残業代がもらえるからといって
働きすぎるのも考え物だとちょっと反省する。でも、懐にしっかりと
しまってあるものの厚みを考えると、すぐに忘れてしまいそう。
 厚い、厚いのだ。ルヴィアは毎回給料を手渡ししてくれる。
『シロウ、今月の給金です。いつもありがとう』なんて、
とても綺麗な笑顔で。そのたびにちょっとクラクラしてしまうのだけれど……
う、浮気じゃないぞ、遠坂、と言い訳してみる。
 ともかく、給料が入った。これでまたしばらく二人に美味しいものを
食べさせてやれる、と思うと家まで歩いて戻ることも楽しくなってくる。
足取りはとても軽かった。

 衛宮士郎は魔術協会の総本山たる時計塔に通う半人前の魔術師。
一流の魔術師にして……えーっと、その、こ、恋人……の!
遠坂凜にくっついて一年前からこの倫敦で暮らしている。
 工房兼家であるコンパートメントに住むのは三人。俺、遠坂、
そして遠坂の使い魔として現界している剣の英霊、セイバー。
時々ケンカもしたりするが、三人で仲良くたのしくやっている。
ここでの暮らしは実に充実したものだ。魔術を学び、生活費を稼ぎ、
……時々時計塔の魔術師がやらかす悪事を(こっそり)ぶっ壊す。
 あの聖杯戦争から二年。俺たちはこんな感じで日々を過ごしている。

 信号が赤だったので足を止める。車なんて全然走ってないけれど、
やっぱりルールは守るべきだ、うん。……間抜けかもしれないけれど。
 と、そこに車のエンジン音が響いてきた。二つ先のブロックから、
すごい勢いでトラックが曲がってくる。
 スピードを出して直進してくるトラック。アレはどう見ても違反だと
思うが、深夜だしなあ……。
 そんなことを考えているうちにトラックはすぐそこまで迫っていた。
速度はそのままなので多分直進するんだろうと思っていたら、車体が
傾いた。案の定、曲がりきれずにタイヤを滑らせ……俺のいる位置に
突っ込んでくる!?

「だぁ!」

 ”トリガー”を引いて魔術回路を起動。足を「強化」し身を投げ出すように
飛びのく。遠坂に弟子入りして二年、セイバーに鍛えられる事やっぱり二年。
さまざまな鍛錬が俺を助けた。トラックは俺のいたところを通過し、ショー
ウィンドウに突っ込んだ。深夜の街に、激突音が響く。

「……う、わー。やっちゃった」

 起き上がって様子を見る。トラックは横転し、スチール製の荷台が酷く
歪んでいる。扉も開いてしまって、中身がこぼれ出ていた。
 何気なくそれを確認した。薬品などを入れるアンプルに似た透明なガラス
瓶。人差し指ほどのそれに入っているのは、青白い液体。
 
 
 それを直視したとき、
 
 
 不意に
 
 
 あの、聖杯戦争の最後の地
 
 
 柳洞寺で感じた
 
 
 禍禍しい何かを思い出してしまった。
 
 
「なんだ、これ……」

 数本、手にとってみる。何の薬品かは分らない。
だが、これはおかしい。変だ。真っ当じゃない。
ただの直感でしかな。理由なんて思い浮かばない。
でも、それでもこれは許す事のできないものだった。
 音と共にトラックが揺れた。運転席のドアに衝撃が
走っている。

「そうだ……大丈夫ですかー!」

 アンプルをポケットに突っ込んで声をかける。
もう一度ドアに衝撃が走り、撥ね飛ぶように開いた。
手が、車のフレームにかかる。
 アンプルと同じ色の、白い手だった。

「え……?」

 同じ感覚。あの青白い液体を見たときと同じ禍禍しい
気配。身体を外に出した。背広を身に纏った、一見
サラリーマンのような容姿。全身が青白くなければ。

「見タナ」

 男とも女とも分らない、聞き取り辛い声。それは
問いかけではなく、確認だったのだろう。
 無造作に、俺に鉄の塊のようなそれを向けてきた。
 トラックを避けたように、横っ飛びで今いた位置から
離れる。銃声と共にアスファルトが削れて行く。

「なんだー!?」

 わけがわからない。分る事はただ一つ。アイツは俺を
殺そうとしている――!
 起き上がり、駆け抜ける。俺のあとを、弾が空気を割く
音が追いかけてくる!
 ギリギリで建物の影に隠れることが出来た。銃弾が
コンクリートを削っていく。
 深呼吸を一回。さっき見たあの銃の構造を解析する。
これこそ俺のもつ数少ない魔術の一つ。
 ……AKR74 サブマシンガン。大きく、重さもかなり
あるから取り回しが悪いはずなのに、アイツは片手でそれを
扱っている。
 どうしたものか。衛宮士郎に飛び道具は……まあ、無い事は
無いのだが、使うべきだろうか? 体力には自信がある。
逃げてしまえば……。
 そんな迷いを頭絵に浮かべていたとき、不意にサイレンが
耳に飛び込んできた。警察(ヤード)!?
不味い!
 1ブロック先の角を曲がって姿をあらわすパトカー。
2mほど進んだだろうか? ボンネットに小さな円い跡が
幾つも刻まれた。
 コントロールを失い、蛇行するパトカー。トラックとは
逆の角に突っ込んで、止まった。

 俺の思考は真っ白になった。


 I am the bone of my sword.


 トレース オン
「 投影  開始 」

 建物の影から飛び出す。27の魔力回路を使い、
腕を、脚を、目を、戦闘に必要なあらゆるものを強化し、
両手にアイツの剣、黒い刀身の干将、そして白い刀身の莫耶を
作り出す。
 銃弾が俺に降り注ぐ。服は強化済み。貫通などしない。
ただ痛いだけだ。剣を顔の前で交差させ、一気に距離を詰める。
 俺のいた場所からトラックまで10m、二歩で荷台まで近づき、
三歩目で跳躍。銃口を向けてくる敵に対して、懐から一枚の紙を
取り出す。すでに強化済みだったそれを投擲。深深と腕に刺さる、
紙幣。その顔に苦痛は無い。痛みそのものが無いのか。しかし
隙は出来た。俺が懐に飛び込むには十分だった。
 車体を歪ませて着地。喉元に莫耶を突きつける。

「何故撃った」

 相手の目を睨みつける。あの液体そのものの色をした、
眼球も何も無い、水溜りのような目。

「不幸ナ事故ダッタ」

 口を、三日月のような形に歪め、笑いながらいった。

「事故、だと?」
「アア、事故ダトモ。コンナ所ヲぱとろーるシテイナケレバ、
アアハ成ラナカタモノヲ」
「事故を起せば警察が介入する。おまけに発砲だ。
逃げ遂せると思っているのか」
「警察ニモ”シード”ニ溺レル者ハイル」

 シード? ……このアンプルのことか。

「我々ニ近ヅク者ニハ死アルノミ。……貴様モソウナル」

 胸に、銃撃など比べ物にならない衝撃を受けた。

「がッ――!」

 なすすべもなく吹っ飛ばされる。転げ落ち、アスファルトに
叩きつけられる。
 殺気。痛む身体を無理やり駆使し芋虫のように転がる。
青白い男がそこへ左手の一撃を入れる。さらに転がって
立ち上がる。

「……道路に穴をあけた? どんな腕だよ、それ」
「コレガ”シード”ノ力ダ」

 左手を地面から引き抜き、さらに自分の腕に刺さっていた
紙幣も抉り出した。傷がふさがっていく。魔術じゃない。
 対峙する俺と青白い男。そこに乗用車が4台、滑り込んでくる。
降り立つのは、目の前にいる男と変わらぬ、青白い人影。
 ……何人集まろうとかまわない。こいつらが人を平気で撃つような
連中だというのなら。

「行くぞ、悪党ども」

 正義の味方を目指す衛宮士郎は、見過ごすわけにはいかないのだから。

 俺は、目の前の男に挑みかかった。
 
 
 ≪続く≫



なかがき1
 はじめまして。スカイラインというものです。
 ……やっちゃいました。理由はただ、やりたかったから。
まだクリアーしてないのに……。
 遅筆ですが、どうぞお付き合いください。

2: スカイライン (2004/03/19 20:28:37)[naoto-o at ca.thn.ne.jp]

2−

 街灯の明りに薄暗く照らされた道を、ハーレーが疾走する。
それを駆るのは黒尽くめにして長身の男。年齢は……不明。
年老いているのかもしれないし、意外に若いのかもしれない。
 男の顔には大きな傷があった。額から頬まで、左眼をえぐるように。
古傷なのだろう、くすんだ色をしていた。二の腕には鎖がまかれており、
棺桶に見まごうような鉄の塊がぶら下がっていた。
 ここまで特徴的であるというのに、男そのものには特徴らしき特徴が
見出せない。表情は無く、気配も無く、感情らしきものも見て取れない。
まるで、生きていないような容貌。
 男はハーレーを走らせる。やはり棺桶が重いのか、スピードはあまり
出ていない。そこに、後ろからハイビームで照らされる。
 銃声。それも複数。弾丸が男を目指す。狙い撃ちを避けるためだろう、
男はハーレーを蛇行させる。ハンドルを握っていた手を離し、懐へ。
 そこから、一丁の拳銃を取り出す。巨大な拳銃だ。子供の腕ほども
ありそうな砲身には、白い十字が刻まれている。その銃口を、背後へと向ける。
男は前を向いたままだ。
 発砲。拳銃とは思えないような発砲音を残して、銃弾は飛翔する。
フロントガラスに着弾。弾痕を残して車内に侵入し、運転手の右腕を貫通。
そのままシート、後部座席に座っていた者の膝に当たって角度を変え、
底を突き抜けてアスファルトに穴をあけた。
 最も威力の高い銃弾といわれる454カスール弾ですら見劣りする、圧倒的な
破壊力。男は暴力そのものといえる弾丸を不自然な体制で撃ち、命中させた。
 続けざまに爆音が轟く。
 ある弾丸は助手席に座っていた者の頭を木っ端微塵に吹き飛ばす。
 ある弾丸はボンネットに命中。エンジンを打ち砕く。
 ある弾丸は運転手の胸に吸い込まれ貫通、後ろの者の内蔵までミンチに変えた。
 正に暴力、正に破壊。乗用車はあっという間に走る棺桶と化した。運転手と
動力を失い、スピードを落とす車。しばらく後、後方で爆音と共に火の手が上がった。
 男はそれをバックミラーで確認する。そこに、新たな車両のライトが写る。
それは加速し、一気に男との間合いを詰める。対抗車線に侵入し、ハーレーと
平走する黒塗りの乗用車。その助手席や後部座席から、次々と機関銃が突き出される。
 一斉掃射。弾丸がバイクに、棺桶に、そして男にその運動エネルギーを開放する。
ライトが砕かれる。タイヤがバーストする。オイルタンクに穴が空く。男の額、胸、脚、
次々と血煙が上がる。
 横転するハーレー。男は投げ出され、何度も転がってアスファルトに倒れた。
 乗用車は急ブレーキ。タイヤのこげる臭いとブレーキ跡を残して止まる。それから
四人の人影が姿をあらわす。それらは、衛宮士郎が対峙する青白い男と同じ者達であった。
銃を構え、黒尽くめの男へと近づく。その足取りに躊躇も油断も無かった。いや、
そう言う感情そのものが無いのか、ただ事務的に近づいていく。
 男は動かない。銃弾を受けた上に、速度を出したバイクから投げ出されたのだ。
すでに息がない可能性も充分にあった。
 20mほどまで距離を詰めたろうか。男達は狙いを定めると、容赦なく引き金を絞った。
雨の如く打ち出される銃弾。そこにあったものを蜂の巣にする。
 アスファルトを。
 
「!」

 それは驚愕のうめきだったのだろうか? 素早く身を起こした黒尽くめの男は
左手の白い十字の刻まれた銃と、いつのまにか握られていた赤い十字の刻まれた銃を
水平に構えると、機関銃すらも凌駕する速度で連続射撃。
 耐えれる者などいない。男達は数秒と経たず原形を残さず『削り取られ』
青白い光と共に塵となった。
 銃を下ろす黒尽くめの男。その身体から、薄い白煙が上がっていた。撃たれた個所だ。
傷がふさがっていく。それも急速に、だ。その奇異な現象はすぐに収まった。男が
一歩踏み出す。同時に、足元で金属的な音が続けて鳴った。男に打ち込まれた鉛の弾頭だ。
どれもこれも歪んでおり、その運動エネルギーを全て男に解き放ったことが見て取れる。
 しかし男の顔に苦痛は無い。表情も無い。そのまま、視線の先にある乗用車へと
脚を進めた。



 −2

 車から次々と人影が降り立つ。一台にごとに四人。
それぞれ手にサブマシンガンやらマシンガンやら、まあ
凶悪極まる銃器を所持している。一斉に銃口がこちらに
むけられる。取り囲まれている。逃げ場は無い。
 ……が、撃ってこない。それは余裕のためだろうか。それならそれでいい。
目前の男との戦いに集中できる。
 一足飛びで間合いを詰める。それに合せて、
ボクサーのように拳を顔の前へ構える男。左のジャブが繰り出される。
 速い。こいつ、経験があるんだろうか、と思わされるぐらいのジャブが
連打される。刃で受けるが、直撃する前に腕を引く。
 右の剣、莫耶を袈裟懸けに振り下ろす。バックステップでかわし、
ロケットみたいな瞬発力を伴って、右ストレートを俺の肩口に叩き込んで
くる!

「そのまま喰らうか!」

 その腕めがけて、左の干将を突きこむ。剣から伝わってきたのは、
肉を切る生々しいものではなく、粘性の高いタールのようなそれに
突き込むような、奇妙なものだった。
 勢いを殺されたストレートが右腕に当たる。サンドバックを
叩きつけられたような、重い一撃。削ってもこれか!
 干将を引き抜く男。その傷口から、薄く白い煙が上がっている。
血は……一適も流れていない。つくづく人間じゃない。
 キャスターの竜牙兵のほうがはっきりと人外と解かる分、気が
楽だった。
 再び左ジャブの連打。けん制と解かっている分、対処もしやすい。
が、顎にでも当てられたらあの威力の事だ、意識だけでなく骨も
もっていかれる。
 夫婦剣を駆使して受けつづける。左右にステップを踏み、側面から
右ストレートを叩き込もうとする青白い男。こちらは左足を前に、
体を開き両手を下ろす。いかなる攻撃にも対応する、アイツの構え。

 相手に攻撃を仕掛けさせ、ひたすら受け流しカウンターを狙う。
いかなる達人といえども隙は存在する。ただ、それを見せないように
鍛錬を積んでいるに過ぎない。
 故に、相手を焦らせ、左右二本の剣をもってそれを暴き出す。
アイツが己より強い敵に勝つために生み出した、必勝の構え。
 模倣する事で覚えたのではない。セイバーとの鍛錬を続けた俺が、
試行錯誤の末に気付いた答え。
 模倣する事しか出来ないはずの衛宮士郎が、たった一つ手に入れた
己のみの技術。

 それをもってこいつと対峙する。周りを囲む連中は何故か
手を出してこない。理由は考えない。今はただ、コイツを打ち倒すのみ!
 男が膝を曲げた。来る!
 高速の右ストレート。腕力、動体視力、共に並じゃない。だけど!

「モーションでかくて解かりやすいんだよ!」

 干将を右腕の内側へ滑り込ませる。頭一つ分、右にずらす。
ストレートは俺の顔のあった場所を通過。相手の肩に刃を触れさせた。

「……あと、狙いも正確すぎる。ただの人間相手だったら良かったかも
しれないけど……それが、おまえの敗因だ」

 目の前にある顔を身ながらそういった。

「貴様、何者ダ」

 大きく見開いた目に俺を映して、男は問う。

「衛宮士郎。ただの魔術使いだ」

 振り下ろす。宝具とは、人の幻想を骨子として編まれた武装。
刃の宝具であれば、万物を切って捨てる。故に、デタラメな身体をした
この男もまた、その”神秘”によって右肩から左脇まで一直線に
切り裂かれた。

 男との戦いに決着はついた。しかし、状況はほとんど変わっていない。
四方から銃で狙われている。鍛えられた危機感知力ともいうべき直感が、
鉛の雨の到来を告げていた。
 魔力を干将と莫耶に注ぎ込み、投擲。回転する陰陽の夫婦剣が、目の前の
敵を蹴散らしていく。オレが走り出すのと、銃撃が始まるのはほぼ同時だった。
 大量の弾丸が俺を襲う。幾ら強化をほどこしたからといって、
服は服でしかない。激痛が全身を襲う。両腕で剥き出しの頭を守りながら、
ただ前を目指す。

「――ぎっ!」

 左肩に、今までの比ではない痛みが走った。撃たれた。撃ち込まれた。

「――がっ!」

 右足、右足もやられた。バランスを失って体が傾く。ここで倒れたら
お終いだ。右足に全力を込めて身体を押し出した。

「――つぁ……」

 男達が乗り付けてきた車。その横に倒れた俺は車体の下に身体を
転がり込ませた。ガス臭いがそんなこといってられない。
 やばい。機動力も攻撃力も削がれた。このままじゃ負ける。
コイツラを一度に倒す魔術は時間がかかる。そんな時間は無い。
 車体に弾丸が命中する音が響く。いつまでもつか解からないし、
オイルに火でもついたら最後、その場で火葬というはめになる。
 視線をめぐらせれば、今まさに身をかがめて俺を撃とうとする
男達の姿。
 武器が要る。剣じゃだめだ。離れた敵を攻撃する、武器が。
苦し紛れに当たりを見回した。
 ―――! あった。あるじゃないか。そうだ、これを使えばいい。
手を伸ばしてそれを握る。痛みをこらえ、意識を集中する。


 トレース オン
「 同調、 開始 」

――――基本骨子、解明

 それを理解する。それが何のために作られ、どのように使うのか。

――――構成材質、解明

 パーツ一つ一つを理解する。何が、どのような動作をしてそうなるのか。

――――基本骨子、変更

 そして変える。この状況を打破するために。

――――構成材質、補強

 弾丸を強化する。薬室を強化する。銃身を強化する。

     トレース オフ
「――――全工程、 完了」

 それを男達へ向けて、引き金を引いた。
連続する銃声が鼓膜を打ち、傷ついた身体を揺さぶる。
痛みで意識が飛びそうになるが、必死でこらえた。
 強化された弾丸が、男達の身体を貫いていく。
連中の身体は特別製。だからこそ威力を上げたのだが、
それがうまくいった。崩れ落ち、青白い光と共に砕け散る。
 なせそうなるのか、わからないし、今は気にも止めない。
ただ覚えておくだけだ。
 弾を撃ち尽くした銃を捨てる。弾丸が無ければただの鉄の塊。
だが。

「――いける。これなら」

 その確信を胸に秘め、新しい銃に手を伸ばした。




































 そして、全てが終わった。俺は握っていた銃から手を離すと
その場に座り込んだ。聖杯戦争から発現した治癒能力。セイバーとの
契約が切れてから消滅したと思っていたが、何故かまた現れていた。
 バーサーカーにやられたときほどのデタラメな回復はしないものの、
再生した肉が撃ち込まれた弾丸を押し出す。撃たれた左肩や右足だけでなく、
全身が熱を持っていた。蜂の巣にされたときの傷を癒しているのだろう。

「それにしても……いったいなんなんだ?」

 あたりを見回す。穴だらけになった車が4台。投げ捨てられた銃器。
ビルに突っ込んだトラック。この場にあるのはそれだけだ。結局、
一人も死体が残らなかった。
 アレだけバカスカと撃ったのに、サイレンの音は聞こえない。
一番初めの男が言っていた事を思い出す。

『警察ニモ”シード”ニ溺レル者ハイル』
『我々ニ近ヅク者ニハ死アルノミ。……貴様モソウナル』
『コレガ”シード”ノ力ダ』

 シードとは、多分麻薬なのだろう。それも特別な。
我々とか言ってた事を考えるに、相手は組織。それも
銃器と人数をかき集める事が出来るくらいの大きな
ヤツだ。
 一個人には荷が重すぎる相手。だけど。

「ほっては、おけないよな」

 立ち上がる。身体のあちこちが痛いが、動けないほどじゃない。
手裏剣がわりにした紙幣と干将、莫耶を拾い集める。

「これでよし」

 服についた汚れもはたく。と、ポケットからじゃり、と音が鳴る。

「あ。……あっちゃー。撃たれたときに砕けちゃったのか」

 中を覗き込むと案の定、粉々にアンプルが砕け、青白い液体、
シードが服に染み込んでいた。

「……やっぱり、拾ってったほうがいいよな」

 調べれば何かわかるかもしれない。そう思って横転した
トラックへ足を運ぶ。
 そこに、高速で車が突っ込んできた。

「またか―――!」

 思わず叫んで、身を翻す。車はタイヤを滑らせて停止。運転席から
人影が飛び出てきた。
 突然、頭の中で警報が鳴る。アレはヤバイ。とても危険だ。
はっきりと確認する必要すらない。アレは全てを破壊する、
バケモノじみたヤツ。
 目の前まで飛び込んできたそいつは、左手に持った何かを
俺の顔に突きつけてくる。莫耶でそれを弾き、全力で干将を
首へと振り切った。
 硬い何かがその斬撃を防ぎきった。向かい合う形になって、
初めてはっきりと目視する。
 長髪に黒尽くめ。浅黒い肌。顔の左側に大きな古傷。それを
隠すようにメガネをかけている。左側は、レンズの変わりに
黒い鉄板じみたものがはまっていた。
 そして、その手に握るのは巨大な拳銃が二つ。
 表情は無く、気配もなく、ただ有るのは殺気のみ。

 これが、魔術使い衛宮士郎とビヨンド・ザ・グレイブという死神の出会いだった。


≪続く≫



なかがき
 フェイトSS数あれど、士郎に鉄砲撃たせるなんて暴挙をやらかしたのは
私が初めてではないでしょうか((((;゚Д゚)))ガクガクブルブル
 そんなわけでおまたせしました。二話目でございます。頭っからラストまで
バトルバトルバトル。すみません、頭悪いです。
 しかし大変でした。特に前半。だって喋らないんですもの、彼。
まあ、それが彼なんですが。
 そんなわけで次回は士郎VSグレイブ。筆者の予想を反してバテバテの士郎君。
生き残れるんでしょうか?
 ではまた。
 
追記。推奨文、ありがとうございました。とても励みになります。
感想、応援が執筆力に変換されます。マジデ。


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